説明

堤防の漏水抑止装置及び方法

【解決手段】 底面に取水口10を穿設した貯水槽と、前記底面における取水口10の周囲上面に設けられた環状のパッキン11と、当該パッキン11及び前記貯水槽の取水口10を貫通して地面に打ち込まれたパイプ16とを有し、前記パッキン11を押圧手段により前記貯水槽の底面に圧接せしめる。
【効果】 前記パイプ16を漏水個所6を取り巻いて地面に打ち込むので、地面に浸食溝があってもその浸食溝をパイプ16が遮断し、漏水個所6から漏出した水が浸食溝を確実に貯水槽内に誘導することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豪雨などによる河川の増水時に、パイピングによる堤防からの漏水を抑止するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川1は通常図1に示すように、堤防2により人の居住区域3と区分され、堤防2は通常河川1が増水しても越流することがないだけの高さを有している。そして河川1の水は堤外を流れて堤内に溢出することがないようになっている。
【0003】
しかしながら堤防2は、長期間のうちに老朽化し、ひび割れ、小動物による穿孔、植物の根の侵入などにより空隙が形成され、増水時にはかかる空隙に水が浸入し、さらに水頭圧によって通水性を有する砂層4を通じて堤内に漏出する水みち5が形成され、かかる水みち5を通じて河川の水が堤内に漏水することがある。
【0004】
かかる現象はパイピングと呼ばれ、これを放置していると、水みち5内を流れる水によって穿掘が生じて水みち5が拡大し、さらに漏出量が増加することにより穿掘が加速して水みち5が急速に拡がり、最悪の場合には破堤に至る可能性もある。従ってパイピングが生じたときには、その初期に防止策を講じる必要がある。
【0005】
パイピングを防止する方法として最も一般的に行われているのは、釜段工あるいは月の輪工と呼ばれる工法である。この工法についてはhttp://www.cgr.mlit.go.jp/ctc/tech_dev/topics/suibou/s_syurui09.htm及びリンクに詳細に説明されている。
【0006】
すなわち漏水個所6の周囲を土嚢で囲み、その土嚢で囲まれた内部に漏出した水を貯留することにより、貯留した水の水頭圧によって漏水の加速を抑止する工法であって、主として平らな地面に漏水する場合に、その周囲を土嚢で環状に囲む工法を釜段工と呼び、堤防の裏法面から漏水する場合に、その漏水個所6を法面に対して土嚢で半月状に囲む工法を月の輪工と呼んでいる。
【0007】
これらの工法は漏水を完全に阻止するものではなく、単に水みち5内の水の流速を抑制するのみであるが、時間が経過して河川1の増水が解消すれば水みち5内に水の流通は減少し、水に含まれていた土砂が水みち5内に沈澱して漏水は減少し、最終的には水みち5が解消して自然に漏水が止まるのであって、河川1の増水時に一時的に漏水を抑制するだけでも十分に効果がある。
【0008】
しかしながらこれらの工法においては、これを実施するためには多くの人員を必要とし、また多数の土嚢を用意しなければならないのであって、豪雨などで洪水の危険が迫っているときに、個々の漏水個所にこのように多くの人員と資材を投入することは、極めて困難である。
【0009】
またこれらの工法を実施するためには、土嚢を積み上げる地面がある程度平らであることが必要である。土嚢は変形可能であるからある程度までは凹凸があっても追従できるが、地面に土嚢が追従し得ないような激しい凹凸や段差があると、土嚢と地面との間の隙間から水が漏出し、パイピングを防止するに十分な水位が得られない。またこれらの凹凸を均すためにはさらに多くの人員や資材を必要とする。
【0010】
また地面から湧出する水を蓄えるための装置として、特開2008−115634号公報に記載されたものがある。この装置は底面に開口を有する容器を湧水個所に置き、容器底面と地面との間を水膨潤体でシールし、湧出した水を容器内に蓄えるものであって、取水装置としての他、前記釜段工の代替として使用することもできる。
【0011】
この装置は漏水個所に簡単に設置することができ、多くの人員や資材を必要とすることはないが、この装置においても、地面が容器底面との間を水膨潤体でシールすることができる程度に平らでなければならない。
【0012】
特にパイピングにより地面に水が湧出して地面を流れると、その流水によって短時間のうちに地面が浸食されて浸食溝を形成する。そのため先に述べた釜段工や月の輪工においても、また前記取水装置においても、その浸食溝を流れる水を止めることはできず、パイピングを確実に防止するのは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−115634号工法
