説明

塗工シート

【課題】有機顔料を多量に用いて、塗工層を軽量化したり、光沢などの品質を向上させたり、熱伝導度を下げてトナー定着性を向上させた塗工シートを提供する。
【解決手段】シート状基材の少なくとも片面に1層以上の塗工層を設けた塗工シートにおいて、有機顔料が該塗工層表面の60%以上の面積を占め、かつ該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径のCV値が20以上であることを特徴とする塗工シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工シートに関するものであり、さらに詳しくは、有機顔料を多量に用いて、塗工層を軽量化したり、光沢などの品質を向上させたり、熱伝導度を下げてトナー定着性を向上させる事のできる塗工シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷の4大方式に代表される商業印刷は世の中に広く用いられている。その歴史は長く、技術的にもかなり成熟しているが、需要の変化から技術的には変化を続けている。例えば、近年の環境に対する意識の高まりやコストダウンへの要求からこれらの印刷に用いられる紙はより嵩高な物や低坪量の物へとシフトしている。一方で市場のより高い印刷品質への要求から印刷用塗工シートの品質は向上し続けている。
【0003】
嵩高なシートは、同じ厚さであっても重さが軽く、カタログや文庫本などの軽量化、輸送コストの削減になるだけでなく、省資源にもつながる。加えて、ページ数が少なくても本が厚くなるため、読者の満足感が高まるなどの効果もあり、近年はより嵩高なシートが求められる傾向にある。
【0004】
一方、低坪量のシートでは、一枚のシートが薄くなることで、同じ重量でもページ数を稼ぐことが出来る。すなわちシートの単位重量あたりの情報量が増えることになる。つまりこれも、材料の節約につながり、環境的にもコスト的にもよい。また、保存場所の省スペース、移動時の労力低減、輸送時のエネルギー削減などにもつながり、今後もこういった需要は増えていくと考えられる。しかし、シートを嵩高にすることも、低坪量にすることも、技術的な問題点が多数つきまとう。
【0005】
塗工シートを嵩高に仕上げるためには、シート全体の密度を下げる必要がある。しかし、塗工シートの主要な材料である顔料成分(炭酸カルシウムやカオリンクレーなど)の無機顔料は密度が高い。そのため塗工層を持たないシートに比べ、塗工シートは嵩高さが低位である。さらに、塗工用の基材を嵩高に仕上げていたとしても、塗工層を塗布した際に基材の隙間に塗工成分が入り込み、基材の嵩高さを失わせてしまう事となる。
【0006】
低坪量の塗工シートにおいては、塗工層と基材を合わせた重さを一定坪量以下にする必要がある。ところが塗工層の密度が高いために使用することの出来る基材成分の量が少なくなる。基材成分の量が少ないと、シートの強度、剛直度などが失われ、塗工シートの製造作業性、印刷作業性、印刷品質が損なわれる。
【0007】
一方で印刷用塗工シートの最重要品質の1つである白紙光沢は、10年ほど前では60%台であったものが近年では80%に到達しようとしている。それでもキャスト紙やRC紙に代表されるようにさらなる品質への需要が高まっている。すなわち嵩高シートや低坪量のシートにおいても高い品質が求められ、このためには塗工層の量を多くしなければならないという矛盾を抱えることになる。
【0008】
ところで近年、塗工シートはレーザープリンターやコピー機などでも使われ始めた。これらの電子写真方式で印刷する用途は、端末PC用プリンター、ファックス、または複写機に留まらず、多品種小ロット印刷、可変情報印刷などを可能とする、いわゆる、オンデマンド印刷分野でも実用化が進み、技術的進展が目覚しい。近年では印刷速度、画質の向上に伴い、印刷部数が比較的に多く従来オフセット、グラビアなどの印刷でまかなわれていた領域に達しはじめた。
【0009】
電子写真印刷は可変情報を扱えるのがメリットであるが、オフセット印刷やグラビア印刷は長年の技術蓄積により非常に高品質の印刷を、安価な価格で達成しているため、品質面、価格面では劣っていた。そのため電子写真印刷では、印刷機械、印刷用シートの両面から高画質化、高速化、省電力化、そして低コスト化へ向けた技術開発が一段と進められている。印刷物には、より高精細で、色再現性の良さが求められているが、これは高速化、低コスト化とは相反する部分があり、トナーや印刷機械の性能はもちろんのこと、電子写真用記録シートに関してもトナー定着性、転移性、色再現性、走行性など、さらに厳しい品質要望が集まっている。
【0010】
