説明

基底膜粒子の製造及び使用

1種以上の真核細胞種のin vitroにおける増殖を補助するための方法であって、基底膜又は基底膜様基質を含む、約500μm未満の大きさの粒子に前記細胞種の細胞を播種する工程、及び前記播種した細胞の増殖に適切な条件下において、前記細胞をin vitroで培養する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitroにおける細胞培養の分野、更にとりわけ哺乳動物細胞、例えば幹細胞をin vitroで増殖させるための物質及び方法に関する。本発明の1つの特定の応用例では、前記物質及び方法は、精原幹細胞のin vitroにおける増殖のための手段を提供する。他の特定の応用例では、本発明の物質及び方法は、造血幹細胞のin vitroにおける増殖のための手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
培養物中で細胞を増殖させる能力は、生体プロセスの解明、及び組織工学及び細胞移植によって開発されるものを含む広範な新規生産物又は方法の開発の大幅な増大を生じさせている。典型的には、哺乳動物細胞は、より良好な細胞接着を可能にするように修飾された組織培養用ポリスチレンのような平らな表面で増殖させられる。この表面は、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、及び多数の他の分子のような接着タンパク質を吸着させることによって更に修飾されて良い。他の培養方法では、細胞は、使用時に一般的には穏やかに攪拌して、細胞を増殖させる懸濁物を形成する細胞接着性のデキストランビーズ(例えば、Cytodexビーズ)のようなビーズ又は粒子上で増殖させられて良い。これらの方法は、多数の組織培養用フラスコ又はプレートに必要とされるものと比較して、前記ビーズ又は粒子が細胞増殖のための大きな表面領域を小反応容器内で提供するという利点を有する。これらの方法において使用するビーズ又は粒子は、細胞接着能力を促進又は改良され得る。
【0003】
細胞接着及び増殖を可能にする天然基質及び合成基質の開発が非常に多く行われており、基質の種類が特定の細胞種の接着、分裂、及び移動する能力に影響を与えることが現在知られている。各種のモデル基質が開発されて、細胞接着を試験している。コレラのモデル基質は、一般的に、組織培養用プラスチックに接着している多数のマトリックス成分(例えば、コラーゲンタイプI、III、IV、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリンゲル、ヒアルロナン、アルギネート、及びキトサン)又はコレラのタンパク質に由来するペプチド(例えば、RGD)、各種の合成ポリマー、又はビーズを含んでいる。
【0004】
例えば血液循環中の細胞を除く、大半の細胞は、コラーゲンのような細胞外マトリックス成分に接着する。例えば、真皮中の線維芽細胞は、この組織を特徴付ける主要な結合性組織繊維束を形成するコラーゲンタイプIに接着する。例えば内皮細胞、上皮細胞、及び各種の幹細胞を含む多数の場合において、接着に好ましい成分は基底膜又は基底板と称される構造である。基底膜は、細胞(例えば、実質細胞)及びそれらの周囲の組織の間の接触面で形成される、細胞外マトリックス(ECM)中の特有の非常に組織化された支持的シート状構造である。各種の基底膜が体内に存在する。あるものは、ある細胞が接着し得る組織の境界として働き、あるものは選択的透過性を有するフィルターとして働き、あるものは幹細胞を含む多数の異なる細胞種の非常に選択的な細胞分化を補助し、他のものは増殖因子の貯蔵所として働く。基底膜は、基底膜内で広がった網状構造を形成すると解されているコラーゲンタイプIVを含む広範な特定の巨大分子成分、及びコラーゲンタイプIVの構造と規則的な様式で相互作用すると解されているラミニン、ニドゲン、エンタクチン、アグリン、バマカン、ウシェリン、ヘパリンスルフェートプロテオグリカン、例えば、パールカンを含む広範な他の成分を含む。最も多量な成分、つまりコラーゲンタイプIV及びラミニンは、広範な分子アイソフォームが表れており、特定の組織に関連する特定の基底膜は、どのアイソフォーム又はアイソフォームの割合が存在するのかに依存して変化して良い。コラーゲンタイプIVは、全てのコラーゲンのように、コイルドコイルのロープ状の三重らせん構造に巻きついた3つのα鎖からなる。初めに試験されたタイプIVコラーゲンは、2つのα1[IV]コラーゲン鎖及び1つのα2[IV]コラーゲン鎖からなる。続いて、α1[IV]鎖と置き換わって良いα3[IV]及びα5[IV]鎖、並びにα2[IV]鎖と置き換わって良いα4[IV]及びα6[IV]鎖を含む他の鎖が観察されている。全てではないが、これらの鎖の各種の組み合わせが、各種の基底膜で認められている。ラミニンは、3つの異なる鎖のタイプ、α、β、及びγ鎖からなる。少なくとも14の異なるアイソフォームのラミニンが認められているように、これらの鎖の各々の各種の形態が、各種の組み合わせにおいて認められている。
【0005】
かくして、基底膜のような基質の真核細胞(例えば、幹細胞)培養物への添加は、特定の真核細胞の天然の局所的な環境(「ニッチ」)を摸倣することによって、これらの細胞の増殖の補助に特に有利であろう。これに関して、本願は、驚くべきことに、基底膜粒子がin vitroにおける真核細胞の増殖に効果的に使用され得ることを発見した。特に、本願は、天然の基底膜構造の粒子;任意の細胞によって培養物中で生産されるアナログ構造の粒子;及び個々の成分から再構築された規則的な構造の粒子からなる群から選択される、基底膜又は基底膜様基質の粒子が、真核細胞のin vitroにおける増殖に適切であることを発見した。
【非特許文献1】Brinster, RL et al., Spermatogenesis following male germ-cell transplantation, The Proceedings of the National Academy of Science USA, 91:11298-11302 (1994)
