説明

型かじり評価金型および型かじり評価方法

【課題】成形材料に対して、移動方向と直交する方向への力を作用させるための他の動力源が不要であり、かつ、型かじり発生の再現性の高い型かじり評価金型および型かじり評価方法を提供する。
【解決手段】型かじり評価金型1は、プレス方向平行視にて外周に3つ以上の複数の凹部を有するパンチブロック21と、プレス方向に相対移動したパンチブロック21が所定のクリアランスで嵌め込まれる嵌合部を有するダイブロック11〜14と、を備え、前記複数の凹部は、プレス方向平行視にて回転対称となるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型成形を行う際の型かじり性の評価を行うことができる型かじり評価金型および型かじり評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属薄板の成形においては主にプレス装置とプレス用金型とを用いたプレス成形が用いられている。その際、成形材料の材質・形状、金型の材質・形状(パンチ及びダイの形状、クリアランス等)等の成形条件によっては型かじり現象が発生し、薄板金属板の成形の妨げとなっていた。
特に、近年、自動車に対する衝突安全性の向上やCOの排出量低減に関する社会的な要請から、自動車メーカーでは自動車ボディの強化と軽量化に取り組んでいる。
そして、軽量化の観点から、アルミやチタン等の低比重の材料の実用化も進められているが、衝突安全性の観点から、従来の薄板材料よりも更に高強度の材料の実用化がなされつつある。
しかしながら、被加工材である金属薄板の強度が上昇すると、成形の際に金型からの反力も高まるため、高面圧下で金型と摺動を伴いながら成形されることになり、型かじりは益々発生し易い状況となる。そのため、高強度材料の実用化の妨げとなり、結果として自動車ボディの軽量化の妨げとなっている。
【0003】
この問題を解決するため、従来からプレス現場においては成形時の成形条件の見直しが行われ、金型用材料メーカーにおいては耐型かじり性に優れる材料の開発が行われている。このような成形条件の見直しや耐型かじり性に優れる金型材料の開発には型かじり性を評価するための型かじり評価技術が必要になる。
当該型かじりの評価技術として、従来、例えば、非特許文献1に記載のものが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】薄鋼板成形技術研究会[編]、「プレス成形難易ハンドブックー第3版ー」、日刊工業新聞社、2007年3月30日、p.464-465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、型かじりを発生させるためには、成形材料に対して、当該成形材料の移動方向(摺動方向)と直交する方向に力を作用させる必要があるが、非特許文献1に記載の方法(区分:単純すべり、引抜きA〜D)においては、当該直交する方向への力を発生させるために、成形材料を移動させるための動力源とは別の動力源が必要になるという問題があった。
また、非特許文献1に記載の方法(区分:しごきA、B)においては、パンチとダイとのクリアランスによっては、成形材料に対して、移動方向と直交する方向への力(P)を十分に作用させることができない場合もあり、型かじり発生の再現性も低く、数多くの成形を行って型かじりの有無を評価しなければならないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、成形材料に対して、移動方向と直交する方向への力を作用させるための他の動力源が不要であり、かつ、型かじり発生の再現性の高い型かじり評価金型および型かじり評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る型かじり評価金型および型かじり評価方法は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の型かじり評価金型および型かじり評価方法は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0008】
本発明に係る型かじり評価金型における第1の特徴は、プレス方向平行視にて外周に3つ以上の複数の凹部を有するパンチと、プレス方向に相対移動した前記パンチが所定のクリアランスで嵌め込まれる嵌合部を有するダイと、を備え、前記複数の凹部は、プレス方向平行視にて回転対称となるように配置されていることである。
【0009】
この構成によると、プレス成形により、成形材料に対して、屈曲した曲げ線での曲げ変形を与えつつ、当該成形材料をダイに沿わせて、プレス方向に摺動させることができる。
