説明

基地局、基地局における制御方法

【課題】サービスエリア内の移動局に対する無線サービスの処理を複数の処理ユニットのいずれかに割り当てる場合に、処理ユニット全体の消費電力を抑制し、かつ優先度の高い無線サービスに対する処理の遅延を防止すること。
【解決手段】制御部40は、移動局に対する無線サービスの予測処理量を積算し、予測処理量の積算値に応じて複数のコアのうち処理を実行するコアの数(つまり、使用コア数)が増加または減少させる。このとき、新規の呼の接続要求、つまり移動局に新たに処理対象となる新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには、その新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局において自局のサービスエリア内の複数の移動局に対する無線サービスについての処理を複数のプロセッサコア等の処理ユニットに割り当てる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の基地局は、自局のサービスエリア内の複数の移動局に対する無線サービスについての処理を行うためのプロセッサコア(「CPU(Central Processing Unit)コア」ともいう。以下、単に「コア」と略記する。)を複数備えている。複数のコアがDSP(Digital Signal Processor)を構成する。基地局のベースバンド処理部は、このようなDSPを複数有している。かかる構成の基地局は、自局の配下の移動局から新規の呼の接続要求が生じた場合には、その移動局に対する無線サービスの処理を行うためのリソースをいずれかのコアに割り当てる。このとき、移動局に対する処理を行うためのリソースの割り当てがないコアは、休止モードに設定されることができ、そのコアの消費電力が少なくて済む。
【0003】
従来の基地局では例えば、1つまたは複数の接続のための呼処理アルゴリズムを実行する複数のCPUを備えた基地局が知られている。この基地局は、集中負荷分散処理アルゴリズムに従って、複数のCPUのうち負荷のより少ないCPUに対して接続を分配することによって、個々のCPUが過負荷状態になるのを防ぐ基地局がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−304019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1に、1つのコアが処理を行うためにリソースを割り当てた移動局(UE: User Equipment)の数(割り当てられたUE数)と、そのコアの消費電力(処理負荷)との関係を示す。前述したように、割り当てられたUE数が0であればコアは休止モードに設定され、消費電力はほぼ0となる。割り当てられたUE数が1つでもあれば、UE数とは無関係に発生する処理のための負荷(固定負荷)と、処理対象のUE数に応じた負荷(変動負荷)とが発生し、それに応じた消費電力が生ずる。ここで、固定負荷をBF、UE1個あたりの変動負荷をBVとすると、例えば4個の移動局に対する処理を1つのコアで実行する場合、そのコアの負荷は、BF+4BVとなる。一方、例えば4個の移動局に対する処理を4つのコアに1個ずつ割り当てる場合、4つのコア全体の負荷の合計は、4BF+4BVとなる。従って、移動局の処理を実行させるコア数を極力少なくした方が基地局全体として消費電力が低下させることができることが分かる。
【0006】
しかしながら、移動局の処理を実行させるコア数(つまり、使用コア数)を極力少なくすることは、動作中のコアを負荷が高い状態で使用することを意味する。そのため、急激にトラフィックが増大した場合など、動作中のコアに対して瞬間的な高負荷が発生した場合に、その動作中のコアでは新たな処理ができず、新規の無線サービスの処理が遅延するか、あるいは最悪の場合、パケット等を廃棄する結果となる虞がある。特に、動作中のコアに対して、移動局から優先度の高い無線サービスの要求に基づく新たな処理の要求が生じた場合には尚更である。
【0007】
よって、発明の1つの側面では、サービスエリア内の移動局に対する無線サービスの処理を複数の処理ユニットのいずれかに割り当てる場合に、処理ユニット全体の消費電力を抑制し、かつ優先度の高い無線サービスに対する処理の遅延を防止するようにした、基地局、基地局における制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点では、サービスエリア内の複数の移動局と無線通信を行って無線サービスを提供する基地局が提供される。
この基地局は、
(A)移動局に対する無線サービスの処理を、それぞれ独立して実行可能な複数の処理ユニット;
(B)移動局に対する無線サービスの複数の種別の各々に対して、各種別の優先度および各種別の無線サービスを処理するための所定の予測処理量を対応付けた第1データベースを格納する格納部;
