説明

埋立工法および埋立用混合材料

【課題】大径礫を含む土砂を使用できて、密度および強度が安定した埋立地盤を造成することができる埋立工法および埋立用混合材料を提供する。
【解決手段】大径礫を含む土砂に安定材、分離防止剤および水を添加して混合した埋立用混合材料を水中に投下し、水中に投下された埋立用混合材料を一定の層厚ごとに締め固める。埋立工法は、安定材、水および分離防止剤からなるペーストを土砂と混合攪拌して埋立用混合材料を製造する埋立用混合材料製造工程と、埋立用混合材料を水中に投下する埋立用混合材料投下工程と、水中に投下された埋立用混合材料を所定の層厚毎に締め固める締め固め工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に土砂を投入して埋立地盤を造成する埋立工法および埋立用混合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、埋立工法として、土砂に、例えばセメントなどの安定材と分離防止剤と水とを混合した埋立用混合材料を水中に投入して埋立地盤を造成する事前混合処理工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような事前混合処理工法では、土砂の土砂粒子は安定材と混合されて固定化し、分離防止剤が添加されて水中における土砂粒子の分離が防止され団塊状で沈降して水底に堆積するため、密度が均一で安定性のある強固な埋立地盤を造成することができる。
また、埋立用混合材料を水中に投入した後の締固めや敷き均しなどの作業が不要なため、工期の短縮を図ることができる。
さらに、大規模な大水深の埋立においても土運船から改良された土砂を直投する方法によって大量かつ急速な施工が可能である。
また、既存構造物の付近における埋立工法にも適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−63213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の事前混合処理工法では、土砂に大径の土砂粒子(大径礫)と小径の土砂粒子とが混在していると、分離防止剤を添加していても大径礫が水中で分離しやすく、小径の土砂粒子と大径礫とが偏った状態で堆積するため、埋立地盤の密度に偏りが生じて強度が安定せず、地震時に埋立地盤が液状化や地震動による変状をおこす虞がある。
このため、従来の事前混合処理工法では、粒子径が例えば約40mmまでの土砂粒子からなる土砂を使用することが多く、粒子径が約40mmより大きい大径礫は予めクラッシングしてから使用するため、このクラッシングに手間がかかっている。
【0005】
さらに、従来の事前混合処理工法で分離防止剤として一般的に使用されているポリアクリルアミドを、大径礫が含まれる土砂を利用する埋立工法に使用すると、安定材に対する凝集性が強すぎるため、安定材、分離防止剤および水からなるペーストが土砂粒子に付着せず、土砂粒子どうしの付着結合力が低下して密度が均一で強度が安定した埋立地盤の造成が困難である。
【0006】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたもので、大径礫を含む土砂を使用できて、密度および強度が安定した埋立地盤を造成することができる埋立工法および埋立用混合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は大径礫を含む土砂に安定材、分離防止剤および水を添加して混合した埋立用混合材料を水中に投下し、水中に投下された前記埋立用混合材料を一定の層厚ごとに締め固めることを特徴とする。
【0008】
本発明における大径礫とは、粒子径(礫径)が40mmを超える土砂粒子(礫)を示している。
そして、本発明では、水中に投下した埋立用混合材料を一定の層厚ごとに締め固めることにより土砂粒子どうしが咬み合うとともに、土砂粒子の表面に付着した安定材および分離防止剤の付着力によって土粒子どうしが付着するため、土粒子間の間隙が少なくなり、埋立地盤の密度および強度を安定させることができる。
また、大径礫をクラッシングして小径の土砂粒子とすることなくそのまま利用することができるため、大径礫のクラッシングの手間を省くことができて効率よく埋立地盤を造成することができる。
【0009】
また、本発明に係る埋立工法では、前記分離防止剤は、凝集沈降時間試験における凝集沈降時間が80秒以上である水溶性高分子であることが好ましい。