一般的な電子写真印刷方式では、事務用複写機などに代表される様に、トナーを被転写物に加熱圧着する方式で印刷を行う。ところが、この方式では被転写物の物性によって加熱条件が大きく異なる。特に塗工シートにおいては塗工層の熱伝導率が基材に比べ高いために加熱ロールの熱を奪いやすい。その結果、トナーの溶解、定着を阻害することになる。このため加熱温度を高くしたり、シートの搬送速度を遅くしたりといった対応がとられる。これらはエネルギー面、効率面から好ましいことではなかった。この問題を解決するためには塗工層の熱伝導率を下げる必要がある。
【0011】
嵩高においても(例えば特許文献1)、低坪量化においても(例えば特許文献2)、品質向上においても(例えば特許文献3)、電子写真印刷用に熱伝導率を下げるためにも(例えば特願2004−271799号)、重要になってくる材料は有機顔料である。有機顔料の密度は無機顔料の2/5以下であり塗工紙の嵩高化に非常に寄与する。低坪量化を行いたいときも重量当たりの被覆性が格段に優れるため塗工量を減らすことが出来、基材成分の量つまりはパルプ分を多くすることが出来る。さらに、有機顔料は無機顔料に比べ白紙光沢の発現能力が非常に高く、品質向上にも大きく寄与する。熱伝導率も無機顔料の約1/15と断熱性の点で有効である。
【0012】
しかし、これらの効果を高く得るためにその配合量を増やしていくと問題が生じる。例えば、塗工面に面感(光沢感などに代表される、用紙からうける目視での印象)ムラが生じる。これは有機顔料が無機顔料と異なり粒度分布がシャープであることと、透明感を持つためだと考えられる。つまり、無機顔料と異なり、基材の持っているムラを塗工層が十分に覆い隠すことが出来ず、塗工層に面感ムラを生じてしまうためではないかと考えられる。
【0013】
さらには、有機顔料を高配合させることにより、操業性が低下する。例えば、ブレードコーターで塗工すると凝集物が発生し、ストリークを多発させてしまう。加えて、仕上げ工程のカレンダーロールに過剰に貼り付くことで、ロール汚れを発生させてしまう。
【0014】
これらの理由から、現在の技術で有機顔料を高配合にして、その特徴を十分に発揮させることは技術的に困難であった。
【特許文献1】特開2004−27443号公報
【特許文献2】特開平05−125695号公報
【特許文献3】特開平06−192996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、有機顔料を多量に用いて、塗工層を軽量化したり、白紙光沢などの品質を向上させたり、熱伝導率を下げることでトナー定着性を向上させたりする事のできる塗工シートを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の問題を解決すべく鋭意研究した結果、以下のような塗工シートを発明するに至った。
【0017】
すなわち、シート状基材の少なくとも片面に1層以上の塗工層を設けた塗工シートにおいて、有機顔料が該塗工層表面の60%以上の面積を占め、かつ該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径のCV値が20以上であることを特徴とする塗工シートである。
【0018】
本発明において、有機顔料が該塗工層表面の85%以上の面積を占めることが好ましい。
【0019】
また、本発明において該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径のCV値が30以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明において該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径の分布において、極大点が2つ以上あることが好ましい。
【0021】
また、本発明において全極大点のうちの一つが1.7μm未満、その他の極大点のうちの一つが1.7μm以上にあることが好ましい。
【0022】
また、本発明において該塗工層に含まれる有機顔料の平均粒子径が0.9μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、本発明において有機顔料が中空構造であることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明は、塗工シートが印刷用塗工シートであることを特徴とする。
【0025】
加えて、本発明は、塗工シートが電子写真用塗工シートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の塗工シートは、有機顔料を多量に用いて、塗工層を軽量化したり、白紙光沢などの品質を向上させたり、熱伝導率を下げることでトナー定着性を向上させたりした塗工シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の塗工シートについて、詳細に説明する。
【0028】
本発明者らは、塗工シートにおける有機顔料を高配合する塗工技術について鋭意研究を重ねた結果、以下のような塗工シートを発明するに至った。
【0029】
