説明

培養容器

【課題】生体細胞などの培養の作業において、被培養物の取り違いを防止でき、その作業効率を容易に向上させる培養容器を提供する。
【解決手段】培養容器10は容器本体11、蓋体12および識別表示体13を備える。容器本体11は平板状の底部11aと円筒状の側部11bが一体構造に形成される。蓋体12は容器本体11を施蓋する蓋天部12aと、容器本体11に嵌め合うように形成される蓋側壁部12bを備える。識別表示体13は容器本体11の側部11bを基部に延出した板状部材であり、容器本体11の横方向に伸びた第1平面部13a、上方向に屈曲した第2平面部13b、横方向に屈曲した第3平面部13c、下方向に屈曲した第4平面部13dからなる。この第3平面部13cおよび第4平面部13dに同じ識別記号14が付設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば生体細胞、生物組織片、微生物などの培養の作業において、被培養物の取り違いを防止すると共にその作業効率を向上させる培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞等の培養は、被培養物の収容された例えばシャーレ等の培養容器を用い、一般にいわゆるインキュベータといわれる所定の温度、雰囲気ガスに制御されたチャンバー内に上記培養容器が載置されて行われる。そして、適宜にインキュベータから培養容器が取り出され、その被培養物の光学顕微鏡を用いる観察あるいは培養状態の検査・記録が行われる。また、被培養物が増殖した場合に、再度、被培養物が、適度な濃度になるように、新たな培養容器に播きなおす「植え継ぎ」と言われる作業や、その他に上記培養容器の移動のための運搬あるいは保管等の作業がある。
【0003】
従来、上記培養容器として例えばシャーレのように高い光透過性の平板状の底部と筒状の側部を有する容器本体、この本体を上方から施蓋する蓋体とからなる容器が用いられる。ここで、蓋体はその閉蓋状態において容器本体を密閉しないようなに隙間を生じ、容器本体の培地がこの隙間を通してインキュベータ内の雰囲気ガスに通気する構造になっている。このような培養容器としては、その他に、複数の囲繞部が例えばマトリクス状に配置されてなるマイクロプレートや、マルチウェルプレート等と呼称される容器がある。以下、このような培養容器を従来細胞培養容器と呼称する。
【0004】
ところで、生殖医療や再生医療における対象細胞の培養にあっては、その作業において被培養物の取り違いを皆無にすることが必須になる。これまで大学や企業の研究室等では、従来細胞培養容器の主に蓋体の上面(蓋天面)への、例えば文字、数字等の記号のマジックインキなどを使った書き込み、あるいはその記号マークのラベル貼付による識別記号表示が多用されてきた。しかし、この場合、複数個の培養容器を取り扱うようになると、作業の中で、蓋を正しい組み合わせではない別の本体に組み合わせてしまう虞が生じ、表示された内容と、本体内部が異なる状態となり、取り違いが発生する。一方で、このようなことが生じないよう、蓋天面及び本体側壁外側面の両方、もしくは、本体側壁外側面のみに、前記のような識別のための表示をする場合もあるが、本体側部外側面は、通常、閉蓋状態において、蓋体によって、およそ1/2〜2/3程度の領域が、蓋体によって覆われてしまうため、識別表示できる領域が狭く、故に、書込み、ラベル等の貼付、また表示内容の視認など、それぞれが困難であった。また、数が多くなることにより表記の手間と時間が増えて作業性が低下する。
【0005】
そこで、容器本体の側部が円筒状のシャーレにおいて、その一部が平坦に成形され、その領域に識別コード表示ができる構造の培養容器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、この例では、識別コードとして、いわゆるバーコード、田字形の升目の塗り分けの組み合わせを用いたコードなどの特殊表示コードが用いられる。あるいは、近時においては、アンテナ、送受信器、CPU、メモリ、電源等を備えたICタグを培養容器の側部に付設することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
確かに、上記識別コードあるいはICタグを付した培養容器は、その付設に要する領域を小さくでき、また確立され定まった培養における作業管理を自動化する上では有用である。しかしながら、これ等の場合、識別コードあるいはICタグの専用の読み取り機を通した識別が必須になり、それと共にその読み取り方向が一方に限定されてしまう虞がある。例えば、インキュベータに載置され被培養物の培養下にある培養容器の識別コード等の横方向での読み取りが可能であっても、その培地の光学顕微鏡を用いた観察等の作業下において、その識別コード等の上方向(縦方向)での識別が困難になる。このような不都合は、他の上記培養容器の運搬あるいは保管等の作業においても同様に生じ、培養作業が確定していない場合には作業の融通性に欠けその使い勝手を悪くして、逆に作業効率を低下させる。
