塑性加工木材
【課題】物性的に安定し、製品間の品質にばらつきが少なく、また、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がなく、更に、高い硬度を有し傷跡や窪みが付き難いこと。
【解決手段】木材NW1,NW2に対して加えた加熱圧縮力によって、木材NW1,NW2の厚みが加熱圧縮されて塑性加工され、塑性加工木材PW1,PW2を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、かつ、摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、塑性加工木材PW1,PW2の木口面の全ての年輪線RLと、塑性加工木材PW1,PW2の裏側板目面B1または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内として製造したものである。塑性加工木材PW1,PW2の気乾比重は0.85以上であり、塑性加工木材PW1,PW2の空隙率が低いことから、優れた硬度を確実に得ることができる。
【解決手段】木材NW1,NW2に対して加えた加熱圧縮力によって、木材NW1,NW2の厚みが加熱圧縮されて塑性加工され、塑性加工木材PW1,PW2を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、かつ、摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、塑性加工木材PW1,PW2の木口面の全ての年輪線RLと、塑性加工木材PW1,PW2の裏側板目面B1または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内として製造したものである。塑性加工木材PW1,PW2の気乾比重は0.85以上であり、塑性加工木材PW1,PW2の空隙率が低いことから、優れた硬度を確実に得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも厚み方向に圧縮が加えられた塑性加工木材に関するもので、特に、製品間の品質のばらつきを少なくして製造できる塑性加工木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の樹種として、例えば、スギ材のように低密度で硬度が不足しているものにあっては、圧縮して高密度化すれば実用に耐え得る硬度が得られることが知られている。
そして、これに関するものとして、本出願人は先に特許文献1の発明、即ち、木材の厚み全体を圧縮して圧密化した表層材を所定の断面形状の溝状を形成した内層材に接着することによって、床、腰板、テーブル等の利用に供することのできる積層塑性加工木材について特許出願をした。また、本出願人は、従来から、含水率を調整しながらプレス盤等により木材の厚み全体を圧密化する技術を確立してきた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−301885号公報
【特許文献2】特開2003−53705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これら厚み全体が圧密化された圧縮材において、同じ圧縮率で圧密化されていても一義的に所望の硬度となっているわけではなかった。即ち、同じように圧縮が加えられている場合であっても、物性が一定でなくて、製品間の品質にばらつきが生じてしまうこともある。
これは、木材には一般的に年輪線の間を構成している早材部と年輪線を構成している晩材部とが存在しているところ、早材部における細胞壁の厚さが薄いことや、早材部における(細胞内腔の)空隙率が大きいこと、また、製材された木材によって年輪(早材部と晩材部)の配列状態が異なることに起因して、圧縮変形が局部的に集中してしまい、厚み全体が均一に圧縮されていないことがあったためと思われる。
【0005】
殊に、複数に分割されたプレス盤等を用いて面接触による圧縮を行った場合、この局部的な圧縮変形が、荷重がかかりやすい内層部に発生することが多いためか、圧縮度を高めても所望の表面硬度が得られないことが多く、また、表層部において局部的な圧縮変形を発生させることが困難であることから、圧縮度合いに見合うだけの傷跡や窪みが付き難いという効果が得難かった。
更に、厚み全体が均一に圧縮されてないことによって製品内において周囲の環境条件の変化による寸法変化率にばらつきが生じるため、製品化後の周囲の環境条件の変化によって歪みが発生することがあった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少なく、また、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がなく、更に、高い硬度を有し傷跡や窪みが付き難い塑性加工木材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の塑性加工木材は、木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、かつ、前記塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから
摩耗深さ=(m1−m2)/A・ρ
として算出した摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にあるものである。
【0008】
ところで、上記木材に対して加熱圧縮とは、木材の板目面または柾目面に対して加えた外力によって、木材の木口面に対する並行方向に加熱圧縮して、木口面の面積を小さくすることを意味し、上記板目面とは、木材の繊維方向(木目の長さ方向)と並行にあって年輪線の接線方向に切断された面のことであり、また、上記木口面とは、木材の繊維方向に対して交差する方向に切断された面、即ち、木材の繊維方向に対して垂直または斜めに切断された面のことである。なお、上記柾目面とは、木材の繊維方向と並行にあって年輪線の放射方向(半径方向)に切断された面のことであり、ここでは、柾目と板目の中間の追柾面をも柾目に含むものとする。
そして、上記厚み全体が圧縮される塑性加工は、例えば、木材の含水率を厚み全体で略均一となるように設定し、複数に分割されたプレス盤等を用いて所定の条件で加熱圧縮することによって形成することができる。なお、このときの所定の条件となる温度、圧力、時間、圧縮スピード等については、樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって決定される。
【0009】
ここで、上記塑性加工木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内とは、加熱圧縮した後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材のの裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内を意味し、本発明者らが、板目材または柾目材からなる圧縮前の木材を圧縮していくと当該交差角度が次第に小さくなることに着目し、鋭意実験研究を重ねた結果、硬度や耐摩耗性等の特性値のばらつきが少なくなって物性的に安定し、また、製品化後における周囲の環境条件の変化による歪みの発生がなくなり、更に、硬度が顕著に高くなり傷跡や窪みが付き難くなるのは、加熱圧縮前の前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が85度以下の範囲内にあるとき、特に、加熱圧縮後の塑性加工木材の年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内であることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。
【0010】
そして、上記木口面の年輪線とは、木口面から見て、質が緻密に形成されている線状の部分を意味し、木口面に表れる木目のことである。更に、上記85度、45度とは、厳格に85度、45度であることを要求するものではなくて、木材の種類、木質により、約85度、約45度程度であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0011】
特に、上記木材の木口面の全年輪線と前記木口面の樹心側の板目面または柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が85度、45度以下の範囲内とは、本発明者らが、鋭意実験研究を重ねた結果、年輪線の半径方向(放射方向)に製材され、圧縮前の状態で、通常、前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面の樹心側の柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が45度〜90度である圧縮前の柾目材において、加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上になるよう加熱圧縮を行った場合、圧縮前の交差角度が45度〜85度のものでは割れ(クラック)が生じにくくいが、圧縮前の交差角度が85度より大きいものでは年輪線の座屈変形が大きく、場合によっては、割れが生じて商品価値が失われることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。なお、圧縮前の交差角度が60度以下のものであれば殆ど割れ(クラック)が生じることがないためより好ましい。
【0012】
なお、一般的に、年輪の半径方向(放射方向)に製材されて市場に流通している柾目材は、圧縮前の状態で、前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が全て45度〜90度であるから、圧縮後の木材の交差角度の最大値は、通常、15度〜45度となる。また、板目材からなる塑性加工木材の原材料となる加工前木材には前記木口面の樹心側の板目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面に沿って描いた仮想境界線と年輪線とがなす鋭角側の交差角度が全て0〜45度以下であるものを用いるのが好ましいことから、木材の板目材と柾目材とを特定しなければ、また、木材の加工前木材の仮想境界線と木口面の年輪線とがなす鋭角側の交差角度は全て85度以下であるものを用いるのが好ましい。より好ましくは60度以下のものである。また、その結果は、木口面の仮想境界線と年輪線とがなす鋭角側の交差角度は全て45度以下であるのが好ましい。
【0013】
加えて、本発明の塑性加工木材は、前記木材の気乾比重が0.85以上であるものであり、前記木材における空隙率が低いものである。
ところで、上記気乾比重とは、木材を大気中で乾燥した時の比重で、通常、含水率15%の時の比重で表すものであり、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。数値が大きいほど重く、小さいほど軽いことを表す。
また、耐摩耗性の指標となる摩耗深さ〔mm〕は、JIS−Z―2101−1994に準じて評価するものであり、具体的には、いわゆる摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように木材と摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから
摩耗深さD=(m1−m2)/A・ρ
として計算したものである。
【0014】
なお、上記気乾比重は、最終的には、樹種や、コストや、必要とされる硬度・耐摩耗性等の特性を考慮して設定されるが、気乾比重を大きくするために圧縮率を余りに高くすると木材を構成する繊維が破壊されてクラックが生じ商品性が失われることになるから、高圧縮によりクラックが発生する直前に測定される気乾比重の値が最大値となる。因みに、本発明者らの実験研究によれば、スギ材を用いた場合には約1.2が上記気乾比重の上限であることが判明した。したがって、本発明における気乾比重の最大値は、樹種等によって決定される有限値である。そして、上記木材の気乾比重が0.85以上とは、黒檀と同等以上の硬度・耐摩耗性等の特性を持たせるものである。上記気乾比重が0.85とは、厳格に0.85であることを要求するものではなくて約0.85以上であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1にかかる塑性加工木材は、木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、かつ、前記塑性加工木材の摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にしたものである。
【0016】
したがって、木材の厚み全体が圧縮されて塑性加工され、前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線となす鋭角側の交差角度が45度以下、即ち、加熱圧縮した後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内であるから、早材部における殆どの細胞が圧縮変形され(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなっていて、厚み全体が略均一に圧縮され、物理的性質が安定している。よって、製品間の品質にばらつきが少ない。また、このように厚み全体が略均一に圧縮されていて、製品内部において製品化後の周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきも少なくなることから、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がない。加えて、早材部における殆どの細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合っているうえに、細胞内腔の空隙が極めて少なくなり、更に、それによって晩材部の占有率も高くなっていることから、高い硬度を有し、傷跡や窪みが付き難い。
特に、圧縮されて塑性加工された木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を、全て45度度以下としたものであり、加熱圧縮による年輪線の座屈変形が防止されるものであるから、クラック等の割れが入らない。したがって、高い製品品質を確保することができる。
【0017】
更に、本発明の塑性加工木材によれば、前記木材の気乾比重は0.85以上であり、前記木材における空隙率が低いことから、優れた硬度を確実に得ることができる。具体的には、黒檀と同等以上の硬度・耐摩耗性等の特性を持たせることができる。
また、上記摩耗深さが0.12〔mm〕以下とは、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用することもでき、広範な用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材を製造するための塑性加工木材製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の製造工程を説明するための説明図で、(a)は原材料となる加工前木材の供給の説明図、(b)は加熱圧縮開始状態による説明図、(c)は密閉加熱圧縮開始状態による説明図、(d)は密閉加熱圧縮状態による蒸気圧制御処理の説明図、(e)は密閉冷却状態による説明図、(f)は塑性加工木材の取り出しの説明図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材の場合における木材の木口面、板目面、柾目面を説明するための説明図であり、(a)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材を形成するための原材料となる加工前木材の斜視図、(b)はその木口面を示す正面図、(c)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の斜視図、(d)はその木口面を示す正面図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(a)は事例1の圧縮前後の説明図、(b)は事例2の圧縮前後の説明図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(c)は事例3の圧縮前後の説明図、(d)は事例4の圧縮前後の説明図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材または柾目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(e)は塑性加工木材が板目材である事例5の圧縮前後の説明図、(f)は塑性加工木材が柾目材である事例6の圧縮前後の説明図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が柾目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(g)は事例7の圧縮前後の説明図である。
