説明

埋め込み栓カラー充填用固形組成物

【課題】施工作業が簡単で長期に防食できる埋め込み栓カラー充填用固形組成物の提供。
【解決手段】水性系防錆剤を含有することを特徴とする埋め込み栓カラー充填用固形組成物1の提供。さらに油溶性防錆剤、油性成分を含有させることは好ましく、固形組成物が成形物であることも好ましい。
【効果】組成物の埋め込み栓カラー2への充填作業がきわめて簡便であり、長期の防錆性に優れるので軌道用締結装置の保守管理を容易に行うことができる。特に水が侵入してしまった止水油使用の埋め込み栓カラー2への適用は水抜きが不要であるので効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新幹線軌道等に設置されている軌道用締結装置の埋め込み栓カラーに充填する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新幹線等のスラブ軌道の軌道用締結装置の埋め込み栓カラー内にあるタイプレート固定用のTボルトやTボルト受けは金属材料でできており、これらの防錆を目的として、埋め込み栓カラー内に侵入してくる水(その大部分は雨水)を防ぐため、常温にて粘度の高いグリースや基油に防錆剤、酸化防止剤等の添加剤を加えた密度が水よりも大きな液状の止水油が充填されていた。
しかしながら、グリースの充填はその粘度が常温で高いことから狭い残余空間に充填させることは困難であり、加温等の前作業が発生し、施工作業の効率を悪化させていた。また、止水油は実際に使用された場合、次の問題点を生じることが経験上わかっている。
すなわち、止水油は埋め込み栓カラーに侵入して錆の原因になる水よりも大きな密度のものが選定されているが、列車の振動等により埋め込み栓カラー内で水と懸濁し、徐々に外部へ排出される。その結果、埋め込み栓カラー内の止水油レベルは徐々に低下し、最終的には水と置き換わることで、TボルトやTボルト受けの腐食が生じていた。そして一旦水が侵入した埋め込み栓カラーから水を完全に抜き取ることは非常に困難であり、このような埋め込み栓カラーの保全に止水油を補填しても水が共存した状態であり、防錆性に問題があった。
TボルトやTボルト受けはタイプレートにレールを締結している部品であり、これが腐食することはレールの固定保持を不確実にすることにつながりかねなかった。
【特許文献1】特開平3−290501号公報
【特許文献2】特開平2−251593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
施工作業が簡便で長期に防食できる埋め込み栓カラー充填用固形組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、水性系防錆剤を含有する固形の組成物が上記課題を解決することを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、水性系防錆剤を含有することを特徴とする埋め込み栓カラー充填用固形組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の組成物は埋め込み栓カラーへの充填作業がきわめて簡便であり、長期の防錆性に優れるので軌道用締結装置の保守管理を容易に行うことができる。特に水が侵入してしまった止水油使用の埋め込み栓カラーへの適用は水抜きが不要であるので効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いる水性系防錆剤とは水系において鉄のインヒビターになるものをさし、例えば山本等、金属腐食防食技術、槇書店発行(1983年)71頁インヒビターリストなどに記載されたものが挙げられる。
このうち、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類、金属水酸化物類、金属酸化物類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、亜硝酸塩類、リン酸塩類、モリブデン酸塩類、有機系インヒビター類からなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
このようなものとして例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩類、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カルシウムなどのリン酸塩類、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウムなどのケイ酸塩類、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸亜鉛などのモリブデン酸類、有機リン酸エステル、安息香酸塩、高級脂肪酸塩などの有機系インヒビターが挙げられる。このうちアルカリ土類金属塩類、ケイ酸塩類、炭酸塩類は環境への影響も少ないのでより好ましい。
これらの水性系防錆剤は本発明の組成物に対して1〜95重量%含有することができ、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%である。
【0007】
本発明の組成物には油溶性防錆剤、油性成分などを含有することは好ましい。油溶性防錆剤、油性成分などは水性系防錆剤を被覆することにより固形組成物に徐放性を持たすことができるからである。また、これらの成分がTボルト等の金属面に吸着して防錆性を向上させるからである。
【0008】
このような油溶性防錆剤としては例えば、酸化パラフィン、酸化ペトロラタム、アルケニルコハク酸などのカルボン酸類を、アビエチン酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、牛脂アミンのオレイン酸塩などのカルボン酸塩類を、石油スルホネート(Na、Ca、Mg、Ba等の)塩、ジノニルナフタレンスルホン酸(Na、Ca、Ba)塩、重質アルキルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩類を、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール、ラノリン脂肪酸(Na、Ca、Ba、Zn等の)塩、ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトールエステル、ラノリン脂肪酸メチルなどのラノリン類を、酸化パラフィンメチルエステル、オレイン酸ソルビタンエステルなどのエルテル類を、オレイルリン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などのリン酸塩類を挙げることができる。これらのうちラノリン類は好ましい。
これらの油溶性防錆剤は本発明の組成物に対して0.01〜30重量%含有することができ、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。
【0009】
油性成分としてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、セレシン、ワセリン、カルナバワックス、キャンデリラワックス、木蝋、ポリエチレンワックス、硬化ひまし油、ミツロウ、ライスワックス、シリコーンワックスなどのワックス類、流動パラフィン、鉱物油、大豆油、サフラワー油、牛脂、パーム油、オレイン酸メチル、オレイン酸多価アルコールエステル、ポリブテン、ポリアルキレンオキシド類などを挙げることができる。このうちワックス類など室温にて固体の油性成分が被覆性、成形性に優れているので好ましい。
