説明

基材をフルオロポリマー分散液で被覆する方法

本発明は、フルオロポリマー層によって規定される表面を有する基材を被覆する方法を提供する。本方法は、30〜70重量%の量の溶融加工できるフルオロポリマー粒子と、水性分散液のフルオロポリマー固形分に対して250ppm以下の量のフッ素化界面活性剤と、水性分散液の全固形分に対して2〜15重量%の量の、エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤と、を含む水性分散液を利用する。水性分散液は、芳香族基を含む非イオン性界面活性剤を含まない、または実質的に含まない。水性分散液を、場合によっては追加の成分で希釈および/または改変して、コーティング組成物を得ることができる。次いで、コーティング組成物を基材の表面の少なくとも一部分に塗布して、フルオロポリマー層を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマー層によって規定される表面を有する基材を被覆する方法を提供する。詳細には、本発明は、溶融加工できるフルオロポリマー、より具体的には熱可塑性フルオロポリマーで基材を被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー、すなわちフッ素化主鎖を有するポリマーは、知られて久しく、耐熱性、耐薬品性、耐候性、UV安定性などいくつかの望ましい特性のため、様々な用途で使用されている。様々なフルオロポリマーは、例えば(非特許文献1)に記載されている。フルオロポリマーは、部分フッ素化、一般には少なくとも40重量%フッ素化主鎖、または完全フッ素化主鎖を有する。フルオロポリマーの具体的例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマー(FEPポリマー)、パーフルオロアルコキシコポリマー(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのターポリマー(THV)、およびポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)がある。
【0003】
基材に例えば耐薬品性、耐候性、耐付着防止性、撥汚染性、撥水性、および撥油性など望ましい特性を提供するために、フルオロポリマーを使用して被覆することができる。例えば、フルオロポリマーの水性分散液を使用して、台所用品を被覆し、布地またはテキスタイル、例えばガラス布地に含浸させ、紙またはポリマー基材を被覆することができる。フルオロポリマーコーティングを厚く塗布しすぎた場合に生じる恐れがある問題、具体的には亀裂形成を防止するために、多層コート被覆系も、提案されている。
【0004】
フルオロポリマーの水性分散液を生成するための頻繁に使用されている方法は、1つまたは複数のフッ素化モノマーの水性乳化重合と、通常はその後に続いて、乳化重合後に得られた生分散液の固形分を増大させる濃縮(upconcentration)ステップとを含む。フッ素化モノマーの水性乳化重合は、一般にフッ素化界面活性剤を使用するものである。頻繁に使用されているフッ素化界面活性剤には、パーフルオロオクタン酸およびその塩、具体的にはパーフルオロオクタン酸アンモニウムが含まれる。別の使用されるフッ素化界面活性剤としては、パーフルオロポリエーテル界面活性剤がある。
【0005】
35〜65重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびPTFEに対して2〜10重量%のポリオキシエチレンアルキルエーテル非イオン性界面活性剤を含有するPTFE分散液は、芳香族基を含む界面活性剤を含まず、なおかつ室温における粘度が低いので、良好な被覆特性を有するという利点を提供している。しかし、分散液は、フッ素化界面活性剤を使用して調製されることが明らかであり、したがって多量のフッ素化界面活性剤を有していると考えられる。
【0006】
パーフルオロオクタン酸やパーフルオロスルホン酸など、水性乳化重合で通常使用されるフッ素化界面活性剤は、高価で、かつ環境的に不利である。したがって、フッ素化低分子量界面活性剤を水性分散液から完全になくす、あるいは水性分散液中のその量を少なくとも最小限に抑える措置が取られている。例えば、フッ素化界面活性剤の一部分を限外濾過によって除去する方法が、通常は認識されている。後者の場合、分散液中のフルオロポリマー固形分の量も増大させる、すなわちフッ素化界面活性剤を除去しながら分散液を濃縮する。さらに、フッ素化界面活性剤の量は、フルオロポリマー分散液をアニオン交換体と接触させることによって低減することができる。
【0007】
しかし、低減された量のフッ素化界面活性剤を有する、またはフッ素化界面活性剤を含まないフルオロポリマー分散液は、特定の状況においていくつかの不利益または望ましくない特性をもたらす恐れがある。例えば、分散液を濃縮する場合に観察されることがある望ましくない粘度上昇を回避するために、炭化水素系アニオン界面活性剤を、フッ素化界面活性剤を含まない、または実質的に含まないフルオロポリマー分散液に添加することが利用できる。
【0008】
現在、フッ素化界面活性剤を全くまたは少量しか含まない溶融加工できるフルオロポリマーの水性分散液は、特にフルオロポリマー層によって規定される表面などの低エネルギー表面上で不十分な濡れ性を示す恐れがあることも観察されている。したがって、フルオロポリマー層によって規定される表面の被覆は、このような分散液の問題を提起する恐れがある。
