説明

坑内湧水排水方法及び坑内湧水排水設備

【課題】 TBMによる高速施工を維持可能な坑内湧水排水方法を提供する。
【解決手段】 トンネル1坑内の底盤部に設けた掘削穴15により、湧水を貯水するピットT1〜T4,S1〜S4を構成する。さらにピットT1〜T4,S1〜S4に貯水した湧水をポンプ及び導水管23,27により坑口側に導く。トンネル1坑内の底盤部にはインバートセグメント13がトンネルの軸方向に並設され、掘削穴15は、所定のインバートセグメント13の配置予定位置に設けられ、掘削穴15を掘削する作業は配置予定位置に隣接するインバートセグメント13の設置工に連続して実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑内湧水排水方法及び坑内湧水排水設備に係り、特に、TBMの高速施工を維持可能な坑内湧水排水方法と同方法に用いる坑内湧水排水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
土かぶりが大きい、多亀裂岩帯における山岳トンネル掘削では、毎分10トン程度の大量の湧水が切羽から発生することがある。下り勾配のトンネルを施工している際に、上述のような大量の湧水が発生した場合、排水設備能力が不足していると、トンネル坑内は水没する虞れがある。このため、先進ボーリングなどで切羽前方の水理地質特性を確認しながら、排水設備の能力に見合う水抜きボーリングを実施することで、切羽近傍の地下水を排水することが行われている。
【0003】
また、トンネルボーリングマシーン(以下、TBMと記す。)を使用して下り勾配のトンネルを掘削する際には、特許文献1に開示されているように、トンネル坑内に流入した湧水を排水するために、トンネルの底盤部に土嚢などの遮水袋が設けられ、この遮水袋によりせき止めた湧水を、ポンプ及び導水管により坑口側に導くことが行われている。
【0004】
ところで、トンネル底盤部にインバートセグメントが施工されて、その上に資機材運搬用のレールが敷かれる場合には、上述の遮水袋を設置するスペースを確保することは困難である。また、TBMによる掘進時に切羽から毎分約10トン程度の大量の湧水が発生した場合には、上述の遮水袋を設置する方法では対応することができない。よってこのような場合には、TBMによる掘進を停止した状態でトンネル本坑に併設して枝坑を施工し、この中に配置したピットにトンネル坑内の湧水を移すとともに、ピット内に貯水した湧水を、ポンプ及び導水管により枝坑の坑口側に導くことで排水が行われている。
【特許文献1】特開2000−204897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、TBMによる掘進を停止した状態で枝坑を施工した場合には、TBMによる高速施工を維持することができず、その結果、多大な工期の延長及び工事費の高騰を招く。
【0006】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、TBMによる高速施工を維持することが可能な坑内湧水排水方法及び坑内湧水排水設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る坑内湧水排水方法は、トンネルボーリングマシーンによる掘削時にトンネル坑内に流入する湧水を排水する坑内排水方法であって、前記トンネル坑内の底盤部に設けた掘削穴により前記湧水を貯水するピットを構成するとともに、前記ピットに貯水した前記湧水をポンプ及び導水管により坑口側に導くことを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記トンネル坑内の底盤部にはインバートセグメントがトンネルの軸方向に並設され、前記掘削穴は、所定のインバートセグメントの配置予定位置に設けられ、前記掘削穴を掘削する作業は前記配置予定位置に隣接するインバートセグメントの設置工に連続して実施されることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記掘削穴がトンネルの軸方向に所定の間隔をあけて複数掘削されることで、前記ピットは前記トンネルの軸方向に複数設けられ、各ピットに貯水した湧水を坑口側に導くために、各ピットに対してポンプが設けられるとともに、トンネルの軸方向に隣接する2つのピットの間には、切羽側のピットに配置されたポンプが吸