説明

基板型半導体式ガスセンサ及びガス検出器

【目的】 長期安定性、温湿度依存性、品質安定性、薄膜依存性の点で優れ、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類等の匂いを有するガスに対しても、これを感度良く、選択性よく検知することができる基板型半導体式ガスセンサ及びこれを備えたガス検出器を得る。
【構成】 基板上に酸化スズを主成分とする金属酸化物半導体膜層を備え、金属酸化物半導体膜層に電気的に接続された検出電極を備えて構成される基板型半導体式ガスセンサにおいて、酸化スズの平均一次粒子径が35nmから70nmに形成し、金属酸化物半導体膜層の膜厚を10μmから50μmまたは150μm以上に形成し、センサ温度を450〜550℃に設定して、匂いガス、水素ガスを検出する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基板上に酸化スズを主成分とする金属酸化物半導体膜層を備え、金属酸化物半導体膜層に電気的に接続された検出電極を備えて構成される基板型半導体式ガスセンサ及びこのセンサを備えたガス検出器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の基板型半導体式ガスセンサにおいては、感ガス体としての酸化スズを600℃〜800℃の温度で焼成していた。従って、その平均一次粒子径は20〜30nmであり、比表面積は7〜20m2/g程度であった。そして、例えばエタノールや水素を検知対象ガスとする場合は、その金属酸化物半導体層の厚みは数十ミクロン程度で製品にはバラツキがあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようにセンサを構成すると、センサの長期安定性、湿度依存性、膜厚依存性、品質算定及び収率等の点で問題があった。以下、各特性について個別に説明する。
(1) 長期安定性従来型センサ(600〜800℃で焼成した酸化スズを用いたセンサ。以下従来型センサという)は、経時的にその感度が変化しやすい。この状況を図3に示した。図3において、点線は従来型センサの経時的な出力変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppm、100ppmに対する出力)を示し、実線は後に説明する本願センサの経時的な出力変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppm、100ppmに対する出力)を示している。図より判るように、従来型のセンサにおいては、経時的に出力が増加し、特に検知対象ガスの濃度が低い場合に、この傾向が強い。この現象が発生する理由としては、製造時における焼成温度が低いために、長期間使用中に酸化スズの粒子が成長し、感度が変化するものと考えられる。
(2)温、湿度依存性従来型センサは、感度の温、湿度依存性が大きい。この状況を図4に示した。図4において、点線は従来型センサの相対湿度に対する感度変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppmに対する出力)を示し、実線は後に説明する本願センサの相対湿度に対する感度変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppmに対する出力)を示している。図より判明するように、従来型のセンサにおいては、相対湿度に対する感度の変化が大きく、例えば、図示するエタノールに対しては、湿度に関する補正をおこなわない限り、センサ単独では正確な測定がおこない難い。
(3) 製品の品質安定と収率従来型センサにおいては、これを酸化スズの酸化活性の高い状態で使用する目的から、焼成温度としては600℃〜800℃の低温が選択され、比表面積を大きくしていた。しかし比表面積を大きくすると使用中に粒成長にともなう比表面積の低下が起こり易くなるため、これを防ぐために粒成長を抑止する目的で粒成長抑制剤(酸化セリウムのような高融点化合物)を添加する必要があった。さらに、酸化スズを前記温度で焼成した場合、焼成温度の少しの違いでも比表面積が大きく変化するために、製造工程の管理が難しく、感度のばらつきが生じ易い等の問題があった。
