説明

基準線設定方法、基準線設定装置

【課題】振動防止バーを精度良く、安定に、短時間で取り付けるために用いる基準線を設定する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】蒸気発生器の胴体2の一端2aに設けられた管板5と、管板5の表面の法線2xとの交点を原点とする座標系において、法線2xの周囲であって原点よりも胴体2の他端2bの位置に、3以上の複数の基準点50を設定し、座標系における基準点50の座標を測定する工程と、複数の基準点50の座標に基づいて、法線2xの上の点であって他端2bに位置するものの座標を規定し、該座標と重なり法線2xと直交する線を基準線として、基準線と重なる2点の座標を算出する工程と、2点の座標を通過するレーザー光を射出させる工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準線設定方法および基準線設定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、原子炉において発生したエネルギーによって一次冷却材を加熱し、蒸気発生器において加熱された一次冷却材と二次冷却材との熱交換を行うことでタービンに供給するための蒸気を生成している。
【0003】
加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)で用いられる蒸気発生器は、一次冷却材の流路となるU型の伝熱管を複数備えている。この伝熱管には高温かつ高圧の一次冷却材が流れることから、一次冷却材の移動によって伝熱管が振動する。そのため、従来、このような伝熱管の振動を抑制する目的で、複数の伝熱管同士を連結して固定する振動防止バー(Anti-Vibration Bar:AVB)が用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−24994号公報
【特許文献2】特開平7−151487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、蒸気発生器の製造工程において、このような振動防止バーを筒状の胴体内に設置する際は、胴体の一方の開口部(すなわち、振動防止バーの挿入口)を横切る紐やワイヤーなどの糸状の部材を張り、この糸状部材を基準線として、振動防止バーと基準線との相対位置を計測することにより、振動防止バーが所定の空間位置に配置されたかどうかを判断していた。そのため、振動防止バーの設置時に振動防止バーと基準線である糸状部材が干渉する場合には、基準線として用いる糸状部材を一度外して再設置する必要が生じることから、時間と労力とが掛かり、作業が煩雑になっていた。
【0006】
また、近年の蒸気発生器の大型化に伴って伝導管の数が増えたことにより、伝導管の配置自由度が小さくなり、あわせて伝導管同士を連結する振動防止バーの設置にも、ずれ量がコンマ数mm以内といった高い精度が要求されるようになっている。このような要求に対し、上述のような糸状部材を用いる設置方法では、基準線の位置が変動してしまうおそれがあり、精度を担保しにくい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、振動防止バーを精度良く、安定に、短時間で取り付けるために用いる基準線を設定する方法を提供することを目的とする。また、上述の方法に好適に用いられる基準線設定装置を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の基準線設定方法は、蒸気発生器の胴体の一端に設けられた管板と、前記管板の表面の法線との交点を原点とする座標系において、前記法線の周囲であって前記原点よりも前記胴体の他端側の位置に、3以上の複数の基準点を設定し、前記座標系における前記基準点の座標を測定する工程と、前記複数の基準点の座標に基づいて、前記法線の上の点であって前記他端側に位置するものの座標を規定し、該座標と重なり前記法線と直交する線を基準線として、前記基準線と重なる2点の座標を算出する工程と、前記2点の座標を通過するレーザー光を射出させる工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、管板を基準とした座標系において各座標を規定し基準線を設定することが可能となる。そのため、該基準線を用いて取り付ける振動防止バーの座標は、管板を基準としたものとなり、位置精度が高くなる。また、基準線をレーザー光を用いて設定することができるため、例えば糸状部材のような実体のある部材を用いる場合と比べ、繰り返し取り外す必要がなく、高い位置精度を保ち安定に取り付けることが可能となる。さらに、実体のある部材を用いる場合と比べ、繰り返し取り外す必要がないため、作業時間が短縮できる。
【0010】
これらにより、この方法によれば、振動防止バーを精度良く、安定に、短時間で取り付けるために用いる基準線を設定することが可能となる。
