説明

埋設型ひずみ計

【課題】 コンクリートおよびコンクリート構造物の変位を把握する防水性・耐水性に優れた埋設型ひずみ計を提供することを目的とする。
【解決手段】合成樹脂製の円柱状部材からなる本体部を底面の円中心を含む軸方向に削孔して、円柱状又は円錐状の空隙を設けて空洞部とし、前記空洞部の開放部からひずみセンサを挿入し、前記空洞部の開放部を前記合成樹脂と付着する接着剤または封入材で封入したことを特徴とするコンクリート埋設型ひずみ計、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートや構造物の変位・変形を把握するために用いられる埋設型ひずみ計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに埋設して変位や変形を把握するひずみ計測器は、従来、中空筒状となるように、複数の部品を組み合わせて、内部に複雑な機械的構造を有するひずみ計や、半割りの樹脂製部材でセンサを挟みこみ接着剤で張り合わせたひずみ計が使用されていた。
【非特許文献1】2007−2008 製品総合カタログ 株式会社東京測器研究所
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、中空筒状で内部に機械的構造を有するひずみ計は、構造が複雑で且つ寸法も大きくなるため高価であった。また、半割りの樹脂製部材でセンサを挟みこみ接着剤で張り合わせたひずみ計は半割り構造となっていたため、長期的な使用において接着部からの浸水により、防水性・耐水性に問題が生じていた。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みて、コンクリートおよびコンクリート構造物の変位を把握する防水性・耐水性に優れた埋設型ひずみ計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
合成樹脂製の円柱状部材からなる本体部を底面の円中心を含む軸方向に削孔して、円柱状又は円錐状の空隙を設けて空洞部とし、前記空洞部の開放部からひずみセンサを挿入し、前記空洞部の開放部を前記合成樹脂と付着する接着剤または封入材で封入したことを特徴とするコンクリート埋設型ひずみ計。
【0006】
前記合成樹脂が、吸水率が0.5%以下で、引張強さが10MPa以上であり、且つ、弾性率が7000MPa以下である材質から選ばれたものであり、円柱状又は円錐状の空隙の先端が開放部より狭隘であることを特徴とするコンクリート埋設型ひずみ計、を提供する。
【0007】
更に、前記合成樹脂が、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアセタール(POM)、超高分子量―ポリエチレン(UHMW−PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポロプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)のいずれから選ばれたものであり、円柱状又は円錐状の空隙の先端が開放部より狭隘であることを特徴とするコンクリート埋設型ひずみ計、を提供する。
【0008】
前記合成樹脂と付着する前記接着剤または封入材が、シリコーン系の変性ポリマーを主成分とした二液混合型・常温硬化性接着剤、あるいはエポキシ系の変成樹脂を主成分とした二液混合型・硬化性接着剤であることを特徴とするコンクリート埋設型ひずみ計、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂部材に削孔してセンサを封入するため、防水性・耐水性が向上し、中空円筒状の機械的構造を有するひずみ計と比較し、小型化・低価格化が可能となった。これにより、ひずみ計の設置場所や個数に関する自由度の向上や、設置作業・工程の短縮が計れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の埋設型ひずみ計は、樹脂製の円筒状部材で、軸方向に削孔してセンサを封入するため、防水性の弱点となりやすい接着層を大幅に少なくすることができ、良好な防水性・耐水性を付与することが可能となる。
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1、図2は本発明の実施例を示す埋設ひずみ計である。埋設ひずみ計は、その本体部10、空洞部20、及びひずみゲージ30を模式的に示す図である。寸法が記載されているが、例示であって、この寸法に実施例が限定されるものではない。
【0012】