従来の技術でも述べたが、有機顔料は市場で必要とされている様々な品質を向上することが出来る重要な材料である。しかし、これを高配合すると塗工面の面感にムラを生じさせてしまったり、操業性を損なったりする。このため、有機顔料を高配合してもこれらの問題を発生させない新規な技術が有用となる。
【0030】
有機顔料を高配合したときにムラが発生するのは、実験的に完全に立証したわけではないが、ムラのパターンが地合いと一致することから、原紙の不均一さが塗工面にそのまま反映されてしまうためだと考えている。塗工シートに一般的に用いられている無機顔料ではこの現象が発生せず、有機顔料で発生してしまう理由として、有機顔料の隠蔽性が低く、原紙のムラを覆い隠すことが出来ないことと、粒子径が比較的揃っているため、光の乱反射が抑えられ、ある程度均一に光の屈折や反射が起こるためと考察できる。そのため原紙から跳ね返った光がその不均一さを反映したまま、乱れることなしに観察者の目に飛び込み、ムラを感じさせるのであろう。
【0031】
これを防ぐためには、有機顔料の光散乱を促進することが良いと考えられる。こうすることで、光の乱反射が広い波長域で得られるとともに乱反射角度が広い角度にわたり、原紙及び塗工層のムラの影響を受けずかつ適度な面感が得られるようになる。
【0032】
上記のようなムラの発生に加え、有機顔料を高配合させることにより、操業性が低下する。例えば、ブレードコーターで塗工するとブレードの裏に凝集物が発生し、ストリークを多発させてしまう。さらには仕上げ工程のカレンダーロールに過剰に貼り付くことで、ロール汚れを発生させてしまう。これらの原因は、同じく実験的に完全に立証したわけではないが、有機顔料の整った粒子径分布に関連すると考えられる。粒子径分布が整っていると、粒子が最密充填しやすい。すなわち粒子同士が接近しやすいため、凝集物が発生しやすいものと考えられる。これがストリークの原因となる。また、粒子が最密充填していると、ロールと塗工シートが接したとき、隙間が少ないために吸盤効果で貼り付きやすくなり、またロールからの熱も塗工シートに伝わりやすくなる。これらの効果で塗工層がロールから剥がれられなくなり、ロール汚れを発生するものと推察できる。
【0033】
これを防ぐためには、最密充填しにくいように、有機顔料の粒径に適度なバラツキを与えてやるのが良いと考えられる。有機顔料の粒径が適度にばらついていれば、粒子同士が必要以上に接近できず、凝集物を発生させにくい。またロールと塗工シートの間にも適度な隙間ができ、熱伝導も適度なレベルに保てるため、ロール汚れが発生しにくくなると考えられる。
【0034】
本発明者らは有機顔料の粒子径や粒子径分布の関係を詳細に検討した結果、塗工層の乱反射を促進し、適切な面感を得ることの出来、さらに操業性を良好に保つことのできる条件をみつけた。塗工層に含まれる有機顔料の粒子径のCV値が20以上であればこのような条件を達成できる。有機顔料が塗工層表面の85%以上を占める場合、塗工層がより軽量化し、トナー定着性が一段と良くなるが、このような条件においても、CV値が20以上であれば面感と操業性のバランスを保つことができる。CV値が30以上であれば面感と操業性のバランスが更に良くなり好ましい。
【0035】
CV値とは変動係数のことで、本発明においては次の式で計算する。CV=s/D×100。ここでsは粒子径の標準偏差、Dは平均粒子径(μm)である。CV値および平均粒子径は塗工シート表面を電子顕微鏡写真で撮影し、有機顔料の粒子径を測定して算出する。電子顕微鏡写真は個々の粒子径を特定できる倍率で撮影し(通常5000倍以上)、200個以上の粒子の粒子径を無作為に測定して計算する。粒子径は有効数字2桁で測定する。粒子径を測定するときは2点間の距離が測定出来る画像解析装置を用いて行うのが好ましい。粒子に短径と長径が存在する場合は長径の数値を用いる(図1の6)。表面処理によりつぶれた粒子も長径の数値を用いる。粒子の一部分だけが顔を出していて、正確な粒子径を測定することが出来ないものは除外する(図1の7)。なおこういった粒子は占有面積の計算を行う場合には計算に含める。全ての粒子径を測定した後、粒子全てが真球であると仮定し、体積平均法を用いて平均粒子径およびCV値を計算する。CV値および平均粒子径を光散乱式のマイクロトラック粒度分布測定法で計測出来る場合はこれを用いても良い。この場合も体積平均粒子径を用いる。
【0036】
有機顔料の占める塗工層表面の面積は、電子顕微鏡で塗工シート表面を撮影し、有機顔料の占める面積を実測して求める。電子顕微鏡写真は個々の粒子径を特定できる倍率で撮影し(通常5000倍以上)、400μm2以上の面積の範囲を無作為に10ヶ所選ぶ。面積を測定するときは選択部分の面積を測定できる画像解析装置を用いて行うのが好ましい。顔料と顔料の間の部分は有機顔料同士に挟まれる場合は有機顔料の占める面積とし、有機顔料以外の顔料同士に挟まれる場合は有機顔料以外の顔料が占める面積とする(図1の3)。異種類の顔料同士が接する部分は顔料の端の部分ではなく、中間線を各顔料が占める面積の境界線とする(図1の4)。この場合、線4の左側は顔料aの占有面積、右側は顔料bの占有面積となる。完全に落ち込んでいて顔料の存在を確認できない部分(電子顕微鏡写真で黒く見える部分)は占有率計算には用いず、除外する(図1の5)。粒子の種類が判断できる場合は除外しない。除外する場合、全体面積からもこの部分を除いて考えるものとする。粒子の一部だけが顔を出している場合は現れている部分だけを面積に含める。この手法で計測することでバインダー粒子や空隙による占有面積の誤差は極力除外できる。