(4) 膜厚依存性従来型センサは、感度の膜厚(電極表面から金属酸化物半導体表面までの厚さをいう)依存性が大きい。この状況を図5に示した。図5において、点線は従来型センサの膜厚に対する感度変化(エタノール100ppm、水素1000ppmに対する感度)を示し、実線は後に説明する本願センサの膜厚に対する感度変化(エタノール100ppm、水素1000ppmに対する感度)を示している。この図より判るように、従来型のセンサにおいては、センサ感度の膜厚依存性が大きく(点線が大きく立ち下がっている)、例えば、図示するエタノール、水素を対象として検知しようとすると、膜厚を20μm以下(実際には10μm以下)に調整する必要があり、これ以上では品質の一定したセンサを得ることが困難であった。
【0004】以上は、従来型の基板型半導体式ガスセンサ一般について言えることであるが、このようなガスセンサを使用する対象として、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類等の匂い検知を挙げることができる。ここで、このような匂い検知においては、従来、官能試験法かガスクロなどを用いる機器分析法が主に採用されていた。しかし前者は試験方法が煩雑で、少なくとも3名以上の人手を必要とする、得られる結果の客観性に欠ける等の問題がある。また後者は設備およびその維持費が高価である、機器の操作に高度な知識が要求される、測定に時間がかかる等の問題がある。従って、本願で取り扱うように、匂いの簡便な評価方法として、匂いのあるガスに対する感度を高くした半導体式(匂い)ガスセンサを用いる方法も利用されつつある。しかし従来の半導体式(匂い)ガスセンサでは、センサが検出することのできるガス濃度の限界(検出下限界濃度)とヒトが匂いを感じる限界の濃度(検知域値)の間には大きな隔たりがあり、さらに例えば水素といった無臭気性のガスとの識別検知をいかにおこなうかが問題となる。従って本発明の目的は、長期安定性、温湿度依存性、品質安定性、膜厚依存性の点で優れ、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類等の匂いを有するガスに対しても、これを、選択性よく検知することができる基板型半導体式ガスセンサ及びこれを備えたガス検出器を得ることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するための本願第1の発明の基板型半導体式ガスセンサの特徴構成は、酸化スズの平均一次粒子径が35nmから70nmに形成され、金属酸化物半導体膜層の膜厚を10μmから50μmに形成されていることにある。そして、このガスセンサを採用するガス検出器の特徴構成としては、これが、上記の基板型半導体式ガスセンサを備え、金属酸化物半導体膜層を450℃から550℃に加熱維持する加熱手段を備えていることにある。一方、上記の目的を達成するための本願第2の発明の基板型半導体式ガスセンサの特徴構成は、酸化スズの平均一次粒子径が35nmから70nmに形成され、金属酸化物半導体膜層の膜厚が150μm以上に形成されていることにある。そして、このガスセンサを採用するガス検出器の特徴構成としては、これが、上記の基板型半導体式ガスセンサを備え、金属酸化物半導体膜層を450℃から550℃に加熱維持する加熱手段を備えていることにある。それらの作用・効果は次の通りである。
【0006】
【作用】本願の基板型半導体式ガスセンサにおいては、第1、第2の発明ともに、金属酸化物半導体膜層を形成する酸化スズの平均一次粒子径が特定の範囲に設定される。酸化スズの平均一次粒子径を制御する場合、一つの方法としては、その焼成温度を制御しておこなうのが最も一般的である。図2に酸化スズの焼結温度と平均一次粒子径あるいは比表面積の関係を示した。同図に示すように、従来型のセンサは、600℃〜800℃で焼成することにより平均一次粒子径が20〜30nmで、比表面積が20〜8m2/gに設定されており、本願発明のものにおいては、1000〜1400℃で焼成することにより、その平均一次粒子径が35〜70nmで、比表面積が4.5〜1.8m2/gとなっている。