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】http://www.cgr.mlit.go.jp/ctc/tech_dev/topics/suibou/s_syurui09.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、多量の人員や資材を必要とせず、少人数で短時間のうちに、確実にパイピングによる漏水を抑止することのできる堤防の漏水抑止装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
而して本発明の装置は、底面に取水口を穿設した貯水槽と、前記底面における取水口の周囲上面に設けられた環状のパッキンと、当該パッキン及び前記貯水槽の取水口を貫通して地面に打ち込まれたパイプとを有し、前記パッキンを押圧手段により前記貯水槽の底面に圧接せしめたことを特徴とするものである。
【0017】
本発明においては、前記貯水槽として、取水口を穿設した底面とその周縁に立設された周壁面とよりなる容器を使用することができる。この場合においては、前記容器は少なくともその底面が柔軟な水密性の布帛よりなることが好ましい。
【0018】
また本発明においては、前記貯水槽として、漏水個所の周囲に形成された環状堤と、当該環状堤及びその環状堤に囲まれた地面上に展開された水密性のシートとよりなり、当該シートに前記取水口が形成されたものとすることもできる。この場合においては、前記環状堤が土嚢を環状に積み上げて形成されていることが好ましい。
【0019】
また本発明における前記貯水槽として、漏水個所の周囲に設置されたフレームと、漏水個所上に展開された前記取水口を有する水密性のシートとよりなり、当該シートの周縁部を引き上げて前記フレームに支持して、前記シートを貯水可能の容器状に形成したものとすることも好ましい。
【0020】
また本発明における前記パッキンとしては、透水性を有する環状の袋内に水膨潤性樹脂粉末を封入してなる水膨潤体を使用することが好ましい。また本発明における前記パイプの先端には、カッター刃を形成することが好ましい。
【0021】
また本発明において前記パッキンを貯水槽の底面に圧接せしめる押圧手段としては、土嚢をパッキンの上に載置することができる。この場合、パッキン上に環状の押え板を載置し、当該押え板の上に前記土嚢を載置することもできる。またパッキン上に比重の大きい材料よりなる環状の押え板を載置して押圧手段とすることもできる。
【0022】
また本発明における押圧手段として、パッキンの上に載置された押え板と、前記パイプの上端に形成されたフランジとよりなり、パイプを地面に打ち込むことにより前記フランジが押え板を押圧して、当該押え板と前記貯水槽の底面との間にパッキンを挟圧したものとすることも可能である。
【0023】
さらに本発明の装置においては、前記貯水槽の上部に貯水槽内の水を排出する排水管を設けることが好ましい。
【0024】
次に本発明の方法は、前記装置における貯水槽を、前記取水口が漏水個所に一致するように地面に設置し、前記貯水槽の底面における取水口の周囲上面に環状のパッキンを載置すると共に、当該パッキンを貯水槽の底面に圧接せしめ、当該パッキンと前記貯水槽の取水口とを貫通して地面にパイプを打ち込み、前記漏水個所から漏出する水を貯水槽に貯留することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、前記パイプを漏水個所を取り巻いて地面に打ち込むので、前述のような浸食溝があってもその浸食溝をパイプが遮断し、漏水個所から漏出した水が浸食溝を通じて漏れ出すことがなく、確実に貯水槽内に誘導することができる。
【0026】
またパッキンが貯水槽の底面の取水口周囲に圧接してシールし、またパイプとの間もシールするので、貯水槽内の水が取水口から逆流することもなく、確実に貯水槽内に蓄えられ、当該水により生ずる水頭圧によりパイピングによる漏水を確実に抑止することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】堤防にパイピングが生じる状態を模式的に示す断面図。
【図2】本発明を実施する状態の一形態を示す断面図。
【図3】本発明を実施する状態の貯水槽の他の形態を示す断面図。
【図4】本発明を実施する状態の貯水槽のさらに他の形態を示す断面図。
