説明

垂直磁気ディスク

【課題】Ni系合金からなる前下地層についてさらに微細化および粒径均一化、および結晶配向性向上を図ることにより、SNRの向上と高記録密度化を図った垂直磁気ディスクを提供する。
【解決手段】基板110上に、第1Ni合金層142及び第2Ni合金層144と、Ruを主成分とする下地層150と、CoPt系合金と酸化物を含む垂直磁気記録層160とをこの順に備え、第1Ni合金層142及び第2Ni合金層144は、それぞれ単体においてbcc結晶構造を取る元素を少なくとも一つ含み、第2Ni合金層144は、酸化物をさらに含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率50%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
垂直磁気ディスクの高記録密度化のために重要な要素としては、トラック幅の狭小化によるTPI(Tracks per Inch)の向上、及び、BPI(Bits per Inch)向上時のシグナルノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)やオーバーライト特性(OW特性)などの電磁変換特性の確保、さらには、前記により記録ビットが小さくなった状態での熱揺らぎ耐性の確保、などが上げられる。中でも、高記録密度条件でのSNRの向上は重要である。
【0004】
近年主流になっているグラニュラ構造の磁性層は、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されている。この構成では磁性粒子同士が分離されているためにノイズが低減され、高SNRに有効である。さらにSNRを高めるための重要な要素は、結晶粒子の微細化および粒径均一化(あわせて「粒径制御」ともいう。)、および結晶配向性の向上である。Coはhcp構造(六方最密格子構造)を取り、c軸方向(結晶格子である六角柱の軸方向)が磁化容易軸となる。したがって、より多くの結晶のc軸をより垂直方向に配向させることにより、ノイズが低減し、またシグナルが強くなって、相乗効果的にSNRを向上させることができる。
【0005】
スパッタによって結晶の上に結晶を成膜するとき、エピタキシャル成長により膜厚が厚くなるほど結晶配向性は向上する傾向にある。そこで垂直磁気記録層を初期成長段階から微細化および粒径均一化し、また結晶配向性を高めるために、従来からhcp構造の金属であるRuで下地層(中間層とも呼ばれている)を成膜し、その上に垂直磁気記録層を成膜することが行われている。そしてさらに、Ru下地層の下に結晶性の前下地層(シード層とも呼ばれている)を設け、Ru下地層の結晶配向性を向上させることが行われている。
【0006】
特許文献1には、Niを主材料とし酸化物が添加された配向制御層(シード層)が記載されている。特許文献1によれば、配向制御層として、酸化物を添加した材料を用いることにより、磁性層での磁性粒密度を下げずに磁性粒の大きさを微細化することができる。また、磁性粒の結晶配向もほとんど劣化させずに磁性層を積層することができ、垂直記録媒体の記録再生特性を改善することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−245484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今後、さらなる高記録密度化を図るために、さらにSNRを向上させる必要がある。その手法の1つとして、前下地層(シード層)の構成をさらに発展させることにより、磁性層の微細化および粒径均一化、結晶配向性向上を推進することが考えられる。
【0009】
ここで特許文献1に記載の技術においては、前下地層(配向制御層)に酸化物を添加することによって、結晶配向性を劣化させずに磁性粒子の微細化を図れたと述べている。そこで本発明は、Ni系合金からなる前下地層についてさらに微細化および粒径均一化、および結晶配向性向上を図ることにより、SNRの向上と高記録密度化を図った垂直磁気ディスクを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために発明者が検討したところ、前下地層に酸化物を添加すると確かに微細化の効果が認められるが、その代わりに結晶配向性が若干低下する傾向にある。そこで前下地層の基板側に酸化物を有しないもう一つの前下地層を成膜することによって配向性の向上も図れることを突きとめ、さらに研究を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明にかかる垂直磁気ディスクの代表的な構成は、基板上に、第1Ni合金層及び第2Ni合金層と、Ruを主成分とする下地層と、CoPt系合金と酸化物を含む垂直磁気記録層とをこの順に備え、第1Ni合金層及び第2Ni合金層は、それぞれ単体においてbcc結晶構造を取る元素を少なくとも一つ含み、第2Ni合金層は、酸化物をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、第1Ni合金層で結晶配向性を向上させ、第2Ni合金層で微細化を図ることができる。Ni合金層に酸化物を添加すると微細化を図れると考えられるが、アモルファス層の上に酸化物を含む層を直接成膜すると、結晶配向性向上の効果が小さいため、SNRの改善が小さい。そこで、酸化物を含む第2Ni合金層によって結晶の微細化を図ると共に、酸化物を含まない第1Ni合金層によって結晶配向性低下を抑制することにより、その相乗効果としてSNRを向上することができる。
【0013】
特にbcc結晶構造を取る元素を添加することにより、Ni合金のfcc構造の格子定数を調整して、上層のRu下地層との接続を調整して磁性層の結晶配向性を向上させることができる。
【0014】