【非特許文献2】Enders, GC et al., Sertoli Cell Binding to Isolated Testicular Basement Membrane, The Journal of Cell Biology, 103:1109-1119 (1986)
【非特許文献3】Ogawa, T et al., Transplantation of male germ cell line stem cells restores fertility in infertile mice, Nature Medicine, 5:29-34 (1999)
【非特許文献4】van der Wee, K and Hofmann, MC, An in vitro Tubule Assay Identifies HGF as a Morphogen for the Formation of Seminiferous Tubules in the Postnatal Mouse Testis, Experimental Cell Research, 252:175-185 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
各種の基底膜調製物が、in vitroにおける真核細胞の培養及び増殖について開示されているが、これらは、基底膜が天然の全体の3次元構造が本質的に維持される比較的大きな形態又は部分(例えば基底膜小管又はスリーブ)で提供されるという点で、本発明の基底膜又は基底膜様基質の粒子とは異なる。本発明と対照的に、これらの過去の基底膜調製物は、(例えば、それらの大きなサイズ又は不適当な浮力のために)懸濁培養又は他のバイオリアクターシステムにおける真核細胞の増殖の補助に不適切である。これらの過去の基底膜調製物の特定の例は、Enders, GC et al. (1986)に開示されており、初代セルトーリ細胞が、中空管又はスリーブを含む精細管基底膜(STBM)調製物(すなわち、基底膜の天然の小管又はスリーブの全体の3次元構造を維持している調製物)にin vitroで接着する。他の例は、セルトーリ細胞株の増殖を補助するための、組織培養プレートに被覆した可溶性の基底膜成分調製物(すなわち、Matrigel(登録商標))の使用を開示しているVan der Wee, K and Hofmann, MC (1999)によって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様では、本発明は、一種以上の真核細胞種のin vitroにおける増殖を補助するための方法であって、
基底膜又は基底膜様基質を含む粒子に前記細胞種の細胞を播種する工程、及び
前記播種した細胞の増殖に適切な条件下において、前記播種した細胞をin vitroで培養する工程
を含み、前記粒子が500μm未満の大きさである、方法を提供する。
【0008】
前記方法は、細胞のフェノタイプ又はそうでなければ細胞分化(すなわち、例えば適切な因子の添加によって誘導されて良いもの)の維持のいずれかが必要とされる、真核細胞のin vitroにおける増殖に有用である。
【0009】
前記方法で利用される粒子は、基底膜又は基底膜様基質を含む粒子であって良い。基底膜を含む粒子は、適切な起源の組織サンプルに由来する天然の基底膜から(例えば、組織サンプルから基底膜を抽出することによって)調製されて良い。基底膜様基質を含む粒子は、例えば、固体の支持体(例えば、適切なビーズ)において基底膜合成細胞を培養することによって調製されて良い。
【0010】
かくして、前記方法は、基底膜合成細胞を適切なビーズに接着させ、基底膜タンパク質の発現及び分泌に適切な条件下でビーズに結合した細胞を培養して、少なくとも部分的に基底膜様基質に被覆されたビーズを含む粒子を生産することによって、前記細胞が播種される粒子を調製する工程を更に含んで良い。任意に、前記基底膜合成細胞は、その後、増殖させようとする細胞を播種する前に前記粒子から除去されるか又は破砕されて良い。
【0011】
代替的に、前記方法は、増殖させようとする細胞及び基底膜合成細胞の双方を適切なビーズに接着させ、基底膜合成細胞による基底膜タンパク質の発現及び分泌に適切な条件下で、ビーズに結合した細胞を共培養することによって、粒子を製造する工程を更に含んで良い。この方法では、前記方法によって増殖した細胞は、基底膜様基質に少なくとも部分的に被覆されたビーズとして基底膜様基質を含む粒子に播種される。
【0012】
第二の態様では、本発明は、本発明の第一の態様に係る方法によって増殖した真核細胞の集団を提供する。
【0013】
第三の態様では、本発明は、基底膜様基質に少なくとも部分的に被覆されたビーズを含む、約500μm未満の大きさの粒子を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本出願人は、
(i)増殖させようとする特定の真核細胞のための天然の基底膜の粒子;
(ii)任意の細胞によって培養物中で生産されるアナログ構造の粒子;及び
(iii)個々の基底膜成分から再構築される規則的なネットワーク構造の粒子;
からなる群から選択される基底膜又は基底膜様基質の粒子が、真核細胞、特に哺乳動物細胞のin vitroにおける増殖に適切であることを発見した。
【0015】
(ii)及び(iii)で言及しているアナログ構造及び規則的なネットワーク構造は、基底膜様基質の特定の例と解されて良い。本明細書で使用する用語「基底膜様基質」は、少なくともコラーゲンタイプIV又はその機能的断片からなるマトリックスを含む構造を示す。しかしながら、好ましくは、本発明で使用される基底膜様基質は、少なくともコラーゲンタイプIV及びラミニンからなるマトリックスを含む。さらに好ましくは、本発明で使用される基底膜様基質は、少なくともコラーゲンタイプIV及びラミニンからなる規則的に相互作用する分子のネットワークを含む。
【0016】
本発明に係る粒子は、幹細胞、特に精原幹細胞のような真核細胞の増殖及び分裂を補助するために特に効果的であることが認められている。
【0017】
