説明

塗膜転写具および塗膜転写具用カートリッジ

【課題】転写テープの引き出し時に大きな荷重がかかる場合でも、軽い力で転写テープを引き出せるベルト式連動機構の塗膜転写具および該塗膜転写具用カートリッジを提供する。
【解決手段】転写テープの繰り出しリールと、塗膜を被転写面に押圧転写する転写ヘッドと、転写後のテープ基材の巻き取りリールを有し、両リールを連動回転させるベルト式連動機構を備えた塗膜転写具において、両リールの間に弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整する可動部材を設け、両リールに対してそれぞれ同軸に設けた繰り出しプーリ及び巻き取りプーリに掛け回されたゴムベルトと、前記繰り出しリールから引き出された転写テープとを、それぞれ異なる部位で前記可動部材に摺接させることにより、可動部材が転写テープの張力に応じて移動することでゴムベルトにかかる張力が減少し、転写テープを引き出すのに要する力が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修正塗膜や糊塗膜などを、被転写面に押圧転写するための塗膜転写具および塗膜転写具用カートリッジに関する。詳細には、繰り出しリールと巻き取りリールをベルトで連動回転させるベルト式連動機構を有する塗膜転写具および塗膜転写具用カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のベルト式連動機構を有する塗膜転写具は、ケース内に、テープ基材上に塗膜を塗布した転写テープが巻回された繰り出しリールを設けるとともに、この繰り出しリールから繰り出される転写テープを、ケースの前端開口に設けた転写ヘッドに向けて供給して、被転写面上に塗膜を転写した後に、テープ基材だけを巻き取りリールに巻き取るようになっている。繰り出しリールと巻き取りリールが互いに連動して回転するように、両リールに対して同軸に繰り出しプーリ及び巻き取りプーリを設け、両プーリに無端状のゴムベルトが掛け回されている。
【0003】
このような塗膜転写具では、テープ基材の巻き取る長さが転写テープの繰り出し長さよりも長くなるように両リールを回転させ、転写テープに適度な張力を掛けることによって、転写テープが弛まないようになっている。また、転写テープに過大な張力が掛かった時には、ゴムベルトと巻き取りプーリとの間にスリップが生じることによって、転写テープに掛かる張力を逃がし、転写テープが切れないようにしている。
【0004】
転写テープに適度な張力が掛けられていると、転写終了時の塗膜の切れが良く良好な転写が行えるが、転写ヘッド部分において転写テープが弛むと、塗膜の切れが悪くなり良好な転写が行えなくなる。そのため、こうした塗膜転写具においては、転写テープが弛まないように、使用初期のスリップトルク(ゴムベルトと巻き取りプーリがスリップするときのトルク)が比較的高くなるように設定されている。
【0005】
しかしながら、こうした従来のベルト式連動機構を有する塗膜転写具では、前記の通り、基材テープの巻き取る長さが転写テープの繰り出し長さより長くなるように設定されており、さらに塗膜転写具を使用して塗膜を転写するに連れて、転写テープは消費され、それにともない繰り出しリールに巻かれた転写テープの外径は減少することになる。一方、塗膜の転写にともない、塗膜転写後の基材テープは巻き取りリールにより巻き取られて行き、巻き取りリールに巻き取られる基材テープの外径は増大する。転写テープの繰り出し側の外径に対して、巻き取り側のテープ外径の比率が増大するため、塗膜転写具を使用するに連れて、転写テープに掛かる張力は増大し、塗膜を転写するために被転写面への押圧を大きくする必要が生じる。したがって、こうした従来の転写具では、使用終期に近づくほど被転写面への押圧を大きくしなければならず、転写作業がし難くなるという問題を有していた。
【0006】
巻き取りリールに基材テープが巻き取られてきた後の外径に対して、繰り出しリールの外径を十分に大きくしておけば、繰り出しリールに巻かれた転写テープの外径が使用により減少して行っても、転写テープに掛かる張力の増大を抑えることができるが、この方法では、塗膜転写具が大型化するという問題が発生する。
【0007】