【図8】図8は図4の実施の形態の事例1乃至図6の実施の形態の事例5に対応する鋭角側の交差角度を示す表図である。
【図9】図9は図6の実施の形態の事例6及び図7の実施の形態の事例7に対応する鋭角側の交差角度を示す表図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が柾目材の場合における木材の木口面、板目面、柾目面を説明するための説明図であり、(a)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材を形成するための原材料となる加工前木材の斜視図、(b)はその木口面を示す正面図、(c)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の斜視図、(d)はその木口面を示す正面図である。
【図11】図11は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の特性を比較例と比較して示す硬度の特性図である。
【図12】図12は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の特性を比較例と比較して示す耐摩耗性の指標となる摩耗深さの特性図である。
【図13】図13は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の特性を比較例と比較して示す気乾比重、硬度、摩耗深さ及び曲げヤング係数の表図である。
【図14】図14(a)は本発明の実施の形態の塑性加工木材を形成するための原材料となる加工前木材を一部拡大して示す電子顕微鏡写真(500倍)の図、図14(b)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の一部を拡大して示す電子顕微鏡写真(500倍)の図である。
【図15】図15は加熱圧縮前の気乾比重に対して1.3倍に圧縮した塑性加工木材の一部を拡大して示す電子顕微鏡写真(50倍)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する部分及び機能を意味するものであるから、ここでは重複する説明を省略する。
まず、本発明の実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2を製造する手順について、主に、図1及び図2を参照して説明する。
【0020】
図1において、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2を製造する塑性加工木材製造装置1は、主として、上プレス盤10Aと下プレス盤10Bとの2分割された構造体によって内部空間ISを形成するプレス盤10と、上プレス盤10Aの所定の上下動の範囲で内部空間ISを密閉状態とする下プレス盤10Bの周縁部10bに対向して上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されるシール部材11と、下プレス盤10Bの側面側から内部空間IS内に連通され、内部空間IS内から水蒸気を排出するための配管口12aを有する配管12、配管12内の蒸気圧を検出する圧力計P2、その下流側のバルブV5,バルブV5に接続されたドレン配管13、内部空間IS内にバルブV6に接続された配管14を介して蒸気を供給する上プレス盤10Aの配管口14a等から構成されている。
【0021】
また、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10B内には、それらを高温の水蒸気を通すことによって所望の温度に昇温するための配管路14b,14cが形成されており、これら配管路14b,14cには蒸気供給側の配管ST1から分岐された配管ST2,ST3,蒸気排出側の配管ET1,ET2がそれぞれ接続されている。そして、蒸気供給側の配管ST1,ST2,ST3の途中にはバルブV1,V2,V3,配管ST1内の蒸気圧を検出する圧力計P1が配設されており、蒸気排出側の配管ET1,ET2は、バルブV4を介してドレン配管13に接続されている。なお、配管ST1に水蒸気を供給するボイラ装置、また、プレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇/下降させ加圧するための油圧機構を含むプレス昇降装置は省略されている。また、本実施の形態では、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内を加熱するためにバルブV6に接続された配管14を用いて高温の水蒸気を導入しているが、この他、高周波加熱、マイクロ波加熱等を用いることもできる。特に、木材に対する高周波加熱は、マイクロ波による誘電過熱よりも、マイクロ波よりも若干周波数の低い高周波で、木材の中心から加熱する方法が好適である。
【0022】
更に、プレス盤10には、上プレス盤10A及び下プレス盤10B内に形成された配管路14b,14cに水蒸気に換えて低温の冷却水を通すことによって所望の温度に冷却する冷却水供給側の配管ST11から分岐された配管ST12,ST13が、上記配管ST2,ST3にそれぞれ接続されている。また、冷却水供給側の配管ST11,ST12,ST13の途中にはバルブV11,V12,V13が配設されている。なお、図1及び図2において、配管ST11に冷却水を供給する冷却水供給装置は省略されている。
【0023】
ここで、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2の原材料となる加工前木材NW1,NW2は、図3(a)及び図3(b)、図10(a)及び図10(b)に示すように、前以って所定の寸法(厚み・幅・長さ)に製材されたもので、木口面(2面)、板目面(木表及び木裏の2面)、柾目面(2面)を有するものである。
【0024】
具体的には、加工前木材NW1は、図3(a)及び図3(b)に示すように、木材の木口面A及び木裏側板目面B1の境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て、通常、0度〜45度の範囲内となる板目材を製材後、選択抽出したものであり、本実施の形態の塑性加工木材PW1は、この板目材である加工前木材NW1を塑性加工したものである。
また、加工前木材NW2は、図10(a)及び図10(b)に示すように、木材の木口面A及び樹心側柾目面C1の境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て、通常、45度〜90度の範囲内となる柾目材を製材後、選択抽出したものであり、本実施の形態の塑性加工木材PW2は、この柾目材である加工前木材NW2を塑性加工したものである。
【0025】
なお、後述するように、加熱圧縮による割れを防止するためには、加工前木材NW2に、木口面A及び樹心側柾目面C1の境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て45度〜85度の範囲内である柾目材を用いている。
ここで、加工前木材NW1,NW2の木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の境界線BL1,BL2と年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θ,δは、木口面Aの全ての年輪線RLと樹心側の木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度θ,δとして検出するものであるが、説明を簡単化するために、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面との角度として扱う。この様に扱っても、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面との交差角度θ,δを、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の年輪線RLと木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度θ,δとしても、誤差は僅かである。
【0026】
そして、このように構成される塑性加工木材製造装置1によって図3に示す加工前木材NW1から塑性加工木材PW1を、また、図10に示す加工前木材NW2から塑性加工木材PW2を製造するにあたり、まず、図2(a)に示すように、塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aが上昇され、予め所定の条件に乾燥させた加工前木材NW1,NW2が、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内に載置される。
なお、本実施の形態においては、図3(a)及び図3(b)に示す木裏側板目面B1側がプレス盤10の下プレス盤10Bに載置される。勿論、本発明を実施する場合には、木表側板目面B2側を下プレス盤10Bに載置することも可能である。
【0027】
一方、柾目材からなる加工前木材NW2の場合には、本実施の形態においては、図10(a)及び図10(b)に示す樹心側柾目面C1側がプレス盤10の下プレス盤10Bに載置される。勿論、本発明を実施する場合には、柾目面C2側を下プレス盤10Bに載置することも可能である。
【0028】
続いて、図2(b)に示すように、固定側の下プレス盤10B上に載置された加工前木材NW1,NW2に対して上プレス盤10Aを所定圧力にて下降させて加工前木材NW1,NW2の上面、即ち、本実施の形態においては、加工前木材NW1の場合には木表側板目面B2、加工前木材NW2の場合には樹心側柾目面C1とは反対側の柾目面C2に当接させる(図3(a)及び図3(b)、図10(a)及び図10(b)参照)。そして、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに所定温度(例えば、110〜160〔℃〕)の水蒸気が通され、内部空間IS内が所定温度(例えば、110〜180〔℃〕)に保持される。
【0029】
次に、図2(c)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aの圧縮圧力が所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に設定され、加工前木材NW1,NW2が上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて所定時間(例えば、5〜40〔min:分〕)加熱圧縮される。なお、このときの圧縮圧力は、割れを防止するために、加工前木材NW1,NW2の温度上昇、即ち、加工前木材NW1,NW2の内部の温度の伝達状態に応じて徐々に大きくするのが望ましく、加熱圧縮の時間も伝達時間を考慮して設定するのが好ましい。
【0030】
更に、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接すると上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されたシール部材11によって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて形成される内部空間ISが密閉状態となる。そして、内部空間ISの密閉状態で上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる圧縮圧力が保持されたまま、所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)まで上昇される。
【0031】
なお、本実施の形態において、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となったときにおける内部空間ISの上下方向の寸法間隔は、加工前木材NW1を塑性加工する場合には、加工前木材NW1が、プレス盤10によって、木口面A及び木裏側板目面B1の境界線を樹心側の境界線BL1側としたとき、年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て25度以下の範囲内である塑性加工木材PW1となるときの厚み方向の仕上がり寸法に設定される。
【0032】
また、加工前木材NW2を塑性加工する場合には、加工前木材NW2が、プレス盤10によって、木口面A及び樹心側柾目面C1の境界線を樹心側の境界線BL2側としたとき年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て45度以下の範囲内である塑性加工木材PW2となるときの厚み方向の仕上がり寸法に予め設定されている。
このため、加工前木材NW1が圧縮されることによる木口面A及び木裏側板目面B1の樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θの変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。また、加工前木材NW2が圧縮されることによる木口面A及び樹心側柾目面C1の樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θの変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。
【0033】
更に、図2(c)に示す内部空間ISの密閉状態で、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの圧縮圧力が維持され、かつ、内部空間ISが所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)のまま、所定時間(例えば、30〜120〔min〕)保持され、この後の冷却圧縮を解除したときに、戻りのない塑性加工木材PW1,PW2を形成するための加熱処理が行われる。このとき、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで密閉状態とされている内部空間ISを介して、加工前木材NW1,NW2の周囲面とその内部とでは高温高圧の蒸気圧が出入り自在となっている。
そして、このように、本実施の形態においては、加工前木材NW1,NW2の表裏面に上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが面接触し、密閉状態の内部空間ISに保持されるため、加工前木材NW1,NW2は、厚み全体が十分に加熱され、効率よく圧縮変形されることになる。
【0034】
次に、図2(d)に示すように、内部空間ISの密閉状態で加熱圧縮処理が行われているときに、蒸気圧制御処理として圧力計P2で内部空間ISの蒸気圧が検出され、バルブV5が適宜、開閉される。これにより、配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出されることで、特に、加工前木材NW1,NW2の外層部分の含水率に基づく余分な内部空間IS内の水分が除去され、内部空間IS内が所定の蒸気圧となるように調節される。また、必要に応じて、バルブV6に接続された配管14、配管口14a(図1)を介して内部空間ISに所定の蒸気圧を供給することができる。
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる加熱圧縮から冷却圧縮へと移行する直前に、蒸気圧制御処理としてバルブV5が開状態とされることで配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出される。これにより、木材の加熱圧縮処理の定着、所謂、木材の固定化がより促進されることとなる。
【0035】
