説明

塗布油膜量の測定方法

【課題】鋼板等の金属材料の表面に塗布された防錆油や、圧延油などの油膜量の測定法を提供する。
【解決手段】金属材料上に塗布されている油を、一定量の溶剤で溶解した後、前記溶剤を一定量採取して石英ボード上に滴下し、前記石英ボードから前記溶剤を揮発させた後、前記石英ボード上に残留した油を燃焼赤外吸収装置に導入し、酸素気流中で前記油を燃焼させ、発生するCOガスおよび/またはCOガスの赤外吸収量を求め、予め求めておいた赤外吸収量と油量との関係から前記金属材料上に塗布されている油の油膜量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等の金属材料の表面に塗布された防錆油や、圧延油などの油膜量の測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延された金属材料の表面には、冷間圧延する際、材料や圧延ロールを冷却するための圧延油が残留し、更に製品出荷する際には、需要家との契約によってその用途に応じた防錆油が塗布され、これらによる油膜が形成される。
【0003】
圧延油は水系の潤滑油で、金属板と圧延ロールの間の潤滑状態をコントロールするために用いられるが、油膜が薄い場合は鋼板の表面に傷が入り焼つきが生じやすく、厚い場合は、金属板の表面の金属光沢が悪化したり、圧延中にスリップして板面が波うつ形状不良を発生しやすくなる。
【0004】
また、防錆油の塗布量の過不足は需要家加工工程でのプレス割れや、脱脂不良などで重大クレームを発生することがあり、圧延油や防錆油により金属板上に形成された油膜の油膜量を測定することは、品質保証の観点から、極めて重要である。
【0005】
通常、金属材料の表面の油膜量測定法として、重量測定法や、ハイドロフィルバランス法などが用いられている。
【0006】
しかし、重量法は、金属材料表面の油膜を脱脂する前後での重量差から油膜量を求める手法であるため、金属材料試料は薄く面積を広く取る必要があるだけでなく、測定精度が悪い。
【0007】
ハイドロフィルバランス法は、油を水面上に浮遊させることが必要で、浮き上がるまでに長時間を要し、親水性の油には使用できない。また油膜量の測定範囲にも制約があるなどの問題があった。
【0008】
そこで、より簡易な方法として、例えば、特許文献1には、予熱炉、燃焼炉、炭酸ガス量計測器および一酸化炭素量計測器を順次接続した装置で、金属板表面に塗布されている防錆油を予熱炉で蒸発させ、その蒸気を燃焼炉で燃焼させ、生成する炭酸ガスおよび一酸化炭素の量を測定することにより油膜量を測定する装置が開示されている。
【0009】
特許文献2には、既知量の油を塗布した金属材料について、その油を燃焼させ、生成する炭酸ガスおよび/または一酸化炭素の赤外吸収量を測定することにより塗布油膜量と赤外吸収量の関係を求め、次いで、未知量の油が塗布された金属材料について、前記と同様に炭酸ガスおよび/または一酸化炭素の赤外吸収量を測定し、先に求めた塗布油膜量と赤外吸収量の関係から塗布された油の量を求めることを特徴とする塗布油膜量測定方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭60−174936号公報
【特許文献2】特開平09−257728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載の装置を用いて油膜量を求めると、油によっては、燃焼の際に炭化するため完全には炭酸ガスや一酸化炭素に酸化されず、油膜量の正確な測定ができないという問題がある。
【0011】
また、特許文献2記載の方法では、燃焼炉内に油を塗布した金属試料を直接導入するため、試料の大きさに制約があり、場合によっては試料を適当なサイズに加工する必要が生じるうえ、塗布された油のみが燃焼する温度で測定を実施したとしても、金属試料内部の炭素によって、測定誤差を生じる恐れがあるなどの問題があった。
【0012】
そこで、本発明は上記課題を解決すべく、金属材料の表面に塗布された油膜量を簡便かつ正確に測定する塗布油膜量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.金属材料上に塗布されている油を、一定量の溶剤で溶解した後、前記溶剤を一定量採取して石英ボード上に滴下し、前記石英ボードから前記溶剤を揮発させた後、前記石英ボード上に残留した油を燃焼赤外吸収装置に導入し、酸素気流中で前記油を燃焼させ、発生するCOガスおよび/またはCOガスの赤外吸収量を求め、予め求めておいた赤外吸収量と油量との関係から前記金属材料上に塗布されている油の油膜量を求めることを特徴とする油膜量測定法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試験材となる金属材料を燃焼炉に導入することが無いので、油膜量の測定において金属材料からの汚染が無く、正確な油膜量を求めることが可能で産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、金属材料上に塗布されている油を溶剤で溶解後、その溶剤を一定量採取し、揮発させた後、その残留物を燃焼させて発生するCOガスおよび/またはCOガスによる赤外吸収量から油膜量を求めることを特徴とする。
【0016】
なお、本発明において、油量は油そのものの質量(単位は例えば、g、mg、μg)、油膜量は、当該油量を試験片とした金属材料の表面積で除した値(単位は例えば、mg/m)、とする。