そこで、塗膜転写具の繰り出しリールを大きくすることなく、繰り出しリールに巻かれた転写テープの外径が減少しても、転写テープに掛かる張力の増大を抑える方法が検討されてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0008】
特許文献1の塗膜転写具は、繰り出しリールまたは巻き取りリールを回転可能に軸支する可動部材を備えており、該可動部材に軸支された繰り出しリールまたは巻き取りリールが、両リールの軸間距離が狭くなる方向に移動できるようにすることで、ゴムベルトの張力を調整している。可動部材は、塗膜転写具のケース内部に収納される弾性部と、ケース外部に突出する転写ヘッドからなり、弾性部と転写ヘッドは、シャフトを介して一体化した構造となっている。弾性部の転写ヘッド側はシャフトと接続されており、弾性部のシャフトと反対側の端には、開口部を形成するように細長い形状の弾性変形片が設けられている。弾性変形片には、開口部の外側(シャフト側と反対方向)に突出する部位と、開口部内に突出するストッパーが設けられており、前記部位はケース内に設けられた壁に当接するように構成されている。また、弾性部には、開口部よりもシャフト側に、巻き取りリールを回転可能に軸支する嵌合凸部が設けられており、この嵌合凸部に巻き取りリールが回転可能に嵌合される構造となっている。
【0009】
特許文献1に開示された塗膜転写具は、塗膜転写により巻き取りリールに巻かれた転写テープが減少して転写テープに掛かる張力が増大する結果、転写時に転写ヘッドを被転写面に押圧する力が大きくなると、転写ヘッドと一体化している弾性部の弾性変形片が変形する。この変形は、開口部の中央付近に突出して設けられたストッパーが反対側の開口端に接する方向へ移動し、それに伴って開口部の両端が持ち上がるように変形することになり、その結果、巻き取りリールが取り付けられた弾性部が、繰り出しリール側に持ち上げられ、巻き取りリールが繰り出しリールに近づくことになる。二つのリール間の距離が縮まることにより、両リール間に掛けられたベルトが弛み、ベルトと巻き取りリール間に発生する摩擦力が低下するため、スリップトルクも低下し、比較的小さい力で転写テープを引き出すことが可能となる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された塗膜転写具においては、弾性部と転写ヘッドが一体となっているため、転写ヘッドにかかる押圧によって弾性部に設けられた弾性変形片が変形する。そのため、転写具の使用開始時のように、転写テープにそれほど大きな張力が掛からない場合においても、転写ヘッドの押圧の仕方によっては弾性変形片が変形してしまい、ゴムベルトが弛み、繰り出しリールが空回りして、転写テープが送り出せないという問題が生じる恐れがある。また、可動部材は、転写具のケース等の別の部材に固定する訳にはいかないので、弾性部と転写ヘッドが一体になっていて巻き取りリールを嵌合するための凸部を有する可動部のパーツと、繰り出しリールを嵌合するための凸部を有するパーツ(このパーツは転写具ケースと一体になっている)を、それぞれ別個に作成する必要があり、塗膜転写具を構成する部品点数が増えることとなる。そして、可動部材が、転写具の別の部材と固定できないため、転写テープを取り替えて使用するカートリッジ方式に対応することが困難である。
【0011】
特許文献2には、ベルト式連動機構の塗膜転写具で、スリップトルクを、手動もしくは揺動自在に枢支する機構により変更することができる塗膜転写具が開示されている。具体的には、塗膜転写具のケース外面側に自由に回動操作ができるノブが設けられており、ケース内部には、このノブと一体となって回動する回動板が設けられ、この回動板上には、回動板の回動中心から偏芯した位置に押圧ローラーが自由に回転するように枢支されている。この押圧ローラーは、ベルトを外周側から押し付ける様になっており、ケース外面のノブを時計回りに回動させると押圧ローラーがより強くベルトを押し付け、ノブを反時計回りに回動させると押圧ローラーがベルトを押す力が弛む仕組みとなっている。ベルト式連動機構の塗膜転写具では、使用初期のように、繰り出しリールに巻かれた転写テープの外径が大きい場合には、転写テープに発生する張力が小さくても繰り出しリールにスリップトルクを越える回転トルクが発生し、不必要に転写テープが繰り出されることがある。したがって、特許文献2の塗膜転写具においては、使用初期は、ノブを時計回りに回動させてベルトに張力を加えて、不必要に転写テープが繰り出されるのを防いでおき、使用するにつれて繰り出しリールに巻かれた転写テープの外径が減少し、転写テープの引き出しにより大きな力が必要になるにしたがい、ノブを反時計回りに回動させて、ベルトに掛かる張力を段階的に小さくすることで、転写テープを軽い力で繰り出せるように調整する。