第2Ni合金層が含む酸化物は1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。上記範囲を外れるとSNR向上の効果が得られないためである。これは、1mol%より少ないと微細化の効果が得られないためであると考えられる。また10mol%より多いと却って結晶配向性が劣化してしまうためであると考えられる。
【0015】
第2Ni合金層の膜厚は1nm以上5nm以下であることが好ましい。1nmより薄いと結晶配向性向上の効果が得られないためである。また5nmより厚くなると結晶粒子が成長して大きくなってしまい、微細化の効果を得られないためである。
【0016】
第1Ni合金層及び第2Ni合金層に含むbcc結晶構造を取る元素は、W、Mo、Ta、Crから選択される1または複数の元素であってもよい。bcc結晶構造を取る元素としてW、Mo、Ta、Crの少なくとも1つの元素を添加することにより、これらの元素はNiよりも原子半径が大きいために、その上に成膜される下地層のRuとの格子間隔のマッチングを図ることができる。したがって下地層の結晶配向性を向上させ、SNRの向上を図ることができる。
【0017】
第1Ni合金層に含むbcc結晶構造を取る元素の含有量は、3at%以上10at%以下であることが好ましい。上記範囲を外れると結晶配向性の効果が得られないためである。これは、3atm%より少ないと結晶配向性の改善が得られないだけでなく、母材であるNiからの磁気的なノイズが大きくなるためと考えられる。10atm%より多いとNiの結晶粒子の成長を阻害してしまうためと考えられる。
【0018】
第1Ni合金層に、さらにAl、Si、Zr、Bの少なくとも1つの元素を添加することが好ましい。第2添加元素としてAl、Si、Zr、Bを添加することにより、第1Ni合金層においても酸化物を入れずに微細化を推進することができる。
【0019】
第1Ni合金層の基板側に、さらに非磁性の非晶質合金層を備えることが好ましい。これによりNi合金層と軟磁性層の界面の乱れを防止し、結晶配向性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Ni系合金からなる前下地層についてさらに微細化および粒径均一化、および結晶配向性向上を図ることにより、SNRの向上と高記録密度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】垂直磁気ディスクの構成を説明する図である。
【図2】垂直磁気ディスクの他の構成を説明する図である。
【図3】各種の要素を変更して比較説明する図である。
【図4】各種の要素を変更して比較説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
(垂直磁気ディスク)
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気ディスク100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気ディスク100は、基板110、付着層120、軟磁性層130、前下地層140(第1Ni合金層142および第2Ni合金層144を含む)、下地層150、垂直磁気記録層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0024】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0025】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0026】
付着層120は基板110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130と基板110との密着強度を高める機能を備えている。付着層120は、例えばCrTi系非晶質合金、CoW系非晶質合金、CrW系非晶質合金、CrTa系非晶質合金、CrNb系非晶質合金等のアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば2〜20nm程度とすることができる。付着層120は単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0027】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、磁気記録層への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性材料としては、CoTaZrなどのコバルト系合金の他、FeCoCrB、FeCoTaZr、FeCoNiTaZrなどのFeCo系合金や、NiFe系合金などの軟磁気特性を示す材料を用いることができる。また、軟磁性層130のほぼ中間にRuからなるスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0028】
前下地層140は、第1Ni合金層142および第2Ni合金層144から構成される。前下地層140は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。
【0029】
第1Ni合金層142は、fcc結晶構造(面心立方構造)のNi系合金からなり、bcc結晶構造を取る元素を含有させて、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向している。Ni系合金とは、Niを主成分としていることを意味している。なお主成分とは、最も多く含まれている成分をいう。Niにbcc結晶構造を取る元素を添加することにより、Ni合金のfcc構造の格子定数を調整して、上層のRu下地層との接続を調整して磁性層の結晶配向性を向上させることができる。
【0030】
第2Ni合金層144は、fcc結晶構造(面心立方構造)のNi系合金からなり、bcc結晶構造を取る元素を含有させて、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向している。そしてさらに、第2Ni合金層144には、酸化物を添加している。酸化物はNi合金と固溶せずに偏析するため、第2Ni合金層144の結晶を微細化することができる。