(C)前記第1データベースを参照して処理対象となる無線サービスの予測処理量を積算し、予測処理量の積算値の増加または減少に応じて、複数の処理ユニットのうち処理を実行する処理ユニットの数が増加または減少するように制御し、新たに処理対象となる新規無線サービスが生じたときには第1データベースを参照し、当該新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御する制御部;
を備える。
【0009】
第2の観点では、サービスエリア内の複数の移動局と無線通信を行うとともに、移動局に対する無線サービスの処理を、それぞれ独立して実行可能な複数の処理ユニットを備えた基地局における制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
開示の基地局、基地局における制御方法によれば、サービスエリア内の移動局に対する無線サービスの処理を複数の処理ユニットのいずれかに割り当てる場合に、処理ユニット全体の消費電力を抑制し、かつ優先度の高い無線サービスに対する処理の遅延を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】1つのコアに割り当てられた移動局の数と、そのコアの消費電力または処理負荷との関係を示す図。
【図2】実施形態の基地局を含む移動通信システムを示す図。
【図3】実施形態の基地局の構成を示すブロック図。
【図4】QCIデータベースの一例を示す図。
【図5】コア使用条件データベースの一例を示す図。
【図6】実施形態の基地局の制御部が移動局に対する無線サービスの処理を複数のコアに割り当てる動作について説明する図。
【図7】実施形態の基地局の制御部が移動局に対する無線サービスの処理を複数のコアに割り当てる動作について説明する図。
【図8】実施形態の基地局における制御で使用されるデータベースの好ましい運用方法について示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態の基地局、および基地局における制御方法について説明する。なお、以下の実施形態の説明において、基地局および移動局はそれぞれ適宜、eNB(evolved Node B)およびUE (User Equipment)と略記する。また、サービスエリア(またはセル)は、移動局が基地局と接続して基地局から無線サービスの提供を受ける地理的領域を意味する。
【0013】
(1−1)移動通信システム
図2は、本実施形態の基地局を含む移動通信システムを示す図である。
基地局eNBはサービスエリア内の複数の移動局UEと無線通信を行って無線サービスを提供する。図2において、移動局UE2は、基地局eNBに対して無線サービスを受けるために新規の呼の接続要求を行う移動局である。このシステムでは、移動局から基地局に対する呼の接続要求には、後述するQCI(QoS Class Identifier;QoSクラスの識別子)が含まれる。基地局eNBは、外部のEMS(Element Management System;エレメント管理システム)と有線又は無線により接続されうる。
【0014】
(1−2)基地局の構成
図3は、本実施形態の基地局eNBの構成を示すブロック図である。
図3に示す基地局eNBの構成は、一例として2個の送受信共用のアンテナを含み、各アンテナはそれぞれ送受信機10−1,10−2に接続される。送受信機10−1,10−2はそれぞれ、ベースバンド処理部20−1,20−2(それぞれ単に「ベースバンド処理部20」と適宜略記する。)に接続される。
【0015】
送受信機10−1,10−2の各々は、受信部と送信部を備える。受信部は、帯域制限フィルタ、ローノイズアンプ(LNA: Low Noise Amplifier)、ローカル周波数発信器、直交復調器、AGC(Automatic Gain Control)アンプ、A/D(Analog to Digital)変換器などを含む。受信部は、アンテナにおいて移動局から受信したRF信号をデジタルベースバンド信号に変換してベースバンド処理部20へ供給する。送信部は、D/A(Digital to Analog)変換器、ローカル周波数発信器、ミキサ、パワーアンプ、フィルタ等を備える。送信部は、ベースバンド処理部20からのベースバンド信号を、ベースバンド周波数から無線周波数へアップコンバートした後に、アンテナから空間へ放射する。
【0016】
ベースバンド処理部20は、一例として2個のDSP(Digital Signal Processor)を備える。各DSPは一例として、4個のプロセッサコア(コア)#1〜#4を含む。コアは、処理ユニットの一例である。なお、図3に示したベースバンド処理部の数、DSPの数、各DSPに含まれるコアの数は一例に過ぎず、用途に応じて所望の数に決定されうるものである。
【0017】