このように、分離防止剤は、凝集沈降時間試験における凝集沈降時間が80秒以上である水溶性高分子であることにより、凝集性が少なく、土粒子に安定材および分離防止剤が付着しやすいため、土砂粒子どうしの付着結合力を確保することができて、埋立地盤の密度が偏ることがなく、埋立地盤の強度を増大させることができる。
【0010】
また、本発明に係る埋立工法では、前記埋立用混合材料は、VC値が10秒以上50秒以下であることが好ましい。
このようにすることにより、埋立用混合材料の施工性がよく、効率よく埋立地盤を造成することができる。
【0011】
本発明に係る埋立工法において用いる埋立用混合材料は、上記のようにVC値を10秒以上50秒以下とするために、細粒分含有率(土砂に含まれる粒子径が2.5mm以下の細粒分の含有率:以下、s率と記す)に応じて、ペースト質量比(2.5mm以下の細粒分に対する、前記安定材、前記分離防止剤および前記水からなるペーストの質量比:以下、a値と記す)を適切に決定すると良く、特に、前記細粒分含有率が増大すると前記ペースト質量比を下げるように決定すると良い。
その場合、具体的には、たとえば、s率が5%超15%以下の場合においてはa値を1.35以上1.60未満の範囲内とし、s率が15%超25%以下の場合においてはa値を0.85以上0.95未満の範囲内とし、s率が25%超35%以下の場合においてはa値を0.6以上0.7未満の範囲内とすることが考えられる。
さらに、その場合においては、a値をそれぞれのs率に対応するそれぞれの範囲内において前記埋立用混合材料の湿潤密度が最大となるように決定することが最適である。
【0012】
埋立用混合材料を上記のような配合とすることにより、ペーストによる土砂粒子どうしの付着結合力を確保することができる。
特に、粒子径が2.5mm以下の土砂粒子は、ペーストと混合されて大径礫に付着することで大径礫どうしを付着させることができるから、その2.5mm以下の細粒分の含有率(s率)に応じてペースト質量比(a値)を適切に決定することにより、確実に大径礫どうしを付着させることができるとともに、土砂にペーストを過剰に添加することを防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る埋立工法では、前記埋立用混合材料は、前記安定材に対する前記水の質量比が、0.7以上1.5以下であることが好ましい。
このように埋立用混合材料を製造することにより、土砂粒子どうしの付着結合力を確保することができる。
【0014】
また、本発明に係る埋立工法では、前記埋立用混合材料は、前記水に対する前記分離防止剤の質量比が、0.003以上0.020以下であることが好ましい。
このように埋立用混合材料を製造することにより、土砂粒子どうしの付着結合力を確保することができる。
【0015】
また、本発明に係る埋立用混合材料は、埋立のために水中に投下される埋立用混合材料において、大径礫を含む土砂と、安定材と、分離防止剤と、水とが混合されていることを特徴とする。
本発明における大径礫とは、粒子径(礫径)が40mmを超える土砂粒子(礫)を示している。そして、大径礫をクラッシングして小径の土砂粒子とすることなくそのまま利用することができるため、大径礫のクラッシングの手間を省くことができて効率よく埋立地盤を造成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水中に投下した埋立用混合材料を一定の層厚ごとに締め固めることにより土粒子どうしが咬み合うとともに、土粒子の表面に付着した安定材および分離防止剤の付着力によって土粒子どうしが付着するため、土砂粒子間の間隙が少なくなり、埋立地盤の密度および強度を安定させることができて、地震時の液状化や地震動による変状を防止することができる。
また、大径礫をクラッシングして小径の土砂粒子とすることなくそのまま利用することができるため、大径礫のクラッシングの手間を省くことができて効率よく埋立地盤を造成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示すもので、本発明の実施例としての各種の埋立用混合材料の配合例と特性を、比較例とともに示す図である。
【図2】同、s率が9%の場合におけるa値とVC値との関係を示す図である。
【図3】同、s率が9%の場合におけるa値と湿潤密度との関係を示す図である。
【図4】同、水槽内落下法について説明する図である。
【図5】同、s率が9%の場合におけるa値と一軸圧縮強度との関係を示す図である。
【図6】同、s率が9%の場合におけるa値と、土砂の空隙容積に対する添加されたペーストの容積の割合(Rpv)との関係を示す図である。
【図7】同、s率が20%の場合におけるa値とVC値との関係およびa値と湿潤密度との関係を示す図である。