【0031】
したがって上記構成によれば、第1Ni合金層142で結晶配向性を向上させ、第2Ni合金層144で微細化を図ることができる。Ni合金層に酸化物を添加すると微細化を図れると考えられるが、アモルファス層の上に酸化物を含む層を直接成膜すると、結晶配向性向上の効果が小さいため、SNRの改善が小さい。そこで、酸化物を含む第2Ni合金層144によって結晶の微細化を図ると共に、酸化物を含まない第1Ni合金層142によって結晶配向性低下を抑制することにより、その相乗効果としてSNRを向上することができる。
【0032】
第1Ni合金層142および第2Ni合金層144に含むbcc結晶構造を取る元素としては、W、Mo、Ta、Crから選択される1または複数の元素とすることができる。bcc結晶構造を取る元素としてW、Mo、Ta、Crの少なくとも1つの元素を添加することにより、これらの元素はNiよりも原子半径が大きいために、その上に成膜される下地層のRuとの格子間隔のマッチングを図ることができる。したがって下地層の結晶配向性を向上させ、SNRの向上を図ることができる。Ni合金の具体例としては、NiW、NiMo、NiTa、NiCr等を好適に選択することができる。ただし第1Ni合金層142と第2Ni合金層144ディスクの「bcc結晶構造を取る元素」を同一にする必要はない。
【0033】
第1Ni合金層142に含むbcc結晶構造を取る元素の含有量は、3at%以上10at%以下であることが好ましい。上記範囲を外れると結晶配向性の効果が得られないためである。これは、3atm%より少ないと結晶配向性の改善が得られないだけでなく、母材であるNiからの磁気的なノイズが大きくなるためと考えられる。10atm%より多いとNiの結晶粒子の成長を阻害してしまうためと考えられる。
【0034】
さらに、第1Ni合金層142に、第2添加元素としてAl、Si、Zr、Bの少なくとも1つの元素を添加することが好ましい。Al、Si、Zr、Bを添加することにより、第1Ni合金層142においても酸化物を入れずに微細化を推進することができる。
【0035】
第2Ni合金層144が含む酸化物の例としては、MgO、SiO、SiO、TiO,TiO,Cr、Zr,Ta,Al,W,Mo、V、Nb等の酸化物を例示できる。
【0036】
第2Ni合金層144が含む酸化物は1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。上記範囲を外れるとSNR向上の効果が得られないためである。これは、1mol%より少ないと微細化の効果が得られないためであると考えられる。また10mol%より多いと却って結晶配向性が劣化してしまうためであると考えられる。
【0037】
第2Ni合金層の膜厚は1nm以上5nm以下であることが好ましい。1nmより薄いと結晶配向性向上の効果が得られないためである。また5nmより厚くなると結晶粒子が成長して大きくなってしまい、微細化の効果を得られないためである。
【0038】
また図2に示すように、前下地層140の基板側に、さらに非磁性の非晶質合金層138を備えていてもよい。図2は垂直磁気ディスクの他の構成を説明する図である。これによりNi合金層と軟磁性層の界面の乱れを防止し、結晶配向性を更に向上させることができる。非晶質合金層にTaを含有させることにより非晶質性を高めることができ、極めて表面の平坦な膜を形成することができる。Taの高い非晶質性を確保するために、Taは30at%以上含むことが好ましい。具体例としては、NiTa、CrTaとすることができる。またTaを含む非晶質合金層138の上に第1Ni合金層142を成膜しても界面が荒れることがなく、平坦性が確保される。これによりNi合金層と軟磁性層の界面の乱れを防止し、結晶配向性を更に向上させることができる。
【0039】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成される垂直磁気記録層160のhcp構造の磁性結晶粒子の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、グラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁性粒を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、垂直磁気記録層160の結晶配向性を向上させることができる。また、下地層150の粒径を微細化することによって、垂直磁気記録層の粒径を微細化することができる。下地層150の材料としてはRuが代表的であるが、さらにCr、Coなどの金属や、酸化物を添加することもできる。下地層150の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。
【0040】
また、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を2層構造としてもよい。具体的には、下地層150の上層側を形成する際に下層側を形成するときよりもArのガス圧を高圧にすると、上方の垂直磁気記録層160の結晶配向性を良好に維持したまま、磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0041】
垂直磁気記録層160は、Co−Pt系合金を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有している。例えば、CoCrPt系合金にSiOや、TiOなどを混合したターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiOや、TiOが偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる。
【0042】
