説明

塗膜密着性及び耐食性に優れるプレコート金属板

【課題】 毒性に問題のあるクロメート処理層及びクロム系防錆顔料を含まない、塗膜密着性及び耐食性に優れるノンクロム系プレコート金属板を提供する。
【解決手段】 金属板の少なくとも片面に、固形分として水性樹脂100重量部、シランカップリング剤0.1〜3000重量部を含有する皮膜層を下地処理層として設け、さらにその上に着色された皮膜層を上層として設ける。また、下地処理層の皮膜層に固形分として、微粒シリカ1〜2000重量部、エッチング性フッ化物0.1〜1000重量部のうちいずれか1種以上をさらに含有してもよい。さらには、下地処理層と着色皮膜の間に防錆顔料を含む皮膜層を下塗り層として設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は耐食性に優れるプレコート金属板に関するものであり、特に有毒とされているクロムを含まないプレコート金属板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】家電用、建材用、自動車用などに、従来の加工後塗装されていたポスト塗装製品に代わって、着色した有機皮膜を被覆したプレコート鋼板が使用されるようになってきている。この鋼板は、防錆処理を施した鋼板およびめっき鋼板に有機皮膜を被覆したもので、美観を有しながら、加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。
【0003】例えば、特開平8−168723号公報には皮膜の構造を規定することによって加工性と対汚染性、硬度に優れたプレコート鋼板を得る技術が開示されている。また、特開平3−100180号公報には、特定のクロメート処理液を用いることで端面耐食性を改善したプレコート鋼板が開示されている。
【0004】これらのプレコート鋼板は、めっき、クロメート、クロム系防錆顔料を添加した有機皮膜の複合効果によって耐食性と共に、加工性、塗料密着性を有し、加工後塗装を省略して、生産性や品質改良を目的とするものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このようなプレコート鋼板においても、耐食性付与には主としてクロメート系の防錆処理が行われており、また、有機被覆の中にもクロム系防錆顔料が配合されている。クロメート処理およびクロム系顔料に含まれる6価のクロムは水溶性であり、これが溶出することによって、皮膜に発生した塗膜の傷を補修する性質がある。従って、特に亜鉛系めっき鋼板の防錆用途では、耐食性付与皮膜としてクロメート処理が専ら今日まで使用されてきている。
【0006】しかしながら、クロメート処理及びクロム系防錆顔料を含む有機皮膜から溶出する可能性のある6価のクロムの毒性問題から、最近ではノンクロム防錆処理、ノンクロム有機皮膜に対する要望が高まっている。
【0007】そこで、本発明においては、このような要望に答え、耐食性に優れるノンクロム系プレコート鋼板を始めとするプレコート金属板を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、金属板の少なくとも片面に、固形分として水性樹脂100重量部、シランカップリング剤0.1〜3000重量部を含有する皮膜層を下地処理層として有し、さらにその上に着色された皮膜層を上層として有することを特徴とするプレコート金属板である。また、下地処理層の皮膜層に固形分として、微粒シリカ1〜2000重量部、エッチング性フッ化物0.1〜1000重量部のうちいずれか1種以上をさらに含有してもよい。さらには、前記プレコート金属板において、下地処理層と着色皮膜の間に防錆顔料を含む皮膜層を下塗り層として有するプレコート金属板も提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明のプレコート金属板に用いる下地処理剤は、鋼板を含む各種金属板(めっき金属板を含む)の防錆を目的として開発されたものであり、熱延鋼板、冷延鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、クロムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、銅めっき鋼板などのめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、銅板、アルミ合金板など、公知の金属板を適用できる。この金属板には、下地処理前に湯洗、アルカリ脱脂などの通常の処理を行うことができる。
【0010】本発明のプレコート金属板に用いる下地処理層は、水性樹脂をベースとしてシランカップリング剤を含むことを特徴としている。水性樹脂としては、水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように不溶性樹脂が水中に微分散された状態になりうるもの(水分散性樹脂)を含めて言う。このような水性樹脂として使用できる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、フェノール系樹脂、その他の加熱硬化型の樹脂などを例示でき、架橋可能な樹脂であることが望ましい。特に好ましい樹脂は、アクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及び両者の混合樹脂である。これらの水性樹脂の2種類以上を混合、あるいは重合して使用してもよい。