引した湧水を坑口側のピットへ流入させる導水管が設けられることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記ピットとして、前記湧水のうち、坑内作業により濁りが生じた濁水を貯水する濁水ピットと、坑内作業による濁りが生じていない清水を貯水する清水ピットとが設けられ、これらピットに貯水した濁水及び清水を、それぞれポンプ及び導水管により坑口側に導くことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記掘削穴の内部に該掘削穴よりも平面寸法の小さな水槽を配置することで、前記掘削穴を水槽内外の2つの空間に分断するとともに、これら2つの空間のそれぞれに対して異なる湧水の流入路を設けることで、前記2つの空間により前記濁水ピット及び前記清水ピットを構成することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記水槽を前記掘削穴の内壁から離隔して配置することで、前記2つの空間のうち、前記水槽外部の空間には掘削穴近傍の湧水が自然流下により流入する一方で、前記水槽内部の空間には前記自然流下による湧水の流入が防止され、前記坑内作業が行われる作業領域では、前記水槽外部の空間により前記濁水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記清水ピットが構成され、前記坑内作業が行われない非作業領域では、前記水槽外部の空間により前記清水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記濁水ピットが構成されることを特徴とする。
【0013】
また本発明の第2の観点に係る坑内湧水排水設備は、トンネルボーリングマシーンによる掘削時にトンネル坑内に流入する湧水を排水するための坑内湧水排水設備であって、トンネル坑内の底盤部に設けられた掘削穴によって構成され、前記湧水を貯水するピットと、
前記ピット内に貯水した湧水を吸引するポンプと、前記ポンプが吸引した湧水を坑口側に導く導水管とを有することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記ピットを構成する掘削穴は、所定のインバートセグメントの配置予定位置に構築され、前記掘削穴を掘削する作業は、前記配置予定位置に隣接するインバートセグメントの設置工に連続して実施されることを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記ピットとして、前記湧水のうち、坑内作業により濁りが生じた濁水を貯水する濁水ピットと、坑内作業による濁りが生じていない清水を貯水する清水ピットとが設けられ、前記ポンプ及び排水管は、前記濁水ピット及び前記清水ピットの各々に対して設けられることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記掘削穴の内部に該掘削穴よりも平面寸法の小さな水槽を配置することで、前記掘削穴を水槽内外の2つの空間に分断するとともに、これら2つの空間のそれぞれに対して異なる湧水の流入路を設けることで、前記2つの空間により前記濁水ピット及び前記清水ピットが構成されることを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記水槽を前記掘削穴の内壁から離隔して配置することで、前記2つの空間のうち、前記水槽外部の空間には掘削穴近傍の湧水が自然流下により流入する一方で、前記水槽内部の空間には前記自然流下による湧水の流入が防止され、前記坑内作業が行われる作業領域では、前記水槽外部の空間により前記濁水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記清水ピットが構成され、前記坑内作業が行われない非作業領域では、前記水槽外部の空間により前記清水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記濁水ピットが構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トンネル坑内の底盤に設けた掘削穴により湧水を貯水するピットを構成するとともに、このピットに貯水した湧水をポンプ及び導水管により排水するようにしたことから、従来のように排水設備を設置するための枝坑を別途施工する必要がない。このため、枝坑の施工によりTBMの掘進が停止することがないため、TBMによる高速施工が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態として添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態における坑内湧水排水設備が適用されるトンネルを示す側面図である。トンネル1は、TBM3によって掘削されるものであって、掘削断面の径が5200mmで、800m以上の延長を有している。