制御部40は、ベースバンド処理部20において移動局UEに対する無線サービスの処理のためのリソースを管理している。より具体的には、制御部40は、自局のサービスエリア内の複数の移動局に対する無線サービスの処理を、ベースバンド処理部20内の複数のコアに割り当てる制御を行う。この制御のために、制御部40は、第1データベース格納部51に格納されるQCIデータベース(DB)と、第2データベース格納部52に格納されるコア使用条件データベース(DB)にアクセス可能に構成されている。制御部40におけるコアの割り当て制御については後述する。
制御部40はまた、通信インタフェース60を介して外部のEMS、および/または基地局eNBの上位装置であるS−GW(Serving Gateway)、MME(Mobility Management Entity)と接続可能となっている。
【0018】
図4にQCIデータベースの一例を示す。
前述したように、本実施形態の移動通信システムにおいて、移動局は、新規の呼の接続要求を基地局に対して行うときには、その接続要求にQCIを含ませるようにする。新規の呼の接続要求は、移動局が基地局に対して行う要求であって、新たに処理対象となる新規無線サービスを提供することを基地局に依頼する要求である。またQCIは、新規の呼の接続要求において移動局が基地局に提供を受けることを希望する無線サービスの種別が対応したコード(図4では、10進数の番号で例示している。)である。QCIデータベースは、QCI(図4では、QCIを示す番号)ごとに、対応する種別の無線サービスの優先度、およびその予測処理量が対応付けられている。サービスの種別に応じた優先度の設定は、任意に行うことができる。図4に示した例では、音声通話(Voice)やストリーミング(Real-Time Polling Service)などの無線サービスの形態、High rate / Low rate等の要求通信速度、Normal / VIP / Emergencyなどの通信用途などの種別によって優先度が設定されている。例えば、通常の音声通話であるVoice (Normal)に比べて、地震・災害等の音声通話であるVoice (Emergency)は優先度が高く設定されている。
予測処理量は、無線サービスの種別に対して必要と考えられる処理量、または使用されるリソース量である。予測処理量は、無線サービスの種別に対して経験的に得られた知見から固定値を設定するようにしてもよいし、或いは、QCI、すなわち無線サービスの種別に応じた処理量(または、使用されたリソース量)のサンプルを統計処理することによって設定するようにしてもよい。
【0019】
図5にコア使用条件データベースの一例を示す。
コア使用条件データベースは、処理の実行対象となるコア(つまり、使用するコア)の数に応じた、予測処理量の積算値の範囲についての条件を規定するためのデータベースである。コア使用条件データベースは、第2データベースの一例である。図5は、一例として、使用コア数が1〜6の範囲である場合を示している。
【0020】
制御部40は、ベースバンド処理部20内の各コアに割り当てられた移動局に対する予測処理量の積算値を逐次算出している。この積算値は、送受信機10−1、10−2が移動局からの新規の呼の接続要求を受けたときに更新される。また、呼の接続要求に対応した無線サービスの提供が終了すれば、その接続要求に対応する予測処理量は積算値から除外される。制御部40は、新規の呼の接続要求を受けると、その時点の予測処理量の積算値に、新規の呼の接続要求に含まれるQCIに対応した予測処理量を加えた値(つまり、新規の接続要求についての無線サービスを提供した場合の新たな積算値)を算出する。そして、制御部40は、その新たな積算値に基づいて、コア使用条件データベースを参照して、使用するコアの数を増加または減少させる。
【0021】
図5に示すコア使用条件データベースにおいて、「コア数UP条件」とは、移動局から新規の呼の接続要求があったときに、その接続要求に含まれるQCIが示す優先度に応じて、その接続要求があった時点で使用しているコア数を増加(UP)させるための条件である。図5に示す「コア数UP条件」では、処理の実行対象となる処理ユニットの数に応じた、予測処理量の積算値の範囲の上限値(第1閾値)が記述されている。
【0022】
例えば、新規の呼の接続要求があった時点で使用しているコア数(現在のコア数)が1であって、その接続要求に含まれるQCIが示す優先度(新規の呼の優先度)が10である場合には、そのQCIが示す予測処理量を加えた予測処理量の積算値が95を超える場合に、使用するコア数を増加させる(1→2)。また、新規の呼の接続要求があった時点で使用しているコア数(現在のコア数)が1であって、その接続要求に含まれるQCIが示す優先度(新規の呼の優先度)が1である場合には、そのQCIが示す予測処理量を加えた予測処理量の積算値が140を超える場合に、使用するコア数を増加させる(1→2)。すなわち、新規の呼の優先度が高いほど、使用するコアの数が増加しやすくなっており、それによって、急激なトラヒックの変化によって動作中のコアに対して瞬間的な高負荷が発生した場合でも、処理の遅延が抑制されるように制御される。