【0037】
単に粒子径のCV値が20以上であるよりも、極大点が2つ以上ある様な粒子径分布であると、面感と操業性のバランスがより良くなる。なお、極大点のうちの一つが1.7μm未満、その他の一つが1.7μm以上にあるとさらに面感が良くなり、好ましい。
【0038】
有機顔料の粒子の構造は単一種類であるよりも、複数存在する方が面感が更に良くなるため、好ましい。粒子の構造とは密実型、中空型、お椀型のような有機顔料の構造の特徴を示す。この理由も、構造が異なると乱反射がより促進されるためと考えられる。
【0039】
有機顔料の平均粒子径は0.9μm以下であることが好ましい。これは粒子径が小さくなると、CV値がさほど高くなくてもストリークが発生しにくくなるためである。その理由は定かではないが、粒子径が小さい方がストリークが発生しにくくなるのは広く知られていることであり、本発明の条件においても、この機構が働いているものと推察される。
【0040】
このような設計で作られた塗工液をシート状基材に塗布する場合、塗工量は0.5g/m2以上あれば基材を覆うことが出来る。塗工量が20g/m2を超えると塗工層の強度に問題が生じることがある。塗工量は1.0〜10.0g/m2の範囲が製造効率、経済性、品質のバランスに優れ好ましい。
【0041】
本発明に用いることのできる有機顔料は、中空顔料、密実有機顔料、プラスチックピグメント、バインダーピグメント、プラスチックビーズなどがある。具体的な商品を例示するなら、旭化成社のL−8900、日本ゼオン社のV1005、MH5055、V1004、LX407BP、LX407BP6、R&H社のHP−91、HP−1055、AF1353、JSR社のAE851、中央理化工業社のAP−P0370、大日本インキ化学工業社のCVZシリーズ、サイデン化学社のサイビノールシリーズ、三井化学社のグロスデール、積水化成品工業社のMBXシリーズ、BMXシリーズ、SBXシリーズ、東洋ペトロライト社のアクアペトロシリーズ、三井化学社のケミパール、アルベマール社のパーゴパック、松本油脂製薬社の熱膨張性マイクロカプセルなどが挙げられる。もちろん上記条件を満たしていればこれらに限定される物ではない。これらのような有機顔料の密度は嵩高、薄物化、品質向上などへの効果が高くなるので、1.2g/cm3以下であることが好ましい。
【0042】
本発明に用いられる塗工シートの基材としては、木材パルプ、綿、麻、竹、サトウキビ、トウモロコシ、ケナフなどの植物繊維、羊毛、絹などの動物繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどのセルロース再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニールアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維などの化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などの無機繊維をシート状にしたもの、またはその上に樹脂フィルム層を設けたものが使用される。
【0043】
繊維のシート状基材を用いる場合に各繊維をシート状にする製法としては、一般的な抄紙工程、湿式法、乾式法、ケミカルボンド、サーマルボンド、スパンボンド、スパンレース、ウォータージェット、メルトブロー、ニードルパンチ、ステッチブロー、フラッシュ紡糸、トウ開維などの各工程から一つ以上が適宜選ばれる。
【0044】
また、これらの繊維には、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、二酸化チタン、水酸化アルミなどの各種填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留り剤、紙力増強剤などの各種配合剤を各工程、各素材に合わせて好適に配合する。さらには、これらの繊維シートの上に樹脂コート層、塗工層を設ける場合もある。
【0045】
基材としては、上質紙、中質紙、色上質、書籍用紙、キャスト用紙、微塗工紙、軽量コート紙、コート紙、アート紙、中質コート紙、グラビア用紙、インディア紙、コートアイボリー、ノーコートアイボリー、アートポスト、コートポスト、ノーコートカード、特板、コートボール、トレーシングペーパー、タイプ紙、PPC用紙、NIP用紙、連続伝票用紙、フォーム用紙、複写紙、ノーカーボン紙、感熱紙、インクジェット用紙、熱転写用紙、合成紙、などの紙や板紙、不織布、または各種樹脂やプラスチック、金属をフィルム状に成形したものも含まれる。