【0012】
しかしながら、特許文献2の塗膜転写具においては、常に程よい力加減で転写しようとした場合には、繰り出しリールに残っている転写テープの量に応じて、転写テープの繰り出しに必要な力が絶えず変化するのに対応して、こまめにノブを手動で操作してベルトの張力を調整することとなるため、操作が煩雑である。
【0013】
特許文献3には、繰り出しプーリと巻き取りプーリの間にベルトの走行を案内するガイド部材を設けた、ベルト式連動機構の塗膜転写具が開示されている。ベルト式連動機構の塗膜転写具では、転写テープを、転写ヘッドを介して被転写面に転写している時は、繰り出しリールから転写テープが引き出されて繰り出しリールが回転し、その回転が繰り出しプーリと巻き取りプーリ間に掛け回されたゴムベルトを繰り出しリール側から巻き取りリール側に向けて押し出すので、ゴムベルトは外方向に膨らんで弛もうとし、逆側の巻き取りプーリから繰り出しプーリ側に向かって走行するゴムベルトは、繰り出しリールの回転に引っ張られて引き延ばされながら巻き取りリールを回転させることになる。この状態で、塗膜転写具を被転写面から離すと、ゴムベルトは自身の弾性力で元の長さに戻ろうとするので、繰り出しリールを転写テープが引き出される方向とは逆方向に回転させて、転写テープを繰り出しリール側に引き戻すことになる。そのため、転写ヘッド先端部の押圧転写部で転写し終わったテープ基材は繰り出しテープ側に引き戻され、押圧転写部には塗膜が無い状態になる。こうなると、次に塗膜転写具で希望する位置に塗膜を転写しようとしても、押圧転写部には塗膜がないので転写できないという問題が生じる。
【0014】
特許文献3においては、このような塗膜転写具における問題点を解消すべく、繰り出しリールと巻き取りリールを連動回転させるベルト式連動機構のベルトの走行を案内するガイド部材を、繰り出しリールと巻き取りリールとの間に設けることで、繰り出しリール側から巻き取りリール側に走行するゴムベルトが、外方向に膨らんで弛むことを防止することができ、また弛みを押さえることで、繰り出しリールが回転することで生じる、逆側の巻き取りリール側から繰り出しリール側に向かって走行するゴムベルトを、引き延ばそうとする力も、ガイド部材の無い場合よりも弱くなり、繰り出しリールの逆回転が少なくなることが開示されている。
【0015】
したがって、特許文献3の発明は、転写が終わった時点での転写テープの位置を適正な位置に維持するものであって、転写時に転写テープに掛かる張力を適正に調整して、転写テープを軽く引き出せるようにする機能を有するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−283795号公報
【特許文献2】特開平6−127774号公報
【特許文献3】特開2004−009323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記の現状に鑑み、転写時に転写テープに掛かる張力を自動的に調整する手段を設けることで、使用終期においても軽い力で転写テープを引き出すことができ、また転写が終わった時点で転写テープが引き戻されることなく適正な位置に維持することができる、ベルト式連動機構の塗膜転写具を提供することを目的とする。また、本発明は、転写テープに掛かる張力の調整手段を少ないパーツで達成することにより該塗膜転写具用カートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明は、下記の構成の塗膜転写具および該塗膜転写具用カートリッジを提供する。
【0019】
