説明

垂直配向型液晶表示装置及びその生産方法

【課題】簡単な構成で、画素部の光抜けを抑制できる垂直配向型液晶表示装置とその生産方法を提供する。
【解決手段】パッシブマトリクス方式の垂直配向型液晶表示装置100は、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とを備え、電圧印加時に第1電極311aと第2電極311bと第1電極321aと第2電極321bとが重なる領域で矩形の画素を表示する。垂直配向型液晶表示装置100は、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは、第1液晶層31の液晶ダイレクタ方向n1と第2液晶層32の液晶ダイレクタ方向n2とが互いに逆になるように構成され、且つ、矩形の画素の辺に対する液晶ダイレクタ方向n1,n2が略±45°となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直配向型液晶表示装置及びその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置として、垂直配向型液晶表示装置(以下、VA−LCD(Vertical Alignment-Liquid Crystal Display)とも言う。)が知られている。VA−LCDは、上下基板間に配置される液晶層内の液晶分子が各基板の主面(対向面)に対して略垂直に配向しており、上下基板の各々に設けられた電極に電圧を印加し、液晶層に電圧をかけ、基板主面と略水平方向に液晶分子を倒すことで、画素部を形成し、所定の表示を可能とする。
【0003】
VA−LCDは、高コントラストが可能であることから広く使用されているが、例えば、パッシブマトリクス型で適用されるように液晶表示装置を高Dutyで駆動させる場合、画素部において光抜けが発生してしまうという問題があった。
【0004】
高Duty駆動では、通常、OFF電圧を液晶分子が倒れ始める閾値電圧よりも低く設定することでOFF電圧印加時の透過率の上昇を防いでいる。しかし、画素エッジ部にあたる上下電極間で斜め電界が生じると、斜め電界がかかる領域では液晶分子が閾値電圧よりも低い電圧で倒れてしまうため、画素エッジ部で光抜けが生じる。
【0005】
このような光抜けを抑制する方法として、画素エッジに対応する辺と偏光板の透過軸(または吸収軸)とを平行又は直交の関係(または、画素エッジに対応する辺に対して液晶分子の倒れる方向が±45°となる関係)にするようにして液晶表示装置を構成する方法が知られている。例えば、特許文献1には電極により六角形状の画素を形成することで、また特許文献2には電極パターンをジグザグパターンにすることで、上記関係を満たすように液晶表示装置を構成し、光抜けを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−028143号公報
【特許文献2】特開2009−156930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2に開示されたような技術では、電極パターンが複雑になってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、画素部の光抜けを抑制できる垂直配向型液晶表示装置とその生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の第1の観点に係る液晶表示装置は、
第1液晶層と、前記第1液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−1電極と、他方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−2電極と、を有する第1液晶パネルと、
第2液晶層と、前記第2液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−1電極と、他方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−2電極と、を有し、前記第1液晶パネルの下に配置される第2液晶パネルと、を備え、
電圧印加時に前記第1−1電極と前記第1−2電極と前記第2−1電極と前記第2−2電極とが重なる領域で矩形の画素を表示するパッシブマトリクス方式の垂直配向型液晶表示装置であって、
前記第1液晶パネルと前記第2液晶パネルとは、前記第1液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向と前記第2液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向とが互いに逆になるように構成され、且つ、前記矩形の画素の辺に対する前記平均的傾斜方向が略±45°となるように構成されている、
