塗布装置
【目的】 スロットギャップの平行度を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できるようにすること。
【構成】 スロット部18の上流側に塗料12を塗布幅方向に分配させるチャンバ部17を形成し、スロット部からウエブ11上へ塗料を押し付けるように塗布する塗布装置10において、スロット部のスロットギャップHと上記塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとがΔH/H≦0.05を満たし、且つチャンバ部内を塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbと、スロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15を満たすよう構成されたものである。
【構成】 スロット部18の上流側に塗料12を塗布幅方向に分配させるチャンバ部17を形成し、スロット部からウエブ11上へ塗料を押し付けるように塗布する塗布装置10において、スロット部のスロットギャップHと上記塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとがΔH/H≦0.05を満たし、且つチャンバ部内を塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbと、スロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15を満たすよう構成されたものである。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、走行する支持体に塗布液を塗布する塗布装置に関する。本発明でいう支持体とは、プラスチック、紙、布、金属などのシート又はウエブを指し、塗布液とは磁性分散液、感光液、感熱分散液、粘着液などを指し、夫々磁性記録媒体、写真フィルム、感熱紙、粘着テープを成すものである。
【0002】
【従来の技術】上記のような塗布には種々な塗布装置が用いられているが、その一つとしてエクストルージョン型ダイ塗布装置(以降“ダイ”と称す)が各分野で用いられている。このエクストルージョン型ダイ塗布装置(ダイ)においては、塗布幅方向に均一に塗布液を分配させることが重要な設計要素の一つである。このようなダイにはTダイ、コートハンガー型チャンバダイ、多段チャンバダイ及びチャンバ塗料循環型ダイがある。
【0003】(a) TダイこのTダイは、通常円柱形状の比較的容積の大きなチャンバ部を有し、塗料が、このチャンバ内を塗布幅方向に流れる際の流動抵抗を小さくして、塗布膜の塗布幅方向における膜厚むらを抑制するものである。
【0004】しかし、このTダイでは、チャンバ内での塗料の流れが緩慢であるため、特に磁性分散塗料のようなディスパージョン塗料の場合、塗料の凝集が進行して、塗布膜の表面性が低下してしまうおそれがある。
【0005】(b) コートハンガー型チャンバダイこのコートハンガー型チャンバダイは、チャンバの形状がコートハンガー形状に形成され、このチャンバ内を塗布幅方向に流れる塗料の流速を一定以上に保持して、塗料を同方向に均一に分配し、塗布膜の塗布幅方向の膜厚むらを抑制すると同時に、チャンバ内を流れる塗料に剪断力を与えて、塗料の凝集を抑制し、塗布膜の表面性を良好にしたものである。
【0006】ところが、上述の塗布膜の膜厚むらの抑制や表面性の向上を達成するためには、塗料の流動物性を的確に把握した上で、このダイの設計を実施しなければならない。また、一旦設計されたダイは、ごく狭い範囲の塗布操作条件(例えば塗布速度、塗布膜厚、塗布粘度等)下でなければ適用できない。
【0007】(c) 多段チャンバダイこの多段チャンバダイは、特開昭53-36458号公報や英国特許番号1,389,074 号に記載されているように、チャンバを直列に複数段設けたものであり、それぞれのチャンバ容量、スロット部のスロットギャップ、スロット長を最適化することにより、塗布幅方向における塗料の分配性を良好にして、塗布膜の同方向における膜厚むらを抑え、且つ、塗料に剪断力を付与して塗料の凝集を抑制し、塗布膜の表面性を向上させることができる。
【0008】ところが、塗料に更に剪断力を付与しようとすると、チャンバ容量やスロットギャップを更に小さくしなければならず、この場合、塗布膜に、塗布幅方向のむらが生じてしまうおそれがある。
【0009】(d) チャンバ塗料循環型ダイこのチャンバ塗料循環型ダイは、特開昭52-22039号公報や米国特許番号4,465,707 号に記載のように、塗料の一部をスロット部以外の部位から外部へ排出させることにより、塗料を積極的に流動させて、塗料に剪断力を付与するものである。また、チャンバ塗料循環型ダイとは異なるが、米国特許番号3,227,136 号記載の如く、チャンバ内にシリンダを設置し、このシリンダを回転させて、チャンバ内の塗料に剪断力を付与するダイも提案されている。
【0010】しかしながら、上述のチャンバ塗料循環型ダイ等では、ポンプや配管の追加が必要となって、装置構造が煩雑となってしまう。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、各種ダイには一長一短があるが、いずれのダイも、塗布幅方向における均一膜厚塗布が第1の目的であり、塗布膜の表面性向上が第2の目的である。
【0012】また、近年、塗布膜の薄膜化が要請されており、そのために、スロット部のスロットギャップが狭小化する傾向にある。このスロットギャップが狭小化すると、スロットギャップの加工精度、即ち塗布幅方向の平行度が膜厚むらに与える影響が著しく大きくなってくる。しかし、従来の各種ダイには、このスロットギャップの平行度を加味した設計がなされていない。