精原幹細胞の増殖に対する本発明の特定の適用は、家畜の繁殖の分野(Bringster, RL et al. (1994), and Ogawa, T et al., (1999))、例えば、ウシの繁殖の改善において非常に見込みがある。例えば、ウシの自然な繁殖による家畜の繁殖は非効率であるため、所望の質のウシを生産することが既知のオスの種畜からのウシの精原幹細胞の単離及びin vitroにおける増幅が、例えば、他の宿主動物に移して雌のウシの受精を可能にするために適切な十分な量のドナーウシ精原幹細胞を迅速且つ簡便に生産することを可能にする。同様に、本発明は、絶滅寸前の種の集団の復元における補助のため、又は繁殖プログラムにおける使用のための、他の農業的に価値のある精原幹細胞の調製において非常に価値がある可能性がある。本発明は、トランスジェニック動物の生産に対して非常に価値があるものである可能性がある。
【0018】
本発明に係る粒子は、初期胚、胎児、胎盤、及び臍の緒、並びに身体の成熟組織及び器官で認められる他の種類の幹細胞の増殖の補助においても特に効果的であることが認められた。そのため、本発明は、各種の幹細胞のin vitroにおける増殖のための天然の基底膜又は基底膜様基質の粒子の使用も包含する。
【0019】
使用する特定の幹細胞の種類の起源(すなわち、胚、成体間葉、又は臍帯血)に依存して、広範に細胞分化が変化するであろう。例えば、成体の幹細胞は、胚性幹細胞と比較してより制限された、広範な体細胞種(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞)に分化する能力を有している可能性がある。さらに、臍静脈由来の幹細胞は、臍帯血、臍帯周囲の結合組織(すなわち、ホウォートンゼリー)、並びにこれらの組織の血管周囲の領域のような分化した領域由来の幹細胞を含んでいるであろう。その起源に関係なく、幹細胞は、一般的に、通常の増殖及び分化に関与する重要な細胞であり、自己複製並びに身体中で組織及び器官を再生する能力を有する。
【0020】
細胞に基づく移植、組織工学、又は再生医薬のための幹細胞の使用における基本的な問題は、少数のこれらの細胞を増幅し、これらの細胞をホストに再移植して損傷組織を修復又は再生することを可能にする本来の能力である。本発明は、例えば、体細胞及び精原細胞増殖において使用するための幹細胞の増殖を可能にする物質及び方法を提供する。
【0021】
そのため本発明は、第一の態様では、1つ以上の真核細胞種のin vitroにおける増殖を補助する方法であって、
基底膜又は基底膜様基質を含む粒子に前記細胞種の細胞を播種する工程、及び
前記播種した細胞の増殖に適切な条件下において、前記播種した細胞をin vitroで培養する工程
を含み、前記粒子が約500μm未満の大きさである、方法を提供する。
【0022】
前記方法は、(例えば、未分化幹細胞の増殖のために)細胞のフェノタイプ又はそうでなければ(例えば、幹細胞由来の分化細胞の増殖のための)細胞分化の維持のいずれかが必要とされる、真核細胞のin vitroにおける増殖に有用である。細胞分化は、適切な分化因子の培養物への添加及び/又は細胞分化を促進する培養条件の適用によって誘導されて良い。
【0023】
前記方法で利用する粒子は、約500μm未満の大きさである(すなわち、最大粒径が約500μm未満である)。前記粒子は、形状が不均一であって良く、又は実質的に一定の形状を有して良い(例えば、前記粒子は、実質的に直径が500μm未満の楕円形、又は実質的に長軸径が500μm未満の卵形であって良い)。好ましくは、前記粒子は、約50μmから400μmの平均径を有する。更に好ましくは、前記粒子は約100μmの平均径を有する。
【0024】
前記粒子は、天然の基底膜又は基底膜様基質を含む粒子であって良い。
【0025】
前記粒子が天然の基底膜を含む場合は、前記基底膜は、好ましくは、適切な供給源(例えば、筋肉、皮膚、腎臓、精巣の精細管、肺、胎盤、骨、骨髄、骨/骨髄接触面、血管、血管周囲組織、及び膀胱からなる群から選択されるが、それらに限らない組織)の固定化されていない組織サンプルに由来する。しかしながら、(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、他のジアルデヒド、ビスイミデート、カルボジイミド、リボース、ビス又はポリエポキシド、ビスイソシアネート、及びアシルアジドを含む、当業者に周知の任意の固定化剤を使用して固定化した)適切な供給源の安定化(すなわち、固定化)した組織サンプルに由来する基底膜を使用しても良い。好ましくは、前記基底膜が固定化した組織サンプルに由来する場合は、前記組織サンプルはグルタルアルデヒド又はリボースで固定化されていることが好ましい。
【0026】
好ましくは、天然の基底膜を含む粒子は、酵素(例えば、ペプシン、及び/又はTriton X-00、デオキシコール酸ナトリウム、又はN-オクチルグルコシドのような界面活性剤)のような薬剤で組織サンプルを処理することによって、組織サンプルから基底膜を抽出することによって調製されて良い。次いで、抽出された基底膜は、好ましくは、インタクトな基底膜の粒子(すなわち、断片)を生じる様に処理される。これは、多数の異なる手段によって達成され得る。例えば、乳棒と乳鉢、又は機械ミキサー(例えば、Polytron又はUltra Turrax (IKA Werke, Germany))、液体窒素キャビテーション装置(例えば、Parr Instrument Company)、又は機械的圧縮の使用のような機械的手段によって組織を断片化し、(例えば、篩を用いて)大きさで分画して良い。各種の他の手段が当業者に周知であり、本発明の範囲に含まれるものと解されるであろう。
【0027】
前記粒子が基底膜様基質を含む場合は、前記基底膜様基質は、選択された基底膜合成細胞(すなわち、天然に基底膜において認められるタンパク質、特にコラーゲンタイプIV及びラミニンを合成及び分泌する細胞)によって培養物中で生じる基底膜に類似の構造、及び基底膜成分から「再構築」した規則的な構造から選択されて良い。例えば、内皮細胞、ケラチノサイト、シュヴァン細胞、セルトーリ細胞、骨芽細胞、及びそれらの組み合わせのような基底膜合成細胞を培養することによって、基底膜を適切なビーズ(例えば、Cytodex又はCultispher beads)に付着させて良い。