【0011】
本発明においては、前記2点の座標で示される点が、前記基準線と前記法線とを含む面に含まれ、該面の面方向が重力方向に設定されていることが望ましい。
この方法によれば、レーザー光を射出する装置および受光する装置について、重力方向への位置ズレを考慮する必要がなく、高い精度で基準線を設定することができる。
【0012】
本発明においては、前記レーザー光を射出させる工程では、予め、前記レーザー光を射出する射出部に対して、相対位置が既知の2点以上の射出側基準点と、前記レーザー光を受光する受光部に対して、相対位置が既知の2点以上の受光側基準点と、を設定し、 前記射出側基準点および前記受光側基準点と、前記2点の座標で示される点と、の相対位置に基づいて、前記射出部と前記受光部との配置位置を調節し、前記レーザー光を射出することが望ましい。
この方法によれば、レーザー光を射出する装置の射出部や受光する装置の受光部の位置を直接測定することができなくても、精度良く配置することが可能となる。
【0013】
本発明においては、前記レーザー光として、可視光領域の波長の光を用いることが望ましい。
この方法によれば、基準線として用いるレーザー光のビームスポットを目視確認することができるため、振動防止バーの取り付け作業において、基準線の位置を確認しやすくなる。
【0014】
また、本発明の基準線設定装置は、基準点を形成する3以上の基準材と、前記基準材の空間座標を光学的に測定する座標測定器と、を含む座標測定装置と、レーザー光を射出するレーザー発振器と、前記レーザー光を射出するレーザー受信器と、前記基準材と前記レーザー発振器とを載置する第1載置台を含む第1保持具と、前記基準材と前記レーザー受信器とを載置する第2載置台を含む第2保持具と、を含み、前記第1戴置台および前記第2戴置台は、第1直交3軸周りに回動可能であり、且つ前記第1戴置台および前記第2戴置台の各々の面方向の直交2軸方向に平行移動可能であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第1保持具および第2保持具の空間座標について、座標測定装置を用いて精度良く測定しながら配置することができ、さらに、第1保持具および第2保持具が有するレーザー発振器およびレーザー受信器の空間座標については、第1戴置台および第2戴置台の回動運動および平行移動により、微調節が可能である。したがって、レーザー光を、所望の空間位置に設定すべき基準線と重ねて射出することが容易となる。
【0016】
本発明においては、前記第1載置台は、前記レーザー発振器を配置する面内方向において、前記レーザー発振器の前記レーザー光を射出する射出部を挟んで両側に、前記基準材が設けられていることが望ましい。
この構成によれば、レーザー発振器の位置を直接測定することができなくても、間接的に位置を知ることができ、レーザー発振器を精度良く配置することが可能となる。
【0017】
本発明においては、前記第2載置台は、前記レーザー受信器を配置する面内方向において、前記レーザー受信器の前記レーザー光を受信する受信部を挟んで両側に、前記基準材が設けられていることが望ましい。
この構成によれば、レーザー受光器の位置を直接測定することができなくても、間接的に位置を知ることができ、レーザー受光器を精度良く配置することが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記第1載置台、または前記レーザー発振器の少なくともいずれか一方は、前記レーザー発振器から射出される前記レーザー光の射出方向を調整する調整機構を有することが望ましい。
この構成によれば、レーザー発振器から射出されるレーザー光の射出方向をさらに精度良く調節することが可能となる。
【0019】
本発明においては、 前記レーザー光が、可視光領域の波長の光であることが望ましい。
この構成によれば、基準線として用いるレーザー光のビームスポットを目視確認することができるため、振動防止バーの取り付け作業において、基準線の位置を確認しやすくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の装置および方法を用いれば、振動防止バーを精度良く、安定に、短時間で取り付けるために用いる基準線を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】蒸気発生器の製造の様子を示す概略斜視図である。
【図2】設定された基準線を示す説明図である。
【図3】本実施形態の基準線設定装置に含まれる第1保持具を示す図である。
【図4】本実施形態の基準線設定装置に含まれる第1保持具を示す図である。
【図5】本実施形態の基準線設定装置に含まれる第1保持具を示す図である。
【図6】本実施形態の基準線設定装置に含まれる第1保持具を示す図である。
【図7】本実施形態の基準線設定方法を説明する説明図である。