これにより、成形材料に対して、移動方向(プレス方向)と直交する方向への力を作用させるための他の動力源を用いずに、当該成形材料とダイとの接触面における面圧をより確実に高めることができる。
また、当該面圧がより確実に高まることに起因して、型かじり発生の再現性が高くなる。 更に、パンチが有する複数の凹部は、プレス方向から見て回転対称となるように配置されているので、成形材料がダイ上でプレス方向と直交する方向にずれることを防止できる。
【0010】
また、本発明に係る型かじり評価金型における第2の特徴は、前記ダイは、前記パンチがプレス方向に相対移動したときに前記複数の凹部に対してそれぞれ嵌合する複数の凸部を有し、当該凸部は、プレス方向平行視にて円弧をなす円弧凸面を有し、前記円弧凸面の半径は、前記複数の凸部においてそれぞれ異なることである。
【0011】
この構成によると、成形材料を1回プレスすることで、プレス後の成形材料には、成形条件(ダイブロックの円弧凸面の半径)の異なる4つの変形部が形成される。これにより、少ないプレス回数で、型かじりが生じる条件と、型かじりが生じない条件とを見つけることができる。その結果、これらの条件に基づく型かじり性の評価が容易になる。
【0012】
また、本発明に係る型かじり評価金型における第3の特徴は、前記ダイは、前記嵌合部の前記パンチ側に位置する端縁部が所定の半径の円弧状に面取りされており、当該所定の半径は、回転対称位置にある複数の前記端縁部においてそれぞれ異なることである。
【0013】
この構成によると、成形材料を1回プレスすることで、プレス後の成形材料には、成形条件(端縁部の面取り半径)の異なる4つの変形部が形成される。これにより、少ないプレス回数で、型かじりが生じる条件と、型かじりが生じない条件とを見つけることができる。その結果、これらの条件に基づく型かじり性の評価が容易になる。
【0014】
また、本発明に係る型かじり評価金型における第4の特徴は、前記ダイは、複数のブロックを有して構成され、当該複数のブロックは、隣接するブロックとの隙間に前記パンチが嵌合されるように、着脱自在に設置されていることである。
【0015】
この構成によると、ブロックを交換することで、容易に成形条件(円弧凸面の半径や端縁部の面取り半径等)を変更することができる。
また、ブロックに型かじりの疵がついた場合でも、ダイ全部を交換する必要はないため、経済的である。
【0016】
また、本発明に係る型かじり評価方法は、プレス方向平行視にて外周に凹部を有するパンチと、プレス方向に相対移動した前記パンチが所定のクリアランスで嵌め込まれる嵌合部を有するダイと、を備える型かじり評価金型を用いて、板状部材をプレスするプレス工程と、当該プレス後に、プレスされた前記板状部材および/または前記ダイの表面の型かじりの発生の有無を確認する型かじり確認工程と、型かじりが発生したダイ形状と、型かじりが発生しなかったダイ形状とに基づいて型かじり性を判断する型かじり性判断工程と、を備える。
【0017】
ここで、「型かじりが発生したダイ形状」とは、型かじりが板状部材またはダイ自身に発生したときの、ダイ形状を意味する。また、「型かじりが発生しなかったダイ形状」とは、型かじりが板状部材またはダイ自身に発生しなかったときのダイ形状を意味する。
この構成によると、パンチをプレス方向に付勢するためのプレス装置以外の他の動力源を用いることなく、板状部材に対して移動方向(プレス方向)と直交する方向への力を十分に作用させることができる。
これにより、板状部材とダイとの接触面における面圧をより確実に高めることができ、型かじり発生の再現性が高くなる。
プレス後、板状部材またはダイ自身における型かじりの発生の有無を確認し、型かじりが発生したときのダイ形状と、発生しなかったときのダイ形状に基づいて、型かじり性を評価することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、成形材料に対して、移動方向(プレス方向)と直交する方向への力を作用させるための他の動力源を用いずに、当該成形材料とダイとの接触面における面圧をより確実に高めることができる。また、型かじり発生の再現性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る型かじり評価金型を示す側面模式図。
【図2】図1に示す型かじり評価金型の主要部を示す斜視模式図。
【図3】図1に示す型かじり評価金型のダイユニットを示す(a)平面図及び(b)側面図。
【図4】図1に示す型かじり評価金型のパンチユニットを示す(a)側面図及び(b)平面図。