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1059342号明細書
【特許文献2】欧州特許第712882号明細書
【特許文献3】欧州特許第752432号明細書
【特許文献4】欧州特許第816397号明細書
【特許文献5】米国特許第6,025,307号明細書
【特許文献6】米国特許第6,103,843号明細書
【特許文献7】米国特許第6,126,849号明細書
【特許文献8】米国特許第5,229,480号明細書
【特許文献9】米国特許第5,763,552号明細書
【特許文献10】米国特許第5,688,884号明細書
【特許文献11】米国特許第5,700,859号明細書
【特許文献12】米国特許第5,804,650号明細書
【特許文献13】米国特許第5,895,799号明細書
【特許文献14】国際公開第00/22002号パンフレット
【特許文献15】国際公開第00/71590号パンフレット
【特許文献16】国際公開第00/35971号パンフレット
【特許文献17】DE第100 18 853号明細書
【特許文献18】米国特許第4,369,266号明細書
【特許文献19】GB第642,025号明細書
【特許文献20】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献21】欧州特許第818 506号明細書
【特許文献22】国際公開第02/78862号パンフレット
【特許文献23】国際公開第94/14904号パンフレット
【特許文献24】欧州特許第22257号明細書
【特許文献25】米国特許第3,489,595号明細書
【非特許文献1】ジョン・シアーズ(John Scheirs)編「最新フルオロポリマー(Modern Fluoropolymers)」ワイリー・サイエンス(Wiley Science)、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、上述の問題を解決または緩和することが望ましいはずである。このような解決は、環境に優しく、費用効果が高く、かつ既存の被覆方法およびそれで使用する成分と適合することが望ましい。溶融加工できるフルオロポリマーの分散液で、操作条件、具体的には周囲条件に関して商業的に実現可能な範囲にわたって良好な被覆特性を得ることが望ましいはずである。本発明によってもたらされる解決は、フッ素化界面活性剤を多量に含有する分散液で得られるものと類似しているまたはそれより良好である良好な塗膜形成特性を有するコーティングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、フルオロポリマー層によって規定される表面を有する基材を被覆する方法であって、
(i)(a)30〜70重量%の量の溶融加工できるフルオロポリマー粒子;
(b)水性分散液のフルオロポリマー固形分に対して250ppm以下の量のフッ素化界面活性剤;
(c)水性分散液の全固形分に対して2〜15重量%の量の、エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤を含み、
かつ芳香族基を含む非イオン性界面活性剤を含まない、または実質的に含まない水性分散液を提供するステップ;
(ii)コーティング組成物が得られるように、場合によっては前記分散液を希釈し、および/またはそれに別の成分を添加するステップ;
(iii)前記コーティング組成物を、前記フルオロポリマーの前記層によって規定される前記基材の前記表面の少なくとも一部分に塗布するステップを含む方法を提供する。
【0012】
「溶融加工できる」という用語は、フルオロポリマーを、ガラス転移温度より十分に高く、または半晶質の場合には溶融温度より高く加熱すると流動し、冷却すると固体になるという意味である。さらに、フルオロポリマーは、その溶融状態で、従来型の溶融加工装置によって加工できるべきである。
【0013】
本明細書では「フルオロポリマー層」という用語は、フルオロポリマーのみからなる層だけでなく、フルオロポリマーおよびオプションの別の成分を含む層も包含するように意図されている。一般に、フルオロポリマー層は、フルオロポリマー層の重量に対して少なくとも10重量%の量、好ましくは少なくとも30重量%の量のフルオロポリマーを含む。
【0014】
「芳香族基を含む非イオン性界面活性剤を実質的に含まない」という用語は、一般に、このような界面活性剤は、分散液の被覆特性に悪影響をもたらすであろう量では存在しないという意味である。一般に、芳香族基を含む非イオン性界面活性剤の量は、非イオン性界面活性剤の全重量に対して0.1重量%超であるべきでなく、好ましくは0.05重量%以下であるべきである。
【0015】
エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤を使用すると、特にフルオロポリマー層によって規定されるエネルギー表面上で良好な濡れ性を有する水性分散液が提供される。さらに、乾燥した後、優れた塗膜形成特性を、被覆対象の表面を規定するフルオロポリマー層を有する様々な基材上で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
水性分散液中で使用する非イオン性界面活性剤は、エトキシ化脂肪族アルコールを含む。本発明に関連して特定の実施形態によれば、非イオン性界面活性剤は、式(I):
1−O−[CH2CH2O]n−R2 (I)
(式中、R1は、少なくとも6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基を表し、R2は、水素またはC1〜C3アルキル基を表し、nは、2〜40、好ましくは3〜25、より好ましくは5〜12の値である)
に対応する。
【0017】
脂肪族炭化水素基R1には、少なくとも6個の炭素原子、好ましくは6〜40個の炭素原子、より好ましくは8〜18個の炭素原子を有する飽和および不飽和の脂肪族基が含まれる。このような脂肪族基は、直鎖状でも、分枝状でもよく、環状構造を含むことがある。脂肪族炭化水素基は、芳香族基を含むべきでない、または実質的に含むべきでない。構造中に芳香族環を含まないエトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤は、熱分解時に有害な有機芳香族化合物に転換せず、大気汚染を生じないので、環境的に許容できるものである。
【0018】
エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤は、一般に水性分散液中の固形分の全重量に対して2重量%〜15重量%の量で水性分散液中に存在している。
【0019】
エトキシ化脂肪族アルコールを含むいくつかの非イオン性界面活性剤は、市販されており、例えばクラリアント(Clariant GmbH)から市販されている、約8個のエトキシ基でイソトリデカノールエトキシ化されているジェナポル(Genapol)(登録商標)X−080;約7個および8個のエトキシ基でそれぞれウンデシルエトキシ化されているジェナポル(Genapol)(登録商標)UD−070およびUD−080;ダウ(Dow)から市販されている、第二級アルコールエトキシレートであるタージトール(TERGITOL)(商標)15−S、および分枝状第二級アルコールエトキシレートであるタージトール(TERGITOL)(商標)TMNがある。
【0020】
水性分散液中のフルオロポリマーは、溶融加工できるフルオロポリマーである。フルオロポリマーは、通常はテトラフルオロエチレン(TFE)やクロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのフルオロオレフィンに由来する繰返し単位、および別のフッ素化モノマーおよび/または非フッ素化モノマーなど少なくとも1つのコモノマーに由来する繰返し単位を含む。フッ素化コモノマーの例としては、例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ素化アリルエーテル、およびフッ素化ビニルエーテル、具体的には過フッ素化ビニルエーテル(PVE)、フッ化ビニリデン、およびフッ化ビニルなどのパーフルオロアルキルビニルモノマーが挙げられる。非フッ素化コモノマーの例としては、エチレンやプロピレンなどのオレフィンが挙げられる。
【0021】
PVEモノマーの特定の例としては、次式:
CF2=CF−O−Rf (II)
(式中、Rfは、1つまたは複数の酸素原子を含んでもよい過フッ素化脂肪族基を表す)
に対応するものが挙げられる。好ましくは、パーフルオロビニルエーテルは、次の一般式:
CF2=CFO(R1fO)n(R2fO)m3f (II)
(式中、R1fおよびR2fは、2〜6個の炭素原子の異なる直鎖状または分枝状のパーフルオロアルキレン基であり、mおよびnは独立に、0〜10であり、R3fは、1〜6個の炭素原子のパーフルオロアルキル基である)
に対応する。上記の式によるパーフルオロビニルエーテルの例としては、パーフルオロ−n−プロピルビニルエーテル(PPVE−1)、パーフルオロ−2−プロポキシプロピルビニルエーテル(PPVE−2)、パーフルオロ−3−メトキシ−n−プロピルビニルエーテル、パーフルオロ−2−メトキシ−エチルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、およびCF3−(CF22−O−CF(CF3)−CF2−O−CF(CF3)−CF2−O−CF=CF2が挙げられる。
【0022】
使用することができるフッ素化アルキルビニルモノマーには、一般式:
CF2=CF−R4f (III) または
CH2=CH−R4f (IV)
(式中、R4fは、1〜10個、好ましくは1〜5個の炭素原子のパーフルオロアルキル基を表す)
に対応するものが含まれる。典型的な例は、ヘキサフルオロプロピレンである。
【0023】
溶融加工できるフルオロポリマーは、非晶質フルオロポリマー(当技術分野でエラストマーとしても知られている)でも、半晶質フルオロポリマー(当技術分野でフルオロサーモプラスト(fluorothemoplast)としても知られている)でもよい。特に適切な溶融加工できるフルオロポリマーには、半晶質フルオロポリマーが含まれる。半晶質フルオロポリマーまたはフルオロサーモプラストは、一般に顕著な溶融ピークを有し、かつ一般に結晶性を有するポリマーである。通常は、フルオロサーモプラストは、100〜330℃、好ましくは140〜310℃の融点を有する。フルオロサーモプラストの例としては、主としてTFE、およびある量、例えば1〜50、好ましくは1〜10mol%の1つまたは複数のコモノマーからなるコポリマーが挙げられる。フルオロサーモプラストの例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)とエチレンの半晶質コポリマー(ETFE)、TFEとHFPのコポリマー(FEP)、TFE、HFPおよびVDFのコポリマー(THV)、PPVE−1(PFA)などのTFEとフルオロアルコキシコモノマーのコポリマー、ならびにTFE、E、HFPおよびビニルエーテルのコポリマーが挙げられる。溶融加工できるフルオロエラストマーの例としては、例えばTFEとPVEのコポリマー、およびVDFとHFPのコポリマーが挙げられる。
【0024】
水性分散液は、溶融加工できるフルオロポリマー粒子を含有する。一般に、溶融加工できるフルオロポリマーの平均粒度は、30〜400nm、通常は40〜350nmである。本発明の方法に使用するための水性分散液は、一般にフッ素化モノマーの水性乳化重合から生じることができる溶融加工できるフルオロポリマーのいわゆる生分散液から出発することにより得られる。乳化重合では、フッ素化モノマーおよび場合によっては別の非フッ素化コモノマーを、水相中、一般にラジカル開始剤およびフッ素化界面活性剤、好ましくは非テロゲン性界面活性剤の存在下で重合する。フッ素化モノマーの水性乳化重合での使用に適していると知られているフッ素化界面活性剤はどれでも使用することができる。特に適切なフッ素化界面活性剤は、通常は非テロゲン性であるフッ素化アニオン界面活性剤であり、次式:
Q−R5f−Z−Ma (V)
(式中、Qは、水素、Cl、またはFを表し、それによってQは末端の位置に存在しても、しなくてもよく;R5fは、4〜15個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の過フッ素化アルキレンを表し;Zは、COO-またはSO3-を表し、Maは、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンを含めて、カチオンを表す)
に対応するものが含まれる。
【0025】
上記の式(V)による界面活性剤の代表例は、パーフルオロオクタン酸およびその塩、具体的にはアンモニウム塩などのパーフルオロアルカン酸およびその塩である。使用することができる別のフッ素化界面活性剤には、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、および(特許文献7)に開示されているようなパーフルオロポリエーテル界面活性剤が含まれる。使用されているさらに別の界面活性剤は、(特許文献8)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)、および(特許文献15)に開示されている。
【0026】
水性乳化重合で通常は使用されるフッ素化界面活性剤の存在に対して引き起こされたいくつかの環境への懸念のため、かつこのような界面活性剤はかなり高価であるため、フッ素化界面活性剤を水性フルオロポリマー分散液から除去し、回収するための方法が開発されている。フルオロポリマーの水性分散液中のフッ素化界面活性剤の量を、いくつかの方式で低減することができる。
【0027】
フッ素化界面活性剤の量を低減するための一実施形態によれば、例えば上記に開示されているようなエトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤を、フルオロポリマー分散液に添加し、次いでフルオロポリマー分散液を、アニオン交換体と接触させる。このような方法は、(特許文献16)に詳細に開示されている。アニオン交換プロセスは、本質的に塩基性条件で実施することが好ましい。したがって、イオン交換樹脂は、フルオリドまたはスルフェートのようなアニオンも使用することができるが、好ましくはOH−型である。イオン交換樹脂の特有の塩基性は、あまりクリティカルではない。強塩基性樹脂は、フッ素化界面活性剤を除去する際にその効率がより高いため好ましい。プロセスは、イオン交換樹脂が入っているカラムを通してフルオロポリマー分散液を送り込むことにより実施することができ、あるいはフルオロポリマー分散液をイオン交換樹脂で撹拌することができ、その後、フルオロポリマー分散液を濾過によって単離することができる。この方法によれば、フッ素化界面活性剤の量を250ppm未満、さらには100ppm未満のレベルに低減することができる。
【0028】
フッ素化界面活性剤がその遊離酸型であり、かつ蒸気揮発性である場合、フッ素化界面活性剤の量を低減するために、下記の方法を代替として使用することができる。蒸気揮発性フッ素化界面活性剤のその遊離酸型は、非イオン性界面活性剤、好ましくはエトキシ化アルコールを含む非イオン性界面活性剤を、水性フルオロポリマー分散液に添加し、分散液中の蒸気揮発性フッ素化界面活性剤の濃度が(特許文献17)に開示されるような所望の値に到達するまで、蒸気揮発性フッ素化界面活性剤を、水性フルオロポリマー分散液のpH値が5未満において蒸留により除去することによって、水性フルオロポリマー分散液から除去することができる。
【0029】
さらに、(特許文献18)に開示されているような限外濾過の使用により、フッ素化界面活性剤の量を所望のレベルまで低減することができる。
【0030】
一般に、この方法は同時に分散液の固形分量を増大させ、したがってこの方法を使用して、同時にフッ素化界面活性剤を除去し、分散液を濃縮することができる。
【0031】
乳化重合の終わりに得ることができるポリマー固形分の量は、通常は10%〜45重量%である。経済性および利便性のため、フルオロポリマー分散液は、通常は30%〜70重量%のポリマー固形分を有するべきであることが好ましい。通常は、フルオロポリマー分散液中の固形分は、40〜65重量%である。重合の終わりに得られた固形分が低すぎる場合、分散液を一般に濃縮して、所望の固形分を実現する。一般にフッ素化界面活性剤のレベルの低減に続いて、水性分散液を濃縮することができる。しかし、フッ素化界面活性剤の量は、濃縮された分散液で、または上記に記載するように濃縮と同時に低減することも可能である。
【0032】
フルオロポリマー固形分の量を増大させるために、適切なまたは公知の濃縮技法を使用することができる。濃縮のための適切な方法には、限外濾過、熱濃縮、熱デカンテーション、および(特許文献19)に開示されるようなエレクトロデカンテーションが含まれる。通常は、濃縮プロセスにおいて分散液を安定化するために添加する非イオン性界面活性剤の存在下で、濃縮技法を実施する。本発明の好ましい一実施形態では、エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤の存在下で濃縮を実施する。一般に濃縮するための分散液中に存在すべき前記非イオン性界面活性剤の量は、通常は2重量%〜15重量%、好ましくは3重量%〜10重量%である。
【0033】
限外濾過の方法は、(a)非イオン性界面活性剤を、望ましくは濃縮対象の分散液に添加するステップと、(b)分散液をフッ素化ポリマー分散液濃縮物と水性透過物に分別するために、分散液を、半透過性限外濾過膜を経て循環させるステップを含む。循環は、通常は運搬速度が2〜7メートル/秒であり、フッ素化ポリマーが摩擦力を引き起こす成分と接触しないようにするポンプによって実行される。
【0034】
水性分散液中のフルオロポリマー固形分を増大するために、熱デカンテーションを使用することもできる。この方法では、非イオン性界面活性剤を、望ましくは濃縮するフルオロポリマー分散液に添加し、次いで分散液を加熱し、それによって上澄み層が形成される。この層は、デカンテーションすることができ、通常は水および非イオン性界面活性剤を含有し、他の層は濃縮された分散液を含む。この方法は、例えば(特許文献20)および(特許文献21)に開示されている。熱濃縮は、分散液を加熱し、所望の濃度が得られるまで水を減圧下で除去するものである。
【0035】
フッ素化界面活性剤のレベルを低減し、オプションでフルオロポリマー分散液を濃縮した後、分散液中のフルオロポリマー固形分に対して250ppm以下、好ましくは100ppm以下の量のフッ素化界面活性剤を含む水性分散液が得られる。しばしば、フッ素化界面活性剤のレベルを50ppm以下に、または30ppm以下にさえ低減することができる。分散液は、さらにエトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤を含有する。その量は、一般にフルオロポリマー固形分の重量に対して2〜15重量%であるべきである。通常は、非イオン性界面活性剤の量は、3〜10重量%である。エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤の量は、フッ素化界面活性剤を除去する間、および/またはオプションで分散液を濃縮する間、使用する界面活性剤を安定化する量に由来することができる。しかし、エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤の量は、分散液において上記の範囲内で所望のレベルの前記界面活性剤を実現するように別の非イオン性界面活性剤を添加することによって調整することができる。
【0036】
方法で使用する水性分散液は、通常は、30〜70重量%、好ましくは40〜65重量%の範囲の量の溶融加工できるフルオロポリマー固形分を有する。しかし、最終コーティング溶液を作製する際に、水性分散液を水および/または溶媒で希釈することができ、および/または別のコーティング成分または材料と組み合わせることができる。
【0037】
例えば、具体的には調理道具を被覆するための金属コーティングでは、最終コーティング組成物は、さらにポリアミドイミド、ポリイミド、またはポリアリーレンスルフィドなどの耐熱性ポリマーを水性分散液とブレンドすることによって得ることができる。顔料やマイカ粒子などのさらに別の材料も添加して、最終コーティング組成物を得ることができる。このような追加の成分は、通常、トルエン、キシレン、またはN−メチルピロリドンなどの有機溶媒に分散する。フルオロポリマー分散液は、通常は最終組成物の約10〜95重量%を示す。金属コーティング用のコーティング組成物およびそれに使用する成分は、例えば(特許文献22)、(特許文献23)、(特許文献24)、および(特許文献25)に記載されている。
【0038】