【0028】
かくして、前記方法は、好ましくは50μmから400μmの範囲の平均径を有する適切な基底膜被覆粒子(例えば、Cytodex、cultispher ビーズ、合成ポリマーの再吸収可能なビーズ/粒子)に基底膜合成細胞を接着させ、基底膜成分の発現及び分泌に適切な条件下で、ビーズに結合した細胞を培養し、それによって少なくとも部分的に基底膜様基質により細胞接着を可能にする厚みで被覆されたビーズを含む粒子を生じさせることを含む、前記細胞を播種する粒子を調製する工程を含んで良い。任意に、前記基底膜合成細胞は、その後に、増殖させようとする細胞を播種する前に、破砕するか又は(例えば、希釈したアンモニア溶液による前記粒子の処理によって細胞を剥離して)前記粒子から除去して良い。
【0029】
代替的に、前記方法は、増殖させようとする細胞及び基底膜合成細胞の双方を適切なビーズに接着させ、基底膜合成細胞による基底膜タンパク質の発現及び分泌に適切な条件下でビーズに結合した細胞を共培養することによって、粒子を調製する工程を更に含んで良い。この方法では、前記方法によって増殖させようとする細胞は、ビーズが少なくとも部分的に基底膜様基質によって被覆されている基底膜様基質を含む粒子に播種される。
【0030】
また、基底膜様基質を含む粒子は、コラーゲンタイプIV及びラミニン分子を集合させて規則的なネットワーク構造を形成させることを可能にする条件下で、個々の基底膜成分を再構築することによって生じさせても良い。この方法で基底膜様構造の粒子を生じさせるための適切な条件は、例えば、少なくとも50μM塩化カルシウムで0.5 mg/mlラミニン溶液を作製して、等重量のコラーゲンタイプIVの溶液を添加し、次いで適切なビーズ(例えば、Cultispher G)を添加し、その混合物を攪拌しながら37度に過熱することによって作り出されて良い。
【0031】
基底膜様基質を含む粒子は、上述のような固定化剤、好ましくはグルタルアルデヒド又はリボースで処理することによって安定化されて良い。
【0032】
前記粒子を含む基底膜又は基底膜様基質は、好ましくは前記方法によって増殖させようとする細胞の細胞種に「適合」する。例えば、精原幹細胞の増殖のためには、基底膜又は基底膜様基質が、好ましくは、精細管において認められる精原幹細胞の天然の局所的な環境を摸倣するニッチを提供する。
【0033】
好ましくは、播種した細胞を培養する工程は、バイオリアクターで実施する。これは、培養表面領域が従来の「静的」な組織培養システム(例えば、組織培養フラスコ中での培養)と比較して少なく制限されるため、より大きな集団の細胞を増殖させるという点で特に利点を有する。
【0034】
本発明の方法において使用する真核細胞は、成熟したフェノタイプを有する細胞(例えば、内皮細胞、皮膚線維芽細胞、筋芽細胞、及び心臓筋芽細胞)であって良く、又は肝細胞のような未発達なフェノタイプの細胞(例えば、胚性幹細胞、成体間葉幹細胞、又は造血幹細胞を含む臍帯血)であっても良い。
【0035】
本発明の特に好ましい実施態様では、基底膜又は基底膜様基質を含む粒子を使用して、制限幹細胞のin vitroにおける増殖を補助する。
【0036】
精子形成の間に、精細管マトリックスは、精原幹細胞の生存、増殖、及び分化の調整において重要な役割を担っている。このニッチにおける主な細胞は、胚芽細胞集団の幹細胞である精原細胞である。精原幹細胞(SCC)は、生涯に亘って精子形成を維持する。これを達成するために、SCCは自己複製して更に幹細胞を生じさせるだけでなく、複雑な経路に従って成熟精子細胞へと分化しなくてはならない。正常な組織の構造及び機能を維持及び再生するために、幹細胞の再生及び分化は厳密に制御される必要がある。一般的には、As(A シングル)精原細胞は、幹細胞に分類される。その細胞は分裂して、2つの独立した新しい幹細胞になるか、又はAペア(Apr)精原細胞として知られる一対の細胞として維持される。これらの細胞は、さらに、次いでA1精原細胞に分化するA整列(Aal)精原細胞として知られる4、8、又は16の細胞の整列した配列に分裂し、6回の分裂後にA2、A3、A4、及び精母細胞を生じさせるB精原細胞を生じさせ得る。種に依存して、この分類は変化するであろう。例えば、ウシでは、SCCはAs及びApr細胞種を含むと解されているが、A1-A4細胞は精原前駆細胞である。真の幹細胞の性質は、例えば移植に使用するためのこれらの細胞の単離及び増殖に重要である。
【0037】
同じニッチ(すなわち、SCCに占められている精細管マトリックス)において、セルトーリ細胞は、基底膜から細管腔に拡大する。基底膜において、セルトーリ細胞は、初代精原細胞と緊密に又は直接接触しているが、距離を隔てて、これらの細胞又はそれらの細胞プロセスは精母細胞及び初期精子細胞周囲で長くなる。本発明のこの実施態様では、そのため、精原幹細胞の増殖のために使用する粒子は、天然の精細管の調製物に由来するか、又は基底膜を「堆積」し得る細胞(すなわち、基底膜合成細胞)、特にセルトーリ細胞によって生じ得る基底膜若しくは基底膜様基質の増殖による。
【0038】
本発明の更にとりわけ好ましい実施態様では、基底膜又は基底膜様基質を含む粒子は、造血幹細胞のin vitroにおける増殖を補助するために使用する。
【0039】
成体間葉幹細胞及び臍帯血は、骨髄中の別々のニッチと関連する造血幹細胞(HSC)を含む。HSCの増殖及び分化が制御されるこれらのニッチは、内皮系の洞、供給血管、及び脂肪細胞、並びに骨芽細胞を含む骨内膜接触面を含む。細胞間シグナルに加えて、これらの分化したニッチ細胞は、細胞マトリックス相互作用に関与するマトリックスタンパク質を生じ得る。かくして、この実施態様では、造血幹細胞の増殖に使用する粒子は、骨髄に由来する天然の基底膜の調製物に由来するか、又は適切な基底膜合成細胞、特に骨芽細胞によって生産される基底膜様基質の増殖によるものであって良い。
【0040】
本発明の方法に従って増殖した細胞は、当業者に周知の任意の方法によって(例えば、トリプシン、ヴェルセン、ジスパーゼ、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、又はそれらの組み合わせによって)粒子から除去されて良い。
