説明

均一光透過溶融延伸ガラスの製造方法

【課題】 ダウンドロー法を用いたガラスシートの製造方法において、応力によってガラスシートに誘発される複屈折に対処する。
【解決手段】 ガラスシートの許容遅延基準であるガラスシート品質要求基準レベルQ1を選択する。ガラスリボンが延伸機エンクロージャー内を延伸される間に、潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じる可能性があるガラスリボン温度Tを特定する。T及びQにおいて許容される様々なガラスリボン熱アーチファクトを含む熱アーチファクト・エンベロープEを決定する。アイソパイプからガラス溶解物をオーバフローさせて、その底部にガラスリボンを形成する。延伸機エンクロージャーを通し、ガラスリボンをその底部の下方に延伸してガラスシートを形成する。ガラスリボンをTとする可能性がある延伸機エンクロージャーの領域を改変して、シートを形成する間、Tにおいて、ガラスリボンに前記熱アーチファクトが形成されないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置における可視欠陥を低減する方法及びガラスシートの製造方法に関し、より詳細には、オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法を用いた、複屈折を抑制したガラスシートの製造方法、及びかかるガラスシートを表示装置の基体として利用することに関するものである。本発明は、例えば、液晶表示装置用のガラス基体の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ液晶表示装置(TFT−LCD)の表示画面に可視欠陥が見られることがある。表示装置の分野において、そのような可視欠陥は、不均一とか汚点を意味する日本語の“ムラ”と呼ばれている。表示画面上において、ムラは低コントラストで明度が不均一な領域として現れる。ムラには、スポットムラ、線ムラ、斑点ムラ等、幾つかの種類がある。LCD表示装置におけるムラの発生及びその影響度は多くの要因に左右されると考えられているが、溶融法によるガラスシートに生じる鉛直応力帯とそのガラスシートを用いた表示画面の線ムラとの因果関係が立証されている。具体的には、ガラスリボンが粘性又は粘弾性状態にあり、融解延伸装置によって延伸されているとき、装置を横断して存在する不均一な温度勾配によって、ガラスリボンに鉛直応力帯が生じそれが凍結される可能性がある。鉛直応力帯によって特徴付けられるガラスシートを用いた表示画面には光の透過が不均一な鉛直帯として線ムラが現れる。現在のところ、線ムラは主にツイスト・ネマティック・ディスプレイに生じている。しかし、線ムラは垂直整列ディスプレイにも生じる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、応力によって表示装置に使用されるガラスシートに誘発される複屈折に起因する表示装置のムラに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の1つの態様は、オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法を用いたガラスシートの製造方法である。この方法は(a)カラスシートの許容遅延基準である、ガラスシート品質要求基準レベルQを選択するステップと、(b)ガラスリボンが延伸機エンクロージャー内を延伸される間において、ガラスリボンに潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じる可能性があるガラスリボン温度Tを特定するステップと、(c)T及びQにおいて許容される様々なガラスリボン熱アーチファクト含む熱アーチファクト・エンベロープEを特定するステップと、(d)アイソパイプからガラス溶解物をオーバフローさせて、アイソパイプの底部においてガラスリボンを形成するステップ、(e)延伸機エンクロージアーを通し、ガラスリボンをアイソパイプの底部の下方に延伸してガラスシートを形成するステップと、(f)ガラスリボンをTとする可能性がある延伸機エンクロージャーの領域を改変し、ステップ(e)の間、Tにおいて、ガラスリボンに潜在ガラスリボン熱アーチファクトが形成されないようにするか、又はTにおいて、ガラスリボンに潜在ガラスリボン熱アーチファクトが形成されている場合には、潜在ガラスリボン熱アーチファクトがE以内に収まるようにするステップとを有して成ることを特徴とする方法である。
【0005】