【図8】本実施形態の基準線設定方法を説明する説明図である。
【図9】本実施形態の基準線設定方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図9を参照しながら、本発明の実施形態に係る基準線設定方法および基準線設定装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0023】
図1は、蒸気発生器の製造の様子を示す概略斜視図である。本実施形態の蒸気発生器は、例えば、加圧水型原子炉(PWR)に用いられる。
【0024】
図に示すように、蒸気発生器1は、両端が開口した筒状の胴体2、大きさの異なる複数の伝熱管3、伝熱管3が挿通され伝熱管3を支持する複数の伝熱管支持板4、胴体2の一端2aを密封するとともに、伝熱管3と連通する複数の貫通孔(不図示)を有する管板5、複数の伝熱管3を連結し固定する複数の振動防止バー(振動防止部材)6を有している。
【0025】
以下の説明においては、xyz直交座標系を設定し、このxyz直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。本実施例の場合、管板5の面内であって胴体2の延在方向と直交する方向(胴体2の中心軸と直交する方向)をx軸方向、管板5の面内であってx軸と直交する方向をy軸方向、x軸方向及びy軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち導体2の中心軸方向)をz方向とする。
【0026】
複数の伝熱管3はU字形状を有し、円弧部を胴体2の他端2b側に向けて、胴体2の内部に挿入されている。胴体2の一端2a側では、伝熱管3の端部が管板5の複数の貫通孔にシール溶接されている。また、伝熱管3は、複数の伝熱管支持板4に非接触状態で挿通されている。
【0027】
振動防止部材6は、伝熱管3の円弧部において複数の伝熱管3を連結し、伝熱管3内に流体が流れる際の伝熱管3の円弧部での振動等を防ぐために設けられている。振動防止部材6は、図1に示すように、V字形状を有しており、配置箇所に応じてV字の開度が異なる構成となっている。
【0028】
このような振動防止部材6は、z軸方向において所定の位置に配置されることで、確実に伝熱管3を固定することができる。また、xz平面内において所定の姿勢で配置されることで、図1において波線で囲む箇所のように、y軸方向に積み重なる複数の振動防止部材6の端部同士を連結して固定し、一層強固に伝熱管3を固定することができる。
【0029】
以下に説明する本実施形態の基準線設定装置は、振動防止部材6の取付時に振動防止部材6の相対位置の基準となる基準線Lを設定し、振動防止部材6の取付作業を精度良く行うことを可能とするものである。すなわち、本実施形態の基準線設定装置を用いると、図2に示すように、胴体2の端部を横切る基準線Lを設定することができる。そのため、当該基準線Lから振動防止部材6までのz軸方向における奥行き寸法(図中、符号Cで示す)と、基準線Lから振動防止部材6の両端までの弦寸法(図中、符号Dで示す)と、を測定することで、振動防止部材6を所定の位置に精度良く配置することを可能となる。
【0030】
本実施形態の基準線設定装置は、基準点を形成する3以上の基準材と、基準材の空間座標を光学的に測定する座標測定器と、を含む座標測定装置と、レーザー光を射出するレーザー発振器と、レーザー光を射出するレーザー受信器と、基準材と前記レーザー発振器とを載置する第1載置台を含む第1保持具と、基準材とレーザー受信器とを載置する第2載置台を含む第2保持具と、を有する。第1載置台および第2載置台は、直交3軸周りに回動可能であり、且つ第1戴置台および第2戴置台の各々の直交2軸方向に平行移動可能である。
【0031】
以下の説明においては、まず、第1保持具および第2保持具について説明し、次いで、座標測定装置を含めた基準線設置装置の使用法を説明しながら、本実施形態の基準線設定方法について説明する。
【0032】
図3〜6は、本実施形態の基準線設定装置に含まれる第1保持具10と第2保持具20とを示す図であり、図3は第1保持具10、図4は第1保持具10が有する載置台の平面図、図5は第1保持具10が有する第2位置調節部の概略斜視図、図6は第2保持具20、をそれぞれ示している。また、図3,図6において、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【0033】
図3(a)(b)に示すように、第1保持具10は、レーザー光を射出するレーザー発信器30を載置する載置部110と、載置部110の空間位置を制御する第1位置制御部120および第2位置制御部130と、載置部110、第1位置制御部120、第2位置制御部130を胴体2の端部に取り付けるための取り付け部140と、を有している。
【0034】