【0046】
塗工する前の基材は、必要とする密度、平滑度、透気度を得るために各種表面処理やカレンダー処理を施す場合がある。
【0047】
本発明において、基材に塗工層を設ける場合に有機顔料の他に用いることのできる顔料は、特に限定されるものではなく、例えば、各種カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム(粉砕炭酸カルシウム)などの精製した天然鉱物顔料、軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)、炭酸カルシウムと他の親水性有機化合物との複合合成顔料、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、焼成カオリンなどが挙げられる。
【0048】
塗工層に用いられるバインダーとしては、天然植物から精製した澱紛、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱紛、エーテル化澱紛、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱紛やそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、デキストリン、マンナン、キトサン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ペクチン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然多糖類およびそのオリゴマーさらにはその変性体が挙げられる。
【0049】
さらに、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、コラーゲンなどの天然タンパク質およびその変性体、ポリ乳酸、ペプチドなどの合成高分子やオリゴマーが挙げられる。
【0050】
加えてスチレンブタジエン系、アクリル系、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニルなどの各種共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ユリアまたはメラミン/ホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン/エピクロルヒドリンなどの水溶性合成物などが挙げられる。これらは一種以上で使用することができる。この他、公知の天然、合成有機化合物を使用することは特に限定されない。
【0051】
また、塗工液に用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ポリアクリル酸ソーダなどの水溶性高分子、ポリアクリル酸塩、スチレンマレイン酸無水共重合体などの合成重合体、珪酸塩などの無機重合体などが挙げられる。
【0052】
また、必要に応じて、分散剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤などの通常使用されている各種助剤、およびこれらの各種助剤をカチオン化したものが好適に用いられる。
【0053】
本発明において、塗工層を塗工する方法は、特に限定されるものではなく、サイズプレス、ゲートロール、シムサイザーなどの各種フィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンコーター、スプレーコーター、キャストコーターなどの各方式を適宜使用する。
【0054】
さらに、一連の操業で、塗工、乾燥された塗工シートは要求される、密度、平滑度、透気度、外観を得るために、必要に応じてカレンダー処理などの各種仕上げ処理が施される。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、質量部および質量%を示す。
【0056】
(実施例1)〜(実施例11)及び(比較例1)〜(比較例5)
下記の内容に従って、実施例1〜3および比較例1〜8の塗工シートを作製した。
【0057】
<シート状基材>
LBKP(濾水度400mlcsf) 70部
NBKP(濾水度480mlcsf) 30部
軽質炭酸カルシウム(原紙中灰分で表示) 8部
市販カチオン化澱粉 1.0部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留まり向上剤 0.03部
パルプ、内添薬品を上記の配合で調製し坪量80.6g/m2で原紙を抄造した。
【0058】
この原紙に対して、サイズプレスにより両面0.80g/m2の酸化澱粉を付着させ、塗工用基紙を得た。
【0059】
<塗工液>