【0011】シランカップリング剤は、水性樹脂の存在下で、原板となる金属板表面と上層皮膜層とのバインダー効果を示し、塗膜密着性を飛躍的に向上させ、ひいては耐食性を向上させる。シランカップリング剤としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどを挙げることができる。
【0012】シランカップリング剤の含有量は固形分換算で、水性樹脂100重量部に対して、0.1〜3000重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では、加工時に十分な塗膜密着性が得られず、耐食性も十分ではない。3000重量部を越えると塗膜密着性が低下する。
【0013】下地処理層の皮膜層に微粒シリカを添加すると、さらに防錆作用(耐食性)が促進される。しかも耐食性に加えて、乾燥性、耐擦傷性、塗膜密着性も向上される。
【0014】本発明において微粒シリカとは、微細な粒径をもつために水中に分散させた場合に安定に水分散状態を維持でき半永久的に沈降が認められないような特色を有するシリカを総称していうものである。上記微粒シリカとしては、ナトリウムなどの不純物が少なく、弱アルカリ系のものであれば、特に限定されない。例えば「スノーテックスN」(日産化学工業社製)、「アデライトAT−20N」(旭電化工業社製)などの市販のシリカなどを用いることができる。
【0015】微粒シリカの含有量は固形分換算で、水性樹脂100重量部に対して、1〜2000重量部、さらに好ましくは10〜400重量部であることが好ましい。1重量部未満では添加の効果が少なく、2000重量部を超えると耐食性向上の効果が飽和して不経済である。
【0016】また、下地処理層の皮膜層にエッチング性フッ化物を添加すると、塗膜密着性が向上される。ここでエッチング性フッ化物としては、フッ化亜鉛四水和物、ヘキサフルオロけい酸亜鉛六水和物等を使用することができる。エッチング性フッ化物の含有量は固形分換算で、水性樹脂100重量部に対して、1〜1000重量部であることが好ましい。1重量部未満では添加の効果が少なく、1000重量部を超えると塗膜密着性向上の効果が飽和して不経済である。
【0017】また、必要に応じて界面活性剤、防錆抑制剤、発泡剤等も添加しても良い。
【0018】下地処理層の乾燥時の付着量は、10mg/m2 以上が好適である。10mg/m2 未満では、防錆力が不足する。一方付着量が多すぎると、下地処理層としては不経済であるばかりでなく、塗膜密着性も低下する。膜厚の上限としては3000mg/m2 以下がよい。
【0019】下地処理層の塗布方法は、特に限定されず、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬などが採用できる。
【0020】下地処理層の乾燥、焼付けは熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉など公知の方法あるいはこれらを組み合わせた方法で行えばよい。また使用する水性樹脂の種類によっては、紫外線や電子線などのエネルギー線によって硬化させることもできる。あるいはこれらの強制乾燥を用いずに、自然乾燥してもよいし、あるいは金属板をあらかじめ予熟しておいて、その金属板に塗布後自然乾燥してもよい。
【0021】本発明のプレコート金属板は、下地処理した金属板の上に、着色した皮膜層を有することを特徴としている。この着色皮膜層は、金属板に意匠性を付与し、この上にさらに塗装を施さなくても使用できる被覆金属板を得るためには必須の層である。
【0022】この皮膜層は、着色のために必要な顔料や染料等を含む。顔料としては、有機系、無機系、両者の複合系にかかわらず公知のものを使用することができ、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルー、等のシアニン系顔料、カーボンブラック、鉄黒、べんがら、黄色酸化鉄、モリブデートオレンジ、ハンサイエロー、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料、等が例示できる。この他に、金属片・粉末、パール顔料、マイカ顔料、樹脂ビーズ等、意匠性や導電性等の機能性を付与するための添加物を加えても良い。
【0023】染料としても、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタンおよびトリフェニルメタン染料、その他ニトロ染料、アクリジン染料等、公知のものが用いられる。
【0024】被覆層のバインダーとしては、有機系、無機系のバインダーが使用できる。有機系の樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。これらの混合物や共重合物も使用できる。また、これらに、イソシアネート樹脂、アミノ樹脂、シランあるいはチタンカップリング剤等を架橋剤や補助成分として併用することができる。本発明による被覆金属板は、成形加工された後、このまま使用されることを前提としているので、この着色層は、折り曲げやプレス成形に際して割れや剥離がないことを求められる。このような観点からは、ポリエステル樹脂をメラミン樹脂で架橋する樹脂系、ポリエステル樹脂をウレタン樹脂(イソシアネート、イソシアネート樹脂)で架橋する樹脂系、塩化ビニル樹脂系、フッ素樹脂系(溶剤可溶型、アクリル樹脂との分散混合型)が望ましい。樹脂は水系、溶剤系、粉体系、無溶剤系のどのような形態でも良い。
