説明

基盤材

【課題】天然素材を使用し、環境への負荷を低減し緑化を推進できる基盤材を提供する。
【解決手段】南九州に豊富に存在する火山灰土と、多孔質体と、固化材と、植物性繊維質を配合することにより製造される基盤材であって、植栽した基盤材ブロックを施工することにより緑化が可能であり、しかも植物が定着した後に風化して土壌に還元されるため環境負荷が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植栽用基盤材であって、とくに植物性バイオマスを使用した軽量で、且つ適度な強度を有し、しかも緑化植物の発芽率の高い基盤材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境整備の分野では自然との調和や生態系の保護を視野に入れた施工計画の策定が重視されるようになり、これにより対処できる新たな技術の開発が求められている。特に傾斜地の多い地方では土壌浸食の防止対策が重要な課題の一つであり、植栽あるいはコンクリートによる様々な施工方法が検討されてきた。植栽による土壌保全は景観確保の面からも望ましく、さらに水系に近い場所では水質浄化にも寄与できることから積極的な利用が期待されているが、雑草との競合や土壌浸食の厳しい場所では植物が定着し難いという問題点があった。
【0003】
これに対し、コンクリート技術を使用した植栽ブロックが注目されており、ポーラスコンクリート等を使用し、法面や水際などのコンクリート上に直接植栽できる植栽ブロックが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記の植栽ブロックはコンクリート構造物と一体に構成されて植栽が可能とされ、しかも半永久的にコンクリート構造物として存在するものであり、環境への負荷を無視できるものではなく、しかも前記ブロックの製造や施工には多大の費用を必要とするという問題点があった。
【0005】
これらの問題点を解決するために、重量比で真砂土70%〜80%、ポルトランドセメント3〜5%、ノニオン系の界面活性剤適量を含む組成混合物に水を加えて調整された育成土壌上に芝を敷設し、前記芝の上からプレス圧を印加し、前記芝及び育成土壌を養生することにより、前記育成土壌は前記セメントによって周囲が実質的に周繞されている前記真砂土の各粒子が該セメントによって結合され多数の空隙を有するポーラス状に形成され、前記空隙に芝の根が張られ該芝及び育成土壌が一体に形成され透水性及び保水性を備えている緑化ブロックが提案され、最終処理の際に容易に破砕でき自然土に還元可能なブロックとして紹介されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−65252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に提案されている緑化ブロックの場合、予め芝を育成土壌に敷設し、プレス圧を印加した後長期間の養生を必要とするため、製造に長時間を必要とするという問題点があり、しかも使用される植物も芝に限定される。
【0007】
本発明者らは、上記の問題点に対して、黒ボク土を主成分とし、竹炭等の多孔質体と、セメント等の賦型剤とから構成される土壌還元型植栽ブロックを提案している(特開2006−42668号公報)。この土壌還元型植栽ブロックは河川護岸や法面の緑化を対象として開発したものであり、屋上緑化等へも適用範囲を拡大するためには軽量かつ強度を高めた新たな植栽ブロックの開発が求められていた。
【0008】
そこでこれら従来の問題点に鑑み、本発明者らは先に出願した土壌還元型植栽ブロックをさらに発展させ、軽量で、且つ適度な強度を有し、しかも緑化植物の発芽率の高い植栽用基盤材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明では植栽用基盤材であって、土壌と多孔質体と固化材と植物性バイオマスを配合したことを第1の特徴とする。
【0010】
基盤材に配合する土壌が火山灰土または褐色森林土の少なくともいずれか一つを含むことを第2の特徴とする。
【0011】
基盤材に配合する多孔質体が竹炭、木炭、ボラ土または軽石の少なくともいずれか一つを含むことを第3の特徴とする。
【0012】
基盤材に配合する固化材がセメント、石灰、セメント系固化材または土壌硬化剤の少なくともいずれか一つを含むことを第4の特徴とする。
【0013】
基盤材に配合する植物性バイオマスが植物性繊維質を含む配合物であることを第5の特徴とする。
【0014】
さらには、土壌と多孔質体と固化材と植物性バイオマス及び水を、質量パーセントをそれぞれ25〜33:10〜15:15〜33:5〜10:20〜33の割合で混合して製造されることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る基盤材によれば、多孔質体、とりわけ竹炭または木炭を配合材としたことや、植物性バイオマス、とりわけ植物性繊維質を配合材としたため、従来の基盤材と比較してセメント等の固形材の量を減らすことが可能となり、軽量化できるという優れた効果を有する。
【0016】
第二に、セメント等の固化材の量を減らし植物性バイオマス、とりわけ植物性繊維質を配合したため、この繊維質によって適度な曲げ強度が得られるという効果を有する。
【0017】