【図5】ブランクの成形後の状態を示す斜視模式図。
【図6】比較例に係る評価金型および成形品を示す模式図。
【図7】比較例に係る評価金型および成形品を示す模式図。
【図8】図1に示す型かじり評価金型を用いた型かじり評価の結果を示す図。
【図9】第1変形例に係るダイユニットを示す平面図。
【図10】第2変形例に係るダイユニットを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る型かじり評価金型1を示す側面模式図である。また、図2は、型かじり評価金型1の主要部を示す斜視模式図である。また、図3は、型かじり評価金型1のダイユニット10を示す(a)平面図及び(b)側面図であり、図4は、型かじり評価金型1のパンチユニット20を示す(a)平面図及び(b)側面図である。
【0022】
<全体構成>
図1および図2に示すように、型かじり評価金型1においては、下側にダイユニット10、上側にパンチユニット20が配置されている。そして、パンチユニット20は、図示しないプレス装置によりダイユニット10に向かう方向(矢印P方向)に付勢されることにより、ダイユニット10に向かって平行移動して、ダイユニット10の溝に嵌合するように構成されている。
【0023】
<パンチユニットの構成>
図2および図4に示すように、パンチユニット20は、十字形状のパンチブロック21と、パンチブロック21が固定されたパンチプレート22と、パンチプレート22が固定されたパンチホルダー23とを備えている。
【0024】
パンチブロック21は、プレス方向と平行にパンチユニット20側から見て外周の4箇所に凹部21aが形成されて十字形状とされている。パンチブロック21に形成された4つの凹部21aは、プレス方向と平行に見たときに、パンチブロック21の中心軸Q(プレス中心軸Q)を回転軸として90°の回転対称となる位置に配置されている。また、凹部21aの角部は、プレス方向と平行に見たときに円弧面となるように形成されている。当該円弧面の半径は、4つの凹部21aにおいてそれぞれ同一とすることもできるし、後述するダイブロック11〜14に対応するように、それぞれ変化させることもできる。
尚、パンチブロックの下端面の縁部は、プレス時に被加工材に曲げ割れが発生しないように円弧状に面取りされている。
【0025】
パンチブロック21は、パンチプレート22にボルト等で固定され、当該パンチプレート22は、パンチホルダー23にボルト等で固定されている。当該パンチホルダー23は、後述するダイホルダーから上方に延びる棒状のガイドに案内されて上下に移動する。
【0026】
<ダイユニットの構成>
図3に示すように、ダイユニット10は、4つのダイブロック11〜14と、当該ダイブロック11〜14が着脱自在に固定されるダイホルダー15を備えている。
【0027】
ダイブロック11〜14は、直方体状に形成されたブロックであり、ダイホルダー15に対してインロー構造で設置されている。具体的には、ダイホルダー15の上面に、ダイブロック11〜14の下端部を嵌め込むことができる凹部が形成されており、ダイブロック11〜14は、当該凹部に嵌め込まれて設置されている。
【0028】
ダイブロック11〜14は、上下に延びるプレス中心軸Qを中心として回転対称となる位置に設けられている。そして、当該4つのダイブロック11〜14により、パンチブロック21の十字形状に対応する十字溝(嵌合部)を形成している。パンチブロック21は、当該十字溝内をプレス方向と平行にスライド移動可能である。つまり、4つのダイブロック11〜14により、プレス方向に移動したパンチブロック21が所定のクリアランスで嵌め込まれる十字溝が構成される。
【0029】
ダイブロック11〜14における、プレス中心軸Qに近接して上下に延びる角部11a〜14a(凸部)は、それぞれ、プレス方向からみて円弧面(円弧凸面)となるように形成されている(図3(a)参照)。当該角部11a〜14aは、成形時に被加工材が摺接する部分であり、プレス中心軸Qと平行に延びる部分(図2のダイブロック14において一点鎖線で囲んだ角部に相当する部分)である。
本実施形態において当該円弧面の半径(図3においてRaで示す)は、ダイブロック11は2mm、ダイブロック12は4mm、ダイブロック13は6mm、ダイブロック14は8mmである。
【0030】
また、ダイブロック11〜14は、それぞれ、プレス方向におけるパンチユニット20側の端面を囲む4つの辺のうち、他のブロックと対向する位置にある2つの辺である端縁部11b〜14bが円弧状に面取りされている。当該端縁部11b〜14bは、成形時に被加工材が摺接する部分であり、プレス中心軸Qと垂直な面内を延びる部分(図2のダイブロック14において二点鎖線で囲んだ角部に相当する部分)である。