【図8】同、s率が30%の場合におけるa値とVC値との関係およびa値と湿潤密度との関係を示す図である。
【図9】同、VC値を10〜50とするための条件であるs率とa値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態による埋立工法および埋立用混合材料について説明する。
本実施形態による埋立工法は、安定材、水、および分離防止剤と土砂とを混合攪拌して埋立用混合材料を製造する埋立用混合材料製造工程と、製造された埋立用混合材料を水中に投下する埋立用混合材料投下工程と、水中に投下された埋立用混合材料を所定の層厚毎に締め固める締め固め工程と、を備えている。そして、これらの工程が行われることで埋立地盤が造成される。
【0019】
(埋立用混合材料)
まず、本実施形態による埋立用混合材料について説明する。
土砂には、粒子径が40mm以上300mm以下の土砂粒子(大径礫)と、粒子径が40mm未満の小径の土砂粒子とが混在する土砂が使用されている。
【0020】
安定材には、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメントなどの各種のセメントから適宜選択されて使用されている。
【0021】
分離防止剤には、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、ウェランガム、ダイユータンガム等のガム類から選択されて使用されている。
また、本実施形態では、分離防止剤は、その化学組成によって制限されることはなく、物理特性である凝集沈降時間試験における凝集沈降時間によって選択され、安定材のセメント粒子に対して凝集性の少ない水溶性高分子としている。
【0022】
凝集沈降時間試験とは、対象となる分離防止剤の水溶性高分子の0.04質量%水溶液100mlと、セメント30gとを100mlメスシリンダーに入れ、20秒間振盪した後に、メスシリンダーの90mlから80mlの目盛りの間を凝集したセメントの界面が通過する時間(以下、凝集沈降時間とする)を測定する試験である。なお、凝集性の著しい物質では、その水溶液中で当該水溶液高分子によりセメントが均一に分散しないので、当該水溶液濃度を0.01質量%にして測定する。
本実施形態では、分離防止剤の水溶性高分子には、この凝集沈降時間が80秒以上となるものを用いており、好ましくは、90秒以上、さらに好ましくは100秒以上のものを用いるとよい。
【0023】
このような凝集沈降時間が80秒以上となる水溶性高分子は、安定材のセメント粒子に対して凝集性の少ない性質を有していることになる。
なお、上述したメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、ウェランガム、ダイユータンガム等のガム類は、凝集沈降時間試験による凝集沈降時間が80秒以上となる。
【0024】
上記とは逆に、凝集沈降時間が80秒未満の水溶性高分子は、安定材のセメントに対して凝集性が強いことになる。このため、凝集沈降時間が80秒未満の水溶性高分子の分離防止剤を使用すると、安定材、分離防止剤および水からなるペーストが土粒子の表面に付着しづらく、埋立用混合材料を水中に投下するときに、土砂粒子どうしが分離してしまい、硬化後の埋立用混合材料の強度が低下することになる。
従来の事前混合処理工法では、分離防止剤として一般的にアニオン性ポリアクリルアミドが使用されているが、このアニオン性ポリアクリルアミドは、凝集沈降時間が80秒未満となるため、本実施形態による分離防止剤としては使用できないことになる。
【0025】
また、本実施形態では、分離防止剤としての水溶性高分子は、20℃における1.0質量%の水溶液の粘度が、B型粘度計の12rpmの測定で10mPa・s以上50000mPa・s以下であることが望ましい。そして、この粘度は、好ましくは、100mPa・s以上30000mPa・s以下、さらに好ましくは、1000mPa・s以上20000mPa・s以下である。
これは、水溶性高分子の粘度が10mPa・s未満となると、埋立用混合材料を水中に投下するときの土粒子どうしの分離防止に必要な粘着性が得られず、また、50000mPa・sを超えると不経済となるからである。
【0026】
また、本実施形態では、分離防止剤の粒子径は、JIS篩26メッシュ通過の粒子径(600μm以下)とし、より好ましくは、100メッシュ通過の粒子径(150μm以下)としている。
これは、分離防止剤は、その粒子径が600μmを超えると、600μm以下の場合と比べて溶解性が劣るため、水溶性高分子が溶解して粘着力を発揮するまでに時間がかかって、埋立用混合材料の生産性が悪くなるからである。