【0025】また、着色に直接関わらない顔料や添加物成分、たとえば硫酸バリウム、炭化カルシウム、カオリンクレー等の顔料、消泡剤、レベリング剤、分散補助剤等の添加剤等、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エステル系、パラフィン系、フッ素系などの有機ワックス成分、二硫化モリブデン等の無機ワックス成分等、塗料粘度を下げるための希釈剤、溶剤、水等を加えることができる。
【0026】樹脂中の着色成分の量は特に限定されず、必要な色や隠蔽力によって決定すればよい。例えば、黒に着色するためにカーボンブラックを配合する場合には、固形分換算の顔料重量濃度で1〜5%入れれば十分であり、例えば白に着色するためにチタン白を配合する場合には、固形分換算の顔料重量濃度で30〜55%程度が必要である。
【0027】着色皮膜層は、ロールコーター、カーテンコーター、静電塗装、スプレー塗装、浸漬塗装等の公知の方法で下地処理層の上に塗装され、その後、熱風、誘導加熱、近赤外線、遠赤外線等の加熱によって乾燥、硬化される。着色皮膜層の樹脂が電子線や紫外線などの放射線によって硬化するタイプのものであれば、電子線照射、紫外線照射によって硬化される。これらの併用であってもよい。着色皮膜層の種類に応じた乾燥、硬化方式を選択することができる。乾燥、焼き付け板温も、皮膜層の種類に応じて決定される。一般的な塗装金属板の連続生産ラインにおいては、この板温は150〜250℃である。
【0028】着色皮膜層の膜厚は特に限定されないが、均一な着色外観を得るためには、5μm以上の乾燥膜厚があることが望ましい。さらに望ましくは8μm以上が良い。膜厚の上限はないが、塗装金属板の製造ラインで連続的にコイルで塗装する壊合には、1回の塗装で乾燥膜厚が50μm程度であることが多い。この上限は、主に「ワキ」と呼ばれる塗膜中の揮発分が塗膜中から系外に揮発する際に塗膜の粘度が上がりすぎている場合に起こる欠陥の発生によって支配されることが多い。切り板に断続的に塗装しながら製造する場合には、焼き付けを緩やかな条件で行うことが可能であり、この上限乾燥膜厚は200μm程度まで上がる。また、スプレー塗装などで1枚ごとに処理する場合には、さらにこの上限膜厚は上がる。
【0029】本発明のプレコート金属板は、下地処理層と着色皮膜層の間に、必要に応じて防錆顔料を添加した皮膜層を下塗り層として有することができる。この下塗り層は、主に耐食性の向上を目的とするが、その他に成形加工性、耐薬品性などの特性も考慮して設計される。この皮膜のベース樹脂としては、一般に公知の樹脂、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などをそのままあるいは組み合わせて使用することができる。防錆顔料としては一般に公知のもの、例えば、(1)リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウムなどのリン酸系防錆顔料、(2)モリブデン酸カルシウム、モリンブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウムなどのモリブデン酸系防錆顔料、(3)酸化バナジウムなどのバナジウム系防錆顔料、(4)ストロンチウムクロメート、ジンクロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメートなどのクロメート系防錆顔料、(5)水分散シリカ、ヒュームドシリカなどの微粒シリカ、(6)カルシウムシリケートなどのシリケート系などを用いることができる。しかし、(4)のクロメート系防錆顔料については環境上有毒であるため、(4)のクロメート系防錆顔料以外の防錆顔料を用いることが望ましい。
【0030】このような防錆顔料の量は、皮膜の固形物基準に1〜40重量%がよい。これより少ないと耐食性の改良が十分でなく、40重量%を越えると加工性が低下して、皮膜が脆くなって成形時に欠落が生ずる。防錆顔料を含む皮膜の厚さは30μm以下が好適であり、30μm超では塗膜の加工性が劣る。
【0031】防錆顔料を含む皮膜の塗布方法は、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。
【0032】
【実施例】以下、本発明を実施例をもって説明する。
【0033】亜鉛めっき付着量が片面当たり20g/m2 で両面がめっきされた厚み0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板と、亜鉛めっき付着量が片面当たり60g/m2 で両面がめっきされた厚み0.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板とをFC−364S(日本パーカライジング製)の2重量%濃度、60℃温度の水溶液中に10秒間浸漬することで脱脂を行い、水洗後、乾燥した。次いで、表1と表2に示す組成の下地処理剤をロールコーターにて塗布し、熱風乾燥炉で乾燥した。乾燥時の到達板温は150℃とした。なお、乾燥時の到達板温を70℃,220℃として表1および2と同様の評価をしたが、いずれも到達板温が150℃の場合と同じ結果となった。
【0034】下地処理層に用いた水性樹脂のアクリルオレフィンは、東亜合成社製AP−1058(12)および東邦化学社製ハイテックS−7024の混合物、ウレタンは旭電化社製ボンタイターHUX−320、エポキシは昭和高分子社製ポリゾール8500であった。シランカップリング剤としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(下記の表中では「A」と表記)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(下記の表中では「B」と表記)、メチルクロロシラン(下記の表中では「C」と表記)を使用した。微粒シリカとしては、日産化学工業社製のスノーテックスN(下記の表中では「ST−N」と表記)とスノーテックスNS(下記の表中では「ST−NS」と表記)を使用した。また、エッチング性フッ化物としては、ヘキサフルオロケイ酸亜鉛六水和物(下記の表中では「D」と表記)とフッ化亜鉛四水和物((下記の表中では「E」と表記)を使用した。