続いて、図2(e)に示すように、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに常温の冷却水が通されることによって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが常温前後まで冷却され、材料によって異なる所定時間(例えば、10〜120〔min〕)保持される。なお、このときの固定側の下プレス盤10Bに対する上プレス盤10Aの圧縮圧力は、加熱圧縮の際の圧力と同じ所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に保持されたまま、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが冷却される。
そして、最後に、図2(f)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇させ、内部空間ISから仕上がり品である塑性加工木材PW1,PW2が取出されることで一連の処理工程が終了する。
なお、このように、本実施の形態においては、蒸気圧を制御し、徐々に解圧して内部蒸気圧を開放し、また、冷却によって木材内の水蒸気圧を下げ定着されるので、冷却圧縮を解除したときの膨らみ変形やパンクと呼ばれる表面割れのない塑性加工木材PW1,PW2を形成できる。即ち、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、圧縮解除後に膨らみ変形や表面割れを生じることがなくて安定した品質が確保されている。
【0036】
本実施の形態では、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bを用いて圧縮し、定着して塑性加工木材PW1,PW2を得ているが、本発明を実施する場合には、通常の電子レンジが使用するマイクロ波の周波数帯域よりも若干周波数の低い高周波で誘電加熱し、加工前木材NW1,NW2を加熱し、圧縮し、定着しても、塑性加工木材PW1,PW2を得ることができる。
【0037】
次に、上述のようにして形成された本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2について図3乃至図13を参照して説明する。
なお、木材の木口面Aの年輪線RLは、図3及び図10に示すように、その年輪線RLの中心側、即ち、樹心側の境界線BL1,BL2との交差付近で曲線状であることが多く、また、加工前木材NW1の木裏側板目面B1側、加工前木材NW2の樹心側柾目面C1側が載置された下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを下降させ、加熱圧縮を行った場合、通常、木口面Aの下方の年輪線RL(本実施の形態の塑性加工木材PW1においては、木裏側板目面B1側に近い年輪線RL、本実施の形態の塑性加工木PW2においては、樹心側柾目面C1に近い年輪線RL)ほど、その屈曲変形や座屈変形が大きくなり、そのことによって測定のばらつきが予想されることから、本来は、鋭角側の交差角度θ,δは、境界線BL1,BL2から木口面Aの年輪線RLに沿って約1〜2mm離れた樹心側の年輪線RL上の点に対して接線を引き、当該接線と境界線BL1,BL2とがなす角度を測定して得た値とすべきである。
【0038】
即ち、正確には、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または樹心側の柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または樹心側の柾目面C1に沿って描いた仮想境界線となす鋭角側の交差角度が交差角度θ,δとすべきであるが、説明を単純化するために、以下、樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θ,δと表現することとする。
【0039】
ここで、本発明者らは、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって加工木材NW1の板目面B1,B2に対して垂直方向に加熱圧縮を加えていくと、木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが徐々に小さくなっていくことに着目し、一定以上の加熱圧縮を加えると、図11乃至図13に示すように、木材の硬度や耐摩耗性の指標となる摩耗深さ等の特性値のばらつきが少なくなり物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなり傷跡や窪みが付き難くなるのを見出した。そして、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δを測定したところ、図4乃至図6(e)及び図8に実施例として示すように、板目材からなる塑性加工木材PW1の鋭角側の交差角度δは全て0〜25度の範囲内にあった。
【0040】
なお、図4乃至図6(e)及び図8に示す板目材からなる実施例は、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの塑性加工木材PW1である。また、鋭角側の交差角度δが全て0〜25度とは、図8に示すように、通常、市場に流通している板目材における鋭角側の交差角度θが約0〜45度であり、それに圧縮を加えていったときの、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなるときの鋭角側の交差角度δの値を実験研究から求めたもので、圧縮前の交差角度θに対して相対的に決定されたものである。
【0041】
そして、図8に示すように、このとき、木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす圧縮後の鋭角側の交差角度δは、それに対応する圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して、木材全体の角度の算術平均で0.5倍以下となっている。即ち、(加熱圧縮後の交差角度δ)/(それに対応する加熱圧縮前の交差角度θ)が木材全体の算術平均で1/2以下となっている。この値は、Tan-1θとTan-1δの変化に概略比例するが、実用的には、気乾比重の変化にも近い変化となる。
【0042】
また、本発明者らは、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって加工木材NW2の柾目面C1,C2に対して垂直方向に加熱圧縮を加えていくと、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが徐々に小さくなっていくことに着目し、一定以上の加熱圧縮を加えると、図11乃至図13に示すように、木材の硬度や耐摩耗性の指標となる摩耗深さ等の特性値のばらつきが少なくなり物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなり傷跡や窪みが付き難くなるのを見出した。そして、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの鋭角側の交差角度を測定したところ、図6(f)及び図7及び図9に実施例として示すように、柾目材の塑性加工木材PW2の鋭角側の交差角度δは全て15〜45度の範囲内にあった。
【0043】
なお、図6(f)及び図7及び図9に示す実施例も、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの塑性加工木材PW2である。また、塑性加工木材PW2の鋭角側の交差角度δが15〜45度とは、図9に示すように、通常、市場に流通している柾目材における圧縮する前の柾目材からなる加工前木材NW2の鋭角側の交差角度θが約45〜90度であり、それに圧縮を加えていったときの、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなるときの鋭角側の交差角度θの値を実験研究から求めたもので、圧縮前の交差角度θに対して相対的に決定されたものである。
そして、図9に示すように、このとき、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす圧縮後の鋭角側の交差角度δは、それに対応する圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して、木材全体の算術平均で0.5倍以下となっている。即ち、(加熱圧縮後の交差角度δ)/(それに対応する加熱圧縮前の交差角度θ)が木材全体の算術平均で1/2以下となっている。この値は、Tan-1θとTan-1δの変化に概略比例するが、実用的には、気乾比重の変化にも近い変化となる。
【0044】
ここで、本発明者らの実験によると、板目材からなる木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが、圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して木材全体の算術平均で0.5以下となっているものは、その気乾比重が2倍以上になっていることが確認された。また、柾目材からなる樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす圧縮後の鋭角側の交差角度δも、圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して、木材全体の算術平均で0.5倍以下となっているものは、その気乾比重が2倍以上になっていることが確認された(図13参照)。
そこで、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、加工前木材NW1,NW2に対して加えた外力によって、加工前木材NW1,NW2の厚みが加熱圧縮されて塑性加工し、加熱圧縮した木材の気乾比重を加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上とし、かつ、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を45度以下の範囲内としたものである。
【0045】
ところで、本発明者らの実験研究によると、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが85度より大きい加工前木材NW2を用いて、塑性加工木材PW2を製造したところ、塑性加工木材PW2において年輪線RLの座屈変形が大きくなり、場合によっては割れが生じることもあった。
【0046】
このため、柾目材からなる塑性加工木材PW2の原材料となる加工前木材NW2には、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て85度以下であるものを用いるのが好ましい。即ち、塑性加工木材PW2は、圧縮前の樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θを全て85度以下とすることが好ましい。これにより、年輪線の座屈変形が防止されて、加熱圧縮による割れが防止されるから、塑性加工木材PW2において、高い品質を確保することができる。さらには、圧縮前の交差角度が60度以下のものであれば殆ど割れ(クラック)が生じることがないためより好ましい。
【0047】
同様に、板目材からなる塑性加工木材PW1の原材料となる加工前木材NW1には木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て0〜45度以下であるものを用いるのが好ましい。即ち、塑性加工木材PW1は、圧縮前の木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θを全て0〜45度とすることが好ましい。これにより、年輪線の座屈変形が防止されて、加熱圧縮による割れがなくなるから、塑性加工木材PW1においても、高い品質を確保することができる。
【0048】
即ち、木材の板目材と柾目材とを特定しなければ、また、板目材にも部分的にみれば、柾目材の構造を有することからすれば、木材の加工前木材NW1,NW2には、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て85度以下であるものを用いるのが好ましい。より好ましくは60度以下のものである。
そして、塑性加工木材PW1,PW2は、木裏側板目面B1及び木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の木口面Aの樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て45度以下であるのが好ましい。
【0049】
なお、本実施の形態においては、塑性加工木材PW1,PW2を形成する加工前木材NW1,NW2に、加工前の気乾比重が平均約0.36であるスギ材が用いられており、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2はスギ材からなるものである。スギ材は一般的に入手しやすく加工しやすいものであるから、塑性加工木材PW1,PW2としてスギ材を用いた場合には、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることが可能になり、また、スギ材の欠点を補うことができる。殊に、オビスギと称されるスギ材は、短期間で成長するもので大量入手が容易なため、最適である。また、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、塑性加工木材PW1,PW2としてスギ材を用いた場合には、環境保全に貢献することができる。
【0050】
勿論、本発明を実施する場合には、スギ材に限定されるものではなく、例えば、マツ、ヒノキ、イエローポプラ等を用いることも可能である。マツやヒノキは、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができ、加工も施しやすいため、スギ材を用いた場合と同様の効果が得られる。また、イエローポプラ(学名:Liriodendron tulipifera、別名:ハンテンボク、チューリップポプラ、キャナリーホワイトウッド、ユリノキ)もスギと同様に入手しやすく加工を施しやすいものであることから、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることができる。特に、イエローポプラは元来の色調が明るいため、材料によっては変色するものもあるが、一般に、高圧縮による濃色化、黒色化を抑制することができ、良好な外観を保持することが可能である。
また、塑性加工木材PW1,PW2を形成する加工前木材NW1,NW2には、辺材(白太、白身)を用いるのが好適である。これにより、圧縮したときのヤ二の表出量を抑制することができるし、高圧縮による濃色化を抑えることもでき、良好な外観を保持することが可能になる。
【0051】
続いて、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2の物性について、図11乃至図15を参照して、比較例と比較しながら詳しく説明する。なお、図11及び図12の比較例は、図13の表図に示した比較例と対応するものであり、図13の表図に示した本実施の形態の気乾比重、硬度、摩耗深さ、曲げヤング係数の各値は、図4乃至図7に示した実施例のように、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめたときの塑性加工木材PW1,PW2における平均値を示したものである。
ここで、図11及び図13において、硬度〔N/mm2〕は、JIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、木材の表面(本実施の形態の塑性加工木材PW1においては、板目面B1,B2側、本実施の形態の塑性加工木材PW2においては、柾目面C1,C2側)に直径10〔mm〕の鋼球を平均圧入速度0.5〔mm/min〕で圧入して、圧入深さが0.32〔mm〕になるときの荷重P〔N〕を測定し、下記の式(1)から算出したものである。
硬度H=P/10・・・(1)
【0052】
そして、上記硬度が25〔N/mm2〕以上とは、本発明者らの実験研究によって、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の硬度が15〔N/mm2〕くらいであることが判明していることから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い表面硬度が要求される床材等に利用するにも十分な硬度であり、広範な用途に使用可能であることを意味する。なお、上記25〔N/mm2〕とは、厳格に25〔N/mm2〕であることを要求するものではなくて約25〔N/mm2〕であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0053】