第1の態様の1つの実施の形態において、ステップ(c)が、(c1)各々が絶対最大温度差ΔTmax及び有効幅Weffを有する複数の試験用ガラスリボン熱アーチファクトを定義するステップと、(c2)複数の試験用ガラスリボン温度において、試験用熱アーチファクトを複数の試験用ガラスリボンに加えるステップと、(c3)複数の試験用ガラスリボンから複数の試験用ガラスシートを取得するステップと、(c4)試験用ガラスシートの各々に対し、ガラスシート品質要求基準を算出するステップと、(c5)ガラスシート品質要求基準及びガラスリボンの温度を関数として、複数のΔTmax対Weff曲線を生成するステップとを含む。
【0006】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(c4)が、(c4)(i)試験用ガラスシートの各々の複数のノードにおける複屈折を測定するステップと、(c4)(ii)ノードの各々において測定した複屈折を偏光式ディスプレイの光透過強度に変換するステップと、(c4)(iii)光透過強度の平均値を算出するステップと、(c4)(iv)平均値を試験用ガラスシートのガラスシート品質要求基準とするステップとを含む。
【0007】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(c4)(ii)における偏光式ディスプレイが、ツイスト・ネマティック・ディスプレイである。
【0008】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(c4)(iii)においてノードの複数のグループについて、光透過強度の複数の平均値が算出され、ステップ(c4)(iv)において、平均値のうちの最大のものがガラスシート品質要求基準とされる。
【0009】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(c)が、(c6)複数のΔTmax対Weff曲線から、T及びQに対し有効なΔTmax対Weff曲線を選択するステップ、及び(c7)選択したΔTmax対Weff曲線からEを決定するステップを更に有している。
【0010】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(f)において、ステップ(e)の間、ガラスリボンをTとする可能性がある延伸機エンクロージャーの領域が加熱、冷却、あるいは加熱と冷却とが組み合わせて行われる。
【0011】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(f)が、ステップ(e)の前に、延伸機エンクロージャーから潜在ガラスリボン熱アーチファクトの原因を除去することを含んでいる。
【0012】
第1の態様における1つの実施の形態において、Tはガラスリボンが粘性又は粘弾性状態になる温度に対応する温度である。
【0013】
第1の態様における1つの実施の形態において、Tは600℃〜1000℃の範囲である。
【0014】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(a)におけるQが、偏光式ディスプレイのムラ・レベルに対応付けられている。
【0015】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(a)において、Qが約1E−6であり、許容遅延が約0.201nm以下である。
【0016】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(a)において、Qが約1E−5であり、許容遅延が約0.646nm以下である。
【0017】
第1の態様における1つの実施の形態において、ステップ(a)において、Qが約1E−4であり、許容遅延が約2.01nm以下である。
【0018】
前記概要説明及び以下の詳細な説明は、本発明の例示であり、本発明の本質及び特徴を理解するための要旨及び構成の提供を意図したものである。添付図面は本発明の理解を深めるためのものであり、本明細書に組み込まれその一部を構成するものである。図面は本発明の各種実施の形態を示すものであり、本明細書の記述と合わせて本発明の原理及び作用の説明に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下は添付図面の説明である。図の縮尺は必ずしも正確ではなく、明瞭簡潔さを重視し、図中の特定の構造及び外観が拡大表示又は概略表示されている場合がある。
