説明

培地源

【課題】菜種ミールを利用した菌等の発育に適した培地源及びその培地源を含む培地を提供する。
【解決手段】菜種ミールを120メッシュよりも粗いメッシュ、より好ましくは8〜100メッシュ、さらに好ましくは32〜60メッシュの篩いで篩うことにより得られる菜種ミールを有効成分とする菌等の培地源およびその培地源を含む培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菌の生育が良好な培地源およびそれを利用した培地に関する。
【背景技術】
【0002】
菌の培養に用いる培地には、窒素、炭水化物、ミネラルなどの栄養素を用途に適した量を配合して作成され、その栄養源は農産物やその加工品、抽出精製品、合成品、食品残渣など多岐に渡る。特に窒素に関しては蛋白質や核酸を構成するのに必須な成分であり、ほとんど全ての菌が生育のために必須としているにもかかわらず、これを豊富に含む培地素材はそれほど多くはない。例えば一般的な微生物培養に用いる窒素栄養源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、ホエー、カザミノ酸、カシトン、ソイトン、各種アミノ酸、動物血液、尿素、アンモニウム塩、などが多く利用され、食品生産場面においてはヨーグルトにおける牛乳、しょうゆや味噌、納豆における大豆なども窒素源となる。
【0003】
一方で家畜に対する窒素栄養源としては、最も使用量が多い大豆ミール、2番目に多い菜種ミールが大半を占め、コーングルテンミール、魚粉、肉骨粉、脱脂粉乳、乾燥ホエーなどがこれらに続く。先に述べたとおり、菌の培養においては様々な窒素源が利用されているが、飼料として使用率が高い菜種ミールについては利用が少ない。理由は、食品分野においては菜種ミールを発酵させた食品が存在しないこともある。しかしながら何よりも、菜種ミール自体が菌の生育に適さず、窒素源として培地に利用しようとしても菌が成長あるいは増殖しにくいという問題点があった。
【0004】
また、この菜種ミールの成分の改善に関しては、特許第3970917号において、特定のメッシュのふるいで篩うことにより窒素含量を調整する方法が開示されている。しかし、培地への効果については全く記載がされていない。菜種ミールはそもそも窒素が豊富に含まれており、培地として利用されにくかった問題点は、窒素含量が調節されることによって解決されるものではない。
【特許文献1】特許第3970917号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、豊富な窒素を含んでいるにもかかわらず、窒素源として菌等の成長しにくい、あるいは増殖しにくい菜種ミールの問題点に鑑みて、菜種ミールを利用した菌等の発育に適した培地源及びその培地源を含む培地を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、菜種ミールを分画して得られる各画分が菌の増殖に優れることを見出し、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
豊富な窒素を含んでいるにもかかわらず、菌等の培地源として利用されにくかった菜種ミールを菌等の発育に適した培地源及びその培地源を含む培地として有効に利用できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書における篩の規格としては、Tyler標準篩を採用する。本明細書記載のメッシュとは、例えば、32メッシュは目開き0.5mm、60メッシュは目開き0.25mmである。また、例えば、50メッシュ篩上画分とは、50メッシュの篩で篩分けした後に篩に残った成分のことであり、一方50メッシュ篩下画分とは篩に残らなかった成分のことであり、32〜50メッシュ篩画分とは、32メッシュの篩で篩分けした後に篩に残らず、かつ、50メッシュの篩で篩分けした後に篩に残った成分のことである。
【0009】
菜種ミールを120メッシュよりも粗いメッシュ、より好ましくは8〜100メッシュ、さらに好ましくは32〜60メッシュの篩いで篩うことにより得られる菜種ミールを利用することで、菌の生育に優れた培地の作成が可能となる。菌の生育のために適した培地中の篩分け菜種ミールの配合割合は乾物換算で1〜99.5%である。配合量が1%よりも少ない場合には配合した効果が見られない場合があり、99.5%より多い場合には他の栄養素が不足する、あるいは菌の生育が阻害されるなどの弊害が起こる場合がある。
【0010】
本発明による培地源は、チーズ、納豆、ヨーグルト、漬物、サイレージなどに利用され乳酸菌や納豆菌などに代表される細菌や、パン、酒、きのこ、薬剤製造などに利用されるツボカビ門、子嚢菌門、担子菌門、接合菌門、不完全菌類、などあらゆる菌類の生育に適す。粒度の細かい篩下画分については、水分が10%〜70%程度の状態で加熱殺菌処理を行うとくっついて塊ができやすい性質があり、塊ができた状態では菌の生育能力が十分に発揮できないことがあるため、固形分重量に対する水分重量の比率が3倍以上となる培地に使用するとより良い生育が得られる。粒度の粗い篩上画分については、固形分重量に対する水分重量の比率が0.1〜5倍、好ましくは0.1〜3倍となる培地においても塊ができにくく、特に菌の生育が良い特徴を持ち、サイレージや菌床用途に好適である。
【実施例】
【0011】
以下に、実施例および比較例を用いて、本発明をより詳細に説明する。しかし、実施例の内容が本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
(菜種ミールの篩分け)
以下に示す実施例に記載のメッシュの篩に菜種粕((株)J-オイルミルズ製)を500g載せ、手作業にて10分間篩分けした。2種類以上の篩で篩分けする場合(例えば、「32〜50メッシュ篩画分」)、上部を目の粗いメッシュの篩になるよう積み上げて、最上部に菜種粕を載せ、同様におこなった。
【0013】
菜種ミールおよび、これの篩上画分、篩下画分を含む培地への菌の生育、ビタミンK2生産、ホスフォリパーゼD生産を比較する目的で、以下の操作を行った。
【0014】
(乳酸菌の培養)
日水製薬のGAMブイヨン培地を作成し、120℃、20分間滅菌処理した。この溶液10mlを120℃、20分間滅菌済みの通常菜種ミール、菜種ミール篩上画分、菜種ミール篩下画分の3種類各2gに添加してGAMブイヨン-菜種ミール培地を完成した。これにカスピ海ヨーグルト10μlを添加し、35℃にて48時間培養後、上清液の660nmの濁度を測定した。表1に示したとおり、乳酸菌の生育は菜種ミールの篩分け処理により優れたものとなった。特に篩下画分において顕著な生育向上が見られた。
【0015】
【表1】