ことを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するため本発明の第2の観点に係る液晶表示装置の生産方法は、
第1液晶層と、前記第1液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−1電極と、他方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−2電極と、を有する第1液晶パネルと、
第2液晶層と、前記第2液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−1電極と、他方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−2電極と、を有し、前記第1液晶パネルの下に配置される第2液晶パネルと、を備え、
電圧印加時に前記第1−1電極と前記第1−2電極と前記第2−1電極と前記第2−2電極とが重なる領域で矩形の画素を表示するパッシブマトリクス方式の垂直配向型液晶表示装置の生産方法であって、
前記第1液晶パネルと前記第2液晶パネルとを、前記第1液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向と前記第2液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向とが互いに逆になるように構成し、且つ、前記矩形の画素の辺に対する前記平均的傾斜方向が略±45°となるように構成する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成で、画素部の光抜けを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る液晶表示装置の構成を説明するための概略断面図である。
【図2】液晶ダイレクタ方向と偏光フィルタの透過軸との関係を説明するための図である。
【図3】(a)は、第1液晶パネルの電極と液晶ダイレクタ方向との関係を説明するための図である。(b)は、第2液晶パネルの電極と液晶ダイレクタ方向との関係を説明するための図である。(c)は、液晶ダイレクタ方向と画素エッジ部との関係を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る液晶表示装置の効果を説明するための図である。
【図5】リタデーションの値の範囲を特定するためのシミュレーション結果を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る液晶表示装置と様々な比較例のON透過率、正面コントラスト、応答速度のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】V−T特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る一実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下では、所定の構成要素の、液晶表示装置の表示面方向(液晶表示装置の鑑賞者の方向)を「上」とし、表示面方向の反対側方向を「下」として、説明する。
【0014】
(液晶表示装置の構成)
図1に示す本実施形態に係る液晶表示装置100は、複層パネル構造の垂直配向型液晶表示装置であり、第1偏光フィルタ10と、第2偏光フィルタ20と、液晶素子30と、バックライト40と、を備える。
【0015】
第1偏光フィルタ10と第2偏光フィルタ20とは対向して配置され、両者の間に液晶素子30が設けられる。
【0016】
第1偏光フィルタ10は、液晶素子30の上に位置し、例えば偏光板によって構成される。第1偏光フィルタ10は、表面側又は裏面側から入射する光を、吸収軸に直交する透過軸に沿った直線偏光として出射する。
【0017】
第2偏光フィルタ20は、液晶素子30の下に位置し、例えば偏光板によって構成される。第2偏光フィルタ20は、表面側又は裏面側から入射する光を、吸収軸に直交する透過軸に沿った直線偏光として出射する。
【0018】
第1偏光フィルタ10と第2偏光フィルタ20とは、図2に示すように、各々の透過軸(又は吸収軸)が液晶ダイレクタ方向n1又はn2に対して+45°と−45°の角度を有するようにクロスニコルで配置される。このような配置の場合の液晶表示装置100は、ノーマリブラックモードである。液晶ダイレクタ方向については後に詳述する。
【0019】
液晶素子30は、第1液晶パネル31と、第1液晶パネル31の下に配置される第2液晶パネル32と、を備える。
第1液晶パネル31は、第1基板ユニット31aと、第2基板ユニット31bと、液晶分子310cを含む液晶層31cと、を備える。第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bとは対向して配置され、両者の間に液晶層31cが設けられる。
【0020】
第1基板ユニット31aは、液晶層31cの上に配置され、第1基板310aと、第1電極311aと、第1配向膜312aと、を備える。