【0013】本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、スロットギャップの平行度を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる塗布装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、上流側リップと下流側リップに挟まれて塗布幅方向に均一なスロット部が形成され、このスロット部の上流側に塗布液を塗布幅方向に分配させるチャンバー部が形成され、上記上流側リップ及び下流側リップに対向して走行する支持体上に上記スロット部から上記塗布液を押し付けるように塗布する塗布装置において、上記スロット部のスロットギャップHと上記塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとがΔH/H≦0.05を満たし、且つ、上記チャンバ部内を上記塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbと、上記スロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15を満たすよう構成されたものである。
【0015】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記塗料がディスパージョン塗料の場合には、ΔH/H≦0.03Pb/Ps≦0.06を満たすよう構成されたものである。
【0016】
【作用】請求項1に記載の発明には、次の作用がある。スロットギャップHと塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとから規定されるスロットギャップの精度(平行度)ΔH/Hは、ΔH/H≦0.05なる範囲に設定されているので、スロットギャップHの加工精度ΔH/Hに基づく塗布幅方向の塗布膜厚のむらを極力抑えることができる。また、チャンバ部内を塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbとスロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15なる範囲に設定されたので、更に、塗布幅方向における塗布膜の膜厚むらを、更に抑えることができる。これらの結果、スロットギャップの精度(平行度)を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【0017】一般に、Pb/Psを小さくすればするほど塗布幅方向の膜厚分布を均一化できる。Pb/Psを小さくするにはPbを小さくするか、Psを大きくすれば良い。Pbを小さくするのはチャンバ容量を大きくする事によって達成できるが機械装置としての大きさの制限からPbには設計上達成可能な下限が存在する。一方、Psを大きくするためにはスロット長を長くするか、スロットギャップHを小さくすれば良い。然しながら、Psはスロット長に対する依存度が低く、スロット長を長くすることはチャンバ容量を大きくすることと同様設備上の制限が存在する。従って、スロットギャップHを小さくすることが望ましいが、式■の制限によりスロットギャップHを単純に小さくすることは出来ない。このような条件のもとでPb/Psをどの程度まで小さくすれば満足な塗布が行なえるのか、換言すれば、チャンバの大きさ、スロット長、スロットギャップなどの大きさや長さはどの程度までなら許されるのかの限度が式■によって与えられる。
【0018】請求項2に記載の発明には、次の作用がある。ディスパージョン塗料はチャンバ内で凝集し易く、更に、塗布膜の塗布幅方向に膜厚むらが生じ易いので、ΔH/H≦0.03Pb/Ps≦0.06に設定することによって、スロットギャップの精度(平行度)を加味した上で、塗布膜の表面性を良好に維持しつつ、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【0019】ディスパージョン系塗料は通常チキソ性を有し、且つ凝集性も合わせ持つ。そのため、チャンバ部においても流動状態にあることが望まれるが、それにはPbを大きくする必要がある。然しながら、ディスパージョン系塗料の場合、ニュートニアンに近い塗料に比べ、膜厚が塗布巾方向に不均一化の傾向にあるので、膜厚分布の均一化を第1目的とした場合、Pb/Ps=0.06が上限となる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る塗布装置の一実施例におけるダイヘッドを示す斜視図である。図2は、図1のダイヘッドの縦断面図である。図3は、図2の一部拡大図である。
【0021】図1及び図2に示す塗布装置10はTダイであり、連続的に走行する支持体としてのウエブ11に塗料12を塗布するものである。ここで、支持体としては、ウエブ11の他にプラスチック、紙、布或いは金属等の可撓性シート等がある。また、塗料12は、磁性分散液、感光液、感熱分散液或いは粘着液等である。
【0022】塗布装置10は、上流側ブロック13と下流側ブロック14とを接合して構成されたダイヘッド15を有し、上記接合部分に液インレット16、チャンバ部17及びスロット部18が形成される。上流側ブロック13と下流側ブロック14との先端部に、上流側リップ19と下流側リップ20とがそれぞれ設けられる。スロット部18は、これらの上流側リップ19及び下流側リップ20間に形成され、チャンバ部17に連通される。このチャンバ部17は液インレット16に連通される。この液インレット16に、液供給系21から塗料12が供給される。従って、塗料12は、液供給系21から液インレット16を経てチャンバ部17内に流入し、スロット部18を通って、上流側リップ19及び下流側リップ20に対向して走行するウエブ11に連続的に塗布される。
【0023】上記上流側リップ19及び下流側リップ20、チャンバ部17並びにスロット部18は、ウエブ11の幅とほぼ同一幅に設定される。また、チャンバ部17は、円柱形状に形成され、液インレット16からの塗料12を、塗布幅方向において塗布量が均一になるように分配させ、スロット部18へ供給する。