また、図12及び図13の耐摩耗性の指標となる摩耗深さ〔mm〕は、JIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、いわゆる摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように木材と摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから下記の式(2)によって算出したものである。
摩耗深さD=(m1−m2)/A・ρ・・・(2)
更に、図13の剛性の指標となる曲げヤング係数(N/mm2)は、JIS−Z―2101に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、2点荷重方式で、次式で測定計算したものである。
Eb=ΔP・L3/48・I・Δy
ここに、
Eb:曲げヤング係数〔N/mm2〕(Kgf/cm2)、
ΔP:比例域における上限荷重と下限荷重との差〔N〕(kgf)、
Δy:ΔPに対応するスパン中央のたわみ(mm)、
I:断面2次モーメントI=bh3/12(mm4)、
L:スパン(mm)、
b:試験体の幅(mm)、
h:試験体の高さ(mm)、
である。
【0054】
そして、上記摩耗深さが0.12〔mm〕以下とは、本発明者らの実験研究によって、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の摩耗深さが0.14〔mm〕くらいであることが判明しているから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用することもでき、広範な用途に使用可能であることを意味する。なお、上記0.12〔mm〕も、厳格に0.12〔mm〕であることを要求するものではなくて約0.12〔mm〕であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0055】
図11乃至図13に示すように、比較例と比較すると、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、硬度〔N/mm2〕及び曲げヤング係数〔N/mm2〕の値が極めて大きくなっており、また、摩耗深さ〔mm〕においても、その値がとても小さくなっている。
即ち、図11から、塑性加工によって、加熱圧縮した木材の気乾比重を加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上とし、かつ、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を45度以下の範囲内とすることで、優れた硬度、耐摩耗性及び剛性が得られ、傷跡や窪みが付き難くなることが分かる。
【0056】
殊に、図11に示すように、硬度〔N/mm2〕は、比較例と比較して著しく高くなっており、しかも、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の硬度が15〔N/mm2〕くらいであることから、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い硬度が要求される床材等に利用するにも十分な硬度を有していることが分かる。
また、図12に示すように、摩耗深さ〔mm〕においても、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の摩耗深さが0.14〔mm〕くらいであることから、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用するにも十分な耐摩耗性を有していることが分かる。
このため、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、集中荷重や衝撃荷重を受けやすい床材等に利用しても傷跡や窪みが付き難く、広範な用途に使用可能である。
【0057】
そして、図11及び図12に示すように、比較例では、硬度〔N/mm2〕及び摩耗深さ〔mm〕の値に大きなばらつきが見られるのに対し、加熱圧縮した木材の気乾比重を加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上とし、かつ、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を45度以下の範囲内と本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2となるように塑性加した本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2では、その値のばらつきが小さくなっている。即ち、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少ない。
【0058】
これは、木材の早材部における細胞壁の厚さが薄く、また、早材部の空隙率が大きいうえに、製材された木材(加工前木材NW1,NW2)によって年輪(早材部と晩材部)の配列状態が異なることに起因して、比較例においては、細胞の圧縮変形が局部的に集中して厚み全体が平均的に圧縮されていなかったためと推定されるところ、本実施の形態の塑性加工木材PW,PW2においては、早材部の殆どの細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合い、早材部の(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなって、厚み全体が均一に圧縮されたためと推定される。
【0059】
なお、参考までに、図14(a)において、加工前木材NW1,NW2の顕微鏡写真(SEM、500倍)を、また、図14(b)において、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2の顕微鏡写真(SEM、500倍)を示す。図14から、圧縮によって、主に、早材部の細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合い、(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなることが分かる。更に、参考までに、図15において、加熱圧縮前の気乾比重に対して1.3倍に圧縮した塑性加工木材の顕微鏡写真(SEM、50倍)を示す。図15から、加熱圧縮前の気乾比重に対して1.3倍にしか圧縮していない塑性加工木材においては、圧縮変形が局部的に集中していて厚み全体が平均的に圧縮されていないことが分かる。
【0060】
そして、このことは、比較例では、製品化後の周囲環境条件の変化によって歪みが発生することがあったが、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2では、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がなかったことからも裏付けされる。即ち、比較例においては、圧縮による細胞変形が局部的に集中しているために、製品内部において周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきがあり、それ故、周囲環境条件の変化によって歪みが発生することがあったが、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2においては、厚み全体が均一に圧縮されているために、製品内部における周囲環境条件の変化による寸法変化率にばらつきがなく歪みが発生しなかったと考えられる。
【0061】
また、硬度が比較例と比較して顕著に高くなっているのは、図14(b)に示すように、圧縮による晩材部の細胞変形は僅かではあるものの、表層部を含む早材部の殆どの細胞が圧縮変形されて、細胞壁が重なり合ったため、また、(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなったため、更には、それにより元来細胞壁が厚く空隙が少ないために硬くなっている晩材部が表層部において顕在化した、即ち、晩材部の占有率が高くなったためと考えられる。
殊に、図13に示すように、本実施の形態の塑性加工木材PW1によれば、その気乾比重が0.85以上となっていて空隙率が低くなっていることから、黒檀の特性と同様に優れた硬度、耐摩耗性、剛性を確実に得ることができる。
【0062】
因みに、上記気乾比重とは、木材を大気中で乾燥した時の比重で、通常、含水率15%の時の比重で表すものであり、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。数値が大きいほど重く、小さいほど軽いことを表す。例えば、自然物の黒檀は0.85〜1.04、紫檀は1.03程度で、国産或いは国内でよく使用される材木のスギは0.36、ヒノキは0.44、カラマツは0.50、ドドマツは0.44、 キリは0.25、クリは0.60、ブナは0.65、ナラは0.58、カバは0.60、イタジイは0.61、カリン0.61、アピトンは0.72、ファルカタは0.27、マラパパイヤは0.50、グメリナは0.45、ゴムは0.64、イエローポプラは0.45、イタリアポプラは0.35、ユーカリは0.75、カユプティは0.75、アカシアマンギウムは0.63程度である。
【0063】
上記気乾比重は、最終的には、樹種や、コストや、必要とされる硬度・耐摩耗性等の特性を考慮して設定されるが、気乾比重を大きくするために圧縮率を余りに高くすると木材を構成する繊維が破壊されてクラックが生じ商品性が失われることになるから、高圧縮によりクラックが発生する直前に測定される気乾比重の値が最大値となる。因みに、本発明者らの実験研究によれば、スギ材を用いた場合には約1.2が上記気乾比重の上限であることが判明した。したがって、本発明における気乾比重の最大値は、樹種等によって決定される有限値である。そして、上記木材の気乾比重が0.85以上とは、黒檀と同等以上の硬度・耐摩耗性等の特性を持たせるものである。上記気乾比重が0.85とは、厳格に0.85であることを要求するものではなくて約0.85以上であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0064】
このように、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、加工前木材NW1,NW2に対して加えた外力によって、加工前木材NW1,NW2の厚みが加熱圧縮されて塑性加工し、加熱圧縮した塑性加工木材PW1,PW2の気乾比重を加工前木材NW1,NW2の気乾比重の2倍以上とし、かつ、塑性加工木材PW1,PW2の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度δが45度以下の範囲内にあるものである。
特に、実施例の塑性加工木材PW1は、木材の板目面B1,B2に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮されて塑性加工され、木材の木口面A及び木裏側板目面B1の樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て0〜25度の範囲内であるものである。
また、実施例の塑性加工木材PW2は、木材の柾目面C1,C2に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮されて塑性加工され、塑性加工木材PW2の木口面A及び樹心側柾目面C1の樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て10度〜45度の範囲内であるものである。
【0065】
したがって、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て45度以下の範囲内であるものであり、物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少ない。また、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がない。更に、高い硬度を有し傷跡や窪みが付き難くなっている。
なお、上記実施の形態では、塑性加工木材PW1,PW2について説明したが、塑性加工木材PW1,PW2の製造過程は、塑性加工木材の製造方法の発明の実施の形態として捉えることができる。
【0066】
殊に、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、その気乾比重は0.85以上であり、木材における空隙率が低くなっていることから、確実に黒檀に似た優れた硬度を得ることができる。
【0067】
また、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、JIS−Z―2101−1994に規定された硬度試験による硬度が25〔N/mm2〕以上であり、通常の床材として利用されている広葉樹の硬度より高い値であるから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い表面硬度が要求される床材等に利用するのにも十分な硬度を有している。
加えて、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によればJIS−Z―2101−1994に規定された耐摩耗試験による摩耗深さが0.12〔mm〕以下であり、通常の床材に利用されている広葉樹の摩耗深さより低い値であるから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用するのにも十分な耐摩耗性を有している。
故に、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば広範な用途に使用可能であり、例えば、床材、腰板材、屋内家具材、表面塗装として使用する住宅用外装材等、学童机、テーブルの天盤、扉等に利用できる。
【0068】
そして、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、複数に分割された構造体としての上プレス盤10A、下プレス盤10Bによって内部空間ISを形成し、内部空間ISの容積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤10を用いて、内部空間IS内に載置される塑性加工木材PW1の原材料である加工前木材NW1をその板目面B1,B2に対して、または、塑性加工木材PW2の原材料である加工前木材NW2をその柾目面C1,C2に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした内部空間内ISに保持し、保持された内部空間IS内の蒸気圧を制御して固定したのち冷却してなるものである。即ち、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、効率的に圧縮変形されてなるものであり、圧縮解除後の戻り、膨らみ変形、パンクと呼ばれる表面割れが防止されている。故に、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、高い品質を確保することができ、また、生産性が良好となる。
【0069】
ところで、本発明を実施する場合には、塑性加工木材PW1,PW2を形成する加工前木材NW1,NW2として、間伐材、風害・水害・雪害・森林火災・凍害・虫害等の自然災害によって倒れたり芯割れを起こしたりして丸太の状態では使えなくなった傷害木材、端材等を用いることもできる。これによって、低コスト化を図ることができ、また、環境美化にも貢献することができる。
【0070】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0071】
PW1,PW2 塑性加工木材
NW1,NW2 加工前木材
RL 年輪線
BL1,BL2 境界線
IS 内部空間
10 プレス盤
10A 上プレス盤
10B 下プレス盤
11 シール部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも厚み方向に圧縮が加えられた塑性加工木材に関するもので、特に、製品間の品質のばらつきを少なくして製造できる塑性加工木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の樹種として、例えば、スギ材のように低密度で硬度が不足しているものにあっては、圧縮して高密度化すれば実用に耐え得る硬度が得られることが知られている。