【0035】下地処理層用塗料の塗布には、水を溶媒とする固形分20%の溶液を使用した。
【0036】次に、表3および表4に示したように、日本ペイント社製P641プライマー塗料(ポリエステル樹脂系、表3、4中には「ポリエステル」と記載)、日本ペイント社製P108プライマー塗料(エポキシ樹脂系、表中には「エポキシ」と記載)、日本ペイント社製P304プライマー塗料(ウレタン樹脂系、表中には「ウレタン」と記載)の防錆顔料を、表3と4に記載の防錆顔料に変更したものをロールコーターで塗布し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉で到達板温が220℃となるように硬化乾燥して、下層塗膜を形成した。防錆顔料のうち、表中「V/P系」とあるのはバナジウム酸・リン酸混合物防錆顔料、「Mo顔料」とあるのはモリブデン酸系防錆顔料、「シリケート」とあるのはカルシウムシリケート防錆顔料である。
【0037】次に、防錆顔料を含む塗膜層の上に、更に日本ペイント社製FL100HQ(ポリエステル樹脂系、色は白、表3、4中において「ポリエステル」と表記)を塗布し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉で到達板温が220℃となるように硬化乾燥して、上層塗膜を形成した。
【0038】なお、各硬化乾燥過程のあとには、板を水冷した。
【0039】このようにして作製したプレコート鋼板について以下の評価を行った。
1.塗膜密着性塗装後の板を、塗装面に1mm角の碁盤目をカッターナイフで入れ、塗装面が凸となるようにエリクセン試験機で7mm押し出した後に、テープ剥離試験を行った。碁盤目の入れ方、エリクセンの押し出し方法、テープ剥離の方法についてはJIS−K5400.8.2、及びJIS−K5400.8.5記載の方法に準じて実施した。また、テープ剥離後の評価はJIS−K5400.8.5記載の評価の例の図によって行い、評点10点のときに○、9点のときに○−、6点以上9点未満のときに△、6点未満の時に×と評価した。さらに、JIS−K5400.8.20の記載に従い、プレコート鋼板を沸騰水に浸漬した後、取り出して24時間放置後に、前述の方法で碁盤目エリクセン、テープ剥離を実施し、同様に評価した。
【0040】2.折り曲げ加工性試験塗装後の板を、180°折り曲げ加工を実施し、加工部の塗膜を10倍ルーペで観察し、塗膜の割れの有無を調べた。また、加工部に粘着テープを貼り付け、これを勢い良く剥離したときの塗膜の残存状態を目視にて観察した。折り曲げ加工は20℃雰囲気中で、0.6mmのスペーサーを間に挟んで実施した。塗膜割れの評価は、塗膜割れのない時を○、塗膜に若干の割れがある時を△、塗膜に目視でも明確な割れのある時を×として評価した。また、テープで剥離後の塗膜残存状態の評価は、全く剥離せずにめっき鋼板上に残存している場合を○、塗膜が一部剥離している場合を△、折り曲げ加工部のほぼ全面にわたって剥離が認められる場合を×と評価した。さらに、JIS−K5400.8.20の記載に従い、塗装鋼板を沸騰水に浸漬した後、取り出して24時間放置後に前述の折り曲げ加工を実施し、同様に塗膜の剥離と加工部のテープ剥離試験後の塗膜残存状態を評価した。
【0041】3.耐食性塗装後の板についてJIS−K5400.9.1記載の方法で塩水噴霧試験を実施した。試験時間は電気亜鉛めっき鋼板の場合には120時間、溶融亜鉛めっき鋼板の場合には240時間とした。クロスカット部の塗膜の評価方法は、クロスカット片側の最大膨れ幅が1mm未満の場合に○、1mm以上2mm未満の場合に○−、2mm以上3mm未満の場合に△、3mm以上の場合に×と評価した。また、切断時の返り(バリ)が塗装鋼板の評価面側にくるように(上バリとなるように)作製した平板についても、前述の塩水噴霧試験を実施し、端面からの塗膜の膨れ幅を観察した。端面部の評価方法は端面からの膨れ幅が3mm以内の場合には○、3mm以上4mm未満の場合には○−、4mm以上5mm未満の場合には△、5mm以上の場合には×と評価した。
【0042】評価結果を表5と表6に示す。本発明によるプレコート金属板(実施例1〜39)の塗膜密着性、折り曲げ加工性、折り曲げ加工密着性、耐食性は従来のクロメート系プレコート鋼板(比較例9〜11)と比べてほぼ同等以上の性能を有している。ただし、下地処理層と着色皮膜層の間に防錆顔料を含む皮膜層を被覆していないもの(実施例6、7)は、被覆したものに比較して、若干耐食性が劣るが、実用上は問題ない程度である。下地処理層のシランカップリング剤含有量が少なすぎる場合(比較例1、2)及び、下地処理層の付着量が少なすぎる場合(比較例3、4)は耐食性に大きく劣り、不適である。逆に、下地処理層の付着量が多すぎる場合(比較例5、6)は塗膜の密着性が低下し、ひいては耐食性が低下し、不適である。また、下塗り層(防錆顔料を含む皮膜層)の膜厚が厚すぎる場合(比較例7、8)は折り曲げ加工性が大きく劣り、不適である。なお、比較例9〜11については環境上有毒であるクロムを使用しているため、これも不適である。
【0043】
【表1】


【0044】
【表2】


【0045】
【表3】


【0046】
【表4】


【0047】
【表5】


【0048】
【表6】


【0049】
【発明の効果】本発明により、環境上有毒であるクロムを使用せずに、塗膜の密着性、塗膜の加工性、耐食性に優れたプレコート金属板を提供することが可能となった。従って、本発明は工業的価値の極めて高い発明であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属板の少なくとも片面に、固形分として水性樹脂100重量部、シランカップリング剤0.1〜3000重量部を含有する皮膜層を下地処理層として有し、さらにその上に着色された皮膜層を上層として有することを特徴とするプレコート金属板。
【請求項2】 下地処理層の皮膜層に固形分として、微粒シリカ1〜2000重量部、エッチング性フッ化物0.1〜1000重量部のうちいずれか1種以上をさらに含有することを特徴とする、請求項1記載のプレコート金属板。
【請求項3】 金属板の少なくとも片面に、固形分として水性樹脂100重量部、シランカップリング剤0.1〜3000重量部を含有する皮膜層を下地処理層として有し、その上に防錆顔料を含む皮膜層を下塗り層として有し、さらにその上に着色された皮膜層を上層として有することを特徴とするプレコート金属板。
【請求項4】 下地処理層の皮膜層に固形分として、微粒シリカ1〜2000重量部、エッチング性フッ化物0.1〜1000重量部のうちいずれか1種以上をさらに含有することを特徴とする、請求項3記載のプレコート金属板。

【公開番号】特開2000−265282(P2000−265282A)
【公開日】平成12年9月26日(2000.9.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−3814(P2000−3814)
【出願日】平成12年1月12日(2000.1.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】