説明

垂直配向型液晶表示素子及びその生産方法

【課題】急峻性が良好である垂直配向型液晶表示素子及びその生産方法を提供する。
【解決手段】液晶表示素子は、液晶層に電圧が印加されると液晶分子が所定の傾斜方向(液晶ダイレクタ方向n)に倒れる垂直配向型の液晶パネル10と、液晶パネル10と液晶パネル10を挟んで両側に配置される一対の偏光フィルタ30との間に位置し、二軸光学異方性を有する第1位相差板41と、を備える。第1位相差板41は、基板の主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸SAを有し、遅相軸SAと液晶ダイレクタ方向nとのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように液晶パネル10に対して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直配向型液晶表示素子及びその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子として、垂直配向型液晶表示素子(VA(Vertical Alignment)型液晶表示素子)が知られている。VA型液晶表示素子は、一対の基板間に配置される液晶層内の液晶分子が各基板の主面に対して略垂直に配向しており、一対の基板の各々に設けられた電極に電圧を印加し、液晶層に電圧をかけ、基板主面と略水平方向に液晶分子を倒すことで、表示を可能とするものである。
【0003】
VA型液晶表示素子として、例えば、特許文献1には、一対の基板の外側に正の屈折率異方性を有する一軸性リタデーションフィルム(一軸性位相差板)を有し、このリタデーションフィルムの光軸(遅相軸)が電圧印加時の液晶分子が倒れ始める方向と直交するように配置された液晶表示素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−197858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、パッシブマトリクス方式のように液晶表示素子を高Duty駆動させる場合、特許文献1に係る液晶表示素子の構造では、ある程度の急峻性は得られるが(図5参照)、さらに急峻性を高めるという点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、急峻性が良好である垂直配向型液晶表示素子及びその生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の第1の観点に係る垂直配向型液晶表示素子は、
一対の基板と、前記一対の基板間に封入され、負の誘電率異方性を有する液晶層と、を有し、前記液晶層に電圧が印加されない状態では液晶分子が前記基板の主面と略垂直に配向しており、電圧が印加されると前記液晶分子が所定の傾斜方向に倒れる液晶パネルと、
前記液晶パネルと前記液晶パネルを挟んで両側に配置される一対の偏光フィルタとの間に位置する1又は複数の位相差板から構成され、二軸光学異方性を有する位相差部と、を備える垂直配向型液晶表示素子であって、
前記1又は複数の位相差板のうち1の位相差板は、前記基板の主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸を有し、前記遅相軸と前記傾斜方向とのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように前記液晶パネルに対して配置されている、
ことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため本発明の第2の観点に係る垂直配向型液晶表示素子の生産方法は、
一対の基板と負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層とを有し、前記液晶層に電圧が印加されない状態では前記液晶分子が前記基板の主面と略垂直に配向しており、前記液晶層に電圧が印加されると前記液晶分子が所定の傾斜方向に倒れる液晶パネルを用意するステップと、
前記液晶パネルを挟む両側の少なくとも一方側に、1又は複数の位相差板から構成され、二軸光学異方性を有する位相差部を配置するステップと、
前記1又は複数の位相差板のうち1の位相差板を前記基板の主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸を有する位相差板に決定するステップと、