【0017】
図1に、本発明により油膜量を求める処理過程の一例のフローチャートを示す。本発明では、まず、油膜が形成された金属材料から採取した試験片をビーカーなどの容器に入れる。次いで、その油を溶解することができる溶剤を、試験片が十分に浸る以上の容量だけピペット等を用いて正確に量り取り、前記ビーカー内に添加する。こうすることで、試験片の表面に形成された油膜を溶剤に溶解させる(S1)。
【0018】
溶剤は、塗布されている油を溶解することができる、揮発性が適度に高い液体であることがが望ましい。例えば、有機溶媒であることが望ましく、特に、ヘキサン、アセトンまたは四塩化炭素がより望ましい。また、試験片に塗布された油を十分に溶解抽出するため超音波振とうを用いることが有効である。
【0019】
次に、前記油が溶解した溶剤から、圧延油のみを石英ボード上に残留させる(S2)。前記油が溶解した溶剤をマイクロピペット等で正確に一定量だけ分取し、石英ボードに滴下すると、溶剤が揮発した後に、石英ボード上に試験片の表面から溶解された油のみが残留する。
【0020】
そして、前記油が残留した石英ボードを燃焼赤外吸収分析装置内へ導入する。前記油が燃焼して発生するCOガスおよび/またはCOガスによる赤外吸収量は、石英ボード上に滞留した油量に応じた強度が得られるので赤外吸収量を測定する(S3)。
【0021】
上記作業と独立して、種々の油量を溶解させた複数の溶媒についてS1〜S3の工程を行い、油量と赤外吸収量との関係を求め、検量線とする(S4)。
【0022】
S4の検量線から、S3で得た赤外吸収量に応じた油量(石英ボートに分取された分)を求める。次いで、当該求めた油量、S2で石英ボートへ分取した溶剤の容量およびS1で用いた溶剤の容量とから、金属材料表面よりS1で抽出した油量を算出する。さらに、算出した油量を試験片の表面積で徐することで油膜量を算出することができる。(S5)。
【0023】
尚、油量と赤外吸収量との関係を表す検量線を求める作業は、金属材料の油膜量を求める作業と独立して行うことが可能で、予め、前記検量線を求めておいた後、金属材料の油膜量を求める作業を行うなど、図示したフローチャートに限定されない。
【0024】
石英ボートは、燃焼赤外方式の炭素分析装置用に市販されている石英ボートであれば、特に制限は無く、測定後、繰り返し使用することができる。
【0025】
上述したように本発明では、金属材料に塗布された油膜量を測定する際、金属材料自体は燃焼炉内に導入しないので、油膜量の測定において金属材料の影響をうけず、測定精度に優れる。また、本発明は、冷延鋼板の油膜量の測定に好適であるが、表面に油が塗布された金属材料であれば、限定するものでない。
【実施例】
【0026】
本発明法により、鋼板:巾40×長さ40×板厚0.8(mm)上に塗布された圧延油の油膜量を定量した。試料は冷間圧延後の鋼板から、幅方向のセンターより切り出したものを用いた。油の燃焼には、管状炉タイプの炭素分析装置を使用し、燃焼温度は、1250℃で行った。
【0027】
まず、油量と赤外吸収量との関係を表す検量線を作成するため、圧延油0.1gを溶解した四塩化炭素50mlから、100,200,300,400,500μl分取し、石英ボートに滴下し、四塩化炭素を揮発させた。
【0028】
揮発後の石英ボードには、それぞれ200,400,600,800,1000μgの油が残留することになるので、油膜量に換算すると、125,250,375,500,625mg/mに相当する。
【0029】
これらの石英ボードを燃焼炉に導入して、発生するCOガスおよび/またはCOガスの赤外吸収量より、油量と赤外吸収量の検量線を求めた。図2に上記の手法により求めた検量線を示す。
【0030】
次に、鋼板上に未知の量の油が塗布された試料を200mlビーカーに入れ、四塩化炭素を10ml注ぎ、超音波振とうにより、鋼板上の油を溶解した。
【0031】
油を溶解した四塩化炭素より、500μlを正確に分取して、石英ボードに滴下し、四塩化炭素を揮発させた後、残留した油を燃焼炉内に導入し、発生するCOガスおよび/またはCOガスの赤外吸収量を求めた。
【0032】
予め求めておいた油量と赤外吸収量の検量線から、鋼板上に塗布されていた油膜量を求めた。表1に未知試料の定量結果を示した。
【0033】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のフローチャートを示す図。
【図2】検量線の一例を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料上に塗布されている油を、一定量の溶剤で溶解した後、前記溶剤を一定量採取して石英ボード上に滴下し、前記石英ボードから前記溶剤を揮発させた後、前記石英ボード上に残留した油を燃焼赤外吸収装置に導入し、酸素気流中で前記油を燃焼させ、発生するCOガスおよび/またはCOガスの赤外吸収量を求め、予め求めておいた赤外吸収量と油量との関係から前記金属材料上に塗布されている油の油膜量を求めることを特徴とする油膜量測定法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−198229(P2009−198229A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38110(P2008−38110)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】