説明

坐薬製剤組成物

【課題】
多層坐薬製剤における境界面からの製剤の割れもしくは剥離を抑制した坐剤の提供。
【解決手段】
直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層とを有する坐剤において、いずれか一方又は両方の層にパラフィン系炭化水素を含有させたことを特徴とする坐剤製剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数層からなる坐薬製剤組成物において、その異なる層の境界での製剤の割れもしくは剥離を防止した多層坐薬製剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
坐薬製剤組成物とは、薬剤と基剤を混ぜて魚雷又は紡錘形状に成型して、肛門等に挿入し、体温によって溶解するか又は直腸等に存在する水分(分泌液)によって溶解する固形外用製剤である。坐薬製剤組成物の特徴は、内服薬のように肝臓による薬物の分解が少ないこと、胃腸内での分解がなく薬物による胃腸障害もないことである。また、肛門に挿入する坐薬製剤組成物に配合する薬剤成分としては、痔疾患用薬や解熱鎮痛薬が一般的であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2008−135120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、痔疾患者にとっては、便の大きさや硬さは排便時の苦痛のみならず患部治療に悪影響も与えてしまうこと、加えて、出にくい便も深刻な問題であり排便時のいきみの繰返しは痔疾患の憎悪に繋がるという問題があることに着目し、長年にわたり坐薬製剤組成物の研究を鋭意継続して行ってきた。
【0005】
これまでに、坐薬製剤組成物の挿入時の苦痛軽減技術は知られているものの、上述の排便時の課題を解決した坐薬製剤組成物は知られていなかったが、近年、本発明者らは、排便時の課題を解決した坐薬製剤組成物を発明し特許出願した(特許文献1参照)。
【0006】
さらに、本発明者らは、研究をすすめて行く中で、このような複数層を有する坐薬製剤組成物では、肛門挿入時や坐薬製剤組成物製造・保管・運搬等の取扱い時に強い力や衝撃が加わったりすると、境界面からひび割れもしくは破断してしまう問題があることを見出した。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、複数層からなる坐薬製剤組成物において、その異なる層の境界での製剤の割れもしくは剥離を防止した多層坐剤製剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層とを有する坐薬製剤組成物において、いずれか一方又は両方の層にパラフィン系炭化水素を含有させることによって、衝撃脆弱性と曲げ強度のいずれもが顕著に改善されるということ見出し、発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)
直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層とを有する坐薬製剤組成物において、いずれか一方又は両方の層にパラフィン系炭化水素を含有させたことを特徴とする坐薬製剤組成物であり、
好適には、
(2)
直腸上部移動性層にパラフィン系炭化水素を含有させたことを特徴とする(1)に記載の坐薬製剤組成物、
(3)
パラフィン系炭化水素が、パラフィン、流動パラフィン、軟質流動パラフィン、黄色ワセリン及び白色ワセリンからなる群から選ばれる1種以上である(1)又は(2)に記載の坐薬製剤組成物、
(4)
パラフィン系炭化水素が、パラフィン、流動パラフィン及び白色ワセリンからなる群から選ばれる1種以上である(1)又は(2)に記載の坐薬製剤組成物、
(5)
坐薬製剤組成物の総重量に対して、坐薬製剤組成物中のパラフィン系炭化水素の含有量が0.1−30重量%であることを特徴とする(1)−(4)のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物、
(6)
坐薬製剤組成物の総重量に対して、坐薬製剤組成物中のパラフィン系炭化水素の含有量が0.5−20重量%であることを特徴とする(1)−(4)のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物、
(7)
坐薬製剤組成物中に含有するパラフィン系炭化水素が、[1]パラフィン、[2]流動パラフィン又は軟質流動パラフィン及び[3]黄色ワセリン又は白色ワセリンであり、その含有比が、[1]:[2]:[3]=0.5−10:1:0.5−10であることを特徴とする(1)−(6)のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物、
(8)
坐薬製剤組成物中に含有するパラフィン系炭化水素が、パラフィン、流動パラフィン及び白色ワセリンであり、その含有比が、パラフィン:流動パラフィン:白色ワセリン=0.5−10:1:0.5−10であることを特徴とする(1)、(2)、(3)、(5)及び(6)のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物、及び、
(9)