第2基板ユニット31bは、液晶層31cの下に配置され、第2基板310bと、第2電極311bと、第2配向膜312bと、を備える。
【0021】
第1基板310aと第2基板310bとは、それぞれ、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板であり、光を透過する。
【0022】
第1電極311aと第2電極311bとは、それぞれ、光を透過する透明電極であり、例えばITO(酸化インジウムスズ)から、公知の方法(例えば、スパッタ、蒸着、又は、エッチング)により形成される。第1電極311aと第2電極311bとは対向するように配置される。第1電極311aは、第1基板310aの第1液晶層31c側の面上に形成され、第2電極311bは、第2基板310bの第1液晶層31c側の面上に形成されている。ここで、「面上」とは、基板面に直接形成される場合と、基板面と電極との間に所定の部材を介して形成される場合とを含むものとする。
第1電極311aと第2電極311bとは、それぞれ、縞状に形成された透明電極から構成される。具体的には、図3(a)に示すように、第1電極311aが紙面縦縞状に形成されているとした場合、第2電極311bは紙面横縞状に形成されている(図では、第2電極311bを点線で表した)。つまり、この場合、第1電極311aは、紙面左右方向に所定の間隔で配置された複数の短冊状の透明電極r1により構成され、第2電極311bは、紙面上下方向に所定の間隔で配置された複数の短冊状の透明電極c1により構成される。
【0023】
後述するように、第2液晶パネル32は、第1液晶パネル31と略同様の構成となっており、第2液晶パネル32が備える第1電極321aと第2電極321bも上記と同様に形成される。つまり、図3(b)に示すように、第1電極321aは、紙面左右方向(第1液晶パネル31の第1電極311aの配列方向と同じ方向)に所定の間隔で配置された複数の短冊状の透明電極r2により構成され、第2電極321bは、紙面上下方向に所定の間隔で配置された複数の短冊状の透明電極c2により構成される(図では、第2電極321bを点線で表した)。
【0024】
第1電極311aと第2電極311bの両電極、及び、第1電極321a及び第2電極321bの両電極に電圧を印加すると、第1液晶パネル31における1の透明電極r1と1の透明電極c1とが重なる領域であって、第2液晶パネル32における1の透明電極r2と1の透明電極c2とが重なる領域に1の画素e(ドット)が形成される(図3(a)、(b)では、任意の1の画素をドットを付して表した)。このように形成される1の画素eは、矩形であり、正方形でも長方形でもよい。
このように、本実施形態では、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは、第1電極311aと第2電極311bの交差領域(透明電極r1とc1の交差領域)と第1電極321aと第2電極321bの交差領域(透明電極r2とc2の交差領域)とが対応するように(つまり、両パネルで画素eを形成するように)構成されている。なお、両パネルは、すべての交差領域が対応するように構成されてもよいし、一部の交差領域が対応するように構成されてもよい。つまり、全ての表示意匠を両パネルが協働して表示してもよいし、一部の表示意匠を両パネルが協働して表示してもよい。
本実施形態においては、パッシブ駆動方式で第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とに電圧が印加される。このように、液晶表示装置100は、いわゆるパッシブマトリクス方式の液晶表示装置である。
【0025】
第1配向膜312aと第2配向膜312bとは、それぞれ、液晶層31cに接する膜であり、例えば、ポリイミドから、公知の方法(例えば、フレクソ印刷)によって形成される。第1配向膜312aは、第1基板310aの主面(液晶層310c側の面)に、第1電極311aを覆うようにして形成される。同様に、第2配向膜312bは、第2基板310bの主面(液晶層31c側の面)に、第2電極311bを覆うようにして形成される。
【0026】
第1配向膜312aと第2配向膜312bとは、それぞれ、液晶層31cの液晶分子310cの電圧無印加時における配向状態を基板の主面(対向面)と略垂直に規制する垂直配向膜であり、液晶分子310cを1つの方位に略揃えて配向させるとともに液晶層31cの液晶分子310cに対して90°に近い角度の所定のプレチルト角を付与する。プレチルトとは、電圧印加時に液晶分子310cの倒れる方向(後述する液晶ダイレクタ方向)を規定するため、液晶分子310cを垂直方向から所定の方向にある程度倒すことをいう。プレチルト角は、基板の主面からの角度で定義される。基板法線方向を90°として、プレチルトを付与するにつれ、プレチルト角の角度は、90°から減少していく。
【0027】