図に示すように、載置部110は、レーザー発信器30を載置する板状の載置台(第1載置台)111と、載置台111を第1位置制御部120に接続する接続軸112と、を有している。
【0035】
載置台111は、y軸方向から見て矩形の板状部材であり、胴体2に取り付けた状態でz軸方向に延在するように設けられている。載置台111には、y軸方向に貫通する貫通孔113が設けられており、この貫通孔113に、レーザー発信器30が有する凸状の射出部31が、上方側(+y側)から嵌合している。
【0036】
また、載置台111の下方側(−y側)の面には、2箇所に磁石115が埋め込まれている。磁石115は、それぞれ球状の基準材50を取り付けるために用いる。基準材50は、後述する座標測定装置により座標(射出側基準点)を検出するために用いる部材である。
【0037】
図4に示すように、2つの磁石115は、z軸方向に設定された配列軸αに沿って貫通孔113を挟んで設けられている。また、磁石115の中心と貫通孔113の中心とは、配列軸α上に配列している。これにより、載置台111においては、レーザー発振器30を配置する面内方向において、レーザー発振器30のレーザー光を射出する射出部31を挟んで両側に、基準材50が設けられている。すなわち、磁石115を用いて取り付けられる球状の基準材50の中心と、貫通孔113に嵌合する射出部31の中心と、が配列軸α上に配列することとなる。
【0038】
図3に戻って、接続軸112は、胴体2に取り付けた状態でy軸方向に延在するように設けられている。また、接続軸112は、y軸周りを回動自在に設けられており、接続軸112が回動することにより、載置台111をy軸周りに回動させる構成となっている。接続軸112の回動角度は、調節つまみ117により調節可能となっている。
【0039】
第1位置制御部120は、x軸方向に平行移動可能なxステージ121と、y軸方向に平行移動可能なzステージ122と、を有している。xステージ121の移動量は、xステージ121に設けられた調節つまみ123により調節可能となっており、また、zステージ122の移動量は、zステージ122に設けられた調節つまみ124により調節可能となっている。
【0040】
zステージ122は、プレート125に取り付けられており、プレート125には載置部110の接続軸112が接続されている。そのため、xステージ121およびzステージ122を移動させることで、接続軸112を介して載置台111をx軸方向およびz軸方向に平行移動させる構成となっている。
【0041】
第2位置制御部130は、第1基台131と、第2基台132と、第1基台131および第2基台132に挟持され、これらを接続する円柱状の接続部133および一対のコイルばね(弾性部材)134と、一対のコイルばね134の内部にそれぞれ挿通される凸状部135と、一端が凸状部135に当接するように設けられた一対の調節ねじ136と、を有している。また、第2基台132には、x軸方向の両端に、第1保持具10の運搬に用いる運搬用ハンドル139が設けられている。
【0042】
図5に示すように、第1基台131および第2基台132は、y軸方向から見て矩形の板状部材である。第1基台131には、上述の第1位置制御部120に含まれるxステージ122が接続され、第2基台132には、後述の取り付け部140が接続されている。
【0043】
接続部133は、第1基台131と第2基台132との−z側の端部でこれらを接続しており、一対のコイルばね134は、x軸方向に配列して設けられ、第1基台131と第2基台132との+z側の端部でこれらを接続している。また、コイルばね134は、y軸方向に収縮する方向の力が付勢された状態で、第1基台131と第2基台132とを接続している。
【0044】
このような第2位置制御部130では、調節ねじ136の挿入量を調節することにより、調節ねじ136の先端が凸状部135を押し下げ、第1基台131と第2基台132との離間距離を変化させる。そのため、一対の調節ねじ136の挿入量をそれぞれ独立に変化させると第1基台131がz軸周りに回動し、一対の調節ねじ136の挿入量をそれぞれ同量変化させると、第1基台131がx軸周りに回動する。
【0045】
これにより、調節ねじ136の挿入量を調節することで、接続軸112および第1位置制御部120を介して、載置台111をx軸周りおよびz軸周りに回動させる構成となっている。
【0046】
なお、第1基台131と第2基台132との離間距離の変化は、第1基台131の変形により生じることとしてもよく、接続部133の変形により生じることとしてもよく、両者が同時に起こることとしてもよい。
【0047】
図3に戻って、取り付け部140は、胴体2の端部に引っかかるフック141aを有する取り付け部本体141と、取り付け部本体141との間で胴体2を挟み込むクランプ142と、取り付け部本体141とクランプ142が胴体2を挟み込んだ状態でクランプ142を固定する固定部143と、固定部143と連動し固定部143を介してクランプ142の開閉状態を変更するレバー144と、を有している。