なお、上記に示した垂直磁気記録層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。CoCrPt系合金としては、CoCrPtに、B、Ta、Cu、Ruなどを1種類以上添加してもよい。また、粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化コバルト(CoOまたはCo)、等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0043】
分断層170は、垂直磁気記録層160と補助記録層180の間に設けられ、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これにより垂直磁気記録層160と補助記録層180の間、および垂直磁気記録層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な相互作用の強さを調節することができるため、HcやHnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0044】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO、Ru−WO、Ru−TiO、CoCr、CoCr−SiO、CoCr−TiOなどが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
また分断層170の構造に対する作用としては、上層の補助記録層180の結晶粒子の分離の促進である。例えば、上層が酸化物のように非磁性物質を含まない材料であっても、磁性結晶粒子の粒界を明瞭化させることができる。
【0046】
補助記録層180は基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は、垂直磁気記録層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。補助記録層180の材料としてはCoCrPt合金を用いることができ、さらに、B、Ta、Cu等の添加物を加えてもよい。具体的には、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoCrPtCu、CoCrPtCuBなどとすることができる。また、補助記録層180の膜厚は、例えば3〜10nmとすることができる。
【0047】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であっても良い。
【0048】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気ディスク100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気ディスク100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0049】
潤滑層200は、垂直磁気ディスク100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0050】
(実施例1)
上記構成の垂直磁気ディスク100の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。図3および図4は、各種の要素を変更して比較説明する図である。
【0051】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層132まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、0.7nmのRu層を挟んで、92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrをそれぞれ20nm成膜した。非晶質合金層138は50Ni−50Taで1.8nm成膜した。第1Ni合金層142はNi−4Wを7nm成膜することを基本構成として、下記のように組成や膜厚を変化させて比較した。第2Ni合金層144はNi−4W−1MgOを1.5nm成膜することを基本構成として、下記のように組成や膜厚を変化させて比較した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に5PaでRuを10nm成膜した。垂直磁気記録層160は、3Paで90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr)を2nm成膜した上に、さらに3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を12nm成膜した。分断層170はRuを0.3nm成膜した。補助記録層180は62Co−18Cr−15Pt−5Bを6nm成膜した。保護層190はCVD法によりCを用いて4.0nm成膜し、表層を窒化処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて1nm形成した。
【0052】
図3(a)は第2Ni合金層144のMgOの含有量を変化させた場合の比較を示す図である。サンプル1−1は96Ni−4W(MgOを含まない)、サンプル1−2は99(96Ni−4W)−1MgO、以後サンプル1−3からサンプル1−5までMgOの含有量をそれぞれ5、8、12mol%と変化させた。なおMgOの含有量を変化させるとき、NiとWの比率は一定とした。
【0053】
図3(a)に示すように、MgOを添加しないサンプル1−1に比して、MgOを添加したサンプル1−2はSNRが向上している。これは酸化物を添加することによって第2Ni合金層144が微細化された結果であると考えられる。しかしサンプル1−3、1−4のようにMgOが3mol%、5mol%と増えるほどにSNRは徐々に低下し、MgOが12mol%となるサンプル1−5では添加しないサンプル1−1よりもSNRが低下してしまっている。これは、酸化物が10mol%より多いと却って結晶配向性が劣化してしまうためであると考えられる。したがって、第2Ni合金層144が含む酸化物は1mol%以上10mol%以下であることが好ましいことがわかる。