【0007】
その他に、培養容器の本体の底部あるいは側部に文字および数字からなる識別記号が付設された従来細胞培養容器が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この容器本体の底部に識別記号を付す場合、上記光学顕微鏡による目視観察あるいは検査の作業において、被培養物への可視光の投射がその識別記号により阻害され培養状態の把握に支障をきたす不具合が生じる。また、円筒状になる容器本体の側部に識別記号を付す場合、その本体の閉蓋状態において本体側部の1/2〜2/3の領域が蓋体により蔽われるために、付設する記号の大きさを小さくしなければならず識別記号の視認が難しくなる。
【0008】
また、従来の従来細胞培養容器にあっては、培養作業において、閉蓋状態の培養容器のハンドリングにおいて、内容物がこぼれないように、また、雑菌などの混入がないようにするなど、細心の注意が必要になり、その作業効率の向上に限界が生じていた。これは、例えば培養容器の移動を伴う作業において、もともと施蓋が自在に形成されている蓋体とその容器本体の両方を把持して取り扱わなければならないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭64−34999号公報
【特許文献2】特開2006−4299号公報
【特許文献3】登録実用新案第3087875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、培養容器において、被培養物の取り違いが簡便に防止できると共にその培養作業でのハンドリングが容易になる培養容器を提供することを目的とする。そして、培養作業における作業効率を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明にかかる培養容器は、被培養物を収容する培養容器であって、その底部が平板状でありその側部が筒状になり上方向に開いた容器本体と、前記容器本体を上方向から閉蓋する蓋体と、前記容器本体の側部から延出し、前記容器本体に対し横方向に伸びる平板状の横方向延伸部分および前記容器本体に対し上下方向に伸びる平板状の縦方向延伸部分を備えた識別表示体と、を有し、前記横方向延伸部分と縦方向延伸部分とに識別記号が付設可能になっている。
【0012】
あるいは、本発明にかかる培養容器は、被培養物を収容する培養容器であって、その底部が平板状でありその側部が筒状になり上方向に開いた容器本体と、前記容器本体を上方向から閉蓋する蓋体と、前記容器本体の側部から延出する第1の平面部、該第1の平面部に連なり上方部に延伸する第2の平面部、該第2の平面部に連なり斜め下方向に延伸する第5の平面部を備えた識別表示体と、を有し、前記容器本体に対し横方向および上方向から視認される識別記号が前記第5の平面部に付設されるようになっている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成により、培養容器において、被培養物の取り違いが簡便に防止できると共に、その培養作業で、培養容器の識別表示体でハンドリングすることにより、蓋体とその容器本体の両方を把持して取り扱う必要がなくなり、操作が容易になる。そして、培養における作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる培養容器の一例を閉蓋状態のもとに示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X矢視断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかる培養容器の他例を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかる培養容器の別の他例を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態にかかる培養容器の更に別の他例を示す一部平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる培養容器の一例を閉蓋状態のもとに示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のY−Y矢視断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態にかかる培養容器を複数に縦積みした状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好適な実施形態のいくつかについて図面を参照して説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は一部省略される。