【0024】スロット部18は、平行平板形状の狭路として構成され、チャンバ部17と組み合わされて、塗料12を塗布幅方向に均一に塗布できるように機能する。
【0025】このスロット部18のスロットギャップHは、塗布対象によっても異なるが、通常数十μm から数mmに設定される。このスロットギャップHは、図3に示すように、スロット部18の塗布幅方向における最大値をHmax とし、最小値をHmin とすると、
【数1】
として規定される。尚、塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHは、ΔH=Hmax −Hminとして規定される。
【0026】ところで、塗布幅方向における塗布膜の膜厚むらや塗布膜の表面性状は、スロットギャップHの塗布幅方向の平行度つまりスロットギャップHの精度(ΔH/H)、及び塗料12がチャンバ部17内を塗布幅方向に流動する際の圧力損失Pbと塗料12がスロット部18から流出する方向にこのスロット部18内を流動する際の圧力損失Psとの比(Pb/Ps)の影響を受ける。
【0027】上記スロットギャップHの精度ΔH/HはΔH/H≦0.05 …■の範囲に設定され、また圧力損失の比Pb/Psは、Pb/Ps≦0.15 …■に設定される。
【0028】一般に、Pb/Psを小さくすればするほど塗布幅方向の膜厚分布を均一化できる。Pb/Psを小さくするにはPbを小さくするか、Psを大きくすれば良い。Pbを小さくするのはチャンバ容量を大きくする事によって達成できるが機械装置としての大きさの制限からPbには設計上達成可能な下限が存在する。一方、Psを大きくするためにはスロット長を長くするか、スロットギャップHを小さくすれば良い。然しながら、Psはスロット長に対する依存度が低く、スロット長を長くすることはチャンバ容量を大きくすることと同様設備上の制限が存在する。従って、スロットギャップHを小さくすることが望ましいが、式■の制限によりスロットギャップHを単純に小さくすることは出来ない。このような条件のもとでPb/Psをどの程度まで小さくすれば満足な塗布が行なえるのか、換言すれば、チャンバの大きさ、スロット長、スロットギャップなどの大きさや長さはどの程度までなら許されるのかの限度が式■によって与えられる。
【0029】また、特に、塗料12が磁性分散液や熱転写型インクリボン用塗料等のようなディスパージョン塗料である場合には、この塗料が凝集しやすく、然も塗布膜の膜厚むらが生じやすいので、スロットギャップHの精度ΔH/Hと圧力損失の比Pb/Psは、ΔH/H≦0.03 …■Pb/Ps≦0.06 …■に設定される。ディスパージョン系塗料は通常チキソ性を有し、且つ凝集性も持ち合わせる。そのため、チャンバ部においても流動状態にあることが望まれるが、それにはPbを大きくする必要がある。然しながら、ディスパージョン系塗料の場合、ニュートニアンに近い塗料に比べ、膜厚が塗布巾方向に不均一化の傾向にあるので、膜厚分布の均一化を第1目的とした場合、Pb/Ps=0.06が上限となる。
【0030】上記実施例によれば、スロットギャップHと塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとから規定されるスロット部18の精度(塗布幅方向の平行度)ΔH/Hは式■なる範囲に設定され、更に、チャンバ部17内を塗布幅方向に流動する塗料12の圧力損失Pbと、スロット部18内を流動する塗料12の圧力損失Psとが式■なる範囲に設定されているので、塗布幅方向における塗布膜の膜厚むらを抑えることができる。これらの結果、スロットギャップの精度(平行度)を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【0031】また、塗料12が磁性分散液等のようなディスパージョン塗料の場合には、このディスパージョン塗料がチャンバ部17内で凝集しやすく、然も塗布膜の塗布幅方向における膜厚むらが生じやすいので、スロットギャップHの精度ΔH/Hと圧力損失の比Pb/Psをそれぞれ式■、式■と設定したことから、この場合にも、スロットギャップの平行度を加味した上で、塗布膜表面性を良好に維持しつつ、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【0032】ここで、実験結果を用いて、上記実施例の効果を明確化する。図4は、実験装置として採用したダイを示す斜視図である。図5は、図4のダイの正面図である。図6は、図5のVI-VI 線に沿う断面図である。図7R>7は、図4〜図6の液セパレータを示す斜視図である。図8は、バインダー希釈溶液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。図9は、磁性分散液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。
【0033】実験装置として採用されたダイ30は、図4R>4〜図6に示すように、上流側ブロック31に下流側固定ブロック32及び下流側可動ブロック33が接合されて構成され、接合面にチャンバ部34及びスロット部35が形成される。
【0034】ダイ30の幅は約300mm であり、チャンバ部34は、ダイ30の幅方向に同一断面形状の円柱形状に形成されて、スロット部35に連通する。このチャンバ部34は、ダイ30の幅方向の両端に設置されたダイ側面部36及び37により画成され、一方のダイ側面部36に液供給系39が接続される。この液供給系39からの塗布液40は、一方のダイ側面部36に形成された液インレット38を経てチャンバ部34へ導かれ、スロット部35へ供給される。
【0035】スロット部35は、上流側ブロック31と下流側可動ブロック33との両先端部にそれぞれ形成された上流側リップ41と下流側リップ42との間に形成される。そして、このスロット部35は、下流側可動ブロック33を上流側ブロック31に対し接近或いは離反させ、固定ボルト29で固定することによりスロットギャップHが規定される。このスロットギャップHは、本実験では100 〜1000μm の範囲に設定されている。