(1)テープ基材に塗膜を塗布した転写テープを繰り出す繰り出しリールと、前記塗膜を被転写面に押圧して転写する転写ヘッドと、転写後のテープ基材を巻き取る巻き取りリールを有し、前記繰り出しリールと巻き取りリールを連動回転させるベルト式連動機構を備えた塗膜転写具において、
前記繰り出しリールと前記巻き取りリールの間に、弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整する可動部材を設け、
前記繰り出しリール及び巻き取りリールに対してそれぞれ同軸に設けた繰り出しプーリ及び巻き取りプーリに掛け回されたゴムベルトと、前記繰り出しリールから引き出された転写テープとを、それぞれ異なる部位で前記可動部材に摺接させ、
前記可動部材が転写テープの張力に応じて移動することによって、ゴムベルトにかかる張力を減少させるようにしたことを特徴とする塗膜転写具。
(2)前記弾性部材がバネである前記(1)記載の塗膜転写具。
(3)テープ基材に塗膜を塗布した転写テープを繰り出す繰り出しリールと、前記塗膜を被転写面に押圧して転写する転写ヘッドと、転写後のテープ基材を巻き取る巻き取りリールを有し、前記繰り出しリールと巻き取りリールを連動回転させるベルト式連動機構を備えた塗膜転写具用カートリッジであって、前記繰り出しリールと前記巻き取りリールの間に、弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整する可動部材が設けられていることを特徴とする塗膜転写具用カートリッジ。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、転写テープを引き出すために必要な力が大きくなっても、可動部材が転写テープの張力すなわち繰り出し荷重に応じて移動しゴムベルトの経路が変わることによって、ゴムベルトに掛かる張力が自動的に減少する。そのため、転写テープの引き出し荷重が低下し、比較的小さな力で転写テープを引き出すことができる。また、ベルトには可動部材によって張力が掛けられているため、転写が終わった時点で転写テープが繰り出しリール側に巻き戻されることもなく、転写テープを適正な位置に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例における試験例で使用した試験装置の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態1における可動部材を備えた塗膜転写具の概略上面図である。
【図3】本発明の実施形態2における可動部材を備えた塗膜転写具の概略上面図と要部断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
本発明の塗膜転写具は、ベルト式連動機構を有する塗膜転写具に、転写テープの引き出し時に転写テープに掛かる張力の増加に応じて、弾性部材の変形によってゴムベルトにかかる張力を自動的に調整する機能を有する可動部材を設けたものである。可動部材は、弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整可能なものであればよく、弾性部材にはバネを利用することが好ましい。バネを固定した可動部材は、転写テープに係る張力の増加に応じてバネが伸縮し、このバネの伸縮により、可動部材がゴムベルトにかかる張力を自動的に調整する方向に移動することによって、ゴムベルトにかかる張力を減少させることが可能になる。前記バネは、一端が可動部材に固定され、かつ、他端が塗膜転写具ケース(以下、ケースという)もしくは該ケースに固定された部材に固定されていることが望ましい。
【0023】
バネが固定された可動部材を本発明の塗膜転写具に適用する場合は、塗膜転写具の種類や大きさに応じて、転写テープに掛る張力を計算で求め、それに見合う適正な弾性係数を有するバネを設置すればよいので、可動部材が移動する距離の調整も容易である。
【0024】
本発明の塗膜転写具においては、ゴムベルトは転写テープの繰り出しリールと同軸に設けられた繰り出しプーリならびに転写テープの巻き取りリールと同軸に設けられた巻き取りプーリ間に掛け回されており、かつ繰り出しプーリと巻き取りプーリの中間部に設けられた可動部材に摺接するようになっている。また、繰り出しリールから引き出された転写テープも、この可動部材の別の部位に摺接した後、転写ヘッドへと走行し、転写ヘッド部で被転写面に塗膜を転写した後、反転したテープ基材が巻き取りリールに巻き取られる。