前記1の位相差板を、前記遅相軸と前記傾斜方向とのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように前記液晶パネルに対して配置するステップと、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、急峻性が良好である垂直配向型液晶表示素子及びその生産方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る液晶表示素子の概略断面図である。
【図2】(a)は、液晶表示素子の概略構成を示す図であり、特に、偏光フィルタが偏光板である場合の構成を説明するための図である。(b)は、偏光フィルタの透過軸と液晶ダイレクタ方向と第1位相差板の遅相軸との関係を説明するための図である。
【図3】遅相軸と液晶ダイレクタ方向とのなす角度が45°、90°の場合の、V−T特性を示す図である。
【図4】遅相軸と液晶ダイレクタ方向とのなす角度とOFF透過率との関係を示す図である。
【図5】遅相軸と液晶ダイレクタ方向とのなす角度と急峻性及びVとの関係を示す図である。
【図6】(a)は、位相差部の厚さ方向のリタデーションの実行的な合計値と最大OFF透過率との関係を示す図である。(b)は、最大OFF透過率を説明するための図である。
【図7】(a)は、実施例1乃至3及び比較例の各種設定を示す図である。(b)は、実施例1乃至3及び比較例のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る一実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下では、所定の構成要素の、液晶表示素子の表示面方向(液晶表示素子の鑑賞者の方向)を「表」とし、表示面方向の反対側方向を「裏」として、説明する。
【0012】
(液晶表示素子の構成)
図1に示す本実施形態に係る液晶表示素子100は、垂直配向(VA)型液晶表示素子であり、液晶パネル10と、偏光フィルタ20及び30と、位相差部40と、を備える。
【0013】
液晶パネル10は、一対の基板11F,11Rと、それぞれの基板の互いに対向する内面(対向面)に形成された電極部12F及び電極部12Rと、これら電極部の表面に形成された配向膜13F,13Rと、一対の基板11F,11Rを接合するためのシール材14と、一対の基板11F,11Rとシール材14とによって形成される空間に封入されており液晶分子15Aを含む液晶層15と、を備える。
【0014】
基板11F,11Rは、例えば、ガラス、プラスチック等から構成される透明基板である。基板11F,11Rは、液晶層15を挟んで対向するように配置されており、基板11Fは液晶パネル10の表側に位置し、基板11Rは液晶パネル10の裏側に位置する。
【0015】
電極部12F,12Rは、酸化インジウムを主成分とするITO(Indium Tin Oxide)膜等から構成され、光を透過する透明電極からなる。電極部12F,12Rは、それぞれ、基板11F,11Rの対向する内面上に形成されている。基板11Fの裏面に形成された電極部12Fは、例えば、信号電極としての、互いに平行に第1の方向に延在する複数の電極からなる。基板11Rの表面に形成された電極部12Rは、例えば、走査電極としての、第1の方向と垂直な第2の方向に延在する複数の電極からなる。本実施形態においては、パッシブ駆動方式で電圧が印加されるため、この場合の液晶パネル10は、パッシブマトリクス型となる。
【0016】
配向膜13F,13Rは、ポリイミド等から構成されている。配向膜13Fは電極部12Fを裏側から覆うように形成されており、配向膜13Rは電極部12Rを表側から覆うように形成されている。配向膜13F,13Rは、それぞれ、液晶層15の液晶分子15Aの電圧無印加時(対向する電極間に電圧が印加されていないとき)における配向状態(液晶分子15Aの長軸方向)を基板11F,11Rの主面と略垂直に規定する垂直配向膜であり、液晶分子15Aを1つの方位に揃えるように配向させている(いわゆるモノドメイン配向)。このため、電圧無印加時における液晶分子15Aのプレチルト角(基板の主面に対して液晶分子15Aの長軸がなす角度)は、略90°(丁度90°は含まず)となっている。プレチルトとは、電圧印加時に液晶分子15Aの倒れる方向(後述する「液晶ダイレクタ方向」)を規定するため、液晶分子15Aを垂直方向から若干倒すことをいう。プレチルト角とは、基板の主面と液晶分子15Aの長軸とのなす角のうち鋭角の角をいう。基板法線方向を90°として、プレチルトを付与するにつれ、プレチルト角の角度は、90°から減少していく。