【0036】スロットギャップHは、スロット部35のダイ幅方向両端部にシム43及び44を介在することにより所望の値に設定される。本実験では、シム43とシム44との肉厚を異ならせることによって、塗布幅方向におけるスロットギャップHの誤差ΔHを設定している。尚、本実験では、スロット部35のスロットギャップHの値によっても異なるが、スロット部35からの塗料40の吐出量は10〜1000cc/min に設定されている。
【0037】また、チャンバ部34には、液インレット38側の一端部と他端部とに第1圧力計45と第2圧力計46がそれぞれ設置され、チャンバ部34の両端部の圧力がそれぞれ測定される。この第1圧力計45の測定値P1 と第2圧力計46の測定値P2 との差の絶対値を計算して、塗料40がチャンバ部34を塗布幅方向に流動する際に生ずる圧力損失Pbを求める。また、上記測定値P1 とP2 との平均値を計算して、塗料40がスロット部35から流出する方向にスロット部35内を流れる際の圧力損失Psを求める。
【0038】ここで、塗料40としては、ニュートニアンを示すバインダー希釈溶液と、擬塑性を示す磁性分散塗料を用いた。バインダー希釈溶液は、VAGH(ユニオンカーバイト社製)をメチルエチルケトン、トルエン及びシクロヘキサノンの混合溶剤で希釈し、粘度10〜50 Cp に調整したものである。また、磁性分散塗料は、表1に示す配合を有するものである。
【表1】
【0039】また、ダイ30のスロット部35近傍の上流側リップ41に、図4〜図6に示すように液セパレータ47を設置し、スロット部35から吐出される塗料40の流量を直接重量測定する。この液セパレータ47は、図7に示すように、平面形状の基板48に、三角形状の流路49を約30mmのピッチで形成し、スロット部35を塗布幅方向に例えば10分割して、このスロット部35から吐出される塗料40を分離するものである。この分離された塗料40が、複数の計量カップ50のそれぞれにて集められる。この塗布膜方向に配置された複数の計量カップ50のそれぞれにて集められた塗料の重量流量の相違(流量むら)は、塗布膜の塗布幅方向の膜厚むらに対応する。
【0040】上述のように、スロット部35から吐出された塗料40の流量を液セパレータ47及び計量カップ50を用いて直接重量測定することにより、チャンバ部34、スロット部35及び塗布操作条件が塗布膜の膜厚に及ぼす影響を明確化できる。
【0041】つまり、塗料40としてバインダー希釈溶液を用いた実験例1では、図8に示すように、スロットギャップHの精度(平行度)ΔH/Hが式■を満たし、且つ、圧力損失の比Pb/Psが式■を満たす場合に、記号〇で示すように、塗布幅方向の塗料40の流量むら(つまり塗布膜の同方向における膜厚むら)が30%以下となっている。尚、図8中においては、塗布幅方向の塗料40の流量むらが30〜50%の場合を記号△で示し、同流量むらが50%以上の場合を記号Xで示している。
【0042】塗料40として磁性分散塗料を用いた実験例2では、図9に示すように、スロットギャップHの精度(平行度)ΔH/Hが式■を満たし、且つ圧力損失の比Pb/Psが式■を満たす場合に、記号〇で示すように、塗布幅方向の塗料40の流量むら(つまり塗布膜の同方向における膜厚むら)が30%以下となっている。尚、図9中においても、塗布幅方向の塗料40の流量むらが30〜50%の場合を記号△で示し、同流量むらが50%以上の場合を記号Xで示している。
【0043】尚、上記実施例では、塗布装置10がTダイの場合を述べたが、図10に示すコートハンガー型チャンバダイ51や図11に示す片ハンガー型チャンバダイ52に本発明を適用しても良い。この両変形例では、前記実施例と同様な部分に、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0044】コートハンガー型チャンバダイ51は、液インレット53が、ダイ51の幅方向中央部に設けられたものであり、この液インレット53に連通したチャンバ54は、液インレット53から両方向へ遠ざかる程断面積が減少するように形成されている。また、片ハンガー型チャンバダイ52は、液インレット55がダイ52の一側面部に形成されたものであり、この液インレット55に連通したチャンバ部56は、液インレット55から一方向に遠ざかる程断面積が減少して形成される。これらのコートハンガー型チャンバダイ51及び片ハンガー型チャンバダイ52を用いることにより、塗布幅方向における塗布膜の膜厚をより一層均一にすることができる。
【0045】更に本発明を多段チャンバダイやチャンバ塗料循環型ダイに適用しても良い。
【0046】
【発明の効果】以上のように、本発明に係る塗布装置によれば、スロットギャップの平行度を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る塗布装置の一実施例におけるダイヘッドを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1のダイヘッドの縦断面図である。
【図3】図3は、図2の一部拡大図である。
【図4】図4は、実験装置として採用したダイを示す斜視図である。
【図5】図5は、図4のダイの正面図である。
【図6】図6は、図5のVI-VI 線に沿う断面図である。
【図7】図7は、図4〜図6の液セパレータを示す斜視図である。
【図8】図8は、バインダー希釈溶液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、磁性分散液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明に係る塗布装置が適用されたコートハンガー型チャンバダイを示し、図10(A)が図10(B)のXA-XA 線に沿う断面図であり、図10(B)が図10(A)のXB-XB 線に沿う断面図である。