【0025】
繰り出しリールと巻き取りリール間に掛け回された無端状のゴムベルトは、可動部材と摺接することで外側に押されて、ひずんだ状態で掛け回されている。また、繰り出しリールより引き出された転写テープは、可動部材のゴムベルトが摺接する部位とは異なる部位に摺接されるようになっている。そして、転写テープが引き出されることにより転写テープに張力が発生すると、この転写テープの張力は、可動部材を内側(リール側)へ引っ張ることになり、可動部材は内側へ移動する。可動部材が内側へ移動することにより、可動部材に摺接するゴムベルトも内側に移動し、ゴムベルトに掛けられていた張力は減少することになる。ゴムベルトの張力が減少することで繰り出しリールと巻き取りリール間の張力が低下し、小さな力で転写テープを引き出すことが可能となる。
【0026】
本発明において、可動部材を移動させる原動力は、引き出される転写テープに掛かる張力であるため、転写テープに掛かる張力の大きさによって、可動部材の移動距離が自動的に調整される。すなわち、塗膜転写具の使用終期のように、転写テープの引き出しに、より大きな力を必要とするようになると、転写テープにはより大きな張力が発生し、可動部材の移動距離が大きくなり、ゴムベルトに掛けられていた張力がより大きく解消されることになる。前記したように、転写テープの引き出しに必要な力は、転写テープの残量に依存するので、本発明の塗膜転写具では、転写テープの残量に応じて、自動的に可動部材の移動量すなわちゴムベルトの張力の解消度合いが調整され、常に比較的軽い力で転写テープを引き出すことができる。
【0027】
(実施形態1)
図2は、本発明の実施形態1における可動部材を備えた塗膜転写具の概略を示す図である。
【0028】
図2の塗膜転写具20において、転写テープ24は、テープ基材上に塗膜を塗布した状態で繰り出しリール22に巻回されており、ケース27の前端開口から突出する転写ヘッド26を被転写面上に当接させ、転写ヘッド26を走行させ(図2において左から右へ塗膜転写具を移動させることになる)塗膜の転写を開始すると、転写テープに引っ張られて繰り出しリール22が回転し転写テープ24が引き出されてくる。繰り出しリール22と同軸に繰り出しプーリが設けられており(図2では巻き回された転写テープ24のため隠れており図示していない)、繰り出しプーリにはゴムベルト25が掛けられており、このゴムベルト25は、繰り出しリール22と巻き取りリール23の間に設けられた可動部材21の円柱状リブ21aと摺接した後、巻き取りリール23と同軸に設けられた巻き取りプーリ(図2では巻き取りリール23に隠れているため図示していない)に掛け回されている。繰り出しリール22から転写テープ24が繰り出されることで繰り出しリール22が回転し、これと連動して繰り出しプーリが回転し、掛け回されたゴムベルト25により、巻き取りプーリが回転し、これと連動して巻き取りリール23が回転して、被転写面に塗膜を転写した後に転写ヘッド26の前端部で反転した塗膜剥離後のテープ基材が巻き取られるようになっている。
【0029】
可動部材については、図1の試験装置を示す図にその基本的構成が示されているので、図1を用いて説明する。すなわち、可動部材11は直方体の部材に円柱状リブ11aを取り付けた形態となっており、その断面はL字型の形状を呈している。L字型の直方体部分には圧縮コイルバネ11cを収納できる大きさの凹部が設けられ、円柱状リブ11aはL字型断面の1辺を形成している。前記凹部には圧縮コイルバネ11cが固定されている。圧縮コイルバネ11cの長さは凹部よりも長く、圧縮コイルバネ11cは凹部より突き出た形で凹部に嵌め込まれ、その端は固定される。このバネ11cの突き出た部分は、図1の断面図に示されているように、可動部材を収納することが可能で、ケースに固定でき、かつ可動部材の凹部から突き出た圧縮コイルバネが収められる凹部を設けた別の補助部材18の該凹部の奥壁に、圧縮コイルバネ11cの端が届くようにして固定されている。そして、可動部材11を収納する補助部材18には、円柱状リブが圧縮コイルバネ11cの伸縮によって移動できるよう、その表面部に楕円形状の開口部17が設けられている。
【0030】
