説明

基油配合物

(i)フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油及び(ii)フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有する基油配合物。該配合物は、例えば同じフィッシャー・トロプシュ生成物から誘導した、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油をフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油と戻しブレンドして、製造できる。フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物の引火点を所望の目標値より高く維持しながら、該配合物の常温流れ特性を改良する目的で、及び/又は好ましくは配合物の引火点を望ましくないほど大幅に低下させることなく、或いはフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の導入により起こることを理論的に予測した値よりも少ない低下により、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物中の常温流れ添加剤の濃度を低下させる目的で、該配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は基油配合物、その製造及び使用に関し、また新規目的のため、基油配合物への特定種の油の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
フィッシャー・トロプシュ縮合法は、一酸化炭素及び水素を適切な触媒の存在下、高温(例えば125〜300℃、好ましくは175〜250℃)及び/又は高圧(例えば5〜100バール、好ましくは12〜50バール)で長鎖、通常、パラフィン性の炭化水素に転化する反応である。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ法は、LPG、ナフサ、ケロシン及びガス油フラクションを含む或る範囲の炭化水素燃料を製造するのに使用できる。これら燃料のうち、ガス油は石油誘導ガス油とブレンドして、特に自動車用ディーゼル燃料のような中間蒸留物燃料組成物に使用されてきた。重質フラクションは、水素化処理及び減圧蒸留に従って、異なる蒸留特性及び粘度を有する潤滑基油原料として有用な一連の基油を生成できる。これらの基油は、潤滑油、誘電流体(例えば電気絶縁油又はトランス油)、作動油(例えば衝撃吸収器油)及び例えばエラストマー製造でのプロセス油等として広範な用途を有する。
【0004】
例えばWO−A−02070627及びWO−A−02070629には、フィッシャー・トロプシュ法で作った蝋からイソパラフィン性基油を製造する方法が記載されている。このようなフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、優れた低温特性、例えば低流動点を有する傾向があり、これら基油の製造に使用される方法が鉱物原油源から製造される同様な基油の製造法に比べて、比較的簡単であることからも魅力的である。
【0005】
このような方法の生成物は、特にガス油及び100℃での動粘度(VK 100)が約4cStの基油流を含有する。この基油流は潤滑油配合物に使用するのに好適である。
【0006】
前記生成物は、VK 100が約2〜3cStの軽質基油も含有する。この軽質基油は、沸点範囲がガス油の最終沸点と前記4cSt基油の初期沸点との間にある基油留分である。このような中間生成物の沸点範囲は、ガス油及び4cSt基油の沸点範囲により決定され、また4cSt基油の初期沸点は粘度及び揮発減量の仕様に一致させる必要があるため、固定される。これにより、3cSt軽質基油では沸点範囲、したがって、粘度及び流動点のような関連特性に対しては管理(control)の程度が比較的低くなる。そうすると、所望の仕様に配合するのは困難になる可能性があるので、軽質油の潜在的用途を制限できる。例えば軽質油の粘度及び流動点が電気絶縁油として使用するには不相応に高いかも知れないし、しかも粘度は未だ低すぎて、潤滑油として使用することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、軽質基油留分の特性に対しては、潜在的用途を拡大するように、更に大幅な管理を行使できることが望ましい。意図する用途によっては、基油は粘度及び粘度指数、引火点、蒸留特性及び流れ特性(特に低温性能)に関する厳しい要求に応じる必要のあることが多い。特に高温環境下又は高いピーク温度を含む状況下で使用する場合、電気絶縁油としての使用を意図した基油には、引火点の高いことが特に重要である。したがって、これに関連して、軽質基油を低温環境下で使用することを意図すれば、粘度及び流動点ばかりでなく、引火点も利用可能の仕様に適合するように、慎重に管理しなければならない。
【0008】
フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を配合する際、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を添加すると、引火点が望ましくないほど大きく低下することなく、特性の改良が達成できることが今回、意外にも見出された。こうして、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、軽質基油の特性を調整するのに使用できる。これにより、次いで軽質油の多様性を増大でき、特に得られるブレンドを電気絶縁油用に好適にすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の説明
本発明の第一の局面では(i)フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油及び(ii)フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有する基油配合物が提供される。
【0010】
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有させると、所望の仕様に適合するよう軽質基油生成物の特性を一層容易に注文通り作ることができる。
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、軽質基油の特に粘度及び更に特に流動点の両方を低下でき、したがって、全配合物を例えば電気絶縁油又は衝撃吸収器油として使用できる。
【0011】
しかし、以下、詳細に説明するように、意外にもガス油は配合物の引火点を極めて大きく低下させるものではない。したがって、本発明はフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の代りの使用方法を提供し、基油生成物の配合を希望する者に利用可能な選択肢を増大できる。
【0012】
これに関連して、用語“フィッシャー・トロプシュ誘導”は、材料がフィッシャー・トロプシュ縮合法の合成生成物又はその誘導体であることを意味する。用語“非フィッシャー・トロプシュ誘導”は、これに従って解釈してよい。したがって、フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、添加した水素以外の実質部分がフィッシャー・トロプシュ縮合法から直接又は間接的に誘導された炭化水素流である。
【0013】
フィッシャー・トロプシュ誘導生成物はGTL生成物と言ってもよい。
炭化水素生成物はフィッシャー・トロプシュ反応から直接得られ、或いは例えばフィッシャー・トロプシュ合成生成物の精留(fractionation)により間接的に、又は水素化処理したフィッシャー・トロプシュ合成生成物から間接的に得られる。
【0014】
水素化処理は、沸点範囲を調節するための水素化分解(例えばGB−B−2077289及びEP−A−0147873参照)及び/又は分岐パラフィンの割合を増大させることにより常温流れ(cold flow)特性を改良できる水素化異性化を含むことができる。EP−A−0583836には、2段階水素化処理法が記載されている。この方法は、まずフィッシャー・トロプシュ合成生成物に対し、実質的に異性化又は水素化分解(これはオレフィン性成分及び酸素含有成分を水素化する)を受けないような条件下で水素化転化を行ない、次いで得られた生成物の少なくとも一部を、水素化分解又は水素化異性化が起こって実質的にパラフィン性炭化水素生成物が生成するような条件下で水素化転化するというものである。次に、所望のフラクションは、例えば蒸留により単離できる。フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を改質するため、例えばUS−A−4125566やUS−A−4478955に記載されるように、重合、アルキル化、蒸留、分解−脱カルボキシル化、異性化、水素化改質等、その他の後合成処理も採用できる。
【0015】
パラフィン性炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成用触媒は、一般に触媒活性成分として、周期表第VIII族の金属、特にルテニウム、鉄、コバルト又はニッケルを含有する。このような好適な触媒は、例えばEP−A−0583836(第3、4頁)に記載されている。
【0016】
フィッシャー・トロプシュ法の一例は、第5回Synfuels Worldwide Symposium(合成燃料ワールドワイドシンポジウム)、ワシントン州、1985年11月に報告されたvan der Burgt等の論文“Shell Middle Distillate Synthesis Process(シェル中間蒸留物合成法)”(Shell International Petroleum Company Ltd,ロンドン,英国,1989年11月の同じ表題の刊行物も参照)に記載されるSMDS(Shell Middle Distillate Synthesis)である。この方法(時にはシェル“ガス・ツー・リキッド(gas−to−liquid)”又は“GTL”技術とも言われる)は、天然ガス(主としてメタン)誘導合成ガスの重質長鎖炭化水素(パラフィン)蝋への転化により中間蒸留物範囲の生成物を生成する。次に、この重質長鎖炭化水素蝋は、水素化転化し精留して、ディーゼル燃料組成物に使用できるガス油のような液体輸送燃料を製造できる。このような方法により、軽質及び中間の両フラクション並びに特定の重質油を含む、或る粘度範囲の基油も製造できる。フィッシャー・トロプシュ法によりフィッシャー・トロプシュ誘導燃料又は燃料成分は硫黄及び窒素を全く含まないか、含有しても検出不能な水準である。