配向膜13F,13Rには、例えば、互いにアンチパラレルとなるようにラビング処理が施されており、これにより液晶分子15Aの配向方向は規定されている。なお、光配向処理、突起配向処理等の公知の処理によって液晶分子15Aの配向方向を規定してもよい。
【0017】
液晶層15は、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)で、例えば、波長589nmでの屈折率異方性Δnが0.2の液晶材から構成されている。また、液晶層15の厚さDは、例えば5.4μmに設定されている。この液晶層15は、電圧無印加時は、配向膜13F,13Rの配向規制力により、液晶分子15Aが両基板の主面に対して略垂直になるように配向している。液晶層15の液晶分子15Aは、電圧印加時には、負の誘電率異方性により、液晶ダイレクタ方向n(図1参照)に倒れ込むように挙動し、十分に高い電圧が印加されたときは、液晶分子は両基板の主面と実質的に平行となる。ここで、液晶ダイレクタ方向nとは、電圧印加時における液晶層15における液晶分子15Aの平均的傾斜方向をいう。なお、図1では、模式的に、液晶分子15Aを楕円で表し、電圧印加時に液晶分子15Aが紙面左側に倒れ込むものとしている。
【0018】
偏光フィルタ20,30は、表面側又は裏面側から入射する光を吸収軸に直交する透過軸に沿った直線偏光として出射する。偏光フィルタ20,30は、液晶パネル10を挟んでその両側に配置されており、偏光フィルタ20は液晶パネル10の表側に位置し、偏光フィルタ30は液晶パネル10の裏側に位置する。偏光フィルタ20及び30は、図2(b)に示すように、偏光フィルタ20の透過軸20Aと偏光フィルタ30の透過軸30Aとが互いに直交するように配置され(クロスニコル配置)、且つ、各々の透過軸20A,30Aと液晶ダイレクタ方向nとのなす角の角度が45°となるように、液晶パネル10に対して配置されている。
偏光フィルタ20,30は、例えば偏光板であり、この場合、図2(a)に示すように、偏光フィルタ20は偏光機能を有するPVA(Poly Vinyl Alcohol)層21とPVA層21を両側から挟んで支持するTAC(Tri Acetyl Cellulose)層22F,22Rとを備え、偏光フィルタ30は偏光機能を有するPVA層31とPVA層31を両側から挟んで支持するTAC層32F,32Rとを備える。
【0019】
位相差部40は、液晶パネル10の両側に配置された第1位相差板41及び第2位相差板42から構成される。第1位相差板41は、二軸性位相差板であり、液晶パネル10の裏面上に配置されている。第2位相差板42は、一軸性位相差板であり、液晶パネル10の表面上に配置されている。
【0020】
第1位相差板41は、二軸光学異方性を有し、一対の基板11F,11Rの主面に平行な方向に沿うX軸方向の屈折率をNx、基板主面に平行且つX軸に垂直なY軸方向の屈折率をNy、X軸及びY軸に垂直なZ軸方向の屈折率をNz、第1位相差板の厚さをdとしたとき、互いに直交する3方向の屈折率Nx、Ny、Nzの値が、Nx>Ny>Nzの関係を持つ二軸性位相差板である。
第1位相差板41は、Re=(Nx−Ny)・dで表される面内方向のリタデーション(位相差)Reが例えば40nm、Rth={(Nx−Ny)/2−Nz}・dで表される厚さ方向のリタデーション(位相差)Rthが例えば405nmとなるように設定されている。
【0021】
第1位相差板41は、そのRthにより、黒表示状態(OFF電圧印加時)における液晶層15の厚さ方向のリタデーションの一部を補償すると共に、そのReにより、明表示状態(ON電圧印加時)に液晶分子15Aが基板11F,11Rの主面と完全に平行にはならなくとも、光を効率的に透過させるように、リタデーションRe,Rthの値が設定されている。
【0022】
また、第1位相差板41は、その板面に平行な面上で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸SA(図2(b)参照)と、遅相軸SAと直交し屈折率が最も小さい方向に向く進相軸(図示せず)と、を有する。
第2位相差板42は、図2(b)に示すように、遅相軸SAと液晶層15の液晶ダイレクタ方向nとのなす角をαとすると、αが「45°<α≦60°」という条件(以下、「条件1」という)を満たすように、液晶パネル10に対して配置されている。
本願発明者が、上記条件1をどのようにして見出したかは、後に詳述する。
【0023】
第2位相差板42は、面内方向のリタデーションReが0nm、厚さ方向のリタデーションRthが265〜705nm程度に設定されたCプレートである。第2位相差板42は、そのRthにより、黒表示状態(OFF電圧加時)における液晶層15の厚さ方向のリタデーションを第1位相差板41と協同して補償するようにリタデーションRthの値が設定されている。