【0023】
図5に示すコア使用条件データベースにおいて、「コア数DOWN条件」とは、移動局から新規の呼の接続要求があったときに、その接続要求に含まれるQCIが示す優先度に応じて、その接続要求があった時点で使用しているコア数を減少(DOWN)させるための条件である。図5に示す「コア数DOWN条件」では、処理の実行対象となる処理ユニットの数に応じた、予測処理量の積算値の範囲の下限値(第2閾値)が記述されている。
【0024】
例えば、新規の呼の接続要求があった時点で使用しているコア数(現在のコア数)が2であって、その接続要求に含まれるQCIが示す優先度(新規の呼の優先度)が10である場合には、そのQCIが示す予測処理量を加えた予測処理量の積算値が55より小さくなった場合に、使用するコア数を減少させる(2→1)。また、新規の呼の接続要求があった時点で使用しているコア数(現在のコア数)が2であって、その接続要求に含まれるQCIが示す優先度(新規の呼の優先度)が1である場合には、そのQCIが示す予測処理量を加えた予測処理量の積算値が100より小さくなった場合に、使用するコア数を減少させる(2→1)。すなわち、新規の呼の優先度が高いほど、使用するコアの数が減少しにくくなっており、それによって、急激なトラヒックの変化によって動作中のコアに対して瞬間的な高負荷が発生した場合でも、処理の遅延が抑制されるように制御される。
【0025】
(1−3)コアへの割り当て制御
次に、図5および図6を参照して、制御部40の動作、すなわち、基地局のサービスエリア内の複数の移動局に対する無線サービスの処理を、ベースバンド処理部20内の複数のコアに割り当てる動作について説明する。
図6において横軸は時間、縦軸は(a)予測処理量の積算値と(b)使用するコア数(以下、適宜「使用コア数」と略記する。)、を示している。前述したように、制御部40は、予測処理量の積算値(以下、適宜単に「積算値」と略記する。)を逐次算出している。
【0026】
図6において、時刻t1以前には、処理対象となる移動局の数が少なく使用コア数が1である場合が想定されている。時刻t1以前では、積算値が95(現在のコア数が1であるときのコア数UP条件の閾値の最小値;図5参照)以下であるため、使用コア数が1のままである。時刻t1において新規の呼の接続要求を受けて、その接続要求に含まれるQCI(この場合、例えば「2」)についてQCIデータベースを参照する。その結果、新規の接続要求のQCIの優先度のレベルが10であり、予測処理量が1であることが分かる(図4参照)。図6に示す例では、新規の接続要求に対応した予測処理量を加えた新たな積算値が95を超える場合が示されており、その場合には、使用コア数を1から2に増加させる。
【0027】
時刻t1を経過後時刻t2以前では、使用コア数が2のままである。時刻t2において新規の呼の接続要求を受けて、その接続要求に含まれるQCI(この場合、例えば「8」)についてQCIデータベースを参照する。その結果、新規の接続要求のQCIの優先度のレベルが4であり、予測処理量が2であることが分かる(図4参照)。図6に示す例では、新規の接続要求に対応した予測処理量を加えた新たな積算値が、250(現在のコア数が2であり、かつ新規の呼の優先度が4であるときのコア数UP条件の閾値;図5参照)を超える場合が示されている。このとき、制御部40は使用コア数を2から3に増加させる。
【0028】
時刻t2を経過後時刻t3以前では、使用コア数が3のままである。時刻t3において新規の呼の接続要求を受けて、その接続要求に含まれるQCI(この場合、例えば「6」)についてQCIデータベースを参照する。その結果、新規の接続要求のQCIの優先度のレベルが6であり、予測処理量が4であることが分かる(図4参照)。図6に示す例では、新規の接続要求に対応した予測処理量を加えた新たな積算値が、345(現在のコア数が3であり、かつ新規の呼の優先度が6であるときのコア数UP条件の閾値;図5参照)を超える場合が示されている。このとき、制御部40は使用コア数を3から4に増加させる。
【0029】
時刻t3を経過後時刻t4以前では、使用コア数が4のままである。時刻t4において新規の呼の接続要求を受けて、その接続要求に含まれるQCI(この場合、例えば「8」)についてQCIデータベースを参照する。その結果、新規の接続要求のQCIの優先度のレベルが4であり、予測処理量が2であることが分かる(図4参照)。図6に示す例では、新規の接続要求に対応した予測処理量を加えた新たな積算値が、335(現在のコア数が4であり、かつ新規の呼の優先度が4であるときのコア数DOWN条件の閾値;図5参照)以下となる場合が示されている。このとき、制御部40は使用コア数を4から3に減少させる。
【0030】