【0021】
TBM3は、掘削機本体5と、掘削機本体5の後方に配置される本体設備7と、本体設備7の後方に配置される後続台車9とを有している。
【0022】
掘削機本体5は、胴体5a内部で、例えば鋼製ライナ等(図示せず)を組み立てつつカッターヘッド5bの回転により掘進を行う。
【0023】
本体設備7は、掘削機本体5と後続台車9とを繋ぐフレーム7aと、フレーム7aに支持され、所定の勾配で設置された掘削土搬出用のベルトコンベヤ7bと、フレーム7aの下面に沿って敷設されたレール12とを備えている。レール12にはセグメント13を吊り上げ搬送する複数台の搬送装置7cが配備されている。搬送装置7cにはレール12をガイドとして車輪走行可能な自走機構と、揚重装置としての電動ホイストが装備され、セグメント13を組立位置まで搬送し、据え付けができる。なお、走行機構としてはラックピニオンを用いることもでき、揚重装置としては簡易なチェーンブロック等を用いることも好ましい。
【0024】
後続台車9は、門型のフレーム9aを備えており、フレーム9a下方では、インバートセグメント13がトンネル1の底盤部に設置され、インバートセグメント13の上に資機材運搬用のレール14が敷設されている。
【0025】
インバートセグメント13は、掘削機本体5の掘進に応じて、本体設備7の下方に順次設置されるようになっている。本体設備7の下方へのインバートセグメント13の輸送は、レール14上を走行する台車によりインバートセグメント13を後続台車9の先端まで搬送した後、インバートセグメント13を搬送装置7cで吊り下げた状態で据え付け箇所まで走行させることで行われる。そして、レール14は、新たなインバートセグメント13が設置されることに応じて、そのインバートセグメント13の上に延伸される。
【0026】
また、切羽近傍の坑壁にはボーリング孔(図示せず)が設けられており、このボーリング孔から切羽近傍の地下水がトンネル1の坑内に抜かれるようになっている。
【0027】
図2は、本実施の形態の坑内湧水設備17を示す平面図である。図3は、トンネル坑内の縦断面図であり、(a)は、図2のI−I線断面図、(B)、図2のII−II線断面図である。坑内湧水排水設備17は、トンネル坑内に毎分16トン程度の湧水が流入することを想定して設けられたものであって、2系統による排水を行うようになっている。図3の(a)は、トンネル坑内に流入した湧水のうち、坑内作業により濁りが生じた濁水を排水する濁水排水ラインL1を示し、図3の(b)は、坑内作業による濁りが生じていない清水を排水する清水排水ラインL2を示している。なお、図2及び3は、便宜のために、本体設備7、後続台車9の図示を省略している。
【0028】
また、図4は、後続台車9から切羽までの作業領域A(図2,3参照)における坑内湧水設備1の状態を拡大して示す図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。図5は、トンネル坑内の非作業領域B(図2,3参照)における坑内湧水設備1の状態を拡大して示す図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【0029】
図2,3に示すように、トンネル1坑内の底盤部には、複数の掘削穴15が爆破掘削により設けられている。各掘削穴15は、所定のインバートセグメント13の配置予定位置に設けられたものであって、トンネル1の長手方向に600m間隔で並んでいる。これら掘削穴15を掘削するための爆破作業は、前記配置予定位置に隣接するインバートセグメント13の設置工に連続して実施される。
【0030】
掘削穴15は、インバートセグメント13の内面位置G(図3,4,5参照)からの深さが1.5mとなるように掘削されたものであって、3.0m×3.0mの平面寸法から、13.5m3の容量を有している。なお、掘削穴15のトンネル長手方向の幅(3.0m)は、インバートセグメント13の長手方向の幅(1.5m)の2倍の長さを有している。