【図5】本発明における押圧手段として土嚢を使用した例を示す主要部の断面図。
【図6】本発明における押圧手段として押え板を使用した例を示す主要部の断面図。
【図7】本発明における押圧手段として、パイプにフランジを形成した例を示す主要部の断面図。
【図8】本発明においてパッキンとして使用する水膨潤体を示すものであって、(a)は斜視図、(b)は中央縦断面図、(c)は膨潤した状態の中央縦断面図である。
【図9】本発明の実施例の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下本発明を図面に基づいて説明する。図2は本発明を実施する状態の一形態を示すものである。6は水みち5を通じて漏水している漏水個所であって、当該漏水個所6の周囲に土嚢7を積み上げて環状堤8が形成され、その環状堤8及び環状堤8に取り囲まれた地面上が水密性のシート9で覆われて貯水槽を形成している。そしてそのシート9における前記漏水個所6に相当する位置に取水口10が形成されている。
【0029】
この例においては環状堤8は従来の釜段工に類似した構造で形成されているが、環状堤8の構造としてはこれに限られるものではなく、土盛り、石積みなどの構造により環状堤8を形成することも可能である。また環状堤8内に水が貯留された状態でシート9の周囲を確実に支えることができるならば、近辺にある木の枝などを集めて環状に形成したものであってもよい。
【0030】
そして前記シート9における取水口10の周囲の上面に、環状のパッキン11が載置されている。パッキン11は通常の柔軟な弾性体製のものであっても良いが、図8に示すような水膨潤体12を使用するのが好ましい。
【0031】
水膨潤体12は図8の(a)及び(b)に示すように、透水性の紙又は布で作られた環状の袋13の中に水膨潤性樹脂粉末14を封入したものであって、これが水に触れることにより前記水膨潤性樹脂粉末14が膨潤してゲル化し、図8(c)に示すように急速に体積を増すものである。
【0032】
そしてそのパッキン11上に押圧手段として押え板15が載置され、その押え板15上に土嚢7が載置されており、当該土嚢7の重量により、押え板15を介して前記パッキン11を取水口10の周囲のシート9の上面に圧接して密着させている。
【0033】
またパッキン11として前記水膨潤体12を使用することにより、当該水膨潤体12が体積を増してシート9を地面に押しつけるので、地面に多少の凹凸があってもシート9はその凹凸に沿って地面に密着し、シート9と地面の間から水が漏出するのを有効に防止することができる。
【0034】
而して本発明においては、前記押え板15、パッキン11及びシート9の取水口10を貫通して、パイプ16が地面に打ち込まれている。当該パイプ16の先端には、図面に示すようにカッター刃17を形成するのが好ましい。
【0035】
前記漏水個所6を取り巻いた地面にパイプ16を打ち込むことにより、地面に激しい凹凸があったり前述のような浸食溝が形成されたような場合で、シート9の下面が地面に沿いにくいような場合においても、パイプ16がその浸食溝などの凹凸を遮断するため、漏水個所6から漏出した水はシート9の下に流れ込むことはなく、確実にシート9上に貯留されるのである。
【0036】
また上述のようにパイプ16の先端にカッター刃17を形成することにより、地面の草や地中の草や木の根を切断して深く打ち込むことができ、草などを伝ってパイプ16内外を通じた新たな水みちが形成されるのを防止する。
【0037】
また18は環状堤8の上端部に設置された排水管であって、環状堤8内に貯留された水を排水管18を通じて外部の適当な個所に排出するようになっている。この排水管18は必ずしも不可欠ではないが、環状堤8から溢れ出した水が周囲の地面を侵食することがないように、排水管18で特定された箇所に排出するのが好ましい。
【0038】
この例によれば、全体の構造としては周囲に環状堤8を有する従来の釜段工とほとんど同様であるが、押え板15とシート9との間にパッキン11が挟圧されており、且つ漏水個所6を取り囲んでパイプ16が打ち込まれているので、漏水個所6から漏出した水によってパッキン11が膨潤して大幅に体積を増し、押え板15とシート9との間を確実にシールする。
【0039】
従って施工前に漏水個所6から流出した水によって浸食溝が形成されている場合など、地面が平滑でない場合においても、漏水個所6から流出した水は確実にシート9上に溢れ、シート9と地面との間を通って流出することはなく、またシート9上の水がシート9下に逆流することもない。