溶融加工できるフルオロポリマー、水性分散液のフルオロポリマー固形分に対して250ppm以下の量のフッ素化界面活性剤、ならびにエトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤およびオプションで別の成分を含む、本発明の方法で使用する水性コーティング組成物は、一般にフルオロポリマー層によって規定される表面を有する基材に被覆すると、良好な濡れ性および被膜特性を有する。諸特性が、例えばトリトン(Triton)(商標)X−100など芳香族基を含む非イオン性界面活性剤を含有する類似の分散液より良好である。
【0039】
水性分散液を使用して、フルオロポリマー層によって規定される表面を有する様々な基材を被覆することができる。適切な基材の例としては、調理道具または工業用途に使用する金属、しばしばアルミニウムまたはステンレス鋼、ポリエステルやポリプロピレンの基材などのポリマー基材が挙げられ、あるいは基材は紙とすることができる。基材は、さらにテキスタイルまたは布地、具体的にはガラス繊維または布地とすることができる。基材は、さらにフルオロポリマー層によって規定される表面を有することを特徴とする。
【0040】
基材の表面上のフルオロポリマーは、部分または完全フッ素化主鎖を有する任意のフルオロポリマーとすることができる。基材の表面を規定する層のフルオロポリマーは、溶融加工できるものでも、できないものでもよい。通常は、フルオロポリマーは、少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%がフッ素化されている主鎖を有するポリマーである。フルオロポリマーは、例えばPTFEでのような完全フッ素化主鎖を有することもできる。フルオロポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーとすることができ、さらに様々なフルオロポリマーの混合物とすることができる。フルオロポリマーの例としては、テトラフルオロエチレンのコポリマー、特にテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/1〜5Cの原子を有するパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、具体的にはパーフルオロ(n−プロピル−ビニル)エーテル、テトラフルオロエチレン/エチレン、テトラフルオロエチレン/トリフルオロクロロエチレン、トリフルオロクロロエチレン/エチレン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン、およびヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデンのコポリマー、ならびにテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル/ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン、およびテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンのターポリマー、またはテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、およびテトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニル)エーテルの四元ポリマーが挙げられる。別のフルオロポリマーには、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリトリフルオロクロロエチレンが含まれる。好ましいフルオロポリマーは、TFEのホモポリマーである。
【0041】
コーティング組成物を塗布するために、刷毛塗り、吹付け、浸漬、ロール塗り、引きなど広範囲の被覆方法を使用することができる。好ましい被覆方法としては、浸漬が挙げられる。被覆対象の基材を、通常は室温(通常は、約20℃〜25℃)で水性コーティング組成物と接触させることができる。塗布した後、この処理した基材を周囲温度または高温で乾燥することができる。例えば、処理した基材は、入口の温度が70℃であり、オーブン全体を通して温度を例えばオーブンの終端の400℃にまで上げるオーブンを通して運搬することによって乾燥することができる。
【0042】
次に、本発明を下記の実施例によってさらに説明するが、本発明をこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0043】
略語:
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
APFOA:パーフルオロオクタン酸アンモニウム塩
ジェナポル(Genapol)(商標)X−080:クラリアント(Clariant GmbH)から市販されている非イオン性エトキシ化アルコール
TFX 5060:3Mから市販されているPTFE分散液、ダイニオン(Dyneon)
TFX 5065:3Mから市販されているPTFE分散液、ダイニオン(Dyneon)
【0044】
試験方法
−メルトフローインデックス(MFI)は、ASTM D1238に従って372℃/5kgで測定した。MFIは、g/10分で表す。
−融点は、ASTM D4591に従って測定した。
−表面張力は、DIN 53914(プレート法)に従って25℃で測定した。
【0045】
PTFEプレコートガラス布地