【0017】
これらのヘテロ原子を含む化合物は、フィッシャー・トロプシュ触媒の触媒毒として作用する傾向があるので、合成ガス原料から除去される。これは触媒性能への影響の観点から、本発明の基油配合物に追加の利点を付与できる。
【0018】
更に、通常操作されるフィッシャー・トロプシュ法は、芳香族成分を生成しないか又は殆ど生成しない。フィッシャー・トロプシュ誘導油の芳香族成分は、ASTM D4629により好適に測定でき、通常、1重量%未満、好ましくは0.5%重量%未満、更に好ましくは0.1%重量%未満である。
【0019】
一般的に言ってフィッシャー・トロプシュ誘導炭化水素生成物は、例えば石油誘導油に比べて、極性成分、特に極性界面活性剤の水準が比較的低い。これは消泡性及び消曇性の改良に寄与できる。このような極性成分としては、例えば酸素化物、並びに硫黄及び窒素を含有する化合物が含まれてよい。フィッシャー・トロプシュ誘導油中で硫黄水準の低下は、酸素化物及び窒素含有化合物の両方とも低水準であることを示す。これは、全て同じ処理法で除去されるからである。
【0020】
フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油はフィッシャー・トロプシュ誘導蝋から誘導される基油である。前述のように、この軽質基油は、沸点範囲がガス油の最終沸点と前記4cSt基油の初期沸点との間にある基油留分である。この軽質基油は、通常、フィッシャー・トロプシュ蝋状ラフィネートの全範囲の脱蝋で得られる350〜400℃の留分である。
【0021】
このような軽質基油の100℃での動粘度(VK 100、ASTM D−445で測定)は、好適には2.1〜3.5cSt、好ましくは2.5〜3cStである。
また、40℃での動粘度(VK 40、ASTM D−445で測定)は、好適には7〜12cSt、好ましくは8〜11cStである。
【0022】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油は、グループII又はグループIIIの基油のいずれでもよいが、好ましくは後者である。グループII基油は、飽和物を90重量%以上及び硫黄を0.03重量%以下含有し、粘度指数が80以上120未満である基油と定義してよい。このような品質は、基油に対し比較的厳密な処理、通常、水素化処理を行うことにより、達成され易い。グループIII基油は、粘度指数が120を超える他は、グループIIと同じ飽和物及び硫黄含有量要件を満足する基油として定義してよい。
【0023】
これらの特性も比較的厳密な水素化処理及び接触脱蝋工程により達成され易い。
本発明で使用される軽質基油の粘度指数(ASTM D−2270)は、好適には105〜124、好ましくは120を超え、更に好ましくは121〜123である。
Noack揮発減量(CEC L−40−A−93)は40〜65重量%であってよい。
【0024】
軽質基油の引火点は、ASTM D−92で測定して、好適には170℃以上、好ましくは180℃以上、なお更に好ましくは190又は195℃以上である。一般にフィッシャー・トロプシュ誘導基油の引火点は、所定の粘度において、鉱油誘導基油に比べて高くできる利点があることが見出された。
引火点も更に厳しい標準試験法ASTM D−93を用いて測定してよい。
【0025】
軽質基油の流動点(ASTM D−5950)は、好ましくは−39℃以下、更に好ましくは−40、−42又は−45℃以下である。
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、後述するように、良好な純度及び高いパラフィン含有量を有すると共に、炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4である連続系列のイソパラフィンを含有する傾向がある。またフィッシャー・トロプシュ誘導基油は優れた低温特性を有する傾向があり、しかも鉱物誘導対応物に比べて、製造が比較的簡単である。
【0026】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、好適にはフィッシャー・トロプシュ蝋を水素化分解し、好ましくは得られた蝋状ラフィネートを脱蝋して得られる。このラフィネートは、VK 100が約4cStの基油流及び低沸点脱蝋ガス油を含む多くの異なる生成物を製造するため、蒸留できる。
本発明で使用される基油は、これら2種の生成物の中間体流から誘導してよい。したがって、基油の沸点範囲及び粘度は、4cSt基油及びガス油流に要求される沸点範囲及び粘度により決定される。
【0027】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油はフィッシャー・トロプシュ蝋から誘導されるので、本来、大部分パラフィン性であり、通常、主要割合のイソパラフィンを含有する。この基油は、合計パラフィン含有量が好適には80重量%以上、好ましくは85又は90重量%以上のパラフィン性基油である。基油の飽和物含有量(IP 368で測定)は98重量%を超える。飽和物含有量は[100−合計極性物含有量]とみなされる。この基油は、炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)である一連のイソパラフィンを含有することが好ましい。該基油の飽和物含有量は、好ましくは99重量%を超え、更に好ましくは99.5重量%を超える。基油の最大n−パラフィン含有量は0.5重量%が好ましい。
【0028】
基油のナフテン性化合物の含有量は、好ましくは0から20重量%未満、更に好ましくは1〜10重量%である。
基油の沸点は好適には340〜400℃の範囲である。
軽質基油中のナフテン性化合物の含有量及び所望連続系列のイソパラフィンの存在は、フィールドイオン化質量分析(FIMS)技術により測定できる。この技術によれば、まず基油サンプルを、移動相としてヘキサンの代りにペンタンを用いる他は高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)法IP368/01を用いて、極性(芳香族)相と非極性(飽和物)相とに分離する。次に、例えばFD/FIインターフェースを備えたFinnigan MAT90質量分光計を用いて飽和物フラクション及び芳香族フラクションを分析する。FI(“ソフト”イオン化技術)は、炭化水素種について炭素数及び水素欠陥を定量するのに使用される。
【0029】
質量分析での化合物種の分類は、形成された特徴的なイオンにより決定され、普通、“z数”で分類される。この分類は全ての炭化水素種について一般式C2n+zで示される。飽和物相は芳香族相とは別に分析されるので、同じ理論量又はn数を有する異なるイソパラフィンの含有量を測定することが可能である。分光分析計の結果は、市販のソフトウエア(Sierra Analytics LLC,3453 Dragoo Park Drive,Modesto,カリフォルニアGA95350米国から入手できるPoly 32)を用いて処理し、各炭化水素種の相対割合を測定できる。
【0030】
好ましくは前記連続系列のイソパラフィンを含有する、本発明の配合物に使用される軽質基油は、好適にはパラフィン性蝋の水素化異性化、好ましくは、次に、溶剤又は接触脱蝋のような或る種の脱蝋により得られる。パラフィン性蝋はスラック蝋であってよい。更に好ましくは、純度及びパラフィン含有量が高いこと、及びこのような蝋は、所望の分子量範囲にあり、炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4である一連のイソパラフィンを含有する生成物を生じることから、フィッシャー・トロプシュ誘導蝋である。
【0031】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油の製造に使用できるフィッシャー・トロプシュ法の例は、いわゆるSasolの商用スラリー相蒸留物技術、前述のシェル中間蒸留物合成法及び“AGC−21”エキソン・モービル法である。これらの方法及びその他の方法は、例えばEP−A−776959、EP−A−668342、US−A−4943672、US−A−5059299、WO−A−9934917及びWO−A−9920720に更に詳細に記載されている。通常、これらフィッシャー・トロプシュ合成生成物は、炭素原子数1〜100及び更には100を超える炭化水素を含有する。このような生成物は、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、酸素化成分及び不飽和成分を含有する。
【0032】
基油が所望イソパラフィン性生成物の1種である場合、比較的重質のフィッシャー・トロプシュ誘導原料を用いるのが有利かも知れない。このような原料は、炭素原子数30以上の化合物を30重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは55重量%以上含有する。更に、原料中の炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比は、好ましくは少なくとも0.2、更に好ましくは少なくとも0.4、なお更に好ましくは少なくとも0.55である。
【0033】
好ましくはフィッシャー・トロプシュ誘導原料は、ASF−α値(アンダーソン−シュルツ−フローリー連鎖成長ファクター)が少なくとも0.925、好ましくは少なくとも0.935、更に好ましくは少なくとも0.945、なお更に好ましくは少なくとも0.955のC20+フラクションを含有する。このようなフィッシャー・トロプシュ誘導原料は、前述のように、好適に重質の生成物を生成するいずれの方法によっても得られる。好適なフィッシャー・トロプシュ法の一例は、WO−A−9934917に記載されている。
【0034】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、硫黄及び窒素を含有する化合物を含有しないか、或いは極めて微量含有する。これは、殆ど不純物を含まない合成ガスを使用するフィッシャー・トロプシュ反応で誘導された生成物に普通のことである。硫黄及び窒素水準は、一般に現在、硫黄に対しては5mg/kg、窒素に対しては1mg/kgをそれぞれの検出限界とする限界未満である。
【0035】
最も広い意味では本発明は、基油が実際にフィッシャー・トロプシュ誘導基油であってもなくても、前述した特性の1つ以上を有するパラフィン性軽質基油の、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含む基油配合物への使用を包含する。