【0031】
図2,3に示すように、掘削穴15の内部には、掘削穴15よりも平面寸法が小さく、上面が開放した鋼製の水槽17,19が配置される。
【0032】
水槽17は、作業領域Aにおける掘削穴15内に配置されたものであって、図4に示すように、トンネル横断方向の幅が2m、トンネル長手方向の幅が3m、深さが1.5mの寸法から、9m3の容量を有している。この水槽17の配置により、掘削穴15は、上述の9m3の容量を有する水槽17内部の空間Cと、水槽17外部の空間Dとに分断されている。水槽17外部の空間Dは、トンネル横断方向の幅が1m、トンネル長手方向の幅が3m、深さが1.5mの寸法から、4.5m3の容量を有している。
【0033】
水槽19は、トンネル坑内の非作業領域Bにおける掘削穴15内に配置されたものであって、図5に示すように、トンネル横断方向の幅が1.2m、トンネル長手方向の幅が2.0m、深さが1.5mの寸法から、3.6m3の容量を有している。この水槽19の配置により、掘削穴は、前記3.6m3の容量を有する水槽19内部の空間Eと、水槽19外部の空間Fとに分断されている。水槽19外部の空間Fは、9.9m3の容量を有している。
【0034】
なお、水槽17,19が配置された掘削穴15では、水槽17,19外部の空間D,Fに掘削穴15近傍の湧水が自然流下により流入するようになっている。また、水槽15内部の空間C,Eについては、水槽17,19の側壁が掘削穴15の内壁から若干の隙間をもって配置されることで、自然流下による湧水の流入が防止されている。
【0035】
ここで、掘削穴15はトンネル1坑内に流入した湧水を貯水するピットとして設けられたものであって、本実施の形態では、各掘削穴15へ周辺の湧水を自然流下により流入させるとともに、切羽側の掘削穴15に貯水した湧水を坑口側の掘削穴15へ順次移すことで、湧水を坑口側へ導いてトンネル1外部に排水するようになっている。そして、この排水を清水・濁水毎に行うべく、掘削穴15を水槽17,19内外の2つの空間に分断して、一方を濁水ピット、他方を清水ピットとして構成するとともに、これらピットに貯水した濁水又は清水を坑口側に導くことでトンネル1外部に排水するようになっている。
【0036】
なお、水槽内外の空間のうち、いずれを濁水ピット又は清水ピットとして構成するかについては、これらピットを構成する掘削穴15の位置に応じて設定される。具体的には、図3に示す作業領域Aに設けられた掘削穴15では、水槽17外部の空間Dに作業領域Aの濁水が自然流下によって流入することから、外部の空間Dを濁水ピットとして構成する。そして自然流下による濁水の流入がない水槽17内部の空間Cについては、清水ピットとして構成すべく、切羽近傍の坑壁におけるボーリング孔から抜かれた地下水を流入させる。一方、図4に示す非作業領域Bに設けられた掘削穴15では、水槽19外部の空間Fについては、非作業領域Bの清水が自然流下によって流入することから、清水ピットとして構成すべく、切羽側の清水ピットに貯水した清水を流入させる。そして水槽19内部の空間Eについては、清水の自然流下による流入がないことから、濁水ピットとして構成すべく、切羽側の濁水ピットに貯水した濁水を流入させる。
【0037】
以下、これらの濁水・清水ピットに貯水した水を排水する構成について具体的に説明する。まず、図3の(a)に示す濁水の排水を行う排水ラインL1について説明する。
【0038】
排水ラインL1は、掘削穴15の外部の空間Dによって構成される作業領域内の濁水ピットT1,T2と、水槽19内部の空間Eによって構成される非作業領域内の濁水ピットT3,T4と、濁水用水中ポンプ21(図4,5参照)と、濁水用導水管23(図4,5参照)とから構成されている。
【0039】
濁水用水中ポンプ21は、各濁水ピットに1つずつ設けられたものであって、22kWの出力を有し、毎分2m3の水を吸引することが可能である。
【0040】
濁水用導水管23は、隣接する2つの濁水ピットの間に設けられている。濁水用導水管23は、流入口23aが、切羽側の濁水用水中ポンプ(切羽側の濁水ピットに配置された濁水ポンプ)の吐出口に接続されることで、切羽側の濁水ピットに貯水した濁水が流入するようになっている。そして、流出口23bが坑口側の濁水ピットの上方(作業領域Aでは空間Dの上方、非作業領域Bでは空間Eの上方)に配置されることで、坑口側の濁水ピットに濁水を放出するようになっている。
【0041】
以上のように構成された濁水排水ラインL1では、作業領域Aの濁水ピットのうち、最も切羽に近い濁水ピットT1では、自然流下による濁水が流入する。そして、この濁水ピットT1に貯水した濁水は、濁水用水中ポンプ21の作動により、坑口側の濁水用導水管23を通じて坑口側の濁水ピット(図2ではT2に相当)へ流れる。
【0042】
そして作業領域Aにおける他の濁水ピットT2では、切羽側の濁水ピット(図2ではT1に相当)に貯水した濁水が、切羽側の濁水用導水管23を通じて流入する。またこの濁水とともに、濁水ピットT2には、作業領域Aにおける濁水が自然流下によって流入する。そして、濁水ピットT2に貯水した濁水は、濁水ピットT2に配置された濁水用水中ポンプ21が作動することで、坑口側の濁水用導水管23を通じて、坑口側の濁水ピット(図2ではT3に相当)に流れる。
【0043】
そして非作業領域Bに配置された濁水ピットT3では、切羽側の濁水ピットT2(図2ではT2に相当)に貯水した濁水が、切羽側の濁水用導水管23を通じて流入する。そして、濁水ピットP3に貯水した濁水は、濁水ピットT3に配置された濁水ポンプ21が作動することで、坑口側の濁水用導水管23を通じて坑口側の濁水ピット(図2ではT4に相当)へ流れる。この結果、トンネル坑内の濁水は坑口側へ導かれ、最終的には、トンネル1外部に配置された濁水処理プラントで処理される。
【0044】
次に、清水の排水を行う清水排水ラインL2について説明する。
【0045】
清水排水ラインL2は、水槽17の内部の空間Cによって構成される作業領域A内の清水ピットS1,S2と、掘削穴15の外部の空間Fによって構成される非作業領域B内の清水ピットS3,S4と、清水用水中ポンプ25(図4,5参照)と、清水用導水管27と、清水用導水管29とから構成されている。
【0046】
清水用水中ポンプ25は、各清水ピットに3つずつ設けられており、それぞれ22kWの出力を有し、毎分4m3の水を吸引することが可能である。
【0047】
清水用導水管27は、隣接する2つの清水ピットの間に3つずつ設けられている。この3つの清水用導水管27は、それぞれ流入口27a(図4,5参照)が切羽側の清水ピットに配置された清水用水中ポンプ25の吐出口に接続されることで、切羽側の清水ピットに貯水した清水が流入し、流出口27b(図4,5参照)が坑口側の清水ピットの上方(作業領域Aでは空間Cの上方、非作業領域Bでは空間Fの上方)に配置されることで、坑口側の清水ピットに清水を放出するようになっている。
【0048】
清水用導水管29は、ボーリング孔からトンネル坑内に流れ込んだ地下水を取り込んで、最も切羽に近い清水ピット(図2ではS1に相当)に放出するようになっている。
【0049】
以上のように構成された清水排水ラインL2では、作業領域Aにおける清水ピットのうち、最も切羽に近い清水ピットS1では、ボーリング孔からの地下水が清水用導水管29を通じて流入する。この地下水は、清水用導水管29内を通過することで、作業領域Aにおける坑内作業の影響を受けることがないため、濁りのない清水として清水ピットS1に流入する。そして、清水ピットS1に貯水した清水は、清水ピットS1に配置された清水用水中ポンプ25の作動により、坑口側の清水用導水管27を通じて坑口側の清水ピット(図2ではS2に相当)へ流れる。
【0050】
そして作業領域Aにおける他の清水ピットS2では、切羽側の清水ピット(図2ではS1に相当)に貯水した清水が、切羽側の清水用導水管27を通じて流入する。そして、清水ピットS2に貯水した清水は、清水ピットS2に配置された清水ポンプ25が作動することで、坑口側の清水用導水管27を通じて、坑口側の清水ピット(図2ではS3に相当)に流れる。
【0051】
そして非作業領域Bに配置された清水ピットS3では、切羽側の清水ピット(図2ではS2に相当)に貯水した清水が、切羽側の清水用導水管27を通じて流入する。またこの清水とともに、清水ピットS3には、非作業領域Bにおける清水が自然流下によって流入する。そして、清水ピットS3に貯水した清水は、清水ピットS3に配置された清水ポンプ25が作動することで、坑口側の清水用導水管27を通じて坑口側の清水ピット(図2ではS3に相当)へ流れる。この結果、トンネル1坑内の清水は、坑口側へ導かれてトンネル1外部に排水される。