本体部10は、ひずみゲージ30を内包して、これを保護して、コンクリートのひずみに追随しながら、ひずみゲージにひずみとこれに伴う応力を伝達し、ひずみゲージをアルカリ性で水分を含有するコンクリートの環境から、完全に遮断して保持する必要がある。本体部10は、底面が10mm直径の円であり、設置対象となるコンクリートに使用されている骨材の最大寸法の3倍程度の長さを有する円柱状とする。前記骨材の最大寸法が25mmのコンクリートに使用する場合、前記円柱の長さは75mm以上の円柱を用いる。本体部10には、空洞部20を削孔により設けることができる。また、金型を使用して本体部を製造する場合には、予め空洞部を設けることにより、一体的に製造することもできる。図1は、空洞部20が底面の円の半径の異なる3つの円柱を組み合わせた形状となるケースである。図2は、空洞部20が、底面の円の半径が異なる2つの円錐を組み合わせた形状となるケースである。
【0013】
本体部10の空洞部20は、前記本体部10を切削加工、ドリル加工等して形成する。円柱状の空洞部を作成するときは、先ず、例えば、本体部の一端より2mmφで深さ65mmの円柱状の空隙を形成し、ついで、一端から30mmの深さまでを、4mmφの空隙に拡大し、更に、一端から20mmの深さまでは、6mmφの空洞部に拡大する。こうして、段差が二つある3段階深さを有する空洞部20が形成できる。また、金型を使用して本体部を製造する場合には、前記の形状を予め空洞部として設けることにより、一体的に製造することもできる。空洞部20に段差があることが必須ではないが、ひずみゲージ30の長さ、ひずみゲージ30から引き出される接続銅線の長さ、リード線40の径に対応させて1段以上、好ましくは2段以上設けることが好ましい。これは、内包するこれら材料に対応した径とすることで、液状接着剤の量を減じてひずみゲージ30へのリード線40側からの吸水を防ぐだけでなく、コンクリートの変位・変形で生じる本埋設型ひずみ計自体の変形に対して、本体部と硬化後の液状接着剤との界面が脆弱となり水分伝達経路となった場合においても、段差による水分伝達経路の変化と距離延長の効果によってコンクリート中のアルカリ水からひずみゲージ30を保護し、耐久性を向上させることが可能となる。
【0014】
本体部10には、その両端または、両端近部に、鍔状のフランジ11を設けることが望ましい。本体部10の両端または両端近傍に設けたフランジによって、本体部とコンクリートに機械的な噛み合わせを持たせることができ、コンクリート中の骨材が変形におよぼす局所的な影響を防止し、本体部10が本来受けるべきひずみが正確に反映されない問題を解決し、コンクリートの挙動に本体部10が正確に追従して計測できる利点がある。これは、ひずみ計に密着した部分により本来の変形が妨げられるからである。
【0015】
本体部10の材質は、いわゆるエンジニアリングプラスチックと称されるものが望ましく、そのなかでも、吸水率が0.5%未満で、耐アルカリ性が高く、適度な強度と弾性率を有するものが好ましい。強度としては、引張り強さとして10MPa以上、弾性率として7000MPa以下であることが好ましい。吸水率が0.5%を超えると、樹脂の寸法安定性が低下したり、防水性や耐水性が低下するという不都合がある。また、引張り強さが、10MPa未満では、計測対象であるコンクリートの強度を下回る場合があるため、設置部位によっては計測器が変形したり亀裂が生じるという不都合がある。更に弾性率として7000MPaを超えると、樹脂の変形割合が小さくなるため、コンクリート種類によっては、計測対象であるコンクリートの変形を拘束するという不都合を生ずる場合がある。一方、弾性率の下限値は特に制限されないが、2000MPa以上であることがよい。2000MPaより低い場合はコンクリート打設時に変形が生じ、計測されるひずみの直線性が保てなくなるという問題が生じることがある。前記合成樹脂として、特に、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアセタール(POM)、超高分子量―ポリエチレン(UHMW−PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)は適している。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルファイド(PPS)は耐アルカリ、耐水性で特に好ましい。また、汎用性樹脂のなかでも、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポロプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)は、耐アルカリ性、耐水性に優れており、好ましい。これら材料は必要に応じてフィラーを添加し、弾性率を前述の範囲に調整して用いてもよい。