【0024】
液晶表示素子100では、第1位相差板41及び第2位相差板42の厚さ方向のリタデーションの実効的な合計値ΣRthが、「670nm≦ΣRth≦1110nm」という条件(以下、「条件2」という)を満たすように設定されている。
ここで、実効的な合計値とは、偏光フィルタ20の裏面側(液晶パネル10側)のTAC層22Rと、偏光フィルタ30の表面側(液晶パネル10側)のTAC層32Fとは、それぞれ、互いに直交する3方向の屈折率Nx、Ny、Nzの値が、Nx=Ny>Nzの関係を持つネガティブCプレートとして作用するため、これらTAC層22R、32Fの厚さ方向のリタデーションを加味した値である。つまり、偏光フィルタ20,30がTAC層を有する偏光板である場合は、位相差部40における厚さ方向のリタデーションの合計値に、TAC層22R、32Fの厚さ方向のリタデーション値をさらに加えた値が670nm以上1110nmとなるように、位相差部40は設定される。
本願発明者が、上記条件2をどのようにして見出したかは、後に詳述する。
【0025】
以上の構成からなる液晶表示素子100は、次のように表示を行う。
【0026】
(黒表示)
液晶表示素子100では、液晶分子15Aが倒れ始める閾値電圧(例えば、2.5V付近)よりも低い値にOFF電圧が設定されている。そのため、一対の電極部12F,12RにOFF電圧を印加しても液晶分子15Aは実質的に垂直に配向したままである。この場合、裏側から偏光フィルタ30を通過した光は、液晶層15によっては偏光方向(電場振動方向)がほとんど変化されないため、そのほとんどは、偏光フィルタ30とクロスニコルの関係で配置された偏光フィルタ20を通過できない。液晶表示素子100は、このようにして黒表示を実現する(ノーマリブラックモード)。
なお、本実施形態では、偏光フィルタ30と液晶パネル10との間に位置する第1位相差板41によって光が偏光するため、裏側から偏光フィルタ30を通過した光のうち若干の光が偏光フィルタ20を通過してしまうが、液晶表示素子100は、後に述べるように、OFF時の透過率が、表示品位に問題のない程度に抑制されたものになっている。
(明表示)
一対の電極部12F,12RにON電圧を印加すると、液晶層15の電圧がかけられた領域(平面視において信号電極と走査電極とが重なる領域)においては、液晶分子15Aが液晶ダイレクタ方向n側に傾き、特に液晶層15の断面中間に位置する液晶分子15Aは、その長軸が基板11F,11Rの主面と実質的に平行となるように挙動する。これにより、液晶層15を通過する光に複屈折が起きて、液晶層15を通過する光の偏光方向が変化し、偏光フィルタ30の裏側から液晶層15を通過した光は偏光フィルタ20を通過する。液晶表示素子100は、このようにして明表示を実現する。
なお、パッシブ駆動方式においては、ON−OFF電圧差に制限があるため、ON時においても、液晶分子15Aが基板11F,11R主面と完全に平行となるわけではない。そのため、液晶層15を裏側から通過した光の全てが、偏光フィルタ20を通過するわけではない。しかし、本実施形態では、偏光フィルタ30を裏側から通過した光は、液晶層15に達する前に第1位相差板41を通過することにより、光学的に補償され、液晶層15を効率的に透過する。
【0027】
ここからは、本願発明者がどのようにして上記条件1及び2を導出したかについて説明する。
【0028】
図3に、遅相軸と液晶ダイレクタ方向とのなす角αの角度が45°と90°の場合のV−T(電圧−透過率)特性を示す。
図4に、αとOFF電圧印加時の透過率(OFF透過率)との関係を示す。
図5に、αと急峻性(V50/V)及びVとの関係を示す。
ここで、V50/Vは、最大透過率を100%、最小透過率を0%と換算した場合における、透過率TがT=50%の電圧(V50)とT=5%での電圧(V)との比(シャープネス)を表す。V50/Vの値は、1に近ければ近いほど、急峻性に優れる。なお、図3〜図5に示す透過率は、液晶表示素子100の表示面の法線方向から見たときにおける正面透過率である。
【0029】
α=45°である場合、図4からわかるようにOFF透過率が最も低いため、黒表示に優れていることがわかる(OFF透過率は0.003%)。しかし、図3に示すように、α=90°のときよりも低い電圧で透過率が上昇している(つまり、低い電圧で液晶分子15Aが倒れてしまう)ため、図5に示すように急峻性が悪化する(V50/Vは1.106)。