【0041】
第二の態様では、本発明は、本発明の第一の態様の方法によって増殖した真核細胞の集団を提供する。
【0042】
第二の態様の真核細胞は、成熟したフェノタイプ(例えば、内皮細胞、皮膚線維芽細胞、筋芽細胞、及び心臓筋芽細胞)の細胞であって良いが、好ましくは幹細胞(例えば、胚性幹細胞、成体間葉幹細胞、又は精原幹細胞及び造血幹細胞を含む臍帯血)であって良い。さらに好ましくは、真核細胞は精原幹細胞(例えば、ウシ、ヒツジ、ウマ、ネコ、イヌ、及びヤギの精原幹細胞からなる群から選択される精原幹細胞)又は造血幹細胞(例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、ネコ、及びヤギの造血幹細胞)からなる群から選択される造血幹細胞である。
【0043】
第三の態様では、本発明は、基底膜様基質に少なくとも部分的に被覆されたビーズを含む、約500μm未満の大きさの粒子の調製物を提供する。
【0044】
第四の態様では、本発明は、天然の基底膜を含む、約500μm未満の大きさの粒子の調製物を提供する。
【0045】
本発明の性質をより明確に理解するために、本発明の好ましい形態を、以下の制限されない実施例を参照して記載する。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
精巣からの基底膜の単離
新しいウシの精巣を畜殺場から得た。外側の膜を除去した後に、精細管を含む組織を約5×5×5mmの切片にする。ペプシン(0.5mg/ml終濃度)を、100mM酢酸中でpH2.5で前記組織切片に添加して、1から4日間に亘って前記組織を消化する。次いで、消化した組織を簡易的な遠心分離で回収して、リン酸干渉生理食塩水(PBS)で複数回洗浄し、簡易的な遠心分離又は静置して回収した。洗浄したサンプルを、シリウスレッドによる染色を用いる組織学、及びラミニン及びコラーゲンタイプIVに対する抗体を使用する基底膜成分の存在を試験するための免疫組織学によって試験した。図1参照。
【0047】
(実施例2)
腎臓からの基底膜の単離
新しいウシの腎臓を畜殺場から得た。外側の膜を除去した後に、糸球体を含む組織を約5×5×5mmの切片にして、実施例1に挙げた手法で処理した。
【0048】
(実施例3)
肺からの基底膜の単離
新しいウシの肺を畜殺場から得た。主要な気管支を含む付着した組織を除去した後に、主に肺胞を含む組織を約5×5×5mmの切片にして、実施例1で挙げた手法に従って基底膜粒子の単離のために処理した。
【0049】
(実施例4)
精巣からの基底膜の代替的な単離
新しいウシの精巣を畜殺場から得た。外泡の膜を除去した後に、精細管を含む組織を約5×5×5mmの切片にして、ステンレススチールワイヤメッシュで細断して、組織を破砕し、プロテアーゼインヒビターカクテルを含むPBSを連続的に注ぎながら細胞を剥離させた。前記細管をメッシュ上に保持した。サンプルを、プロテアーゼインヒビターカクテルを含む過剰なPBS中に懸濁して、洗浄し、3回沈殿させて回収した。洗浄したサンプルをシリウスレッドによる染色を用いる組織学、及びラミニン及びコラーゲンタイプIVに対する抗体を使用する基底膜成分の存在を試験するための免疫組織学によって試験した。
【0050】
(実施例5)
腎臓からの基底膜の代替的な単離
新しいウシの腎臓を畜殺場から得た。外側の膜を除去した後に、糸球体を含む組織を約5×5×5mmの切片にして、実施例4で挙げた手法に従って処理した。
【0051】
(実施例6)
肺からの基底膜の代替的な単離
新しいウシの肺を畜殺場から得た。主要な気管支を含む外側の組織を除去した後に、主に肺胞組織を含む組織を約5×5×5mmの切片にして、実施例4で挙げた手法に従って基底膜粒子の単離のために処理した。
【0052】
(実施例7)
組織からの基底膜の単離
新しい精巣、腎臓、又は肺組織を畜殺場から得て、実施例1、2、3に記載したように5×5×5mmの切片にした。0.1% Triton X-100(又は1%デオキシコール酸ナトリウム若しくは25mM N-オクチルグルコシド)をPBS及びプロテアーゼインヒビターカクテルに添加した以外は、基底膜組織を実施例4に記載のように調製した。2回の最終的な洗浄において、界面活性剤を除外した。
【0053】
(実施例8)
筋肉からの基底膜の単離
新しいウシの骨格筋を畜殺場から得た。任意の脂肪及び繊維状組織を除去した後に、約8×8×8の切片にして、100mMの中性のリン酸緩衝液(pH7.3)中の2.5%グルタルアルデヒドに80時間に亘って浸漬させた。次いで、固定化した組織を攪拌せずに10%w/v NaOHに浸漬させた。固定化してアルカリ処理した組織を、次いで、過剰な水(24時間ごとに交換する)に1週間に亘って浸漬させたが、いずれの乱暴な機械的処理も避けた。スポンジ状の物質を形成したインタクトな架橋させた基底膜組織を走査型電子顕微鏡及び組織学によって試験した。
【0054】
(実施例9)
基底膜粒子の導出
例えば実施例1から8に挙げた方法の1つによって単離した基底膜サンプルを、Ultra Turrax blender (IKA Werke, Germany)の使用による機械的作用をさらに用いて断片化した。結果として得られた懸濁物を顕微鏡によって試験して、存在する粒子の大きさを測定した。前記粒子は、最大で500μmの大きさを有していることを観察した。図2参照。
【0055】
(実施例10)
基底膜粒子の代替的な導出
例えば実施例1から8に挙げた方法の1つによって単離した基底膜サンプルを、液体窒素で凍結させて、例えば乳棒と乳鉢等による機械的作用によってさらに断片化した。液体窒素を蒸発させた後、前記粒子を乾燥した環境下で室温に戻し、顕微鏡で試験して存在する粒子のサイズを測定した。前記粒子は、最大で500μmの大きさを有していることを観察した。
【0056】
(実施例11)
基底膜粒子の更なる代替的な導出
例えば実施例1から8に挙げた方法の1つによって単離した基底膜サンプルを、気体性(液体窒素)キャビテーション装置を使用する機械的作用をさらに用いて断片化した。結果として得られた粒子を顕微鏡で試験して、粒子の大きさを測定した。前記粒子は、最大で500μmの大きさを有していることを観察した。