直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層とを有する坐薬製剤において、直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層との層の境界での製剤の割れもしくは剥離を防止するためのパラフィン系炭化水素の使用である。
【0010】
本発明の「複数層(多層)からなる坐薬製剤組成物」とは、治療目的・方法に応じて適宜、各層ごとに含有させる薬剤が異なったり、基剤成分・分量を変えたりする坐薬製剤組成物である。
【0011】
本発明の「直腸上部移動性層」とは、坐薬製剤組成物を患部挿入後に、層が直腸内で溶解することにより、直腸上部さらには大腸まで到達する成分を含有する層である。
【0012】
直腸上部移動性層は、直腸温度によりすばやく溶け出すようにした層であることが好ましい。
【0013】
直腸上部移動性層に含有させる成分としては、便を軟らかくする成分(例えば、ジオクチルソジウムスルホサクシネート)が好ましい。
【0014】
本発明の「直腸下部滞留性層」とは、坐薬製剤組成物を患部挿入後に、層が患部に滞留し易くなる層である。
【0015】
直腸下部滞留性層は、溶出した成分が患部に滞留するようにした層であることが好ましい。
【0016】
直腸下部滞留性層に含有させる成分は、痔疾患に対する薬効をもたらす成分が好ましい。
【0017】
本発明の「痔疾用」とは、痔疾患に用いることである。痔疾患としては、痔核(いぼ痔)、裂肛(きれ痔)及び痔ろう(あな痔)がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層を有する坐薬製剤組成物において、いずれか一方又は両方にパラフィン系炭化水素を含有させた坐薬製剤組成物は、衝撃脆弱性と曲げ破壊強度のいずれもが顕著に改善され、肛門挿入時や坐薬製剤組成物製造・保管・運搬等の取扱い時に強い力や衝撃が加わっても、各層の境界面からひび割れたり、破断したりすることがない。併せて、排便時の苦痛軽減と痔疾患の悪化を防ぎながら、本来の痔疾疾患治療を行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の「パラフィン系炭化水素」とは、炭素原子数が約20以上で一般式C2n+2で表される鎖式飽和炭化水素であり、例えば、パラフィン、流動パラフィン、軟質流動パラフィン、黄色ワセリン、白色ワセリン等を挙げることができる。パラフィン系炭化水素は、いずれも石油から得られる。
【0020】
本発明の「坐薬製剤組成物」は、直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層を有する複数層(多層)からなる坐薬製剤組成物であって、いずれかの層にパラフィン系炭化水素を含有する。
【0021】
そのパラフィン系炭化水素としては、パラフィン、流動パラフィン、軟質流動パラフィン、黄色ワセリン及び白色ワセリンからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0022】
パラフィン、流動パラフィン、軟質流動パラフィン、黄色ワセリン及び白色ワセリンは第15改正日本薬局方に収載されており、容易に入手できる。
【0023】
その他、公知の痔疾用の薬効成分の多くは第15改正日本薬局方に収載されており、その他坐薬製剤組成物用の基剤も日本薬局方外医薬品規格2002及び医薬品添加物辞典2005に収載されており容易に入手できる。
【0024】
本発明の直腸上部移動性層は、好適には、直腸温や直腸分泌液によりすばやく溶解する公知の基剤(例えば、ウイテプゾール:以下、WTと称す)と、公知の界面活性成分(例えば、ジオクチルソジウムスルホサクシネート:以下、DSSと称す)からなる。
【0025】
本発明の直腸下部滞留性層は、好適には、直腸温度で徐々に溶解する公知の基剤と膨潤性のある公知の基剤(例えば、カルボキシビニルポリマー)、及び、公知の痔疾用薬効成分からなる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0027】
実施例1−3及び比較例1−5の成分、その分量を表1及び2に示す。
【0028】
加温溶融(50℃−70℃)した坐薬製剤組成物基剤(ウイテプゾール:WT−35及び85)に、各成分・分量を撹拌しながら分散せしめ、第15改正日本薬局方製剤総則「坐剤」の項に準じて坐薬製剤組成物を製造した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
(試験例1)落下試験
(1)被験物質
表1及び2に示した実施例1−3及び比較例1−5を被験物質として使用した。なお、被験物質は、直腸上部移動性層が坐薬製剤組成物の上半分(頭部)に位置し、直腸下部滞留性層は坐薬製剤組成物の下半分(底部)に位置するように製造したものである。
(2)試験方法1
5℃で1時間以上放置したものを落下試験の被験物質として使用した。被験物質を150cmの高さから、厚さ0.35mmのベニヤ板に落下させ、割率は5個落下させたうちの割れた個数から以下の式より算出した。
割率(%)=100×(割れた個数/5)
(3)試験結果1
落下試験の結果を表1及び2に示す。両表より、パラフィン系炭化水素を含有させると製剤の境界面での割れが防止でき、衝撃脆弱性が改善されることが判明した。
【0032】
(試験例2)曲げ強度試験
(1)被験物質