本実施形態において当該端縁部11b〜14bの面取り半径(図3においてRbで示す)は、同じダイブロックにおける角部11a〜14aの円弧面の半径(Ra)と同じである。即ち、当該端縁部11b〜14bの面取り半径(Rb)は、ダイブロック11は2mm、ダイブロック12は4mm、ダイブロック13は6mm、ダイブロック14は8mmである。
【0031】
ダイホルダー15には棒状のガイド16が上方に延びるように設けられており、当該ガイド16がパンチホルダー23を上下方向に案内する。
また、図1に示すように、ダイホルダー15の中央部には貫通孔15aが形成されており、当該貫通孔15aを貫通するようにクッションピン17が配置される。クッションピン17の上端にはノックアウトプレート18が載置されている。ノックアウトプレート18は、十字形状の板状部材であり、ダイブロック11〜14間の溝内において上下に移動できるように配置される。これにより、クッションピン17でノックアウトプレート18を上方に付勢することで、成形された材料をダイユニット10から容易に取り出すことができる。尚、ダイホルダー15は、貫通孔15a近傍の底面が地面から所定量離れるように、底上ブロック19上に配置される。
【0032】
<型かじり評価方法の説明>
型かじり評価金型1と、少なくとも一軸方向に付勢力を発生させることができるプレス装置と、を用いて型かじり評価を行うことができる。
【0033】
◆プレス工程
図1に示すように、ダイブロック11〜14上に丸型のブランク30(評価用の被加工材)を載置し、プレス装置を用いて、パンチユニット20を下方に向かって付勢する。
そして、ダイブロック11〜14上に載せたブランクに、上から降りてきたパンチブロック21が接触し始め、これと同時に曲げ成形が始まる。この時、ブランク30とダイブロック11〜14の角部11a〜14aとの間で高い面圧が生じる。
この時、パンチブロック21の凹部21a及びダイブロック11〜14の角部11a〜14aは、プレス中心軸Qに対して回転対称に配置されているので、曲げの成形力は各部位でほぼつりあっている。そのため、ブランク30がダイユニット10の上でプレス方向に対して直交する方向にずれにくい。
【0034】
上述のように型かじり評価金型1によるプレス成形を行うことにより、成形後のブランク30’には、湾曲した4つの変形部30a、30b、30c、30dが形成される(図5参照)。
【0035】
◆型かじり確認工程
その後、成形されたブランク30’における型かじりの有無が確認される。尚、型かじりは、ブランク30’における、ダイブロック11〜14の角部11a〜14aの円弧面と摺動した部分(例えば図5において矢印αで示す部分)に発生し易く、当該部分の目視、あるいは、当該部分の表面粗さを測定することにより型かじりの有無の確認が可能である。
【0036】
◆型かじり性判断工程
型かじりの有無を確認した結果、湾曲した4つの変形部30a、30b、30c、30dのうち、型かじりが発生している変形部と、型かじりが発生していない変形部との双方が存在する場合は、型かじり発生限界となるダイブロックの角部および端縁部の円弧面の半径(以下、限界半径という)を求めることができる。
即ち、成形されたブランク30’における、ダイブロック11とダイブロック12とに対応する変形部にのみ、型かじりが発生し、他の変形部(ダイブロック13とダイブロック14とに対応する変形部)には、型かじりが発生していない場合には、ダイブロック12の角部および端縁部の円弧面の半径(4mm)と、ダイブロック13の角部および端縁部の円弧面の半径(6mm)との間に、限界半径が存在することが分かる。
そして、当該限界半径が小さいほど、型かじりが生じにくい成形条件であると判断することができる。
【0037】
一方、成形されたブランク30’に型かじりが発生していない場合は、ダイユニット10を構成するダイブロック11〜14を、円弧面の半径が小さいものに交換して、再度プレス成形を行う。これを型かじりが発生した変形部が形成されるまで行うことで、限界半径を求めることができる。
【0038】
また、成形されたブランク30’の全ての変形部(30a〜30d)に型かじりが発生した場合は、ダイユニット10を構成するダイブロック11〜14を、円弧面の半径が大きいものに交換して、再度プレス成形を行う。これを型かじりが発生しない変形部が形成されるまで行うことで、限界半径を求めることができる。
【0039】
<比較実験1>