【0054】
図3(b)は第2Ni合金層144の膜厚を変化させた場合の比較を示す図である。サンプル2−1から2−5まで、いずれも第2Ni合金層144を99(Ni−4W)−1MgOとして、それぞれの膜厚を0.8nm、1.5nm、3.0nm、5.0nm、7.0nmとした。膜厚0.8nmのサンプル2−1に対して、1.5nmのサンプル2−2ではSNRが向上している。しかし、さらに膜厚を増加させたサンプル2−3以降ではSNRが低下し、膜厚7.0nmのサンプル2−5ではサンプル2−1よりも値が低くなってしまっている。これは、5nmより厚くなると結晶粒子が成長して大きくなってしまい、微細化の効果を得られないためと考えられる。したがって、第2Ni合金層144の膜厚は1nm以上5nm以下の範囲が好ましいことが確認できる。
【0055】
図3(c)は第1Ni合金層142のbcc結晶構造を取る元素の含有量を変化させた場合の比較を示す図である。サンプル3−1から3−6まで、bcc結晶構造を取る元素としてWを用いて、それぞれ0、3、7、10、12at%とした。Wを含んでいないサンプル3−1に対し、3at%、7at%のWを含むサンプル3−2、3−3は結晶配向性(Δθ50)が向上しているが、10at%のサンプル3−4では下がり調子になり、12at%のサンプル3−5ではWを含まないサンプル3−1よりもΔθ50が低下してしまっている。このことから、第1Ni合金層142に含むbcc結晶構造を取る元素の含有量は、3at%以上10at%以下であることが好ましいことが確認できる。
【0056】
図4(a)は、第1Ni合金層142のbcc結晶構造を取る元素を変更した場合の比較を説明する図である。サンプル4−1から4−7まで、bcc結晶構造を取る元素としてそれぞれW、Mo、Ta、Cr、V、Nb、Bをいずれも4at%添加している。これらの中では、W、Mo、Ta、Crを用いた場合にSNRが高かった。これは、これらの元素はNiよりも原子半径が大きいために、その上に成膜される下地層150のRuとの格子間隔のマッチングを図ることができたものと考えられる。
【0057】
図4(b)は、第1Ni合金層142に対する第2添加元素を変更した場合の比較を説明する図である。サンプル5−1は第2添加元素を含んでいない。サンプル5−2から5−5はいずれも95Ni−4Wと1at%の第2添加元素を含んでいる。サンプル5−2から5−5はいずれもサンプル5−1よりもSNRが向上している。これは、適量のAl、Si、Zr、Bを添加することにより、第1Ni合金層142においても酸化物を入れずに微細化を推進することができたものと考えられる。
【0058】
図4(c)は、非晶質合金層138の組成を変更した場合の比較を説明する図である。サンプル6−1は非晶質合金層138なし、サンプル6−2から6−5はそれぞれ50Ni−50Ta、50Cr−50Ti、50Cr−50Ta、Taとした。サンプル6−2から6−5はいずれもサンプル6−1よりもSNRが向上している。これは、非晶質合金層138を成膜することによって第1Ni合金層142と軟磁性層130の界面の乱れを防止し、下地層150の結晶配向性を更に向上させられたためと考えられる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気ディスクとして利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
100…垂直磁気ディスク、110…基板、120…付着層、130…軟磁性層、138…非晶質合金層、140…前下地層、142…第1Ni合金層、144…第2Ni合金層、150…下地層、160…垂直磁気記録層、170…分断層、180…補助記録層、190…保護層、200…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1Ni合金層及び第2Ni合金層と、Ruを主成分とする下地層と、CoPt系合金と酸化物を含む垂直磁気記録層とをこの順に備え、
前記第1Ni合金層及び第2Ni合金層は、それぞれ単体においてbcc結晶構造を取る元素を少なくとも一つ含み、
前記第2Ni合金層は、酸化物をさらに含むことを特徴とする垂直磁気ディスク。
【請求項2】
前記第2Ni合金層が含む酸化物は1mol%以上10mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項3】
前記第2Ni合金層の膜厚は1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項4】
前記第1Ni合金層及び第2Ni合金層に含むbcc結晶構造を取る元素は、W、Mo、Ta、Crから選択される1または複数の元素であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項5】
前記第1Ni合金層に含むbcc結晶構造を取る元素の含有量は、3at%以上10at%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項6】
前記第1Ni合金層に、さらにAl、Si、Zr、Bの少なくとも1つの元素を添加したことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項7】
前記第1Ni合金層の基板側に、さらに非磁性の非晶質合金層を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の垂直磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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