可動部材の凹部から突き出た圧縮コイルバネの端の固定法としては、上記のように可動部材を収納する補助部材を用いる方法の他、ケースに圧縮コイルバネを固定するための当接壁を設けて圧縮コイルバネの端が当接するようにして固定する方法等で行うこともできる。
【0031】
本実施形態においては、使用する圧縮コイルバネの強さおよび固定するときの圧縮コイルバネの圧縮状態を調整することによって、初期状態(塗膜転写具の未使用状態)でゴムベルトにかける張力ならびに使用状況に応じてゴムベルトの張力を減少させる度合いを調整することができる。
【0032】
また、円柱状リブは、ゴムベルト15が摺接しやすいように凹部11bが設けられており、この凹部11bは、その上側よりも径が小さくなっている。そして上側の径の大きい方の側(11a)には繰り出しリール12から繰り出される転写テープ14が摺接する。なお、円柱状リブの径の大きさや長さ、円柱状リブに形成する凹部の深さや場所は、塗膜転写具の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0033】
図2は、可動部材の凹部に嵌め込んだ圧縮コイルバネを、図1に示した別の補助部材に収納する方法で固定した塗膜転写具の概略を示す図である。図2においては、可動部材を構成する円柱状リブの内、転写テープと摺接する円柱状リブ21a(図1の11aに該当する)、可動部材を収納する補助部材の開口部28(図1の17に該当する)は図示しているが、可動部材全体図(図1の11に該当する)、ゴムベルト25が摺接する円柱状リブの凹部(図1の11bに該当する)および圧縮コイルバネ(図1の11cに該当する)については図示していない。
【0034】
図2において、繰り出しリール22から繰り出される転写テープ24に張力が掛かると、転写テープ24は、転写テープ24が摺接する可動部材の円柱状リブ21aを内側(リール側)へ引っ張り、それにより可動部材に嵌め込まれたバネが縮められ、可動部材全体が内側(リール側)へ移動する。可動部材が移動することで、ゴムベルト25が弛められて張力が減少し、より小さな力で転写テープ24を引き出すことが可能になる。
【0035】
また、本実施形態において、転写テープの残量が減少するにしたがって、転写テープに掛かる張力が大きくなるが、転写テープに掛かる張力が大きくなることによって、可動部材の移動距離が大きくなり、ゴムベルトに掛かる張力は、自動的に解消されて行くことになる。ゴムベルトに掛かる張力が完全に解消されると、前記したように、繰り出しプーリから巻き取りプーリ側へ走行するゴムベルトが外側に膨らんで弛み、転写を終えた時点で転写テープが繰り出しリールに巻き戻され、転写ヘッド部に塗膜が失われた基材テープが残るという問題が発生する。しかしながら、本実施形態においては、可動部材の可動範囲を、最も内側まで移動してもゴムベルトに張力が掛かっている状態に設定することができるので、ゴムベルトの張力が完全に解消されることはなく、この問題点も解消することができる。
【0036】
可動部材が最も内側まで、すなわちゴムベルトにかかる張力を解消する方向へ、移動してもゴムベルトに張力が掛かっている状態になるように、可動部材の可動範囲を規定するには、図2における開口部28の大きさを適宜設定し、ゴムベルトに適度な張力が残る状態以上に可動部材が内側へ移動できないようにすることで達成できる。あるいは、転写具の使用終期を想定して、転写テープに掛かる張力が最大のときにバネが最も縮んでも、ゴムベルトに掛かる張力が残るような強さのバネを用いることで調整することも可能である。
【0037】
可動部材を形成する材料に制限はないが、樹脂を用いて一体成形することで簡便に作製することができる。使用する樹脂に特に制限はなく、通常のプラスチック成形品に使用される樹脂、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂等を挙げることができる。
【0038】
可動部材中に嵌め込むバネも、圧縮コイルバネの他、板バネやねじりコイルバネ等を使用することができる。また、材質も金属、樹脂いずれも使用することができる。
【0039】
可動部材は、繰り出しリールと巻き取りリールの間で、本発明による効果を阻害しない範囲に任意に設置することができる。