【図11】図11は、本発明の塗布装置が適用された片ハンガー型チャンバダイを示し、図11(A)が図11(B)のXIA-XIA 線に沿う断面図であり、図11(B)が図11(A)のXIB-XIB 線に沿う断面図である。
【符号の説明】
10 塗布装置
11 ウエブ
12 塗料
17 チャンバ部
18 スロット部
19 上流側リップ
20 下流側リップ
30 ダイ
34 チャンバ部
35 スロット部
40 塗料
41 上流側リップ
42 下流側リップ
H スロットギャップ
ΔH スロットギャップの誤差
Pb 圧力損失
Ps 圧力損失
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、走行する支持体に塗布液を塗布する塗布装置に関する。本発明でいう支持体とは、プラスチック、紙、布、金属などのシート又はウエブを指し、塗布液とは磁性分散液、感光液、感熱分散液、粘着液などを指し、夫々磁性記録媒体、写真フィルム、感熱紙、粘着テープを成すものである。
【0002】
【従来の技術】上記のような塗布には種々な塗布装置が用いられているが、その一つとしてエクストルージョン型ダイ塗布装置(以降“ダイ”と称す)が各分野で用いられている。このエクストルージョン型ダイ塗布装置(ダイ)においては、塗布幅方向に均一に塗布液を分配させることが重要な設計要素の一つである。このようなダイにはTダイ、コートハンガー型チャンバダイ、多段チャンバダイ及びチャンバ塗料循環型ダイがある。
【0003】(a) TダイこのTダイは、通常円柱形状の比較的容積の大きなチャンバ部を有し、塗料が、このチャンバ内を塗布幅方向に流れる際の流動抵抗を小さくして、塗布膜の塗布幅方向における膜厚むらを抑制するものである。
【0004】しかし、このTダイでは、チャンバ内での塗料の流れが緩慢であるため、特に磁性分散塗料のようなディスパージョン塗料の場合、塗料の凝集が進行して、塗布膜の表面性が低下してしまうおそれがある。
【0005】(b) コートハンガー型チャンバダイこのコートハンガー型チャンバダイは、チャンバの形状がコートハンガー形状に形成され、このチャンバ内を塗布幅方向に流れる塗料の流速を一定以上に保持して、塗料を同方向に均一に分配し、塗布膜の塗布幅方向の膜厚むらを抑制すると同時に、チャンバ内を流れる塗料に剪断力を与えて、塗料の凝集を抑制し、塗布膜の表面性を良好にしたものである。
【0006】ところが、上述の塗布膜の膜厚むらの抑制や表面性の向上を達成するためには、塗料の流動物性を的確に把握した上で、このダイの設計を実施しなければならない。また、一旦設計されたダイは、ごく狭い範囲の塗布操作条件(例えば塗布速度、塗布膜厚、塗布粘度等)下でなければ適用できない。
【0007】(c) 多段チャンバダイこの多段チャンバダイは、特開昭53-36458号公報や英国特許番号1,389,074 号に記載されているように、チャンバを直列に複数段設けたものであり、それぞれのチャンバ容量、スロット部のスロットギャップ、スロット長を最適化することにより、塗布幅方向における塗料の分配性を良好にして、塗布膜の同方向における膜厚むらを抑え、且つ、塗料に剪断力を付与して塗料の凝集を抑制し、塗布膜の表面性を向上させることができる。
【0008】ところが、塗料に更に剪断力を付与しようとすると、チャンバ容量やスロットギャップを更に小さくしなければならず、この場合、塗布膜に、塗布幅方向のむらが生じてしまうおそれがある。
【0009】(d) チャンバ塗料循環型ダイこのチャンバ塗料循環型ダイは、特開昭52-22039号公報や米国特許番号4,465,707 号に記載のように、塗料の一部をスロット部以外の部位から外部へ排出させることにより、塗料を積極的に流動させて、塗料に剪断力を付与するものである。また、チャンバ塗料循環型ダイとは異なるが、米国特許番号3,227,136 号記載の如く、チャンバ内にシリンダを設置し、このシリンダを回転させて、チャンバ内の塗料に剪断力を付与するダイも提案されている。
【0010】しかしながら、上述のチャンバ塗料循環型ダイ等では、ポンプや配管の追加が必要となって、装置構造が煩雑となってしまう。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、各種ダイには一長一短があるが、いずれのダイも、塗布幅方向における均一膜厚塗布が第1の目的であり、塗布膜の表面性向上が第2の目的である。
【0012】また、近年、塗布膜の薄膜化が要請されており、そのために、スロット部のスロットギャップが狭小化する傾向にある。このスロットギャップが狭小化すると、スロットギャップの加工精度、即ち塗布幅方向の平行度が膜厚むらに与える影響が著しく大きくなってくる。しかし、従来の各種ダイには、このスロットギャップの平行度を加味した設計がなされていない。
【0013】本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、スロットギャップの平行度を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる塗布装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、上流側リップと下流側リップに挟まれて塗布幅方向に均一なスロット部が形成され、このスロット部の上流側に塗布液を塗布幅方向に分配させるチャンバー部が形成され、上記上流側リップ及び下流側リップに対向して走行する支持体上に上記スロット部から上記塗布液を押し付けるように塗布する塗布装置において、上記スロット部のスロットギャップHと上記塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとがΔH/H≦0.05を満たし、且つ、上記チャンバ部内を上記塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbと、上記スロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15を満たすよう構成されたものである。