時刻t4を経過後時刻t5以前では、使用コア数が3のままである。時刻t5において新規の呼の接続要求を受けて、その接続要求に含まれるQCI(この場合、例えば「7」)についてQCIデータベースを参照する。その結果、新規の接続要求のQCIの優先度のレベルが6であり、予測処理量が2であることが分かる(図4参照)。図6に示す例では、新規の接続要求に対応した予測処理量を加えた新たな積算値が、190(現在のコア数が3であり、かつ新規の呼の優先度が6であるときのコア数DOWN条件の閾値;図5参照)以下となる場合が示されている。このとき、制御部40は使用コア数を3から2に減少させる。
【0031】
時刻t5を経過後時刻t6以前では、使用コア数が2のままである。時刻t6において新規の呼の接続要求を受けて、その接続要求に含まれるQCI(この場合、例えば「2」)についてQCIデータベースを参照する。その結果、新規の接続要求のQCIの優先度のレベルが10であり、予測処理量が1であることが分かる(図4参照)。図6に示す例では、新規の接続要求に対応した予測処理量を加えた新たな積算値が、55(現在のコア数が2であり、かつ新規の呼の優先度が10であるときのコア数DOWN条件の閾値;図5参照)以下となる場合が示されている。このとき、制御部40は使用コア数を2から1に減少させる。
【0032】
図6では、予測処理量の積算値が図5に示した閾値を超えるタイミング、または閾値以下となるタイミングと、使用コア数が変化するタイミングとが一致する場合の例を示したが、必ずしも両者のタイミングは一致していなくても構わない。この両者のタイミングが一致していない動作の例について、図7を参照して説明する。
【0033】
図7では、(a)〜(d)の異なる時点における4個のコア#1〜#4について、各コアの実際の処理量を概念的に示しており、各コアの黒色部分が処理量の大きさを示している。なお、図7において、「通常」、「仮想閉塞」、「仮想PBLK」とはそれぞれ、コアの状態を示している。ここで、「通常」はコアが処理を行っている状態、「仮想閉塞」はコアが処理を行っておらず、かつ新規の処理の割り当てが行われない状態、「仮想PBLK」は既に割り当て済みの処理の実行は可能であるが新規の処理の割り当てが行われない状態、を示す。
【0034】
図7において、(a)の時点では、予測処理量の積算値が小さくコア#1のみが動作している。新規の呼の接続要求が増加していき、(b)の時点で予測処理量の積算値がコア数UP条件の閾値を超えると、制御部40は、コア#2を「通常」状態に遷移させて、移動局からの新規に呼の接続要求に対応する無線サービスの処理がコア#2に割り当てる。その後、全体のトラヒック量が低下した結果、予測処理量の積算値がコア数DOWN条件の閾値以下になると、制御部40は、コア#2を「通常」状態から「仮想PBLK」状態に遷移させて、コア#2に新規の処理の割り当てが行われないように制御する。このとき、コア#2は、実行中の処理について継続して処理を行う。その後、コア#2(あるいはコア#1)における無線サービスの処理がすべて終了した時点(図7の(d))で、使用コア数の低下が行われる。図7の(d)では、コア#2における無線サービスの処理がすべて終了したため、コア#2を「仮想PBLK」状態から「仮想閉塞」状態へ遷移させる。
図7で例示したように、各コアを「通常」、「仮想閉塞」、「仮想PBLK」のいずれかの状態によって制御する方法は、本実施形態の制御方法をソフトウエアによって実現しようとするときに好適に適用可能である。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の基地局では、移動局に対する無線サービスの予測処理量を積算し、予測処理量の積算値に応じて複数のコアのうち処理を実行するコアの数(つまり、使用コア数)を増加または減少させる。このとき、新規の呼の接続要求、つまり新たに処理対象となる新規無線サービスが生じたときには、その新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御する。それによって、移動局に対する処理を行うためのコアの数を制限して全体の消費電力を抑制しつつ、急激なトラヒックの変化によって動作中のコアに対して瞬間的な高負荷が発生した場合でも、処理の遅延が抑制されるようになる。
【0036】
(1−4)データベースの運用
次に、本実施形態の基地局における制御で使用されるデータベース(QCIデータベースおよび/またはコア使用条件データベース)の好ましい運用方法について、図8を参照して説明する。このデータベースの運用方法では、EMS(エレメント管理システム)がデータベースを作成し、基地局からフィードバックされるトラヒックデータに応じてデータベースを更新する。
【0037】
図8を参照すると先ず、EMSは、データベースを作成して基地局eNBへ提供する(ステップS10、S12)。この初期のデータベースは、例えば机上のシミュレーション結果が反映された固定値でよい。基地局eNBは、提供されたデータベース、すなわちQCIデータベースおよびコア使用条件データベースをそれぞれ、第1データベース格納部51および第2データベース格納部52に格納し(ステップS14)、制御部40による制御を開始する。制御部40は、図6および図7に関連付けて説明した方法で、移動局に対する無線サービスの処理についての各コアへの割り当て処理を実行する(ステップS16)。また、基地局eNBは、例えば定期的に、自局のトラヒックデータを収集して、そのトラヒックデータをEMSへ報告する(ステップS18、S20)。このトラヒックデータには、時系列上の使用コア数、電力使用量、パケット破棄数などのデータが含まれうる。