【0040】
従って、漏水個所6から流出した水は環状堤8内のシート9上に確実に貯留され、そこに貯留された水の水頭圧により漏水個所6から水みち5内に圧力がかかり、漏水個所6からの水の流出を抑えて水みち5内の水流を抑制し、水みち5の穿掘を阻止してパイピングを防止することができるのである。
【0041】
一般に漏水個所6に水頭圧を作用させる場合、その水深が50cm程度で十分にパイピング防止効果があるとされており、本発明によればシート9の下を通しての流出を確実に防止することにより、シート9内に十分な量の水を貯留して50cm程度の水深を確保することができる。
【0042】
また環状堤8内の地面にはシート9が載置されており、当該シート9上に貯留された水の水頭圧によってシート9は地面に圧接せしめられているため、漏水個所6からの流出を阻止された水がその近傍の弱い個所から漏出しようとした場合においても、地面にシート9を介して作用している水頭圧によってその漏出が抑制され、新たなパイピングを生じることもない。
【0043】
次に図3は、本発明を実施する状態の他の形態を示すものである。19は地面に載置された貯水槽を構成する容器であって、取水口10を穿設した底面20と、当該底面20の周縁に立設された周壁面21とよりなっており、前記底面20の取水口10が漏水個所6に一致するように地面に載置されている。
【0044】
この容器19は金属製などの容器であっても差し支えないが、柔軟な水密性の布帛よりなるものとするのが好ましい。少なくとも底面20は、内部の水の圧力により地面に密着しうる程度の柔軟性を有する布帛であることが好ましい。
【0045】
周壁面21が柔軟な布帛であっても、内部に貯留された水の水頭圧によって周壁面21に外方に向かう圧力が作用し、その圧力と布帛自体の若干の剛性により周壁面21は起立し、布バケツのような状態となって内部に水を貯留することができる。
【0046】
容器19の大きさは、理論的には後述するパイプ16上に必要な水頭圧が作用しうるだけの水を貯留できればよいのであるが、先にも述べたように漏水個所6からの漏出を阻止された水がその近傍の地面から漏出して新たなパイピングを生じる可能性があるので、漏水個所6の周囲の相当程度広い範囲に亙って底面20を介して地面に圧力が作用することが好ましく、容器19の直径が少なくとも1m以上、好ましくは2m以上であることが望ましい。
【0047】
そしてこの例においても、先の例と同様に取水口10の周囲の容器19の底面20に環状のパッキン11を載置し、当該パッキン11の上に環状の押え板15を載置し、当該押え板15上に土嚢7が載置されている。そして押え板15とパッキン11と取水口10とを貫通してパイプ16が漏水個所6の周囲の地面に打ち込まれている。
【0048】
この例によれば、容器19を柔軟な布帛で構成することにより、コンパクトに折り畳んで収納できると共に、河川の増水によりパイピングが生じたときには速やかに容器19などの資材を現場に持ち込むことができる。
【0049】
そして容器19を取水口10が漏水個所6に一致するように設置し、取水口10の周囲にパッキン11、押え板15、土嚢7及びパイプ16を取り付けるだけ作業が完了し、少人数で且つ短時間でパイピング防止の処置を行うことができる。
【0050】
そして漏水個所6から底面20上に水が溢れてきたならば、その水の圧力によって周壁面21が立ち上がり、必要に応じて人手でそれを起立させることにより、容器19が形成されてその内部に水が貯留され、その水頭圧により水みち5を通じての水の漏出が抑止される。
【0051】
この例においても先の例と同様に、押え板15と底面20との間にパッキン11が挟圧されており、且つ漏水個所6を取り囲んでパイプ16のパイプ部15が打ち込まれているので、施工前に漏水個所6から流出した水によって浸食溝が形成されている場合など、地面が平滑でない場合においても、漏水個所6から流出した水は確実に容器19内に溢れ、底面20と地面との間を通って流出することはなく、また容器19内の水が底面20下に逆流することもない。
【0052】
従って、漏水個所6から流出した水は容器19内に確実に貯留され、そこに貯留された水の水頭圧により漏水個所6から水みち5内に圧力がかかり、漏水個所6からの水の流出を抑えて水みち5内の水流を抑制し、水みち5の穿掘を阻止してパイピングを防止することができるのである。この例においても、容器19内に貯留する水の深さは、50cm程度で十分である。
【0053】