【0027】
図1に各凝集沈降剤の効果および配合の決定方法の確認のために実施した埋立用混合材料の実験時の配合と特性を示す。
図1(a)に示すNo.1〜7の配合例のうち、No.1〜4は本発明の実施例(凝集沈降時間が80秒以上の分離防止剤を用いた場合)であって、NO.1〜3はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、NO.4はヒドロキシエチルセルロース(HEC)を用いたものである。
また、No.5〜7は比較例(凝集沈降時間が80秒未満の分離防止剤を用いた場合)であって、NO.5はヒドロキシプロピル澱粉(HPS)、NO.6はカルボキシルメチルセルロース(CMC)、NO.7はザンタンガム(Xgum)を用いたものである。
いずれも、安定材は高炉セメントB種(密度3.04)、骨材は栃木県産砂岩砕石(最大寸法40mm、密度2.69)、水は水道水としたものである。
具体的な配合は、安定材7.0kg、骨材70.0kg、水6.3kg、分離防止剤0.063kg(水に対して1.0%)とし、傾胴式ミキサーを用いて安定材と骨材と分離防止剤を空練り(30秒)した後、注水して混練(120秒)した。
【0028】
上記の各配合例における分離防止剤の凝集沈殿時間と水中分離度との関係を図1(b)に示し、凝集沈殿時間と圧縮強度(材齢7日)との関係を図1(c)に示す。
図1(b)に示すように、凝集沈殿時間が80秒以上の分離防止剤を用いたNO.1〜4の実施例の場合には、水中分離度が概ね150mg/l以下であるという優れた分離防止性能が得られるが、凝集沈殿時間が80秒未満の分離防止剤を用いたNO.5〜7の比較例の場合にはNO.5を除いて十分な分離性能が得られないことが分かる。
また、図1(c)に示すように、凝集沈殿時間が80秒以上の分離防止剤を用いたNO.1〜4の実施例の場合には、圧縮強度が2000kN/m以上の十分な強度が得られるが、凝集沈殿時間が80秒未満の分離防止剤を用いたNO.5〜7の比較例の場合は500kN/m程度以下であることが分かる。
以上の結果から、本発明の埋立用混合材料においては、凝集沈殿時間が80秒以上の分離防止剤を用いることにより、優れた水中分離防止性能を有するとともに十分な強度を確保できることが確認できた。
【0029】
次に、本発明の埋立用混合材料を構成する各材料の配合割合について説明する。
本実施形態では、基本的に、安定材に対する水の質量比を0.7以上1.5以下としたり、水に対する分離防止剤の質量比を0.005以上0.015以下としたりすることが好ましい。
ここで、安定材に対する水の質量比が0.7未満であると、混合されたペーストもしくは土砂中の細粒分である粒径2.5mm以下の土砂粒子との結合によるモルタルのワーカビリチー(コンシステンシ―)が低下し埋立用混合材料の均一な撹拌混合の支障となり、同質量比が1.5超であると、ペーストもしくはモルタルが分離しやすくなり、同様に、埋立用混合材料の均一な撹拌混合に支障を来すことが想定される。
また、水に対する分離防止剤の質量比が0.005未満であると、分離防止剤としての機能が不十分となり、水中投下時に埋立用混合材料の材料分離を招く。また、同質量比が0.015超であると、分離防止剤の増粘効果が過大となり(粘っこくなり)ミキシングや施工性が低下することが想定される。
したがって、上記のような配合とすることにより、土粒子どうしが確実に接着されるとともに、安定材や分離防止剤が過剰になることがないため、経済的に埋立用混合材料を製造することができる。
【0030】
ここで、土砂に安定材、分離防止剤および水を添加し撹拌すると、土砂のうち粒子径が2.5mm以下の土砂粒子は、安定材、分離防止剤および水からなるペーストと混合されてモルタル状となり、粒子径が2.5mmを超える土砂粒子の表面を覆い、粒子径が2.5mmを超える土砂粒子どうしを付着させると考えられる。
従って、本発明では、使用する土砂における細粒分含有率(s率:粒子径が2.5mm以下の細粒分の含有率)に対するペースト質量比(a値:2.5mm以下の細粒分に対するペーストの質量比)を適切に設定することが、埋立用混合材料の性状に大きく寄与することになる。
【0031】
それに対し、従来のコンクリートは、細骨材(粒子径5.0mm以下)およびセメントペーストから構成されるモルタルが、粗骨材(粒子径5mm超)間の結合材となって強度を発現しているが、本実施形態による埋立用混合材料は、締め固めによる土砂粒子どうしの咬み合わせ力と、土砂粒子表面に付着したモルタル(ペーストと粒子径が2.5mm以下の土砂粒子が混合されたもの)による土粒子どうしの付着結合力により強度を発現させている。