第三に、多孔質体、とりわけ竹炭または木炭を配合材としたことや、植物性バイオマス、とりわけ植物性繊維質を配合したため、植栽内に適当な空隙が構成され、また、植物性バイオマスが肥料の代替となるため、植物の発芽率及び発芽勢が高まるという効果を有する。
【0018】
第四に、植物の発芽率及び発芽勢の向上により、雑草類の侵入がなく根付いた緑化植物のみが基盤材では生長することになり,現場への敷設後も雑草類の侵入の余地がなく緑化植物しか残らないことになるので、植栽後の除草等、維持管理が容易であるという効果を有する。
【0019】
さらに、南九州で豊富に存在する火山灰土、竹林問題の解決につながる竹炭、有効利用されていない植物性バイオマスを配合して構成されているため、自然環境への負荷が少なく、入手が容易であるため安価であるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明が本実施例に限定されないことは言うまでもない。図1は本発明に係る基盤材の一実施例を示す斜視図、図2は図1の模式断面拡大図、図3は本発明に係る基盤材の吸水速度試験結果を示す図、図4は本発明に係る基盤材の保水率試験結果を示す図、図5は本発明に係る基盤材による植栽試験における発芽勢を示す図である。
【0021】
本発明の実施例では、土壌として火山灰土の一種である黒ボク土を使用したが、この他の火山灰土である多湿黒ボク土や黒ボクグライ土も使用可能である。また、植物性バイオマスとして籾殻とチガヤを使用したが、この他の植物性繊維質として利用可能なものには、稲ワラ、麦ワラ、サトウキビ残渣、おがくず、乾燥化させた焼酎廃液が挙げられる。
【実施例】
【0022】
図1、図2に示すように本発明に係る基盤材1は、黒ボク土2と竹炭3とセメント4と籾殻5とチガヤ6を所定の配合率で混合して成形される。
【0023】
配合にあっては、密度の大きな土壌は緑化植物の生長基盤であるため欠かせないが、一方軽量化にはその量が少ないことが求められる。人工物である固化材は環境負荷の観点から少なくする必要があるが、一方強度保持のために一定量は必要である。植物性バイオマスは軽量化や強度の補強のためには多く配合するのが良いが、一方多量の配合により脆性の増大が懸念される。
【0024】
これら複数の相反要素がありながらも、土壌と多孔質体と固化材と植物性バイオマス及び水を、質量パーセントをそれぞれ25〜33:10〜15:15〜33:5〜10:20〜33の割合で混合することで、先に述べた効果を発揮する優れた基盤材が提供される。
【0025】
黒ボク土2は植物の生育に必要な肥料成分が豊富であり、固相が少なく孔隙が大きく多いため他の天然土材に比べ比重が軽く、また水持ちがよい特徴がある。竹炭3は粒度として10mmのふるい目上のものが使用され、黒ボク土2と混合されることによりブロックの中の通気性、吸水性、保水性が確保される。セメント4はポルトランドセメントが使用され、自然硬化により土壌還元型植栽用基盤材としての使用に対しては適度な強度が保持される。そして、植物が定着た後には容易に崩壊し、土壌に還元されるものである。また、籾殻5及びチガヤ6は農産廃棄物として大量に排出されるものであり、チガヤ6は裁断機などによって細かく裁断されて使用される。以下に本発明に係る基盤材の吸水性、強度、植栽性能に関して表1乃至表3、図3乃至図5によりさらに詳細に説明する。
【0026】
(基盤材ブロックの作成)
適宜の容器にまず水とセメントとを投入して混ぜ、次に黒ボク土、竹炭、チガヤ、籾殻を順に投入してモルタルミキサーを使用して練混ぜを行なった。そして2種類の型枠に流し込み表面を均した後、自然乾燥を行なった。尚、型枠の寸法は内寸法(300×300×15、200×200×15、単位mm)である。また配合比率を変えて7種類作成した。配合割合と作成した基盤材ブロックの一覧を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示す配合割合A−1、A−2、B、Fのブロックは作成過程において崩壊することなく作成できた。しかし配合割合C、D、Eのブロックは型枠からの脱枠等の作業中に崩壊したため、以後の試験は行なっていない。

【0029】
(吸水性試験)
表1に示す配合割合A−1、A−2、B、Fの基盤材に関し、ブロックの吸水性を知るために以下の条件にて吸水速度を調べた。作成した4種類のブロックを透明なプラスチック容器に縦に入れ、水道水を底から10mmの高さまで入れ、吸水高さを測定した。尚、測定は10、20、40、60、120、180、360、720秒毎とした。その結果を図3に示す。
【0030】
図3に示すように、水、チガヤの配合が少ないブロックはいずれも吸水速度が遅いことが判明した。また質量比でセメントの比率が高いブロックの方が吸水速度が速いことが分かった。
【0031】
(保水率試験)
表1に示す配合割合A−1、A−2、B、Fの基盤材を、24時間以上水に浸した後、それぞれの質量を測定した。まず1回目は表面を軽く乾布で拭いて測定を行なった。測定後24℃の養生室内で乾燥させて、24時間毎に質量の測定を行ない、保水率の推移を把握した。その結果を図4に示す。
【0032】
図4に示すように、配合割合B、Fの基盤材は、配合割合A−1、A−2の基盤材と比べ6日後で2倍の保水力を示した。これは、セメントの配合割合の違いによる隙間の大きさと、その量の違いによるものと考えられる。
【0033】
(曲げ強度測定試験)