【0015】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記塗料がディスパージョン塗料の場合には、ΔH/H≦0.03Pb/Ps≦0.06を満たすよう構成されたものである。
【0016】
【作用】請求項1に記載の発明には、次の作用がある。スロットギャップHと塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとから規定されるスロットギャップの精度(平行度)ΔH/Hは、ΔH/H≦0.05なる範囲に設定されているので、スロットギャップHの加工精度ΔH/Hに基づく塗布幅方向の塗布膜厚のむらを極力抑えることができる。また、チャンバ部内を塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbとスロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15なる範囲に設定されたので、更に、塗布幅方向における塗布膜の膜厚むらを、更に抑えることができる。これらの結果、スロットギャップの精度(平行度)を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【0017】一般に、Pb/Psを小さくすればするほど塗布幅方向の膜厚分布を均一化できる。Pb/Psを小さくするにはPbを小さくするか、Psを大きくすれば良い。Pbを小さくするのはチャンバ容量を大きくする事によって達成できるが機械装置としての大きさの制限からPbには設計上達成可能な下限が存在する。一方、Psを大きくするためにはスロット長を長くするか、スロットギャップHを小さくすれば良い。然しながら、Psはスロット長に対する依存度が低く、スロット長を長くすることはチャンバ容量を大きくすることと同様設備上の制限が存在する。従って、スロットギャップHを小さくすることが望ましいが、式
【0018】請求項2に記載の発明には、次の作用がある。ディスパージョン塗料はチャンバ内で凝集し易く、更に、塗布膜の塗布幅方向に膜厚むらが生じ易いので、ΔH/H≦0.03Pb/Ps≦0.06に設定することによって、スロットギャップの精度(平行度)を加味した上で、塗布膜の表面性を良好に維持しつつ、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【0019】ディスパージョン系塗料は通常チキソ性を有し、且つ凝集性も合わせ持つ。そのため、チャンバ部においても流動状態にあることが望まれるが、それにはPbを大きくする必要がある。然しながら、ディスパージョン系塗料の場合、ニュートニアンに近い塗料に比べ、膜厚が塗布巾方向に不均一化の傾向にあるので、膜厚分布の均一化を第1目的とした場合、Pb/Ps=0.06が上限となる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る塗布装置の一実施例におけるダイヘッドを示す斜視図である。図2は、図1のダイヘッドの縦断面図である。図3は、図2の一部拡大図である。
【0021】図1及び図2に示す塗布装置10はTダイであり、連続的に走行する支持体としてのウエブ11に塗料12を塗布するものである。ここで、支持体としては、ウエブ11の他にプラスチック、紙、布或いは金属等の可撓性シート等がある。また、塗料12は、磁性分散液、感光液、感熱分散液或いは粘着液等である。
【0022】塗布装置10は、上流側ブロック13と下流側ブロック14とを接合して構成されたダイヘッド15を有し、上記接合部分に液インレット16、チャンバ部17及びスロット部18が形成される。上流側ブロック13と下流側ブロック14との先端部に、上流側リップ19と下流側リップ20とがそれぞれ設けられる。スロット部18は、これらの上流側リップ19及び下流側リップ20間に形成され、チャンバ部17に連通される。このチャンバ部17は液インレット16に連通される。この液インレット16に、液供給系21から塗料12が供給される。従って、塗料12は、液供給系21から液インレット16を経てチャンバ部17内に流入し、スロット部18を通って、上流側リップ19及び下流側リップ20に対向して走行するウエブ11に連続的に塗布される。
【0023】上記上流側リップ19及び下流側リップ20、チャンバ部17並びにスロット部18は、ウエブ11の幅とほぼ同一幅に設定される。また、チャンバ部17は、円柱形状に形成され、液インレット16からの塗料12を、塗布幅方向において塗布量が均一になるように分配させ、スロット部18へ供給する。
【0024】スロット部18は、平行平板形状の狭路として構成され、チャンバ部17と組み合わされて、塗料12を塗布幅方向に均一に塗布できるように機能する。
【0025】このスロット部18のスロットギャップHは、塗布対象によっても異なるが、通常数十μm から数mmに設定される。このスロットギャップHは、図3に示すように、スロット部18の塗布幅方向における最大値をHmax とし、最小値をHmin とすると、
【数1】
として規定される。尚、塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHは、ΔH=Hmax −Hminとして規定される。
【0026】ところで、塗布幅方向における塗布膜の膜厚むらや塗布膜の表面性状は、スロットギャップHの塗布幅方向の平行度つまりスロットギャップHの精度(ΔH/H)、及び塗料12がチャンバ部17内を塗布幅方向に流動する際の圧力損失Pbと塗料12がスロット部18から流出する方向にこのスロット部18内を流動する際の圧力損失Psとの比(Pb/Ps)の影響を受ける。
【0027】上記スロットギャップHの精度ΔH/HはΔH/H≦0.05 …
