説明

地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法

【課題】 大地震でもマグニチュードの値が飽和することなく、即時的に安定したマグニチュードを推定することができる、地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法を提供する。
【解決手段】 地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、観測される地震動のうち最大値を示す成分がアスペリティ付近で生成されることに起因して、地震動の初動の到達時刻とこの地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数,Mはマグニチュード)からマグニチュードを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、地震のマグニチュードを推定するための方法として様々な方法が提案されている。
例えば、実体波(P波・S波)や表面波などの振幅の大きさを用いるもの(下記特許文献1参照)、長周期波形のスペクトル解析から求めるもの、地震動の継続時間を用いるものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−277557号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mai,P.M.,P.Spudich,and J.Boatwright,Hypocenter Locations in Finite−Source Rupture Models,Bull.Seism.Soc.Am., Vol.95,No.3,pp.965−980,2005
【非特許文献2】Iio,Y., Earthquake nucleation process−Does the initiation of earthquake rupture know about its termination?,Earthquakes,Tsunamis,and Volcanoes in Encyclopedia of Complexity and Systems Science,pp.2538−2555,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の地震のマグニチュードの推定方法では、それぞれ以下のような問題があった。
振幅の大きさを用いる方法(気象庁マグニチュードMJ 、実体波マグニチュードmB 、表面波マグニチュードMS など)では、大地震の場合、マグニチュードの値が飽和してしまう。
また、長周期波形のスペクトル解析から求める方法(モーメントマグニチュードMW )では、時間がかかる。
【0006】
更に、地震動の継続時間を用いるものも、時間がかかる上に、地震計特性や観測点周辺の環境に大きく依存してしまう。
本発明は、上記状況に鑑みて、大地震でもマグニチュードの値が飽和することなく、即時的に安定したマグニチュードを推定することができる、地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、地震動の初動の到達時刻とこの地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数,Mはマグニチュード)からマグニチュードを推定することを特徴とする。
【0008】
〔2〕地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、地震動の初動の到達時刻とこの地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード、Rは震央距離もしくは震源距離)からマグニチュードを推定することを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がP波であり、前記時間差TとしてP波初動の到達時刻とこのP波の最大振幅となる時刻との時間差TP を用いることを特徴とする。
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がS波であり、前記時間差TとしてS波初動の到達時刻とこのS波の最大振幅となる時刻との時間差TS を用いることを特徴とする。
【0010】
〔5〕地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、地震動の初動の到達時刻とこの地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、イベント毎のTの代表値(平均値or中央値)を求め、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード)からマグニチュードを推定することを特徴とする。
【0011】
〔6〕地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、地震動の初動の到達時刻とこの地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、イベント毎のTの代表値(平均値or中央値)を求め、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード、Rは震央距離もしくは震源距離)からマグニチュードを推定することを特徴とする。
【0012】
〔7〕上記〔5〕又は〔6〕記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がP波であり、前記時間差TとしてP波初動の到達時刻とこのP波の最大振幅となる時刻との時間差TP を用いることを特徴とする。
〔8〕上記〔5〕又は〔6〕記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がS波であり、前記時間差TとしてS波初動の到達時刻とこのS波の最大振幅となる時刻との時間差TS を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大地震でもマグニチュードの値が飽和することなく、即時的に安定したマグニチュードを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のマグニチュード推定方法を説明するための概念図である。
【図2】本発明にかかるS波初動到達からS波最大振幅出現までの時間Ts とマグニチュードMとの関係を示す図である。
【図3】本発明にかかる真のMと推定されたMの関係(上記第6のマグニチュード推定方法に基づく)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、観測される地震動のうち最大値を示す成分がアスペリティ付近で生成されることに起因して、地震動の初動の到達時刻とこの地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数,Mはマグニチュード)からマグニチュードを推定する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、上記した非特許文献1によれば、破壊開始点(震源)がアスペリティ(asperity:強震動生成域)の外側に存在することが有意に多いことが指摘されている。
また、上記した非特許文献2によれば、より大きなアスペリティを破壊するためには、そこから離れた強度のより弱い場所から破壊が徐々に進行していく必要があることが指摘されている。 したがって、観測される地震動のうち最大値を示す成分がアスペリティ付近で生成されたものであることを考慮すれば、上記の指摘より、地震波の初動の到達から地震波の最大振幅値が出現するまでの時間はマグニチュードにほぼ対応するといえる。
【0017】
本発明では、これに着目し、P波またはS波の最大振幅値となる時刻の差を利用してマグニチュードを推定する。
図1は本発明のマグニチュード推定方法を説明するための概念図である。
図1において、P波初動の到達時刻をTpr、P波初動の到達時刻TprからS波初動の到達までをP相、P相での最大振幅の時刻をTpmax、Tpmax−TprをTp とする。また、S波初動の到達時刻Tsr、S波初動の到達時刻Tsr以降をS相、S相での最大振幅の時刻をTsmax、Tsmax−TsrをTs とする。
【0018】
図1に示した、P波初動到達からP相での最大振幅を示す時刻の差Tp とS波初動到達からS相での最大振幅を示す時刻の差Ts とが、それぞれマグニチュードMとの高い相関を持つので、これらをあらかじめ統計的に求めておいた関数でフィッティングしてマグニチュードを推定する。
(1)第1のマグニチュード推定方法
まず、P波初動の到達時刻Tprを決定し、次いで、P相で最大振幅となる時刻Tpmaxを決定し、P波初動の到達時刻TprとP相で最大振幅となる時刻Tpmaxの差をとり、求めた値をTp とする。
