説明

塗布具

【課題】 筆記用媒体とインク駆動部材の間に空気が密封されることとなり、この空気が圧縮され、前記インク駆動部材を押し返そうとするため、そのインク駆動部材を前記筆記用媒体の後端界面に密着する位置まで挿入することが困難であった。
【解決手段】 ペン先と、そのペン先の後端に接続される軸筒を有し、その軸筒内に塗布液と、その塗布液の後端界面、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端界面に密着して前進するスライド栓を収容した塗布具であって、前記軸筒の内面に細溝を形成すると共に、その細溝を前記塗付液の後端付近、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端付近から軸筒の後部に向けて形成した塗布具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン先と、前記ペン先の後端に接続される軸筒を有し、前記軸筒内に塗布液と、前記塗布液の後端界面に密着して前進するスライド栓を収容した塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布液と空気の置換によって筆記を行う塗布具が存在するが、温度上昇による内圧上昇及び塗布液の洩れが問題視されており、この回避策として、軸筒内にスライド栓を配置し、塗布液の消費につれて、そのスライド栓を前進させることによって、塗布液収容部内に空気が存在しないように構成した塗布具が多く開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
加えて、スライド栓の後方に加圧システムを設けることによって、前記スライド栓及び塗布液に圧力を加えて吐出支援を行う加圧式筆記具もまた多く開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−5897号公報
【特許文献2】特許第4131794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、インキ筒内に、インキと、前記インキの封止状態を維持しながら、インキの消費につれて前進するスライド栓を備える直液式筆記具であるが、その組立を行うにあたり、既にインキが充填された状態で、スライド栓を前記インキ筒の後端開口部から挿入しようとすると、そのインキ筒内の空気が前記インキとスライド栓との間で密封圧縮され、そのスライド栓を後方へと押し返そうとする。そのため、前記スライド栓をインキの後端界面に密着するまで挿入することが困難であった。
【0006】
特許文献2は、インク管内に、筆記用媒体と、インク管の内面に変形して適合し、かつ、接触するように十分に大きい直径を有している圧縮性インク駆動部材(本発明のスライド栓にあたる)と、加圧システムを備えた加圧式筆記具であり、前記インク管の内面は、後端から前端に向けて先細りに成形されている。そのため、前記インク駆動部材とインク管内面は、前記筆記用媒体の後端界面よりもさらに後方で接触し始める。つまり、前記インク管内には、筆記用媒体とインク駆動部材の間で空気が密封されることとなり、この空気が圧縮され、前記インク駆動部材を押し返そうとする。そのため、そのインク駆動部材を前記筆記用媒体の後端界面に密着するまで挿入することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ペン先と、そのペン先の後端に接続される軸筒を有し、その軸筒内に塗布液と、その塗布液の後端界面、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端界面に密着して前進するスライド栓を収容した塗布具であって、前記軸筒の内面に細溝を形成すると共に、その細溝を前記塗付液の後端付近、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端付近から軸筒の後部に向けて形成したことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ペン先と、そのペン先の後端に接続される軸筒を有し、その軸筒内に塗布液と、その塗布液の後端界面、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端界面に密着して前進するスライド栓を収容した塗布具であって、前記軸筒の内面に細溝を形成すると共に、その細溝を前記塗付液の後端付近、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端付近から軸筒の後部に向けて形成したので、既に、軸筒内に塗布液が充填された状態で、スライド栓を軸筒の後端開口部から挿入しても、その軸筒内の空気によってスライド栓が押し返されることなく、スライド栓を塗布液の後端界面に密着するまで容易に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施例を示す縦断面図(スライド栓の挿入過程)。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】図2のY−Y部横断面図。
【図4】第1実施例を示す縦断面図(スライド栓の挿入完了時)。
【図5】図4のB部拡大図。
【図6】図5のZ−Z部横断面図。
【図7】第1実施例における細溝の変形例を示す図3相当図。
【図8】第1実施例における細溝の変形例を示す図3相当図。
【図9】第2実施例を示す縦断面図(スライド栓の挿入完了時)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、作用について説明する。ペン先と、そのペン先の後端に接続される軸筒を有し、その軸筒内に塗布液と、その塗布液の後端界面、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端界面に密着して前進するスライド栓を収容した塗布具であって、前記軸筒の内面に細溝を形成すると共に、その細溝を前記塗付液の後端付近、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端付近から軸筒の後部に向けて形成した塗布具の組立を行うにあたり、既に、軸筒に塗布液が充填された状態で、スライド栓を軸筒の後端開口部から挿入すると、その軸筒内の空気が前方へと押し込まれる。即ち、圧縮作用が働く、しかし、本発明の塗布具に使用される軸筒は、その軸筒の内面に細溝を有し、その細溝が塗付液の後端付近から軸筒の後部に向けて形成されている。即ち、前記軸筒内面とスライド栓の接触が一部離間された状態となっているのである。その結果、前記軸筒内で圧縮されようとする空気は、前記細溝を通じて軸筒の外部へと排出される。つまり、その軸筒内の空気の外部への排出によって、その軸筒内の空気は、塗布液とスライド栓の間で密封圧縮されず、前記スライド栓を後方へと押し返すことがないのである。その結果、前記スライド栓を塗布液の後端界面、或いは、グリースの後端界面に密着するまで容易に挿入することができるのである。
【0011】
以下、第1実施例について図1から図8に基づき詳細に説明する。図1、2、3は、既に塗布液が充填された軸筒内に、前記軸筒の後端開口部からスライド栓を挿入し始めた状態を示す縦断面図、拡大図、横断面図である。また、図4、5、6はスライド栓が挿入され、塗布液後端界面に到達した状態を示す縦断面図、拡大図、横断面図である。
【0012】
筆記具本体1は、軸筒2と、その軸筒2の先端内孔3に圧入されたチップホルダー4、そのチップホルダーの先端内孔5に圧入されたボールペンチップ6、そのボールペンチップの先端7に回転自在に配置されたボール8、並びに、前記軸筒2内に収容された塗付液9、その塗付液9の後端に密着して配置された液状グリース10、そのグリース10の後端に密着して配置されたスライド栓11から構成されている。そして、前記塗布液9は、軸筒2やチップホルダー4及びボールペンチップ6の各々の内孔を介して、ボール8の表面へと供給される。
【0013】
尚、本例においては、チップホルダー4、そのチップホルダーの先端内孔5に圧入されたボールペンチップ6、そのボールペンチップの先端7に回転自在に配置されたボール8からペン先12を構成しているが、ボール8が配置されたボールペンチップ6をペン先12とし、前記軸筒の先端内孔3に圧入しても良い。
また、本例では、ペン先12の一例としてボールペンチップ6を挙げたが、射出成形によって形成した焼結体や、繊維収束体を研磨切削した、所謂、繊維ペン先、押出成形によって形成した、所謂、樹脂ペン先なども適宜採用することができる。
【0014】
前記軸筒2内に収容される塗布液9は、アルコール等の有機溶剤を主媒体とした油性インキであるが、水を主媒体とした水性インキも使用可能であり、これに着色成分である顔料及び/または染料、凍結防止等のための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性等を調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤等が配合されたものや、誤字修正等を目的とした酸化チタン等の白色隠蔽成分を配合したものであっても良い。
【0015】
前記軸筒2内に収容されるスライド栓11は、円柱形であり、その中腹に形成された環状の突部13によって前記軸筒の内面14に摺接している。尚、そのスライド栓11の形状は、球形や有底筒形等、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記環状の突部13は、必ずしも必要なものではないが、軸筒内面14との摺動性や安定性を高めるために形成するのが好ましい。その環状の突部13としては、本例においては1つであるが、上下に2つ、或いは、3つ形成しても良い。