【0032】
従って、本発明では必ずしも土砂粒子間の空隙をペーストで充填させる必要はなく、土砂粒子の表面を覆う程度のペーストが存在すればよい。むしろ、土砂に過剰のペーストを添加すると、締め固め工程において余剰ペーストが生じることになる。そして、余剰ペーストが生じることにより、海水が汚濁したり、土砂粒子どうしの咬み合わせ力が低下したりするケースが想定される他、コストアップとなる。
このため、土砂に添加するペーストは、土砂粒子どうしの咬み合わせを阻害せずに、土砂粒子間に適度な付着結合力を発揮させることができ、かつ経済的な量とする必要がある。
【0033】
また、本実施形態では、埋立用混合材料は、施工性やコンシステンシーの指標となるVC値を10秒以上50秒以下としている。
これは、埋立用混合材料のVC値が10秒未満の場合は、土砂に対して過剰のペーストが添加されている状態であり、締め固め工程において余剰ペーストが生じ、海水汚濁したり、土砂粒子どうしの咬み合わせ力が低下したりするケースが想定される他、コストアップとなる。
また、埋立用混合材料のVC値が50秒を超える場合は、土砂に対してペーストが少ない状態であり、埋立用混合材料における土粒子どうしの付着結合力が小さくなることが想定される。
そのため、本実施形態では、埋立用混合材料の配合に当たっては、埋立用混合材料のVC値が10秒以上50秒以下となるように、a値をs率に応じて適切に設定するようにしている(詳細は後述する)。
【0034】
(埋立工法)
次に、本実施形態による埋立工法について説明する。
【0035】
(埋立用混合材料製造工程)
まず、安定材、分離防止剤、水と土砂とを混合攪拌して埋立用混合材料を製造する。
埋立用混合材料の攪拌は、通常のコンクリートの混合撹拌に用いる傾胴式ミキサ、強制 2 軸ミキサ、連続ミキサ等を用いるが、特に限定するものではない。但し、好ましくは、ドラム回転混合と、パドル回転混合との機能を併せ持ち、内部パドルと外部回転パドルとが正逆反対方向に回転する混合機を使用すると良い。これらの混合機にて所定時間の撹拌混合行うことにより、土砂の土砂粒子に安定材、分離防止剤および水からなるペーストが均一に塗布された状態となり、埋立用混合材料が製造される。
そして、埋立用混合材料が製造された直後に、品質管理のため埋立用混合材料のVC値(コンシステンシー)を測定し、それが所望範囲(たとえば上記のようにVC値=10〜50秒の範囲)となるような配合とする。
【0036】
なお、埋立用混合材料製造工程において、分離防止剤の水溶性高分子による巻き込み気泡を消すために、消泡剤を用いてもよい。この消泡剤としては、コンクリートやモルタルなどに使用されているトリブチルフォスフェート、プルロニック系消泡剤、シリコーン系消泡剤、アセチレングリコール誘導体などを使用することができる。
さらに、ペーストの流動性を上げるために、コンクリートやモルタルなどに使用されている減水剤(例えば、高性能減水剤、AE減水剤、流動化剤)を用いてもよい。
【0037】
(埋立用混合材料投下工程)
続いて、上記埋立用混合材料製造工程において製造された埋立用混合材料を水中に投下する。
この埋立用混合材料の水中への投下は、埋立用混合材料を運搬船に積載して所定の位置まで運搬し、運搬された埋立用混合材料をトレミー船のトレミー管から水底に投下して堆積させる。
なお、埋立用混合材料の水中への投下は、バケットとクレーンとを備えたクラムシェルバケットによって水中へ投下するなど、他の方法で行ってもよい。
このとき、水中に投下された埋立用混合材料は、後段の締め固め工程において所定の層厚毎に締め固めが行われるため、埋立用混合材料投下工程では、埋立用混合材料を所定の層厚となるように所定量水底に堆積させる。
本実施形態では、水中に投下された埋立用混合材料の層厚を約450mmとしている。
【0038】
(締め固め工程)
続いて、鋼製タンパー、起振機およびケーシング、更にはそれらを支える塔を備えた作業船を用いて、水中に投下された埋立用混合材料の締め固めを行う。
鋼製タンパーは、例えば3m角のプレート状に形成され、ケーシングを介して起振機に接続されて、起振機の振動により振動するように構成されている。
締め固め工程では、鋼製タンパーを所定時間振動させて締め固めを行う。このとき、作業船を移動させながら、埋立用混合材料が投下された所定の範囲において締め固めを行う。
本実施形態では、約450mmの層厚に投下された埋立用混合材料が、約300mmの層厚となるように締め固めを行っている。
【0039】