【0036】
しかし、軽質基油の製造に使用される方法は、フィッシャー・トロプシュ合成、水素化異性化工程及び任意の流動点降下工程を含むことが都合良い。ここで水素化異性化工程及び流動点降下工程は、
(a)フィッシャー・トロプシュ生成物を水素化分解/水素化異性化する工程、及び
(b)工程(a)の生成物から軽質基油又は基油中間体フラクションを単離する工程、或いは更に好ましくは工程(a)の生成物を、少なくとも(i)1種以上の蒸留物燃料フラクションと、(ii)軽質基油又は軽質基油前駆体フラクションとに分離する工程、
によって行われる。
【0037】
工程(b)で得られた基油の粘度及び流動点が所望通りであれば、更に処理する必要はなく、この基油は本発明の配合物に直接使用できる。しかし、必要ならば、基油中間体フラクションの流動点は、更に工程(c)において溶剤脱蝋、更に好ましくは接触脱蝋により降下させてよい。
【0038】
基油の所望粘度は、中間体基油フラクション又は脱蝋油から(蒸留により)好適な沸点範囲及び相当する粘度を有する生成物を単離すれば得られる。蒸留は、減圧蒸留工程であってよい。
【0039】
工程(a)の水素化転化/水素化異性化反応は、水素及び触媒の存在下で行うことが好ましい。この触媒は、当業者に知られているものから選択でき、その例を以下に詳細に説明する。触媒は、原則として、当該技術分野でパラフィン性分子の異性化に好適であることが知られているいかなる触媒であってもよい。一般に好適な水素化転化/水素化異性化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ(ASA)、アルミナ、弗素化アルミナ、モレキュラシーブ(ゼオライト)又はこれら2種以上の混合物のような耐火性酸化物担体上に水素化成分を担持して構成されたものである。
【0040】
水素化転化/水素化異性化工程(a)に使用される好ましい触媒は、水素化成分として白金及び/又はパラジウムを含有するものである。非常に好ましい水素化転化/水素化異性化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ(ASA)担体上に白金及びパラジウムを担持して構成される。白金及び/又はパラジウムは、担体の合計重量に対し元素として計算して、好適には0.1〜5.0重量%、更に好適には0.2〜2.0重量%存在する。両元素が存在する場合、白金対パラジウムの重量比は、広範な限界内で変化してよいが、好適には0.05〜10、更に好適には0.1〜5の範囲である。ASA触媒上の好適な貴金属の例は、例えばWO−A−9410264及びEP−A−0582347に開示されている。弗素化アルミナ担体上の白金のような他の好適な貴金属基触媒は、例えばUS−A−5059299及びWO−A−9220759に開示されている。
【0041】
第二の種類の好適な水素化転化/水素化異性化触媒としては、少なくとも1種の第VIB族金属、好ましくはタングステン及び/又はモリブデンと、少なくとも1種の第VIII族非貴金属、好ましくはニッケル及び/又はコバルトとを水素化成分として含む触媒が挙げられる。通常、いずれの金属又は両金属も酸化物、硫化物又はそれらの組合わせで存在してよい。
【0042】
第VIB族金属は、触媒の合計重量に対し元素として計算して、好適には1〜35重量%、更に好適には5〜30重量%の量で存在する。第VIII族非貴金属は、担体の合計重量に対し元素として計算して、好適には1〜25重量%、好ましくは2〜15重量%の量で存在する。特に好適であることが見出された、この種の水素化転化触媒は、弗素化アルミナ上にニッケル及びタングステンを担持してなる触媒である。
【0043】
前記非貴金属をベースとする触媒は硫化物形態で使用することが好ましい。使用中、触媒を硫化物形態に維持するには、原料中に若干の硫黄が、例えば10mg/kg以上、更に好ましくは50〜150mg/kgの範囲で存在する必要がある。
【0044】
非硫化物形態で使用できる好ましい触媒は、第VIII族非貴金属、例えば鉄又はニッケルを、第IB族金属、例えば銅と共に酸性支持体上に担持して構成される。銅は、パラフィンのメタンへの水素化分解を抑えるために存在することが好ましい。触媒は、水吸収法で測定した細孔容積が0.35〜1.10ml/gの範囲であり、BET窒素吸着法で測定した表面積が200〜500m/gmであり、また嵩密度が0.4〜1.0g/mlであることが好ましい。触媒支持体は非晶質シリカ−アルミナ製が好ましく、このシリカ−アルミナにはアルミナが5〜96重量%、好ましくは20〜85重量%の範囲で存在してよい。シリカ含有量は、SiOとして、好ましくは15〜80重量%の範囲である。支持体は、バインダー、例えばアルミナ、シリカ、第IVA族金属酸化物、粘土、マグネシア等、好ましくはアルミナ又はシリカを少量、例えば20〜30重量%含有してもよい。
【0045】
非晶質シリカ−アルミナ微小球体の製造については、Ryland,Lloyd B.,Tamele,M.W.及びWilson,J.N.,“Cracking Catalysts”,Catalysis;第VII巻、編集Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,ニューヨーク、1960年、5−9頁に記載されている。この触媒は、溶液からこれら金属を支持体上に同時に含浸し、100〜150℃で乾燥し、次いで空気中、200〜550℃で焼成すれば製造できる。第VIII族金属は約15重量%以下、好ましくは1〜12重量%の量で存在してよく、一方、第IB族金属は、通常、これより少量存在し、例えば第IB族金属対第VIII族金属の重量比で約1:2〜約1:20存在する。
【0046】
一般的な触媒を以下に具体的に挙げる。
Ni、重量% 2.5〜3.5
Cu、重量% 0.25〜0.35
Al−SiO重量% 65〜75
Al(バインダー)重量% 25〜30
表面積 290〜325m/g
細孔容積(Hg) 0.35〜0.45ml/g
嵩密度 0.58〜0.68g/ml
【0047】
他の種類の好適な水素化転化/水素化異性化触媒は、好適には少なくとも1種の第VIII族金属成分、好ましくはPt及び/又はPdを水素化成分として含有するモレキュラシーブ型材料をベースとする触媒を含む。次に、好適なゼオライト材料及びその他のアルミノシリケート材料としては、ゼオライトβ、ゼオライトY、超安定Y、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、MCM−68、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライト、モルデナイト、及びSAPO−11、SAPO−31のようなシリカ−アルミノホスフェートが挙げられる。好適な水素化転化/水素化異性化触媒の例は、例えばWO−A−9201657に記載されている。これら触媒の組合わせも可能である。
【0048】
好適な水素化転化/水素化異性化方法は、ゼオライトβ又はZSM−48をベースとする触媒を使用する第一工程と、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、MCM−68、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライト、モルデナイトをベースとする触媒を用いる第二工程とを含む方法である。後者のグループの中ではZSM−22、ZSM−23及びZSM−48が好ましい。このような方法の例は、US−A−20040065581に記載されている。この文献は、白金及びゼオライトβを含む第一工程触媒と白金及びZSM−48を含む第二工程触媒を用いる方法を開示している。
【0049】
フィッシャー・トロプシュ生成物に対し、まず、前述のように、シリカ−アルミナ担体を含む非晶質触媒を用いて第一の水素化異性化工程を行い、次いでモレキュラシーブを含む触媒を用いて第二の水素化異性化工程を行う組合わせ方法は、本発明で使用される基油を製造する好ましい方法としても確認された。第一及び第二水素化異性化工程を直列流で行うことが更に好ましい。これら2つの方法を、前記非晶質触媒及び/又は結晶性触媒を有する単一の反応器で行うのが最も好ましい。
【0050】
工程(a)では原料は、触媒の存在下、高温高圧で水素と接触させる。温度は通常、175〜380℃、好ましくは250℃より高く、更に好ましくは300〜370℃の範囲である。圧力は通常、10〜250バール、好ましくは20〜80バールの範囲である。水素は、ガスの1時間当り空間速度 100〜10000Nl/l/hr、好ましくは500〜5000Nl/l/hrで供給してよい。炭化水素原料は、重量の1時間当り空間速度 0.1〜5kg/l/hr(原料質量/触媒床容積/時間)、好ましくは0.5kg/l/hrを超え、更に好ましくは2kg/l/hr未満で供給してよい。
【0051】
水素対炭化水素原料比は、100〜5000Nl/kgの範囲であってよく、好ましくは250〜2500Nl/kgである。
1パス当り370℃よりも高い沸点を有する原料が、370℃より低い沸点を有するフラクションまで反応する原料の重量%として定義される、工程(a)での転化率は、好適には少なくとも20重量%、更に好ましくは少なくとも25重量%であるが、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは65重量%以下である。前記定義で使用される原料は、工程(a)の全炭化水素原料であり、したがって、工程(b)で得られるような高沸点フラクションを任意に再循環させた分も含まれる。
【0052】
工程(b)では、好ましくは工程(a)の生成物は、1つ以上の蒸留物燃料フラクションと、 所望の粘度特性を有する基油又は基油前駆体フラクションとに分離される。基油の流動点が所望の範囲でなければ、脱蝋工程(c)、好ましくは接触脱蝋により基油の流動点を更に降下させてよい。このような実施態様では、工程(a)の生成物の一層広い沸点範囲のフラクションを脱蝋するのが更に有利かも知れない。そうすると、得られる脱蝋生成物から、軽質基油及び任意に所望の粘度を有する他の油が、例えば蒸留により単離できる。脱蝋は、例えばWO−A−02070627(好適な脱蝋条件及び触媒の例について、特に第8頁第27行〜第11頁第6行参照)(この文献は、ここに援用する)に記載されるように、接触脱蝋により行うのが好ましい。脱蝋工程(c)の原料の最終沸点は、工程(a)の生成物の最終沸点、又は所望ならば、それ以下であってよい。通常、接触脱蝋器の原料は、C18〜C40の炭化水素を含有する。
【0053】
例えば脱蝋工程(c)後、本発明の配合物を使用する前に、基油に対し、例えばWO−A−02070627の第11頁第7行〜第12頁第12行に記載されるように、水素化仕上げのような1つ以上の更なる処理を行ってよい。
【0054】
本発明の配合物に使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、フィッシャー・トロプシュ誘導蝋から蒸留してもよい。このガス油も軽質基油とブレンドする前に、脱蝋(好ましくは接触脱蝋)を行うべきである。これにより、イソパラフィンの含有量は増大し、したがって、接触脱蝋を行わなかった標準のフィッシャー・トロプシュ誘導得ガス油に比べて常温流れ特性が改良される。本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の流動点(ASTM D−5950)は、好ましくは−42℃以下、更に好ましくは−45、−50又は−51℃以下である。
【0055】
こうして、本発明の実施態様では軽質基油及びガス油の両方ともフィッシャー・トロプシュ誘導蝋流から製造してよい。例えばこの蝋に対し水素化分解及び脱蝋を行ってよく、得られた蝋状ラフィネートは蒸留して、他の生成物の中でも、特に軽質基油及びガス油フラクションを得てよい。これら2種のフラクションは、次に一緒にブレンドして(即ち、ガス油は基油流中に“戻しブレンド(back−blend)”できる)本発明の改良基油配合物を製造してよい。
【0056】
これを達成できる1つの方法は、前述の工程(a)及び(b)を行い、工程(b)において工程(a)の生成物を少なくともガス油フラクション及び適切な基油又は基油前駆体フラクションに分離することによる。ガス油に対しては好適には脱蝋工程、好ましくは接触脱蝋を行い、次いで本発明に従って適切な割合で基油とブレンドしてよい。或いは、分離及び次いで戻しブレンドの前に、基油及びガス油フラクションの両方を一緒に、任意に存在する他のフラクションと共に、脱蝋してよい。
【0057】
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油及びフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の好適な同時製造法は、例えばWO−A−02070627に記載された方法である。
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、通常、普通のディーゼル燃料(“ガス油”)の範囲内の沸点、即ち、約150〜400℃又は170〜370℃の沸点を有する成分の大部分(例えば95容量%以上)を含有する。このガス油の90容量%蒸留温度は好適には300〜370℃である。
【0058】
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、通常、密度(IP−365/97)が15℃で0.76〜0.79g/cm、セタン価(ASTM D613)が70を超え、好適には74〜85;VK 40(ASTM D−445)が2〜4.5cSt、好ましくは2.5〜4.0cSt、更に好ましくは2.9〜3.7cSt;硫黄含有量(ASTM D−2622)が5mg/kg以下、好ましくは2mg/kg以下である。
ガス油の引火点(ASTM D−92)は、好適には100℃以上、好ましくは110℃以上、例えば110〜120℃である。
【0059】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、2.5未満、好ましくは1.75未満、更に好ましくは0.4〜1.5の水素/一酸化炭素比を用い、理想的にはコバルト含有触媒を用い、フィッシャー・トロプシュメタン縮合反応により製造された生成物が好ましい。好適には水素化分解したフィッシャー・トロプシュ合成生成物(例えばGB−B−2077289及びEP−A−0147873に記載のもの)、更に好ましくは前記EP−A−0583836に記載されたような2段階水素化転化法の生成物から得られたものである。後者の場合、水素化転化法の好ましい特徴はEP−A−0583836の第4〜6頁及び実施例に開示された通りでよい。
【0060】
本発明ではフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油はパラフィン性成分の好適には70重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90、95又は98重量%以上、最も好ましくは99、99.5又は更には99.8重量%以上を構成する。イソパラフィン対ノルマルパラフィンの重量比は、好適には5:1又は10:1を超え、場合により50:1、100:1、150:1、180:1又は更には190:1を超える。この比の実際の値は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物からガス油の製造に使用される水素化転化法により一部決定される。
【0061】
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油のオレフィン含有量は、好適には0.5重量%以下である。芳香族含有量は、好適には0.5重量%以下である。本発明では基油配合物は2種以上のフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有してよい。
【0062】
本発明の配合物は、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有することにより、軽質基油単独に比べて低下した流動点で利益を受けることができる。このガス油は、例えば作動油及び電気絶縁油に関連して望まれる可能性もある配合物の動粘度(後者は、11cStの最大VK 100を必要とする)を低下させるのにも役立つ。
【0063】
しかし、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油が存在すると、配合物の引火点は、2成分の相対蒸気圧を考慮して予想できた程度まで低下しない(非常に揮発し易いガス油は、配合物の蒸気圧、したがって、全体の引火点に対し優位を占めるものと予想される)ことが見出された。
【0064】
その代わりに予想に反し、ガス油は、例えば電気絶縁油に通常望まれる最小温度140℃よりも低い全体の引火点を低下させることなく、配合物に含有し、2種の燃料成分間に潜在的な相乗作用を示すことができる。その結果、本発明は、目標の最小温度よりも高い引火点を同時に維持しながら、特に目標の常温流れ特性及び/又は粘度及び/又はその他の適用可能な基準を達成するため、更に最適化した、軽質基油の配合方法を提供できる。例えば、関連した低温及び処理の利益を有する接触脱蝋済みパラフィン性軽質基油は、誘電流体用基材として、流動点降下剤を含有させる必要なく、またこのような目的で、普通は行っていた可能性があるナフテン性基油を取入れる必要なく、今や使用可能である。したがって、引火点が高く、粘度が未だ比較的低い基油配合物は、良好な低温性能を保持して製造できる。
【0065】
高引火点を維持することは、特に、通常、配合物が電気絶縁油として使用されている場合、及び/又は高温全体の露出が起こる場合、及び/又は基油配合物中に高いピーク温度又はホットスポットが生じる場合、及び/又は電気絶縁油を含有する装置において大きさ又は熱交換能力(capacity)の制限のため、この電気絶縁油により温度上昇が容易に延期できない場合の用途にとって重要である。このような用途の例は、小型の高能力トランス又は安全スイッチである。
【0066】
本発明の配合物ではフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の濃度は、20重量%以下、例えば18重量%以下、或いは15又は10重量%以下であってよい。この濃度は、0.5重量%以上、例えば1、2、3、4又は5重量%以上であってよい。例えば5〜10重量%であってよい。
【0067】
フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の濃度は、一般に全配合物の密度、発熱量及び/又はその他の関連特性が確実に所望の範囲内、例えば商用又は規制の仕様内に入るように選択される。配合物は、通常、主要割合のフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する。主要割合とは配合物中の該基油の濃度が、例えば99.5重量%以下、或いは99、98、97、96、95又は94重量%以下であってよい。この濃度は75重量%以上、例えば80、82又は85重量%以上であってよい。
【0068】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油及び鉱物誘導基油は、配合物中の唯一の基油成分であってよい。或いは、これらの基油は1種以上の追加の基油成分と組合わせて使用してもよい。このような追加の基油成分の好ましい特性は、前述のフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の場合と同様であってよい。基油成分は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油成分でも非フィッシャー・トロプシュ誘導基油成分でもよい。全配合物は、このような追加の基油成分を好適には20重量%未満、好ましくは10重量%未満含有する。この軽質基油は、いかなるナフテン性基油成分も含有しないか、或いは少量(例えば5、2又は1重量%以下)しか含有しないことが好ましい。
【0069】
追加の基油成分の例としては、鉱物ベースのパラフィン型及びナフテン型基油、並びに合成基油、例えばエステル、ポリα−オレフィン、ポリアルキレンポリオール等が含まれる。基油配合物のバイオ分解性を改良するには、これらのうち、エステルが有利である可能性がある。存在すれば、追加のエステル基油の含有量は、全配合物に対し1〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%であってよい。好適なエステルは、脂肪族モノ、ジ及び/又はポリカルボン酸とイソトリデシルアルコールとをエステル化条件下で反応させることにより誘導できるエステルである。このような化合物の例は、オクタン−1,8−ジオン酸、2−エチルヘキサン−1,6−ジオン酸及びドデカン−1,12−ジオン酸、のイソトリデシルエステルである。好ましくはエステルは、ペンタエリスリトール(PET)の分岐鎖又は直鎖脂肪酸、好ましくはC〜C10酸によるエステル化で作られるような、いわゆるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(PETエステル)である。このようなエステルは不純物としてジ−PETを含有してよい。
【0070】
しかし、本発明の配合物中に実質的に唯一の基油成分としてフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を使用すると、特に有利であることが見出された。これに関連して“実質的”とは、配合物中の全ての基油成分の70重量%より多くが、好ましくは80又は90重量%より多くが、最も好ましくは100重量%が、前述のようなフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油であるか、又は前記好ましい特性を有する少なくとも軽質基油であることを意味する。
【0071】
しかし、配合物は2種以上のフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の混合物を含有してよい。
本発明の基油配合物のVK 100は2.7cSt以下、例えば2.6〜2.3cStであってよい。
【0072】
基油配合物のVK 40は、好適には15cSt以下、好ましくは11cSt以下、更に好適には10、9又は8cSt以下である。VK 40は、例えば9.6cSt以下、例えば9〜7.5cStであってよい。
【0073】
更に好ましくは、基油配合物がトランス油として使用される場合、VK 40は5〜15cStであってよい。基油配合物が低温スイッチギア油として使用される場合、VK 40は1〜15cSt、更に好ましくは1〜4cStであってよい。
【0074】
本発明基油配合物の引火点(ASTM D−92)は、好適には140℃以上、好ましくは160℃以上、なお更に好ましくは180℃以上である。これらの値は、本発明の第六及び第七局面と関連して後述する目標引火点Xを表すことができる。配合物の引火点は、意図する用途に合うように、注文通りに作ってよい。例えば誘電流体に又は誘電流体として、特に高温環境下で使用することを意図した場合、できるだけ低い引火点が望ましい。
【0075】
本発明基油配合物の流動点は、好適には−39℃以下、好ましくは−42、−45、−48又は−51℃以下である。
配合物は、全体として、例えば硫黄を100ppmw(100万重量部当たり部)以下、好ましくは50ppmw以下、更に好ましくは10又は5ppmw以下、或いは更には検出限界以下、含有する低又は超低硫黄配合物、或いは硫黄を含有しない配合物であることが好ましい。
【0076】
配合物は軽質基油及びガス油以外に、他の成分を含有してよい。例えば基油配合物に使用される従来型の1種以上の添加剤を含有してよい。このような添加剤のいずれの性状も配合物の意図する用途による。添加剤は、例えば耐摩耗添加剤、酸化防止剤(例えばBHTのようなヒンダードフェノール類)、分散剤、洗浄剤、粘度改質剤、消泡剤、炭化水素型又は酸素化炭化水素型のような流動点降下剤、乳化剤、解乳化剤、腐食防止剤、シール膨潤剤、汚染防止添加剤、紫外線安定剤及び摩擦調整剤から選択してよい。配合物が衝撃吸収器油に又は衝撃吸収器油として使用される場合、耐摩耗性添加剤、消泡剤及び/又は粘度改質剤が特に好ましいかも知れない。
【0077】
このような添加剤の特定例は、例えばKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第14巻、477〜526頁に記載されている。好適には分散剤は無灰分分散剤、例えばポリブチレンスクシンイミドポリアミン又はマンニッヒ塩基型分散剤である。好適には洗浄剤は、過剰塩基化金属洗浄剤、例えば前記一般教本に記載されるようなホスホネート、スルホネート、フェノレート又はサリチレート型である。好適には粘度改質剤は、粘度改質性重合体、例えばポリイソブチレン、オレフィン共重合体、ポリメタクリレート及びポリアルキルスチレン並びに水素化ポリイソプレン星形重合体(Shellvis)である。好適な消泡剤の例は、ポリジメチルシロキサン、及びポリエチレングリコールエーテル及び同エステルである。
【0078】
基油配合物の発泡性(gassing)を改良するには、芳香族化合物を0.05〜10重量%、又は0.1〜5重量%添加することが好ましい。好ましい芳香族化合物は、例えばテトラヒドロナフタレン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、又は“Shell Oil 4697”、“Shellsol A150”(両方ともShell Deutschland GmbHから得られる“シェル”製品)として市販されているアルキルベンゼンの混合物である。他の好ましい芳香族化合物の混合物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノールと2,6−ジ−t−ブチルクレゾールとの混合物で構成される。基油配合物は、例えば2,6−ジ−t−ブチルフェノール0.1〜3重量%と2,6−ジ−t−ブチルクレゾール0.1〜2重量%とを、好適には1:1〜1:1.5の重量比で含有してよい。
【0079】
基油配合物は、例えばWO−A−2006136594第16〜18頁に記載され、時には静電放電抑制剤又は金属不活性化剤と言われる銅不活性化剤を含有してよい。特記しない限り、基油配合物中のこれら各添加成分の濃度は、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1〜0.5重量%、好ましくは0.4、0.3又は0.2重量%未満である。(本明細書で引用した全ての添加剤濃度は、特記しない限り、有効成分の質量濃度を言う。更に、全ての濃度は、特記しない限り、基油配合物全体の%割合として引用する。)
【0080】
前記挙げたような所望の1種以上の添加剤成分は、好ましくは希釈剤と一緒に、添加剤濃縮物中に共に混合(co−mix)してよく、次いで、本発明の配合物を製造するため、添加剤濃縮物は軽質基油、ガス油又は基油/ガス油混合物中に分散してよい。
【0081】
特に基油配合物を誘電流体に又は誘電流体として使用することを意図する場合、基油配合物中の合計添加剤含有量は、好適には0.2〜0.5重量%、好ましくは0.4重量%未満であってよい。特に基油配合物を誘電流体に又は誘電流体として使用する場合、一般に低水準の添加剤を使用することが好ましい。また硫黄含有添加剤は基油配合物の腐食性を増大する可能性があることから、低水準の硫黄含有添加剤を使用するか、又は硫黄含有添加剤を使用しないことが好ましい。
【0082】
本発明の配合物が1種以上の常温流れ添加剤、例えば流動点降下剤を含有する場合、本発明の第六局面に関連して後述するように、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油が存在することから、この種の添加剤は低濃度で存在してよい。こうして、配合物は、常温流れ添加剤、特に流動点降下剤を0.15重量%以下、好適には0.1重量%以下含有してよい。場合によっては、常温流れ添加剤を全く含有しなくてもよい。
【0083】
本発明の基油配合物は、好ましくは、誘電流体(例えば電気絶縁油)及び/又は作動油(例えば衝撃吸収器油)として使用するのに好適である、及び/又は適応する、及び/又は意図される。この配合物は、例えばエラストマーのようなプラスチック材料の加工においてプロセス油として、及び/又は冷凍機油として、及び/又は自動変速機油として、使用するのに好適である、及び/又は適応する、及び/又は意図される、かも知れない。
【0084】
この配合物は、特に寒冷地及び/又は寒冷季中での使用に適応する、及び/又は意図されるかも知れない。例えば電気システム又は乗物の衝撃吸収器のようなシステムに使用した場合、配合物の常温流れ性能は、このような条件下でシステムの性能全体に影響を与えることができる。
【0085】
第二の局面では本発明は、特にフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物の引火点を所望の目標値より高く維持しながら、該配合物の常温流れ特性を改良する目的で、該配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法を提供する。
【0086】
第三の局面は、(i)フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の常温流れ特性を測定する工程、及び(ii)該軽質基油を、得られるブレンドの常温流れ特性を改良するのに十分な量でフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油とブレンドする工程を含むフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の配合方法を提供する。基油又は基油配合物の常温流れ特性は、好適には配合物の動きが観察できる最低温度を測定することにより評価できる。流動点の低下は、常温流れ特性の改良を示し、次いで、配合物を効率的に使用できる条件の範囲を増大できる。流動点は、好適には標準試験法ASTM D−5950又は類似の方法を用いて測定できる。
【0087】
一般に常温流れ特性の改良は、基油配合物を使用するシステムが所定の基準にまで達成できる最小温度の低下により表してよい。本発明の第二及び第三局面に関連して、基油配合物の常温流れ特性を“改良する(又は向上する)こと”とは、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を導入する前の配合物の性能と比べて、いかなる程度の改良(又は向上)も包含する。これは、例えば所望の目標、例えば所望の目標流動点に適合又は向上させるため、該ガス油により配合物の常温流れ特性を調節することを含んでよい。
【0088】
本発明を使用することにより、配合物の流動点は、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を添加する前の値に比べて少なくとも1℃、好ましくは少なくとも2℃、更に好ましくは少なくとも3、4又は5℃低下できる。
【0089】
本発明を使用することにより、配合物の流動点は、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を添加する前の値(ケルビン(Kelvin)で表す)に比べて少なくとも0.2%、更に好ましくは少なくとも0.4又は0.5%、最も好ましくは少なくとも0.8、1又は1.2%低下できる。
【0090】