一方、特許文献1に開示された液晶表示素子の構造のように、α=90°である場合、図3に示すように、2.5V付近において、透過率が減少する方向にピークが顕著に発生していることがわかる。この場合、図5に示すように急峻性が良好である(V50/Vは1.102)。しかし、図4からわかるようにOFF透過率が高く、黒表示が良好でない(OFF透過率は0.269%)。
つまり、α=45°では黒表示が優れるが急峻性が良好でなく、α=90°では急峻性に優れるが黒表示が良好ではない。
【0030】
ここで、図5を参照すると、αの値が45°を超えるとV50/Vの値が徐々に1に近づいていき、α=60°でV50/Vの値が最も1に近くなっている(V50/Vは1.096)。つまり、αの値が45°より大きく60°以下の範囲では、急峻性が良好であり、αの値が60°で最も急峻性が良好になることがわかる。一方、αが60°より大きく90°以下の範囲においても、急峻性は良好であるが、この範囲では、図4からわかるようにOFF透過率が良好でなく、電圧値も高くなりすぎるため(図5のV参照)、αが60°より大きく90°以下の範囲は採用できない。
このようにして、本願発明者は、良好な急峻性を実現するためには、αが「45°<α≦60°」という条件(条件1)を満たすように、第1位相差板41を、液晶パネル10に対して配置すればよいことを見出した。
【0031】
次に、本願発明者は、液晶表示素子100の表示品位上、黒表示時の透過率(OFF透過率)の上昇がどの程度許容されるかを調べるために、シミュレーションにより、第1位相差板41及び第2位相差板42(位相差部40)の厚さ方向のリタデーションの実行的な合計値ΣRthと最大OFF透過率との関係を示すグラフを作成した。このグラフを図6(a)に示す。
ここで、最大OFF透過率とは、液晶表示素子100の表示面の法線に対する視点の角度を、図6(b)に示すように、θと表したとき、θ=50°の場合における、表示面の所定の面内方向を上として、上下左右の4方向それぞれにおけるOFF透過率のうち最大の値を示したものをいう。
【0032】
本願発明者は、目視により、最大OFF透過率が30%以上になると、液晶表示素子100の表示品位が著しく損なわれると判断した。そこで、位相差部40のRe(本実施形態では、第1位相差板41のRe)を55nm、αを急峻性が良好な60°と設定し、この設定において位相差部40における厚さ方向のリタデーションの実行的な合計値ΣRthを450、670、890、1110、1330nmと変化させた場合における、最大OFF透過率をプロットすることでグラフを作成し、OFF透過率が30%を下回るΣRthの範囲を調べた。
なお、比較例として、前述のようにOFF透過率が良好であるαが45°の場合(図4参照)についても図6に併記した。
【0033】
図6を参照すると、ΣRthが450、1330nmである場合は、最大OFF透過率が30%を超えているため、表示品位上、ΣRthとしてこれらの値を採用することはできない。一方、ΣRthが670、890、1110nmである場合は、最大OFF透過率が30%を十分に下回っており、表示品位上、問題ないと想定される(なお、最大OFF透過率は、ΣRth=670nmで22%、ΣRth=890nmで14%、ΣRth=1110nmで25%)。
本願発明者は、上記結果を鑑み、急峻度を良好としつつも、OFF透過率の上昇を抑制するためには、位相差部40を、その厚さ方向のリタデーションの実効的な合計値ΣRthが、「670nm≦ΣRth≦1110nm」という条件(条件2)を満たすように設定すればよいことを見出した。
【0034】
続いて、本願発明者は、液晶表示素子100の効果を確認するため、上記条件1及び条件2を満たしつつ、位相差部40のΣRthを変更させた実施例を複数設定し、その場合の最大OFF透過率、急峻性等をシミュレーションにより導いた。この場合の各種設定を図7(a)に示す。
具体的には、液晶層15のΔnを0.2、液晶層15の厚さDを5.4μm(この場合のΔn・Dは、1080nm)、第1位相差板41のReを40nm、Rthを405nmと固定値として設定し、α=60°であり、第2位相差板42のRthを265、485、705nmと互いに異ならせることで、位相差部40のΣRthを、670、890、1110nmと変更させた3つの実施例(実施例1〜3)と、同様な設定の液晶表示素子でα=45°であり、第2位相差板42のRthを485nmと設定し、位相差部40のΣRthが890nmである比較例とで、シミュレーションを行った。
【0035】
実施例1〜3及び比較例のシミュレーション結果を図7(b)に示す。