【0038】
EMSは、トラヒックデータを分析し(ステップS22)、その分析結果に基づいて、ステップS10で作成したデータベースを更新する(ステップS24)。
例えば、パケット破棄数が所定の基準値よりも多い場合には、各コアの処理能力に対してあまりマージンがない状態でコアが使用されていることが想定される。そこで、コア数UP条件の閾値を全体的に下げる、および/または、コア数DOWN条件の閾値を全体的に上げるように、コア使用条件データベースが更新されうる。
また、基地局eNBから報告されるトラヒックデータの中に、QCIと実際の処理パケット数との関係を含むデータを含ませ、EMSがそのようなデータ(サンプル)を統計処理するようにしてもよい。この場合、EMSは、QCIに対応する予測処理量と実際の処理量との相関が高くなるように、QCIデータベースを更新してもよい。
【0039】
更新されたデータベースは基地局eNBへ提供され、第1データベース格納部51および第2データベース格納部52に再度格納される(ステップS26、S28)。その後、同様にして、データベースが例えば定期的に更新され、基地局eNBにおける制御が行われる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の基地局、基地局における制御方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのは勿論である。
例えば、本実施形態の移動通信システムでは、移動局が新規の呼の接続要求を基地局に対して行うときにQCIを含むようにした例を示したが、QCIを使用することに限られない。移動局が基地局に対して新規の呼の接続要求を行うタイミングで、その移動局から基地局に対して、その接続要求についての無線サービスの優先度および予測処理量が関連付けた情報が与えられればよい。そのような情報は、例えば移動局から基地局への制御情報に含ませることもできる。
【0041】
以上の各実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0042】
(付記1)
サービスエリア内の複数の移動局と無線通信を行って無線サービスを提供する基地局であって、
移動局に対する無線サービスの処理を、それぞれ独立して実行可能な複数の処理ユニットと、
移動局に対する無線サービスの複数の種別の各々に対して、各種別の優先度および各種別の無線サービスを処理するための所定の予測処理量を対応付けた第1データベースを格納する格納部と、
前記第1データベースを参照して処理対象となる無線サービスの予測処理量を積算し、予測処理量の積算値の増加または減少に応じて、前記複数の処理ユニットのうち処理を実行する処理ユニットの数が増加または減少するように制御し、新たに処理対象となる新規無線サービスが生じたときには第1データベースを参照し、当該新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御する制御部と、
を備えることを特徴とする基地局。(1)
【0043】
(付記2)
処理の実行対象となる処理ユニットの数に応じた、前記予測処理量の積算値の範囲についての条件を規定するための第2データベースを格納する第2格納部、をさらに備え、
前記第2データベースは、前記予測処理量の積算値の範囲の上限値である第1閾値と、前記予測処理量の積算値の範囲の下限値である第2閾値とを有し、前記第1閾値および第2閾値が、前記新規無線サービスの優先度が高いほど小さな値であって、
前記制御部は、移動局に新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには前記第2データベースを参照して処理の実行対象となる処理ユニットの数を決定する、
付記1に記載された基地局。(2)
【0044】
(付記3)
移動局からの新規の無線サービスの要求には、QCI(QoS Class Identifier)が含まれており、
前記第1データベースは、QCIと各無線サービスの種別とが対応付けられている、
付記1または2に記載された基地局。
【0045】
(付記4)
サービスエリア内の複数の移動局と無線通信を行うとともに、移動局に対する無線サービスの処理を、それぞれ独立して実行可能な複数の処理ユニットを備えた基地局における制御方法であって、
移動局に対する無線サービスの複数の種別の各々に対して、各種別の優先度および各種別の無線サービスを処理するための所定の予測処理量を対応付けた第1データベースを準備し、