【図1】ガラスリボンを形成するためのオーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法を示す図。
【図2A】ガラス基体上の測定ノードの格子を示す図。
【図2B】ガラス基体の複屈折を測定するための設定を示す図。
【図3】熱アーチファクトを二次元で表示した図。
【図4】オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法を用いたガラスシートの製造方法を示すフローチャート。
【図5A】第1のガラスリボン温度における、ガラスシート品質要求基準レベルを関数としたΔTmax対Weffを示す図。
【図5B】第2のガラスリボン温度における、ガラスシート品質要求基準レベルを関数としたΔTmax対Weffを示す図。
【図5C】第3のガラスリボン温度における、ガラスシート品質要求基準レベルを関数としたΔTmax対Weffを示す図。
【図6】ガラスリボンに2つの異なる熱アーチファクトが生じたときの遅延対ガラスリボン温度をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の更なる特徴及び効果は以下の詳細な説明に述べてあり、当業者にとって以下の説明によりある程度明白になり、本明細書に記載の本発明を実施することにより認識することができる。
本発明の1つの態様において、LCDのような各種光電子装置に使用される精密ガラスシートの製造用として、コーニング社(コーニング、ニューヨーク)が開発し、使用している最新の方法であるオーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法を用いてガラスシートが製造される。オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法の中心を成すのは、楔形の下部部分とその上部に位置するトラフ状の上部部分とから成る、一般に“アイソパイプ”と呼ばれる成形装置である。図1に示すように、オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法は、堰と呼ばれる2つの側壁110、112を有するアイソパイプ104のトラフ102に溶融ガラス100を供給することを含んでいる。溶融ガラス100は、2つの分離したガラス流として、2つの堰110、112をオーバフローする。アイソパイプ104の底部114において、溶融ガラス流106、108が1つのガラスリボン116に融合する。ガラスリボン116は延伸機118のエンクロージャー117内を通して120の方向に延伸され最終的な厚さに成形される。延伸機118は、ガラスリボン116が下方に延伸されるとき、その移動を案内する機構の他に、ガラスリボン116の温度分布を制御する機構を備えている。延伸機118の底部において、ガラスリボン116からガラスシートが切断され、搬送されて更に処理される。オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法において、溶融ガラス流106、108の外表面は、アイソパイプ104の側壁110、112に接触せず周囲の空気にのみ晒される。その結果、溶融ガラス流106、108が融合して形成されるガラスリボン116は清浄な表面を有している。延伸機118の底部において高品質のガラスシートが得られるよう、品質適用領域におけるガラスリボン116の表面の清浄性を保持するためのあらゆる努力がなされる。後で更に詳細に述べるように、ガラスリボン116が粘性又は粘弾性状態にあるとき、ガラスリボン熱アーチファクトを制御又は除去するための措置が講じられる。本明細書において、ガラスリボン熱アーチファクトは、好ましくない局部的温度勾配によって特徴付けられるガラスリボンの領域を意味する。
一般に、熱アーチファクトの原因は延伸機によって異なる。ガラスリボン熱アーチファクトの1つの原因は、例えば、延伸機エンクロージャー壁が幅全体にわたり1つの連続した材料から成っていない等、延伸機の設計にあると考えられる。また、別の原因として、延伸機に挿入される装置、例えば、延伸機に挿入され延伸機内の熱輻射を測定する温度測定装置が考えられる。更に別の原因として、延伸機の設計に起因するガラスリボンと延伸機エンクロージャー壁との距離が一定でないこと、あるいは、例えば、延伸機内における温度制御不良によるガラスリボンの厚さが一定でないことが考えられる。ガラスリボンが粘性又は粘弾性状態にあるとき、ガラスリボンにガラスリボン熱アーチファクトが存在していれば、ガラスリボンに応力が誘発される。誘発された応力はガラスリボン上を延伸機に沿って引きずられる。