【0016】
(納豆菌の培養)
ペプトン0.5%、酵母エキス0.25%、塩化ナトリウム0.25%の溶液を作成し、120℃、20分間滅菌処理した。この溶液10mlを120℃、20分間滅菌済みの通常菜種ミール、菜種ミール篩上画分、菜種ミール篩下画分の3種類各2gに添加して菜種ミール含有納豆菌培地を完成した。これに納豆菌培養液10μlを添加して35℃にて培養し、2日後の上清液の660nmの濁度を測定した。
納豆菌の培養結果を表2に示した。納豆菌の生育は、菜種ミールの篩分け処理により優れたものとなった。特に篩下画分において顕著な生育向上が見られた。
【0017】
【表2】

【0018】
(菌類の培養)
1リットル当たりにバレイショ抽出液100gとブドウ糖10gを含む栄養源溶液を作成した。次に通常菜種ミール、菜種ミールの50メッシュ篩上画分、菜種ミールの50メッシュ篩下画分の3種類をそれぞれ30g秤量し、これに先の栄養源溶液32mlを混ぜてポテトデキストロース-菜種ミール培地とし、120℃、20分間滅菌処理を行った。この滅菌済み培地約10gずつを直径約8.5cmの滅菌シャーレ5枚に小分けし、菌1.Cladosporium cladosporioides、菌2.Eurotium repens、菌3.Penicillium roquefortii、菌4.Flammulina velutipes、菌5.Phycomyces nitensの懸濁液1mlをまき、25℃にて培養を行った。1〜4については培養開始4日後、5については培養開始翌日の生育状況を観察した。結果を図1に示した。菌類の生育は、菜種ミールの篩分け処理により優れたものとなり、特に篩上画分において顕著な生育の向上が見られた。
【0019】
(固体培養による納豆菌のビタミンK2生産)
100gの通常菜種ミールおよび様々なメッシュサイズで篩い分けした菜種ミールを1%グリセリン含有水に浸漬後、蒸煮してから種菌(納豆菌胞子懸濁液1×108cell/ml;三浦菌)を散布し、37℃で発酵させた。発酵時間96時間とし、納豆菌によるビタミンK2(メナキノンー7)の生産量を文献(Sato et al.(2002) Br. J. Nutr. 87, 307-314)の方法に従い高速液体クロマトグラフィーで分析した。
その結果を表3に示した。固体培養での納豆菌によるビタミンK2生産は、菜種ミールを8〜100メッシュの篩で分画した篩上画分、32〜100メッシュの篩で分画した篩下画分で、菌の生育に比例して向上し、特に菜種ミール篩上画分が優れていることがわかった。120メッシュの篩下画分は十分な量が得られなかった。120メッシュ篩上画分と8メッシュ篩下画分は通常品と同等の効果となった。
【0020】
【表3】