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかる培養容器について図1を参照して説明する。ここで、図1は本実施形態にかかる培養容器の一例を閉蓋状態のもとに示す図であり、(a)はその平面図、(b)は(a)のX−X矢視の断面図である。
【0017】
図1に示すように、この培養容器10は、通常の細胞培養用シャーレに識別記号を表記できる識別表示体が取り付けられた構造を有し、容器本体11、蓋体12、識別表示体13を備えて構成される。
【0018】
容器本体11は、上方に開いた有底円筒状の部材からなり、その平板状の底部11aと円筒状の側部11bが例えばポリスチレンなどの透光性に優れた合成樹脂により一体構造に形成されている。ここで、細胞等、被培養物(図示せず)は、底部11aの内底面111aに、例えば、液体培地と共に収容されるようになっている。また、底部11aの外底面112aは環状の高台112bを設けて凹陥状になっており、詳細は第2の実施形態で説明するように、蓋体12の肩に環状の高台121bを設けて凹状の蓋天面121aの内側に環状の高台112bが嵌合するようになっている。
【0019】
蓋体12は、容器本体11の開口を着脱自在に施蓋する略円板状の部材からなる蓋天部12aと、容器本体11の段差111bの部分に嵌め合うように形成された円環状の蓋側壁部12bとを備えている。ここで、蓋天部12aの下面の例えば3箇所に突起部12cが形設されている。そして、この突起部12cが容器本体11の先端面112bに当接して隙間を生じさせ、閉蓋状態において容器本体11を密閉しないようになっている。このようにして、閉蓋状態における容器本体11の内部は、本容器をインキュベータ内に載置した場合に、インキュベータ内の雰囲気ガスに通気する構造になる。
【0020】
識別表示体13は、容器本体11の側部11bを基部として延出する所要の板厚(肉厚)の板状部材からなる。ここで、容器本体11に対し本体11の外径と同じ横幅を有して横方向に伸びた第1平面部13a、この第1平面部13aに連なり上方向に屈曲して伸びた第2平面部13bが形成されている。そして、この第2平面部13bに連なり再び横方向に屈曲した第3平面部13c、および第3平面部13cに連なり下方向に屈曲して伸びた第4平面部13dが形成されている。これ等の平面部は一体構造に形設されている。この識別表示体13の基部となる容器本体11の側部11bの位置は適宜に設定される。このような構造体は例えばポリスチレンなどの合成樹脂の成形により容易に作製される。
【0021】
図1において、第3平面部13cが識別表示体13の横方向延伸部分に相当する。この横方向延伸部分は、平板状になる容器本体11の底部11aの面(内底面111aあるいは外底面112a)に対してほぼ横方向に延びる。これに対して、第1平面部13aは底部11a面に対し傾斜して延在しても構わない。そして、第4平面部13dが識別表示体13の縦方向延伸部分に相当している。この縦方向延伸部分は容器本体11の底部11a面に対してほぼ垂直方向にあればよく、底部11a面に対し少々傾斜して上下方向に延在していても構わない。
【0022】
ここで、上記識別表示体13の第3平面部13cおよび第4平面部13dの表面に同じ識別記号14が付設される。図1(a)ではABC123で例示されている。このように、識別記号14は被培養物を特定するための文字、数字あるいはこれ等の組み合わせを含む。なお、これ等の記号と共に従来技術で説明した識別コードのような特定用の図形を併設しても構わない。この識別記号14の表記は、マジックインキなどを使った書込み、シール貼付、印刷、レーザーマーク、成形等と種々の方法により行うことができる。しかも、識別表示体13の横幅は容器本体11に対して本体外径の1/2〜1倍の寸法に形成され、識別記号14は目視できる大きさに表記される。
【0023】