ガラス設定区域において、誘発された応力がガラス内に凍結される。この凍結された誘発応力が最終ガラスシートに鉛直応力帯として現れる。多数のガラスリボン熱アーチファクトによって、多数の鉛直応力帯が最終ガラスシートに生じる可能性がある。最終ガラスシートの品質に対する鉛直応力帯の影響度はガラスリボン熱アーチファクトの属性に依存する。ガラスリボン熱アーチファクトはΔTmaxとWeffとによって特徴付けることができる。ここで、ΔTmaxはガラスリボン熱アーチファクトにおいて観測される絶対最大温度差であり、Weffはガラスリボン熱アーチファクトの有効幅である。本明細書において、絶対最大温度差とはガラスリボン熱アーチファクトにおいて観測される最低温度と最高温度との差の絶対値を意味する。
【0021】
背景技術の項で述べたように、鉛直応力帯によって特徴付けられるガラスシートを用いた表示装置においては、光の透過が不均一な鉛直帯としてムラが現れる。本発明の1つの態様において、応力により表示装置に用いられるガラスシートに誘発される複屈折を制御することによって、表示装置のムラを制御することを提案している。また、ガラスシートの製造中において、ガラスリボン熱アーチファクトを制御することによって、応力によりガラスシートに誘発される複屈折を制御することも提案している。特に、ガラスリボン熱アーチファクトを低減又は排除することによって、応力によりガラスシートに誘発される複屈折を低減又は排除している。ガラスリボン熱アーチファクトを制御するためにガラスシートの品質要求基準Qが定義される。Qはガラスシートの複屈折に反応し、複屈折はガラスシートの応力に反応し、ガラスシートの応力はガラスリボン熱アーチファクトに反応する。Qをムラのレベルに対応付けることができる。従って、Qを介し、ムラをガラスリボン熱アーチファクトに関連付けることができる。本発明の1つの実施の形態において、Qが例えば、レベル1、レベル2、及びレベル3のように複数のレベルを有している。ここで、レベル3はオーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法において、最も達成が困難であり、レベル1が最も達成が容易なレベルであり、レベル2が困難性においてレベル1とレベル3との間に位置している。各々のQレベルにはそれぞれムラ・レベルが対応付けられている。
【0022】
ガラスシートのQを特定するため、M×Nの測定ノードの格子がガラスシートに重畳される。ここで、MとNとは1より大きい整数である。図2Aはガラスシート202に重畳された測定ノード200の格子を示す図である。延伸機に対し、水平方向204は延伸を横断する方向(図1の122)であり、縦方向206は延伸下方方向(図1の120)である。延伸横断(ATD)方向204における測定ノードの間隔は延伸下方(DTD)方向206と同じであっても異なっていてもよい。次に、各ノードにおいて、複屈折が測定される。複屈折の測定は、物理的にもモデル化によっても実施することができる。複屈折を測定するための設定を図2Bに示す。この設定には、順に光源208、ガラスシート202の主応力軸に対し45°の偏光光を生成する第1の偏光子210、ガラスシート202、ガラスシート202における位相シフトに依存する光量を受ける第2の偏光子212、及び第2の偏光子212を透過した光を検出する検出器204を含まれている。第1の偏光子210と第2の偏光子212とは交差偏光子である、即ち、軸が90°離間している。各々の測定ノードにおいて、遅延(nm)及び方位角(度)が得られる。方位角は正しい水平方向に対する遅相軸の角度であり、遅相軸とは光学的屈折率が高い方の偏光軸である。
【0023】
(屈折率が高い光の方がゆっくり伝播する。)遅延は長さの単位(通常nm)で示される光路差であり、光学的屈折率とガラスシートを通過する光路に沿ったガラスの厚さの積の平均を表すものである。複屈折ガラスシートにおいては、異なる偏光光の光路が異なる。ここに述べる複屈折の測定においては、光路が最も長い(遅相軸偏光角)可能性があるのは直線偏光方向であることを見出し、その方向の光路差(遅延)及び角度を測定する。複屈折は、遅相軸と進相軸との屈折率差であると解釈されるため、屈折率と同じ単位が用いられる、つまり無次元である。複屈折にシートの厚さを掛けると遅延が得られる。
【0024】
各ノードの複屈折データ(即ち、遅延と方位角の値)が下記式によって透過光強度に変換される。
【数1】

【0025】
