説明

堆肥及び堆肥の製造方法

【課題】食品の製造工程で排出される食品製造廃棄物である焼酎粕の処理と難溶性リンを含有する鶏糞の焼却灰の処理を行い、植物が吸収しやすい可溶性リンを高濃度に含んだ堆肥を製造すること。
【解決手段】本発明では、食品の製造工程で排出される食品製造廃棄物である焼酎粕と、難溶性リンを含有するリン含有物である鶏糞の焼却灰とを混合し、その後、土壌微生物を添加して醗酵させ、可溶性リンの濃度を増大させることによって堆肥を製造することにした。
鶏糞の焼却灰に鉱酸(塩酸)や有機酸(おから)を混合しても、可溶性のリンの濃度を増大させることはできないが、鶏糞の焼却灰に焼酎粕を混合することによって、可溶性のリンの濃度を増大させることができる。しかも、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合したものに土壌部生物を添加した後に醗酵により堆肥化させることで、可溶性リンの濃度をより一層増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥及び堆肥の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種食品の製造工程においては、たとえば、果実の搾りかすや焼酎粕などの残渣物が多量に排出されている。
【0003】
これらの残渣物は、食品の製造工程においては、食品製造廃棄物として排出され、一部が肥料や飼料などに有効利用されているが、ほとんどが焼却処分されているため、海洋投棄の禁止や埋立地不足などを受けて、その処理方法が社会問題ともなっている。
【0004】
一方、肥料の成分として知られるリンは、土壌中や鶏糞中などにおいて金属と結合した難溶性リンとして存在している。
【0005】
そのため、従来より、物質中に含有される難溶性リンを可溶化させる方法として、リン含有物に無機酸を反応させる方法が考案されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−145785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、食品製造廃棄物の処理や難溶性リンの可溶化といった課題を解決することを目的として鋭意研究を重ねたところ、上記食品製造廃棄物の処理と難溶性リンの可溶化なる課題を同時に解決することができる本発明を成すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明では、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合し、その後、土壌微生物を添加して醗酵させて可溶性リンの濃度を増大させたことを特徴とする堆肥を提供するものである。
【0009】
また、請求項2に係る本発明では、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合し、その後、土壌微生物を添加して醗酵させて可溶性リンの濃度を増大させることによって堆肥を製造することを特徴とする堆肥の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
そして、本発明では、以下に記載する効果を奏する。
【0011】
すなわち、本発明では、食品の製造工程で排出される食品製造廃棄物である焼酎粕の処理と、難溶性リンを含有するリン含有物である鶏糞の焼却灰の処理とを同時に解決することができるとともに、植物が吸収しやすい可溶性リンを高濃度に含んだ堆肥を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る堆肥及び堆肥の製造方法の具体的な構成について説明する。
【0013】
本発明は、焼酎を製造する工程において残渣物として排出される食品製造廃棄物である焼酎粕を、そのまま廃棄してしまうのではなく、堆肥の原料として有効に活用することによって処理するものである。
【0014】
リンは、肥料の有効成分として知られており、鳥類がりん酸を用いて飼料の消化を行うことから、鶏糞を焼却処分した焼却灰には、多くのリンが含有されている。しかしながら、これら鶏糞の焼却灰には、リンとともに金属イオンも含有されており、リンが金属イオンと良好に結合してしまい、そのままでは植物が根から吸収することが困難な状態となっている。
【0015】
そのため、リン含有物に塩酸や硫酸などの無機酸を混入させて中和することで、リンを可溶化させる方法が考えられている。
【0016】
しかしながら、無機酸による中和でのリンの可溶化方法では、十分なリンを可溶化させるに至ってはいない。
【0017】
そこで、鶏糞の焼却灰に焼酎粕を混合させたところ、焼酎粕に含有されている有機酸の作用で中和されるとともに、有機酸が鶏糞の焼却灰中でリンと結合した金属イオンと反応し、金属イオンがリンから剥離して有機酸とキレートを生成し、リンを可溶化させることができた。
【0018】
なお、リンを可溶化させて水溶液中の金属イオンと結合していないリンの濃度を向上させることで、公知のリン抽出方法を用いて多量のリンを抽出することができ、また、そのまま肥料として散布して植物の根から良好に吸収させることができるようになる。
【0019】
また、可溶化させたリンを農地等の実施環境において安定に維持させる方法として、腐植物質や有機ケイ酸化合物等の難分解性のキレート化合物を加えることによって、難溶性塩を形成する金属をトラップする方法や、麦飯石等の陰イオン交換体を加えることによって、リンを土壌溶液中に速やかに供給できる状態を形成する方法や、リンを高濃度で保持する微生物数を維持することによって、可溶性リンのカプセル化する方法などが考えられる。
【0020】
また、上記処理を施して生成された生成物、すなわち、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合することによってリン含有物中の難溶性リンを可溶化させる処理を施して生成された生成物は、可溶性リンの濃度が増大するまで土壌微生物により醗酵させて堆肥を製造することができ、また、その堆肥を成熟させた後に水と混合して液肥を抽出することもできる。
【0021】
具体的な実験データを示すと、表1に示すように、鶏糞の焼却灰と水とを重量比で1:5の割合で混合し40℃で放置したところ、pH11.5の水溶液となり、そのときの可溶性リンの濃度は2.5ppmであったが、鶏糞の焼却灰と塩酸水溶液とを重量比で1:5の割合で混合し40℃で放置したところ、pH7.4の水溶液となり、そのときの可溶性リンの濃度は8.5ppmになり、リンを3.4倍に可溶化させることができ、さらに、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを重量比で1:5の割合で混合し40℃で放置したところ、pH6.9と中和した状態であるものの、そのときの可溶性リンの濃度は54.0ppmになり、リンを21.6倍(塩酸水溶液による中和と比較しても約6.4倍)に可溶化させることができた。
【0022】
【表1】