【0021】
(液体培養による納豆菌のビタミンK2生産)
1L中の重量が、通常菜種ミール若しくは篩分けした菜種ミール30g、グリセロール50g、シュクロース10g、K2HPO40.2gとなるように作成した培地50mlを500ml容量の坂口フラスコにいれ、オートクレーブで滅菌後、種菌(納豆菌胞子懸濁液1×108cell/ml;三浦菌)1mlを加え、37℃にて、120 strokes/minの速度で振とう培養した。培養物のビタミンK2濃度の分析結果を表4に示した。振とう培養における納豆菌によるビタミンK2生産は、菜種ミールを32〜100メッシュの篩で分画することで向上した。120メッシュの篩下画分は十分な量が得られなかった。120メッシュ篩上画分と8メッシュ篩下画分は通常品と同等の効果となった。ビタミンK2生産は、菌の生育に比例しており、菜種ミール篩下画分が特に優れていることがわかった。
【0022】
【表4】

【0023】
(固体培養による放線菌のホスフォリパーゼD生産)
固体培養による放線菌のホスフォリパーゼD生産について調べた。放線菌は、Streptomyces lydicus D-121株とStreptomyces antibioticus S-170株(Shimbo et al. (1989) Agric. Biol. Chem. 53, 3083-3085)を使用した。100gの通常菜種ミールおよび様々なメッシュサイズで篩い分けした菜種ミールを0.5%グルコース含有水に浸漬後、蒸煮してから種菌(放線菌胞子懸濁液1×108cell/ml)を散布し、30℃で72時間静置培養した。培養後、培地10gを100mlの生理食塩水に懸濁し、1時間静置後の上澄み液のホスフォリパーゼD活性を、文献(Shimbo et al. (1989) Agric. Biol. Chem. 53, 3083-3085)の方法に従い分析した。ホスフォリパーゼD活性値は、培地1gあたりの活性で求めた(表5)。通常品と比べて、特に篩上画分において顕著にホスフォリパーゼD生産量が多くなった。120メッシュの篩下画分は十分な量が得られなかった。120メッシュ篩上画分と8メッシュ篩下画分は通常品と同等若しくはそれ以下の効果となった。このことから、固体培養での放線菌によるホスフォリパーゼD生産は菜種ミールを篩で分画することで向上することがわかった。ホスフォリパーゼDの生産は、菌の生育に比例しており、菜種ミール篩上画分が特に優れていた。
【0024】
【表5】

【0025】
(液体培養における放線菌のホスフォリパーゼD生産)
放線菌は、Streptomyces lydicus D-121株とStreptomyces antibioticus S-170株(Shimbo et al. (1989) Agric. Biol. Chem. 53, 3083-3085)を使用した。表6に示した組成の培地50mlを500ml容量の坂口フラスコにいれ、オートクレーブで滅菌後、放線菌種菌1mlを加え、30℃にて、170 strokes/minの速度で振とう培養した。文献(Shimbo et al. (1989) Agric. Biol. Chem. 53, 3083-3085)の方法により培地中のホスフォリパーゼD活性を測定した結果を表7に示した。振とう培養における放線菌Streptomyces lydicus D-121株およびStreptomyces antibioticus S-170株によるホスフォリパーゼD生産は、菜種ミールを32〜100メッシュの篩で分画することで向上した。120メッシュの篩下画分は十分な量が得られなかった。120メッシュ篩上画分と8メッシュ篩下画分は通常品と同等の効果となった。ホスフォリパーゼD生産は、菌の生育に比例しており、菜種ミール篩下画分が特に優れていることがわかった。
【0026】
【表6】

【0027】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】菌の生育状況を観察した結果をまとめたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種ミールを篩分けした画分を有効成分とする培地源。
【請求項2】
菜種ミールを篩分けした画分が32〜100メッシュの篩による篩下画分であることを特徴とする請求項1に記載の培地源。
【請求項3】
菜種ミールを篩分けした画分が120メッシュ未満の粗い篩による篩上画分であることを特徴とする請求項1に記載の培地源。
【請求項4】
請求項1に記載の培地源を含む培地。
【請求項5】
請求項2に記載の培地源を含む培地。
【請求項6】
請求項3に記載の培地源を含む培地。
【請求項7】
液体培地であることを特徴とする請求項4または5に記載の培地。
【請求項8】
固体培地であることを特徴とする請求項4または6に記載の培地。

【図1】
image rotate