本発明の第四局面では、特に、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物の引火点を所望の目標値より高く維持しながら、該配合物の動粘度を低下させる目的でフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油含有基油配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法(use)が提供される。
【0091】
第五の局面は、(i)フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の動粘度を測定する工程、及び(ii)該軽質基油を、得られるブレンドの動粘度を低下させるのに十分な量でフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油とブレンドする工程を含むフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の配合方法を提供する。基油又は基油配合物の動粘度は、好適には標準試験法ASTM D−445又は類似の方法を用いて測定できる。動粘度は、例えば40℃又は100℃で測定してよい。
【0092】
本発明の第四及び第五の局面に関連して、基油配合物の動粘度を “低下(又は減少)させること”とは、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を導入する前の該配合物の動粘度と比べて、いかなる程度の低下(又は減少)も包含する。これは、例えば所望の目標未満に適合させるか、下げるため、該ガス油により配合物の動粘度を調節することを含んでよい。
【0093】
本発明を使用することにより、配合物の100℃での動粘度(VK 100)は、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を添加する前の値に比べて少なくとも0.2cSt、好ましくは少なくとも0.25又は0.3cSt、更に好ましくは少なくとも0.4又は0.5cSt低下できる。本発明を使用することにより、配合物のVK 100は、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を添加する前の値に比べて少なくとも3%、更に好ましくは少なくとも3.5、5又は10%、最も好ましくは少なくとも15、20又は25%低下できる。
【0094】
本発明により製造した基油配合物のVK 100は、2.6cSt以下、好ましくは2.5、2.4又は2.3cSt以下であってよい。
本発明の第五の局面では、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物に対する目標最小引火点Xをなお達成しながら、該配合物の常温流れ特性を改良する、及び/又は該配合物の動粘度を低下させる方法において、該配合物の引火点を目標最小値X未満に低下させることなく、該配合物に添加できることを理論的に予測したフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の最大濃度c’よりも高い濃度cのフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を該配合物に添加する工程を含む該方法が提供される。
【0095】
理論的最大ガス油濃度c’は、Hydrocarbon Processing,第42巻,1963年6月(Gulf Publishing Corp),MF 77−500 Physical and Engineering Data(物理及び工学データ)に記載の方法に従って計算してよい。
本発明の実施態様では、実際のガス油濃度cは予測濃度c’よりも1重量%、好ましくは2、3、4又は5重量%高いかも知れない。
【0096】
例えば同じ濃度のフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を用いて、例えば前述の方法を用いて、予測値よりも高い、例えば少なくとも1、2又は5℃、好ましくは少なくとも10、15又は20℃高い、配合物の引火点(例えばASTM D−92)を達成可能にするために、本発明を使用してよい。達成されたD−92引火点は、予測値よりも5%以上高く、或いは場合によっては6、7又は8%以上高いかも知れない。
【0097】
本発明の第七の局面は、
a)フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物に対する目標最小引火点Xを達成する目的、及び
b)例えば該配合物の常温流れ特性を改良するため、及び/又は該配合物の動粘度を低下させるため、配合物中のフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の濃度cを、該配合物の引火点を目標最小値X未満に低下させることなく、該配合物に添加できることを理論的に予測したフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の最大濃度c’よりも高い水準に増大する目的、
の2重の目的で、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油含有基油配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法(use)を提供する。
【0098】
本発明の第八の局面は、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物の引火点を目標最小引火点Xより低下させることなく、該配合物中にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を濃度cで用いて達成可能であると理論的に予測した値よりも高い、配合物の引火点を同時に達成しながら、配合物の常温流れ特性を改良する目的で、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油含有基油配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を濃度cで使用する方法を提供する。
【0099】
フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油及びフトロ誘導ガス油の両方を含有する配合物に対し予測したように理論を適用すると、次に引火点を所望の目標最小値未満に低下させることなく、配合物中に含有できるガス油量を計算するのが判り易いであろう。しかし、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油により、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油含有基油配合物の引火点は、非直線的で、予測した値よりも低く低下できることが今回、見出された。こうして、配合物に含まれるガス油の量を増大でき、次いで、前述のように、理想的には常温流れ添加剤又は粘度改質剤が低濃度で存在しても或いは全く存在しなくても常温流れ性能を改良できる、及び/又は可能と考えられていた動粘度の低下値よりも動粘度を低下できる。
【0100】
基油配合物に対しては健康及び安全仕様に適合させるため、及び/又は消費者の要求を満足させるため、多くの場合、特定の最小引火点が望ましい。同様に、特定水準の常温流れ性能(例えば最大流動点)は、特定の最大動粘度であってよいが、関連する基油仕様に適合させるのが望ましいかも知れない。これらの基準は、配合物の意図する用途に従って変化する。
【0101】
本発明では、特に基油配合物が電気絶縁油又は衝撃吸収器油としての使用を意図している場合、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有するため、これらの基準は全て、同時に達成可能であってよい。更に、これらの基準は、多くの場合、他の添加剤が低水準で存在するか、或いは他の添加剤無しで達成できるかも知れない。
【0102】
本発明に関連して、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の基油配合物への“使用(又は使用方法)”とは、該ガス油を、1種以上の他の燃料成分(特にフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油)及び任意に1種以上の基油添加剤とのブレンド(即ち、物理的混合物)として、配合物中に導入することを意味する。フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油は、配合物を用いて操作(run)されるシステム(例えば電気システム又は衝撃吸収システム)に配合物を導入する前に導入するのが都合良い。その代わりに又は更に、前記使用は、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含む基油配合物をこのようなシステムに用いて、システムを操作することを包含してよい。
【0103】
またフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の“使用(又は使用方法)”は、本発明の第二〜第八局面の目的を達成するため、例えば所望目標水準の常温流れ性能、及び/又は所望目標の、粘度又は引火点を達成するため、及び/又は(本発明の第九の局面と関連して後述するように)基油配合物中の常温流れ添加剤又はその他の添加剤の濃度を低下させるため、基油配合物に該ガス油を使用するための指示と一緒に、このようなガス油を供給することを包含する。ガス油自体を、基油添加物として使用するのに好適な、組成物の一成分として、及び/又は基油添加物として使用することを意図した、組成物の一成分として、供給してよい。この場合、ガス油は、基油配合物の常温流れ特性、粘度及び/又は引火点に影響を与える目的でこのような組成物に含有されてよい。こうして、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油は、1種以上の他の基油添加剤と一緒に、添加剤組成物又は添加剤パッケージに導入してよい。
【0104】
基油配合物、特に寒冷地及び/又はその年の寒冷時期に使用を意図した配合物は、低温での性能及び特性を改良するように、1種以上の常温流れ添加剤を含有することが多い。特に1種以上の流動点降下剤を含有してよい。本発明は基油配合物の常温流れ特性を改良するために使用できるので、このような常温流れ添加剤、及び/又はその他の流れ改良添加剤を低水準で使用することが可能である。換言すれば、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有すると、未だ配合物の引火点を望ましくないほど、大幅に低下させることなく、全配合物から所望の目標水準の低温流れ性能を達成するために、低水準の常温流れ添加剤を使用することが潜在的に可能になる。