第1配向膜312aと第2配向膜312bとには、ラビング処理が施され、細かい溝が形成される。これによって、液晶層31cの液晶分子310cの配向方向が規制される。なお、光配向処理、突起配向処理等の公知の処理によって液晶分子310cの配向方向を規制してもよい。また、第1電極31bと第1配向膜31cとの間、第2電極32bと第2配向膜32cとの間、それぞれに、必要に応じて絶縁膜を設けてもよい。
【0028】
液晶層31cは、第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bとによって挟まれている。第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bとは、図示しないシール部材を挟んで、所定の距離を保って対向するように重ね合わされ、固着される。第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bとシール部材とによって形成される密閉空間に液晶材が閉じこめられ、液晶層31cが形成される。液晶材としては、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)で、波長589nmでの屈折率異方性Δnが0.2程度のものが用いられる。
【0029】
第2液晶パネル32は、第1基板ユニット32aと、第2基板ユニット32bと、液晶分子320cを含む液晶層32cと、を備える。第1基板ユニット32aと第2基板ユニット32bとは対向して配置され、両者の間に液晶層32cが設けられる。
第1基板ユニット32aは、液晶層32cの上に配置され、第1基板320aと、第1電極321aと、第1配向膜322aと、を備える。第2基板ユニット32bは、液晶層32cの下に配置され、第2基板320bと、第2電極321bと、第2配向膜322bと、を備える。
第2液晶パネル32は、第1液晶パネル31と略同様の構成となっており、略同一な特性を有する。例えば、第2液晶パネル32の第1基板ユニット32aは、第1液晶パネル31の第1基板ユニット31aに対応する。このように、第2液晶パネル32の各構成要素は、第1液晶パネル31の構成要素うち、同じ名称のものと対応する。なお、図1では説明便宜のため液晶分子310c,320cを模式的に楕円で表している。
【0030】
第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは積層される。具体的には、第1液晶パネル31の第2基板310bの下面と第2液晶パネル32の第1基板320aの上面とを貼り合わせることで、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは積層される。このように複層構造とすることで、視差が発生するため、貼り合わせ側の基板(第2基板310b、第1基板320a)は、薄いほどよい。このため、例えば、第1液晶パネル31作成後に第2基板310bの下面を研磨し、第2液晶パネル32作成後に第1基板320aの上面を研磨してから、両者を積層させたり、貼り合わせ側の基板を貼り合わせ側でない基板(第1液晶パネル31の第1基板310a、第2液晶パネル32の第2基板320b)よりも薄いものとしたりすることが好ましい。なお、このように貼り合わせずに、第1液晶パネル31の第2基板310b及び第2液晶パネル32の第1基板320aを両パネルに共通の1枚の基板としてもよい。
【0031】
第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは、上記のように略同様の構成であるが、液晶分子の液晶ダイレクタ方向が互いに異なるように構成される。ここで、「液晶ダイレクタ方向」とは、1のパネルに電圧を印加した場合の液晶層における液晶分子の平均的傾斜方向をいう。つまり、液晶分子310cの液晶ダイレクタ方向n1と液晶分子320cの液晶ダイレクタ方向n2とは、180°異なる(図1、図2等参照)。
このように、液晶ダイレクタ方向n1を視角方向とすれば、第1液晶パネル31においては、視角が大きくなるに従い(つまり、基板法線方向から視角方向に視点がずれていくに従い)液晶層31cを通過する光に複屈折が起きにくくなる。この場合、第2液晶パネル32においては、その液晶ダイレクタ方向n2とは反対の方向が視角方向となるので、液晶層32cを通過する光に複屈折が起きやすい。このため、本実施形態に係る複層パネル構造を有する液晶表示装置100によれば、視角依存性を抑制することができる。
【0032】
また、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは、各々の液晶ダイレクタ方向n1,n2が透明電極の配列方向に対して、ほぼ±45°(丁度±45°を含む)となるように構成されている。具体的には、図3(c)に示すように、略正方形状の画素eの各辺に相当する画素エッジedと液晶ダイレクタ方向n1,n2とのなす角の角度がほぼ±45°となるように構成されている。また、このように構成した場合、図2と図3(c)を参照してわかるように、画素エッジedに対応する辺と偏光フィルタ(第1偏光フィルタ10,第2偏光フィルタ20)の透過軸(又は吸収軸)とは平行又は直交の関係となっている。