そして、これに関するものとして、本出願人は先に特許文献1の発明、即ち、木材の厚み全体を圧縮して圧密化した表層材を所定の断面形状の溝状を形成した内層材に接着することによって、床、腰板、テーブル等の利用に供することのできる積層塑性加工木材について特許出願をした。また、本出願人は、従来から、含水率を調整しながらプレス盤等により木材の厚み全体を圧密化する技術を確立してきた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−301885号公報
【特許文献2】特開2003−53705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これら厚み全体が圧密化された圧縮材において、同じ圧縮率で圧密化されていても一義的に所望の硬度となっているわけではなかった。即ち、同じように圧縮が加えられている場合であっても、物性が一定でなくて、製品間の品質にばらつきが生じてしまうこともある。
これは、木材には一般的に年輪線の間を構成している早材部と年輪線を構成している晩材部とが存在しているところ、早材部における細胞壁の厚さが薄いことや、早材部における(細胞内腔の)空隙率が大きいこと、また、製材された木材によって年輪(早材部と晩材部)の配列状態が異なることに起因して、圧縮変形が局部的に集中してしまい、厚み全体が均一に圧縮されていないことがあったためと思われる。
【0005】
殊に、複数に分割されたプレス盤等を用いて面接触による圧縮を行った場合、この局部的な圧縮変形が、荷重がかかりやすい内層部に発生することが多いためか、圧縮度を高めても所望の表面硬度が得られないことが多く、また、表層部において局部的な圧縮変形を発生させることが困難であることから、圧縮度合いに見合うだけの傷跡や窪みが付き難いという効果が得難かった。
更に、厚み全体が均一に圧縮されてないことによって製品内において周囲の環境条件の変化による寸法変化率にばらつきが生じるため、製品化後の周囲の環境条件の変化によって歪みが発生することがあった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少なく、また、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がなく、更に、高い硬度を有し傷跡や窪みが付き難い塑性加工木材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の塑性加工木材は、木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、かつ、前記塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから
摩耗深さ=(m1−m2)/A・ρ
として算出した摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にあるものである。
【0008】
ところで、上記木材に対して加熱圧縮とは、木材の板目面または柾目面に対して加えた外力によって、木材の木口面に対する並行方向に加熱圧縮して、木口面の面積を小さくすることを意味し、上記板目面とは、木材の繊維方向(木目の長さ方向)と並行にあって年輪線の接線方向に切断された面のことであり、また、上記木口面とは、木材の繊維方向に対して交差する方向に切断された面、即ち、木材の繊維方向に対して垂直または斜めに切断された面のことである。なお、上記柾目面とは、木材の繊維方向と並行にあって年輪線の放射方向(半径方向)に切断された面のことであり、ここでは、柾目と板目の中間の追柾面をも柾目に含むものとする。
そして、上記厚み全体が圧縮される塑性加工は、例えば、木材の含水率を厚み全体で略均一となるように設定し、複数に分割されたプレス盤等を用いて所定の条件で加熱圧縮することによって形成することができる。なお、このときの所定の条件となる温度、圧力、時間、圧縮スピード等については、樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって決定される。
【0009】
ここで、上記塑性加工木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内とは、加熱圧縮した後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材のの裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内を意味し、本発明者らが、板目材または柾目材からなる圧縮前の木材を圧縮していくと当該交差角度が次第に小さくなることに着目し、鋭意実験研究を重ねた結果、硬度や耐摩耗性等の特性値のばらつきが少なくなって物性的に安定し、また、製品化後における周囲の環境条件の変化による歪みの発生がなくなり、更に、硬度が顕著に高くなり傷跡や窪みが付き難くなるのは、加熱圧縮前の前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が85度以下の範囲内にあるとき、特に、加熱圧縮後の塑性加工木材の年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内であることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。
【0010】
そして、上記木口面の年輪線とは、木口面から見て、質が緻密に形成されている線状の部分を意味し、木口面に表れる木目のことである。更に、上記85度、45度とは、厳格に85度、45度であることを要求するものではなくて、木材の種類、木質により、約85度、約45度程度であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0011】
特に、上記木材の木口面の全年輪線と前記木口面の樹心側の板目面または柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が85度、45度以下の範囲内とは、本発明者らが、鋭意実験研究を重ねた結果、年輪線の半径方向(放射方向)に製材され、圧縮前の状態で、通常、前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面の樹心側の柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が45度〜90度である圧縮前の柾目材において、加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上になるよう加熱圧縮を行った場合、圧縮前の交差角度が45度〜85度のものでは割れ(クラック)が生じにくくいが、圧縮前の交差角度が85度より大きいものでは年輪線の座屈変形が大きく、場合によっては、割れが生じて商品価値が失われることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。なお、圧縮前の交差角度が60度以下のものであれば殆ど割れ(クラック)が生じることがないためより好ましい。
【0012】
なお、一般的に、年輪の半径方向(放射方向)に製材されて市場に流通している柾目材は、圧縮前の状態で、前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の柾目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度が全て45度〜90度であるから、圧縮後の木材の交差角度の最大値は、通常、15度〜45度となる。また、板目材からなる塑性加工木材の原材料となる加工前木材には前記木口面の樹心側の板目面から2mm以下の範囲に前記樹心側の板目面に沿って描いた仮想境界線と年輪線とがなす鋭角側の交差角度が全て0〜45度以下であるものを用いるのが好ましいことから、木材の板目材と柾目材とを特定しなければ、また、木材の加工前木材の仮想境界線と木口面の年輪線とがなす鋭角側の交差角度は全て85度以下であるものを用いるのが好ましい。より好ましくは60度以下のものである。また、その結果は、木口面の仮想境界線と年輪線とがなす鋭角側の交差角度は全て45度以下であるのが好ましい。
【0013】
加えて、本発明の塑性加工木材は、前記木材の気乾比重が0.85以上であるものであり、前記木材における空隙率が低いものである。
ところで、上記気乾比重とは、木材を大気中で乾燥した時の比重で、通常、含水率15%の時の比重で表すものであり、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。数値が大きいほど重く、小さいほど軽いことを表す。
また、耐摩耗性の指標となる摩耗深さ〔mm〕は、JIS−Z―2101−1994に準じて評価するものであり、具体的には、いわゆる摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように木材と摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから
摩耗深さD=(m1−m2)/A・ρ
として計算したものである。
【0014】
なお、上記気乾比重は、最終的には、樹種や、コストや、必要とされる硬度・耐摩耗性等の特性を考慮して設定されるが、気乾比重を大きくするために圧縮率を余りに高くすると木材を構成する繊維が破壊されてクラックが生じ商品性が失われることになるから、高圧縮によりクラックが発生する直前に測定される気乾比重の値が最大値となる。因みに、本発明者らの実験研究によれば、スギ材を用いた場合には約1.2が上記気乾比重の上限であることが判明した。したがって、本発明における気乾比重の最大値は、樹種等によって決定される有限値である。そして、上記木材の気乾比重が0.85以上とは、黒檀と同等以上の硬度・耐摩耗性等の特性を持たせるものである。上記気乾比重が0.85とは、厳格に0.85であることを要求するものではなくて約0.85以上であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1にかかる塑性加工木材は、木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、かつ、前記塑性加工木材の摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にしたものである。
【0016】
したがって、木材の厚み全体が圧縮されて塑性加工され、前記木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線となす鋭角側の交差角度が45度以下、即ち、加熱圧縮した後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内であるから、早材部における殆どの細胞が圧縮変形され(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなっていて、厚み全体が略均一に圧縮され、物理的性質が安定している。よって、製品間の品質にばらつきが少ない。また、このように厚み全体が略均一に圧縮されていて、製品内部において製品化後の周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきも少なくなることから、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がない。加えて、早材部における殆どの細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合っているうえに、細胞内腔の空隙が極めて少なくなり、更に、それによって晩材部の占有率も高くなっていることから、高い硬度を有し、傷跡や窪みが付き難い。
特に、圧縮されて塑性加工された木材の木口面の全年輪線と前記木口面からみた樹心側の板目面または柾目面に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を、全て45度度以下としたものであり、加熱圧縮による年輪線の座屈変形が防止されるものであるから、クラック等の割れが入らない。したがって、高い製品品質を確保することができる。
【0017】
更に、本発明の塑性加工木材によれば、前記木材の気乾比重は0.85以上であり、前記木材における空隙率が低いことから、優れた硬度を確実に得ることができる。具体的には、黒檀と同等以上の硬度・耐摩耗性等の特性を持たせることができる。
また、上記摩耗深さが0.12〔mm〕以下とは、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用することもでき、広範な用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材を製造するための塑性加工木材製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の製造工程を説明するための説明図で、(a)は原材料となる加工前木材の供給の説明図、(b)は加熱圧縮開始状態による説明図、(c)は密閉加熱圧縮開始状態による説明図、(d)は密閉加熱圧縮状態による蒸気圧制御処理の説明図、(e)は密閉冷却状態による説明図、(f)は塑性加工木材の取り出しの説明図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材の場合における木材の木口面、板目面、柾目面を説明するための説明図であり、(a)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材を形成するための原材料となる加工前木材の斜視図、(b)はその木口面を示す正面図、(c)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の斜視図、(d)はその木口面を示す正面図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(a)は事例1の圧縮前後の説明図、(b)は事例2の圧縮前後の説明図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(c)は事例3の圧縮前後の説明図、(d)は事例4の圧縮前後の説明図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が板目材または柾目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(e)は塑性加工木材が板目材である事例5の圧縮前後の説明図、(f)は塑性加工木材が柾目材である事例6の圧縮前後の説明図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が柾目材の場合における本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の実施例を示す説明図で、(g)は事例7の圧縮前後の説明図である。
【図8】図8は図4の実施の形態の事例1乃至図6の実施の形態の事例5に対応する鋭角側の交差角度を示す表図である。
【図9】図9は図6の実施の形態の事例6及び図7の実施の形態の事例7に対応する鋭角側の交差角度を示す表図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材が柾目材の場合における木材の木口面、板目面、柾目面を説明するための説明図であり、(a)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材を形成するための原材料となる加工前木材の斜視図、(b)はその木口面を示す正面図、(c)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の斜視図、(d)はその木口面を示す正面図である。
【図11】図11は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の特性を比較例と比較して示す硬度の特性図である。
【図12】図12は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の特性を比較例と比較して示す耐摩耗性の指標となる摩耗深さの特性図である。
【図13】図13は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の特性を比較例と比較して示す気乾比重、硬度、摩耗深さ及び曲げヤング係数の表図である。