塗工液の顔料については、表1に記載の内容の顔料を表2の通りに配合した。表1中のCV値および平均粒子径は光散乱式のマイクロトラック粒度分布測定法で実測した値を用いた。なお表1中の1は日本ゼオン社の「V1004」、2は日本ゼオン社の「MH5055」、3は日本ゼオン社の「V1005」、4はR&H社の「HP−91」、5はJSR社の「AE−851」、6は日本理化工業社の「AP−P0370」、7は三井化学社の「W301」、8は懸濁重合ポリアクリロニトリル(中空型)である。9は兵庫クレー社の湿式重質炭酸カルシウムである「WH−90」、10はTHIELE社の1級カオリンである「カオグロス」である。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
顔料以外の配合は以下の通りである。以下の部数は顔料100部に対する部数である。
市販スチレンブタジエン系ラテックスバインダー
(平均粒子径100nm、ゲル含有量80%、Tg5℃) 10.0部
市販リン酸エステル化澱粉 5.0部
市販ステアリン酸カルシウム 0.6部
市販カルボキシメチルセルロース系増粘剤(CMC) 0.1部
水酸化ナトリウムにてpH9.6に調整
【0063】
上記の塗工液を操業速度1000m/minでファウンテン/ブレードコーターを用いて両面とも同様の条件で塗工した。塗工量は片面塗工量で12g/m2塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を表裏各4ニップずつ、線圧200kN/m、温度80℃で施した。
【0064】
これらの実施例及び比較例で作製した塗工紙の塗工層表面占有面積および塗工層に含まれる平均粒子径やCV値を表3に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
上記実施例1〜11および比較例1〜5により得られる塗工紙について、下記の測定方法により各物性を測定し、その評価結果を表4に掲げた。
【0067】
1.面感
以下の基準に従い、4段階で評価した。
◎:斜光でサンプルを観察しても光沢ムラをほとんど確認できない。
○:斜光でサンプルを観察したときに、透明感のある部分と無い部分の差は確認できないが、光沢ムラが若干ある。
△:サンプルを垂直に見ると透明感がある部分と無い部分の差、または光沢ムラを確認することが出来ないが、斜光でサンプルを観察したときには確認することが出来る。
×:サンプルを垂直に見ても透明感がある部分と無い部分の差、または光沢ムラを確認することが出来る。または虹色に光る。
【0068】
2.密度
密度の測定は、JIS P8118「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」を用いた。
【0069】
3.熱伝導度
熱伝導度は、熱伝導率の測定は京都電子工業製迅速熱伝導率計(QTM−D3)を用いて測定した。紙厚10mm、ヒーター0.25Aとした。
【0070】
4.白紙光沢
JIS P−8142に従い角度75度で測定した。
【0071】
5.トナー定着性
トナー定着性については、キヤノン製:CP−2150機で印刷学会のTEST CHART TYPE1をA4縦目の白紙試料を横通しすることにより印刷した試料に、幅18mmのニチバン社製セロハン粘着テープ「セロテープ(R) No.405」を各色の画像部に貼りむらが無いように貼りつけ、180度剥離で約5mm/秒の速さでゆっくりとテープを剥がした。剥離後のトナーの紙への定着度合いを目視により判定し、以下の基準で評価を行った。
◎:各色共にトナーが紙の上にすべて残っている。
○:各色共にトナーが紙の上にほぼすべて残っている。
△:各色共にトナーが残っているが、テープ剥離後の画像部の印刷濃度が低下する。
×:一部の色でトナーが紙から剥がれ、画像部に白く抜けた部分がある。
【0072】
6.操業性
6−1.ストリーク
上記で示したブレードコーター塗布時に、ブレード直後の塗布面の幅30cmの範囲を目視で1分間眺め、発生したストリークの本数を数えた。各々3回カウントし、その平均値を元に以下の基準で評価した。なお、ストリークの太さ、長さは無視し、数のみで評価した。
◎:発生しない
○:1本未満
△:1本以上、3本未満
×:3本以上
【0073】
6−2.ロール汚れ
230mm幅、300mm長さの各塗抹シートを、スーパーカレンダーに通し、ロールが汚れたかどうかを目視で判断した。少しでも汚れた場合は×、汚れなかった場合を○とした。使用したスーパーカレンダーはコットンロールと温度40℃に熱した金属ロールとからなるラボ用スーパーカレンダーで、ロールのニップ幅は350mm、線圧は200kN/mとした。ロール径はいずれも250mmで、通紙速度は10m/minとした。通紙は1nipだけ通した。
【0074】
【表4】

【0075】
<評価結果>