最大OFF透過率に着目すると、実施例1〜3は、「22.4%」、「14.5%」、「25.4%」と最大OFF透過率が「0.4%」である比較例に劣る。
しかし、急峻性に着目すると、α=60°である実施例1〜3は、いずれも、V50/Vが「1.096」であり、比較例のV50/Vある「1.106」よりも1に近く、比較例に比べて実施例1〜3は、急峻性が非常に良好であることがわかる。
また、ON透過率に着目すると、実施例1〜3は、いずれも、ON透過率が「12.5%」と、比較例の「8.8%」よりも高い値を示している。実施例1〜3は急峻性に優れることから、このようにON透過率を稼ぐことに成功している。
また、コントラストに着目すると、実施例1〜3は、OFF透過率が比較例に比べ劣ることから、コントラストが「619」と、比較例のコントラストである「747」よりも小さい値を示しているが、前述のようにON透過率が稼げているため、表示品位上問題はない。なお、コントラストとは、表示面上の一定の領域における、OFF時とON時の輝度の比である。表示上コントラストが大きいほど見栄えがよいといえるが、実施例と比較例との差は、前述のように表示品位上問題ないレベルである。
【0036】
なお、以上の図3〜図6及び図7(b)における測定結果は、シンテック株式会社製のシミュレーションソフト「LCD MASTER」により導出した。
【0037】
(液晶表示素子100の生産方法について)
ここからは、液晶表示素子100の生産方法について説明する。
【0038】
まず、透明基板からなる一対の基板11F,11Rを用意し、両基板の一面上にITOに電極部12F,12Rを形成する。次に、基板11Fに、電極部12Fを覆うように配向膜13Fを形成する。同様に、基板11Rに、電極部12Rを覆うように配向膜13Rを形成する。このように形成された配向膜13Fと配向膜13Rとには、例えばアンチパラレルとなるようにラビング処理が施され、液晶分子15Aに略90°(丁度90°は含まず)のプレチルトを付与するように調整されている。
【0039】
次に、基板11F,11Rのいずれかにシール14を塗布し、両基板を、電極部側が対向するように重ね合わせる。そして、一対の基板11F,11R間に、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材を注入して、液晶層15を形成することで液晶パネル10を作成する。液晶層15の液晶分子15Aは、配向膜13F,13Rによって垂直配向されるとともに、上記プレチルトが付与される。この液晶パネル10は、パッシブ駆動方式により1対の電極部12F,12Rで液晶層15に電圧が印加されると液晶分子15Aが所定の傾斜方向(液晶ダイレクタ方向n)に倒れるように構成される。
【0040】
ここまでの工程を経て、一対の基板11F,11Rと負の誘電率異方性を有する液晶分子15Aを含む液晶層15とを有し、液晶層15に電圧が印加されない状態では液晶分子15Aが基板11F,11Rの主面と略垂直に配向しており、液晶層15に電圧が印加されると液晶分子15Aが所定の傾斜方向(液晶ダイレクタ方向n)に倒れる液晶パネル10を用意する。
【0041】
続いて、用意した液晶パネル10の一方の面側に第1位相差板41を、遅相軸SAと液晶ダイレクタ方向nとのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように液晶パネルに対して配置し、貼り合わせる。また、液晶パネル10の他方の面側に第2位相差板42を貼り合わせる。
つまり、ここでの工程は、液晶パネル10を挟む両側の少なくとも一方側に、1又は複数の位相差板から構成され、二軸光学異方性を有する位相差部40を配置する工程と、位相差部40のうち1の位相差板を一対の基板11F,11Rの主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸SAを有する第1位相差板41に決定する工程と、第1位相差板41を、遅相軸SAと液晶ダイレクタ方向nとのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように液晶パネル10に対して配置する工程と、を含む。
【0042】
ただし、上記のように貼り合わせる前に、第1位相差板41と第2位相差板42とから構成される位相差部40として、Nx>Ny>Nzを満たし、(Nx−Ny)・dで表される面内方向の位相差の合計値が0nmより大きく、{(Nx+Ny)/2−Nz}・dで表される厚さ方向の位相差の実効的な合計値が670nm以上1110nm以下という条件を満たす位相差部40を用意する工程を予め行っておく。