また容器19の少なくとも底面20を柔軟な布帛で構成することにより、容器19内に貯留された水の水頭圧によって底面20は地面に圧接せしめられるため、漏水個所6からの流出を阻止された水がその近傍の弱い個所から漏出しようとした場合においても、地面に底面20を介して作用している水頭圧によってその漏出が抑制され、新たなパイピングを生じることもない。
【0054】
次に図4は、本発明を実施する状態のさらに他の形態を示すものである。漏水個所6の周囲を間隔をおいて取り囲んで、杭22と横桟23とよりなるフレーム24が形成され、当該フレーム24の内側の地面に水密性のシート9が展開され、当該シート9の周縁が紐25などによりフレーム24に吊り下げられて貯水槽を形成しており、シート9の中央部には漏水個所6に一致して取水口10が穿設されている。
【0055】
そしてこの例においても、先の例と同様に取水口10の周囲のシート9上に環状のパッキン11を載置し、当該パッキン11の上に環状の押え板15を載置し、押え板15とパッキン11と取水口10とを貫通してパイプ16が漏水個所6の周囲の地面に打ち込まれている。
【0056】
この例によれば、シート9は柔軟であって容易に折り畳むことができ、またフレーム24も細長い棒を組み合わせたものであって場所をとるものではなく、これらの資材はコンパクトに収納できると共に、河川の増水によりパイピングが生じたときには速やかにこれらの資材を現場に持ち込んで施工することができる。
【0057】
そして漏水個所6の周囲の地面に杭22を打ち込み、横桟23を結合してフレーム24を形成し、そのフレーム24の内部の地面に、取水口10が漏水個所6に一致するようにシート9を展開する。そして先の例と同様に取水口10の周囲にパッキン11、押え板15及びパイプ16を取り付け、シート9の周縁を吊り上げてフレーム24に紐25などで支持することにより作業が完了し、少人数で且つ短時間でパイピング防止の処置を行うことができる。
【0058】
そして漏水個所6からシート9上に溢れてきた水は、周縁をフレーム24に支持されて容器状となったシート9上に貯留される。その貯留状態を確認しつつ必要であればシート9をフレーム24に支持し直すなどして、シート9上にパイピングを防止し得るに十分な水深を得ることができる。
【0059】
この例においても先の例と同様に、押え板15とシート9との間にパッキン11が挟圧されており、且つ漏水個所6を取り囲んでパイプ16のパイプ部15が打ち込まれているので、施工前に漏水個所6から流出した水によって浸食溝が形成されている場合など、地面が平滑でない場合においても、漏水個所6から流出した水は確実にシート9上に溢れ、シート9と地面との間を通って流出することはなく、またシート9上の水が下に逆流することもない。
【0060】
従って、漏水個所6から流出した水はシート9上に確実に貯留され、そこに貯留された水の水頭圧により漏水個所6から水みち5内に圧力がかかり、漏水個所6からの水の流出を抑えて水みち5内の水流を抑制し、水みち5の穿掘を阻止してパイピングを防止することができるのである。この例においても、シート9上に貯留する水の深さは、50cm程度の水深で十分である。
【0061】
またシート9上に貯留された水の水頭圧によってシート9は地面に圧接せしめられるため、漏水個所6からの流出を阻止された水がその近傍の弱い個所から漏出しようとした場合においても、地面にシート9を介して作用している水頭圧によってその漏出が抑制され、新たなパイピングを生じることもない。
【0062】
またこの例によれば、傾斜した地面においても適用できる。前記図2の例では環状堤8を形成するので、地面が傾斜している場合にはその下側の堤の高さを高くしなければ、漏水個所6に十分な水頭圧を作用させることができず、堤の高さを嵩上げすればそれに応じて水圧も高くなるため、堤の幅も広くする必要があり、かかる環状堤8を形成することにはさらに多大の人員と資材を必要とする。
【0063】
また図3の例ではパイピングが生じた個所にきわめて簡便に防止策を講じることができる反面、容器19を設置する範囲の地面が平坦であることが必要であり、特に地面が傾斜している場合には傾斜の下側に水圧がかかるため、周壁面21が水圧に耐えることができず、容器19が崩れる可能性がある。
【0064】
しかしながらこの図4の例によれば、シート9の周縁をフレーム24に支持するため、地面が傾斜している場合にはその傾斜の下側の周縁をフレーム24のより高い位置に支持することにより、漏水個所6に十分な水頭圧を作用させることができると共に、シート9及びフレーム24の強度が許す限り貯留した水が流出することがない。
【0065】