比較例1と2のように有機顔料が塗工層表面の60%未満の面積であるとき、塗工層の軽量性がさほど出ず、熱伝導度が高いためトナー定着性が悪く光沢がさほど高くないなどの品質については有機顔料を用いるメリットが小さくなる。一方、比較例3と4の様に有機顔料が塗工層表面の60%以上の面積となると塗工層が軽量化し、熱伝導度が低くなるためトナー定着性が良くなり、白紙光沢が高くなるが、面感、操業性が悪くなる。一方、全ての実施例のように本発明の条件を満たすことで面感を損なうことなく、有機顔料を用いるメリットを十分に発揮できる。実施例1と比較例3や4を比べると分かるとおり、塗工層表面のCV値が20以上であることが重要である。実施例2と3を比較すると分かるとおり、有機顔料の塗工層表面を占める割合が85%を越えると有機顔料を用いるメリットが最大限に発揮できる。実施例4と5や3と7を比較すると分かるように、CV値が30以上である方が面感が良くなるので好ましい。実施例3と6を比較すると分かるように、粒子径の分布の極大点が二つ以上ある方が、面感も操業性も良くなる。極大点は1.7μmをまたいでいる方が面感が良くなるのは実施例6と8を比較すると分かる。なお、実施例3、6、8の有機顔料の粒子径の分布は図2にグラフで示した。なおその他の実施例、比較例における有機顔料の粒子径の分布についても図3と図4に示した。実施例6と9を比較すると分かるように有機顔料の粒子の構造が2種類以上ある方が面感が良くなる。実施例の1、4、5、比較例3、4を比較すると分かるように粒子径が0.9μm以下である方がストリークが発生しにくくなるので好ましい。実施例3、7、10を比較すると分かるように有機顔料は中空である方がトナー定着性や軽量化に効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0076】
印刷領域における印刷用塗工シートおよび電子写真用塗工シートに適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】塗工層表面において、有機顔料の面積占有率を電子顕微鏡写真よって計算する方法を説明する概略図である。
【図2】実施例3と6と8の有機顔料の粒子径の分布を示す図である。
【図3】比較例1〜3、比較例4、実施例1〜3、実施例4の有機顔料の粒子径の分布を示す図である。
【図4】実施例5と10、実施例7、実施例9、実施例11の有機顔料の粒子径の分布を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 有機顔料A
2 有機顔料B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材の少なくとも片面に1層以上の塗工層を設けた塗工シートにおいて、有機顔料が該塗工層表面の60%以上の面積を占め、かつ該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径のCV値が20以上であることを特徴とする塗工シート。
【請求項2】
有機顔料が該塗工層表面の85%以上の面積を占めることを特徴とする請求項1記載の塗工シート。
【請求項3】
該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径のCV値が30以上であることを特徴とする請求項1または2記載の塗工シート。
【請求項4】
該塗工層に含まれる有機顔料の粒子径の分布において、極大点が2つ以上あることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗工シート。
【請求項5】
全極大点のうちの一つが1.7μm未満、その他の極大点のうちの一つが1.7μm以上にあることを特徴とする請求項4記載の塗工シート。
【請求項6】
該塗工層に含まれる有機顔料の粒子の構造が2種類以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗工シート。
【請求項7】
該塗工層に含まれる有機顔料の平均粒子径が0.9μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の塗工シート。
【請求項8】
有機顔料が中空構造であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の塗工シート。
【請求項9】
塗工シートが印刷用塗工シートである請求項1〜8のいずれかに記載の塗工シート。
【請求項10】
塗工シートが電子写真用塗工シートである請求項1〜8のいずれかに記載の塗工シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−200113(P2006−200113A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233118(P2005−233118)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】