【0057】
(実施例12)
基底膜粒子の分画
実施例9から11に記載したような方法によって製造した基底膜粒子は、適当なサイズのメッシュふるいを使用して所望のサイズの粒子を与えるために分画され得る。例えば、約100μmの平均最大径を有する粒子を製造するために、140μmのふるいに粒子を連続的に通し、70μmのふるいによって粒子を保持することによって分画されて良い。製品の統一性は顕微鏡によって試験され得る。
【0058】
(実施例13)
基底膜粒子の代替的な分画
実施例9から11に記載したような方法によって製造した基底膜粒子は、過剰なPBSから沈殿させて、沈殿させている間に水性画分を回収することによって所望のサイズの粒子を与えるために分画され得る。次いで、粒子は簡易的な遠心分離によって回収され得る。製品の統一性は顕微鏡によって試験され得る。
【0059】
(実施例14)
基底膜粒子上における精原幹細胞の培養
実施例12及び13で挙げた方法に従って調製した基底膜粒子を細胞培養基質として使用した。前記粒子の平均最大径は約100μmであった。1%ペニシリン(Gibco, USA)を含有するDMEM/F12-10%ウシ胎仔血清(Gbco, USA; JRH Biosciences, USA)中の新しいウシ精巣由来の精原幹細胞を豊富に含む調製物を、前記粒子に添加して、断続的に攪拌しながら細胞を4時間接着させた。次いで、連続的な回転培養システム(Techne, USA)中で、50mlの培地中に5×105細胞/150mg粒子の初期密度を使用して、播種した粒子を培養した。図3参照。
【0060】
(実施例15)
基底膜粒子上におけるセルトーリ細胞の培養
実施例12及び13で挙げた方法に従って調製した基底膜粒子を、細胞培養基質として使用した。前記粒子の平均最大径は100μmであった。1%ペニシリン(Gibco, USA)及びストレプトマイシン(Gibco, USA)を含有するDMEM/F12-10%ウシ胎仔血清中の新しいウシ精巣由来又は細胞株TM4(American Tissue Culture Collection; CRL-1715)としてのセルトーリ細胞の調製物を前記粒子に添加して、断続的に攪拌しながら細胞を4時間接着させた。播種した粒子を、次いで、実施例14に記載のように連続的な回転培養システムで培養した。
【0061】
(実施例16)
基底膜粒子上における内皮細胞の培養
実施例12及び13で挙げた方法に従って調製される基底膜粒子を、細胞培養基質として使用した。前記粒子の平均最大径は100μmであった。1%ペニシリン及びストレプトマイシン並びにECGS(内皮細胞成長サプリメント、60μg/ml)(ECGS; Sigma, USA)を含有するM199培地(Gibco, USA)及び10%ウシ胎仔血清(JRH Biosciences, USA)中のヒト臍静脈から単離された内皮細胞の調製物を前記粒子に添加して、断続的に攪拌しながら細胞を4時間接着させた。播種した粒子を、次いで、実施例14に記載のように連続的な回転培養システムで培養した。
【0062】
(実施例17)
基底膜粒子上における間葉細胞の培養
実施例12及び13で挙げた方法に従って調製される基底膜粒子を、細胞培養基質として使用した。前記粒子の平均最大径は100μmであった。1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有するDMEM/F12-10%ウシ胎仔血清中の間葉細胞調製物を前記粒子に添加して、断続的に攪拌しながら細胞を4時間接着させた。播種した粒子を、次いで、実施例14に記載のように連続的な回転培養システムで培養した。
【0063】
(実施例18)
内皮細胞を使用するビーズ上における基底膜様基質の生産
ヒト臍静脈に由来する内皮細胞を、175μm Cytodex 3ビーズ(Ameersham Pharmacia Biotech, Sweden)に添加して、断続的に攪拌しながら4時間接着させた。ビーズに結合した細胞を、次いで、1%ペニシリン及びストレプトマイシン並びにECGS(内皮細胞成長サプリメント、60μg/ml)(Sigma)を含有するM119培地(Gibco, USA)及び10%ウシ胎仔血清中で、連続的な回転培養システムにおいて、0.05mg/mlの終濃度でアスコルビン酸ナトリウムを毎日添加しながら培養した。5日後に、基底膜様基質で被覆されたビーズを単離し、希釈したアンモニア溶液を使用する処理によって細胞を剥がした。任意に、基底膜様基質を、0.1%グルタルアルデヒド又は他の固定化システムを使用する処理によって安定化した。図4参照。
【0064】
(実施例19)
セルトーリ細胞を使用するビーズ上における基底膜様基質の生産
細胞株TM4(American Tissue Culture Collection; CRL-1715)としてのセルトーリ細胞を、260μm Cultispher-Sビーズ(130から380μmの範囲)(Sigma, USA)に添加して、断続的に攪拌しながら4時間接着させた。ビーズに結合した細胞を、次いで、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する10%ウシ胎仔血清を含むDMEM-F12において連続的な回転培養システムで、アスコルビン酸ナトリウムを毎日添加しながら培養した。5日後、基底膜様基質に被覆されたビーズを単離して、希釈したアンモニア溶液を使用する処理で細胞を剥がした。任意に、基底膜様基質を、0.1%グルタルアルデヒド又は他の固定化システムを使用する処理によって安定化した。図5参照。
【0065】
(実施例20)
セルトーリ細胞を使用する再吸収可能なビーズ上における基底膜様基質の生産
