説明

基板、細胞培養装置、細胞チップおよび培養方法

【課題】細胞の移動および接着を高精度に制御することができ、かつ細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させることができる基板、およびこれを備えた種々の装置を提供する。
【解決手段】細胞を接着させるための接着面21aを有する接着領域12と、接着領域12に隣接して設けられる、細胞の接着を阻害するための阻害領域13とを備えており、阻害領域13は、複数の多角柱形状の構造物22を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を接着させる基板、これを備えた細胞培養装置および細胞チップ、ならびに培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の移動を制御し、かつ細胞を接着させる技術は、医学的、工学的な応用に有用であり、再生医療、組織工学、臨床診断、生物医学実験、抗生物汚染材料の開発などの基盤をなす。また、当該技術は、細胞の移動/接着のメカニズムに対する解明に有用である。
【0003】
特許文献1には、ナノファイバーを利用した細胞接着基材について記載されている。
【0004】
非特許文献1には、2次元平面を化学修飾することによって、細胞の接着・非接着領域を作製し、細胞をパターニングする技術が記載されている。非接着領域を形成する物質として、poly-L-lysine-g-poly(ethylene glycol)が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、2次元平面を化学修飾することによって、細胞の接着・非接着領域を作製し、細胞の移動運動を制御する技術が記載されている。
【0006】
非特許文献3には、側面が疎水性である数十マイクロメートルオーダーのサイズの構造物を利用して、この構造物と構造物との間に空気をトラップして構造物間への細胞の進入を阻むことによって、当該構造物上に細胞をパターニングする技術が記載されている。
【0007】
非特許文献4には、ファイブロネクチンでコートされたPDMS製であり、かつマイクロメートルオーダーのサイズである柱状構造体が集合した領域に対して、繊維芽細胞の進入が抑制されることが記載されている。
【0008】
非特許文献5には、表面の格子形マイクロテクスチャーの密度勾配および異方性を利用して、細胞の移動運動を制御することによって、標的の領域に細胞を捕集する技術が記載されている。
【0009】
また、非特許文献6〜8には、溝が設けられた基板が記載されている。これらの溝は、この溝に沿って細胞を並べるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−44149号公報(2007年2月22日公開)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Csucs G, Michel R, Lussi JW, Textor M, and Danuser G. (2003) Biomaterials, Vol. 24, pp. 1713-1720.
【非特許文献2】Kumar G, Ho C-C, and Carlos C. C. (2007) Adv. Mater., Vol. 19, pp. 1084-1090.
【非特許文献3】Wang Y, Sims C. E., Marc P., Bechman M. Li G. P., and Allbritton N. L. (2006) Langmuir, Vol. 22, pp. 8257-8262.
【非特許文献4】Lea M. G., Digabel J. L., Richert A. Hersen P. and Ladoux B. (2009) Biophys. J., Vol. 97, pp. 357-368.
【非特許文献5】D.-H. Kim, C.-H. Seo, K Han, K.-W. Kwon, A. Levchenko, and K.-&. Suh, (2009) Adv. Funct. Mater., Vol. 19, pp. 1579-1586.
【非特許文献6】P. CLARK, P. CONNOLLY, A. S. G. CURTIS, J. A. T. DOW and C. D. W. WILKINSON (1990) Development 108, 635-644.
【非特許文献7】Peter M. Stevenson and Athene M. Donald (2009) Langmuir, 25, 367-376.
【非特許文献8】Wen-Ta Su, Yung-Feng Liao, I.-Ming Chu (2007) Micron 38, 278-285.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
細胞の移動を制御し、かつ細胞を接着させる技術は、上述したように様々な分野に有用な技術であるため、幅広く応用可能な技術が必要である。そのために、当該技術は、「細胞の移動を高精度に制御する」ことができ、かつ「細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させる」ことができる必要がある。
【0013】
「細胞の移動を高精度に制御する」ためには、細胞を接着させない(排除する)領域(以下、「細胞非接着領域」ともいう。)からの細胞の排除と、細胞を接着(適合)させる領域(以下、「細胞接着領域」ともいう。)への細胞の接着とを、高精度に行なうことが重要である。そのために、細胞非接着領域からの排除、および細胞接着領域への接着については、多種類の細胞に対して有効性があるものが求められる。また、細胞非接着領域は、細胞の非特異的な接着を充分に排除できるものが求められる。
【0014】
また、「細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させる」ためには、細胞接着領域の形、サイズ、配置などを自由に設計できることが重要である。
【0015】
しかし、従来技術では、これらの両方を達成できる、有効な手段を確立することが困難である。
【0016】
例えば、非特許文献1に記載された技術では、長時間の培養によって、細かいパターンが崩れてしまい、細胞非接着領域に細胞が非特異的に接着してしまうという問題が生じる。
【0017】
また、非特許文献2に記載された技術では、表面の化学的性質に対する接着の選択性が低い細胞、移動性が高い細胞などに対しては、細胞接着領域への接着と、細胞非接着領域からの排除とが精度よく行なわれないおそれが高く、多種類の細胞に対する有効性が低いという問題がある。
【0018】
また、非特許文献3に記載された技術では、細胞よりも大きなサイズの構造物を用いるため、細かい設計ができず、目的、用途等に応じたフレキシビリティがないという問題がある。
【0019】
また、非特許文献4に記載された柱状構造体が集合した領域は、細胞の進入を完全に排除することができない。また、非特許文献4では、比較的移動性が低い繊維芽細胞を用いているため、より移動性が高い細胞を用いた場合には、その進入を阻む確率がさらに低くなる可能性がある。そのため、これを細胞非接着領域として用いた場合には、細胞の非特異的な接着を充分に排除できない。また、多種類の細胞に対する有効性が低いという問題がある。
【0020】
また、非特許文献5に記載された技術では、細胞を捕集するための標的の領域(細胞接着領域)以外の領域(細胞非接着領域)から細胞を完全に除去することができないので、細胞の細胞非接着領域への非特異的な接着を充分に排除できない。
【0021】
また、非特許文献6〜8に記載された基板に設けられた溝によっては、移動性が高い細胞の進入を充分に阻害することはできない。また、これらの技術では、細胞接着領域を自由に設計することができないという問題がある。
【0022】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、細胞の移動および接着を高精度に制御することができ、かつ細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させることができる基板、およびこれを備えた種々の装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明に係る基板は、細胞を接着させるための接着面を有する接着領域と、上記接着領域に隣接して設けられる、細胞の接着を阻害するための阻害領域とを備えており、上記阻害領域は、複数の多角柱形状の構造物を備えていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る基板では、上記構造物は、上記接着面と略同じ高さの頂上面を有することが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る基板では、上記構造物は、四角柱形状であることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る基板では、複数の上記構造物は、上記接着領域と上記阻害領域との境界に沿って、複数の列において配置されていることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る基板では、上記構造物の頂上面の一辺の長さは、3μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る基板では、隣接する2つの上記構造物の間隔は、0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましい。
【0029】
また、本発明に係る基板では、上記接着領域と上記阻害領域との境界に隣接して設けられた上記構造物の頂上面における少なくとも1つの角は、上記接着領域に対向していることが好ましい。
【0030】
また、本発明に係る基板では、シリコン、ガラス、シリコーンゴム、プラスチックおよび金属からなる群より選択されるいずれかにより構成されていることが好ましい。
【0031】
また、本発明に係る基板では、上記構造物は、リソグラフィー法を用いて形成されたものであることが好ましい。
【0032】
本発明に係る細胞培養装置は、上述したいずれかの基板を備えていることを特徴とする。
【0033】
本発明に係る細胞チップは、上述したいずれかの基板を備えており、上記基板は、上記接着領域を複数備えており、かつ、複数の上記接着領域の各々に細胞が固定されていることを特徴とする。
【0034】
本発明に係る培養方法は、上述したいずれかの基板を用いて細胞を培養する培養工程を含むことを特徴とする。
【0035】
また、本発明に係る培養方法では、上記基板は、上記阻害領域に取り囲まれた上記接着領域を複数備えており、上記培養工程は、複数の上記接着領域の各々において、それぞれ異なる種類の細胞を培養するものであることが好ましい。
【0036】
本発明に係る基板は、細胞を接着させるための接着面を有する接着領域と、上記接着領域に沿って、細胞の接着を阻害するための溝が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、細胞の移動および接着を高精度に制御することができ、かつ細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させることができる。したがって、細胞のガイディング、捕集、ソーティング、パターニング等を行なうためのデバイス(バイオメディカルデバイス)を提供できるとともに、当該デバイスの精度および設計についての自由度を大幅に向上させることができるので、高性能のバイオメディカルデバイスを提供することが可能になる。このようなデバイスは、再生医療、組織工学、臨床診断、生物医学実験、抗生物汚染材料など、広い範囲に応用して利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る基板の一実施形態を示す図である。
【図2】図1に示す基板における阻害領域の構造を示す図である。
【図3】本発明に係る基板の一実施形態における阻害領域の構成の一変形例を示す図である。
【図4】本発明に係る細胞チップの一実施形態を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における細胞チップの一変形例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における細胞チップの他の変形例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における細胞チップの他の変形例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態における細胞チップの他の変形例を示す図である。
【図9】(a)〜(b)は、本発明の一実施形態における細胞チップを製造する方法について説明するための図である。
【図10】(a)〜(f)は、本発明の一実施形態における基板を製造する方法について説明するための図である。
【図11】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態における基板を製造する方法について説明するための図である。
【図12】本発明に係る細胞培養装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図13】本発明に係る基板の他の実施形態を示す図である。
【図14】本発明の一実施例における基板の構造物の配置間隔bと辺長aとの関係を表すグラフである。
【図15】(a)〜(f)は、本発明の一実施例における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、1分30秒後、2分30秒後、3分30秒後、4分30秒後、6分後における顕微鏡画像を表す図である。
【図16】(a)〜(f)は、本発明の他の実施例における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、2分後、4分後、6分後、8分後、9分30秒後における顕微鏡画像を表す図である。
【図17】(a)〜(f)は、本発明の他の実施例における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、1分30秒後、3分後、4分30秒後、6分後、7分30秒後における顕微鏡画像を表す図である。
【図18】(a)〜(c)は、細胞の進入角を測定する方法を説明するための図である。
【図19】本発明の他の実施例における基板について、構造物の配置間隔が3μmである場合の、細胞の進入角と阻害領域による阻害効果との関係を示す図である。
【図20】(a)〜(h)は、本発明の実施例5における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、2分後、4分後、6分後、8分後、10分後、12分後、14分後における顕微鏡画像を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明に係る実施形態について説明する。
【0040】
<第1実施形態>
〔基板1〕
まず、本発明に係る基板の一実施形態における基本的な構成について説明する。図1は、本発明に係る基板の一実施形態を示す図である。
【0041】
図1に示す基板1は、基材11上に接着領域12と阻害領域13とを備えた板である。基板1の材料としては、例えばシリコン、ガラス、シリコーンゴム、プラスチック、金属等が挙げられる。シリコーンゴムとしてはPDMS等が挙げられる。また、プラスチックとしてはポリスチレン等が挙げられる。シリコンであれば、微細構造を形成することが容易であるため好ましく、また、電極を設けること、温度制御回路を設けることなどが容易にできるため、培養に用いる基板などに好適である。また、ガラスであれば、透光性であるため好ましい。
【0042】
接着領域12は、細胞100を接着させるための領域であり、接着面21aを有する。すなわち、接着領域12とは、ここでは基材11上に形成された接着部21の上面である接着面21a上の領域をさす。接着部21の材料としては、例えば上述した基板1の材料と同じものを用いることができる。
【0043】
ここで、細胞が接着領域12に「接着する」とは、細胞が1つの接着領域12の接着面21aに接触している状態をさし、必ずしも細胞が静止していなくてもよい。すなわち、細胞は、接着面21aに接触しながら接着領域12内を移動している状態であっても、その接着領域12外に移動しない限り、その接着領域12に接着しているということとする。
【0044】
接着面21aは、細胞100を接着させる面であり、ここでは平面である。接着面21aは、シリカ(SiO)膜、金(Au)膜等によって覆われていることが好ましく、ファイブロネクチン(fibronectin)、コラーゲン、poly-L-lysineによってコートされていてもよい。なお、接着面は、特にこれに限らず、細胞が接着し得るものであればよい。
【0045】
阻害領域13は、接着領域12に隣接して設けられ、細胞100の接着を阻害するための領域である。阻害領域13は、複数の構造物22を備えている。構造物22は、接着領域12と阻害領域13との境界に沿って、複数の列を構成するように配置されている。すなわち、構造物22は、接着領域12と阻害領域13との境界に沿って配列された第1の列、当該第1の列に沿って配列された第2の列、当該第2の列に沿って配列された第3の列、というような複数の列を構成している。なお、本実施形態における阻害領域13は、上述した構成に限らず、構造物が接着領域と阻害領域との境界に沿って1列に配置されていてもよく、2列以上に配置されていてもよい。
【0046】
また、阻害領域13は、格子状に設けられた多数の溝を備えた領域と言い換えることもできる。すなわち、複数の構造物22は、当該多数の溝が設けられることによって形成されるものであり、1つの構造物22は4つの溝によって四方を囲まれた部材であると言い換えることができる。このように、阻害領域13は、溝と、複数の構造物22がそれぞれ有する角とを、それぞれ多数備えたものである。
【0047】
ここで、阻害領域13が細胞の接着を「阻害する」とは、阻害領域13への細胞の進入を抑制し、または阻害領域13内に存在する細胞を一定時間内に一定以上の確率で阻害領域13外に移動させることをいう。すなわち、阻害領域13は、一定時間以上において細胞が留まることが抑制される領域である。
【0048】
構造物22は、接着面21aと平行な面であって接着面21aよりも低い面である基材11の面上に、垂直方向に形成された、四角柱である。また、構造物22は、接着面21aと略同じ高さの頂上面22aを有する。
【0049】
構造物22の材料としては、例えば上述した基板1の材料と同じものを用いることができる。また、構造物22は、SiO膜、Au膜等によって覆われていてもよいし、構造物22を構成するシリコン、ガラス、PDMS等が剥き出しになっているものであってもよい。
【0050】
また、構造物22の表面には、生体分子(タンパク質、核酸、糖質、脂質等、一般に生体に含まれる分子)、化学物質(例えばアルキルチオール、ポリLリジン(poly-L-lysine)、ポリDリジン(poly-D-Lysine)等)、マイクロ・ナノビーズ等が付着されていてもよい。タンパク質としては、ファイブロネクチン(fibronectin)、コラーゲン(collagen)、ラミニン(laminin)等が挙げられる。マイクロ・ナノビーズ等を付着させる方法としては、例えばエレクトロスプレーを用いるデポジション法などが挙げられる。合成高分子、生体高分子(タンパク質等)などをエレクトロスプレーデポジション法によりスプレーすると、スプレー条件に応じて、ナノ粒子、ナノファイバー等を形成させることができる。後述する実施例にて示すように、本実施形態に係る基板1における阻害領域13は、その表面に、例えば細胞接着を促進する化学物質などがコートされていても、細胞の接着を阻害することができる。
【0051】
阻害領域13は、細胞の接着を阻害する阻害率が90%以上であることが好ましく、100%であることがより好ましい。阻害領域13が接着領域12に隣接して備えられることによって、接着領域12に存在する細胞が阻害領域13に進入することを阻害するとともに、阻害領域13に存在する細胞を速やかに接着領域12に移動させることができる。したがって、阻害領域13は、接着領域12に対する壁(仮想壁)として働き、細胞100を接着領域12内に留めておくことができる。
【0052】
ここで、本明細書において「阻害率」とは、細胞の接着を阻害する割合であり、換言すれば細胞が排除される割合である。阻害領域13の阻害率は、細胞が阻害領域13から排除される割合を計測することによって求めることができる。細胞が阻害領域13から排除されるか否かは、例えば顕微鏡などを用いて細胞を観察し、接着領域12側から接着領域12と阻害領域13との境界に到達した細胞が、所定時間内に向きを変えて接着領域12内に戻った場合には、細胞は排除されたと判断し、所定時間経過後も阻害領域13内に留まっていた場合には、細胞は排除されなかったと判断することができる。
【0053】
上述した構成によれば、基板1は、細胞100を接着領域12内に留めておくことができる。したがって、接着領域12は、例えば細胞100を培養するための領域、細胞100を固定するための領域、細胞の移動性等を顕微鏡観察するための領域に用いることができる。
【0054】
また、接着領域12は、隣接する阻害領域13の配置によって、任意のサイズ、形状、配置などに設計することが可能である。例えば接着領域12は、2つの細胞培養用の接着領域をつなぐゲート、細胞100が移動するための通路(パス)などの機能を有するものとすることもできる。
【0055】
なお、本実施形態に係る基板1は、上述した構成に限らず、複数の接着領域を備えていてもよい。これによって、本実施形態は、複数の細胞を複数の接着領域にそれぞれ固定した細胞チップ、複数の接着領域の各々にそれぞれ異なる種類の細胞を培養する共培養用の培養基板などを提供することができる。
【0056】
阻害領域13の構造についてさらに詳細に説明する。図2は、図1に示す基板における阻害領域の構造を示す図である。
【0057】
阻害領域13における構造物22の頂上面22aは、四角形である場合には、例えば一辺の長さ(辺長)aが3μm以上20μm以下であることが好ましい。また、隣接する2つの構造物22の間隔(配置間隔)bは、接着を阻害したい細胞の大きさ(例えば直径等)より小さいことが好ましく、0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましい。このような構成であることによって、後述する実施例にて示すように、本実施形態に係る基板1は、阻害領域13への細胞の接着を効率よく阻害することができる。
【0058】
また、構造物22の高さhは、数μm以上、数十μm以下であることが好ましい。より好ましくは、略20μmである。
【0059】
なお、阻害領域13に備えられる構造物は、上述した四角柱形状に限らず、四角柱形状以外の多角柱形状であってもよい。また、接着領域12と阻害領域13との境界に隣接して設けられた構造物の頂上面における少なくとも1つの角は、接着領域12に対向していてもよい。これによって、阻害領域13に対する細胞の接着をより強く阻害できる効果が期待できる。
【0060】
また、本実施形態においては、構造物22の頂上面22aは、接着面21aと略同じ高さであるが、特にこれに限定されない。しかし、構造物22の頂上面22aが接着面21aと略同じ高さであれば、阻害領域13に接着面21aよりも高い構造物などが形成されないので、接着領域12の周囲に接着面21aよりも高い障害物がないこととなる。また、接着面21aと頂上面22aとが略同一平面上に存在する。したがって、接着領域12への培地の供給、接着領域12からの培地の排出などを容易に行なうことができるとともに、培地を接着領域12上の培養細胞に均一に供給することができる。
【0061】
(阻害領域13の変形例)
本実施形態における阻害領域13の変形例について、図3を参照して説明する。図3は、本発明に係る基板の一実施形態における阻害領域の構成の一変形例を示す図である。
【0062】
図3に示すように、阻害領域13a、13bは、それぞれ接着領域12と阻害領域13aとの境界線に平行に伸びる、幅15μmの帯状の領域であり、接着領域12に隣接して並列に設けられる。すなわち、阻害領域13aは接着領域12に隣接して設けられており、阻害領域13bは、接着領域12に対して阻害領域13aよりも外側に設けられる。なお、阻害領域13aと阻害領域13bとの間は接着領域であってもよく、阻害領域13aと阻害領域13bとの間の距離は、接着領域12に接着させる細胞のサイズ以上であることが好ましく、例えば一般の培養細胞であれば数十μm以上であることが好ましい。また、当該距離は、略100μm以下であることが好ましい。
【0063】
このような構成であれば、接着領域12から阻害領域13a、13bへの細胞100の進入をより強く阻害できる。例えば、多くの細胞100は阻害領域13aによって進入を阻害されるが、一部の細胞100が阻害領域13aを通過してしまった場合でも、さらに外側に設けられた阻害領域13bによって、その進入が阻害される。したがって、高効率阻害領域13’を形成させることができる。
【0064】
本変形例においては、阻害領域13aおよび13bは、それぞれ細胞の接着の阻害率が90%以上100%以下であることが好ましいが、90%以上99%未満であってもよい。阻害領域13aおよび13bの阻害率が90%以上99%未満である場合でも、上述した構成であれば、高効率阻害領域13’においては細胞の接着の阻害率を99%以上にすることが可能になる。
【0065】
なお、本変形例においては、阻害領域13aおよび13bは、幅15μmの帯状の領域であるが、特にこの形状、幅には限定されない。阻害領域13aおよび13bは、接着領域12と阻害領域13aとの境界線に垂直な方向の幅が、それぞれ排除しようとする細胞の大きさ(例えば直径など)の最大値よりも大きいものであることが好ましい。
【0066】
〔基板の製造方法〕
次に、本発明に係る基板を製造する方法の一例について説明する。図10(a)〜(f)および図11(a)〜(c)は、本発明の一実施形態における基板を製造する方法について説明するための図である。なお、ここでは、基板の製造方法において、阻害領域13を形成させる工程について説明するが、当該工程によって同時に接着領域12をも形成させることが可能である。
【0067】
阻害領域13は、以下に説明するように、リソグラフィー法を用いて形成させることができる。ここでは、シリコンを用いて、SiO膜によって覆われている阻害領域13を形成する場合について説明する。リソグラフィー法を用いることによって、精度よく、シャープなエッジを備えた阻害領域13を形成させることができる。なお、基板がシリコーンゴム(例えばPDMS)などからなる場合には、阻害領域13は、型を用いた転写によっても形成させることができる。
【0068】
(阻害領域13の形成方法1)
阻害領域13の形成方法1では、図10(a)〜(f)を参照して、10〜20μmの高さの構造物22を備えた阻害領域13を形成する場合について説明する。
【0069】
まず、シリコンウエハ31にフォトレジスト41をコーティングする(図10(a))。シリコンウエハ31としては、例えば6インチなどのものを用いることができ、フォトレジスト41としては、例えばAZ5214E(Clariant社製)などを用いることができる。
【0070】
次に、フォトレジスト41上にフォトマスク42をのせてバキュームによってコンタクトさせ、その上からUVを照射してフォトリソグラフィーを行なう(図10(b))。その結果、フォトレジスト41がパターン化される(図10(c))。
【0071】
次に、深堀り反応性イオンエッチング(DRIE:Deep Reactive Ion Etching)によってドライエッチングを行なう(図10(d))。その後、フォトレジスト41を取り除き(図10(e))、SiO膜32を成膜する(図10(f))。なお、SiO膜32によって覆う代わりに、例えばAuを析出させてAu膜によって覆ってもよい。
【0072】
以上の方法によって、複数の構造物22を備えた阻害領域13を形成することができる。
【0073】
(阻害領域13の形成方法2)
阻害領域13の形成方法2では、図11(a)〜(c)を参照して、5μm以下の高さの構造物22を備えた阻害領域13を形成する場合について説明する。
【0074】
まず、シリコンウエハ33上にSiO膜34を成膜し、その上にフォトレジスト43をコーティングする(図11(a))。シリコンウエハ33およびフォトレジスト43としては、上述したシリコンウエハ31およびフォトレジスト41と同じものを用いることができる。
【0075】
次に、フォトレジスト43上にフォトマスク44をのせてバキュームによってコンタクトさせ、その上からUVを照射してフォトリソグラフィーを行なう(図11(b))。その結果、フォトレジスト43がパターン化される。
【0076】
次に、反応性イオンエッチングを行なう(図10(c))。その後、図示しないが、フォトレジスト43およびSiO膜34を取り除き、SiO膜を成膜する。
【0077】
以上の方法によって、複数の構造物22を備えた阻害領域13を形成することができる。
【0078】
〔細胞チップ〕
次に、本発明に係る細胞チップの一実施形態について説明する。図4は、本発明に係る細胞チップの一実施形態を示す図である。なお、本実施形態における細胞チップは、上述した基板1の基本的な構成を備えている。したがって、基板1における構成要素と同様の機能を有する構成要素には同一の番号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0079】
図4に示す細胞チップ2aは、基材11上に、複数の接着領域12a、12b、12cと、阻害領域13とを備えたチップである。細胞チップ2aの材料としては、上述した基板1の材料と同じものを用いることができる。また、細胞チップ2aとしては、ガラスなどの透明な材料、偏光子としての特性等を有さない材料、などを用いることがより好ましい。これによって、顕微鏡観察を容易にすることができる。
【0080】
接着領域12a、12b、12cは、細胞を接着させるための領域であり、接着面21aを有する。接着領域12aには多細胞がパターニング(固定)されており、接着領域12bには1細胞がパターニングされている。接着領域12a、12bの各々に固定されている細胞は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、接着領域12cは、細胞の運動性等を観察するための領域である。
【0081】
なお、本明細書において「多細胞」とは、2個以上の細胞をさし、例えば複数の単一種類の細胞が高密度に凝集した細胞塊などが挙げられる。
【0082】
阻害領域13は、複数の接着領域12a、12b、12cの間を隔てるように形成されている。したがって、本実施形態における細胞チップ2aでは、接着領域12a、12b、12cの各々に接着し、あるいは固定された細胞が、互いに混じることがない。
【0083】
以上の構成のように、本実施形態に係る細胞チップは、複数の接着領域を備えており、当該複数の接着領域の一部または全てに細胞が固定されている。当該複数の接着領域の各々は、多細胞が固定されたものであってもよいし、1細胞が固定されたものであってもよい。また、当該複数の接着領域のいずれかは、細胞を観察するための領域であってもよい。
【0084】
次に、本実施形態の変形例について説明する。本実施形態は、以下の各変形例に示すように、市販の生物顕微鏡、プレートリーダー等による各種の検査・測定に用いるためのチップとして利用することができる。
【0085】
(変形例1)
図5は、本発明の一実施形態における細胞チップの一変形例を示す図である。図5に示す細胞チップ2bは、それぞれ異なる形状の複数の接着領域12d、12e、12fと、当該接着領域12d、12e、12fが形成されていない領域全体に形成された阻害領域13とを備えている。細胞チップ2bの材料としては、細胞チップ2aと同じものを用いることができる。
【0086】
複数の接着領域12d、12e、12fは、例えば、多細胞がパターニングされた領域、1細胞がパターニングされた領域、細胞を観察するための領域等であってもよい。
【0087】
なお、本変形例においては、細胞チップ2bの表面は26mm×76mmの長方形であるが、特にこの大きさ、形状等に限定されない。
【0088】
本変形例であれば、本実施形態は、市販の生物顕微鏡等による観察などに用いるためのスライドグラス等としても利用可能である。
【0089】
(変形例2)
図6は、本発明の一実施形態における細胞チップの他の変形例を示す図である。図6に示す細胞チップ2cは、細胞チップ2cに形成された複数の凹み部分のそれぞれに、パターン形成領域14a、14b、14c、14dを備えている。細胞チップ2cの材料としては、細胞チップ2aと同じものを用いることができる。
【0090】
パターン形成領域14a、14b、14c、14dは、それぞれ複数の接着領域と阻害領域とのパターンが形成された領域である。パターン形成領域14a、14b、14c、14dの各々におけるパターンは、それぞれ異なっていてもよいし、同じであってもよい。また、パターン形成領域14a、14b、14c、14dに形成された接着領域は、例えば、多細胞をパターニングするための領域、1細胞をパターニングするための領域、細胞の運動性等を観察するための領域等に用いられることができ、細胞が固定されていてもよい。
【0091】
なお、本変形例においては、細胞チップ2cは、26mm×76mmの大きさ、および0.17mmの高さを有する直方体であるが、特にこの大きさ、形状等に限定されない。
【0092】
本変形例であれば、本実施形態は、市販の生物顕微鏡等による観察などに用いるためのスライドグラス等としても利用可能である。また、底面の厚さがカバーグラスと同程度に薄いため、生物顕微鏡によって底面側から細胞を観察することが可能である。
【0093】
(変形例3)
図7は、本発明の一実施形態における細胞チップの他の変形例を示す図である。図7に示す細胞チップ2dは、丸形状の複数の接着領域12と、当該接着領域12が形成されていない領域全体に形成された阻害領域13とを備えている。細胞チップ2dの材料としては、細胞チップ2aと同じものを用いることができる。
【0094】
複数の接着領域12は、それぞれ例えば、多細胞をパターニングするための領域、1細胞をパターニングするための領域、細胞を観察するための領域等であってもよい。また、複数の接着領域12の各々には、細胞が固定されていてもよい。
【0095】
なお、本変形例においては、細胞チップ2dの表面は直径90mmの丸形状であるが、特にこの大きさ、形状等には限定されない。たとえば直径35mm、60mm等であってもよい。
【0096】
本変形例であれば、本実施形態は、培養用シャーレ、ガラスボトムディッシュ等としても利用可能である。
【0097】
(変形例4)
図8は、本発明の一実施形態における細胞チップの他の変形例を示す図である。図8に示す細胞チップ2eは、丸形状の複数の接着領域12と、当該接着領域12が形成されていない領域全体に形成された阻害領域13とを備えている。細胞チップ2eの材料としては、細胞チップ2aと同じものを用いることができる。
【0098】
複数の接着領域12は、細胞チップ2eにマトリクス状に配置されている。複数の接着領域12は、それぞれ例えば、多細胞をパターニングするための領域、1細胞をパターニングするための領域、細胞を観察するための領域等であってもよい。また、複数の接着領域12の各々には、細胞が固定されていてもよい。
【0099】
なお、本変形例においては、細胞チップ2eの表面は、86mm×128mmの長方形であるが、特にこの大きさ、形状等には限定されない。また、複数の接着領域12の数および配置は、特に限定されないが、例えば1つの細胞チップ2eに、2×3(6個)、3×4(12個)、4×6(24個)、6×8(48個)、8×12(96個)などであってもよい。
【0100】
本変形例であれば、本実施形態は、市販のプレートリーダー等による各種の検査・測定に用いるためのウェルプレート等としても利用可能である。
【0101】
〔細胞チップの製造方法〕
次に、本実施形態における細胞チップの製造方法について説明する。図9(a)〜(b)は、本発明の一実施形態における細胞チップを製造する方法について説明するための図である。
【0102】
細胞チップ2は、例えば、図9(a)〜(b)に示すような漏斗23を用いて製造することができる。漏斗23は、細胞チップ2における複数の接着領域12の各々に対応する、複数の孔が形成されているものである。これらの孔は、対応する接着領域に播種される細胞を通すための孔である。また、漏斗23は、細胞チップ2と組み合わされることによって、細胞チップ2における阻害領域13を覆うものである。
【0103】
漏斗23と細胞チップ2とを組み合わせて、漏斗23の孔を通して、各細胞100a、100b、100cをそれぞれ目的の接着領域12に播種する。この方法によれば、細胞が阻害領域13に広がることを防止することができるので、多数の種類の細胞を、1つの細胞チップ2における複数の接着領域12の各々に、互いに混ざることなく播種および固定することができる。
【0104】
〔細胞培養装置〕
次に、本発明に係る細胞培養装置の一実施形態について説明する。図12は、本発明に係る細胞培養装置の一実施形態の構成を示す図である。
【0105】
図12に示す細胞培養装置50は、基板1上において細胞を培養するための装置であり、チャンバー51と、容器52、53と、制御部54とを備えている。各容器52、53は、それぞれ配管55、56を介してチャンバー51に接続されている。配管55、56には、それぞれ開閉弁57、58が設けられている。また、制御部54は、少なくとも開閉弁57、58に信号線59によって接続されている。
【0106】
チャンバー51は、基板1を備えている容器である。なお、ここでは、基板1は、接着領域12に接着した細胞を培養するものである。
【0107】
チャンバー51内では、基板1上において細胞を培養することができる。チャンバー51には、図示しないが、例えばチャンバー51内にガスを導入するためのガス導入口、チャンバー51から外部にガスを排出するためのガス排出口、チャンバー51内の温度を調節するための温度調節器などが設けられていてもよい。
【0108】
容器52は、チャンバー51に供給するための培地を貯める容器である。容器53は、チャンバー51から排出された培地を貯めるための容器である。開閉弁57、58は、その開閉によって、それぞれ配管55、56を流れる液体の流量を調節する弁である。制御部54は、開閉弁57、58の開閉を制御する。
【0109】
制御部54は、開閉弁57を開けることによって、容器52内の培地をチャンバー51内に供給する。また、開閉弁58を開けることによって、チャンバー51内の培地を容器53に排出させる。これによって、チャンバー51内の培地を、別の培地に交換することができる。また、チャンバー51内に常に新鮮な培地を供給し続けることもできる。
【0110】
また、制御部54は、開閉弁57、58を閉じることによって、チャンバー51を密閉することができる。
【0111】
細胞培養装置50における基板1は、上述したように、接着領域12の周囲に接着面21aよりも高い障害物がなく、また、接着領域12の接着面21aと阻害領域13の構造物22の頂上面22aとが略同一平面上に存在する。したがって、細胞培養装置50では、チャンバー51内の培地を交換することによって、接着領域12上に接触する培地を容易に交換することができる。
【0112】
〔培養方法〕
本発明に係る培養方法について、上述した基板1を用いる場合を例にして説明する。
【0113】
本実施形態における培養方法は、基板1を用いて細胞を培養する培養工程を含む。
【0114】
培養工程では、基板1の接着領域12に細胞を接着させて培養する。基板1を用いることによって、接着領域12内に細胞を留めたまま培養することができる。
【0115】
なお、阻害領域13に取り囲まれた接着領域12を複数備えている基板を用いてもよい。この場合には、それぞれの接着領域12に、それぞれ異なる種類の細胞を接着させて培養することによって、共培養してもよい。本実施形態であれば、阻害領域13によって、それぞれの接着領域12における細胞が互いに混じることを防ぐことができる。
【0116】
〔本実施形態の効果〕
以上の構成によって、本実施形態は、以下の効果を有するものである。また、本実施形態が以下の結果を有することは、後述する各実施例の結果からも強く示唆される。
(1)本実施形態に係る基板は、多種類の細胞に対して有効であり、かつ、細胞の接着を充分に排除できる阻害領域を備えている。
(2)本実施形態に係る基板は、阻害領域を備えることによって、接着領域の形、サイズ、および配置を自由に設計することが可能である。
【0117】
これによって、本実施形態は、細胞の移動および接着を高精度に制御することができ、かつ細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させることができるので、優れた精度と高いフレキシビリティとを両立させた手段を提供できるものである。
【0118】
本実施形態の阻害領域は、上述した構成によって、マイクロメートルオーダーの微細単位構造を繰り返し配置した微細凹凸表面となっているものであり、細胞の接着を非常に強力に排除する細胞非接着(排除)表面として機能する。本実施形態は、阻害領域の構造によって細胞の接着を阻害するものであるため、表面の化学的性質に対する接着の選択性が低い細胞にも適用することができる。このような阻害領域は、接着領域と自由に組み合わせて使用することが可能である。したがって、任意のサイズ、形状、および配置の接着領域を設計することが可能になる。
【0119】
また、本実施形態の阻害領域は、接着領域と組み合わせて配置することによって、細胞の移動および接着を制御するためのデバイスの構成単位となり得る。当該構成単位としては、(1)仮想壁、(2)ゲート、(3)パス、などが挙げられる。これらの構成単位を適切に配置することによって、細胞のガイディング、パターニング、ソーティング、捕集等を行なうためのデバイス(バイオメディカルデバイス)を構築することが可能である。このようなデバイスは、再生医療、組織工学、臨床診断、生物医学実験、抗生物汚染材料など、広い範囲に応用して利用することが可能である。
【0120】
<第2実施形態>
〔基板60〕
次に、本発明に係る基板の他の実施形態について説明する。図13は、本発明に係る基板の他の実施形態を示す図である。
【0121】
図13に示す基板60は、接着領域62と溝63とを備えた板である。
【0122】
接着領域62は、接着面61aを有しており、第1実施形態における接着領域12と同様の機能を有する。接着領域62の詳細な説明についてはここでは省略する。
【0123】
溝63は、接着領域62の周囲に沿って設けられており、細胞の接着を阻害するためのものである。溝63は、接着面61aと、溝63を挟んで接着領域62に隣接する領域64との間に1本のみ設けられている。溝63は、その上への細胞の接着を阻害することによって、溝63の上を通過するような細胞の移動、例えば接着領域62と領域64との間の移動をも阻害するものである。領域64は、接着面61aと略同じ高さの頂上面64aを有する領域である。
【0124】
溝63は、直線であってもよいし、曲線であってもよい。また、溝63は、分岐していてもよい。溝63の幅は、数μmであることが好ましく、略1.5μmであることがより好ましい。また、溝63の深さは、数μm以上、数十μm以下であることが好ましく、略20μmであることがより好ましい。
【0125】
溝63が接着領域62に沿って備えられることによって、接着領域62に存在する細胞は、溝63上に接着すること、および溝63上を通過して領域64に進入することを阻害される。したがって、溝63は、接着領域62に対する壁(仮想壁)として働き、細胞を接着領域62内に留めておくことができる。
【0126】
なお、本実施形態に係る基板は、上述した構成に限らず、上記溝63以外の他の溝をさらに備えていてもよい。他の溝は、溝63よりも領域64側に設けられることが好ましい。また、他の溝は、その幅および深さが溝63と同じであってもよい。また、溝63に平行に設けられた溝であってもよいし、溝63とは異なる方向に伸びるように設けられた溝であってもよい。また、溝63と接していてもよいし、離れていてもよい。他の溝は複数設けられていてもよく、溝63とともに格子状に設けられていてもよい。
【0127】
また、溝63および複数の他の溝が設けられることによって、領域64における溝63および複数の他の溝に囲まれた部分が、1つまたは複数の多角柱形状の構造物となっていてもよい。例えば溝63および複数の他の溝が格子状に設けられた場合には、領域64における溝63および複数の他の溝に囲まれた部分は、格子状に並んだ複数の四角柱形状の構造物となる。すなわち、この場合には、領域64は、接着面61aと略同じ高さの頂上面64aを有し、接着領域62と領域64との境界に沿って複数の列において配置されている、複数の四角柱形状の構造物を備えることとなる。つまり、溝63および領域64は、第1実施形態における基板1の阻害領域13と同様に構成されることができ、細胞の接着を阻害することが可能な阻害領域とされることができる。なお、このときの領域64における複数の四角柱形状の構造物における配置間隔とは、上述した溝の幅と等しく、当該構造物の高さとは、溝の深さと等しい。
【0128】
このように、溝63を挟んで接着領域62に隣接している領域64は、溝63とともに、上述した阻害領域13のような、細胞の接着を阻害するための阻害領域を構成していてもよい。これにより、接着領域62内の細胞が溝63を超えて領域64に進入することをより強く阻害することができ、細胞を接着領域62内により確実に留めておくことができる。
【0129】
すなわち、本実施形態における基板60は、接着領域62に沿って設けられる、細胞の接着を阻害するための第1の溝63が設けられている。第1の溝63は、接着領域62に隣接して設けられる、細胞の接着を阻害するための阻害領域に含まれていてもよい。当該阻害領域には、複数の第2の溝が設けられており、第1の溝63と当該第2の溝とに囲まれた部分が、1つまたは複数の多角柱形状の構造物となっていてもよい。当該構造物は、接着面61aと略同じ高さの頂上面64aを有していてもよい。また、複数の当該構造物が、接着領域62と当該阻害領域との境界に沿って、複数の列において配置されていてもよい。当該構造物は、上述した構造物22のような四角柱形状であってもよい。
【0130】
本実施形態における基板60に対しては、第1実施形態において説明した基板の製造方法を好適に適用できる。また、基板60は、上述した細胞チップ、細胞チップの製造方法、細胞培養装置、培養方法などに好適に利用でき、第1実施形態における基板1と同様の効果を得ることができる。
【0131】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0132】
後述する各実施例においては、以下に示すように基板を作製し、その基板における阻害領域の機能について評価した。
【0133】
(基板の作製)
上述した基板1および基板60と同様の構成の基板を作製した。以下、実施形態において説明した部材と同じ機能を有する部材には、同じ部材番号を付すこととし、ここではその詳細な説明を省略する。
【0134】
基板1、60にはシリコンを用いた。まず、シリコンウエハを、パターン化されたフォトレジストにてコートし、深堀り反応性イオンエッチングによってエッチングした。このとき、基板1における構造物22の高さ、および基板60における溝63の深さは20μmとした。その後フォトレジストを酸素プラズマアッシング法によって除去した。そして、熱酸化法によって基板1、60の表面にSiO膜を成膜し、または基板1の表面をAu膜によってコートした。
【0135】
(細胞、培地および培養方法)
各実施例においては、細胞として、ブラックテトラ(Gymnocorymbus ternetzi)の鱗上に存在する移動性細胞であるケラトサイト(fish epidermal keratocyte)を用いた。なお、ケラトサイトは移動性の強い細胞であり、非常に速い速度において直線的に運動することが知られている。また、ケラトサイトは、足場の化学的性質に対して接着選択性が低い細胞であることが知られている。
【0136】
培地としては、15%ウシ血清およびペニシリン−ストレプトマイシン(100units/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを添加した70% Dulbecco’s Modified Eagle Medium(30%の純水、Hepes入り、Invitrogen)を用いた。
【0137】
培養方法としては、まず、魚の鱗をピンセットにて抜き取り、体表側を上にして、鱗がほぼ乾燥するまで基板1、60の接着領域12、62に置き、鱗を基板1、60上に接着させた。その後、培養液を加えて、室温(22〜25℃)において6〜12時間培養した。その結果、ケラトサイトが、鱗から接着領域12、62上にシート状に広がった。次に、シート状のケラトサイトを、0.25%トリプシン/EDTA(Sigma Aldrich)により処理して細胞間接着を壊し、単一細胞を得た。培養液を交換した後、基板1を観察用のチャンバーに移した。
【0138】
(阻害率の計測)
基板1上のケラトサイトを、反射型顕微鏡(MEIJI)を用いて20倍の対物レンズによって観察した。また、デジタルカメラ(Olympus)を用いて、一定時間間隔にて顕微鏡画像を観察した。そして、ケラトサイトが、接着領域12から阻害領域13との境界に達した後、3分以内に向きを変えて接着領域12内に戻ってきたときには、阻害領域13から排除されたと判断した。また、ケラトサイトが、接着領域12から阻害領域13との境界に達した後、3分以上阻害領域13内に留まっていたときには、阻害領域13から排除されなかったと判断した。その後、阻害領域13の阻害率を算出した。
【0139】
〔実施例1〕
実施例1においては、表面にSiO膜を成膜した基板1を用いた。また、本実施例では、構造物22の頂上面22aの辺長aおよび配置間隔bが異なる複数の基板1を作製した。なお、構造物22の高さhは、20μmとした。
【0140】
それぞれの辺長aおよび配置間隔bにおける基板1において、上述したように阻害率を計測した。その結果を以下の表1〜表3に示す。また、図14は、本発明の一実施例における基板の構造物の配置間隔bと辺長aとの関係を表すグラフである。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【0143】
【表3】

【0144】
上記表2および図14に示すように、辺長aが3μm〜7μm、配置間隔bが1μmであるときには、ケラトサイトは100%阻害された。また、上記表1および図14に示すように、辺長aが5μm、配置間隔bが0.5μmであるときにも、ケラトサイトは100%阻害された。
【0145】
これらの結果から、辺長aが3μm〜7μm、配置間隔0.5μmであるときにも、ケラトサイトが100%阻害されることが強く示唆される。
【0146】
また、辺長aが10μ〜20μm、配置間隔bが1μmであるとき(表2)、および辺長aが3μm〜20μm、配置間隔bが1.5μmであるとき(表3)には、ケラトサイトは90%阻害された。
【0147】
したがって、以上の結果から、構造物22の辺長aが3μm以上20μm以下、および配置間隔bが0.5μm以上1.5μm以下であれば、阻害領域13への細胞の接着を効率よく阻害できることが示された。
【0148】
(顕微鏡観察)
また、構造物22の辺長aが5μm、配置間隔bが1μmである阻害領域13を備えた基板1上のケラトサイトについて、一定時間間隔における顕微鏡画像の一部を図15(a)〜(f)に示す。図15(a)〜(f)は、本発明の一実施例における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、1分30秒後、2分30秒後、3分30秒後、4分30秒後、6分後における顕微鏡画像を表す図である。
【0149】
観察後0分〜1分30秒において、ケラトサイトは、接着領域12から阻害領域13に向かって移動した(図15(a)〜(b))。次に、観察後2分30秒〜3分30秒において、ケラトサイトは、その細胞体の一部を接着領域12内に残して移動を一時的に停止するとともに、その細胞体の形を紡錘形から球形に変化させた(図15(c)〜(d))。次に、観察後4分30秒においては、ケラトサイトは、その細胞体を紡錘形に戻すとともに、その仮足とよばれる部位を接着領域12側に大きく伸展させた(図15(e))。その後、方向転換し、観察後6分においては、ケラトサイトは、接着領域12内に戻るように移動した(図15(f))。
【0150】
このような、ケラトサイトの方向転換における、細胞体の変形および接着領域12側への仮足の伸展は、いずれの観察においても再現性よく見られた。
【0151】
以上の結果から、本実施例に係る基板における阻害領域は、細胞の接着を充分に阻害できることが強く示唆された。
【0152】
〔実施例2〕
実施例2においては、表面にAu膜をコートした基板1を用いた。また、本実施例では、構造物22の頂上面22aの辺長を5μm、配置間隔bを2.5μm、および高さhを20μmとした。
【0153】
(阻害率の計測)
この基板1を用いて、上述した方法によって阻害率を計測した。その結果、実験数6において、阻害率は100%であった。
【0154】
(顕微鏡観察)
また、この基板1上のケラトサイトについて、一定時間間隔における顕微鏡画像の一部を図16(a)〜(f)に示す。図16(a)〜(f)は、本発明の他の実施例における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、2分後、4分後、6分後、8分後、9分30秒後における顕微鏡画像を表す図である。
【0155】
観察後0分〜2分において、ケラトサイトは、接着領域12から阻害領域13に向かってまっすぐ移動した(図16(a)〜(b))。次に、観察後4分〜6分において、ケラトサイトは、その細胞体の一部を接着領域12内に残して移動を一時的に停止し、細胞体の形を紡錘形から球形に変化させた(図16(c)〜(d))。次に、観察後8分において、ケラトサイトは、接着領域12側に仮足を大きく伸展させ始め(図16(e))、方向転換した後に、観察後9分30秒において、接着領域12内に戻るように移動した(図16(f))。
【0156】
以上の結果から、Au膜をコートした基板においても、阻害領域が細胞の接着を充分に阻害できることが示された。
【0157】
〔実施例3〕
実施例3においては、表面にSiO膜を成膜した基板1を用いた。また、本実施例では、構造物22の頂上面22aの辺長aを5μm、配置間隔bを1μm、および高さhを20μmとした。
【0158】
この基板1の表面に、以下の方法で、細胞接着を促進する化学物質であるファイブロネクチンをコートした。
【0159】
(ファイブロネクチンコート)
Fibronectin(BD Bioscience)をPBS(−)(Lonza)に溶解し、50μg/mlのファイブロネクチン溶液を作製した。35mmペトリディッシュに基板1を置いて、50μg/mlのファイブロネクチン溶液を1ml加え、室温にて1時間静置した。その後基板1を超純水にて3回洗浄し、風乾した。
【0160】
(阻害率の計測)
次に、この基板1を用いて、上述した方法によって阻害率を計測した。その結果、実験数13において、阻害率は100%であった。
【0161】
(顕微鏡観察)
また、この基板1上のケラトサイトについて、一定時間間隔における顕微鏡画像の一部を図17(a)〜(f)に示す。図17(a)〜(f)は、本発明の他の実施例における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、1分30秒後、3分後、4分30秒後、6分後、7分30秒後における顕微鏡画像を表す図である。
【0162】
観察後0分〜1分30秒において、ケラトサイトは、接着領域12から阻害領域13に向かって移動した(図17(a)〜(b))。次に、観察後3分〜4分30秒において、ケラトサイトは、その細胞体の一部を接着領域12内に残して移動を一時的に停止し、細胞体の形を紡錘形から球形に変化させた(図17(c)〜(d))。次に、観察後6分〜7分30秒において、ケラトサイトは、その細胞体を紡錘形に戻すとともに、接着領域12側に仮足を大きく伸展させて方向転換し、接着領域12内に戻るように移動した(図17(e)〜(f))。
【0163】
本実施例において観察されたケラトサイトの細胞体の変形、接着領域12側への仮足の伸展などは、実施例1において、ファイブロネクチンコートしていない基板上にて観察されたものと同様であった。
【0164】
以上の結果から、本実施例に係る基板における阻害領域は、細胞接着を促進する化学物質であるファイブロネクチンをコートした場合においても、移動性の高いケラトサイトの接着を完全に阻害できる構造であることが示された。したがって、本実施例は、表面の化学的性質に対して接着選択性が低い細胞、移動性の強い細胞などに対しても、好適に利用できるものであることが示された。
【0165】
〔実施例4〕
実施例4においては、表面にSiO膜を成膜した基板1を用いた。本実施例では、構造物22の頂上面22aの辺長aを5μm、および高さhを20μmとした。また、本実施例では、構造物22の配置間隔bを1μmまたは3μmとした2種類の基板1を用いた。
【0166】
これらの基板1の接着面21a上に接着させた細胞の阻害領域13に対する進入角(degrees)と、阻害領域13による阻害効果との関係を調べた。
【0167】
図18(a)〜(c)は、細胞の進入角を測定する方法を説明するための図である。進入角は、以下の方法により測定した。
(1)細胞100の顕微鏡写真を30秒毎に撮影した。
(2)接着領域12と阻害領域13との境界に細胞100が接触する直前の顕微鏡写真の2コマまたは3コマを、2値化した。
(3)2値化した画像から、細胞100の重心を求めた(図18(a))。
(4)最小二乗近似直線を用いて、重心の軌跡をフィットさせた(図18(b))。