表1及び2に示した実施例1−3及び比較例1−5を被験物質として使用した。なお、被験物質は、直腸上部移動性層が坐薬製剤組成物の上半分(頭部)に位置し、直腸下部滞留性層は坐薬製剤組成物の下半分(底部)に位置するように製造したものである。
(2)試験方法2
5℃で1時間以上放置したものを曲げ強度試験の被験物質として使用した。1cmの間隙を有する両もち梁の上に被験物質をのせ、当該間隙中央上部に押し当てアダプターを位置させた試験機(FUDOH RHEO METER RT−3100ND−CW、押し当て速度:2cm/min)を用いた。
押し当て応力−時間チャートは理化電機 ELECTRONIC RECORDER R−61ACを用いて記録した(チャート速度:60cm/min)。
応力−時間チャート記録で降伏点(応力が急減する位置)を破壊強度とした。
(3)試験結果2
破壊強度試験の結果を表1及び2に示す。両表より、パラフィン系炭化水素を含有させると曲げ破壊強度が高まることが判明した。
【0033】
(試験例3)動物試験
(1)被験物質
直腸上部移動性層が坐薬製剤組成物の上半分(頭部)に位置し、直腸下部滞留性層は坐薬製剤組成物の下半分(底部)に位置するように製造した実施例2を被験物質として使用した。
(2)試験方法3
3日間絶食させた家兎を試験用動物として用いた。麻酔後、肛門に坐薬製剤組成物を投与し、30分後に安楽死させ、直腸から結腸にかけて摘出した。
(3)試験結果3
上記摘出した腸管を切り開いて、直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層の腸内分布状況を観察した。直腸下部滞留性層は肛門から上部約12cmまで均一に分散し、肛門近くに留まっていることが確認でき、また、直腸上部移動性層は肛門上部約13から23cmまで均一に分散・移動していることが確認できた。この二つの層は、互いに混ざることなくきれいに分かれていることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層を有する坐薬製剤組成物において、いずれか一方又は両方にパラフィン系炭化水素を含有させた坐薬製剤組成物は、衝撃脆弱性と曲げ破壊強度のいずれもが顕著に改善され、肛門挿入時や坐薬製剤組成物製造・保管・運搬等の取扱い時に強い力や衝撃が加わっても、各層の境界面からひび割れたり、破断したりすることがない。併せて、排便時の苦痛軽減と痔疾患の悪化を防ぎながら、本来の痔疾疾患治療を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層とを有する坐薬製剤組成物において、いずれか一方又は両方の層にパラフィン系炭化水素を含有させたことを特徴とする坐薬製剤組成物。
【請求項2】
直腸上部移動性層にパラフィン系炭化水素を含有させたことを特徴とする請求項1に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項3】
パラフィン系炭化水素が、パラフィン、流動パラフィン、軟質流動パラフィン、黄色ワセリン及び白色ワセリンからなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項4】
パラフィン系炭化水素が、パラフィン、流動パラフィン及び白色ワセリンからなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項5】
坐薬製剤組成物の総重量に対して、坐薬製剤組成物中のパラフィン系炭化水素の含有量が0.1−30重量%であることを特徴とする請求項1−4のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項6】
坐薬製剤組成物の総重量に対して、坐薬製剤組成物中のパラフィン系炭化水素の含有量が0.5−20重量%であることを特徴とする請求項1−4のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項7】
坐薬製剤組成物中に含有するパラフィン系炭化水素が、(1)パラフィン、(2)流動パラフィン又は軟質流動パラフィン及び(3)黄色ワセリン又は白色ワセリンであり、その含有比が、(1):(2):(3)=0.5−10:1:0.5−10であることを特徴とする請求項1−6のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項8】
坐薬製剤組成物中に含有するパラフィン系炭化水素が、パラフィン、流動パラフィン及び白色ワセリンであり、その含有比が、パラフィン:流動パラフィン:白色ワセリン=0.5−10:1:0.5−10であることを特徴とする請求項1、2、3、5及び6のいずれか1項に記載の坐薬製剤組成物。
【請求項9】
直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層とを有する坐薬製剤において、直腸上部移動性層と直腸下部滞留性層との層の境界での製剤の割れもしくは剥離を防止するためのパラフィン系炭化水素の使用。

【公開番号】特開2010−111658(P2010−111658A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231255(P2009−231255)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】