【0048】
このような取り付け部140では、胴体2にフック141aを当接させた状態で、レバー144を操作し固定部143を回動させると、固定部143に当接したクランプ142が胴体2に引っかかり、自身を胴体2に固定する。これにより、第1保持具10を胴体2の所望の位置に固定する。
【0049】
一方、図6(a)(b)に示すように、第2保持具20は、レーザー光を受光するレーザー受光器40を載置する載置部110と、載置部110の空間位置を制御する第1位置制御部120および第2位置制御部130と、載置部110、第1位置制御部120、第2位置制御部130を胴体2の端部に取り付けるための取り付け部140と、を有している。
【0050】
本実施形態の第1保持具10と第2保持具20とは、レーザー光の射出装置を保持するか、または受光装置を保持するか、という点が異なり、その他の構成は共通している。第2保持具20が有する載置台111は、本発明における第2載置台に該当する。また、第2保持具20が有する基準材50は、本発明における受光側基準点に該当する。
【0051】
第2保持具20の載置部110が有する載置台(第2載置台)111には、y軸方向に貫通する貫通孔113が設けられており、この貫通孔113に、レーザー受光器40が有する凸状の受光部41が、下方側(−y側)から嵌合している。すなわち、第2保持具20、載置台111において、レーザー受光器40は、胴体2に取り付けられた際に、第1保持具10のレーザー発信器30の射出部に面するように設けられている。
【0052】
これらに加えて、本実施形態の基準線設定装置は、座標測定装置を有する。座標測定装置は、複数の基準材と、基準材の空間座標を測定する座標測定器と、を含むものである。座標測定装置としては、例えば、光反射性を有する球状の基準材(リフレクタ)の座標をレーザー光線を用いて測定する3次元レーザー計測器を用いることができる。
本実施形態の基準線設定装置は、以上のような構成となっている。
【0053】
次に、本実施形態の基準線設定方法を説明する。図7〜9は、本実施形態の基準線設定方法を説明する説明図である。
【0054】
本実施形態の基準線設定方法では、蒸気発生器の胴体2の一端に設けられた管板5と、管板5の表面の法線2xとの交点を原点とする座標系において、法線2xの周囲であって原点よりも胴体2の他端2b側の位置に、3以上の複数の基準点50を設定し、座標系における基準点50の座標を測定する工程と、複数の基準点50の座標に基づいて、法線2xの上の点であって他端2b側に位置するものの座標を規定し、該座標と重なり法線2xと直交する線を基準線として、基準線と重なる2点の座標を算出する工程と、2点の座標を通過するレーザー光を射出させる工程と、を有する。以下、順に説明する。
【0055】
まず、図7に示すように、胴体2の一端2aに設けられた管板5と同一の平面をxy平面とし、xy平面と胴体2の中心軸2xの延在方向をz軸方向として、管板5と胴体2の中心軸2xとの交点を原点(0,0,0)としたxyz座標系を設定する。
【0056】
そして、胴体2の周囲に3以上の基準材50(図中、基準材50a、50b、50cとして示す)を配置し、座標測定器60を用いて、胴体2の一端2a側から各々の基準材50の座標を測定する。測定する座標は、上述の座標系における座標である。
【0057】
ここで、胴体2のz軸方向の寸法Aは既知の値である。また、胴体2の他端2bに設けられた第1保持具10における、胴体2からレーザー発信器までの距離(図3(b)に符号xで示す)も既知の値である。そのため、第1保持具10から射出されるレーザー光を基準線Lとする場合の、基準線Lと中心軸2xとの交点Pの座標は、(0,0,A+x)として算出することができる。
【0058】
したがって、座標測定装置60を用いて胴体2の他端2b側から測定し、基準材50a、50b、50cの座標に基づいた第1保持具10および第2保持具20の座標を規定することで、第1保持具10から射出されたレーザー光が基準線Lと重なるように、射出部31および受光部41が配置されるべき2点の座標を算出することができる。
【0059】
ここで、射出部31および受光部41が配置されるべき2点の座標は、法線2xを含む平面であって、面方向が鉛直方向に設定されている面に含まれることが望ましい。具体的には、第1保持具10が胴体2の上方、第2保持具20が胴体2の下方に配置され、レーザー光を鉛直方向に射出するように基準線を設定することが好ましい。これにより、第1保持具10および第2保持具20の重力方向への位置ズレを考慮する必要がなくなり、設置が容易となる。
【0060】
次に、図8に示すように、第1保持具10および第2保持具20は、各々有する基準材50の座標に基づいて配置することができる。
【0061】