式(1)において、I:透過光強度、I:第1の偏光子に入射した光の強度、R:遅延(nm)、θslow:遅相軸の方位角(度)、λ:光の波長(nm)である。式(1)は交差偏光子がシートの水平及び垂直方向(図2Aの204、206)に対し±45°の軸を有するツイスト・ネマティック型ディスプレイに有効である。遅相軸角そのものが45°である場合には、式(1)の光透過強度はゼロ、即ち、表示装置にはムラは現れない。垂直整列ディスプレイ型の場合には、交差偏光子がシートの水平及び垂直軸に位置合わせされ、式(1)のcos関数がsin関数に置換される。Qは式(1)によって算出されたガラスシートの光透過強度の移動平均である。移動平均は次のように算出される。まず、m×nノードの光透過強度の平均値がm×nの行列によって算出される。ここで、m及びnは整数であり、m<<M、n<<Nである。例として、3×3の行列(m=n=3に対応する)を含むウィンドウ208を図2Aに示す。3×3の行列は、ウィンドウ208の平均透過強度が算出される9つの透過ノードを表している。ガラスシート全体がこのようにして処理されるまで、ウィンドウ208が(例えば、208’及び208’’のように)ガラスシート上を右方向及び下方に移動され、移動後のウィンドウ208に対し平均透過強度が算出される。従って、ガラスシート202全体に対して算出された光透過強度の平均値は複数存在することになる。これ等の平均値のうちの最大のものがQとして指定される。例示した算出方法とは別の方法を用いることもできる。
【0026】
各々のQ値又はQレベルは、以下のようにして近似することができる遅延レベルに関連付けられている。Qの定義における平均化を無視する、換言すれば、遅延も同様の平均値であるとする。次に、式(1)において、方位角の最悪値、即ち、θslow=0をとる。平均しない場合、Qは交差偏光子を透過した僅かな光量、即ち、Q=I/Iである。これにより下記の関係が得られる。
【数2】

【0027】
式(2)において、Rは遅延、λは遅延の測定に使用される手段の波長、Qはガラスシートの品質要求基準である。Qの標準値に対し式(2)を解くことができる。Q値又はQレベル及びそれに関連付けされた近似遅延レベルを下記の表1に示す。表1の計算値において、想定波長は633nmである。Qの各目標レベルに対し、すべての遅延値がその目標レベルに関連付けられている遅延値以下の場合、Qの目標レベルが満足されたことになる。 例えば、すべての遅延値が0.201nm以下の場合、1E−6のQレベルが満足されたことになる。
【表1】

【0028】
延伸機エンクロージャーを横断する温度勾配は主に放射伝熱によって生じ、ガウス特性を有するものとして近似することができる。このため、本発明の1つの実施の形態において、ガラスリボン熱アーチファクトがガウス分布として表される。図3はガラスリボン熱アーチファクト300をガウス分布として二次元表示した図である。ガラスリボン熱アーチファクト300は絶対最大温度差ΔTmax及び有効幅Weffを有しているとして示される。ガラスリボン熱アーチファクト300のΔTmaxは304において生じる。Weffの定義は実際の温度分布が必ずしもガウス分布に一致しないため少々難しい。しかし、本発明の1つの実施の形態において、ガラスリボン熱アーチファクト300のWeffがガウス分布の半値全幅(FWHM)と定義している。302で示されるFWHMは、ΔTmaxの半値におけるガウス分布幅である。ガラスリボン熱アーチファクトが非ガウス分布として表される場合であっても、FWHMパラメータを用いてガラスリボン熱アーチファクトの有効幅を示すこともできる。FWHMに加え、別のWeff定義も可能である。
【0029】
図4は本発明の1つの実施の形態によるガラスシートの製造方法を示すフローチャートである。ステップ400において、ガラスリボン温度T、ガラスリボン熱アーチファクト温度勾配K、及びガラスシート品質要求基準Q間の関係が特定される。この関係の特定には幾つかのステップが含まれている。まず、複数のQレベル及び複数のガラスリボン温度に対し、複数のΔTmax対Weff曲線が生成される。各ΔTmax対Weff曲線の下部領域は、その曲線に関連付けられている特定のQレベルQ及び特定のガラスリボン温度Tにおける安全なΔTmax対Weffのエンベロープを示している。換言すれば、エンベロープはQ及びTにおける様々な許容ガラスリボン熱アーチファクトを含んでいる。ガラスリボン熱アーチファクト温度勾配KはΔTmax/Weffで表すことができる。1つの実施の形態において、各ΔTmax対Weff曲線は、特定のQレベルQ及び特定のガラスリボン温度Tにおいて、FWHMを関数としてTmaxをプロットしたものである。