【0023】
ここで、鶏糞の焼却灰と焼酎粕との混合物の可溶性リンの濃度が高い理由として、焼酎粕に含まれるリンに起因するものとも考えられる。そこで、焼酎粕に含まれる全リン量と同じだけリンを含有する量のおから(焼酎粕20kgに対しておから2.2kg。)を鶏糞の焼却灰に混合して可溶性リンの濃度を測定したところ、表2に示すように、可溶性リンの濃度が9.6ppmであり、鶏糞の焼却灰に鉱酸である塩酸を混合した場合とほぼ同じ結果であった。
【0024】
この結果、鶏糞の焼却灰に鉱酸(塩酸)や有機酸(おから)を混合しても、可溶性のリンの濃度を増大させることはできないが、鶏糞の焼却灰に焼酎粕を混合することによって、可溶性のリンの濃度を増大させることができることがわかった。
【0025】
さらに、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合したものに土壌微生物を添加したところ、可溶性リンの濃度に変化が見られないものの、醗酵により堆肥化させたものは、表2に示すように、可溶性リンの濃度が533ppmになり、鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合しただけのものに比べて著しく可溶性リンの濃度を増大させることができることがわかった。
【0026】
【表2】

【0027】
具体的には、醗酵槽に鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを重量比で1:4の割合で投入して混合し、所定期間(ここでは、3日間。)放置した後に、醗酵槽に土壌微生物を投入して混合し、可溶性リンの濃度が十倍程度増大するまで一定温度下(ここでは、50℃。)で一定期間(ここでは、30日間。)放置し、その間に土壌微生物の作用で醗酵させて堆肥を製造した。
【0028】
土壌微生物は、乳酸菌や脱窒素菌や硝化菌などを混合させたものを用い、リンを体内に取込む能力を有する微生物を用いた。
【0029】
なお、堆肥を所定期間(たとえば、6ヶ月間。)放置して成熟させ、容器に堆肥と水とを重量比で1:5の割合で投入して混合し、所定期間(たとえば、2日間)容器内に空気を送り込んだ。その後、放置して固液分離させて上澄み液を取り出したり、或いは、フィルターで固液分離させて液体を取り出したりして、液肥を抽出した。なお、抽出した液肥は、再び完熟させた堆肥とを撹拌混合し、微生物とその餌とを混合して醗酵させ、その後、上記方法で液肥を抽出するようにしてもよい。
【0030】
このようにして製造した堆肥や液肥は、市販の肥料に比べてシクラメンのつぼみの生長や花の色がかりにおいて効果が確認された。
【0031】
これは、微生物の体内においてリン酸イオンが濃縮されて直鎖状の長鎖ポリリン酸イオンとして蓄積されること、さらに、微生物の死滅に伴って長鎖ポリリン酸イオンが分解し、多重環状のシクロ三リン酸イオンを生成し、この環状三リン酸イオンが反応性に富んでおり、糖などの様々な有機物をリン酸化し、三リン酸モノエステルを経てリン酸モノエステルを生成する。このリン酸モノエステルが、植物にとって極めて吸収しやすいために、肥料としての効果が発現すると考えられる。また、焼酎粕に含有される有機物が微生物の栄養となり活発な活動を促進するものと考えられる。
【0032】
このように、金属イオンとリンとが結合した難溶性リンを含有するリン含有物(鶏糞の焼却灰)と有機酸を含有する食品製造廃棄物(焼酎粕)とを混合することによって、リン含有物中の難溶性リンを水溶性リンとして可溶化させることができ、これにより食品製造廃棄物をリンの可溶化方法における原料として有効に活用することができるので、食品製造廃棄物の処理と難溶性リンの可溶化とを同時に行うことができる。
【0033】
しかも、リン含有物として鶏糞の焼却灰を用いているために、悪臭や不衛生などの公害原因となっている鶏糞の有効利用をも図ることができる。
【0034】
さらに、難溶性リンを含有するリン含有物と有機酸を含有する食品製造廃棄物とを混合することによってリン含有物中の難溶性リンを可溶化させ、その後、微生物により醗酵させて堆肥とすることで、植物が吸収しやすい可溶化されたリンを含有する堆肥を製造することができる。
【0035】
特に、前記堆肥を成熟させた後に水と混合して液肥を抽出した場合には、植物が吸収しやすい可溶化されたリンを含有する液肥を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合し、その後、土壌微生物を添加して醗酵させて可溶性リンの濃度を増大させたことを特徴とする堆肥。
【請求項2】
鶏糞の焼却灰と焼酎粕とを混合し、その後、土壌微生物を添加して醗酵させて可溶性リンの濃度を増大させることによって堆肥を製造することを特徴とする堆肥の製造方法。

【公開番号】特開2010−202493(P2010−202493A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247749(P2009−247749)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【特許番号】特許第4436440号(P4436440)
【特許公報発行日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(307028390)アルゼント販売株式会社 (1)
【Fターム(参考)】