【0019】
そこで、あらかじめ統計的に求めておいたlogTp =a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数)からMを推定する。
(2)第2のマグニチュード推定方法
まず、S波初動の到達時刻Tsrを決定し、次いで、S相で最大振幅となる時刻Tsmaxを決定し、S波初動の到達時刻TsrとS相で最大振幅となる時刻Tsmaxの差をとり、求めた値をTs とする。
【0020】
そこで、あらかじめ統計的に求めておいたlogTs =a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数)からMを推定する。
(3)第3のマグニチュード推定方法
まず、P波初動の到達時刻Tprを決定し、次いで、P相で最大振幅となる時刻Tpmaxを決定し、P波初動の到達時刻TprとP相で最大振幅となる時刻Tpmaxの差をとり、求めた値をTp とする。
【0021】
そこで、あらかじめ統計的に求めておいたlogTp =a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Rは震央距離もしくは震源距離)からMを推定する。
(4)第4のマグニチュード推定方法
まず、S波初動の到達時刻Tsrを決定し、次いで、S相で最大振幅となる時刻Tsmaxを決定し、S波初動の到達時刻TsrとS相で最大振幅となる時刻Tsmaxの差をとり、求めた値をTs とする。
【0022】
そこで、あらかじめ統計的に求めておいたlogTs =a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Rは震央距離もしくは震源距離)からMを推定する。
(5)第5のマグニチュード推定方法
まず、P波初動の到達時刻Tprを決定し、次いで、P相で最大振幅となる時刻Tpmaxを決定し、P波初動の到達時刻TprとP相で最大振幅となる時刻Tpmaxの差をとり、求めた値をTp とする。
【0023】
そこで、イベント毎のTp の代表値(平均値or中央値)を求める。そして、あらかじめ統計的に求めておいたlogTp =a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数)からMを推定する。
(6)第6のマグニチュード推定方法
まず、S波初動の到達時刻Tsrを決定し、次いで、S相で最大振幅となる時刻Tsmaxを決定し、S波初動の到達時刻TsrとS相で最大振幅となる時刻Tsmaxの差をとり、求めた値をTs とする。
【0024】
そこで、イベント毎のTs の代表値(平均値or中央値)を求める。そして、あらかじめ統計的に求めておいたlogTs =a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数)からMを推定する(図3参照)。
(7)第7のマグニチュード推定方法
まず、P波初動の到達時刻Tprを決定し、次いで、P相で最大振幅となる時刻Tpmaxを決定し、P波初動の到達時刻TprとP相で最大振幅となる時刻Tpmaxの差をとり、求めた値をTp とする。
【0025】
そこで、イベント毎のTp の代表値(平均値or中央値)を求める。そして、あらかじめ統計的に求めておいたlogTp =a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Rは震央距離もしくは震源距離)からMを推定する。
(8)第8のマグニチュード推定方法
まず、S波初動の到達時刻Tsrを決定し、次いで、S相で最大振幅となる時刻Tsmaxを決定し、S波初動の到達時刻TsrとS相で最大振幅となる時刻Tsmaxの差をとり、求めた値をTs とする。
【0026】
そこで、イベント毎のTs の代表値(平均値or中央値)を求める。そして、あらかじめ統計的に求めておいたlogTs =a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Rは震央距離もしくは震源距離)からMを推定する。
図2は本発明にかかるS波初動到達からS波最大振幅出現までの時間Ts とマグニチュードMとの関係を示す図であり、横軸にマグニチュードM、縦軸にlogTs を示している。ここでは、K−NETのマグニチュード5以上のデータを用いて計算している。また、●は、各M毎のlogTs の平均値、エラーバーaは標準偏差を表す。回帰分布によって決定された直線logT=0.352×M−1.53は、上記のlogTs の平均値を用いて求めている。
【0027】
なお、実際の解析では、表面波の影響を少なくするため、ハイパスフィルター等の処理を行うこともある。
図3は本発明にかかる真のM(MW :モーメントマグニチュード)と推定されたMの関係(上記第6のマグニチュード推定方法に基づく)を示す図であり、真のMと推定されたMの差のRMS(Root Mean Square,二乗平均平方根)は0.52となり、十分な精度を持つことがわかった。
【0028】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法は、特に、大地震のマグニチュードの推定を即時的に安定して行うことができる簡易マグニチュード推定方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震動の初動の到達時刻と該地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード)からマグニチュードを推定することを特徴とする地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項2】
地震動の初動の到達時刻と該地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード、Rは震央距離もしくは震源距離)からマグニチュードを推定することを特徴とする地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がP波であり、前記時間差TとしてP波初動の到達時刻と該P波の最大振幅となる時刻との時間差TP を用いることを特徴とする地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がS波であり、前記時間差TとしてS波初動の到達時刻と該S波の最大振幅となる時刻との時間差TS を用いることを特徴とする地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項5】
地震動の初動の到達時刻と該地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、イベント毎のTの代表値(平均値or中央値)を求め、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b(a,bは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード)からマグニチュードを推定することを特徴とする地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項6】
地震動の初動の到達時刻と該地震動の最大振幅となる時刻との時間差Tを求め、この時間差Tに基づき、イベント毎のTの代表値(平均値or中央値)を求め、あらかじめ統計的に求めておいたlogT=a×M+b+c×R(a,b,cは統計解析によって決定される定数、Mはマグニチュード、Rは震央距離もしくは震源距離)からマグニチュードを推定することを特徴とする地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がP波であり、前記時間差TとしてP波初動の到達時刻と該P波の最大振幅となる時刻との時間差TP を用いることを特徴とする最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。
【請求項8】
請求項5又は6記載の地震の最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法において、前記地震動がS波であり、前記時間差TとしてS波初動の到達時刻と該S波の最大振幅となる時刻との時間差TS を用いることを特徴とする最大振幅値出現までの時間を利用した簡易マグニチュード推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72685(P2013−72685A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210668(P2011−210668)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)