例えば、従来の単層パネルのモノドメイン配向のVA−LCDにおいて、画素エッジに対して液晶ダイレクタ方向を±45°に設定したとすると、画素エッジ部の光抜けを抑制できるが、視角依存性が高くなってしまうため、このような設定をすることが困難であった。一方、本実施形態に係る液晶表示装置100では、前述のように第1液晶パネル31の液晶ダイレクタ方向n1と第2液晶パネル32の液晶ダイレクタ方向n2とを互いに逆になるように設定しているため、視角依存性を抑制しつつも、画素エッジ部の光抜けを抑制することができる。また、特別な電極パターンを用いなくともよいため構成が簡単である。
【0033】
上記のように、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とは、略同様の構成であるが、両者の特性(透明基板の組成、液晶の屈折率異方性Δn、液晶層の厚さd等)を互いに異ならせることで、視角方向を調整することも可能である。この場合、特に、液晶層のリタデーション(Δn・d)に着目して視角方向を調整すればよい(リタデーションについては後述する)。この場合においても、後述するように、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32との合計リタデーションRの値は、500nm≦R≦2000nmに設定される。
【0034】
バックライト40は、第2偏光フィルタ20の下に位置し、光を面状に出射して液晶素子30等を照らす。バックライト40は、例えば、発光ダイオードと導光部材との組み合わせによって構成される。バックライト40は、液晶表示装置100が明表示を行う際に適宜使用される。
【0035】
液晶表示装置100は、電圧無印加時には、液晶分子310c,320cは垂直配向なので、第2偏光フィルタ20の下側から通過した光は、液晶層31c,32cによっては偏光方向(電場振動方向)がほとんど変化されず、第2偏光フィルタ20とクロスニコルの関係で配置された第1偏光フィルタ10を通過できない。このように、液晶表示装置100は、ノーマリブラックモードとなっている。
一方、第1液晶パネル31の一対の電極(311a,311b)と第2液晶パネル32の一対の電極(321a,321b)とに、電圧を印加すると、液晶層31c,32cの電圧がかけられた領域においては、液晶分子310c,320cが液晶ダイレクタ方向に傾き、基板の主面と略水平となる。これにより、液晶層31c,32cを通過する光に複屈折が起きて偏光方向が変化し、第2偏光フィルタ20の下側から液晶層32c,31cを通過した光は第1偏光フィルタ10を通過する。液晶表示装置100は、光を通過させる領域(電圧印加時に、第1電極311aと第2電極311b、第1電極321aと第2電極321bが平面視において重なる領域)によって画素eを形成し、所定の表示を行う。
特に、本実施形態においては、液晶層31cの液晶ダイレクタ方向n1と液晶層32cの液晶ダイレクタ方向n2とが互いに逆方向に設定されているため、前述のように視角依存性を抑制することができる。
【0036】
図4に、液晶表示装置100と、液晶表示装置100と同様な構成で液晶ダイレクタ方向と画素エッジedとのなす角が0°または90°となるように構成された液晶表示装置(比較例)とのシミュレーションによるコントラスト結果を示す。ここで、コントラストとは、一定の表示領域における、OFF時とON時の輝度の比である。コントラストが大きければ、液晶表示装置100による表示が見やすいものとなるので、コントラストは、大きい方がよい。
図示するように、液晶表示装置100のコントラストは500と、比較例のコントラスト250よりも大きく、良好な結果となっている。この結果は、前述のように液晶ダイレクタ方向n1,n2が透明電極の配列方向に対して、ほぼ±45°となるように構成された液晶表示装置100が、光抜けを抑制できることを示している。光抜けを抑制できれば、OFF時の輝度が下がり、結果としてコントラストを大きくできる。
【0037】
(液晶層のリタデーションについて)
本願発明者は、上記のように画素エッジ部の光抜けを抑制できる液晶表示装置100において、さらに、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32との合計リタデーションR(第1液晶層31cのリタデーションと第2液晶層32cのリタデーションの和)の値が500nm≦R≦2000nmという条件に設定することで、1/32〜1/128Dutyまでの高Duty駆動が可能となることを見出した。ここで、液晶層のリタデーションとは、液晶層の厚さdと、液晶の屈折率異方性Δnとの積(Δn・d)である。
以下、リタデーションをどのように特定したか説明する。
【0038】