本発明の実施形態に係る型かじり評価金型1と、比較例としてのCチャンネル曲げ金型100と、をそれぞれ用いて成形試験を行い、型かじり発生の有無を評価した。
図6に、(a)Cチャンネル曲げ金型100の模式図および(b)成形されたブランク130’を示す。
図6に示すように、プレス方向に突出するパンチブロック120の側面120aはプレス方向からみて直線状に形成されており、凹部は形成されていない。また、ダイブロック110には、当該パンチブロック120が所定のクリアランスで嵌合される一直線状の溝110aが形成されている。
【0040】
型かじり評価金型1及びCチャンネル曲げ金型100を用いた評価実験は、双方とも、以下に示す条件で行った。
(1)金型の材料:SKD11の熱処理材
(2)パンチブロックとダイブロックとのクリアランス:ブランクの板厚と同等
(3)プレス装置:80ton級
(4)ブランクの種類:薄鋼板、引張強さ980MPa級、板厚1.4mm
(5)潤滑:ブランクに付着している防錆油をそのまま利用
【0041】
尚、型かじり評価金型1を用いた評価実験では、ブランク30は、直径80mmの丸型のものを用いた。一方、Cチャンネル曲げ金型100を用いた評価実験では、ブランク130は、200mm×150mmの長方形のものを用いた。
【0042】
上記の試験条件のもと、30枚のブランクをそれぞれの金型でプレス成形し、型かじりの発生の有無を評価した。
【0043】
<評価結果>
型かじり評価金型1を用いた評価実験においては、30枚の全てのブランクにおいて、Rが4mm以下のダイブロックで成形された部分で型かじりが発生した。
一方、Cチャンネル曲げ金型100では、型かじりの発生は認められなかった。
このことから、型かじり評価金型1のようにパンチブロックに平面視で凹部を設け、ダイに対応する凸部を設けること(即ち、成形時におけるブランクの曲げ線を曲線とすること)で、型かじりが発生し易くなることが分かる。
【0044】
<比較実験2>
比較例としてハットチャンネル絞り金型200を用いて成形試験を行い、型かじり発生までの試験数を評価した。
図7に、(a)ハットチャンネル絞り金型200の模式図および(b)成形されたブランク230’を示す。
図7に示すように、プレス方向に突出するパンチブロック220及びダイブロック210は、図6に示すCチャンネル曲げ金型100のものと略同様であるため説明を省略する。
ハットチャンネル絞り金型200においては、所定のしわ押さえ力を付与するようにブランク230を、ダイブロック210との間で挟み込む、押さえ部材240を備えている。これにより、押さえ部材240によりブランク230をホールドした状態で、ブランク230をパンチブロック220とダイブロック210とで挟み込むことにより、ハットチャンネルを絞り成形することができる。
【0045】
尚、ハットチャンネル絞り金型200を用いた評価実験では、パンチブロック220とダイブロック210とのクリアランスは、ブランク230の板厚に0.2mmを加えたものとした。また、ブランク230は、200mm×250mmの長方形のものを用い、しわ押さえ力は、5tonとした。金型の材料、プレス装置、ブランクの種類、潤滑については、上述したCチャンネル曲げ金型100の試験条件(1)、(3)〜(5)と同様である。
上記の試験条件のもと、型かじりが発生するまで繰り返しブランクを成形した。
【0046】
<評価結果>
ハットチャンネル絞り金型200を用いて成形した場合は、プレス回数で500回を超えてから、すり疵状の、程度が軽い型かじりが発生した。
型かじり評価金型1を用いて成形した場合においては、上述したように、1回の試験でも型かじりを発生させることができるため、型かじりの評価試験を簡便に行うためには型かじり評価金型1が有効であることが分かる。
【0047】
<型かじり評価金型1を用いた評価実験の実施例>
本発明の実施形態に係る型かじり評価金型1を用いて成形試験を行い、型かじりが発生するときの限界半径を評価した。
成形条件は以下の通りである。
(1)金型の材料:SKD11の熱処理材
(2)パンチブロックとダイブロックとのクリアランス:ブランクの板厚と同等
(3)プレス装置:80ton級
(4)ブランクの種類:薄鋼板、板厚1.4mm
・ブランク形状
(a)丸型、直径70〜90mm、
(b)角型、辺長70〜90mm
・ブランク材質
(a)980MPa級、降伏強度(YP)628MPa、引張強度(TS)1052MPa
(b)980MPa級、降伏強度(YP)854MPa、引張強度(TS)1028MPa
(c)590MPa級、降伏強度(YP)421MPa、引張強度(TS)648MPa
(5)潤滑:ブランクに付着している防錆油をそのまま利用
【0048】