【図14】図14(a)は本発明の実施の形態の塑性加工木材を形成するための原材料となる加工前木材を一部拡大して示す電子顕微鏡写真(500倍)の図、図14(b)は本発明の実施の形態に係る塑性加工木材の一部を拡大して示す電子顕微鏡写真(500倍)の図である。
【図15】図15は加熱圧縮前の気乾比重に対して1.3倍に圧縮した塑性加工木材の一部を拡大して示す電子顕微鏡写真(50倍)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する部分及び機能を意味するものであるから、ここでは重複する説明を省略する。
まず、本発明の実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2を製造する手順について、主に、図1及び図2を参照して説明する。
【0020】
図1において、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2を製造する塑性加工木材製造装置1は、主として、上プレス盤10Aと下プレス盤10Bとの2分割された構造体によって内部空間ISを形成するプレス盤10と、上プレス盤10Aの所定の上下動の範囲で内部空間ISを密閉状態とする下プレス盤10Bの周縁部10bに対向して上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されるシール部材11と、下プレス盤10Bの側面側から内部空間IS内に連通され、内部空間IS内から水蒸気を排出するための配管口12aを有する配管12、配管12内の蒸気圧を検出する圧力計P2、その下流側のバルブV5,バルブV5に接続されたドレン配管13、内部空間IS内にバルブV6に接続された配管14を介して蒸気を供給する上プレス盤10Aの配管口14a等から構成されている。
【0021】
また、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10B内には、それらを高温の水蒸気を通すことによって所望の温度に昇温するための配管路14b,14cが形成されており、これら配管路14b,14cには蒸気供給側の配管ST1から分岐された配管ST2,ST3,蒸気排出側の配管ET1,ET2がそれぞれ接続されている。そして、蒸気供給側の配管ST1,ST2,ST3の途中にはバルブV1,V2,V3,配管ST1内の蒸気圧を検出する圧力計P1が配設されており、蒸気排出側の配管ET1,ET2は、バルブV4を介してドレン配管13に接続されている。なお、配管ST1に水蒸気を供給するボイラ装置、また、プレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇/下降させ加圧するための油圧機構を含むプレス昇降装置は省略されている。また、本実施の形態では、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内を加熱するためにバルブV6に接続された配管14を用いて高温の水蒸気を導入しているが、この他、高周波加熱、マイクロ波加熱等を用いることもできる。特に、木材に対する高周波加熱は、マイクロ波による誘電過熱よりも、マイクロ波よりも若干周波数の低い高周波で、木材の中心から加熱する方法が好適である。
【0022】
更に、プレス盤10には、上プレス盤10A及び下プレス盤10B内に形成された配管路14b,14cに水蒸気に換えて低温の冷却水を通すことによって所望の温度に冷却する冷却水供給側の配管ST11から分岐された配管ST12,ST13が、上記配管ST2,ST3にそれぞれ接続されている。また、冷却水供給側の配管ST11,ST12,ST13の途中にはバルブV11,V12,V13が配設されている。なお、図1及び図2において、配管ST11に冷却水を供給する冷却水供給装置は省略されている。
【0023】
ここで、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2の原材料となる加工前木材NW1,NW2は、図3(a)及び図3(b)、図10(a)及び図10(b)に示すように、前以って所定の寸法(厚み・幅・長さ)に製材されたもので、木口面(2面)、板目面(木表及び木裏の2面)、柾目面(2面)を有するものである。
【0024】
具体的には、加工前木材NW1は、図3(a)及び図3(b)に示すように、木材の木口面A及び木裏側板目面B1の境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て、通常、0度〜45度の範囲内となる板目材を製材後、選択抽出したものであり、本実施の形態の塑性加工木材PW1は、この板目材である加工前木材NW1を塑性加工したものである。
また、加工前木材NW2は、図10(a)及び図10(b)に示すように、木材の木口面A及び樹心側柾目面C1の境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て、通常、45度〜90度の範囲内となる柾目材を製材後、選択抽出したものであり、本実施の形態の塑性加工木材PW2は、この柾目材である加工前木材NW2を塑性加工したものである。
【0025】
なお、後述するように、加熱圧縮による割れを防止するためには、加工前木材NW2に、木口面A及び樹心側柾目面C1の境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て45度〜85度の範囲内である柾目材を用いている。
ここで、加工前木材NW1,NW2の木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の境界線BL1,BL2と年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θ,δは、木口面Aの全ての年輪線RLと樹心側の木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度θ,δとして検出するものであるが、説明を簡単化するために、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面との角度として扱う。この様に扱っても、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面との交差角度θ,δを、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の年輪線RLと木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の面から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度θ,δとしても、誤差は僅かである。
【0026】
そして、このように構成される塑性加工木材製造装置1によって図3に示す加工前木材NW1から塑性加工木材PW1を、また、図10に示す加工前木材NW2から塑性加工木材PW2を製造するにあたり、まず、図2(a)に示すように、塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aが上昇され、予め所定の条件に乾燥させた加工前木材NW1,NW2が、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内に載置される。
なお、本実施の形態においては、図3(a)及び図3(b)に示す木裏側板目面B1側がプレス盤10の下プレス盤10Bに載置される。勿論、本発明を実施する場合には、木表側板目面B2側を下プレス盤10Bに載置することも可能である。
【0027】
一方、柾目材からなる加工前木材NW2の場合には、本実施の形態においては、図10(a)及び図10(b)に示す樹心側柾目面C1側がプレス盤10の下プレス盤10Bに載置される。勿論、本発明を実施する場合には、柾目面C2側を下プレス盤10Bに載置することも可能である。
【0028】
続いて、図2(b)に示すように、固定側の下プレス盤10B上に載置された加工前木材NW1,NW2に対して上プレス盤10Aを所定圧力にて下降させて加工前木材NW1,NW2の上面、即ち、本実施の形態においては、加工前木材NW1の場合には木表側板目面B2、加工前木材NW2の場合には樹心側柾目面C1とは反対側の柾目面C2に当接させる(図3(a)及び図3(b)、図10(a)及び図10(b)参照)。そして、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに所定温度(例えば、110〜160〔℃〕)の水蒸気が通され、内部空間IS内が所定温度(例えば、110〜180〔℃〕)に保持される。
【0029】
次に、図2(c)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aの圧縮圧力が所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に設定され、加工前木材NW1,NW2が上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて所定時間(例えば、5〜40〔min:分〕)加熱圧縮される。なお、このときの圧縮圧力は、割れを防止するために、加工前木材NW1,NW2の温度上昇、即ち、加工前木材NW1,NW2の内部の温度の伝達状態に応じて徐々に大きくするのが望ましく、加熱圧縮の時間も伝達時間を考慮して設定するのが好ましい。
【0030】
更に、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接すると上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されたシール部材11によって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて形成される内部空間ISが密閉状態となる。そして、内部空間ISの密閉状態で上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる圧縮圧力が保持されたまま、所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)まで上昇される。
【0031】
なお、本実施の形態において、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となったときにおける内部空間ISの上下方向の寸法間隔は、加工前木材NW1を塑性加工する場合には、加工前木材NW1が、プレス盤10によって、木口面A及び木裏側板目面B1の境界線を樹心側の境界線BL1側としたとき、年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て25度以下の範囲内である塑性加工木材PW1となるときの厚み方向の仕上がり寸法に設定される。
【0032】
また、加工前木材NW2を塑性加工する場合には、加工前木材NW2が、プレス盤10によって、木口面A及び樹心側柾目面C1の境界線を樹心側の境界線BL2側としたとき年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て45度以下の範囲内である塑性加工木材PW2となるときの厚み方向の仕上がり寸法に予め設定されている。
このため、加工前木材NW1が圧縮されることによる木口面A及び木裏側板目面B1の樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θの変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。また、加工前木材NW2が圧縮されることによる木口面A及び樹心側柾目面C1の樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θの変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。
【0033】
更に、図2(c)に示す内部空間ISの密閉状態で、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの圧縮圧力が維持され、かつ、内部空間ISが所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)のまま、所定時間(例えば、30〜120〔min〕)保持され、この後の冷却圧縮を解除したときに、戻りのない塑性加工木材PW1,PW2を形成するための加熱処理が行われる。このとき、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで密閉状態とされている内部空間ISを介して、加工前木材NW1,NW2の周囲面とその内部とでは高温高圧の蒸気圧が出入り自在となっている。
そして、このように、本実施の形態においては、加工前木材NW1,NW2の表裏面に上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが面接触し、密閉状態の内部空間ISに保持されるため、加工前木材NW1,NW2は、厚み全体が十分に加熱され、効率よく圧縮変形されることになる。
【0034】
次に、図2(d)に示すように、内部空間ISの密閉状態で加熱圧縮処理が行われているときに、蒸気圧制御処理として圧力計P2で内部空間ISの蒸気圧が検出され、バルブV5が適宜、開閉される。これにより、配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出されることで、特に、加工前木材NW1,NW2の外層部分の含水率に基づく余分な内部空間IS内の水分が除去され、内部空間IS内が所定の蒸気圧となるように調節される。また、必要に応じて、バルブV6に接続された配管14、配管口14a(図1)を介して内部空間ISに所定の蒸気圧を供給することができる。
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる加熱圧縮から冷却圧縮へと移行する直前に、蒸気圧制御処理としてバルブV5が開状態とされることで配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出される。これにより、木材の加熱圧縮処理の定着、所謂、木材の固定化がより促進されることとなる。
【0035】
続いて、図2(e)に示すように、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに常温の冷却水が通されることによって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが常温前後まで冷却され、材料によって異なる所定時間(例えば、10〜120〔min〕)保持される。なお、このときの固定側の下プレス盤10Bに対する上プレス盤10Aの圧縮圧力は、加熱圧縮の際の圧力と同じ所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に保持されたまま、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが冷却される。
そして、最後に、図2(f)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇させ、内部空間ISから仕上がり品である塑性加工木材PW1,PW2が取出されることで一連の処理工程が終了する。
なお、このように、本実施の形態においては、蒸気圧を制御し、徐々に解圧して内部蒸気圧を開放し、また、冷却によって木材内の水蒸気圧を下げ定着されるので、冷却圧縮を解除したときの膨らみ変形やパンクと呼ばれる表面割れのない塑性加工木材PW1,PW2を形成できる。即ち、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、圧縮解除後に膨らみ変形や表面割れを生じることがなくて安定した品質が確保されている。
【0036】
本実施の形態では、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bを用いて圧縮し、定着して塑性加工木材PW1,PW2を得ているが、本発明を実施する場合には、通常の電子レンジが使用するマイクロ波の周波数帯域よりも若干周波数の低い高周波で誘電加熱し、加工前木材NW1,NW2を加熱し、圧縮し、定着しても、塑性加工木材PW1,PW2を得ることができる。
【0037】
次に、上述のようにして形成された本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2について図3乃至図13を参照して説明する。