前記第1データベースを参照して処理対象となる無線サービスの予測処理量を積算し、
予測処理量の積算値の増加または減少に応じて、前記複数の処理ユニットのうち処理を実行する処理ユニットの数が増加または減少するように制御し、移動局に新たに処理対象となる新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには、前記第1データベースを参照し、当該新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御することを含む、
基地局における制御方法。(3)
【0046】
(付記5)
処理の実行対象となる処理ユニットの数に応じた、前記予測処理量の積算値の範囲についての条件を規定するための第2データベースであって、前記予測処理量の積算値の範囲の上限値である第1閾値と、前記予測処理量の積算値の範囲の下限値である第2閾値とを有し、前記第1閾値および第2閾値が、前記新規無線サービスの優先度が高いほど小さな値である第2データベースを準備すること、をさらに含み、
前記制御することは、移動局に新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには前記第2データベースを参照して処理の実行対象となる処理ユニットの数を決定すること、を含む、
付記4に記載された、基地局における制御方法。
【0047】
(付記6)
第2データベースを準備することは、QCI(QoS Class Identifier)と各無線サービスの種別とが対応付けられているデータを準備すること、を含み、
前記制御することは、移動局からの新規の無線サービスの要求に含まれるQCIを参照することを含む、
付記4または5に記載された、基地局における制御方法。
【符号の説明】
【0048】
10−1,10−2 送受信機
20−1,20−2 ベースバンド処理部
30−1,30−2 DSP
40 制御部
51 第1データベース格納部
52 第2データベース格納部
60 通信インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サービスエリア内の複数の移動局と無線通信を行って無線サービスを提供する基地局であって、
移動局に対する無線サービスの処理を、それぞれ独立して実行可能な複数の処理ユニットと、
移動局に対する無線サービスの複数の種別の各々に対して、各種別の優先度および各種別の無線サービスを処理するための所定の予測処理量を対応付けた第1データベースを格納する格納部と、
前記第1データベースを参照して処理対象となる無線サービスの予測処理量を積算し、予測処理量の積算値の増加または減少に応じて、前記複数の処理ユニットのうち処理を実行する処理ユニットの数が増加または減少するように制御し、移動局に新たに処理対象となる新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには、前記第1データベースを参照し、当該新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御する制御部と、
を備えることを特徴とする基地局。
【請求項2】
処理の実行対象となる処理ユニットの数に応じた、前記予測処理量の積算値の範囲についての条件を規定するための第2データベースを格納する第2格納部、をさらに備え、
前記第2データベースは、前記予測処理量の積算値の範囲の上限値である第1閾値と、前記予測処理量の積算値の範囲の下限値である第2閾値とを有し、前記第1閾値および第2閾値が、前記新規無線サービスの優先度が高いほど小さな値であって、
前記制御部は、移動局に新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには前記第2データベースを参照して処理の実行対象となる処理ユニットの数を決定する、
請求項1に記載された基地局。
【請求項3】
サービスエリア内の複数の移動局と無線通信を行うとともに、移動局に対する無線サービスの処理を、それぞれ独立して実行可能な複数の処理ユニットを備えた基地局における制御方法であって、
移動局に対する無線サービスの複数の種別の各々に対して、各種別の優先度および各種別の無線サービスを処理するための所定の予測処理量を対応付けた第1データベースを準備し、
前記第1データベースを参照して処理対象となる無線サービスの予測処理量を積算し、
予測処理量の積算値の増加または減少に応じて、前記複数の処理ユニットのうち処理を実行する処理ユニットの数が増加または減少するように制御し、移動局に新たに処理対象となる新規無線サービスを提供する要求を移動局から受けたときには、前記第1データベースを参照し、当該新規無線サービスの優先度が高いほど処理を実行する処理ユニットの数が増加しやすく、かつ減少しにくくなるように制御することを含む、
基地局における制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate