説明

塗工目付測定装置及び塗工目付測定方法

【課題】製造ラインを停止することなく塗工層の目付量を測定することができる塗工目付測定装置及び塗工目付測定方法を提供する。
【解決手段】金属箔1に形成される塗工層2の目付量を測定する塗工目付測定装置10であって、搬送される前記金属箔1から所定の部分を切り出すための試料切り出し手段12と、前記所定の部分の質量を測定する質量測定手段13と、を備え、前記金属箔1両面に塗工層2を形成する際に、前記金属箔1の表面に塗工剤を塗工して乾燥させた後と、当該乾燥後の前記金属箔1の裏面に塗工剤を塗工して乾燥させた後とのそれぞれにおいて、搬送される前記金属箔1から、前記金属箔1の塗工領域部分と、前記金属箔1の塗工領域と未塗工領域との境界を含む部分の2箇所を前記試料切り出し手段12により切り出し、前記質量測定手段13によりその両者の質量を測定し、その両者の質量差から前記塗工層2の塗工質量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔に形成される塗工層の目付量を測定する塗工目付測定装置及び塗工目付測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面に塗膜が塗工された金属板の塗膜重量を測定する技術として、塗膜付き金属板を、金属板のみを溶解する溶解液に浸漬して金属板を溶解し、残留物である塗膜の重量を測定する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、上記以外の塗膜重量を測定する技術としては、リチウム電池の電極の製造技術に関するものが幾つか挙げられる。例えば、リチウム電池の電極の製造工程においては、電池の性能を確保するために電極箔(金属箔)上に塗工された塗工層の塗工目付量(電極箔上に塗工された塗工層の単位面積当たりの重量)を管理することが工程保証する上で重要である。当該塗工目付量の測定法としては、製造設備を停止した上で手作業にて塗工層(活物質層)を剥してその質量を直接測定する手法や、製造設備稼動中にインラインで電極にX線、β線を当てその減衰量から非破壊的に電極に形成された塗工層の質量を推定する手法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−12702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたような塗膜重量の測定技術では、塗工ラインとは別の場所に測定装置を設ける必要があるため、製造ラインの稼動率が低下する。
【0006】
また、手作業によって電極箔上の塗工層の塗工目付量を測定する手法は、特別な技能や作業工数を要するものであり、作業を行う際に製造ラインを停止しなければならないため製造ラインの稼働率が低下する。また、この方法では、電極箔から塗工層をきれいに剥ぎ取らないと測定誤差の原因となる。
一方、X線等により非破壊的に塗工目付量を推定する手法は、非破壊測定という性質上、直接的に測定する上記手作業による手法に比べてどうしても誤差が生じやすく測定値の信頼性の面で課題が残る。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製造ラインを停止することなく塗工層の目付量を測定することができる塗工目付測定装置及び塗工目付測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、
金属箔に形成される塗工層の目付量を測定する塗工目付測定装置であって、
搬送される前記金属箔から所定の部分を切り出すための切り出し手段と、
前記所定の部分の質量を測定する質量測定手段と、を備え、
塗工剤を前記金属箔の表面に塗工した後に前記金属箔の裏面に塗工することにより、前記金属箔両面に塗工層を形成する際に、
前記金属箔の表面に塗工剤を塗工して乾燥させた後、かつ前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工する前と、当該乾燥後の前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工して乾燥させた後とのそれぞれにおいて、
搬送される前記金属箔から、前記金属箔の塗工領域部分と、前記金属箔の塗工領域と未塗工領域との境界を含む部分の2箇所を前記切り出し手段により切り出し、前記質量測定手段によりその両者の質量を測定し、その両者の質量差から前記塗工層の塗工質量を算出する塗工目付測定装置である。
【0010】
請求項2においては、
前記切り出し手段によって切り出される前記金属箔の切り出し位置と前記塗工領域端部との距離を測定する手段をさらに備える塗工目付測定装置である。
【0011】
請求項3においては、
金属箔に形成される塗工層の目付量を測定する塗工目付測定方法であって、
塗工剤を前記金属箔の表面に塗工した後に前記金属箔の裏面に塗工することにより、前記金属箔両面に塗工層を形成する際に、
前記金属箔の表面に塗工剤を塗工して乾燥させた後、かつ前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工する前と、当該乾燥後の前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工して乾燥させた後とのそれぞれにおいて、
搬送される前記金属箔から、前記金属箔の塗工領域部分と、前記金属箔の塗工領域と未塗工領域との境界を含む部分の2箇所を切り出し、その両者の質量を測定し、その両者の質量差から前記塗工層の塗工質量を算出する塗工目付測定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造ライン上でライン搬送されている金属箔の目付け測定ができるため、目付け測定するために製造ラインを停止する必要がなく、製造ラインの稼動率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗工目付測定装置を有する電極の製造ライン(電極製造装置)の概略構成を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る塗工目付測定装置の構成を示す斜視図。
【図3】塗工目付測定装置の動作を説明するための説明図。
【図4】試料片を示す図であり、(a)は第1塗工目付測定装置により切り出された試料片を示す模式図、(b)は第2塗工目付測定装置により切り出された試料片を示す模式図。
【図5】欠円部の面積に基づいて塗工層の塗工質量を算出する方法を説明するための説明図。
【図6】塗工層の塗工質量を算出する方法を説明するための説明図であり、(a)は塗工層が形成された金属箔における試料片の切り出し位置を示す平面図、(b)は各試料片により塗工層の塗工質量を算出する方法を説明するための説明図。
【図7】距離測定手段を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
先ず、本発明の一実施形態に係る塗工目付測定装置を有する電極の製造ラインの概略構成について図1を用いて説明する。図1はリチウム電池用シート電極(電極3)を製造するための製造ライン(電極製造装置50)を概略的に示したものである。
【0015】
先ず、電極3を製造するための電極製造装置50について説明する。
電極製造装置50は、電極箔となる金属箔1の塗工面(金属箔1の表面及び裏面)における幅方向の中央部に塗工剤を塗工して乾燥することにより塗工層2(図7参照)を形成した電極3を製造する装置である。また、電極製造装置50では、金属箔1の幅方向両側端部には塗工層2を形成せず、金属箔1の表面及び裏面を露出した状態とする電極3が製造される。電極製造装置50は、図1に示すように、巻出し部51、表塗工部52、乾燥炉53、裏塗工部54、巻取り部55を備える。
なお、以下の説明では、金属箔1において塗工層2が形成されていない部分(金属箔1の表面及び裏面が露出した部分)を「未塗工領域部」、塗工層が形成されている部分を「塗工領域部」と呼ぶこととする。
【0016】
巻出し部51は、ロール状に巻回された金属箔1を連続的に巻き出して、表塗工部52に供給するものである。金属箔1は、巻き出し方向に長い長尺の箔部材にて構成されており、巻き出し方向と直交する方向が金属箔1の幅方向となる。
【0017】
表塗工部52は、巻出し部51から巻き出された金属箔1の表面に塗工剤を塗工するためのものである。表塗工部52は、ダイコーター52a、バックアップローラ52bを備える。
ダイコーター52aは、塗工剤を吐出して金属箔1の表面に塗工剤を塗工するためのものである。バックアップローラ52bは、金属箔1を介してダイコーター52aの吐出口と対向するように配置され、金属箔1の背面(塗工面の反対側となる面。図1では裏面)を支持しつつ搬送するものであり、ダイコーター52aは金属箔1に塗工剤を所定の幅及び所定の塗工厚で塗工するためのものである。
【0018】
乾燥炉53は、金属箔1に塗工された塗工層2を乾燥させるための炉である。
【0019】
裏塗工部54は、乾燥炉53から搬送されてきた金属箔1の裏面に塗工剤を塗工するためのものである。裏塗工部54は、ダイコーター54a、バックアップローラ54bを備える。
ダイコーター54aは、塗工剤を吐出して金属箔1の裏面に塗工剤を塗工するためのものである。バックアップローラ54bは、金属箔1を介してダイコーター54aの吐出口と対向するように配置され、金属箔1の背面(塗工面の反対側となる面。図1では表面)を支持しつつ搬送するものであり、ダイコーター54aは金属箔1に塗工剤を所定の幅及び所定の塗工厚で塗工するためのものである。
【0020】
巻取り部55は、乾燥炉53から搬送される金属箔1の両面に塗工層2が形成された電極3を連続的に巻き取り、ロール状に巻回して回収するものである。
【0021】
こうして、電極製造装置50では、先ず巻出し部51から金属箔1が連続的に巻き出されて表塗工部52まで搬送され、当該金属箔1の一面(表面)に表塗工部52により塗工剤が塗工され、これが乾燥炉53で乾燥された後、続いて裏塗工部54により金属箔1の反対側の面(裏面)に塗工剤が塗工され、再び乾燥炉53で乾燥された後、巻取り部55に巻き取られる。この電極製造装置50による一連の塗工・乾燥処理にて、金属箔1の両面に塗工層2が形成されることとなる。このように金属箔1の両面を塗工剤で塗工して乾燥させることにより、リチウム電池用の電極3が製造される。
【0022】
この電極製造装置50では、表塗工部52により金属箔1の表面に塗工剤が塗工され、これが乾燥炉53で乾燥された後、かつ前記裏塗工部54に至るまでの搬送ライン上において、金属箔1の表面に形成された塗工層2の目付量を測定するための第1の塗工目付測定装置10が設けられ、さらに、この電極製造装置50には、前記裏塗工部54により金属箔1の裏面に塗工剤が塗工され、これが乾燥炉53で乾燥された後の搬送ライン上において、金属箔1の両面に形成された塗工層2の目付量を測定するための第2の塗工目付測定装置10が設けられる。
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係る塗工目付測定装置10の構成について図2を用いて説明する。
【0024】
塗工目付測定装置10は、電極3を製造する電極製造装置50において、金属箔1に形成される塗工層2の目付量を測定する装置である。ここで、塗工層2の目付量とは、具体的には、金属箔1に形成される塗工層2の単位面積当たりの質量(以下、「塗工質量」と記す。)のことである。すなわち、塗工目付測定装置10は、金属箔1に形成される塗工層2の塗工質量を算出する装置である。
【0025】
電極3は、金属箔1の両面に、電極製造装置50が備える塗工装置である表塗工部52、裏塗工部54を用いてペースト状の塗工剤を塗工し、乾燥させることで形成された長尺状の部材である。電極3は、例えば、リチウム電池等の電池の電極として用いられる。電極3は、ローラ等の搬送手段によって金属箔1の長手方向(図2における矢印方向)に搬送される。
【0026】
金属箔1は、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼等の金属箔である。塗工剤は、活物質を導電助剤や結着剤等と共に分散溶媒で混練したペースト状のものである。
【0027】
塗工目付測定装置10は、図2に示すように、基台部11、試料切り出し手段12、質量測定手段13・13、試料払出し手段14、及び演算手段(図示せず)を備える。
なお、以下では、図2における矢印方向を金属箔1の「搬送方向」とし、この「搬送方向」に直交する方向を金属箔1の「幅方向」として説明する。
【0028】
基台部11は、図2に示すように、試料切り出し手段12と、試料払出し手段14とを支持する正面視コ字状の基台である。
【0029】
試料切り出し手段12は、電極3の製造ラインである電極製造装置50において、搬送される金属箔1から所定の部分を切り出すための切り出し手段である。具体的には、試料切り出し手段12は、金属箔1から質量測定用の真円状試料片4・4を切り出すためのものである。試料切り出し手段12は、凸ダイスロール12aと、凹ダイスロール12bと、モータ12cとから構成される。
【0030】
凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bは、金属箔1から質量測定用の真円状試料片4・4を切り出すための一対のダイスロールである。
凸ダイスロール12aは、円柱体の外周面の一部を軸心に平行な平面で切り欠いたロール切欠部15を有しており、断面略D字状の形状である。凸ダイスロール12aは、当該凸ダイスロール12a外周面におけるロール切欠部15の反対側部分に、当該凸ダイスロール12a幅方向に並んで外周方に突設した2つの平面視円状の凸部16・16を有する。凸部16・16は、凸ダイスロール12a外周面において、図6(a)に示す金属箔1の塗工領域部中央近傍の切り出し位置P1に対応する位置と、図6(a)に示す金属箔1の塗工領域部と未塗工領域部との境界近傍の切り出し位置P2に対応する位置とにそれぞれ配置される。
一方、凹ダイスロール12bは、凸ダイスロール12aと略同様形状の円柱体の外周面の一部を軸心に平行な平面で切り欠いたロール切欠部17を有しており、断面略D字状の形状である。凹ダイスロール12bは、当該凹ダイスロール12b外周面におけるロール切欠部17の反対側部分に、当該凹ダイスロール12b幅方向に並んで穿設した2つの平面視円状の凹部18・18(図3(b)参照)を有する。凹部18・18は、凹ダイスロール12b外周面において、凸部16・16のそれぞれに対応する位置に配置される。
凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bは、金属箔1を介して互いに対向するように設けられ、それぞれ金属箔1の上方及び下方に配置される。凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bは、基台部11が有する左右の側壁の内側上部に軸支され、それぞれがモータ12cに接続されている。
【0031】
モータ12cは、凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bにより試料片4・4を切り出す際に、凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bを互いに異なる回転方向(図2では、凸ダイスロール12aは反時計回り方向、凹ダイスロール12bは時計周り回り方向)にそれぞれを同期回転するように駆動する手段である。
【0032】
こうして、試料切り出し手段12では、金属箔1を凸ダイスロール12aと凹ダイスロール12bの間を通過させる場合、図2に示すように、双方のロール切欠部15、17が対向した状態で保持される。このとき、凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bは、上下方向に所定間隔を有した隙間ができる状態になり、当該隙間の上下方向略中央部を金属箔1がロール切欠部15、17に接触することなく通過可能になる。一方、試料切り出し手段12により金属箔1から質量測定用の試料片4・4の切り出しを行う場合、試料切り出し手段12は、モータ12cの駆動により凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bを互いに異なる回転方向に同期回転させて、双方のロール切欠部15、17の間を通して搬送されていた金属箔1を凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bの各外周面の間に挟みながら回転する。そうして、凸ダイスロール12aが有する凸部16・16が、凹ダイスロール12bが有する凹部18・18に嵌合し、その後離間することで、搬送ライン上で搬送方向にライン搬送される金属箔1から2つの質量測定用の試料片4・4を切り出すことが可能である。すなわち、試料切り出し手段12は、押し型である凸部16・16と抜き型である凹部18・18により金属箔1に対して押し抜きをすることで金属箔1から2つの質量測定用の試料片4・4を切り出すことが可能である。
【0033】
質量測定手段13は、試料切り出し手段12により切り出された2つの質量測定用の試料片4・4の質量を測定する2つの質量計である。質量測定手段13は、その上部に質量測定の際に試料片4・4を載置するための試料載置台13a・13aを備え、当該試料載置台13a・13aに試料片4・4を載置することで試料片4・4の各質量を測定することが可能である。このような質量測定手段13としては、例えば、電子天秤等が挙げられる。
【0034】
試料払出し手段14は、試料切り出し手段12により切り出された2つの質量測定用の試料片4・4の質量を質量測定手段13・13により測定後、当該2つの試料片4・4を塗工目付測定装置10内から外部に払い出すためのものである。試料払出し手段14は、質量測定手段保持部14a、払出し用モータ(図示せず)から構成される。質量測定手段保持部14aは、縦板部と、当該縦板部下端部から横方向に延設される横板部とからなる正面視L字状の部材であり、2台の質量測定手段13・13が横板部上面において質量測定手段保持部14a幅方向に並べて保持される。質量測定手段保持部14aの上端部は、基台部11が有する2つの側壁のうち一方もしくは両方の側壁に軸支される。また、当該軸支部分の一方は、払出し用モータの駆動軸に接続されており、当該払出し用モータを駆動することで質量測定手段保持部14aを傾斜させることが可能である。
【0035】
こうして、試料払出し手段14では、試料片4・4の質量を測定する際には、質量測定手段13が凹ダイスロール12bの直下に位置するように質量測定手段保持部14aが配置され、試料片4・4の払出しを行う際には、払出しモータを駆動して質量測定手段保持部14a上端を軸支した状態で質量測定手段保持部14a下端を後方に移動して質量測定手段保持部14a(横板部)上の質量測定手段13・13を傾斜させて、質量測定手段13・13の試料載置台13a・13aに載置された試料片4・4を下斜め方向にスライドさせて外部に払い出すことが可能である。
なお、試料払出し手段14は、本実施形態に限定するものではなく、質量測定手段13・13による試料片4・4の質量測定後に試料片4・4を塗工目付測定装置10の外部に排出できる手段であればよい。例えば、試料払出し手段として、質量測定手段13・13の試料載置台13a・13aに載置された試料片4・4に対してエアを吹き当てるエア供給手段を設け、当該エア供給手段により載置された試料片4・4に対してエアを噴出することで試料片4・4を質量測定手段13・13から吹き飛ばすように排出する構成としても良い。
【0036】
演算手段は、質量測定手段13・13と接続されており、質量測定手段13・13によって測定された2つの試料片4・4の各質量を取得し、当該2つの試料片4・4の各質量の測定値と後述する所定の演算式に基づいて塗工層2の塗工質量を算出するものである。演算手段としては、具体的には、中央演算処理装置(CPU)を有するパーソナルコンピュータ等が挙げられる。
【0037】
次に、このように構成された塗工目付測定装置10を用いて、金属箔1における塗工層2の目付量を測定する塗工目付量測定方法について説明する。具体的には、図1に示すように、リチウム電池に用いられる電極3の製造ライン(塗工・乾燥工程)を構成する電極製造装置50に、2つの塗工目付測定装置10・10を導入してインラインで金属箔1の塗工層2の目付量を測定する方法について図3を用いて説明する。以下に、塗工目付測定装置10による金属箔1の塗工層2の目付量を測定する際の一連の工程と塗工層2の塗工質量の算出方法について順に説明する。
【0038】
塗工目付測定装置10では、図3(a)に示す通常時、すなわち、塗工目付測定装置10による測定を行わない時、試料切り出し手段12は凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12b双方のロール切欠部15、17を対向させた状態で保持される。このとき、凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bは、上下方向に所定の間隔を有した隙間ができる状態になり、金属箔1は凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bの各外周面に接触することなく、当該隙間の上下方向略中央部を通過する。
一方、塗工目付測定装置10による測定を行う際には、試料切り出し手段12は、モータ12cの駆動により動作を開始し(図3(b))、凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bを互いに異なる回転方向に同期回転させて、双方のロール切欠部15、17の間を通して搬送されていた金属箔1を凸ダイスロール12a及び凹ダイスロール12bの各外周面の間に挟みながら回転する。そうして、さらに同期回転して、凸ダイスロール12aが有する凸部16・16のうち未塗工領域部と塗工領域部の境界近傍に位置する凸部16(図3では左側の凸部16)が、凹ダイスロール12bが有する凹部18・18のうち未塗工領域部と塗工領域部の境界近傍に位置する凹部18(図3では左側の凹部18)に嵌合し、かつ、凸ダイスロール12aが有する凸部16・16のうち塗工領域部の中央部近傍に位置する凸部16(図3では右側の凸部16)が、凹ダイスロール12bが有する凹部18・18のうち塗工領域部の中央部近傍に位置する凹部18(図3では右側の凹部18)に嵌合し、その後それぞれが離間することで、搬送ライン上で搬送方向にライン搬送される金属箔1から2つの質量測定用の試料片4・4を切り出す。
すなわち、試料切り出し手段12は、押し型である凸部16・16と抜き型である凹部18・18により金属箔1に対して押し抜きをすることで金属箔1から2つの質量測定用の試料片4・4を切り出す(図3(c)(d)参照)。金属箔1から切り出された試料片4・4は凹ダイスロール12bが有する凹部18・18内部に保持され、凹ダイスロール12bの回転により凹部18・18が凹ダイスロール12bの下方に位置して質量測定手段13・13に近接した際に試料片4・4が遠心力及び重力により下方へと押出される(図3(e)参照)。
なお、試料片4・4は、金属箔1上における切り出し位置P1、P2や電極製造装置50の搬送ライン上における金属箔1の切り取り箇所によって、異なる構成となるものであるが、ここでは便宜上同一符号とし、切り出される試料片4・4の具体的な構成については、後述する。
【0039】
続いて、試料切り出し手段12により切り出された2つの質量測定用の試料片4・4が質量測定手段13・13の試料載置台13a・13aに載置されると、質量測定手段13・13では、試料載置台13a・13aに載置された2つの質量測定用の試料片4・4の各質量を測定する(図3(f)参照)。
【0040】
続いて、試料払出し手段14では、払出しモータを駆動して質量測定手段保持部14a上端を軸支した状態で質量測定手段保持部14a下端を後方に移動して質量測定手段保持部14a(横板部)上の質量測定手段13・13を傾斜させて、質量測定手段13・13の試料載置台13a・13aに載置された試料片4・4を下斜め方向にスライドさせて外部に払い出す(図3(g)(h)参照)。そうして、最後に、図3(a)に示した通常時の状態に復帰する(図3(i)参照)。
【0041】
上記の如く動作する第1塗工目付測定装置10及び第2塗工目付測定装置10は、すでに上述したように、上記電極製造装置50における金属箔1表面の塗工層2を形成した後と、金属箔1裏面の塗工層2を形成した後における金属箔1の搬送ライン上にそれぞれ配置されている。
【0042】
第1塗工目付測定装置10では、金属箔1の表面に塗工剤を塗工して乾燥した後、かつ金属箔1の裏面に塗工剤を塗工する前に、搬送される金属箔1から、金属箔1の塗工領域部分と、金属箔1の塗工領域部と未塗工領域部との境界を含む部分の2箇所を試料切り出し手段12により切り出し、質量測定手段13・13によりその両者の質量を測定する。すなわち、第1塗工目付測定装置10では、図6に示す試料片4・4の切り出し位置P1、P2において、金属箔1の塗工領域部の中央部近傍の切り出し位置P1で切り出された試料片(図4(a)に示す試料片III)と、金属箔1の塗工領域と未塗工領域との境界部近傍の切り出し位置P2で切り出された試料片(図4(a)に示す試料片IV)の各質量が測定される。試料片IIIは、真円状で扁平な金属箔1の表面に、同様の真円状で扁平な塗工層2が形成されたものである。試料片IVは、真円状で扁平な金属箔1の表面に、当該真円の一部を直線状に切り欠いた形状の塗工層2が形成されたものである。
【0043】