(5)最小二乗近似直線と、接着領域12および阻害領域13の境界線とのなす角(0°〜90°)を計算し、進入角とした(図18(c))。
【0168】
なお、上記(2)および(3)の処理には、画像処理ソフトウェアImageJ(US National Institute of Health (NIH))を用いた。また、上記(4)および(5)の処理には、データ解析ソフトウェアKaleidaGraph(Synergy Software)を用いた。
【0169】
その結果、構造物22の配置間隔が1μmである基板では、全ての進入角においてケラトサイトが阻害された。
【0170】
一方、構造物22の配置間隔が3μmである基板における、細胞の進入角と阻害領域による阻害効果との関係を図19に示す。図19に示すように、ケラトサイトは、阻害領域13に対して進入角0°〜約56°にて進入する場合には阻害され、進入角約59°〜90°にて進入する場合には阻害されなかった。
【0171】
これらの結果から、阻害領域13における構造物22の配置間隔が1μmである場合には、細胞は、いずれの進入角にて進入した場合にも阻害されるが、構造物22の配置間隔が1μmより3倍広い3μmである場合には、進入角が大きいと阻害されにくくなることがわかった。
【0172】
〔実施例5〕
実施例5においては、基板60を用いた。本実施例では、溝63の幅が1.5μm、4μmまたは20μmである基板60を用いた。
【0173】
それぞれの基板60において、実施例1と同じ方法を用いて、溝63による阻害率を計測した。その結果を以下の表4に示す。
【0174】
【表4】

【0175】
上記表4に示すように、溝63の幅が1.5μmであるときには、ケラトサイトは88%阻害されたが、溝63の幅が4μmであるときには50%、20μmであるときには18%しか阻害されなかった。
【0176】
(顕微鏡観察)
また、溝63の幅が1.5μmである基板60上のケラトサイトについて、一定時間間隔における顕微鏡画像の一部を図20(a)〜(h)に示す。図20(a)〜(h)は、本発明の実施例5における基板上のケラトサイトについての、それぞれ観察開始から0分後、2分後、4分後、6分後、8分後、10分後、12分後、14分後における顕微鏡画像を表す図である。
【0177】
観察後0分〜2分において、ケラトサイトは、接着領域62から溝63に向かってまっすぐ移動した(図20(a)〜(b))。次に、観察後4分〜10分において、ケラトサイトは、その細胞体の一部を接着領域62内に残して移動を一時的に停止した(図20(c)〜(f))。次に、観察後12〜14分において、ケラトサイトは、接着領域62側に方向転換した後に、接着領域62内に戻るように移動した(図20(g)〜(h))。
【0178】
以上の結果から、1本の溝のみでも細胞の接着を充分に阻害できることが示された。
【0179】
以上の各実施例により、本発明に係る基板は、細胞の移動を高精度に制御できるものであり、移動性の高い細胞の運動性制御にも好適に利用できることが示された。また、実施例5に示すように1本の溝のみでも細胞の接着を充分に阻害できるが、実施例1〜4のように多数の溝と多数の角とを有する阻害領域を備えていれば、細胞の接着を阻害する効果がより高くなることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明は、細胞の移動および接着を高精度に制御することができ、かつ細胞接着領域を、目的、用途等に柔軟に対応させることができるので、バイオメディカルデバイスなどの構築に有用であり、再生医療、組織工学、臨床診断、生物医学実験、抗生物汚染材料など、広い範囲に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0181】
1 基板
2、2a、2b、2c、2d、2e 細胞チップ
12、12a、12b、12c、12d、12e、12f 接着領域
13、13a、13b 阻害領域
21a 接着面
22 構造物
22a 頂上面
50 細胞培養装置
60 基板
61a 接着面
62 接着領域
63 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を接着させるための接着面を有する接着領域と、
上記接着領域に隣接して設けられる、細胞の接着を阻害するための阻害領域とを備えており、
上記阻害領域は、複数の多角柱形状の構造物を備えていることを特徴とする基板。
【請求項2】
上記構造物は、上記接着面と略同じ高さの頂上面を有することを特徴とする請求項1に記載の基板。
【請求項3】
複数の上記構造物は、上記接着領域と上記阻害領域との境界に沿って、複数の列において配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
上記構造物は、四角柱形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板。
【請求項5】
上記構造物の頂上面の一辺の長さは、3μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基板。
【請求項6】
隣接する2つの上記構造物の間隔は、0.5μm以上1.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の基板。
【請求項7】
上記接着領域と上記阻害領域との境界に隣接して設けられた上記構造物の頂上面における少なくとも1つの角は、上記接着領域に対向していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の基板。
【請求項8】
シリコン、ガラス、シリコーンゴム、プラスチックおよび金属からなる群より選択されるいずれかにより構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板。
【請求項9】
上記構造物は、リソグラフィー法を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の基板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の基板を備えていることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の基板を備えており、
上記基板は、上記接着領域を複数備えており、かつ、複数の上記接着領域の各々に細胞が固定されていることを特徴とする細胞チップ。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の基板を用いて細胞を培養する培養工程を含むことを特徴とする培養方法。
【請求項13】
上記基板は、上記阻害領域に取り囲まれた上記接着領域を複数備えており、
上記培養工程は、複数の上記接着領域の各々において、それぞれ異なる種類の細胞を培養するものであることを特徴とする請求項12に記載の培養方法。
【請求項14】
細胞を接着させるための接着面を有する接着領域と、
上記接着領域に沿って、細胞の接着を阻害するための溝が設けられていることを特徴とする基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図18】
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【図19】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−155865(P2011−155865A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18665(P2010−18665)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(510028121)インスティチュート フォー リサーチアンドインダストリー コーポレーション,プサン ナショナル ユニバーシティー (1)
【氏名又は名称原語表記】Institute for Research&Industry Cooperation,Pusan National University
【住所又は居所原語表記】San30,Jangjeon−Dong,Geumjeong−Gu,Busan,609−735,Republic of Korea
【Fターム(参考)】