【0043】
そして、液晶パネル10に固着された第2位相差板42上に偏光フィルタ20を貼り合わせ、液晶パネル10に固着された第1位相差板41上に偏光フィルタ30を貼り合わせる。このとき、偏光フィルタ20と30とは、各々の透過軸20Aと30Aとが互いに直交し且つ、液晶ダイレクタ方向nと各々の透過軸20A,30Aとのなす角が45°となるように配置する。
液晶表示素子100は、以上のように生産される。
【0044】
本実施形態に係る液晶表示素子100は、一対の基板11F,11Rと、一対の基板間11F,11Rに封入され、負の誘電率異方性を有する液晶層15と、を有し、液晶層15に電圧が印加されない状態では液晶分子15Aが基板11F,11Rの主面と略垂直に配向しており、電圧が印加されると液晶分子15Aが所定の傾斜方向(液晶ダイレクタ方向n)に倒れる液晶パネル10と、液晶パネル10と液晶パネル10を挟んで両側に配置される一対の偏光フィルタ20,30との間に位置し、二軸光学異方性を有する第1位相差板41と、を備え、第1位相差板41は、基板11F,11Rの主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸SAを有し、遅相軸SAと前記傾斜方向(液晶ダイレクタ方向n)とのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように前記液晶パネルに対して配置されている。
この液晶表示素子100によれば、前述のように急峻性が良好である(図5参照)。
【0045】
また、位相差部40は、基板11F,11Rの主面に平行な方向に沿うX軸方向の屈折率をNx、前記基板の主面に平行且つ前記X軸に垂直なY軸方向の屈折率をNy、前記X軸及び前記Y軸に垂直なZ軸方向の屈折率をNz、位相差部40の厚みをdとしたとき、Nx>Ny>Nzを満たし、(Nx−Ny)・dで表される面内方向の位相差の合計値が0nmより大きく、{(Nx+Ny)/2−Nz}・dで表される厚さ方向の位相差の実効的な合計値が670nm以上1110nm以下である。
この液晶表示素子100によれば、急峻度を良好としつつも、前述のようにOFF透過率の上昇を抑制することができ、その結果として良好なON透過率(図7(b)参照)を実現できる液晶表示素子100を提供できる。
【0046】
(変形例)
なお、本発明は上記の実施形態及び図面によって限定されるものではない。上記の実施形態及び図面に変更(構成要素の削除も含む)を加えることができるのはもちろんである。
【0047】
以上の実施形態では、位相差部40を第1位相差板41及び第2位相差板42で構成したが、これに限られない。位相差部40を二軸性位相差板である第1位相差板41のみによって構成してもよい。この場合は、第1位相差板41の厚さ方向のリタデーションの実行的な値が上記(条件2)を満たすように設定すればよい。
【0048】
また、一枚の二軸性位相差板である第1位相差板41の代わりに、二枚の一軸性位相差板を組み合わせたものを用いてもよい。具体的には、ネガティブCプレート(Nx=Ny>Nz)とポジティブAプレート(Nx>Ny=Nz)を組み合わせればよい。この場合、ポジティブAプレートを、その遅相軸と液晶層15の液晶ダイレクタ方向nとのなす角が上記(条件1)を満たすように液晶パネル10に対して配置すればよい。
【0049】
また、ネガティブCプレートとポジティブAプレートのみで位相差部40を構成する場合は、ネガティブCプレートとポジティブAプレートの厚さ方向のリタデーションの実行的な合計値が上記(条件2)を満たすように設定すればよい。
【0050】
また、ネガティブCプレートとポジティブAプレート及び第2位相差板42で位相差部40を構成する場合は、ネガティブCプレートとポジティブAプレート及び第2位相差板42の厚さ方向のリタデーションの実行的な合計値が上記(条件2)を満たすように設定すればよい。
【0051】
また、位相差部40を複数の位相差板で構成する場合、位相差板を上記実施形態のように液晶パネル10を挟んで両側(表裏側)に配置せずともよく、液晶パネル10の一方の面上に位相差板40を構成する複数の位相差板をまとめて配置してもよい。
【0052】
以上の実施形態では、液晶パネル10をパッシブマトリクス型として説明したが、セグメントタイプのものであってもよい。
【0053】
以上の実施形態に係る液晶表示素子100は、光を面状に出射して液晶パネル10を照らすバックライトをさらに備えてもよい。さらに、半透過反射層を設け、半反射型の液晶表示素子としてもよい。また、バックライトを省略し反射層を設けた反射型の液晶表示素子であってもよい。