【0028】一般に、Pb/Psを小さくすればするほど塗布幅方向の膜厚分布を均一化できる。Pb/Psを小さくするにはPbを小さくするか、Psを大きくすれば良い。Pbを小さくするのはチャンバ容量を大きくする事によって達成できるが機械装置としての大きさの制限からPbには設計上達成可能な下限が存在する。一方、Psを大きくするためにはスロット長を長くするか、スロットギャップHを小さくすれば良い。然しながら、Psはスロット長に対する依存度が低く、スロット長を長くすることはチャンバ容量を大きくすることと同様設備上の制限が存在する。従って、スロットギャップHを小さくすることが望ましいが、式
【0029】また、特に、塗料12が磁性分散液や熱転写型インクリボン用塗料等のようなディスパージョン塗料である場合には、この塗料が凝集しやすく、然も塗布膜の膜厚むらが生じやすいので、スロットギャップHの精度ΔH/Hと圧力損失の比Pb/Psは、ΔH/H≦0.03 …
【0030】上記実施例によれば、スロットギャップHと塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとから規定されるスロット部18の精度(塗布幅方向の平行度)ΔH/Hは式
【0031】また、塗料12が磁性分散液等のようなディスパージョン塗料の場合には、このディスパージョン塗料がチャンバ部17内で凝集しやすく、然も塗布膜の塗布幅方向における膜厚むらが生じやすいので、スロットギャップHの精度ΔH/Hと圧力損失の比Pb/Psをそれぞれ式
【0032】ここで、実験結果を用いて、上記実施例の効果を明確化する。図4は、実験装置として採用したダイを示す斜視図である。図5は、図4のダイの正面図である。図6は、図5のVI-VI 線に沿う断面図である。図7R>7は、図4〜図6の液セパレータを示す斜視図である。図8は、バインダー希釈溶液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。図9は、磁性分散液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。
【0033】実験装置として採用されたダイ30は、図4R>4〜図6に示すように、上流側ブロック31に下流側固定ブロック32及び下流側可動ブロック33が接合されて構成され、接合面にチャンバ部34及びスロット部35が形成される。
【0034】ダイ30の幅は約300mm であり、チャンバ部34は、ダイ30の幅方向に同一断面形状の円柱形状に形成されて、スロット部35に連通する。このチャンバ部34は、ダイ30の幅方向の両端に設置されたダイ側面部36及び37により画成され、一方のダイ側面部36に液供給系39が接続される。この液供給系39からの塗布液40は、一方のダイ側面部36に形成された液インレット38を経てチャンバ部34へ導かれ、スロット部35へ供給される。
【0035】スロット部35は、上流側ブロック31と下流側可動ブロック33との両先端部にそれぞれ形成された上流側リップ41と下流側リップ42との間に形成される。そして、このスロット部35は、下流側可動ブロック33を上流側ブロック31に対し接近或いは離反させ、固定ボルト29で固定することによりスロットギャップHが規定される。このスロットギャップHは、本実験では100 〜1000μm の範囲に設定されている。
【0036】スロットギャップHは、スロット部35のダイ幅方向両端部にシム43及び44を介在することにより所望の値に設定される。本実験では、シム43とシム44との肉厚を異ならせることによって、塗布幅方向におけるスロットギャップHの誤差ΔHを設定している。尚、本実験では、スロット部35のスロットギャップHの値によっても異なるが、スロット部35からの塗料40の吐出量は10〜1000cc/min に設定されている。
【0037】また、チャンバ部34には、液インレット38側の一端部と他端部とに第1圧力計45と第2圧力計46がそれぞれ設置され、チャンバ部34の両端部の圧力がそれぞれ測定される。この第1圧力計45の測定値P1 と第2圧力計46の測定値P2 との差の絶対値を計算して、塗料40がチャンバ部34を塗布幅方向に流動する際に生ずる圧力損失Pbを求める。また、上記測定値P1 とP2 との平均値を計算して、塗料40がスロット部35から流出する方向にスロット部35内を流れる際の圧力損失Psを求める。
【0038】ここで、塗料40としては、ニュートニアンを示すバインダー希釈溶液と、擬塑性を示す磁性分散塗料を用いた。バインダー希釈溶液は、VAGH(ユニオンカーバイト社製)をメチルエチルケトン、トルエン及びシクロヘキサノンの混合溶剤で希釈し、粘度10〜50 Cp に調整したものである。また、磁性分散塗料は、表1に示す配合を有するものである。
【表1】
【0039】また、ダイ30のスロット部35近傍の上流側リップ41に、図4〜図6に示すように液セパレータ47を設置し、スロット部35から吐出される塗料40の流量を直接重量測定する。この液セパレータ47は、図7に示すように、平面形状の基板48に、三角形状の流路49を約30mmのピッチで形成し、スロット部35を塗布幅方向に例えば10分割して、このスロット部35から吐出される塗料40を分離するものである。この分離された塗料40が、複数の計量カップ50のそれぞれにて集められる。この塗布膜方向に配置された複数の計量カップ50のそれぞれにて集められた塗料の重量流量の相違(流量むら)は、塗布膜の塗布幅方向の膜厚むらに対応する。
【0040】上述のように、スロット部35から吐出された塗料40の流量を液セパレータ47及び計量カップ50を用いて直接重量測定することにより、チャンバ部34、スロット部35及び塗布操作条件が塗布膜の膜厚に及ぼす影響を明確化できる。
【0041】つまり、塗料40としてバインダー希釈溶液を用いた実験例1では、図8に示すように、スロットギャップHの精度(平行度)ΔH/Hが式
【0042】塗料40として磁性分散塗料を用いた実験例2では、図9に示すように、スロットギャップHの精度(平行度)ΔH/Hが式