尚、以下に示すダイブロックを用いて実験を行った。
角部(11aに相当する部分)および端縁部(11bに相当する部分)の円弧面の半径が同一であり、その半径が、それぞれ、2mm、4mm、6mm、8mm、10mm、12mm、14mm、16mmである8つのダイブロックを用意した。そして、円弧面の半径が2〜8mmの4つ、および、10〜16mmの4つを、それぞれ一組として、ダイホルダー15に嵌め込んで使用した。
【0049】
上記条件のもと、丸型のブランクにおいては直径を、70〜90mmの間で変化させ、角型のブランクにおいては辺長を、70〜90mmの間で変化させ、限界半径を求めた結果を図8に示す。図8において、ブランク材質が上記(a)、(b)、(c)で、丸型のブランクを用いたものを、それぞれ、a1、b1、c1として示している。また、ブランク材質が上記(a)、(b)、(c)で、角型のブランクを用いたものを、それぞれ、a2、b2、c2として示している。
尚、目視にて成形品における型かじりの有無を確認し、型かじりを発生させたダイブロックのなかで、最も円弧面の半径が大きいダイブロックの半径を、限界半径としてプロットした。また、円弧面が2mmのダイブロックで型かじりが発生しなかった場合は、限界半径0mmとしてプロットした。
【0050】
図8に示すように、何れの材料もブランク径、辺長が6mm以下で型かじりが発生していることがわかる。また、強度が高い980MPa級の材料(a1、b1、a2、b2)の方が、強度が低い590MPa級の材料(c1、c2)に比べて限界半径が大きい傾向にあり、材料強度と発生面圧との関係が再現できていると考えられる。
【0051】
尚、4つのダイブロックの材料として、SS440材を用いて同様に実験を行ったところ、成形品だけでなく、ダイブロックにも、かじりが発生することがわかった。このことから、金型材料の型かじり特性も評価できることがわかる。
【0052】
ダイブロック11〜14は、それぞれ、円弧面の半径が異なっているが、この場合に限らず、円弧面の半径を複数のダイブロックでそれぞれ同一にして、型かじり評価のためのプレス成形を行ってもよい。尚、この場合、1回のプレス毎に、ダイブロックを円弧面の半径が異なるものに交換しながら、繰り返しプレスを行って型かじりが生じる限界半径を求める。
この方法によれば、1回のプレスで、同一円弧面のダイブロックで成形された成形品を4つ得ることができる。即ち、1回の試験におけるn数を増加させることができる。
【0053】
また、金属薄板以外であっても、金型材料の型かじり特性を評価することができる。
【0054】
また、ダイブロック11〜14において、角部(11a等に相当する部分)と端縁部(11b等に相当する部分)とで円弧面の半径を同一とする場合に限らず、当該角部の円弧面と端縁部の円弧面とが異なる半径であってもよい。
【0055】
また、ダイホルダー15に設置される複数のダイブロック11〜14の間で、角部および端縁部の双方の円弧面の半径が異なるように当該複数のダイブロックを形成する場合に限らず、角部および端縁部のいずれか一方の円弧面の半径が異なるように、型かじり評価金型を構成してもよい。
例えば、ダイブロック11〜14のいずれも端縁部(11b〜14b)の円弧面の半径が8mmとなるように構成するとともに、角部(11a〜14a)の円弧面の半径が、それぞれ、2mm、4mm、6mm、8mmとなるように構成して評価試験を行うこともできる。
【0056】
<本実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態の型かじり評価金型1は、以下の構成を備える。
・プレス方向平行視にて外周に4つの凹部21aを有する十字形状のパンチブロック21
・プレス方向に相対移動したパンチブロック21がブランク30の板厚と同等のクリアランスで嵌め込まれる十字溝を形成するダイブロック11〜14
そして、パンチブロック21に形成された4つの凹部21aは、プレス方向平行視にて90°の回転対称となるように配置されている。
【0057】
この構成によると、パンチブロック21とダイブロック11〜14とを用いたプレス成形により、ブランク30に対して、屈曲した曲げ線での曲げ変形(即ち、90°屈曲した端縁部11b〜14bでの曲げ変形)を与えつつ、当該ブランク30をダイブロック11〜14に沿わせて、プレス方向(十字溝の深さ方向)に摺動させることができる。
これにより、ブランク30に対して移動方向(プレス方向)と直交する方向への力を作用させるための他の動力源を用いずに、ブランク30とダイブロック11〜14との接触面における面圧をより確実に高めることができる。