そして、このようにして形成されるセンサは、後述するように、その膜厚によって、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類等の匂いガスに対して感度を有するものと、水素に対して感度を有するものとに別れることとなる。この状況を図5について説明する。図5は、感度の膜厚依存性を示すものであり、実線が、本願の平均一次粒子径の大きなセンサ(35〜70nm)を示している。図示するように、膜厚が10〜50μm以下の場合は匂いガスを代表できるエタノールに対して水素に対する選択性を備えた状態でガスを検知可能であり、膜厚が150μm以上の場合は、水素が匂いガスを代表できるエタノールに対して選択性を備えた状態で検知可能されることが判る。従って、基板型半導体式ガスセンサの酸化スズにおける平均一次粒子径とその膜の厚みを適切に選択することにより、匂いガス、水素を有効に識別検知することができる。ここで、上記の説明にあたって、ガス検知状態に於けるセンサの温度に関しては説明しなかったが(上記の説明にあたっては良好な感度域で説明している)、センサ温度に対する各検知対象ガスに対する温度感度状態を図9に示した。同図において図9(イ)は、本願のセンサにおける感度の温度依存性を示しており、図9(ロ)は従来型センサの感度の温度依存性を示している。両図の比較から判明するように、本願のセンサにおいては、感度が比較的高い温度域が450〜550℃にあり、従来型のそれは、350℃未満である。従って、本願のガス検出器には、加熱手段が設けられ、センサが最も高い感度を示す温度域に於けるガス検知をおこなうように構成されている。さて、図9(イ)に示すデータは、金属酸化物半導体膜層の厚みが、匂いガス検知に適する10〜50μmのものに関するものであり、この膜厚を増加していくと、先に説明したように、図5に示すような検知対象ガスの交代が発生し、このセンサ温度域で水素が良好に識別検知されることとなる。
【0007】
【発明の効果】以上の説明において、本願のガスセンサ及びガス検出器に関する粒子の平均一次粒子径、膜厚、センサ温度の作用について説明したが、このような構成を採用することによる、前記課題の解決結果について説明する。説明にあたっては、上記と同様に、匂いガスに関してはエタノールを代表として説明する。
(1)長期安定性先に説明した図3に示すように、本願のセンサは高温で焼成されているため、粒子の成長や比表面積の低下が起こり難く、酸化活性の劣化が僅かであり感度が長期間安定である。
(2)温、湿度依存性先に説明した図4に示すように、本願では酸化スズを高温で焼成しており比表面積を低下させているために湿度の影響は少なくなる。また450℃〜550℃の高温で使用されるため、更に湿度の影響を受けることは少なくなり湿度依存性は改善される。
(3)製品の品質安定と収率本願で用いる焼成温度は1000℃以上の高温であるため比表面積のばらつきが少ない酸化スズ焼結体を得ることができる。また使用中の粒成長にともなる比表面積の低下も起こりにくいため粒成長抑制剤などを添加する必要もなく、製造工程が簡略化され品質の整ったセンサを収率良く得ることができる。
(4)膜厚の依存性先に説明した図5に示すように、高温で焼成した酸化スズはその酸化活性は低いが故に、比較的広い膜厚範囲(10〜50μm)でほぼ似通った感度を有することとなる。従って、膜厚の管理の幅を広げることができ、膜厚がこの範囲であれば品質の安定したセンサを得ることができる。この膜厚が10〜50μmという範囲は製造工程の管理上非常に広いものである(10μm以下では焼結体にキレツが生じ易くなり膜の強度が弱くなる)。
【0008】
【実施例】本願の実施例を図面に基づいて説明する。
1 ガスセンサ及びガス検出器の構造図1には、本願の基板型半導体式ガスセンサ1の構成が示されている。図示するように、センサ1は、アルミナ基板2上に酸化スズを主成分とする金属酸化物半導体膜層3を備えて構成されており、この金属酸化物半導体膜層3に電気的に接続された検出電極としての白金薄膜電極4を備えて構成されている。そして、この白金薄膜電極4に対して、この電極間における抵抗値の変化を検出するように、検出側回路を組んで、検出手段5が構成される。この検出側回路は、センサ1と直列に接続される負荷抵抗RLを備え、この抵抗における電圧出力を得て、センサ1の抵抗値の変化を求めるものである。さらに、アルミナ基板2の裏面側に白金薄膜ヒーター6が備えられ、これにセンサ温度制御装置7が接続されて、加熱手段が構成されている。この加熱手段は、本願のセンサ1の動作に適するセンサ温度である450〜550℃にセンサ(金属酸化物半導体膜層)を加熱維持する。以上の構成を採用することにより、全体としてガス検出器100が構成される。