【0054】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、重要でない公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0055】
100 …液晶表示素子
10 …液晶パネル
11F,11R…基板
12F,12R…電極部
13F,13R…配向膜
14 …シール材
15 …液晶層
20,30 …偏光フィルタ
40 …位相差部
41 …第1位相差板
42 …第2位相差板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と、前記一対の基板間に封入され、負の誘電率異方性を有する液晶層と、を有し、前記液晶層に電圧が印加されない状態では液晶分子が前記基板の主面と略垂直に配向しており、電圧が印加されると前記液晶分子が所定の傾斜方向に倒れる液晶パネルと、
前記液晶パネルと前記液晶パネルを挟んで両側に配置される一対の偏光フィルタとの間に位置する1又は複数の位相差板から構成され、二軸光学異方性を有する位相差部と、を備える垂直配向型液晶表示素子であって、
前記1又は複数の位相差板のうち1の位相差板は、前記基板の主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸を有し、前記遅相軸と前記傾斜方向とのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように前記液晶パネルに対して配置されている、
ことを特徴とする垂直配向型液晶表示素子。
【請求項2】
前記1の位相差板は、二軸性位相差板であり、この二軸性位相差板が前記遅相軸を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の垂直配向型液晶表示素子。
【請求項3】
前記位相差部は、複数の一軸性位相差板から構成され、
前記1の位相差板が前記遅相軸を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の垂直配向型液晶表示素子。
【請求項4】
前記位相差部は、前記基板の主面に平行な方向に沿うX軸方向の屈折率をNx、前記基板の主面に平行且つ前記X軸に垂直なY軸方向の屈折率をNy、前記X軸及び前記Y軸に垂直なZ軸方向の屈折率をNz、前記位相差部の厚みをdとしたとき、Nx>Ny>Nzを満たし、(Nx−Ny)・dで表される面内方向の位相差の合計値が0nmより大きく、{(Nx+Ny)/2−Nz}・dで表される厚さ方向の位相差の実効的な合計値が670nm以上1110nm以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の垂直配向型液晶表示素子。
【請求項5】
前記1の位相差板は、前記遅相軸と前記傾斜方向とのなす角の角度が60°となるように前記液晶パネルに対して配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の垂直配向型液晶表示素子。
【請求項6】
前記一対の偏光フィルタをさらに備え、
前記一対の偏光フィルタは、各々の透過軸が互いに直交し且つ、前記傾斜方向と各々の透過軸とのなす角が45°となるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の垂直配向型液晶表示素子。
【請求項7】
一対の基板と負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層とを有し、前記液晶層に電圧が印加されない状態では前記液晶分子が前記基板の主面と略垂直に配向しており、前記液晶層に電圧が印加されると前記液晶分子が所定の傾斜方向に倒れる液晶パネルを用意するステップと、
前記液晶パネルを挟む両側の少なくとも一方側に、1又は複数の位相差板から構成され、二軸光学異方性を有する位相差部を配置するステップと、
前記1又は複数の位相差板のうち1の位相差板を前記基板の主面の面内方向で屈折率が最も大きい方向に向く遅相軸を有する位相差板に決定するステップと、
前記1の位相差板を、前記遅相軸と前記傾斜方向とのなす角の角度が45°より大きく60°以下となるように前記液晶パネルに対して配置するステップと、を備える、
ことを特徴とする垂直配向型液晶表示素子の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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