また、当該面圧がより確実に高まることに起因して、型かじり発生の再現性が高くなる。これにより、例えば1回のプレスで型かじりが発生しうるプレス条件であるか否かを、より確実に判断することができる。
更に、パンチブロック21に形成された4つの凹部21aは、プレス方向平行視にて回転対称となるように配置されているので、ブランク30がダイブロック11〜14上でプレス方向と直交する方向にずれることを防止できる。
【0058】
また、本実施形態の型かじり評価金型1において、ダイブロック11〜14は、パンチブロック21がプレス方向に相対移動したときに、4つの凹部21aに対してそれぞれ嵌合する4つの角部11a〜14a(凸部)を有する。
当該角部11a〜14aは、プレス方向から見て円弧をなす円弧凸面を有する。
当該円弧凸面の半径は、90°の回転対称位置にある4つの角部11a〜14aにおいてそれぞれ異なる。
【0059】
この構成によると、ブランク30を1回プレスすることで、成形条件(ダイブロックの円弧凸面の半径)の異なる4つの変形部30a、30b、30c、30dを得ることができる(図5参照)。これにより、少ないプレス回数で、型かじりが生じる条件と、型かじりが生じない条件とを見つけ出すことができる。その結果、型かじり性の評価が容易になる。
【0060】
また、本実施形態の型かじり評価金型1において、ダイブロック11〜14は、十字溝の上端(パンチユニット側)に位置する端縁部11b〜14bが所定の半径の円弧状に面取りされている。
当該所定の半径は、90°の回転対称位置にある4つの端縁部11b〜14bにおいてそれぞれ異なる。
【0061】
この構成によると、ブランク30を1回プレスすることで、成形条件(端縁部の面取り半径)の異なる4つの変形部30a、30b、30c、30dを得ることができる(図5参照)。これにより、少ないプレス回数で、型かじりが生じる条件と、型かじりが生じない条件とを見つけ出すことができる。その結果、型かじり性の評価が容易になる。
【0062】
また、本実施形態の型かじり評価金型1において、ダイユニット10は、4つのダイブロック11〜14を有して構成され、当該4つのダイブロック11〜14は、プレスの際に、隣接するダイブロックとの隙間にパンチブロック21が嵌合されるように、着脱自在に設置されている。
【0063】
この構成によると、ダイブロック11〜14を交換することで、容易に成形条件(ダイブロックの角部や端縁部の円弧面の半径等)を変更することができる。
また、ダイブロック11〜14に型かじりの疵がついた場合でも、個別に交換可能であり、ダイユニット10を全て交換する必要はないため、経済的である。
【0064】
また、本実施形態で示した型かじり性を評価するための型かじり評価方法は、以下の工程を含んでいる。
・プレス工程
型かじり評価金型1を用いて、板状のブランク30をプレスする。
・型かじり確認工程
プレス後に、プレスされたブランク30の表面の型かじりの発生の有無を確認する。
・型かじり性判断工程
型かじりが発生した部位に対応するダイブロック11〜14の角部11a〜14a及び端縁部11b〜14bの円弧面の半径(ダイブロックにおいて当該部位の変形に寄与した部分の形状)と、型かじりが発生していない部位に対応する前記円弧面の半径(ダイブロックにおいて当該部位の変形に寄与した部分の形状)とに基づいて、限界半径(型かじりが発生した最小の前記円弧面の半径)を求め、当該限界半径を基準として、型かじり性を判断する。
【0065】
この構成によると、パンチユニット20をプレス方向に付勢するためのプレス装置以外の他の動力源を用いることなく、ブランク30に対して移動方向(プレス方向)と直交する方向への力を十分に作用させることができる。
これにより、ブランク30とダイブロック11〜14との接触面における面圧をより確実に高めることができ、型かじり発生の再現性が高くなる。
そして、ブランク30における型かじりの発生の有無を確認し、ダイブロックの限界半径を求めることで、定量的に型かじり性を評価することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【0067】
<変形例>
本実施形態に係る型かじり評価金型1は、例えば以下に示すように、変形して実施することができる。
【0068】
(1)
図9及び図10は、それぞれ本実施形態の第1変形例及び第2変形例、に係る型かじり評価金型のダイユニット示す図であり、それぞれ本実施形態の図3(a)に相当する図である。尚、図9及び図10において、対応するパンチブロックの形状を二点鎖線で示している。
【0069】