そして、締め固められた埋立地盤の上部に埋立用混合材料を投下する埋立用混合材料投下工程と、この埋立用混合材料を締め固める締め固め工程とを繰り返し、所定の厚さの埋立地盤を造成する。
【0040】
次に、上述した埋立工法の効果について説明する。
本実施形態による埋立工法によれば、水中に投下した埋立用混合材料を一定の層厚ごとに締め固めることにより土砂粒子どうしが咬み合うとともに、土砂粒子の表面に付着したペーストの付着力によって土砂粒子どうしが付着するため、土砂粒子間の間隙が少なくなり、埋立地盤の密度および強度を安定させることができて、地震時の液状化や地震動による埋め立て地盤の変状等を防止することができる。
また、大径礫をクラッシングして小径の土砂粒子とすることなくそのまま利用することができるため、大径礫のクラッシングの手間を省くことができて効率よく埋立地盤を造成することができる。
【0041】
特に、埋立用配合材料に配合する分離防止剤は、凝集沈降時間試験における凝集沈降時間が80秒以上である水溶性高分子であることにより、凝集性が少なく、土砂粒子に安定材および分離防止剤が付着しやすいため、土砂粒子どうしの付着結合力を確保することができて、埋立地盤の密度が偏ることがなく、埋立地盤の強度を増大させることができる。
【0042】
また、埋立用混合材料のVC値を10秒以上50秒以下とすることにより、埋立用混合材料の施工性がよく、効率よく埋立地盤を造成することができる。
そして、そのために、埋立用混合材料のa値(ペースト質量比)を、実際に使用する土砂のs率(細粒分含有率)に応じて適切に設定することにより(たとえば、後述するようにs率が5〜15%の場合においてはa値を1.35以上1.60未満とすることにより)、ペーストによる土砂粒子どうしの付着結合力を確保することができる。すなわち、粒子径が2.5mm以下の土砂粒子は、ペーストと混合されて、粒子径が2.5mm以上の土砂粒子を覆って粒子径が2.5mm以上の土砂粒子どうしを付着させることができるため、上記の配合により確実に粒子径が2.5mm以上の土砂粒子どうしを付着させることができるとともに、土砂にペーストを過剰に添加することを防止することができる。
【0043】
以下、本発明において用いる埋立用混合材料の配合に当たって、a値をs率に応じて適切に設定するための手法について説明する。
本発明においてはa値の適切な値がs率に依存するため、s率をある範囲ごとに区分してそれぞれの範囲において最適なa値を決定するための試験を実施した。
すなわち、表1に示すように、s率を5〜15%(5%超15%未満)、15〜25%(15%超25%未満)、25〜35%(25%超35%未満)の3段階に区分し、それぞれの範囲においてVC値を適正範囲(VC値=10〜50)とするために必要となるa値を決定する。
具体的には、s率=5〜15%の場合の代表値としてのs率=9%の場合について、a値=1.2、1.4、1.6とした3パターンの配合(1)〜(3)を設定し、それぞれの場合についてVC値と湿潤密度を測定して、その結果から最適なa値を決定する。
同様に、s率=15〜25%の場合の代表値としてのs率=20%の場合について、a値=0.8、0.9、1.0とした3パターンの配合(1)〜(3)を設定し、また、s率=25〜35%の場合の代表値としてのs率=30%の場合について、a値=0.4、0.6、0.65、0.7とした4パターンの配合(1)〜(4)を設定し、それぞれについてVC値と湿潤密度を測定し、最適なa値を決定する。
上記の各配合例に対する試験結果を表1に一覧として示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記の試験およびその結果について、s率=9%の場合を例にとって詳細に説明する。
ここでは、最大粒子径80mmの土砂(骨材)を用いて試験体を作成して、最大粒子径80mmにおける粒子径が2.5mm以下の土砂に対する水と安定材と分離防止剤からなるペースト(セメントペースト)の質量比(ペースト質量比:a値)とVC値との関係、a値と湿潤密度との関係を求める。
さらに、a値と一軸圧縮強度との関係、a値と埋立用混合材料を締め固めたときの土砂空隙に対する水とセメントと分離防止剤からなるセメントペーストの容積比率(Rpv)との関係についても求める。
【0046】
試験に用いた土砂の比重は2.69であり、この土砂中の粒子径が2.5mm以下の土砂粒子の全体に対する質量比率(すなわち細粒分含有率)は9%(s率=9%)である。
水と安定材(セメント)と分離防止剤の配合割合を種々変えた3パターンの埋立用混合材料の配合を以下の表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