本発明においては、取水口10の周囲に載置したパッキン11を押圧手段で押さえ、シート9や底面20に圧接せしめることが必要である。上記の各例においてはその押圧手段として、押え板15及び土嚢7を使用しているが、押圧手段としてはこれに限られるものではない。
【0066】
図5はその押圧手段として土嚢7のみを使用した例を示すものである。すなわち取水口10の周囲にパッキン11を載置し、当該パッキン11上に直接土嚢7を載置したものである。地面に段差があるような場合には、押え板15を載置することにより段差の低い部分にパッキン11が十分に沿いにくいので、パッキン11上に直接土嚢7を載置することにより、地面の段差などの凹凸にパッキン11が沿い易くなる。
【0067】
また図6は、押圧手段として押え板15のみを使用した例を示すものである。地面に凹凸などがないときには、パッキン11上に十分に比重の大きい金属などの材料よりなる環状の押え板15を載置することにより、パッキン11をシート9や底面20を介して地面に圧接せしめることができる。
【0068】
また図7は、パイプ16が押圧手段を兼ねた例を示すものである。すなわちパイプ16はその上端にフランジ26が形成されており、パッキン11上に押え板15を載置し、当該パッキン11、押え板15及び取水口10を貫通してパイプ16を打ち込むと共に、当該パイプ16のフランジ26が押え板15を押圧し、その押え板15とシート9または底面20との間にパッキン11を挟圧するのである。さらに押え板15上に土嚢7を載置することもできる。
【0069】
これらの押圧手段やパッキン11は、漏水個所6の周囲の地面の状態などにより適切なものを使用するのがよい。すなわち貯水槽の資材と共に各種のパッキン11、パイプ16、押え板15、土嚢7などを用意しておき、現場の地面の状況に応じて最も適切なものを使用するのが好ましい。
【実施例1】
【0070】
本発明の効果を確認するために、図9に示す地盤を構築した。すなわちコンクリートのプールの床面27上に木製の枠体28を設置し、その枠体28内に下から順にローム層29、川砂層30及びローム層31を積層し、そのローム層31上に山砂により堤体32及び傾斜面33を構築した。そして川砂層30の先端はローム34で閉塞し、後端は枠体28に連通せしめた。なお各部の寸法は図面に示すとおりである。
【0071】
すなわち、不透水性のローム層29、31の間に透水性の川砂層30が挟まれた状態の基礎地盤の上に堤体32が構築された状態であって、河川を想定した枠体28から川砂層30に水みちができた状態を想定している。
【0072】
そして傾斜面33におけるローム層31の上面からの高さが45cmとなる位置に直径20cmの穴35を掘削し、当該穴35の先端を前記ローム層31の厚さのほぼ中間付近に至らしめた。
【0073】
この状態で後部の枠体28の上端から、貯水タンク36から水を注入し、枠体28内の水位をほゞ堤体32の上端に維持した。これによって注入された水は枠体28から川砂層30に浸透し、穴35の底においてパイピングの前兆現象とされるボイリングが生じ、さらにローム層31が破壊されてパイピングが生じ、穴35から水が流出して傾斜面33を流下し、数分後には傾斜面33に浸食溝が形成された。
【0074】
この状態で図4に示す漏水抑止工法を実施した。すなわち傾斜面33上に取水口10を穿設したシート9を展開し、当該シート9の取水口10の周囲にパッキン11及び押え板15を載置し、傾斜面33にパイプ16を打ち込んだ。シート9としては樹脂コーティングをした基布を使用した。パイプ16を打ち込むことにより、それまでシート9の下を浸食溝に沿って流下していた水は、シート9上に流出するようになった。
【0075】
次いで穴35を取り巻いて傾斜面33に杭22を打ち込み、横桟23を結合してフレーム24を形成し、シート9の周縁を引き上げて紐25でフレーム24の上部に吊り下げ、シート9を容器状に形成してその中に水を貯留せしめた。工法を実施するに要した人員は2名、時間は約23分であった。
【符号の説明】
【0076】
6 漏水個所
7 土嚢
8 環状堤
9 シート
10 取水口
11 パッキン
12 水膨潤体
13 袋
14 水膨潤性樹脂粉末
15 押え板
16 パイプ
17 カッター刃
18 排水管
19 容器
20 底面
21 周壁面
24 フレーム
26 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に取水口(10)を穿設した貯水槽と、前記底面における取水口(10)の周囲上面に設けられた環状のパッキン(11)と、当該パッキン(11)及び前記貯水槽の取水口(10)を貫通して地面に打ち込まれたパイプ(16)とを有し、前記パッキン(11)を押圧手段により前記貯水槽の底面に圧接せしめたことを特徴とする、堤防の漏水抑止装置