【0040】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2における可動部材を備えた塗膜転写具の概略を示す図である。
【0041】
実施形態2における塗膜転写具は、可動部材の取付け方が異なる以外は、実施形態1と同じである。図3において、32は繰り出しリール、33は巻き取りリール、36は転写ヘッド、34は転写テープ、35はゴムベルト、37はケースを示している。31は可動部材(31aは円柱状リブ、31bは円柱状リブの凹部、31cはねじりコイルバネ、31dはねじりコイルバネの動きに連動して円柱状リブを移動させる支持部材である。)、38は可動部材を移動させるために設けられた開口部である。
【0042】
本実施形態における可動部材31は、繰り出される転写テープ34と摺接する円柱状リブ31aならびにゴムベルト35が摺接する円柱状リブ31bが、一体成形で成形された(あるいは、両リブが上下に重ねられていてもよい)形状となっており、ねじりコイルバネ31cによって支えられている。転写テープと摺接する円柱状リブ31aの径は、ゴムベルトが摺接する円柱状リブの凹部31bの径より大きく、かつ上側に位置しているのは実施形態1と同様である。
【0043】
ねじりコイルバネ31cは、その一端が可動部材の円柱状リブの凹部31b下端部に取り付け固定され、コイル部分が支持部材を固定するために設けられた固定部材39を周回し、他の一端が繰り出しリール固定軸の下端に当接している。前記固定部材39は、ケース37に固定されている。転写テープ34が引き出されて、転写テープ34に張力が発生すると、転写テープ34に摺接する可動部材の円柱状リブ31aは内側(リール側)に引っ張られ、それにともなって、ねじりコイルバネ31cも内側(リール側)に引っ張られることになる。内側(リール側)に引っ張られたねじりコイルバネ31cは、固定された根元を中心に円を描きながら縮むので、可動部材の円柱状リブ31aは、ねじりコイルバネ31cの動きに合わせて回動しながら、開口部38に沿って内側に移動する。それによって、ゴムベルト35に掛かっていた張力が減少し、より小さな力で転写テープを引き出すことが可能になる。
【0044】
前記固定部材39をケース37に固定する際には、ケース37に設けた穴に圧入し嵌め込む、ケース37の形状に合わせて嵌め込む、インサート成型により形成する、複数の樹脂製パーツ等で挟み込む、ネジ止めあるいは接着剤でケース37に固定する、あるいはこれらを任意に組合せることで、嵌め込み固定することができる。
【0045】
また、可動部材である円柱状リブ31aを、ゴムベルト35と摺接する円柱状リブの根元部分で、ねじりコイルバネ31cに取り付ければよいので、円柱状リブを支持する支持部材31dを用いることなく、前記固定部材39を支点として円柱状リブを回動させることで、可動部材を移動させるようにすることもできる。
【0046】
次に、本発明の塗膜転写具用カートリッジについて説明する。
【0047】
本発明の塗膜転写具用カートリッジは、テープ基材に塗膜を塗布した転写テープを繰り出す繰り出しリールと、前記塗膜を被転写面に押圧して転写する転写ヘッドと、転写後のテープ基材を巻き取る巻き取りリールを有し、前記繰り出しリールと巻き取りリールを連動回転させるベルト式連動機構を備えた塗膜転写具用カートリッジであって、前記繰り出しリールと前記巻き取りリールの間に、弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整する可動部材が設けられている。
【0048】
本発明の塗膜転写具用カートリッジは、ゴムベルトがカートリッジに設けられている塗膜転写具(Aタイプ)、ならびに、ゴムベルト、繰り出しリールと同軸の繰り出しプーリおよび巻き取りリールと同軸の巻き取りプーリが、カートリッジを装着するケース本体側に設けられている塗膜転写具(Bタイプ)の双方に適用可能である。
【0049】
前記Aタイプの塗膜転写具の場合は、本発明の塗膜転写具用カートリッジが、さらに、繰り出しリールおよび巻き取りリールと同軸の2個のプーリならびにゴムベルトを備えていればよい。このカートリッジをケース本体に装着することにより、通常の塗膜転写具として使用可能となる。
【0050】