上記配合では、いずれも、安定材(C)に対する水(W)の質量比は0.9で、水(W)に対する分離防止剤(S)の質量比は0.007である。配合(1)、配合(2)、配合(3)では、水と安定材と分離防止剤からなるペーストの各構成材料間の配合比率は変えずに、土砂40kgに対して混合するペースト量を変えたものである。
そして、配合(1)に対応するa値は1.2であり、配合(2)に対応するa値は1.4であり、配合(3)に対応するa値は1.6である。
【0049】
上記配合でコンクリート標準示方書に記載のRCD用コンクリートのコンシステンシー試験(JSCE―F507−2007)を行いVC値を求めた。
その結果は、表1,表2、図2に示すように、配合(1)に対応するVC値は106.5秒であり、配合(2)に対応するVC値は46.4秒であり、配合(3)に対応するVC値は62.3秒であった。但し、配合(3)に対応するVC値が62.3秒との結果はバラつきであると思われる。a値が大きくなるとペースト量が多くなり、必然的に土砂の空隙が満たされる割合が高くなるので、実際には図中に破線で示したように少なくとも配合(2)(a値=1.4)の場合と同等ないしそれ以下になるはずである。
したがって、図1より、a値が1.35以上1.6未満のときにVC値が適正範囲である10〜50秒の範囲になると考えられる。
そして、図3に示すように、その時の湿潤密度は、それぞれ、2.353g/cm3、2.414g/cm3、2.366g/cm3であった。これより、a値が1.4の配合(2)のときに、湿潤密度が最大となることがわかる。
以上の結果から、s率=9%に代表されるs率5〜15%の場合には、a値=1.4であることが最適であると考えられる。
【0050】
また、上記配合(1)〜(3)の埋立用混合材料について40mmふるいにかけてそれを通過した材料について、図4に示す水槽内落下法により作成した供試体を28日間養生し、一軸圧縮強度試験を実施した。
図5に示すように、配合(1)に対応する強度は1,398kN/mであり、配合(2)に対応する強度は1,504kN/mであり、配合(3)に対応する強度は448kN/mであった。これより、a値が1.4の配合(2)のときに、一軸圧縮強度が最大となることがわかる。
【0051】
ここで、材齢28日における一軸圧縮強度の液状化防止等の耐震補強強度の目標値500kN/m2 と設定すると、a値が1.59以下のときにこの目標値に達していることがわかる。このことから、a値=1.59≒1.60未満のときに一軸圧縮強度が500kN/m2 以上となり、本実施形態ではa値を1.60未満と設定している。
以上のように、s率が9%(5〜15%)の場合においては、a値を1.35以上1.60未満とすることで、密度が高く、強度の高い埋立地盤を造成することができる。
【0052】
さらに、最大粒子径80mmの土砂を最大限締め固めたときの土砂の実績率(土砂のかさ容積に対する土砂の実質部分の容積の比率)は0.788であることから、各配合による埋立用混合材料を締め固めたときの土砂空隙に対する水と安定材と分離防止剤からなるセメントペーストの容積比率(Rpv)を求めた。なお、セメント比重は3.04とした。
図6に示すように、配合(1)に対応するRpvは0.7であり、配合(2)に対応するRpvは0.82であり、配合(3)に対応するRpvは0.93であった。
【0053】
ここで、Rpvが1.0以下であれば、添加されたペーストの容積が土砂の空隙容積を超えてペーストが余剰することがないため、a値が1.70以下であれば、Rpvが1.0以下となることがわかる。そして、本実施形態では、a値を1.60未満と設定しているため、いずれの試験体もRpvは、1.0以下となり、余剰ペーストが生じていないことがわかった。
このことから、s率が9%(5%〜15%)の場合には、Rpv=1.0以下であることが、本発明における埋立用混合材料もしくは埋立工法の特徴の一つとなる。また、Rpv=0.93未満であり、さらにはRpv=0.79以上であることが好ましい(a値1.35以上、a値1.6未満から推定)。
なお、土砂(B)に対する水(W)の質量比であるが、配合(1)から(3)では0.05〜0.07となっており、また安定材(C)に対する水(W)の好ましい質量比は0.7〜1.5の範囲であることを考慮すると、土砂(B)に対する水(W)の好ましい質量比は0.04〜0.11の範囲と推定される。
【0054】