細胞株TM4(American Tissue Culture Collection; CRL-1715)としてのセルトーリ細胞を、PLGAビーズに添加した。PLGAビーズはエマルション法によって作製した。つまり、ジクロロメタン中のPLGAの10%(w/v)溶液を、1%(w/v)ポリ(ビニルアルコール)を含有する水溶液に攪拌してエマルション化させた。PLGAビーズを静置させて、デカンテーションによって水で5回洗浄した。丸い形状の透明なビーズが、47μm及び210μmの各々の大きさのふるいを用いることによって最終的に分画された。ふるいにかけたPLGAビーズの平均最大径は約125μm(47から210μmの範囲)であった。細胞を、断続的に攪拌しながら4時間接着させた。ビーズに結合した細胞は、次いで、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する10%ウシ胎仔血清を含むDMEM-F12中で、連続的な回転培養システムにおいて、アスコルビン酸ナトリウムを毎日添加しながら培養した。5日後に、基底膜様基質に被覆されたビーズを単離して、希釈したアンモニア溶液を使用する処理で細胞を剥がした。任意に、基底膜様基質を、0.1%グルタルアルデヒド又は他の固定化システムを使用する処理によって安定化した。
【0066】
(実施例21)
骨芽細胞を使用するビーズ上における基底膜様基質の生産
骨髄から単離した初代細胞であるか又は確立した細胞株としての骨芽細胞を、260 μm Cultispher-Sビーズ(130から380μmの範囲)(Sigma, USA)に添加して、断続的に攪拌しながら4時間接着させた。ビーズに結合した細胞を、次いで、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する10%ウシ胎仔血清を含むDMEM-F12において連続的な回転培養システムで、アスコルビン酸ナトリウムを毎日添加しながら培養した。5日後、基底膜様基質に被覆されたビーズを単離して、希釈したアンモニア溶液で細胞を剥がした。任意に、基底膜様基質を、0.1%グルタルアルデヒド又は他の固定化システムを使用する処理によって安定化した。
【0067】
(実施例22)
基底膜様基質で被覆されたビーズ上における精原幹細胞の増殖
新しいウシ精巣から単離した精原幹細胞を、実施例19に従って調製した基底膜様基質で被覆されたCultispherビーズに播種して、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する10%ウシ胎仔血清を含むDMEM-F12中で、連続的な回転培養システムにおいて培養した。細胞増殖は、顕微鏡で観察した。
【0068】
(実施例23)
基底膜様基質で被覆されたビーズ上における造血幹細胞の増殖
新しいヒト骨髄から単離した造血幹細胞(HSC)を、実施例21に従って調製した基底膜様基質で被覆されたCultispherビーズに播種して、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する10%ウシ胎仔血清を含むDMEM-F12中で、連続的な回転培養システムにおいて培養した。細胞増殖は、顕微鏡で観察した。
【0069】
本明細書を通じて、用語「含む」は、示される要素、整数、若しくは工程、又は要素、整数、若しくは工程の群の含有を示すものとして理解されるであろう。
【0070】
本明細書で挙げた全ての文献は、参照することによって本面最初に取り込む。本明細書に含めた文献、文書、原料、装置、論文などの任意の議論は、単に本発明の背景を提供するためのものである。これらの事項のいずれか又は全てが先行技術の一部を形成し、又は本願の優先日前にオーストラリア又は他の場所で本発明に関連する技術分野において一般的な通常の知識であったと認められるべきではない。
【0071】
当業者であれば、広範に記載した本発明の精神又は範囲を逸脱すること無く、特定の実施態様に示されるような本発明に対して、多数の変形例及び/又は修飾例が作製されて良いことが理解されるであろう。本実施態様は、したがって、あらゆる点で例示として解されるべきであり、限定的に解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、実施例1に記載の方法に従ってウシ精細管から単離した基底膜から調製した本発明に係る粒子の写真を示す。
【図2】図2は、実施例1に記載の方法に従ってウシ精細管から単離して、分画前に実施例9に記載の機械的作用によって断片化した基底膜物質から調製した本発明に係る粒子の写真を示す。
【図3】図3は、実施例1に挙げた方法に従って調製して、実施例9に記載の機械的作用で粒子へと処理した基底膜粒子の写真を示す。これらの粒子を、実施例14に記載の精原幹細胞についての細胞培養基質として使用した。
【図4】図4は、Cytodex 3ビーズ上において増殖した内皮細胞から生産された基底膜様基質の存在を示す。前記基質を、コラーゲンタイプIVの存在について免疫染色することによって示した。
【図5】図5は、コラーゲンタイプIVの存在についての免疫染色によって示される、Cultispher-Sビーズ上において増殖したセルトーリ細胞から生産された基底膜様基質の存在を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の真核細胞種のin vitro増殖を補助するための方法であって、
基底膜又は基底膜様基質を含む粒子に前記細胞種の細胞を播種する工程、及び
前記播種した細胞の増殖に適切な条件下で、前記播種した細胞をin vitroで培養する工程
を含み、前記粒子が約500μm未満の大きさである、方法。
【請求項2】
前記粒子が、約50μmから400μmの範囲の平均径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子が約100μmの平均径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子が天然の基底膜を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記天然の基底膜が精細管に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記天然の基底膜が、骨髄組織又は骨/骨髄接触面に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記天然の基底膜が、血管、血管周囲の組織、胎盤、肺、及び皮膚からなる群から選択される組織に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