図9示す第1変形例に係る型かじり評価金型においては、3つのダイブロック61〜63を有する点で、4つのダイブロック11〜14を有する型かじり評価金型1とは異なっている。また、図10に示す第2変形例に係る型かじり評価金型においては、5つのダイブロック71〜75を有する点で、型かじり評価金型1とは異なっている。
【0070】
図9に示すように、第1変形例のダイブロック61〜63は、プレス中心軸Qを中心として回転対称(120°の回転対称)となる位置に配置されている。即ち、プレス方向平行視にて、プレス中心軸Qに近づくように突出する凸部の先端の位置が、プレス中心軸Qを中心として回転対称(120°の回転対称)となる位置に配置されている。パンチブロック64には、ダイブロック61〜63の凸部に対応する凹部が設けられている。
【0071】
また、図10に示すように、第2変形例のダイブロック71〜75は、プレス中心軸Qを中心として回転対称(72°の回転対称)となる位置に配置されている。即ち、プレス方向平行視にて、プレス中心軸Qに近づくように突出する凸部の先端の位置が、プレス中心軸Qを中心として回転対称(72°の回転対称)となる位置に配置されている。パンチブロック76には、ダイブロック71〜75の凸部に対応する凹部が設けられている。
【0072】
図9及び図10に示す型かじり評価金型を用いて、所定のブランクをプレス成形し、型かじりの有無を確認することで、型かじり性を評価してもよい。
【0073】
(2)
また、本実施形態のように、パンチユニット20を上側に、ダイユニット10を下側に設置する場合に限らず、パンチユニット20を下側に、ダイユニット10を上側に設置してもよい。
【0074】
(3)
本発明は、成形材料や金型の材料等の型かじり性評価だけでなく、成形時に使用する潤滑油や潤滑被膜等の評価に用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
成形条件の見直しや耐型かじり性に優れる金型材料の開発などにおいて、本発明の型かじり評価金型および型かじり評価方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 型かじり評価金型
10 ダイユニット(ダイ)
11〜14 ダイブロック
20 パンチユニット
21 パンチブロック(パンチ)
21a 凹部
30 ブランク(板状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス方向平行視にて外周に3つ以上の複数の凹部を有するパンチと、
プレス方向に相対移動した前記パンチが所定のクリアランスで嵌め込まれる嵌合部を有するダイと、を備え、
前記複数の凹部は、プレス方向平行視にて回転対称となるように配置されている型かじり評価金型。
【請求項2】
前記ダイは、前記パンチがプレス方向に相対移動したときに前記複数の凹部に対してそれぞれ嵌合する複数の凸部を有し、
当該凸部は、プレス方向平行視にて円弧をなす円弧凸面を有し、
前記円弧凸面の半径は、前記複数の凸部においてそれぞれ異なる
請求項1に記載の型かじり評価金型。
【請求項3】
前記ダイは、前記嵌合部の前記パンチ側に位置する端縁部が所定の半径の円弧状に面取りされており、
当該所定の半径は、回転対称位置にある複数の前記端縁部においてそれぞれ異なる
請求項1又は請求項2に記載の型かじり評価金型。
【請求項4】
前記ダイは、複数のブロックを有して構成され、当該複数のブロックは、隣接するブロックとの隙間に前記パンチが嵌合されるように、着脱自在に設置されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載の型かじり評価金型。
【請求項5】
プレス方向平行視にて外周に凹部を有するパンチと、プレス方向に相対移動した前記パンチが所定のクリアランスで嵌め込まれる嵌合部を有するダイと、を備える型かじり評価金型を用いて、板状部材をプレスするプレス工程と、
当該プレス後に、プレスされた前記板状部材および/または前記ダイの表面の型かじりの発生の有無を確認する型かじり確認工程と、
型かじりが発生したダイ形状と、型かじりが発生しなかったダイ形状とに基づいて型かじり性を判断する型かじり性判断工程と、
を備える型かじり評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−167437(P2010−167437A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11285(P2009−11285)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】