【0016】
ひずみゲージ30は、プリント基板とブリッジ配線をしたひずみ回路とから構成されるひずみ検出部、必要に応じて支持体を有する。電気信号は、リード線で導かれるか、無線タイプのデバイスによって発信できる。外部リード線とのコネクタ部分は、ひずみ計の一端に設けられるのが通常である。例えば、縦長のひずみゲージ30を、前記3段階深さを有する空洞部20に、その長さ方向から挿入する。外部リード線とのコネクタ部分は、ひずみ検出部分に比較して大きくなるので、これを開放部付近に配置できる。空洞部が、先端が狭く、開放部が広いと挿入がスムーズであり、ひずみゲージ30の挿入後の空洞部が小空間となる。
【0017】
前記ひずみゲージ30の挿入後の空洞部に残された小空間を、液状接着剤を流し込んで封入する。液状接着剤は、例えばシリコーン系の変性ポリマーを主成分とした二液混合型・常温硬化性接着剤を用いる。その硬化体は、剥離接着強さが大きく、耐アルカリ性、耐水性に優れ封入接着剤として好ましい。剥離接着強さが大きく、耐アルカリ性、耐水性を満たせば、接着剤は特に限定されないが、硬化後の弾性率としては本体部の弾性率と同等以下で、かつ用いるひずみゲージを成型しているベース材料であるポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂より高い弾性率がよい。これはコンクリート変形が大きい場合に生じるひずみ計本体の大きなひずみに対しても破損することなく、ひずみゲージの応力追随性を残しながら空洞部に保持することが出来る。より具体的には硬化後の液状接着剤の弾性率は本体部の弾性率より2000MPa以上低く、かつ、用いるひずみゲージ30を成型しているベース材料の樹脂より高い弾性率を有することがより好ましい。これにより、コンクリートに生じた変位・変形は円滑かつ直線性を保ちながらひずみゲージ30に伝達され、安定かつ高い精度でひずみを計測することが可能となる。
【0018】
以下、具体的な例について説明する。
【0019】
埋設ひずみ計は、本体部10及び鍔状のフランジ11を一体的に成型するものとし、素材として熱可塑性樹脂であるPPSを用いて、前記形状が一体的に加工された金型を用いて製造する。つぎに、PPS樹脂を加熱成型することにより得られたひずみ計本体に、階段円柱状の空洞部20を旋盤で削孔して形成する。つぎに、削孔部内面を清掃し、ひずみゲージ30を挿入してPPS樹脂と接着性の高い2液系のシリコーン系変成ポリマー接着剤を空洞部に充填し、ひずみ計本体部10とひずみゲージ30を接着するとともに、これを封入して、一体化する。この際、本体の一部に挿入されたひずみゲージ30のリード線部も封入することにより、本体部10とリード線との間に生じる空隙およびリード線内部の空隙も一体的に封入させ、外部からの水分の浸入経路を遮断する。更に、図3に示す通り、リード線40と本体部10との境界部を、防水性が高く、ガス透過率の低い塑性変形するゴム粘着材50で被覆し、前記部位に、機械的保護を目的として弾性変形するゴムキャップ60をはめ込んで製造を完了する。なお、前記の塑性変形するゴムには、塑性変形し、且つ耐水性および防水性の高いブチルゴムやスチレンゴムなどが適している。また、機械的保護を目的とした弾性変形するゴムには、弾性変形し、且つ強度および耐候性の高いクロロプレンゴムやエチレンプロピレンゴムなどが適している。
【0020】
構造物の設計図面から、コンクリート型枠、鉄筋組立てを行なう。図4は、ひずみ計設置位置、取付け角度を決定し、金属線やビニール線等の紐でひずみ計を鉄筋に固定した例である。また、図5に示すように、取付けの際に金属製の取付け治具を用いてもよい。この際、コンクリートの流し込み(打設)時に位置がずれないように固定する。従来のひずみ計では、価格が高いこと、および寸法が大きいことから、構造物中へのひずみ計の設置個数や設置位置が限定されたりする問題が生ずるが、本発明におけるひずみ計では、コンクリート構造物への設置個数や設置位置の自由度が高くなる。また、従来に比べて、ひずみ計の寸法を小さくできることから、コンクリート構造物への影響も小さくなる。
【0021】
ひずみ計のケーブルを配線して型枠の外に配線ケーブルを出す。コンクリートを型枠に打設する。
【0022】
コンクリートの硬化を待って型枠を取り外し、(設計によって数日〜数ヶ月)、ひずみゲージを内包したひずみ計に接続されたコードを、ひずみ計測機器(データロガー)に接続する。通常、型枠を取り外した直後にイニシャル値となるひずみのデータを取得する。
型枠の取り外し前後にイニシャル値となるひずみのデータを取得する。
【0023】