上記識別表示においては、横方向延伸部分に表記される識別記号14は容器本体11に対し横方向から視認できるようになればよい。そこで、上記第3平面部13cは、容器本体11の底部11a面に対して少々傾斜して横方向に延在する場合でも、上記条件を満たせば真横方向(水平方向)からのずれが許容できる。これに対し、縦方向延伸部分に表記される識別記号14は容器本体11に対し上方向から視認できるようになればよい。このため、第4平面部13dは、上述したように容器本体11の底部11a面に対し少々傾斜して上下方向に延在する場合でも、上記条件を満たせば垂直方向からのずれが許容できる。
【0024】
上述した容器本体11、蓋体12および識別表示体13は、ガラス材を用いてもよいが、その軽量化、成形容易性等を考慮すると樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、ポリスチレンの他にアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいは脂環式構造を有する樹脂等が挙げられる。そして、培養容器10に要請される機械的強度、平坦性、均一性、および光透過性、低複屈折性、低自家蛍光等の光学特性を良好に実現できる合成樹脂を用いることが好ましい。但し、識別表示体13は非透光性樹脂でもよい。
【0025】
そして、容器本体11と識別表示体13は、例えば上述したような合成樹脂により一体成形される。あるいは、それぞれ別々に成形した後に、識別表示体13が容器本体11の側部11bに接着剤を介して接合される。ここで、容器本体11、蓋部12あるいは識別表示体13を構成する部材は、それ等の大きさに合わせた適宜の肉厚になる。また、図1(a)では識別表示体13の板状部材の横幅が容器本体11の側部11bの外径と同じ場合について記されているが、その寸法は側部11bの外径より小さく、外径の1/2以上であればよい。識別表示体の横幅は培養容器の把持に大きく影響する。クリーンベンチ内での無菌操作、顕微鏡観察のためのXYステージの2方向保持などにおける取扱いの容易さから、前記寸法の範囲が望ましい。ここで、上記横幅は、識別表示体13の容器本体11からの延出方向に対して直交する面、つまり、例えば図1に示す第4平面部13dの水平方向の長さのことである。
【0026】
次に、図2乃至図4を参照して本実施形態の他例について説明を加える。図2は本実施形態にかかる培養容器の他例を示す断面図である。図3は本実施形態にかかる培養容器の別の他例を示す断面図である。図4は本実施形態にかかる培養容器の更に別の他例を示す一部平面図である。ここで、図2および図3は、図1(a)に示した培養容器のX−X矢視の断面図になっている。以下、図1で説明した培養容器10の構造と異なるところを主に説明する。
【0027】
図2に示す他例では、図1と比較して第4平面部13dが形成されていない。この場合、識別表示体13の識別記号14は、第2平面部13bと第3平面部13cのそれぞれの表面に付設されるようになる。
【0028】
図3に示す別の他例では、図1と比較して第4平面部13dが形成されていない。そして、第3平面部13cに対応する第5平面部13eが斜め下方向に傾斜して延在する。この場合、識別記号14は、第5平面部13e表面にのみに付設されるようになる。ここで、第5平面部13eの傾斜角度は、培養容器の識別記号の横方向の読み取り、および上方向からの読み取りが可能になるように、培養の作業環境に合わせて設定される。
【0029】
図4に示す更に別の他例では、図1と比較して第3平面部13cの平面形状が短冊状の細長い矩形から折り曲がり矩形に変わっている。それ以外はほぼ同じ構造の培養容器になる。但し、第2平面部13b表面および第4平面部13d表面は第3平面部13cの折り曲がり矩形の縁辺に沿って折曲している。この場合、識別記号14は、折り曲がった矩形のそれぞれの領域に分類記号等を簡明に付すことができ、その分類別の視認を容易にする。図4に一例として表記したAB123CDでは、分類記号ABあるいはCDが簡単に認識される。
【0030】
その他に、例えば図2に示した構造の識別表示体13において、第3平面部13cを取り除き、識別表示体13が第1平面部13aと第2平面部13bからなる例が挙げられる。この場合、識別記号14は、第1平面部13aと第2平面部13bのそれぞれの表面に付設される。
【0031】
なお、上述した識別記号14は、横方向延伸部分および縦方向延伸部分に相当する板状の平面部において、その表面の外にその裏面側に付設するようにしても構わない。但し、この場合には、識別表示体13は透光性部材からなる。
【0032】