【0016】
さらに、前記スライド栓11は、アスカーC硬度で50度のニトリルゴム製であるが、ブチルゴムやシリコンゴム等、他のゴム材料やエラストマー、または、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等でもよく、前記軸筒の内面14との密着性及び摺動性が良好であり、塗布液9との相溶性を考慮し、膨潤・溶解・分解等の変質や形状変化のないものであれば、材質・硬度共に適宜選択することができる。尚、本例では、前記スライド栓11の円柱部15と環状の突部13を一体に設けたが、これらは各々別体としても良く、異なる材質により構成することもできる。
【0017】
また、塗布液9の後端に密着してグリース10を充填し、スライド栓11との隔壁とすれば、塗布液9との間に相溶性がある材質でも、スライド栓11として採用することができる。そのグリース10の例としては、水やエチレングリコール、グリセリン等を増粘化した水性グリースや、シリコーンや流動パラフィン、ポリブデン、アルファーオレフィンをゲル化、或いは増粘化した油性グリース等、スライド栓11との相溶性がなく、塗布液9との反転を起こさないものであれば適宜選択することができる。
【0018】
前記軸筒2は、ポリプロピレン樹脂の射出成形品であるが、塗布液9或いはグリース10による膨潤・溶解・分解等の変質や形状変化がなく、且つ、水蒸気透過性の低い材質であれば、フッ素やナイロン等の樹脂、或いは樹脂表面にアルミ蒸着や酸化珪素蒸着を施したもの、樹脂中にアルミ粉末やガラス粉末を混入させたもの、ステンレスや真鍮等の金属等を使用しても良い。
【0019】
前記軸筒の内面14には、前記グリースの後端付近16から軸筒後端17までの間に、横断面形状が矩形である細溝18が延設されており、軸筒の内面14とスライド栓の突部13との接触を一部離間させている。尚、前記グリースの後端付近16とは、スライド栓の前端面19がグリースの後端界面20に密着した時、前記スライド栓の突部13が位置する部位を言い、その位置より前方では、前記軸筒の内面14とスライド栓の突部13が全周で摺接するよう設定されている。そのため、前記軸筒2内に既に塗布液9とグリース10が充填された状態で、スライド栓11を軸筒の後端開口部21から挿入すると、前記軸筒内の空気22は前方へと押し込まれるが、その押し込み過程において、前記細溝18を通じて空気22が軸筒2の外部へと排出される。即ち、前記軸筒内の空気22は、グリース10とスライド栓11の間で密封圧縮されず、スライド栓11を後方へと押し返すことがない。その結果、前記スライド栓11をグリースの後端界面20に密着するまで容易に挿入することができる。
【0020】
尚、本例の軸筒2は、その内面14を前方から後方にかけてストレート状にしているが、少なくともグリースの後端付近16から軸筒前端23までの間で、軸筒内面14とスライド栓の突部13が全周で摺接するように設定すればよい。即ち、軸筒後端17からグリースの後端付近16の内径をスライド栓11の外径よりも大きく形成したり、軸筒後端17から前端23に向けて内径を徐々に縮径するテーパ状としたりしてもよい。ちなみに、軸筒の内面14をテーパ状とした場合、軸筒の内面14を形成する成形ピン(コアピン)との分離が容易となる。
【0021】
また、前記細溝18は、軸筒2の内面14とスライド栓11の接触を一部離間するのみであり、その一部を除いては、スライド栓11と軸筒の内面14の密着が維持されている。そのため、前記スライド栓11は、軸筒2内で傾いたり、反転したりすることなく、正確に配置することができる。尚、前記細溝18の横断面形状は、スライド栓の突部13が細溝内に入り込み、空気の流通を妨げない程度であれば、図7、8に示すような半円形や扇形等でも良く、また、複数本形成しても良く、さらには、深さや幅など適宜選択しても良い。
さらに、本例においては、塗付液9とスライド栓11との間にグリース10を介在させているが、塗付液9の粘度や軸筒2の内径如何によっては塗付液9の後端にスライド栓11を直接配置しても良い。この塗付液9の後端にスライド栓11を直接配置する場合には、前記縦溝18を塗付液9の後端付近から軸筒後端17までの間に形成すれば良い。
【0022】
次に、第2実施例について図9に基づき詳細に説明する。筆記具本体24は、軸筒2と、その軸筒の先端内孔3に圧入されたチップホルダー4、そのチップホルダーの先端内孔5に圧入されたボールペンチップ6、そのボールペンチップの先端7に回転自在に配置されたボール8、並びに、前記軸筒2内に収容された塗付液9、その塗付液9の後端に密着して配置されたグリース10、そのグリース10の後端に密着して配置されたスライド栓11、並びに、そのスライド栓の後方に配置されたスプリング25、そのスプリング25の脱落を防止すると共に、前記軸筒の後端開口部21に圧入された尾栓26から構成されている。所謂、加圧式筆記具の一例である。
ちなみに、加圧式筆記具では、加圧システムによってスライド栓を介して塗布液及び/またはグリースに圧力が加えられるため、その塗布液及び/またはグリースがスライド栓と軸筒の間を押し分けて、そのスライド栓の後方へと洩れ出してしまう危険性が高い。そのため、前記スライド栓の軸筒の内面に対する圧入代をより一層大きくしている。その結果、前記スライド栓を塗布液及び/またはグリースの後端界面に密着する位置まで挿入することが益々困難なものになってしまっている。しかし、本実施例の加圧式筆記具では、軸筒の内面14に設けた細溝18により、前記軸筒の内面14に対するスライド栓11の圧入代を十分に大きく設定しても、軸筒内の空気22と外部との空気流通が確保される。その結果、前記スライド栓11をグリースの後端界面20に密着するまで容易に挿入することができると共に、加圧によるグリース10の洩れ出しを防ぐことができる。
【0023】
以下、第1実施例と同様の構成に関しては、その説明を省略する。
前記スプリング25は、スライド栓11を前方に付勢して塗布液9の吐出支援を行う加圧システムであり、そのスプリングの前端27をスライド栓の後端面28に当接し、スプリングの後端29を前記尾栓の前端面30に当接した状態で圧縮して設置される。また、前記スプリング25は、ステンレス製であり、その外径は前記軸筒2の内径よりも僅かに小径であるように設計されている。尚、本例では、加圧システムをスプリングとしたが、スライド栓を前方に付勢することが出来れば、圧縮気体やポンプのようなものであっても良い。
【0024】
前記尾栓26は、略円柱状であり、軸筒2との圧入部分の細溝31を封鎖することなく、通気可能に維持しているが、尾栓26に通気孔を設ければ、圧入部分における細溝31を必ずしも通気可能に維持する必要はない。また、前記尾栓26に変え、スプリングの後端29をカシメや溶着によって軸筒2に固定しても良い。尚、本例では、加圧システムをスプリングとしたため、スライド栓11の後方と外気を連通させ、スライド栓11が容易に前進できるように構成しているが、前記加圧システムが、例えば圧縮気体である場合には、密閉性のある尾栓としても良い。密閉性のある尾栓の例としては、円柱状であり、その側面に突起を有する、或いは尾栓自体が変形する等して細溝31を封鎖する手段が挙げられる。また、軸筒内の空気22が圧縮されて、スライド栓11が挿入時に後方へと押し返されない程度であれば、軸筒の後端17から密閉に必要な領域分だけ細溝を形成せず、尾栓26は円柱状にする等の手段も挙げられる。
【符号の説明】
【0025】
1筆記具本体
2軸筒
3軸筒の先端内孔
4チップホルダー
5チップホルダーの先端内孔
6ボールペンチップ
7ボールペンチップの先端
8ボール
9塗布液
10グリース
11スライド栓
12ペン先
13突部
14軸筒の内面
15円柱部
16グリースの後端付近
17軸筒後端
18細溝
19スライド栓の前端面
20グリースの後端界面
21軸筒の後端開口部
22軸筒内の空気
23軸筒前端
24筆記具本体
25スプリング(加圧システム)
26尾栓
27スプリングの前端
28スライド栓の後端面
29スプリングの後端
30尾栓の前端面
31圧入部分の細溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先と、そのペン先の後端に接続される軸筒を有し、その軸筒内に塗布液と、その塗布液の後端界面、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端界面に密着して前進するスライド栓を収容した塗布具であって、前記軸筒の内面に細溝を形成すると共に、その細溝を前記塗付液の後端付近、或いは、塗付液の後部に配置したグリースの後端付近から軸筒の後部に向けて形成した塗布具。
【請求項2】
前記スライド栓の周面に環状の突部を形成し、その環状の突部を軸筒の内面に摺接させた請求項1記載の塗布具。
【請求項3】
前記塗付液の後端部とスライド栓との間に液状グリースを介在した請求項1、或いは、請求項2に記載の塗布具。
【請求項4】
前記スライド栓を加圧システムによって、前記ペン先の方向に向けて付勢した請求項1〜請求項3の何れかに記載の塗布具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−14023(P2013−14023A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146537(P2011−146537)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】