【0009】以下本願の基板型半導体式ガスセンサの諸要件を、匂いガスを対象とするセンサと水素ガスを対象とするものと比較して記載する。
匂いガスセンサ 水素ガスセンサ酸化スズの平均一次粒子径 35〜70nm 同左焼成温度 1000〜1400℃ 同左比表面積 4.5〜1.8m2/g 同左金属酸化物半導体膜厚 10〜50μm 150μm以上ガス検知時の作動温度 450〜550℃ 同左
【0010】2 センサの製作方法四塩化スズを用い一定の水溶液を調整し、これにアンモニア水を滴下して得た水酸化スズの沈澱物を乾燥後、電気炉で600℃で2時間焼成して酸化スズを得る。これを粉砕して微粉末とし、水で練ってペースト状にする。このペーストを白金薄膜の櫛形電極4とヒーター6を備えたアルミナ基板2の電極部分に塗布する。これを乾燥させた後に電気炉(図外)で1000℃〜1400℃の温度で2時間焼成し酸化スズの厚膜を得て、ガスセンサ1を得る。
【0011】3 センサの感度測定方法上記の方法で得られたセンサは図1に示すような電気回路に組み込まれ、センサの電極端子と直列に接続された負荷抵抗RLの両端の電圧を測定し、この電圧値からセンサの抵抗値を計算する。感度は清浄な空気中のセンサ抵抗値(Ra)とガス中でのセンサ抵抗値(Rg)との比すなわちRa/Rg(抵抗変化率)として定義する。本願における図5、6、8、9の感度測定は上記の手法で整理した。さらに図4、7は絶対出力値(mV単位)を、図3は100ppmエタノールに対する初期出力値を100とする規格化出力で示した。
【0012】4 センサの特性実験結果(1)長期安定性図3に、この特性に関する実験結果を示した。実験対象のセンサとしては、上記本願センサ(平均一次粒子径53nm、センサ温度500℃、膜厚約30μmで代表する)と従来型センサ(平均一次粒子径19nm、センサ温度350℃、膜厚約30μmで代表する)とを比較した。経時日数は200日である。同図において、実線は本願センサの経時的な出力変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppm、100ppmに対する出力)を示し、点線は従来型センサの経時的な出力変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppm、100ppmに対する出力)を示した。本願センサは、出力特性が安定しているのに対して、従来型のセンサは、経時的に出力が増加し、特に検知対象ガスの濃度が低い場合に、この傾向が強い。
【0013】(2)温、湿度依存性図4に、この特性に関する実験結果を示した。実験対象のセンサとしては、上記本願センサ(平均一次粒子径53nm、センサ温度500℃、膜厚約30μmで代表する)と従来型センサ(平均一次粒子径19nm、センサ温度350℃、膜厚約30μmで代表する)とを比較した。相対湿度は10から90%まで変化させた。図4において、実線は本願センサの相対湿度に対する感度変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppmに対する感度)を示し、点線は従来型センサの相対湿度に対する感度変化(ベース出力、エタノール1ppm、10ppmに対する感度)を示している。この図より判明するように、本願センサは、温、湿度の影響を受け難く、従来型のセンサにおいては、相対湿度に対する感度の変化が大きい。