VA−LCDでは、透過率を最大とするためには、原理的に、リタデーションを1/2波長(λ/2(200〜300nm))とすればよいことが知られている。しかし、本実施形態の液晶表示装置のようにパッシブマトリクス型で高Duty駆動する際、リタデーションが1/2波長では、急峻度が低くON時に表示が暗くなってしまう。パッシブ駆動においては、ON−OFF電圧差に制限があり(例えば、図7に示すようにOFF電圧が2V、ON電圧が2.5V)、液晶分子が水平に傾きづらいためである。
【0039】
電圧差に制限がある中で屈折率を大きくし、透過率を高めるには、Δnかdを大きくすることでリタデーションを大きくすればよい。しかし、Δnが大きい液晶を採用した場合、ネマチック相−等方性液体相転移温度(Tni)の低下や、応答速度低下(粘度上昇)等の不具合が生じてしまう。また、dを大きくしたとしても応答速度が低下してしまう。
【0040】
単層パネルのVA−LCDでは、リタデーションを大きくすることが上記理由により困難であった。そこで、本願発明者は、本実施形態のような複層パネル構造のVA−LCDを採用すれば、各パネルのリタデーションを無理に大きくしなくとも、全体のリタデーションを各パネルのリタデーションの和として稼ぐことができるため、高Duty駆動が可能であると思い至った。
【0041】
図5にリタデーションを特定するためのシミュレーション結果を示す。
液晶層31c,32cのΔnを0.2に設定し、液晶層31cの厚さと液晶層32cの厚さの和を11、10、7.5、5、2.5、1.5μmと変化させることで、両パネル合計リタデーションRを2200、2000、1500、1000、500、300nmとし、各々の場合についてのON時の透過率、コントラスト、応答速度を所定のシミュレーションソフト(例えば、シンテック株式会社製のシミュレーションソフト「LCD MASTER」)により算出した。なお、この結果は、1/64Duty、1/9Biasとした場合の結果である。
【0042】
合計リタデーションR=2200の場合、ON透過率11%、コントラスト1500(OFF時を1とした場合)と、良好な結果となっているが、リタデーションが大きすぎ、応答速度が500msと遅くなっている。逆に、リタデーションをR=300と小さい値にした場合は、応答速度が5msと非常に良好であるが、ON透過率0.3%、コントラスト30と小さすぎる。
一方、500≦R≦2000の場合、ON透過率が11%〜2%、コントラストが1200〜150、応答速度が300〜15msと、いずれも良好な結果を示している。これにより、良好な表示品位を保つためには、両液晶パネルの合計(第1液晶層31cと第2液晶層32cとの合計)リタデーションRを、500nm≦R≦2000nmという条件に設定すればよいことがわかった。
なお、表示品位を保つ上では問題はないが、R=2000では、応答速度が300msと若干遅く、R=500では、ON透過率が2%と若干低いため、より好ましくは、Rを1500〜1000付近の値に設定すればよい。
【0043】
ここで、一実施例として、第1液晶層31cの層厚dを2.7μm、第2液晶層32cの層厚dを2.7μmと設定した液晶表示装置100の各種特性のシミュレーション結果を図6に示す。なお、この結果は、1/64Duty、1/9Biasとした場合の結果である。
この場合、液晶材のΔnは、0.2(589nm)であるため、両液晶パネルの合計リタデーションの値は、(0.2×2.7(μm))+(0.2×2.7(μm))=1080nmと、500nm≦R≦2000nmの条件を満たしている。
また、比較例として、液晶表示装置100と同様な構成だが、上下の液晶パネルの液晶ダイレクタ方向が同じ方向である複層モノドメイン構造の液晶表示装置(比較例1)と、第1液晶パネル31cまたは第2液晶パネル32cのいずれかを省いた構成の単層モノドメイン構造の液晶表示装置(比較例2、比較例3)と、のシミュレーション結果も同図に示した。比較例1では、第1液晶層31cの層厚dを2.7μm、第2液晶層32cの層厚dを2.7μmと設定し、比較例2では、単層の液晶パネルにおける液晶層の層厚を2.7μmと設定し、比較例3では、単層の液晶パネルにおける液晶層の層厚を5.4μmと設定した。
【0044】
ON透過率に着目すると、複層構造によって又は層厚dが大きいことによって、リタデーションの値が大きい液晶表示装置100は5%、比較例1は5%、比較例3は3%と、リタデーションの値が小さい比較例2の1%と比べ、透過率に優れることがわかる。しかし、比較例3はこのように透過率に優れても、dを大きくしたことで応答速度が500msと遅くなってしまっている。一方、複層構造の液晶表示装置100と比較例1とは、応答速度が50msと良好な結果となっている。
【0045】