【0105】
こうして、本発明の第九の局面では、好ましくは配合物の引火点を望ましくないほど大幅に低下させることなく、或いはフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の導入により起こることを理論的に予測した値よりも少ない低下により、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物中の常温流れ添加剤の濃度を低下させる目的で、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油含有基油配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法が提供される。
【0106】
本発明の第九の局面に関連して、“低下(又は減少)させること(reducing)”とは、いかなる程度の低下(又は減少)、例えば元の常温流れ添加剤濃度に対し1%以上、好ましくは2、5、10、20又は50%以上(0までの低下を含む)の低下も包含する。この低下(又は減少)は、基油配合物の意図する用途に関連して、所要又は所望の特性及び性能を達成するために基油配合物中に関連する添加剤を導入した場合の該添加剤の濃度と比べてよい。この濃度は、例えば本発明により提供された方法に従ってフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の使用を実現化する前に基油配合物中に存在していた常温流れ添加剤の濃度であってもよいし、或いは類似の関連する用途を意図した(例えば市販する)他の類似の基油配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を加える前に該基油配合物中に存在していた添加剤の濃度であってもよい。
【0107】
例えば誘電流体、又は衝撃吸収器油のような作動油の場合、特に寒冷地又は寒冷季において、基油配合物を現在の基油仕様に適合させる、及び/又は基油配合物を含有するシステムの性能を保護する、及び/又は消費者の要求を満足させるには、特定水準の常温流れ性能が望ましいかも知れない。多くの場合、添加剤が低いレベルで存在するだけでも或いは添加剤無しでも、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有するため、これらの基準は全て、同時に未だ達成できるかも知れない。
【0108】
常温流れ添加剤は、前述のように、配合物の常温流れ特性を改良できる全ての材料として定義できる。この添加剤は、配合物をいかなる所定の温度でも流す能力又は性向を改良できる材料であってよい。本発明に関連して、常温流れ添加剤は、特に流動点降下剤であってよい。基油配合物に使用される既知の流動点降下剤には、アルキル化ポリメチルメタクリレート及びアルキル化ポリメチルメタクリレート/N−メチルピロリドン共重合体が含まれる。
【0109】
このような常温流れ添加剤は、低温性能を改良するため、したがって、基油配合物を含むシステムの低温操作性を改良するため、従来、基油配合物に含まれている。
【0110】
本発明に従って製造される基油配合物中の常温流れ添加剤の(有効物質)濃度は、300ppmw以下、好ましくは200、100又は更には50ppmw以下であってよい。この(有効物質)濃度は、場合によってはゼロであってもよいが、1、2、5又は10ppmw以上であってよい。
【0111】
本発明の第十の局面では、本発明の第一局面の配合物のような基油配合物の製造方法が提供される。この方法は、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を得る工程、及びこの軽質基油を、任意に前述のような1種以上の添加剤と一緒に、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油とブレンドする工程を含む。ブレンドは、本発明の第二〜第十局面と関連して、特に得られた基油配合物の引火点、常温流れ特性及び/又は動粘度に関連して前述した1つ以上の目的で行ってよい。
【0112】
このような製造方法は、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を得る工程、別途にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を得る工程、及びこの2種を、任意に前述のような1種以上の添加剤と一緒に、ブレンドする工程を含んでよい。
【0113】
前述のように、この軽質基油及びガス油は、同じフィッシャー・トロプシュ蝋から誘導してもよく、また通常、脱蝋及び蒸留の下流で互いに適切な割合で“戻しブレンド”してもよい。
【0114】
本発明の基油配合物は、特に電気絶縁油又は誘電流体に、更に通常は、電気絶縁油又は誘電流体として、使用できる。可能な用途例は、スイッチギア、トランス、レギュレーター、回路ブレーカー、動力設備(power plant)反応器及びその他の電気設備である。特に基油配合物は、トランス油又は低温スイッチギア油に又はトランス油又は低温スイッチギア油として使用してよい。これらの用途は、当業者には周知であり、また例えば“Lubricants and related products”,Dieter Klamann,Verlag Chemie GmbH,Weinhem,1994年,330〜337頁に記載されている。
【0115】
このような用途では遭遇することが多い問題は、ナフテン性基油をベースとする電気絶縁油を用いた場合、−30℃での動粘度が高すぎることである。このような油が低温、例えば0℃未満で始動を必要とする設備に使用するものであれば、この高粘度は電気絶縁油の放熱特性に負の影響を与える可能性があり、設備のオーバーヒートを起こすことが多い。本発明の基油配合物を使用すると、このような問題を解消できるか、又は少なくとも軽減できる。
【0116】
更に本発明の配合物は、高温で長い間試験した後でさえ、極めて低い誘電正接を示すことができる。低誘電正接は、電気絶縁油を使用するシステムの電力損失が低いことを示す。こうして、本発明の基油配合物の誘電正接は、特にナフテン性電気絶縁油配合物に比べて、通常、経時により著しく増大することはないので、本発明の配合物は、該配合物を使用する電気システムの効率を向上する(increase)一助となり得る。
【0117】
本発明の実施態様では基油配合物は、低温スイッチギア配合物に、又は低温スイッチギア配合物として使用してよい。慣習的に、低温スイッチギア配合物は、低粘度鉱物基油を用いて製造されている。しかし、既知の低温スイッチギア油による問題は、配合物の(低)粘度法特性の結果として、引火点が低くなり得ることである。この問題は、極めて低い粘度を必要とする北極圏でなお一層関係する可能性がある。これに対し本発明によれば、低温で優れた粘度法特性を有するスイッチギア油を製造できる。このような配合物の別の利点は、比較的高い引火点となり得るので、スイッチギア油を、高度に臨界的な開閉操作、例えばいわゆる高負荷送電設備網(grid)に安全に使用できることである。
【0118】
前述のような低温スイッチギア油配合物は、特に頻繁に低温始動、特に1年当たり10回を超え、及び/又はシステムの操作中、油の温度が0℃を超える場合、0℃未満又は−5℃未満で低温始動を必要とするシステムに用途を見出してよい。
【0119】
本発明基油配合物の他の好ましい用途は、耐火性電気絶縁油として、又は耐火性電気絶縁油に使用することである。このような場合、配合物のVK 100は、好ましくは6cStを超え、更に好ましくは7cStを超え、好適には12cSt未満である。この範囲の粘度を有するパラフィン性基油の引火点は、250℃を超え、好ましくは260℃を超えるので、低燃焼性及び優れた耐火特性を必要とするような用途に非常に好適である。例えば本発明の配合物は屋内又は地下環境内でトランス油として使用してよい。
【0120】
こうして本発明の第十一の局面は、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油とフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油とのブレンド、例えば本発明の第一局面の基油配合物に誘電流体として、又は誘電流体に使用する方法を提供する。第十二の局面は、このようなブレンドを衝撃吸収器油として、又は衝撃吸収器油に使用する方法を提供する。第十三の局面は、このようなブレンドを作動油として、又は作動油に使用する方法を提供する。このような使用法は、本発明の第二〜第九局面に関連して前述した1つ以上の目的のための使用法を含んでよい。
【0121】
誘電流体が高温全体に露出される場合、或いは流体中に高いピーク温度又はいわゆるホットスポットが生じる場合、或いは他の電気絶縁油を含有する装置において大きさ又は熱交換能力(capacity)の制限のため、流体により温度上昇が容易に延期できない場合、ブレンドは特定値であってよい。このような装置の例は、小型の高能力トランス又は安全スイッチである。
【0122】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、鉱油誘導対応品と比べて比較的高い生分解性を有するので、本発明の配合物は、生分解性に関心のある所で使用する、例えば電車、電動自動車、ハイブリッド動力自動車のような可動性(mobile)電気機器にトランス油として使用するのに特に有利である可能性がある。本発明の配合物は、例えば国立公園、保護地域、飲料水(water)保護区域、飲料水(potable water)貯蔵施設等の環境保護指定区域に使用される設備に同様に利用を見出してよい。
【0123】
本発明基油配合物の生分解性は、例えばWO−A−2006136594第20頁第6行〜第21頁第16行に記載されるようなエステル系基油を含有させると、更に向上するかも知れない。
【0124】
第十四の局面は、本発明の第一局面の基油配合物、及び/又は第二〜第十局面のいずれかの一局面に従って製造した基油配合物を含むシステム、例えば電気システム、油圧(hydraulic)システム、衝撃吸収器又はそれらの一部を提供する。
【0125】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて語句“含む(又は含有する)(comprise)”及び“含有する(又は有する)(contain)”及び語句の変化、例えば“含むこと(comprising)”及び“含む(comprise)”は、“限定されるものではないが、‥‥を含むこと(including but not limited to)”を意味し、他の部分(moieties)、添加剤、成分、整数(integer)又は工程を除外すること(及び除外しないこと)を意図しない。