ここで、ガラスリボンの温度は、ガラスリボン熱アーチファクトがなかったとしたときの温度である。説明のために、ΔTmax対Weff曲線の例を図5A、5B、及び5Cに示す。分析した特定のオーバーフロー・フュージョン・ダウンドロー工程に関し、図5Aはガラスリボン温度802℃におけるQのレベル1、レベル2、及びレベル3にそれぞれ対応するΔTmax対Weff曲線500、502、及び504を示している。図5Bはガラスリボン温度752℃におけるQのレベル1、レベル2、及びレベル3にそれぞれ対応するΔTmax対Weff曲線506、508、及び510を示している。また図5Cはガラスリボン温度719℃におけるQのレベル1、レベル2、及びレベル3にそれぞれ対応するΔTmax対Weff曲線512、514、及び516を示している。図5A、5B、及び5CのΔTmax対Weff曲線のグループは、特定のガラスリボン温度における、ガラスリボン熱アーチファクトに対するQの感度を表している。図5A、5B、及び5Cに示す数値は、分析される特定のオーバーフロー・フュージョン・ダウンドロー工程に依存するものであって、本発明を制限するものであると解釈されるべきではない。図5A〜5CのΔTmax対Weff曲線から多くの所見が得られる。例えば、図5Aは、802℃において、ΔTmaxが2℃、FWHM(Weff)が2mmのガラスリボン熱アーチファクトは、Qレベル1では許容されるが、Qレベル2又はQレベル3では許容されないことを示している。
【0030】
ΔTmax対Weff曲線の生成には、オーバーフロー・フュージョン・ダウンドロー法と様々なガラスリボン温度Tにおけるガラスリボン熱アーチファクトのモデル化、及びオーバーフロー・フュージョン・ダウンドロー法によって製造されたガラスシートのQの測定が伴う。モデルは、ガラスリボンの熱環境並びに熱環境に伴う凍結応力及び凍結応力に関連する複屈折の予測に関わる数学モデルによって数値的に作製することも、実際に延伸機の測定を行うことによって作製することもできる。1つの例として、特定のガラスリボン温度において、既知のΔTmax及びWeffを有する試験用ガラスリボン熱アーチファクトを試験用ガラスリボンに加えられる。通常、特定のガラスリボン温度は試験用ガラスリボンが粘性又は粘弾性状態になる温度である。1つの実施の形態において、試験用ガラスリボンの温度は600℃〜1000℃である。加えられた試験用ガラスリボン熱アーチファクトによって試験用ガラスリボンに応力が生じ、それが試験用ガラスリボンから得られた試験用ガラスシートにおいて測定される複屈折に反映される。試験用ガラスシートに対し前記のようにしてQが特定される。様々なQレベル及びガラスリボン温度におけるΔTmax対Weff曲線を生成するのに十分なデータが得られるまで、別の試験用ガラスリボン熱アーチファクト又は別のガラスリボン温度により前記の処理が繰り返される。曲線を生成するため、各試験用ガラスリボン熱アーチファクトに関連付けられたQと試験用ガラスリボンに試験用ガラスリボン熱アーチファクトが加えられたときの温度とに応じて試験用ガラスリボン熱アーチファクトがグループ分けされる。次に、各グループを用いてΔTmax対Weff曲線が生成される。図6は、それぞれΔTが2℃(曲線600)及び4℃(曲線602)のガラスリボン熱アーチファクトをそれぞれ試験用ガラスリボンに加えて得た遅延対ガラスリボン温度を示す図である。
【0031】
図4に戻り、ステップ402において、ガラスリボンが延伸機エンクロージャー内を延伸される間に、1つ以上の潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じる可能性がある1つ以上のガラスリボン温度Tが特定される。これには、オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法における潜在ガラスリボン熱アーチファクトの原因の特定が伴う。オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法における潜在ガラスリボン熱アーチファクトの原因を特定する方法には様々なものがある。1つの例において、延伸機の設計図が入手され、その延伸機を用いたオーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法がモデル化される。延伸機によって形成されたガラスリボンの温度分布が分析されることによりガラスリボン熱アーチファクトの原因が特定される。別の例において、延伸機によって形成されたガラスリボンからガラスシートが取得される。