以上のように、単層構造の比較例2,3に比べ、複層構造の液晶表示装置100と比較例1は、ON透過率、応答速度の点で優れる。しかし、コントラストに着目した場合、液晶表示装置100は500、比較例1は300と、液晶表示装置100は比較例1に比べ優れる。また、図示するように、液晶表示装置100のコントラスト分布C100と比較例1のコントラスト分布C1とを見比べると、液晶表示装置100では、コントラストが高い領域Hiが、表示面を正面視した場合での上下左右均等に(対象に)分布し、コントラストが低い領域Lowは、散見されるのみである。一方、比較例1では、Hi領域が不均等であり、また、Low領域が液晶表示装置100に比べて広範囲に渡っていることがわかる。このように、液晶ダイレクタ方向を上下パネルで逆になるように構成した液晶表示装置100は、比較例1に比べ、広視野であることがわかる。
【0046】
ここで、液晶表示装置100と比較例2と比較例3とのV−T(電圧−透過率)特性のシミュレーション結果を図7に示す。
図示するように、液晶表示装置100は、複層構造でリタデーションを大きくすることで、d=5.4μmに設定した比較例3と同様のV−T特性を得ることができるのがわかる。つまり、液晶表示装置100によれば、パッシブ駆動のため電圧差に制限がある中でON透過率を高めつつも、比較例3のように応答速度の低下等を招くことなく、良好な表示品位を保つことができることがわかる。
【0047】
(液晶表示装置100の生産方法について)
液晶表示装置100の生産方法について説明する。
まず、透明基板からなる第1基板310aと第2基板310bとを用意し、両基板の一面上にITOにより第1電極311a、第2電極311bを形成する。前述のように第1電極311aと第2電極311bとは直交し、ドットマトリクス方式となるように形成される。
【0048】
次に、第1基板310aに、第1電極311aを覆うように第1配向膜312aを形成する。同様に、第2基板310bに、第2電極311bを覆うように第2配向膜312bを形成する。このように形成された第1配向膜312aと第2配向膜312bとには、例えばアンチパラレルとなるようにラビング処理が施され、90°に近いプレチルトを付与するように調整されている。また、液晶ダイレクタ方向n1が電極の配列方向に(画素eの画素エッジed)対し±45°なるように調整する。こうして、第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bが形成される。
【0049】
次に、第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bのいずれかにシール材(図示せず)、ギャップコントロール材(図示せず)を塗布し、第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bとを、電極側が対向するように重ね合わせる。そして、第1基板ユニット31aと第2基板ユニット31bとの間に、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材を注入して、液晶層31cを形成することで第1液晶パネル31を作成する。液晶層31cの液晶分子310cは、第1配向膜312aと第2配向膜312bとに垂直配向されるとともに、上記プレチルトが付与されている。
【0050】
また、第1液晶パネル31と同様にして、第2液晶パネル32を作成する。但し、両パネルの貼り合わせ時に、互いに、液晶ダイレクタ方向が逆になるように考慮する。
そして、第1液晶パネル31と第2液晶パネル32とを貼り合わせる。この際、視差を抑制するために、第1液晶パネル31の第2基板310bの下面を研磨し、第2液晶パネル32の第1基板320aの上面を研磨してから、両者を貼り合わせる。なお、前述のように、第1液晶パネル31の第2基板310b及び第2液晶パネル32の第1基板320aを両パネルに共通の1枚の基板とすることもできる。
【0051】
次に、上記のように作成された液晶素子30に、第1偏光フィルタ10と第2偏光フィルタ20とを貼り合わせる。例えば、第1偏光フィルタ10と第2偏光フィルタ20とには、株式会社ポラテクノ製のニュートラル偏光板SKN−18243Tを採用する。第1偏光フィルタ10と第2偏光フィルタ20とは、各々の透過軸(又は吸収軸)が液晶ダイレクタ方向に対して+45°と−45°の角度を有するようにクロスニコルで配置される。
【0052】
そして、第2偏光フィルタ20の下側に、バックライト40を配設することで、液晶表示装置100は生産される。
【0053】
なお、本発明は上記の実施形態及び図面によって限定されるものではない。上記の実施形態及び図面に変更(構成要素の削除も含む)を加えることができるのはもちろんである。
以上の説明では、液晶表示装置100を、第2偏光フィルタ20の下にバックライト40のみ設けた、透過型の液晶表示装置としたが、これに限られない。第2偏光フィルタ20とバックライト40との間に、ハーフミラー等からなる半反射層を設けた、半反射型の液晶表示装置であってもよい。また、半反射層ではなく、反射層を設けてもよい。この場合には、バックライト40が不要であり、反射型の液晶表示装置となる。また、以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、重要でない公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0054】