【0014】(3)膜厚の依存性図5に、この特性に関する実験結果を示した。実験対象のセンサとしては、上記本願センサ(平均一次粒子径53nm、センサ温度500℃)と従来型センサ(平均一次粒子径19nm、センサ温度350℃)とを比較した。膜厚は、10μmから300μmまで変化させた。従来型センサは、感度の膜厚依存性が大きい。即ち、同図において、実線は本願センサの膜厚に対する感度変化(エタノール100ppm、水素1000ppmに対する感度)を示し、点線は従来型センサの膜厚に対する感度変化(エタノール100ppm、水素1000ppmに対する感度)を示している。図より判るように、本願センサは比較的広い膜厚範囲において感度が安定した領域が存在するとともに、匂いガスに対する感度が高い膜厚領域と水素ガスに対する感度が高い領域とが、交代する特性を有している。従って、本願センサにおいてはこれらのガス間で選択性を得ることができる。一方、従来型のセンサにおいては、センサ感度の膜厚依存性が大きく(点線が大きく立ち下がっている)、さらに、匂いガスと水素ガスに対する膜厚に対する感度の増減傾向が似通っている。従って、従来型のものは、膜厚に対する依存性が大きく、さらに、ガス間の選択性についても得にくいことがわかる。
【0015】(4)平均一次粒子径依存性図6に、本願のセンサであって、膜厚を10〜50μmに設定した場合におけるセンサ温度450℃,500℃,550℃それぞれのときのエタノールおよび水素に対する感度の平均一次粒子径依存性を示した。この場合に、エタノールの識別性を確認するため、このガスの濃度を100ppmにさらに、水素ガス濃度を1000ppmとした。平均一次粒子径は10〜70nmまで変化させた。図6において、実線はエタノールに対する感度変化であり、点線は水素に対する感度変化を示している。この図より判明するように、酸化スズの平均一次粒子径が40nm以上からエタノールに対する感度は急激に増大する。一方水素に対する感度は平均一次粒子径が45nm以上から減少するため、平均一次粒子径を制御することで水素感度を低下させることも可能である。膜厚を制御すると、先に説明したように、水素感度を挙げることも可能である。さらに、本願センサの平均一次粒子径を持った酸化スズを有機溶剤ガス用のセンサとして利用する場合にはその動作温度は450℃〜550℃、好ましくは500℃であることがわかる。
【0016】(5)種々のガスに対する感度特性図7は平均一次粒子径が53nmである酸化スズを用いた本願センサの各種ガスに対する感度特性を示している。このように匂いのあるガス(エタノール、アセトン、酢酸エチル、アセトアルデヒド、トリメチルアミン、スチレン、プロピオン酸)に対する感度は非常に高く、無臭ガス(イソブタン、水素、一酸化炭素、メタン)に対する感度が極めて低い。従って、これらの識別検知が可能な優良な匂いセンサが得られている。ただし、膜厚は10〜50μmに設定されており、ガス検知時のセンサ温度は、450〜550℃に設定している。
【0017】(6)種々のガスにおける粒子径依存性図6に対応して、図7で示した匂いガスにおけるセンサの平均一次粒子径依存性を調べた結果を図8に示した。ここで、各ガス(エタノール、アセトン、アセトアルデヒド、プロピオン酸、ジエチルエーテル、酢酸エチル)の濃度は従来検知が難しかった100ppmであり、センサの膜厚は10〜50μmに、さらにセンサ温度は450〜550℃としている。結果、エタノール以外の各種ガスに対する感度も、平均一次粒子径が35nm〜70nmの範囲で高感度となる。従って、このような有機溶剤ガスと水素など無臭ガスとの選択性を高め、なおかつ有機溶剤ガスの感度を増加させるためには、酸化スズの平均一次粒子径を35nm以上とするのが好ましい。また平均一次粒子径が70nm以上では酸化スズの一次粒子が大きすぎるために粒子間の結合が弱まるために焼結体の強度の面からは平均一次粒子径は70nm以下が望ましい。さらに、平均一次粒子径を40nm以上としておくと図示する各種ガスに対して感度をより高くすることができる。又、50nm近傍(45nm〜55nm)が感度が最もよい。
(7)センサ温度依存性図9に、本願のセンサであって、膜厚を10〜50μmに設定した場合におけるエタノール、アセトン(以上が匂いを有するガス)、水素、イソブタン、一酸化炭素、メタン(以上が無臭気ガス)に対する感度のセンサ温度依存性を示した。この場合に、臭気ガスの識別性を確認するため、これらのガスの濃度を100ppmにさらに、無臭ガス濃度を1000ppmとした。センサ温度は300〜550℃まで変化させた。さらに、図9(イ)に平均一次粒子径が大きく設定されている本願センサの結果を、図9(ロ)に従来型センサの結果を示している。図9(イ)からも明らかなように、本願センサにおいて感度の良好な温度領域は、図6にも示すように450〜550℃の温度領域である。そして、この領域においては、無臭気性のガスに対して充分な識別性を備えている。一方、従来型のセンサにおいては、その感度の高い領域は、比較的温度の低い350℃未満の温度領域である。そして、この領域においては、従来型のセンサにおいては、無臭気性のガス(特に水素)に対する識別性が低いことを示している。