第2塗工目付測定装置10では、金属箔1の裏面に塗工剤を塗工して乾燥した後に、搬送される金属箔1から、金属箔1の塗工領域部分と、金属箔1の塗工領域部と未塗工領域部との境界を含む部分の2箇所を試料切り出し手段12により切り出し、質量測定手段13・13によりその両者の質量を測定する。すなわち、第2塗工目付測定装置10では、図6に示す試料片4・4の切り出し位置P1、P2における金属箔1の塗工領域部の中央部近傍の切り出し位置P1で切り出された試料片(図4(b)に示す試料片I)と、金属箔1の塗工領域部と未塗工領域部との境界近傍の切り出し位置P2で切り出された試料片(図4(b)に示す試料片II)の各質量が測定される。試料片Iは、真円状で扁平な金属箔1の表面及び裏面に、同様の真円状で扁平な塗工層2が形成されたものである。試料片IIは、真円状で扁平な金属箔1の表面及び裏面に、当該真円の一部を直線状に切り欠いた形状の塗工層2が形成されたものである。以下に、上記試料片I、II、III、IVを用いて塗工層2の塗工質量を算出する方法について具体的に説明する。
【0044】
次に、演算手段による塗工層2の塗工質量の算出方法について説明する。
先ず、図5に示す円において、円の中心をC、円の半径をR、円を切り取る直線部分と円との交点をA、B、円の中心Cから直線ABへの最短の離間距離をa、当該交点A、Bと中心Cとでできる二等辺三角形の頂角を2αとすると、真円部の面積Sにおける欠円部(図5に示す斜線部分)の面積Tは、
T=R(α−sinαcosα)と表すことができる。
真円部の面積S:欠円部の面積T=πR:R(α−sinαcosα)であるため、
この関係を、図6(b)に示す真円状塗工層2と欠円状塗工層2aにあてはめると、
(真円状塗工層2の質量):(欠円状塗工層2aの質量)=πR:R(α−sinαcosα)と表すことができ、
欠円状塗工層2aの質量に、π/(α−sinαcosα)(但し、α=Cos−1(a/R))を掛け合わせれば真円状塗工層2の質量が求まる。
【0045】
したがって、第2塗工目付測定装置10では、図6(b)上段に示すように、試料片Iの質量から試料片IIの質量を引くことで、「欠円状塗工層2a両面の質量」を取得でき、当該「欠円状塗工層2a両面の質量」にπ/(α−sinαcosα)を乗算することで、「真円状塗工層2の両面質量」を算出することができる。
また、第1塗工目付測定装置10では、図6(b)下段に示すように、試料片IIIから試料片IVを引くことで、「欠円状塗工層2a表面の質量」を取得でき、当該「欠円状塗工層2a表面の質量」にπ/(α−sinαcosα)を乗算することで、「真円状塗工層2の表面質量」を算出することができる。そして、「真円状塗工層2の両面質量」から「真円状塗工層2の表面質量」を引くことで「真円状塗工層2の裏面質量」を算出することができる。こうして、予め試料片4・4の切り出し面積、すなわち、上記円の半径Rと中心Cからの離間距離aを決定して円の面積を求めておけば、当該「円の面積」と上記の如く算出される「真円状塗工層2の両面質量」、「真円状塗工層2の表面質量」及び「真円状塗工層2の裏面質量」に基づいて、金属箔1両面、金属箔1表面、金属箔1裏面のそれぞれに形成される塗工層2の単位面積当たりの質量である「塗工質量」を算出することができる。
【0046】
次に、塗工目付測定装置の別実施形態を説明する。
【0047】
前記塗工目付測定装置10には、試料切り出し手段12によって切り出される前記金属箔1の切り出し位置P1、P2と、金属箔1に塗工乾燥された塗工層2の前記塗工領域端部との距離を測定する距離測定手段19をさらに備えることができる。
【0048】
距離測定手段19は、金属箔1上における塗工層2の厚さや塗工位置を計測するものであり、レーザ照射器及びレーザ受光器等からなるレーザー変位計である。距離測定手段19は、図7に示すように、塗工目付測定装置10の上流側近傍もしくは下流側近傍の金属箔1の搬送ライン上に設けられる。距離測定手段19は、アーム20によって一体的に支持されており、距離測定手段19から金属箔1までの距離を一定に保持した状態で、金属箔1の幅方向における所定の位置(本実施形態においては、塗工領域端部近傍)に固定されている。距離測定手段19は、レーザ照射器から金属箔1における一側の塗工層2(図7における上側の塗工層2)の塗工領域部と未塗工領域部の境界近傍に向けてレーザ光を照射し、当該境界近傍からの反射光をレーザ受光器が受光することで、当該境界近傍における塗工層2の厚み(図7おける上側の塗工層2の上下方向の高さ)を計測する。距離測定手段19は、取得した塗工層2の上下方向の高さ情報に基づいて金属箔1の塗工領域端部の位置、換言すれば、塗工領域部と未塗工領域部との境界の位置(金属箔1幅方向における位置)を検出する。距離測定手段19は、演算手段に電気的に接続されている。演算手段には、予め試料払出し手段14によって切り出される前記金属箔1の切り出し位置P1、P2の情報(例えば、切り出し位置P1、P2の中心点の位置情報)が記憶されており、例えば、切り出し位置P2の中心点の位置情報と、距離測定手段19により測定された前記塗工領域端部の位置情報とにより前記離間距離a(図6参照)を算出し、当該算出された離間距離aを塗工層2の塗工質量の算出に用いることができる。