ガラスシートの複屈折を測定することにより、ガラスシートにおける、応力がガラスリボン熱アーチファクトに起因する領域である応力領域が特定される。複屈折の測定によって作成された複屈折マップを延伸機の設計図に重畳することにより、ガラスリボン熱アーチファクトの原因を特定することができる。更に別の例において、ガラスリボンが延伸機エンクロージャー内を下方に延伸されているときのエンクロージャー内の温度分布を測定することができる。温度分布をモデル化することにより、延伸機エンクロージャー内のガラスリボン熱アーチファクトの原因を特定することができる。延伸機エンクロージャー又はガラスリボンの温度分布のモデル化又は測定により、各々の潜在ガラスリボン熱アーチファクトの絶対最大温度差ΔTmax,1及び有効幅Weff,1も決定される。
【0032】
ステップ404において、ステップ400において取得された各々の潜在ガラスリボン熱アーチファクトのΔTmax対Weff曲線から所望のガラスシート品質要求基準Qに対応するΔTmax対Weff曲線が選択される。例えば、ガラスリボンの温度802℃で潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じる可能性があり、所望のガラスシート品質要求基準がレベル1の場合、図5Aのガラスシート品質要求基準レベル1に対応するΔTmax対Weff曲線、即ち曲線500が選択される。ステップ406において、前記のようにしてアイソパイプから溶融ガラスがオーバフローされる。ステップ408において、アイソパイプの底部において形成されたガラスリボンが、前記のようにして延伸機エンクロージャーを通してガラスシートに延伸される。ガラスリボンに潜在ガラスリボン熱アーチファクトが形成されている場合、ステップ408において、又はステップ404の前に、潜在ガラスリボン熱アーチファクトのΔTmax,1及びWeff,1を当該潜在ガラスリボン熱アーチファクトに対して選択されたΔTmax対Weff曲線によって規定される、安全なΔTmax対Weffエンベロープ内に収めるための手段が講じられる。1つの実施の形態において、講じられる手段には、延伸機を再設計することにより潜在ガラスリボン熱アーチファクトの原因を除去することが含まれる。別の実施の形態において、講じられる手段には、ガラスリボンが、潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じる可能性がある温度Tとする可能性がある延伸機エンクロージャーの領域を加熱、冷却、あるいは加熱と冷却の組合せを実施することにより、仮に潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じたとしても、ΔTmax,1及びWeff,1を許容範囲内に収めることが含まれる。
【0033】
限定された数の実施の形態により本発明について説明したが、本開示の受益者である当業者は、本明細書に開示した本発明の範囲を逸脱せずに別の実施の形態も可能であることを理解することができる。従って、本発明の範囲は添付のクレームによってのみ限定されるべきものである。
【符号の説明】
【0034】
100 溶融ガラス
102 トラフ
104 アイソパイプ
106、108 溶融ガラス流
110、112 堰
114 底部
116 ガラスリボン
117 エンクロージャー
118 延伸機
200 測定ノード
202 ガラスシート
208 ウィンドウ
212 偏向子
204 検出器
300 ガラスリボン熱アーチファクト
302 半値全幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバフロー・フュージョン・ダウンドロー法を用いたガラスシートの製造方法であって、
(a)ガラスシートの許容遅延基準である、ガラスシート品質要求基準レベルQを選択するステップと、
(b)ガラスリボンが延伸機エンクロージャー内を延伸される間において、前記ガラスリボンに潜在ガラスリボン熱アーチファクトが生じる可能性があるガラスリボン温度Tを特定するステップと、
(c)前記T及びQにおいて許容される様々なガラスリボン熱アーチファクトを含む熱アーチファクト・エンベロープEを決定するステップと、
(d)アイソパイプからガラス溶解物をオーバフローさせて、該アイソパイプの底部においてガラスリボンを形成するステップと、
(e)前記延伸機エンクロージャーを通し、前記ガラスリボンを前記アイソパイプの前記底部の下方に延伸してガラスシートを形成するステップと、