これらの油性成分は本発明の組成物に対して0.01〜50重量%含有することができ、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%である。
【0010】
本発明の固形組成物の製造方法としては上述水性系防錆剤に必要に応じて油溶性防錆剤、油性成分などと混合被覆させることによりつくることもできるが、水性系防錆剤に油溶性防錆剤、油性成分などと混合後、成形することが好ましい。成形することにより除放性がより確かになり、又一定重量の成形品は埋め込み栓カラーに充填するのに計量が不要であり、作業が一層簡便であり好ましい。
【0011】
成形に際しては、本発明の好ましい効果を損なわない範囲で、通常成形に用いられる添加剤、例えば結合剤、滑沢剤、賦形剤、崩壊剤などを配合できる。
これらの成分を例示すると、結合剤として水、PEG、ポリビニルアルコール、デキストリン類、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム、寒天、糖類、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース及びその誘導体等を挙げることができる。
滑沢剤としてはタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0012】
成形方法としては、各成分の混合粉末を加圧成形する方法、混合粉末を押し出し造粒法等の方法により顆粒化した後加圧成形する方法、混合後又融解して又は融解後に混合して、更に射出や型への流し込み等の後冷却して成形する方法等が挙げられる。また、各成分を布等の担体に融着することもできる。成形に際しては、必要に応じて溶解剤、ゲル化剤、固化剤等を添加してから成形しても良い。成形体の形状としては、用途や必要とされる有効成分の溶解速度等の条件に応じて適宜成形することができ、粒状、球状、板状、円盤状、円錐状、円柱状、角柱状、筒状、穴明き円板状等の任意の形状でよい。好ましく水性系防錆剤に油溶性防錆剤、油性成分などと十分に攪拌・混合後に加圧成形することにより調製される。
【0013】
埋め込み栓カラーの一例を図1に示すが、本発明の固形組成物(1)は、残余空間(9)に充填され、Tボルト(3)およびTボルト受け(4)の腐食を防止するものである。ここで図1において(2)は埋め込み栓カラー、(5)は絶縁カラー、(6)はタイプレート、(7)はワッシャー、(8)は絶縁板である。
【0014】
本発明の組成物は埋め込み栓カラーに単独で用いることもできるが、従来の止水油と共に用いることもできる。またすでに止水油に水が混入してしまった埋め込み栓カラーにも水を除くことなくそのまま用いることもできる。また、止水油と共に用いる方法は防錆性がより向上するので好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、本発明につき実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0016】
実施例1
亜硝酸カルシウム一水塩 40部、メタケイ酸ナトリウム 5部、メタケイ酸カルシウム 20部、硬質ラノリン脂肪酸 20部、パラフィンワックス 15部をニーダーにて混合後、ブリケットマシン(ブリケッタBCS型 新東工業製)にて成形し、短径20mm長径40mmのアーモンド状の固形組成物を得た。
【0017】
実施例2
水酸化カルシウム 10部、メタケイ酸ナトリウム 20部、メタケイ酸カルシウム 30部、硬質ラノリン脂肪酸 20部、パラフィンワックス 15部をニーダーにて混合後、ブリケットマシン(ブリケッタBCS型 新東工業製)にて成形し、短径20mm長径40mmのアーモンド状の固形組成物を得た。
【0018】
実施例3
亜硝酸カルシウム一水塩 40部、メタケイ酸ナトリウム 5部、メタケイ酸カルシウム 20部、硬質ラノリン脂肪酸 20部、パラフィンワックス 15部、ポリエチレングリコール#20000 5部、タルク 5部をヘンシェルミキサーにて混合後、菊水製作所製打錠機にて直径24mm、高さ45mmに成形した円柱状の固形組成物を得た。
【0019】
評価方法
固形組成物を200mlの水に24時間浸漬し得られた溶出液の亜鉛と鋼に対する防食性をJIS K2246−5.28法により評価した。評価基準はJRS B46099−8A−13BR5B「止水油」の規格値に準じ、合格をO、不合格をXとする。さらに、固形組成物は残したまま浸漬後の水を抜き取り、更に200mlの水を追加することを50回繰返し、50回目の溶出液についても防食性を評価した。
ブランク試験は固形組成物を用いない水のみで行った。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から本発明の固形組成物は水が流入する状態においても長期にわたり防錆性が発揮されることがわかる。
また実施例1の組成物、市販されているフタル酸エステル系の止水油および水を埋め込み栓カラーに充填し、1ヶ月間実地試験したが、車両の振動等による状況下でも良好に防錆されていた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
埋め込み栓カラー内の残余空間に本発明の埋め込み栓カラー充填用固形組成物を充填することにより、長期にわたりTボルト等の腐食を防止することができる。また、すでに止水油が充填されている埋め込み栓カラーの保全に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】スラブ軌道用レール締結装置の埋め込み栓カラー部分を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0024】
(1)埋め込み栓カラー充填用固形組成物
(2)埋め込み栓カラー
(3)Tボルト
(4)Tボルト受け
(5)絶縁カラー
(6)タイプレート
(7)ワッシャー
(8)絶縁板
(9)残余空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性系防錆剤を含有することを特徴とする埋め込み栓カラー充填用固形組成物
【請求項2】
油溶性防錆剤を含有する請求項1に記載の埋め込み栓カラー充填用固形組成物
【請求項3】
油性成分を含有する請求項1又は2に記載の埋め込み栓カラー充填用固形組成物
【請求項4】
水性系防錆剤がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、炭酸塩、金属水酸化物、金属酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、モリブデン酸塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上である請求項1〜3に記載の埋め込み栓カラー充填用固形組成物
【請求項5】
固形組成物が成形物である請求項1〜4に記載の埋め込み栓カラー充填用固形組成物
【請求項6】
請求項1〜5に記載の組成物を用いた埋め込み栓カラーの保全方法

【図1】
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【公開番号】特開2006−233586(P2006−233586A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49866(P2005−49866)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000231497)日本精化株式会社 (60)