【0052】
本実施の形態によれば、トンネル1坑内の底盤に設けた掘削穴15により湧水を貯水するピットを構成するとともに、このピットに貯水した湧水をポンプ及び導水管により排水するようにしたことから、従来のように排水設備を設置するための枝坑を別途施工する必要がない。このため、枝坑の施工によりTBMの掘進が停止することがないため、TBM3による高速施工が維持される。
【0053】
また、掘削穴15を掘削する作業を、配置予定位置に隣接するインバートセグメント13の設置工に連続して行うようにしたことから、掘削穴15の掘削作業により、TBM3の掘進が停止することがない。これにより、さらに確実にTBM3による高速施工が維持される。
【0054】
また、掘削穴15内部に水槽17,19を配置することで、掘削穴を2つの領域に分断して清水・濁水ピットを構成したことで、ピットに要する空間を小さく抑えることが出来る。これにより、ピットを構築するための掘削量は小さく抑えられる。
【0055】
また、清水と濁水との2系統に分離して排水する清濁分離方式を採用したことで、濁水のみを処理プラントに流入させることができる。これにより、プラントにおける処理量を、小さく抑えることができるため、工事費を安価に抑える上で有利になる。具体的には、プラントの処理量は、トンネル坑内に流入した湧水の総量に対して約15%程度に抑えることができる。
【0056】
なお本実施の形態では、掘削穴15の掘削に要する資機材の運搬や、水槽17,19や水中ポンプ21,25など排水に要する設備の運搬・設置は、図1に示したレール14や本体設備7が使用されることで行われる。
【0057】
また、TBM1により掘削が完了した後では、掘削穴15はインバートセグメント13の外面位置まで埋戻されて、この上方にインバートセグメント13が設置される。なお、インバートセグメント13に代えて、場所打ちコンクリートが打設されても良い。
【0058】
また本実施の形態では、清水が濁水よりも多くなることを想定して、清水ピットを構成する空間C,Fの容量を濁水ピットを構成する空間D,Eの容量よりも大きくし、またポンプや導水管についても、清水の排水に用いるものを多く設置している。これに対して、濁水が清水よりも多くなると想定された場合には、濁水を空間C,Fに流入させ、清水を空間D,Eに流入させるように、導水管を切り替えることで対応する。なお、この際には、水槽17,19の側壁を掘削穴15の内壁と隙間をあけることなく配置することで、作業領域Aでは、水槽17内部の空間Cに自然流下により濁水を流入させ、非作業領域Bでは、水槽19内部の空間Eに清水を自然流下により流入させる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態における坑内湧水排水設備が適用されるトンネルを示す側面図。
【図2】本実施の形態の坑内湧水設備を示す平面図。
【図3】トンネル坑内の縦断面図。
【図4】後続台車から切羽までの作業領域における坑内湧水設備の拡大図。
【図5】トンネル坑内の非作業領域における坑内湧水設備の拡大図。
【符号の説明】
【0060】
1 トンネル
3 トンネルボーリングマシーン
13 インバートセグメント
15 掘削穴
17,19 水槽
21,25 ポンプ
23,27 導水管
A 作業領域
B 非作業領域
C,E 水槽内部の空間
D,F 水槽外部の空間
T1,T2,T3,T4 濁水ピット
S1,S2,S3,S4 清水ピット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルボーリングマシーンによる掘削時にトンネル坑内に流入する湧水を排水する坑内排水方法であって、
前記トンネル坑内の底盤部に設けた掘削穴により前記湧水を貯水するピットを構成するとともに、前記ピットに貯水した前記湧水をポンプ及び導水管により坑口側に導くことを特徴とする坑内湧水排水方法。
【請求項2】
前記トンネル坑内の底盤部にはインバートセグメントがトンネルの軸方向に並設され、
前記掘削穴は、所定のインバートセグメントの配置予定位置に設けられ、前記掘削穴を掘削する作業は前記配置予定位置に隣接するインバートセグメントの設置工に連続して実施されることを特徴とする請求項1に記載の坑内湧水排水方法。
【請求項3】
前記掘削穴がトンネルの軸方向に所定の間隔をあけて複数掘削されることで、前記ピットは前記トンネルの軸方向に複数設けられ、