100 …液晶表示装置
10 …第1偏光フィルタ
20 …第2偏光フィルタ
30 …液晶素子
31 …第1液晶パネル
31a…第1基板ユニット(310a…第1基板、311a…第1電極、312a…第1配向膜)
31b…第2基板ユニット(310b…第2基板、311b…第2電極、312b…第2配向膜)
31c…液晶層(310c…液晶分子)
32 …第2液晶パネル
32a…第1基板ユニット(320a…第1基板、321a…第1電極、322a…第1配向膜)
32b…第2基板ユニット(320b…第2基板、321b…第2電極、322b…第2配向膜)
32c…液晶層(320c…液晶分子)
40 …バックライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液晶層と、前記第1液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−1電極と、他方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−2電極と、を有する第1液晶パネルと、
第2液晶層と、前記第2液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−1電極と、他方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−2電極と、を有し、前記第1液晶パネルの下に配置される第2液晶パネルと、を備え、
電圧印加時に前記第1−1電極と前記第1−2電極と前記第2−1電極と前記第2−2電極とが重なる領域で矩形の画素を表示するパッシブマトリクス方式の垂直配向型液晶表示装置であって、
前記第1液晶パネルと前記第2液晶パネルとは、前記第1液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向と前記第2液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向とが互いに逆になるように構成され、且つ、前記矩形の画素の辺に対する前記平均的傾斜方向が略±45°となるように構成されている、
ことを特徴とする垂直配向型液晶表示装置。
【請求項2】
前記第1液晶層のリタデーションと前記第2液晶層のリタデーションの和である合計リタデーションの値は、500nm以上2000nm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の垂直配向型液晶表示装置。
【請求項3】
前記第1液晶パネルの前記第2液晶パネル側の基板と前記第2液晶パネルの前記第1液晶パネル側の基板は、前記第1液晶パネルと前記第2液晶パネルとで共用の1枚の基板によって構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直配向型液晶表示装置。
【請求項4】
第1液晶層と、前記第1液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−1電極と、他方の基板の前記第1液晶層側の面上に形成された第1−2電極と、を有する第1液晶パネルと、
第2液晶層と、前記第2液晶層を挟むようにして対向配置された一対の基板と、この一対の基板のうち、一方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−1電極と、他方の基板の前記第2液晶層側の面上に形成された第2−2電極と、を有し、前記第1液晶パネルの下に配置される第2液晶パネルと、を備え、
電圧印加時に前記第1−1電極と前記第1−2電極と前記第2−1電極と前記第2−2電極とが重なる領域で矩形の画素を表示するパッシブマトリクス方式の垂直配向型液晶表示装置の生産方法であって、
前記第1液晶パネルと前記第2液晶パネルとを、前記第1液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向と前記第2液晶層に電圧を印加した場合の液晶分子の平均的傾斜方向とが互いに逆になるように構成し、且つ、前記矩形の画素の辺に対する前記平均的傾斜方向が略±45°となるように構成する、
ことを特徴とする垂直配向型液晶表示装置の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−29761(P2013−29761A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167205(P2011−167205)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】