(f)前記ガラスリボンを前記Tとする可能性がある前記延伸機エンクロージャーの領域を改変し、前記ステップ(e)の間、前記Tにおいて、前記ガラスリボンに前記潜在ガラスリボン熱アーチファクトが形成されないようにするか、又は前記Tにおいて、前記ガラスリボンに前記潜在ガラスリボン熱アーチファクトが形成されている場合には、前記潜在ガラスリボン熱アーチファクトが前記E以内に収まるようにするステップと、
を有して成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステップ(c)が、
(c1)各々が絶対最大温度差ΔTmax及び有効幅Weffを有する複数の試験用ガラスリボン熱アーチファクトを定義するステップと、
(c2)複数の試験用ガラスリボン温度において、前記試験用熱アーチファクトを複数の試験用ガラスリボンに加えるステップと、
(c3)前記複数の試験用ガラスリボンから複数の試験用ガラスシートを取得するステップと、
(c4)前記試験用ガラスシートの各々に対し、ガラスシート品質要求基準を算出するステップと、
(c5)前記ガラスシート品質要求基準及びガラスリボンの温度を関数として、複数のΔTmax対Weff曲線を生成するステップと、
を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(c4)が、
(c4)(i)前記試験用ガラスシートの各々の複数のノードにおける複屈折を測定するステップと、
(c4)(ii)前記ノードの各々において測定した複屈折を偏光式ディスプレイの光透過強度に変換するステップと、
(c4)(iii)前記光透過強度の平均値を算出するステップと、
(c4)(iv)前記平均値を前記試験用ガラスシートの前記ガラスシート品質要求基準とするステップと、
を含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(c4)(iii)において、前記ノードの複数のグループについて、前記光透過強度の複数の平均値が算出され、前記ステップ(c4)(iv)において、前記平均値のうちの最大のものが前記ガラスシート品質要求基準とされることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(c)が、
(c6)前記複数のΔTmax対Weff曲線から、前記T及びQに対し有効なΔTmax対Weff曲線を選択するステップ、及び
(c7)前記選択したΔTmax対Weff曲線から前記Eを決定するステップ、
を更に有して成ることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(f)において、前記ステップ(e)の間、前記ガラスリボンを前記Tとする可能性がある前記延伸機エンクロージャーの領域が加熱、冷却、あるいは加熱と冷却とが組み合わせて行われることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(f)が、前記ステップ(e)の前に、前記延伸機エンクロージャーから前記潜在ガラスリボン熱アーチファクトの原因を除去することを含んでいることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記Tが、前記ガラスリボンが粘性又は粘弾性状態になる温度に対応する温度であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記Tが600℃〜1000℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(a)における前記Qが、偏光式ディスプレイのムラ・レベルに対応付けられていることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(a)において、前記Qが約1E−6であり、前記許容遅延が約0.201nm以下であることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(a)において、前記Qが約1E−4であり、前記許容遅延が約2.01nm以下であることを特徴とする請求項1〜11いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102008(P2012−102008A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−245521(P2011−245521)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)