なお、木材の木口面Aの年輪線RLは、図3及び図10に示すように、その年輪線RLの中心側、即ち、樹心側の境界線BL1,BL2との交差付近で曲線状であることが多く、また、加工前木材NW1の木裏側板目面B1側、加工前木材NW2の樹心側柾目面C1側が載置された下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを下降させ、加熱圧縮を行った場合、通常、木口面Aの下方の年輪線RL(本実施の形態の塑性加工木材PW1においては、木裏側板目面B1側に近い年輪線RL、本実施の形態の塑性加工木PW2においては、樹心側柾目面C1に近い年輪線RL)ほど、その屈曲変形や座屈変形が大きくなり、そのことによって測定のばらつきが予想されることから、本来は、鋭角側の交差角度θ,δは、境界線BL1,BL2から木口面Aの年輪線RLに沿って約1〜2mm離れた樹心側の年輪線RL上の点に対して接線を引き、当該接線と境界線BL1,BL2とがなす角度を測定して得た値とすべきである。
【0038】
即ち、正確には、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または樹心側の柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または樹心側の柾目面C1に沿って描いた仮想境界線となす鋭角側の交差角度が交差角度θ,δとすべきであるが、説明を単純化するために、以下、樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θ,δと表現することとする。
【0039】
ここで、本発明者らは、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって加工木材NW1の板目面B1,B2に対して垂直方向に加熱圧縮を加えていくと、木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが徐々に小さくなっていくことに着目し、一定以上の加熱圧縮を加えると、図11乃至図13に示すように、木材の硬度や耐摩耗性の指標となる摩耗深さ等の特性値のばらつきが少なくなり物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなり傷跡や窪みが付き難くなるのを見出した。そして、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δを測定したところ、図4乃至図6(e)及び図8に実施例として示すように、板目材からなる塑性加工木材PW1の鋭角側の交差角度δは全て0〜25度の範囲内にあった。
【0040】
なお、図4乃至図6(e)及び図8に示す板目材からなる実施例は、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの塑性加工木材PW1である。また、鋭角側の交差角度δが全て0〜25度とは、図8に示すように、通常、市場に流通している板目材における鋭角側の交差角度θが約0〜45度であり、それに圧縮を加えていったときの、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなるときの鋭角側の交差角度δの値を実験研究から求めたもので、圧縮前の交差角度θに対して相対的に決定されたものである。
【0041】
そして、図8に示すように、このとき、木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす圧縮後の鋭角側の交差角度δは、それに対応する圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して、木材全体の角度の算術平均で0.5倍以下となっている。即ち、(加熱圧縮後の交差角度δ)/(それに対応する加熱圧縮前の交差角度θ)が木材全体の算術平均で1/2以下となっている。この値は、Tan-1θとTan-1δの変化に概略比例するが、実用的には、気乾比重の変化にも近い変化となる。
【0042】
また、本発明者らは、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって加工木材NW2の柾目面C1,C2に対して垂直方向に加熱圧縮を加えていくと、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが徐々に小さくなっていくことに着目し、一定以上の加熱圧縮を加えると、図11乃至図13に示すように、木材の硬度や耐摩耗性の指標となる摩耗深さ等の特性値のばらつきが少なくなり物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなり傷跡や窪みが付き難くなるのを見出した。そして、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの鋭角側の交差角度を測定したところ、図6(f)及び図7及び図9に実施例として示すように、柾目材の塑性加工木材PW2の鋭角側の交差角度δは全て15〜45度の範囲内にあった。
【0043】
なお、図6(f)及び図7及び図9に示す実施例も、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめるときの塑性加工木材PW2である。また、塑性加工木材PW2の鋭角側の交差角度δが15〜45度とは、図9に示すように、通常、市場に流通している柾目材における圧縮する前の柾目材からなる加工前木材NW2の鋭角側の交差角度θが約45〜90度であり、それに圧縮を加えていったときの、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなるときの鋭角側の交差角度θの値を実験研究から求めたもので、圧縮前の交差角度θに対して相対的に決定されたものである。
そして、図9に示すように、このとき、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす圧縮後の鋭角側の交差角度δは、それに対応する圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して、木材全体の算術平均で0.5倍以下となっている。即ち、(加熱圧縮後の交差角度δ)/(それに対応する加熱圧縮前の交差角度θ)が木材全体の算術平均で1/2以下となっている。この値は、Tan-1θとTan-1δの変化に概略比例するが、実用的には、気乾比重の変化にも近い変化となる。
【0044】
ここで、本発明者らの実験によると、板目材からなる木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが、圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して木材全体の算術平均で0.5以下となっているものは、その気乾比重が2倍以上になっていることが確認された。また、柾目材からなる樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす圧縮後の鋭角側の交差角度δも、圧縮前の鋭角側の交差角度θに対して、木材全体の算術平均で0.5倍以下となっているものは、その気乾比重が2倍以上になっていることが確認された(図13参照)。
そこで、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、加工前木材NW1,NW2に対して加えた外力によって、加工前木材NW1,NW2の厚みが加熱圧縮されて塑性加工し、加熱圧縮した木材の気乾比重を加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上とし、かつ、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を45度以下の範囲内としたものである。
【0045】
ところで、本発明者らの実験研究によると、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが85度より大きい加工前木材NW2を用いて、塑性加工木材PW2を製造したところ、塑性加工木材PW2において年輪線RLの座屈変形が大きくなり、場合によっては割れが生じることもあった。
【0046】
このため、柾目材からなる塑性加工木材PW2の原材料となる加工前木材NW2には、樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て85度以下であるものを用いるのが好ましい。即ち、塑性加工木材PW2は、圧縮前の樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θを全て85度以下とすることが好ましい。これにより、年輪線の座屈変形が防止されて、加熱圧縮による割れが防止されるから、塑性加工木材PW2において、高い品質を確保することができる。さらには、圧縮前の交差角度が60度以下のものであれば殆ど割れ(クラック)が生じることがないためより好ましい。
【0047】
同様に、板目材からなる塑性加工木材PW1の原材料となる加工前木材NW1には木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て0〜45度以下であるものを用いるのが好ましい。即ち、塑性加工木材PW1は、圧縮前の木裏側板目面B1及び木口面Aの樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θを全て0〜45度とすることが好ましい。これにより、年輪線の座屈変形が防止されて、加熱圧縮による割れがなくなるから、塑性加工木材PW1においても、高い品質を確保することができる。
【0048】
即ち、木材の板目材と柾目材とを特定しなければ、また、板目材にも部分的にみれば、柾目材の構造を有することからすれば、木材の加工前木材NW1,NW2には、木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1及び木口面Aの樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度θが全て85度以下であるものを用いるのが好ましい。より好ましくは60度以下のものである。
そして、塑性加工木材PW1,PW2は、木裏側板目面B1及び木裏側板目面B1または樹心側柾目面C1の木口面Aの樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て45度以下であるのが好ましい。
【0049】
なお、本実施の形態においては、塑性加工木材PW1,PW2を形成する加工前木材NW1,NW2に、加工前の気乾比重が平均約0.36であるスギ材が用いられており、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2はスギ材からなるものである。スギ材は一般的に入手しやすく加工しやすいものであるから、塑性加工木材PW1,PW2としてスギ材を用いた場合には、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることが可能になり、また、スギ材の欠点を補うことができる。殊に、オビスギと称されるスギ材は、短期間で成長するもので大量入手が容易なため、最適である。また、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、塑性加工木材PW1,PW2としてスギ材を用いた場合には、環境保全に貢献することができる。
【0050】
勿論、本発明を実施する場合には、スギ材に限定されるものではなく、例えば、マツ、ヒノキ、イエローポプラ等を用いることも可能である。マツやヒノキは、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができ、加工も施しやすいため、スギ材を用いた場合と同様の効果が得られる。また、イエローポプラ(学名:Liriodendron tulipifera、別名:ハンテンボク、チューリップポプラ、キャナリーホワイトウッド、ユリノキ)もスギと同様に入手しやすく加工を施しやすいものであることから、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることができる。特に、イエローポプラは元来の色調が明るいため、材料によっては変色するものもあるが、一般に、高圧縮による濃色化、黒色化を抑制することができ、良好な外観を保持することが可能である。
また、塑性加工木材PW1,PW2を形成する加工前木材NW1,NW2には、辺材(白太、白身)を用いるのが好適である。これにより、圧縮したときのヤ二の表出量を抑制することができるし、高圧縮による濃色化を抑えることもでき、良好な外観を保持することが可能になる。
【0051】
続いて、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2の物性について、図11乃至図15を参照して、比較例と比較しながら詳しく説明する。なお、図11及び図12の比較例は、図13の表図に示した比較例と対応するものであり、図13の表図に示した本実施の形態の気乾比重、硬度、摩耗深さ、曲げヤング係数の各値は、図4乃至図7に示した実施例のように、物性的に安定し、また、硬度が顕著に高くなりはじめたときの塑性加工木材PW1,PW2における平均値を示したものである。
ここで、図11及び図13において、硬度〔N/mm2〕は、JIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、木材の表面(本実施の形態の塑性加工木材PW1においては、板目面B1,B2側、本実施の形態の塑性加工木材PW2においては、柾目面C1,C2側)に直径10〔mm〕の鋼球を平均圧入速度0.5〔mm/min〕で圧入して、圧入深さが0.32〔mm〕になるときの荷重P〔N〕を測定し、下記の式(1)から算出したものである。
硬度H=P/10・・・(1)
【0052】
そして、上記硬度が25〔N/mm2〕以上とは、本発明者らの実験研究によって、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の硬度が15〔N/mm2〕くらいであることが判明していることから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い表面硬度が要求される床材等に利用するにも十分な硬度であり、広範な用途に使用可能であることを意味する。なお、上記25〔N/mm2〕とは、厳格に25〔N/mm2〕であることを要求するものではなくて約25〔N/mm2〕であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0053】
また、図12及び図13の耐摩耗性の指標となる摩耗深さ〔mm〕は、JIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、いわゆる摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように木材と摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから下記の式(2)によって算出したものである。
摩耗深さD=(m1−m2)/A・ρ・・・(2)
更に、図13の剛性の指標となる曲げヤング係数(N/mm2)は、JIS−Z―2101に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、2点荷重方式で、次式で測定計算したものである。
Eb=ΔP・L3/48・I・Δy
ここに、
Eb:曲げヤング係数〔N/mm2〕(Kgf/cm2)、
ΔP:比例域における上限荷重と下限荷重との差〔N〕(kgf)、
Δy:ΔPに対応するスパン中央のたわみ(mm)、
I:断面2次モーメントI=bh3/12(mm4)、
L:スパン(mm)、
b:試験体の幅(mm)、
h:試験体の高さ(mm)、
である。
【0054】
そして、上記摩耗深さが0.12〔mm〕以下とは、本発明者らの実験研究によって、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の摩耗深さが0.14〔mm〕くらいであることが判明しているから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用することもでき、広範な用途に使用可能であることを意味する。なお、上記0.12〔mm〕も、厳格に0.12〔mm〕であることを要求するものではなくて約0.12〔mm〕であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0055】