ここでは、予め、レーザー光を射出する射出部31に対して、相対位置が既知の2点以上の基準材50(射出側基準点)と、レーザー光を受光する受光部41に対して、相対位置が既知の2点以上の基準材50(受光側基準点)と、を設定し、射出側基準点および受光側基準点と、射出部31および受光部41が配置されるべき座標として算出される2点と、の相対位置に基づいて、射出部31と受光部41との配置位置を調節し、レーザー光を射出する。
【0062】
すなわち、第1保持具10上のレーザー発信器30の座標や、第2保持具20上のレーザー受信機40の座標は、直接測定することはできないが、レーザー発信器30と第1保持具10が有する基準材50との相対位置、および、レーザー受信器40と第2保持具20が有する基準材50との相対位置、はそれぞれ既知である。そのため、第1保持具10および第2保持具20が有する基準材50の座標を確認しながら、レーザー発信器30から射出されるレーザー光が基準線Lと重なるように、第1保持具10および第2保持具20の位置を調節する。
【0063】
第1保持具10および第2保持具20の位置調節時には、各々有する第1位置調節部120および第2位置調節部130を用い、x軸方向、z軸方向、x軸周り、y軸周り、z軸周りの微調節を行う。
【0064】
さらに、載置台111、またはレーザー発振器30の少なくともいずれか一方は、レーザー発振器30から射出されるレーザー光の射出方向を調整する調整機構を有することが好ましい。すなわち、載置台111、またはレーザー発振器30の少なくともいずれか一方は、レーザー発振器30のみ独立して姿勢を調節する機構を有し、レーザー光の射出方向を微調節できる機構を有していることが好ましい。第1保持具10および第2保持具20の位置を所望の位置に設置したとしても、レーザー発振器30から射出されるレーザー光の光線軸が傾いていると、レーザー光を基準線Lと重なるように射出することができないためである。
【0065】
このような機構は、レーザー発振器30に備わっていることとしてもよく、載置部110に備わっていることとしてもよい。このような機構により、第1位置調節部120および第2位置調節部130を用いて位置調節をした後、さらに精度良くレーザー光の射出方向を調節することが可能となる。
【0066】
例えば、図9に示すように、載置部110の載置台111に、レーザー発振器30の姿勢を調節する複数の調節ねじ119が設けられ、調節ねじ119の挿入量によってレーザー発振器30の姿勢の調節を行うこととするとよい。このような構成を有する第1保持具10に対し、第2保持具20では、レーザー受信器40の受光部41と重なる開口部70aを備えたバリア70を設けることとし、開口部70aを通過したレーザー光Lbのみが受光部41に入射するような構成とする。このようにすると、レーザー光Lbは開口部70aを通過することで初めて受光部41に入射することとなる。
【0067】
したがって、第1保持具10および第2保持具20の位置調節により、予め射出部31、開口部70a、受光部41が基準線L上に配置されるように調節した後、さらに調節ねじ119によりレーザー発振器30の姿勢を制御してレーザー光Lbが受光部41に入射するように調節することで、レーザー光Lbを基準線Lと重なるように射出させることが可能となる。
【0068】
レーザー発振器30が射出するレーザー光は、レーザー光やレーザー光のスポットを目視で確認できることから、可視光領域の波長の光であることが好ましい。しかし、例えばCCDイメージセンサ(Charge Coupled Device Image Sensor)のような撮像素子を用いてレーザー光やレーザー光のスポットを確認する場合には、赤外線領域の波長のレーザー光を用いることとしても構わない。
本実施形態の基準線設定方法は、以上のようにして行う。
【0069】
蒸気発生器の製造時には、以上のようにして設定した基準線を用い、基準線と振動防止バーとの相対位置を確認しながら振動防止バーの設置を行う。これにより、精度良く、振動防止バーの設置を行うことが可能となる。
【0070】
以上のような基準線設定方法によれば、管板5を基準とした座標系において各座標を規定し基準線Lを設定することが可能となる。そのため、該基準線Lを用いて取り付ける振動防止バーの座標は、管板5を基準としたものとなり、位置精度が高くなる。
【0071】
また、基準線Lをレーザー光を用いて設定することができるため、例えば糸状部材のような実体のある部材を用いる場合と比べ、繰り返し取り外す必要がなく、高い位置精度を保ち安定に取り付けることが可能となる。
【0072】
さらに、実体のある部材を用いる場合と比べ、繰り返し取り外す必要がないため、作業時間が短縮できる。
【0073】
これらにより、本実施形態の方法によれば、振動防止バーを精度良く、安定に、短時間で取り付けるために用いる基準線Lを設定することが可能となる。
【0074】