【0126】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、特に状況(context)が要求しない限り、単数は複数を包含する。特に不定冠詞(the indefinite article)を用いる場合、特に状況が要求しない限り、単数は勿論、複数も考慮すると理解すべきである。
本発明の各局面の好ましい特徴は、他の局面のいずれかと関連して説明したとおりであってよい。
【0127】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかとなろう。一般的に言えば、本発明は明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)に開示した複数の特徴のいずれかの新規な特徴、又はいずれかの新規な組み合わせに拡がる。こうして、本発明の特定の特徴、実施態様又は実施例と関連して説明した特徴、整数、特性、化合物、化学部分又は基は、これらと両立する限り、ここに記載したいずれの他の局面、実施態様又は実施例にも利用可能であると理解すべきである。
【0128】
更に特に言及しない限り、ここに開示したいずれの特徴も同じ又は類似の目的に役立つ代りの特徴で置き換えてよい。
以下の実施例は、本発明の基油配合物の特性及び性能を説明し、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の基油配合物の引火点に対する効果を評価する。
【実施例】
【0129】
実施例1
接触脱蝋済みフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油BO−1を、同様に接触脱蝋済みのフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油GO−1と或る範囲の割合でブレンドした。これらブレンドの引火点に対する異なるガス油濃度の効果を標準試験法ASTM D−92及びD−93を用いて測定した。
【0130】
これらブレンドの動粘度も標準試験法ASTM D−445を用いて40℃及び100℃の両方で測定した。標準試験法ASTM D−5950を用いて流動点を測定し、4つの読みから平均を取った。
【0131】
フィッシャー・トロプシュ油BO−1は、比較的厳しい水素化処理及び接触脱蝋工程を含む前記一般型の方法を用いて製造したものである。BO−1の特性及びガス油GO−1の特性を下記表1に示す。
【0132】
【表1−1】


【表1−2】

【0133】
実験の結果を下記表2に示す。この表もこれらブレンドについての予測D−92引火点は、Hydrocarbon Processing,第42巻,1963年6月(Gulf Publishing Corp),MF 77−500物理及び工学データ(Physical and Engineering Data)に記載の方法を用いて計算し、また各ブレンドについて、予測値に対する測定引火点の増加率(%)を示す。
【0134】


【表2】

【0135】
ガス油を含有させると、得られるブレンドの流動点が有利に低下することが理解できる。しかし、20重量%以下の濃度ではブレンドのD−92引火点は、通常の電気絶縁油に望ましい最小140℃未満には低下しない。これは意外なことで、純粋なガス油の引火点は基油の引火点より遥かに低く、このガス油は基油/ガス油ブレンドの蒸気圧、したがって、引火点を支配することが(基油中の溶剤と類似することにより)予想されていた。こうして、ガス油を基油に取入れると、140℃以上のブレンド引火点を達成するのは困難であると予想されていた。その代わり、本発明に従って製造したブレンドのD−92引火点は、理論により予測された値よりも一貫して高いことが理解できる。
【0136】
また表2は、ガス油が電気絶縁油及び衝撃吸収器油に関連して望まれる可能性もあるブレンドの動粘度を低下させるのにも役立つと共に、所望の製品仕様に基油配合物を注文通りに作るのを手助けするのに使用できることを示している。こうして、本発明により、誘電流体又は衝撃吸収器油として使用するのに極めて好適である可能性のある基油配合物の製造が可能となり得る。またフィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油の特性(特に粘度及び流動点)を、引火点を過度に損なうことなく、一層容易に注文通り作ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0137】
【特許文献1】WO−A−02070627
【特許文献2】WO−A−02070629
【特許文献3】US−B−7144497
【特許文献4】GB−B−2077289
【特許文献5】EP−A−0147873
【特許文献6】EP−A−0583836
【特許文献7】US−A−4125566
【特許文献8】US−A−4478955
【特許文献9】EP−A−776959
【特許文献10】EP−A−668342
【特許文献11】US−A−4943672
【特許文献12】US−A−5059299
【特許文献13】WO−A−9934917
【特許文献14】WO−A−9920720
【特許文献15】WO−A−9410264
【特許文献16】EP−A−0582347
【特許文献17】WO−A−9220759
【特許文献18】WO−A−9201657
【特許文献19】US−A−20040065581
【特許文献20】WO−A−2006136594
【非特許文献】
【0138】
【非特許文献1】Ryland,Lloyd B.,Tamele,M.W.及びWilson,J.N.,“Cracking Catalysts”,Catalysis;第VII巻、編集Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,ニューヨーク、1960年、5−9頁
【非特許文献2】Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第14巻、477〜526頁
【非特許文献3】Hydrocarbon Processing,第42巻,1963年6月(Gulf Publishing Corp),MF 77−500 Physical and Engineering Data(物理及び工学データ)
【非特許文献4】“Lubricants and related products”,Dieter Klamann,Verlag Chemie GmbH,Weinhem,1994年,330〜337頁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油及び(ii)フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を含有する基油配合物。
【請求項2】
前記フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の流動点(ASTM D−5950)が−42℃以下である請求項1に記載の基油配合物。
【請求項3】
前記フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の濃度が1〜20重量%である請求項1又は2に記載の基油配合物。
【請求項4】
前記フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の濃度が5〜10重量%である請求項3に記載の基油配合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の基油配合物を含有する電気絶縁油又は作動油。
【請求項6】
フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を得る工程及び該軽質基油をフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油とブレンドする工程を含む基油配合物の製造方法。
【請求項7】
フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物の引火点を所望の目標値より高く維持しながら、該配合物の常温流れ特性を改良する目的で、該配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法。
【請求項8】
フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物に対する目標最小引火点Xをなお達成しながら、該配合物の常温流れ特性を改良する、及び/又は該配合物の動粘度を低下させる方法において、該配合物の引火点を目標最小値X未満に低下させることなく、該配合物に添加できることを理論的に予測したフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の最大濃度c’よりも高い濃度cのフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を該配合物に添加する工程を含む該方法。
【請求項9】
好ましくは、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油へのフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油の導入により起こる、該配合物の引火点の低下が理論的に予測した値より低くなることにより、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油を含有する基油配合物中の常温流れ添加剤の量を減少させる目的で、フィッシャー・トロプシュ誘導軽質基油含有基油配合物にフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油を使用する方法。



【公表番号】特表2011−506631(P2011−506631A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536448(P2010−536448)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066752
【国際公開番号】WO2009/071608
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】