図11乃至図13に示すように、比較例と比較すると、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、硬度〔N/mm2〕及び曲げヤング係数〔N/mm2〕の値が極めて大きくなっており、また、摩耗深さ〔mm〕においても、その値がとても小さくなっている。
即ち、図11から、塑性加工によって、加熱圧縮した木材の気乾比重を加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上とし、かつ、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を45度以下の範囲内とすることで、優れた硬度、耐摩耗性及び剛性が得られ、傷跡や窪みが付き難くなることが分かる。
【0056】
殊に、図11に示すように、硬度〔N/mm2〕は、比較例と比較して著しく高くなっており、しかも、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の硬度が15〔N/mm2〕くらいであることから、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い硬度が要求される床材等に利用するにも十分な硬度を有していることが分かる。
また、図12に示すように、摩耗深さ〔mm〕においても、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の摩耗深さが0.14〔mm〕くらいであることから、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用するにも十分な耐摩耗性を有していることが分かる。
このため、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、集中荷重や衝撃荷重を受けやすい床材等に利用しても傷跡や窪みが付き難く、広範な用途に使用可能である。
【0057】
そして、図11及び図12に示すように、比較例では、硬度〔N/mm2〕及び摩耗深さ〔mm〕の値に大きなばらつきが見られるのに対し、加熱圧縮した木材の気乾比重を加熱圧縮前の気乾比重の2倍以上とし、かつ、木材の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度を45度以下の範囲内と本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2となるように塑性加した本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2では、その値のばらつきが小さくなっている。即ち、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少ない。
【0058】
これは、木材の早材部における細胞壁の厚さが薄く、また、早材部の空隙率が大きいうえに、製材された木材(加工前木材NW1,NW2)によって年輪(早材部と晩材部)の配列状態が異なることに起因して、比較例においては、細胞の圧縮変形が局部的に集中して厚み全体が平均的に圧縮されていなかったためと推定されるところ、本実施の形態の塑性加工木材PW,PW2においては、早材部の殆どの細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合い、早材部の(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなって、厚み全体が均一に圧縮されたためと推定される。
【0059】
なお、参考までに、図14(a)において、加工前木材NW1,NW2の顕微鏡写真(SEM、500倍)を、また、図14(b)において、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2の顕微鏡写真(SEM、500倍)を示す。図14から、圧縮によって、主に、早材部の細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合い、(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなることが分かる。更に、参考までに、図15において、加熱圧縮前の気乾比重に対して1.3倍に圧縮した塑性加工木材の顕微鏡写真(SEM、50倍)を示す。図15から、加熱圧縮前の気乾比重に対して1.3倍にしか圧縮していない塑性加工木材においては、圧縮変形が局部的に集中していて厚み全体が平均的に圧縮されていないことが分かる。
【0060】
そして、このことは、比較例では、製品化後の周囲環境条件の変化によって歪みが発生することがあったが、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2では、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がなかったことからも裏付けされる。即ち、比較例においては、圧縮による細胞変形が局部的に集中しているために、製品内部において周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきがあり、それ故、周囲環境条件の変化によって歪みが発生することがあったが、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2においては、厚み全体が均一に圧縮されているために、製品内部における周囲環境条件の変化による寸法変化率にばらつきがなく歪みが発生しなかったと考えられる。
【0061】
また、硬度が比較例と比較して顕著に高くなっているのは、図14(b)に示すように、圧縮による晩材部の細胞変形は僅かではあるものの、表層部を含む早材部の殆どの細胞が圧縮変形されて、細胞壁が重なり合ったため、また、(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなったため、更には、それにより元来細胞壁が厚く空隙が少ないために硬くなっている晩材部が表層部において顕在化した、即ち、晩材部の占有率が高くなったためと考えられる。
殊に、図13に示すように、本実施の形態の塑性加工木材PW1によれば、その気乾比重が0.85以上となっていて空隙率が低くなっていることから、黒檀の特性と同様に優れた硬度、耐摩耗性、剛性を確実に得ることができる。
【0062】
因みに、上記気乾比重とは、木材を大気中で乾燥した時の比重で、通常、含水率15%の時の比重で表すものであり、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。数値が大きいほど重く、小さいほど軽いことを表す。例えば、自然物の黒檀は0.85〜1.04、紫檀は1.03程度で、国産或いは国内でよく使用される材木のスギは0.36、ヒノキは0.44、カラマツは0.50、ドドマツは0.44、 キリは0.25、クリは0.60、ブナは0.65、ナラは0.58、カバは0.60、イタジイは0.61、カリン0.61、アピトンは0.72、ファルカタは0.27、マラパパイヤは0.50、グメリナは0.45、ゴムは0.64、イエローポプラは0.45、イタリアポプラは0.35、ユーカリは0.75、カユプティは0.75、アカシアマンギウムは0.63程度である。
【0063】
上記気乾比重は、最終的には、樹種や、コストや、必要とされる硬度・耐摩耗性等の特性を考慮して設定されるが、気乾比重を大きくするために圧縮率を余りに高くすると木材を構成する繊維が破壊されてクラックが生じ商品性が失われることになるから、高圧縮によりクラックが発生する直前に測定される気乾比重の値が最大値となる。因みに、本発明者らの実験研究によれば、スギ材を用いた場合には約1.2が上記気乾比重の上限であることが判明した。したがって、本発明における気乾比重の最大値は、樹種等によって決定される有限値である。そして、上記木材の気乾比重が0.85以上とは、黒檀と同等以上の硬度・耐摩耗性等の特性を持たせるものである。上記気乾比重が0.85とは、厳格に0.85であることを要求するものではなくて約0.85以上であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0064】
このように、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、加工前木材NW1,NW2に対して加えた外力によって、加工前木材NW1,NW2の厚みが加熱圧縮されて塑性加工し、加熱圧縮した塑性加工木材PW1,PW2の気乾比重を加工前木材NW1,NW2の気乾比重の2倍以上とし、かつ、塑性加工木材PW1,PW2の木口面Aの全ての年輪線RLと木口面Aの樹心側の板目面B1または柾目面C1から2mm以下の範囲に樹心側の板目面B1または柾目面C1に沿って描いた仮想境界線とがなす鋭角側の交差角度δが45度以下の範囲内にあるものである。
特に、実施例の塑性加工木材PW1は、木材の板目面B1,B2に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮されて塑性加工され、木材の木口面A及び木裏側板目面B1の樹心側境界線BL1と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て0〜25度の範囲内であるものである。
また、実施例の塑性加工木材PW2は、木材の柾目面C1,C2に対して垂直方向の加熱圧縮により、厚み全体が圧縮されて塑性加工され、塑性加工木材PW2の木口面A及び樹心側柾目面C1の樹心側境界線BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て10度〜45度の範囲内であるものである。
【0065】
したがって、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、樹心側境界線BL1,BL2と木口面Aの年輪線RLとがなす鋭角側の交差角度δが全て45度以下の範囲内であるものであり、物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少ない。また、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がない。更に、高い硬度を有し傷跡や窪みが付き難くなっている。
なお、上記実施の形態では、塑性加工木材PW1,PW2について説明したが、塑性加工木材PW1,PW2の製造過程は、塑性加工木材の製造方法の発明の実施の形態として捉えることができる。
【0066】
殊に、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、その気乾比重は0.85以上であり、木材における空隙率が低くなっていることから、確実に黒檀に似た優れた硬度を得ることができる。
【0067】
また、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、JIS−Z―2101−1994に規定された硬度試験による硬度が25〔N/mm2〕以上であり、通常の床材として利用されている広葉樹の硬度より高い値であるから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い表面硬度が要求される床材等に利用するのにも十分な硬度を有している。
加えて、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によればJIS−Z―2101−1994に規定された耐摩耗試験による摩耗深さが0.12〔mm〕以下であり、通常の床材に利用されている広葉樹の摩耗深さより低い値であるから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用するのにも十分な耐摩耗性を有している。
故に、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば広範な用途に使用可能であり、例えば、床材、腰板材、屋内家具材、表面塗装として使用する住宅用外装材等、学童机、テーブルの天盤、扉等に利用できる。
【0068】
そして、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、複数に分割された構造体としての上プレス盤10A、下プレス盤10Bによって内部空間ISを形成し、内部空間ISの容積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤10を用いて、内部空間IS内に載置される塑性加工木材PW1の原材料である加工前木材NW1をその板目面B1,B2に対して、または、塑性加工木材PW2の原材料である加工前木材NW2をその柾目面C1,C2に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした内部空間内ISに保持し、保持された内部空間IS内の蒸気圧を制御して固定したのち冷却してなるものである。即ち、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2は、効率的に圧縮変形されてなるものであり、圧縮解除後の戻り、膨らみ変形、パンクと呼ばれる表面割れが防止されている。故に、本実施の形態の塑性加工木材PW1,PW2によれば、高い品質を確保することができ、また、生産性が良好となる。
【0069】
ところで、本発明を実施する場合には、塑性加工木材PW1,PW2を形成する加工前木材NW1,NW2として、間伐材、風害・水害・雪害・森林火災・凍害・虫害等の自然災害によって倒れたり芯割れを起こしたりして丸太の状態では使えなくなった傷害木材、端材等を用いることもできる。これによって、低コスト化を図ることができ、また、環境美化にも貢献することができる。
【0070】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0071】
PW1,PW2 塑性加工木材
NW1,NW2 加工前木材
RL 年輪線
BL1,BL2 境界線
IS 内部空間
10 プレス盤
10A 上プレス盤
10B 下プレス盤
11 シール部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、
かつ、前記塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから
摩耗深さ=(m1−m2)/A・ρ
として算出した摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、
しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にあることを特徴とする塑性加工木材。
【請求項1】
木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、
かつ、前記塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから
摩耗深さ=(m1−m2)/A・ρ
として算出した摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、
しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にあることを特徴とする塑性加工木材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−251540(P2011−251540A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191396(P2011−191396)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【分割の表示】特願2010−127593(P2010−127593)の分割
【原出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(501115689)マイウッド・ツー株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【分割の表示】特願2010−127593(P2010−127593)の分割
【原出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(501115689)マイウッド・ツー株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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