また、以上のような構成の基準線設定装置によれば、第1保持具10および第2保持具20の空間座標について、座標測定装置を用いて精度良く測定しながら配置することができ、さらに、第1保持具10および第2保持具20が有するレーザー発振器30およびレーザー受信器40の空間座標については、戴置台111の回動運動および平行移動により、微調節が可能である。したがって、レーザー光を、所望の空間位置に設定すべき基準線と重ねて射出することが容易となる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0076】
1…蒸気発生器、2…胴体、2…一端、2b…他端、2x…法線、5…管板、10…第1保持具、20…第2保持具、31…射出部、41…受光部、30…レーザー発振器、40…レーザー受信器、50…基準点、60…座標測定装置、111…載置台(第1載置台、第2載置台)、119…調節ねじ(調整機構)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気発生器の胴体の一端に設けられた管板と、前記管板の表面の法線との交点を原点とする座標系において、前記法線の周囲であって前記原点よりも前記胴体の他端側の位置に、3以上の複数の基準点を設定し、前記座標系における前記基準点の座標を測定する工程と、
前記複数の基準点の座標に基づいて、前記法線の上の点であって前記他端側に位置するものの座標を規定し、該座標と重なり前記法線と直交する線を基準線として、前記基準線と重なる2点の座標を算出する工程と、
前記2点の座標を通過するレーザー光を射出させる工程と、を有することを特徴とする基準線設定方法。
【請求項2】
前記2点の座標で示される点が、前記基準線と前記法線とを含む面に含まれ、該面の面方向が重力方向に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の基準線設定方法。
【請求項3】
前記レーザー光を射出させる工程では、予め、前記レーザー光を射出する射出部に対して、相対位置が既知の2点以上の射出側基準点と、前記レーザー光を受光する受光部に対して、相対位置が既知の2点以上の受光側基準点と、を設定し、
前記射出側基準点および前記受光側基準点と、前記2点の座標で示される点と、の相対位置に基づいて、前記射出部と前記受光部との配置位置を調節し、前記レーザー光を射出することを特徴とする請求項1または2に記載の基準線設定方法。
【請求項4】
前記レーザー光として、可視光領域の波長の光を用いることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の基準線設定方法。
【請求項5】
基準点を形成する3以上の基準材と、前記基準材の空間座標を光学的に測定する座標測定器と、を含む座標測定装置と、
レーザー光を射出するレーザー発振器と、
前記レーザー光を射出するレーザー受信器と、
前記基準材と前記レーザー発振器とを載置する第1載置台を含む第1保持具と、
前記基準材と前記レーザー受信器とを載置する第2載置台を含む第2保持具と、を含み、
前記第1戴置台および前記第2戴置台は、直交3軸周りに回動可能であり、且つ前記第1戴置台および前記第2戴置台の各々の面方向の直交2軸方向に平行移動可能であることを特徴とする基準線設定装置。
【請求項6】
前記第1載置台は、前記レーザー発振器を配置する面内方向において、前記レーザー発振器の前記レーザー光を射出する射出部を挟んで両側に、前記基準材が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の基準線設定装置。
【請求項7】
前記第2載置台は、前記レーザー受信器を配置する面内方向において、前記レーザー受信器の前記レーザー光を受信する受信部を挟んで両側に、前記基準材が設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載の基準線設定装置。
【請求項8】
前記第1載置台、または前記レーザー発振器の少なくともいずれか一方は、前記レーザー発振器から射出される前記レーザー光の射出方向を調整する調整機構を有することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の基準線設定装置。
【請求項9】
前記レーザー光が、可視光領域の波長の光であることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の基準線設定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184930(P2012−184930A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46201(P2011−46201)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)