ガラス布地(タイプUS2116、105g/m2、ピーディー・インターグラス・テクノロジーズ(PD−Interglas Technologies AG)から入手可能)を、TFX 5060で2回パスを用いて浸漬被覆し、続いてTFX 5065で2回パスを用いて浸漬被覆して、206g/m2の最終塗布量を得た。各パスの間に、温度を70℃から開始し、400℃まで上昇させるオーブン中で、布地を乾燥し、焼結した。
【0046】
実施例1
粒度約200nmおよび固形分30重量%のTFE/PPVE−1のフルオロポリマー分散液(96/4重量%;MFI=16、融点=310℃)を乳化重合により得た。分散液に、分散液中の固形分の量に対して5重量%のジェナポル(Genapol)(商標)X−080を添加した。分散液は、分散液の全重量に対して約0.1重量%のAPFOAを含有した(=ポリマー固形分に対して4350ppm)。分散液中のAPFOAの量を分散液の全重量に対して7ppmにまで低減させるように、乳濁液ポリマーを陰イオン交換樹脂と接触させた(=ポリマー固形分に対して30ppm)。分散液を熱濃縮した。このようにして得られた分散液を使用して、PTFEプレコートガラス布地をディップコーティングによって被覆した。分散液は、PTFEプレコートガラス布地上で良好な濡れ性を有した。塗布量13g/cm2の平滑なコーティングが得られた。分散液の表面張力の測定値は、28.7mN/mであった。
【0047】
比較例C−1
ジェナポル(Genapol)(商標)X−080の代わりに、エトキシ化p−イソオクチルフェノールである5%トリトン(Triton)(商標)X−100を使用した点以外は、本質的に実施例1のように、比較例C−1を実施した。PTFEプレコートガラス布地の濡れが極めて不十分であることが観察された。得られた分散液の表面張力は、34mN/mであった。
【0048】
比較例2
フッ素化界面活性剤APFOAを分散液から除去しなかった点以外は、比較例1を繰り返した。良好なコーティングが得られ、分散液の表面張力は、29.6mN/mであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー層によって規定される表面を有する基材を被覆する方法であって、
(i)(a)30〜70重量%の量の溶融加工できるフルオロポリマー粒子、
(b)水性分散液のフルオロポリマー固形分に対して250ppm以下の量のフッ素化界面活性剤、
(c)水性分散液の全固形分に対して2〜15重量%の量の、エトキシ化脂肪族アルコールを含む非イオン性界面活性剤を含み、
かつ芳香族基を含む非イオン性界面活性剤を含まない、または実質的に含まない水性分散液を提供するステップと、
(ii)コーティング組成物が得られるように、場合によっては前記分散液を希釈し、および/またはそれに別の成分を添加するステップと、
(iii)前記コーティング組成物を、前記フルオロポリマーの前記層によって規定される前記基材の前記表面の少なくとも一部分に塗布するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記基材が金属基材または布地を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融加工できるフルオロポリマーがフルオロサーモプラストである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フルオロサーモプラストが100〜330の融点を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フルオロポリマーが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンのコポリマー、テトラフルオロエチレンとフッ素化ビニルエーテルのコポリマー、テトラフルオロエチレン、エチレンおよびヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ならびにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレンおよび過フッ素化ビニルエーテルのコポリマーからなる群から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エトキシ化脂肪族アルコールが次式:
1−O−[CH2CH2O]n−R2
(式中、R1は、少なくとも6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基を表し、R2は、水素またはC1〜C3アルキル基を表し、nは、2〜40の値を有する)
に対応する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
nが、5〜12の値を有し、かつR1が8〜18個の炭素原子を有する請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2007−525325(P2007−525325A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501777(P2007−501777)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/001845
【国際公開番号】WO2005/092520
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】