【0049】
このように、前記試料切り出し手段12によって切り出される前記金属箔1の切り出し位置P2と前記塗工領域端部との距離を測定する距離測定手段19を用いることにより、リアルタイムで離間距離aを取得することができるため、当該離間距離aを塗工層2の塗工質量の算出に用いることで、精度の良い算出結果を得ることができる。
なお、本実施形態においては、距離測定手段19としてレーザー変位計を用いたが特に限定するものではなく、前記塗工領域端部を検出可能である手段、例えばCCDイメージセンサ等であってもよい。
【0050】
また、図6(a)に示す試料片4の切り出し位置P2端部と金属箔1の幅方向一端部との間隔bは、電極製造装置50における金属箔1の搬送の際にかかる所定のテンションに対し十分な強度を確保することができる間隔にすることが好ましい。例えば、間隔bは、金属箔1の未塗工領域部の幅長の半分程度から少なくとも数ミリ程度以上有するようにすることが好ましい。
【0051】
以上のように、本発明によれば、製造ライン上でライン搬送されている金属箔の目付け測定ができるため、目付け測定するために製造ラインを停止する必要がなく、製造ラインの稼動率が向上する。
【符号の説明】
【0052】
1 金属箔
2 塗工層
10 塗工目付測定装置
12 試料切り出し手段
13 質量測定手段
19 距離測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔に形成される塗工層の目付量を測定する塗工目付測定装置であって、
搬送される前記金属箔から所定の部分を切り出すための切り出し手段と、
前記所定の部分の質量を測定する質量測定手段と、を備え、
塗工剤を前記金属箔の表面に塗工した後に前記金属箔の裏面に塗工することにより、前記金属箔両面に塗工層を形成する際に、
前記金属箔の表面に塗工剤を塗工して乾燥させた後、かつ前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工する前と、当該乾燥後の前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工して乾燥させた後とのそれぞれにおいて、
搬送される前記金属箔から、前記金属箔の塗工領域部分と、前記金属箔の塗工領域と未塗工領域との境界を含む部分の2箇所を前記切り出し手段により切り出し、前記質量測定手段によりその両者の質量を測定し、その両者の質量差から前記塗工層の塗工質量を算出することを特徴とする塗工目付測定装置。
【請求項2】
前記切り出し手段によって切り出される前記金属箔の切り出し位置と前記塗工領域端部との距離を測定する手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の塗工目付測定装置。
【請求項3】
金属箔に形成される塗工層の目付量を測定する塗工目付測定方法であって、
塗工剤を前記金属箔の表面に塗工した後に前記金属箔の裏面に塗工することにより、前記金属箔両面に塗工層を形成する際に、
前記金属箔の表面に塗工剤を塗工して乾燥させた後、かつ前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工する前と、当該乾燥後の前記金属箔の裏面に塗工剤を塗工して乾燥させた後とのそれぞれにおいて、
搬送される前記金属箔から、前記金属箔の塗工領域部分と、前記金属箔の塗工領域と未塗工領域との境界を含む部分の2箇所を切り出し、その両者の質量を測定し、その両者の質量差から前記塗工層の塗工質量を算出することを特徴とする塗工目付測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−19762(P2013−19762A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153330(P2011−153330)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)