【請求項2】
前記貯水槽が、取水口(10)を穿設した底面(20)とその周縁に立設された周壁面(21)とよりなる容器(19)であることを特徴とする、請求項1に記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項3】
前記容器(19)が、少なくともその底面(20)が柔軟な水密性の布帛よりなることを特徴とする、請求項2に記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項4】
前記貯水槽が、漏水個所(6)の周囲に形成された環状堤(8)と、当該環状堤(8)及びその環状堤(8)に囲まれた地面上に展開された水密性のシート(9)とよりなり、当該シート(9)に前記取水口(10)が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項5】
前記環状堤(8)が、土嚢(7)を環状に積み上げて形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項6】
前記貯水槽が、漏水個所(6)の周囲に設置されたフレーム(24)と、漏水個所(6)上に展開された前記取水口(10)を有する水密性のシート(9)とよりなり、当該シート(9)の周縁部を引き上げて前記フレーム(24)に支持して、前記シート(9)を貯水可能の容器状に形成したことを特徴とする、請求項1に記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項7】
前記パッキン(11)が、透水性を有する環状の袋(16)内に水膨潤性樹脂粉末(14)を封入してなる水膨潤体(12)であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項8】
前記パイプ(16)の先端に、カッター刃(17)を形成したことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項9】
前記押圧手段が、パッキン(11)の上に載置された土嚢(7)であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項10】
前記パッキン(11)上に環状の押え板(12)を載置し、当該押え板(12)の上に前記土嚢(7)を載置したことを特徴とする、請求項9に記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項11】
前記押圧手段が、パッキン(11)の上に載置された、比重の大きい材料よりなる環状の押え板(12)であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項12】
前記押圧手段が、パッキン(11)の上に載置された押え板(12)と、前記パイプ(16)の上端に形成されたフランジ(26)とよりなり、パイプ(16)を地面に打ち込むことにより前記フランジ(26)が押え板(12)を押圧して、当該押え板(12)と前記貯水槽の底面との間にパッキン(11)を挟圧したことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項13】
前記貯水槽の上部に貯水槽内の水を排出する排水管(18)を設けたことを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置
【請求項14】
前記請求項1乃至12のいずれかに記載の堤防の漏水抑止装置における貯水槽を、前記取水口(10)が漏水個所(6)に一致するように地面に設置し、前記貯水槽の底面における取水口(10)の周囲上面に環状のパッキン(11)を載置すると共に、当該パッキン(11)を貯水槽の底面に圧接せしめ、当該パッキン(11)と前記貯水槽の取水口(10)とを貫通して地面にパイプ(16)を打ち込み、前記漏水個所(6)から漏出する水を貯水槽に貯留することを特徴とする、堤防の漏水抑止方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−42926(P2011−42926A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189647(P2009−189647)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】