本実施形態の培養容器では、識別記号の付設される識別表示体が容器本体の側部を基部にして取り付けられる。ここで、上記識別記号は容器本体の横方向および上方向から視認できるように付設される。このために、培養作業における被培養物の取り違いが容易に防止され、そして、例えばインキュベータに載置されている培養作業下にある培養容器の識別記号の横方向の読み取り、およびその培地の光学顕微鏡による観察あるいは培養状態の検査・記録の作業下の上方向での読み取りが可能になる。
【0033】
上記作業上の高い利便性は、他の上記培養容器の保持、運搬あるいは保管等の作業においても同様に得られる。なお、上記光学顕微鏡を用いた観察等の工程作業において、識別記号が培養状態の観察を阻害することのないことは明らかである。
【0034】
また、培養容器の移動において、施蓋が自在になるように形成された蓋体とその容器本体の両方を把持する必要がなく、培養容器は識別表示体の手動的あるいは自動的な把持を通して運搬できるようになる。このため、閉蓋状態の培養容器のハンドリングに細心の注意は不要になり、その作業効率が向上する。この効果は、培養作業、光学顕微鏡を用いた観察等の作業、運搬作業あるいは保管作業等の全ての工程作業で生じる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態にかかる培養容器について図5を参照して説明する。ここで、図5は本実施形態にかかる培養容器の一例を閉蓋状態のもとに示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のY−Y矢視断面図である。この実施形態では、識別表示体13において図1で説明した第3平面部13cの所要の位置に係合部15が形成される。この点が第1の実施形態と主に異なるところである。以下、その異なるところを主に説明する。
【0036】
図5に示すように、培養容器20は、第1の実施形態で説明したのと同様に容器本体11、蓋体12、識別表示体13を備えて構成される。ここで、容器本体11と蓋体12は第1の実施形態の場合とその構造がほぼ同じになっている。
【0037】
識別表示体13は、例えば一体構造の板状部材からなり、容器本体11に対し横方向に伸びた第1平面部13a、上方向に屈曲して伸びた第2平面部13b、再び横方向に屈曲した第3平面部13cおよび下方向に屈曲して伸びた第4平面部13dを備える。ここで、板状部材の横幅、識別表示体13が固定される容器本体11の側部11bの位置は適宜に設定される。側部11bは底部11a方向にやや縮径されたテーパー状をなしている。図5(a)では識別表示体13の横幅が容器本体11の側部11bの最外径より小さくなっているが、同じであっても構わない。
【0038】
そして、図5に示すように、係合部15が例えば短冊状の矩形をした第3平面部13cの表面の縁端に2個の突起として形設されている。この係合部15は、第3平面部13cと同じ材質であってもよいし異なるものであっても構わない。ここで、第3平面部13cと係合部15は例えば上述した合成樹脂により一体成形される。あるいは、それぞれ別々に作製した後に、係合部15が第3平面部13cの表面に接着剤を介して接合される。
【0039】
係合部15は、詳細は後述されるが培養容器を縦積みする場合に、上下の培養容器20を互いに固持してそれ等の位置ずれを防止するものである。このため、係合部15における縦幅は、第2平面部13bと第4平面部13dの離間幅よりも小さくなり、上下の培養容器20がそれ等の第2平面部13bと第4平面部13dおよび係合部15を介して互いに係合されるようになっている。ここで、上記縦幅は、識別表示体13が容器本体11から延出する方向の長さである。
【0040】
そして、上記識別表示体13の第3平面部13cおよび第4平面部13dの表面に同一の識別記号14が付設される。例えばABC123の識別記号14が第1の実施形態の場合と同様にして表記される。
【0041】
次に、上記培養容器20を縦積みする例について図6を参照して説明する。図6は本実施形態にかかる培養容器20を複数に縦積みした状態を示す正面図である。同図は4個の培養容器20が縦積みされている例になっている。すなわち、それぞれの第4平面部13dに識別記号14としてABC123〜126と付された培養容器20が4段に積み上げられる。
【0042】
この縦積みにおいて、上下の培養容器20では、一方の蓋部12の凹状になった蓋天部12aが他方の容器本体11の凹状になった底部11aの内側に嵌合する。しかし、それ等の表面が高平滑に作製された容器本体11あるいは蓋体12の場合、上下の培養容器20は滑合状態になり相互間の回転運動が防止できない。上述した係合部15は、この回転を抑制する機能を有する。このようにして、上下の培養容器20は互いに固持され安定した縦積みができるようになる。
【0043】