s率が15〜25%の場合については、s率=20%を代表値として同様の試験を行った結果を表1および図7に示す。この場合は、図7(a)に示される結果から、VC値を適正範囲であるVC=10〜50とするためにはa値を概ね0.85〜0.95の範囲とし、かつ図7(b)に示される結果から湿潤密度が最大になるa=0.9が最適であると決定することができる。
同様に、s率が25〜35%の場合については、s率=30%を代表値として同様の試験を行った結果を表1および図8に示す。この場合は、図8(a)に示される結果から、VC値を適正範囲であるVC=10〜50とするためにはa値を概ね0.6〜0.7の範囲とし、かつ図8(b)に示される結果から湿潤密度が最大になるa=0.65が最適であると決定することができる。
なお、s率が15〜25%の場合、s率が25〜35%の場合については、Rpvの値は1以上となる場合もあるが、いずれも十分な圧縮強度が確保できることが確認された。
【0055】
以上の結果を図9にまとめて示す。図9から、VC値を適正範囲であるVC=10〜50とするための条件としてのa値はs率に依存するものであって、それらの間には明確な相関があることが分かる。
したがって本発明の実施に際しては、実際に使用する土砂におけるs率(2.5mm以下の細粒分の含有率)を測定し、それに応じて図9に示すような関係を目安にしてa値の範囲を設定し、さらにその範囲内で湿潤密度が最大になるa値を最適として決定すれば良い。
【0056】
以上、本発明による埋立工程の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施
形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径礫を含む土砂に安定材、分離防止剤および水を添加して混合した埋立用混合材料を水中に投下し、
水中に投下された前記埋立用混合材料を一定の層厚ごとに締め固めることを特徴とする埋立工法。
【請求項2】
前記分離防止剤は、凝集沈降時間試験における凝集沈降時間が80秒以上である水溶性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の埋立工法。
【請求項3】
前記埋立用混合材料は、VC値が10秒以上50秒以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の埋立工法。
【請求項4】
前記埋立用混合材料は、前記土砂に含まれる粒子径が2.5mm以下の細粒分含有率に応じて、前記安定材、前記分離防止剤および前記水からなるペースト質量比が決定されることを特徴とする請求項3に記載の埋立工法。
【請求項5】
前記埋立用混合材料は、前記細粒分含有率が増大すると前記ペースト質量比を下げるように決定されることを特徴とする請求項4に記載の埋立工法。
【請求項6】
前記細粒分含有率が5%超15%以下の場合において、前記ペースト質量比が1.35以上1.60未満の範囲内とされ、
前記細粒分含有率が15%超25%以下の場合において、前記ペースト質量比が0.85以上0.95未満の範囲内とされ、
前記細粒分含有率が25%超35%以下の場合において、前記ペースト質量比が0.6以上0.7未満の範囲内とされることを特徴とする請求項5に記載の埋立工法。
【請求項7】
前記ペースト質量比が、前記細粒分含有率に対応するそれぞれの範囲内において前記埋立用混合材料の湿潤密度が最大となるように決定されることを特徴とする請求項6に記載の埋立工法。
【請求項8】
前記埋立用混合材料は、前記安定材に対する前記水の質量比が、0.7以上1.5以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の埋立工法。
【請求項9】
前記埋立用混合材料は、前記水に対する前記分離防止剤の質量比が、0.003以上0.020以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の埋立工法。
【請求項10】
埋立のために水中に投下される埋立用混合材料において、
大径礫を含む土砂と、安定材と、分離防止剤と、水とが混合されていることを特徴とする埋立用混合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−36323(P2013−36323A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155652(P2012−155652)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000172961)あおみ建設株式会社 (21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)