記粒子が、少なくともコラーゲンタイプIV及びラミニンからなる規則的に相互作用する分子のネットワークを含む基底膜様基質を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、前記細胞が播種されている粒子の調製をさらに含み、前記調製が、基底膜合成細胞を適切なビーズに接着させて、基底膜成分の発現及び分泌に適切な条件下でビーズに結合した細胞を培養することによって、基底膜様基質に少なくとも部分的に被覆されたビーズを含む粒子を生産する工程を含む、請求項1から3及び8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基底膜合成細胞が、前記細胞を播種する前に前記粒子から除去されるか又は破砕される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基底膜様基質が安定化されている、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記基底膜様基質が、グルタルアルデヒド及びリボースから選択される固定化剤を使用する処理によって安定化される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記基底膜合成細胞が、増殖させようとする細胞とビーズ上で共培養される、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基底膜合成細胞が、内皮細胞、ケラチノサイト、シュヴァン細胞、セルトーリ細胞、骨芽細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記播種した細胞の培養が、バイオリアクターにおいて実施される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記播種した細胞が成熟したフェノタイプのものである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記播種した細胞が、内皮細胞、皮膚の線維芽細胞、筋芽細胞、及び心臓筋芽細胞からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記播種した細胞が、未発達なフェノタイプのものである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記播種した細胞が、胚性幹細胞、成体間葉幹細胞、及び臍帯血細胞から成る群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記播種した細胞が精原幹細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記播種した細胞が造血幹細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記基底膜合成細胞がセルトーリ細胞であり、前記播種した細胞が精原幹細胞である、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記基底膜合成細胞が骨芽細胞であり、前記播種した細胞が造血幹細胞である、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に記載の方法によって増殖した真核細胞の集団。
【請求項25】
基底膜様基質に少なくとも部分的に被覆されたビーズを含む、約500μm未満の大きさの粒子の調製物。
【請求項26】
前記粒子が約50μmから400μmの範囲の平均径を有する、請求項25に記載の調製物。
【請求項27】
前記粒子が約100μmの平均径を有する、請求項25又は26に記載の調製物。
【請求項28】
前記基底膜様基質が、少なくともコラーゲンタイプIV及びラミニンからなる規則的に相互作用する分子のネットワークを含む、請求項25から27のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項29】
前記粒子が、基底膜合成細胞を適切なビーズに接着させて、基底膜タンパク質の発現及び分泌に適切な条件下でビーズに結合した細胞を培養することを含む工程によって調製される、請求項25から28のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項30】
前記基底膜合成細胞がセルトーリ細胞である、請求項29に記載の調製物。
【請求項31】
前記基底膜合成細胞が骨芽細胞である、請求項29に記載の調製物。
【請求項32】
天然の基底膜を含む、約500μm未満の大きさを有する粒子の調製物。
【請求項33】
前記粒子が約50から400μmの範囲の平均径を有する、請求項32に記載の調製物。
【請求項34】
前記粒子が約100μmの平均径を有する、請求項32又は33に記載の調製物。
【請求項35】
前記天然の基底膜が精細管に由来する、請求項32から34のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項36】
前記天然の基底膜が、骨髄組織又は骨/骨髄接触面に由来する、請求項32から34のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項37】
前記天然の基底膜が、血管、血管周囲の組織、胎盤、肺、及び皮膚からなる群から選択される組織に由来する、請求項32から34のいずれか一項に記載の調製物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−541734(P2008−541734A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513864(P2008−513864)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000708
【国際公開番号】WO2006/128216
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】