なお、上記培養容器の縦積みは、例えばインキュベータ内への載置、光学顕微鏡を用いた観察等の作業、あるいは培養容器の移動のための運搬あるいは保管等の作業において行われる。
【0044】
上記係合部15は、第1の実施形態の図2で説明した培養容器の他例の場合についても同様に適用でき、第3平面部13cの表面の両縁端に取り付けられる。
【0045】
なお、培養容器20で説明した容器本体11の底部11aと蓋部12の蓋天部12aとが嵌合しない場合であっても、上記実施形態で説明した係合部15は、培養容器の縦積みにおいて上側と下側の培養容器を固持する機能をもつ。そして、複数の培養容器の縦積みの安定化を可能にする。
【0046】
第2の実施形態では、第1の実施形態で説明したのと同様な作用効果が奏される。そして、培養の各種の作業において培養容器の縦積みが安全にできるようになり、それ等の作業効率の大幅な向上が可能になる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0048】
上記実施形態において、培養容器は、通常の細胞培養用シャーレに識別記号を表記できる識別表示体が取り付けられた構造の場合について説明されているが、培養用ディッシュ、マイクロプレート等の液体や平板培地の容器であればよい。
【符号の説明】
【0049】
10,20…培養容器,11…容器本体,11a…底部,111a…内底面,112a…外底面,11b…側部,111b…段差,112b…先端面,12…蓋体,12a…蓋天部,121a…蓋天面,12b…蓋側壁部,12c…突起部,13…識別表示体,13a…第1平面部,13b…第2平面部,13c…第3平面部,13d…第4平面部,13e…第5平面部,14…識別記号,15…係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被培養物を収容する培養容器であって、
その底部が平板状でありその側部が筒状になり上方向に開いた容器本体と、
前記容器本体を上方向から閉蓋する蓋体と、
前記容器本体の側部から延出し、前記容器本体に対し横方向に伸びる平板状の横方向延伸部分および前記容器本体に対し上下方向に伸びる平板状の縦方向延伸部分を備えた識別表示体と、を有し、
前記横方向延伸部分と縦方向延伸部分とに識別記号が付設可能になっていることを特徴とする培養容器。
【請求項2】
前記識別表示体は、前記容器本体の側部から延出する第1の平面部、該第1の平面部に連なり上方部に延伸する第2の平面部、該第2の平面部に連なり横方向に延伸する第3の平面部からなり、前記第2の平面部が前記縦方向延伸部分を構成し、前記第3の平面部が前記横方向延伸部分を構成していることを特徴とする請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記第3の平面部から下方向に延伸する第4の平面部が形成され、前記第4の平面部が前記縦方向延伸部分を構成していることを特徴とする請求項2に記載の培養容器。
【請求項4】
前記第3の平面部の平面形状が短冊状の矩形あるいは折り曲がり矩形になっていることを特徴とする請求項2又は3に記載の培養容器。
【請求項5】
前記第3の平面部の縁端に突起が形成され、複数の前記培養容器を縦積みする際に上側と下側の培養容器の前記識別表示体が互いに前記突起を介して係合するようになっていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか一項に記載の培養容器。
【請求項6】
被培養物を収容する培養容器であって、
その底部が平板状でありその側部が筒状になり上方向に開いた容器本体と、
前記容器本体を上方向から閉蓋する蓋体と、
前記容器本体の側部から延出する第1の平面部、該第1の平面部に連なり上方部に延伸する第2の平面部、該第2の平面部に連なり斜め下方向に延伸する第5の平面部を備えた識別表示体と、を有し、
前記容器本体に対し横方向および上方向から視認される識別記号が前記第5の平面部に付設されるようになっていることを特徴とする培養容器。
【請求項7】
前記容器本体と前記識別表示体は樹脂製であり一体成形されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の培養容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−193741(P2011−193741A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61094(P2010−61094)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】