各配合割合の基盤材ブロックを支承の幅の中央に置き、このブロックの上(下)面の3/5倍のスパンで支える。そしてこの3/5スパンの3等分点に、上部圧縮装置を接触させて加重を加え、ブロックにひびが入った時点の荷重を最大荷重として曲げ強度を求めた。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、配合割合B、Fの基盤材は、A−1、A−2の基盤材と比べ最大荷重及び曲げ強度共に極めて小さいが、脱型作業中に崩壊するとはなかった。また、チガヤ(雑草)の配合率の異なる配合割合B、Fの基盤材を比較すると、チガヤを多く含むFのほうが曲げ強度が高く、チガヤの補強材としての有効性が確認できた。
【0036】
(植栽実験)
表1に示す配合割合A−1、A−2、B、Fの基盤材ブロックを各々用意し、トールフェスク(芝生の一品種)とレッドトップを各々播種し、この播種済ブロックを種類毎に容器に入れ水を浸し、屋外において両種子の発芽率、発芽勢を比較した。また比較データとして養生室(温度24℃、湿度75%)においてシャーレ上にトールフェスクとレッドトップを播種し、発芽率、発芽勢を測定した。その結果を表3並びに図5に示す。尚、レッドトップはB、及びFの基盤材およびシャーレでの試験を行なった。
(発芽率)=発芽した種子数/播種した種子数×100(%)
(発芽勢)=1日に発芽した種子数/播種した種子数×100(%)
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示す発芽率は、播種後21日目における発芽率を示しており、何れの種子も配合割合Bの基盤材は、シャーレと同等か、良好であった。配合割合Fの基盤材はトールフェスクの発芽率が低い数値であった。
【0039】
図4に示すように、いずれの種子もシャーレの発芽勢のピークが最も早く、配合割合Fの基盤材のピークが最も遅かった。これは、配合割合Fの基盤材を使用した試験時の平均気温が10.7℃であったため、各種子の最適温度である15〜30℃と比較して5℃以上低かったことが原因であると推察され、他の試験における平均気温と同じ条件であれば、発芽勢及び発芽率も配合割合Bと同等の数値が得られるものと考えられる。
【0040】
以上の結果から、配合割合B、或いはFの基盤材が植栽ブロックとして適しており、籾殻、チガヤなどの雑草がセメントに代わる補強材として使用できることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による基盤材によれば、主たる成分に天然素材である黒ボク土と竹炭及び籾殻、チガヤ等を使用しており、環境負荷が低くまた安価であるため、農業土木及び土木分野の河川護岸や法面緑化用の植栽ブロックとして、さらにはヒートアイランド現象の緩和に貢献できる屋上緑化技術や不織布を用いた防草シートに代わる安価な雑草防除の用途として地用が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る基盤材の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の模式拡大断面図である。
【図3】本発明に係る基盤材の吸水速度試験結果を示す図である。
【図4】本発明に係る基盤材の保水率試験結果を示す図である。
【図5】本発明に係る基盤材の植栽試験における発芽勢を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 基盤材
2 黒ボク土
3 竹炭
4 セメント
5 籾殻
6 チガヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植栽用基盤材であって、土壌と多孔質体と固化材と植物性バイオマスを配合したことを特徴とする基盤材。
【請求項2】
前記基盤材であって、土壌が火山灰土または褐色森林土の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1記載の基盤材。
【請求項3】
前記基盤材であって、多孔質体が竹炭、木炭、ボラ土または軽石の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1または2いずれか記載の基盤材。
【請求項4】
前記基盤材であって、固化材がセメント、石灰、セメント系固化材または土壌硬化剤の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の基盤材。
【請求項5】
前記基盤材であって、植物性バイオマスが植物性繊維質を含む配合物であることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の基盤材。
【請求項6】
前記基盤材であって、土壌と多孔質体と固化材と植物性バイオマス及び水を、質量パーセントをそれぞれ25〜33:10〜15:15〜33:5〜10:20〜33の割合で混合して製造されることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載の基盤材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−41922(P2010−41922A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206083(P2008−206083)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】