【0043】尚、上記実施例では、塗布装置10がTダイの場合を述べたが、図10に示すコートハンガー型チャンバダイ51や図11に示す片ハンガー型チャンバダイ52に本発明を適用しても良い。この両変形例では、前記実施例と同様な部分に、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0044】コートハンガー型チャンバダイ51は、液インレット53が、ダイ51の幅方向中央部に設けられたものであり、この液インレット53に連通したチャンバ54は、液インレット53から両方向へ遠ざかる程断面積が減少するように形成されている。また、片ハンガー型チャンバダイ52は、液インレット55がダイ52の一側面部に形成されたものであり、この液インレット55に連通したチャンバ部56は、液インレット55から一方向に遠ざかる程断面積が減少して形成される。これらのコートハンガー型チャンバダイ51及び片ハンガー型チャンバダイ52を用いることにより、塗布幅方向における塗布膜の膜厚をより一層均一にすることができる。
【0045】更に本発明を多段チャンバダイやチャンバ塗料循環型ダイに適用しても良い。
【0046】
【発明の効果】以上のように、本発明に係る塗布装置によれば、スロットギャップの平行度を加味した上で、塗布幅方向に均一な膜厚の塗布膜を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る塗布装置の一実施例におけるダイヘッドを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1のダイヘッドの縦断面図である。
【図3】図3は、図2の一部拡大図である。
【図4】図4は、実験装置として採用したダイを示す斜視図である。
【図5】図5は、図4のダイの正面図である。
【図6】図6は、図5のVI-VI 線に沿う断面図である。
【図7】図7は、図4〜図6の液セパレータを示す斜視図である。
【図8】図8は、バインダー希釈溶液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、磁性分散液についてのΔH/H、Pb/Psと塗布性との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明に係る塗布装置が適用されたコートハンガー型チャンバダイを示し、図10(A)が図10(B)のXA-XA 線に沿う断面図であり、図10(B)が図10(A)のXB-XB 線に沿う断面図である。
【図11】図11は、本発明の塗布装置が適用された片ハンガー型チャンバダイを示し、図11(A)が図11(B)のXIA-XIA 線に沿う断面図であり、図11(B)が図11(A)のXIB-XIB 線に沿う断面図である。
【符号の説明】
10 塗布装置
11 ウエブ
12 塗料
17 チャンバ部
18 スロット部
19 上流側リップ
20 下流側リップ
30 ダイ
34 チャンバ部
35 スロット部
40 塗料
41 上流側リップ
42 下流側リップ
H スロットギャップ
ΔH スロットギャップの誤差
Pb 圧力損失
Ps 圧力損失
【特許請求の範囲】
【請求項1】 上流側リップと下流側リップに挟まれて塗布幅方向に均一なスロット部が形成され、このスロット部の上流側に塗料を塗布幅方向に分配させるチャンバー部が形成され、上記上流側リップ及び下流側リップに対向して走行する支持体上に上記スロット部から上記塗料を押し付けるように塗布する塗布装置において、上記スロット部のスロットギャップHと上記塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとがΔH/H≦0.05を満たし、且つ、上記チャンバ部内を上記塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbと、上記スロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15を満たすよう構成されたことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】 上記塗料がディスパージョン塗料の場合には、ΔH/H≦0.03Pb/Ps≦0.06を満たすよう構成された請求項1に記載の塗布装置。
【請求項1】 上流側リップと下流側リップに挟まれて塗布幅方向に均一なスロット部が形成され、このスロット部の上流側に塗料を塗布幅方向に分配させるチャンバー部が形成され、上記上流側リップ及び下流側リップに対向して走行する支持体上に上記スロット部から上記塗料を押し付けるように塗布する塗布装置において、上記スロット部のスロットギャップHと上記塗布幅方向におけるスロットギャップの誤差ΔHとがΔH/H≦0.05を満たし、且つ、上記チャンバ部内を上記塗布幅方向に流動する塗料の圧力損失Pbと、上記スロット部内を流動する塗料の圧力損失PsとがPb/Ps≦0.15を満たすよう構成されたことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】 上記塗料がディスパージョン塗料の場合には、ΔH/H≦0.03Pb/Ps≦0.06を満たすよう構成された請求項1に記載の塗布装置。
【図3】
【図6】
【図7】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開平8−266979
【公開日】平成8年(1996)10月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−97632
【出願日】平成7年(1995)3月31日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【公開日】平成8年(1996)10月15日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)3月31日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
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