【0018】〔別実施例〕以下、本願の別実施例について説明する。上記の実施例においては、匂いを有するガスとして、エタノール、アセトン、酢酸エチル、アセトアルデヒド、トリメチルアミン、スチレン、プロピオン酸、ジエチルエーテルの例を示したが、平均一次粒子径35〜70nm、膜厚を10〜50μmに設定して構成されるセンサにおいては、エチルエーテル、硫化水素、メチルメルカプタンも検知できる。
【0019】さらに、上記の実施例においては、基板としてはアルミナ基板を採用したが、この基板は電気絶縁性、耐熱性であって、熱伝導のよいものであればよい。一方感ガス体部とヒーターをアルミナ基板の別の面に設けたが、同一面に設けてもよい。上記実施例においては、感ガス体のガス吸着による抵抗変化を単独に検出する構成(又は構造)であるが、この抵抗変化をヒーターの抵抗と感ガス体の抵抗との合成抵抗の変化として検出する構成(又は構造)であってもよく、要するに、金属酸化物半導体のガス吸着による抵抗変化を検出できれば、センサの構造にはとらわれない。上記の実施例においては、感ガス体部を所定の温度域に加熱するのに、アルミナ基板の裏面に白金薄膜ヒーターを備えたが、このヒーターを基板と金属酸化物半導体膜層とは別個に、これらの部位を周部より囲んで備えられるヒーターとして備えてもよい。尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】基板型半導体式ガスセンサの構成を示す図
【図2】酸化スズの平均一次粒子径と比表面積の焼成温度依存性を示す図
【図3】本願センサと従来型センサの経時安定性を示す図
【図4】本願センサと従来型センサの湿度依存性を示す図
【図5】エタノールと水素ガスにおける感度と膜厚の関係を示す図
【図6】エタノールと水素ガスにおける感度と平均一次粒子径の関係を示す図
【図7】本願センサの各種ガスに対する感度特性を示す図
【図8】匂いガスに対する感度と平均一次粒子径の関係を示す図
【図9】異なった平均一次粒子径を有するセンサにおける感度とセンサ温度の関係を示す図
【符号の説明】
1 基板型半導体式ガスセンサ
2 基板
3 金属酸化物半導体膜層
4 検出電極
6 加熱手段
7 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板(2)上に酸化スズを主成分とする金属酸化物半導体膜層(3)を備え、前記金属酸化物半導体膜層(3)に電気的に接続された検出電極(4)を備えて構成される基板型半導体式ガスセンサであって、前記酸化スズの平均一次粒子径が35nmから70nmに形成され、前記金属酸化物半導体膜層(3)の膜厚を10μmから50μmに形成されている基板型半導体式ガスセンサ。
【請求項2】 請求項1記載の基板型半導体式ガスセンサを備え、前記金属酸化物半導体膜層(3)を450℃から550℃に加熱維持する加熱手段(6)(7)を備えたガス検出器。
【請求項3】 基板(2)上に酸化スズを主成分とする金属酸化物半導体膜層(3)を備え、前記金属酸化物半導体膜層(3)に電気的に接続された検出電極(4)を備えて構成される基板型半導体式ガスセンサであって、前記酸化スズの平均一次粒子径が35nmから70nmに形成され、前記金属酸化物半導体膜層(3)の膜厚が150μm以上に形成されている基板型半導体式ガスセンサ。
【請求項4】 請求項3記載の基板型半導体式ガスセンサを備え、前記金属酸化物半導体膜層(3)を450℃から550℃に加熱維持する加熱手段(6)(7)を備えたガス検出器。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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