コンクリートとひずみ計は機械的噛み合わせ等によって同一の挙動となるため、コンクリートの変位・変形に伴って、ゲージが伸縮し電気抵抗に変化が生ずる。この抵抗変化を計測機器で増幅して採取し、ひずみ値として収録する。
測定は、計測機器を現場に置いたまま連続して行い隔所でデータ取得するか、一定期間、現地に行って測定することもある。
【0024】
構造物にかかる外力(例えば地盤沈下や地震など)によって、コンクリート構造物が変形する場合には、設置部位毎の応力に対するひずみが発生する。この際、コンクリートの強度を超えるひずみが生じると、「ひび割れ」等が生ずる。そのため、「ひずみ」は構造物の状態を把握するための重要な因子ということができる。例えば、地震発生後に構造物のひずみを測定することにより、構造物の状態を把握することができるため、復旧の際に有益な情報として役立つ。
【0025】
一方、コンクリートの乾燥収縮やクリープといったコンクリート自体の物性に起因する変形を見る場合は、所定の期間、ひずみの測定を行って、構造物の維持管理に役立てる。
【0026】
図6に、ひずみ計測機器(データロガー)の測定チャートを示す。測定チャートは、コンクリート構造物のひずみを測定した結果であり、ひずみ計の設置部位が収縮側に変形していると判断できる。その収縮が、施工後、50日程度で、小さくなることが、定量的に把握できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のコンクリート構造物の変位を把握するひずみ計により、コンクリートおよび応力状態が複雑なコンクリート構造内部のひずみの測定に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例を示す埋設ひずみ計を模式的に示す図である。
【図2】本発明の別の実施例を示す埋設ひずみ計を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施例を示すひずみ計の製造について説明する図である。
【図4】ひずみ計を紐で鉄筋に取付け時の構造を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施例を示すひずみ計取付け治具を鉄筋に取付け時の構造を模式的に示す図である。
【図6】本発明の取付け構造によるひずみチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10:ひずみ計本体部
11、12:フランジ
20a、20b:空洞部
30:ひずみゲージ
40:リード線
50:ゴム粘着材
60:ゴムキャップ
100、200:ひずみ計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の円柱状部材からなる本体部を底面の円中心を含む軸方向に削孔して、円柱状又は円錐状の空隙を設けて空洞部とし、前記空洞部の開放部からひずみセンサを挿入し、前記空洞部の開放部を前記合成樹脂と付着する接着剤または封入材で封入したことを特徴とするコンクリート埋設型ひずみ計。
【請求項2】
前記合成樹脂が、吸水率が0.5%以下で、引張強さが10MPa以上であり、且つ、弾性率が7000MPa以下である材質から選ばれたものであり、円柱状又は円錐状の空隙の先端が開放部より狭隘であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート埋設型ひずみ計。
【請求項3】
前記合成樹脂が、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアセタール(POM)、超高分子量―ポリエチレン(UHMW−PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポロプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)のいずれから選ばれたものであり、円柱状又は円錐状の空隙の先端が開放部より狭隘であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のコンクリート埋設型ひずみ計。
【請求項4】
前記合成樹脂と付着する前記接着剤または封入材が、シリコーン系の変性ポリマーを主成分とした二液混合型・常温硬化性接着剤、あるいはエポキシ系の変成樹脂を主成分とした二液混合型・硬化性接着剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリート埋設型ひずみ計。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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