各ピットに貯水した湧水を坑口側に導くために、各ピットに対してポンプが設けられるとともに、トンネルの軸方向に隣接する2つのピットの間には、切羽側のピットに配置されたポンプが吸引した湧水を坑口側のピットへ流入させる導水管が設けられることを特徴とする請求項1に記載の坑内湧水排水方法。
【請求項4】
前記ピットとして、前記湧水のうち、坑内作業により濁りが生じた濁水を貯水する濁水ピットと、坑内作業による濁りが生じていない清水を貯水する清水ピットとが設けられ、これらピットに貯水した濁水及び清水を、それぞれポンプ及び導水管により坑口側に導くことを特徴とする請求項1に記載の坑内湧水排水方法。
【請求項5】
前記掘削穴の内部に該掘削穴よりも平面寸法の小さな水槽を配置することで、前記掘削穴を水槽内外の2つの空間に分断するとともに、これら2つの空間のそれぞれに対して異なる湧水の流入路を設けることで、前記2つの空間により前記濁水ピット及び前記清水ピットを構成することを特徴とする請求項4に記載の坑内湧水排水方法。
【請求項6】
前記水槽を前記掘削穴の内壁から離隔して配置することで、前記2つの空間のうち、前記水槽外部の空間には掘削穴近傍の湧水が自然流下により流入する一方で、前記水槽内部の空間には前記自然流下による湧水の流入が防止され、
前記坑内作業が行われる作業領域では、前記水槽外部の空間により前記濁水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記清水ピットが構成され、
前記坑内作業が行われない非作業領域では、前記水槽外部の空間により前記清水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記濁水ピットが構成されることを特徴とする請求項5に記載の坑内湧水排水方法。
【請求項7】
トンネルボーリングマシーンによる掘削時にトンネル坑内に流入する湧水を排水するための坑内湧水排水設備であって、
トンネル坑内の底盤部に設けられた掘削穴によって構成され、前記湧水を貯水するピットと、
前記ピット内に貯水した湧水を吸引するポンプと、
前記ポンプが吸引した湧水を坑口側に導く導水管とを有することを特徴とする坑内湧水排水設備。
【請求項8】
前記ピットを構成する掘削穴は、所定のインバートセグメントの配置予定位置に構築され、前記掘削穴を掘削する作業は、前記配置予定位置に隣接するインバートセグメントの設置工に連続して実施されることを特徴とする請求項7に記載の坑内湧水排水設備。
【請求項9】
前記ピットとして、前記湧水のうち、坑内作業により濁りが生じた濁水を貯水する濁水ピットと、坑内作業による濁りが生じていない清水を貯水する清水ピットとが設けられ、
前記ポンプ及び排水管は、前記濁水ピット及び前記清水ピットの各々に対して設けられることを特徴とする請求項7に記載の坑内湧水排水設備。
【請求項10】
前記掘削穴の内部に該掘削穴よりも平面寸法の小さな水槽を配置することで、前記掘削穴を水槽内外の2つの空間に分断するとともに、これら2つの空間のそれぞれに対して異なる湧水の流入路を設けることで、前記2つの空間により前記濁水ピット及び前記清水ピットが構成されることを特徴とする請求項9に記載の坑内湧水排水設備。
【請求項11】
前記水槽を前記掘削穴の内壁から離隔して配置することで、前記2つの空間のうち、前記水槽外部の空間には掘削穴近傍の湧水が自然流下により流入する一方で、前記水槽内部の空間には前記自然流下による湧水の流入が防止され、
前記坑内作業が行われる作業領域では、前記水槽外部の空間により前記濁水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記清水ピットが構成され、
前記坑内作業が行われない非作業領域では、前記水槽外部の空間により前記清水ピットが構成され、前記水槽内部の空間により前記濁水ピットが構成されることを特徴とする請求項10に記載の坑内湧水排水設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138541(P2010−138541A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313121(P2008−313121)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)