前記Bタイプの塗膜転写具の場合は、本発明の塗膜転写具用カートリッジは、繰り出しリール、巻き取りリールおよび可動部材が設けられていればよい。このカートリッジを、繰り出しリールおよび巻き取りリールと同軸に嵌合する2個のプーリならびにゴムベルトを備えたケース本体に装着、嵌合させることにより、通常の塗膜転写具として使用可能となる。
【0051】
そのため、本発明の塗膜転写具用カートリッジをケース本体内に装着した場合は、本発明の塗膜転写具と同様の効果を奏することとなる。
【0052】
なお、塗膜転写具用カートリッジの場合も、可動部材の形状や取付け方、材料、また可動部材に取り付けられるバネの形状や材料、取付け方は、上記した塗膜転写具の場合と同様である。
【0053】
以上、本発明に係る塗膜転写具および該塗膜転写具用カートリッジの実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形が可能である。
【0054】
(試験例)
図1に示す試験装置を用いて、転写テープの使用初期と使用終期での転写テープの引き出し時に掛かる荷重の変化を測定した。
図1に示す装置は、前記したように、転写テープに張力が発生すると可動部材が内側に移動し、ゴムベルトに掛かる張力が自動的に減少するようになっている。比較として、図1の装置において、可動部材の位置を転写テープの使用初期の位置から移動しないように固定して、ゴムベルトに掛かる張力が減少しない場合の転写テープの引き出し時に掛かる荷重の変化を測定した。この測定例を比較試験例とする。
なお、転写テープとしては6m巻きの修正テープを用いて試験を実施した。また、転写テープに掛かる荷重の測定は、テンシロンを用いて、繰り出しリールから転写テープを引き出すときに発生する荷重を測定した。
結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の試験例に示すように、転写テープの引き出し時に転写テープに掛かる張力を利用して可動部材が移動することで、ゴムベルトにかかる張力を自動的に減少させる本発明の塗膜転写具においては、転写テープの使用終期のように転写テープに大きな張力が発生する場合でも、軽い力で転写テープを引き出せることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の塗膜転写具および塗膜転写具用カートリッジは、粘着テープ、修正テープ、蛍光テープなどのテープ類を装着して使用することにより、使い勝手のよい塗膜転写具となり得る。
【符号の説明】
【0058】
11 可動部材
11a 円柱状リブ
11b 円柱状リブの凹部
11c 圧縮コイルバネ
12 繰り出しリール
13 繰り出しプーリ
14 転写テープ
15 ゴムベルト
16 巻き取りプーリ
17 開口部
18 補助部材
20 塗膜転写具
21 可動部材
21a 円柱状リブ
21b 円柱状リブの凹部
22 繰り出しリール
23 巻き取りリール
24 転写テープ
25 ゴムベルト
26 転写ヘッド
27 ケース
28 開口部
30 塗膜転写具
31 可動部材
31a 円柱状リブ
31b 円柱状リブの凹部
31c ねじりコイルバネ
31d 支持部材
32 繰り出しリール
33 巻き取りリール
34 転写テープ
35 ゴムベルト
36 転写ヘッド
37 ケース
38 開口部
39 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ基材に塗膜を塗布した転写テープを繰り出す繰り出しリールと、前記塗膜を被転写面に押圧して転写する転写ヘッドと、転写後のテープ基材を巻き取る巻き取りリールを有し、前記繰り出しリールと巻き取りリールを連動回転させるベルト式連動機構を備えた塗膜転写具において、
前記繰り出しリールと前記巻き取りリールの間に、弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整する可動部材を設け、
前記繰り出しリール及び巻き取りリールに対してそれぞれ同軸に設けた繰り出しプーリ及び巻き取りプーリに掛け回されたゴムベルトと、前記繰り出しリールから引き出された転写テープとを、それぞれ異なる部位で前記可動部材に摺接させ、
前記可動部材が転写テープの張力に応じて移動することによって、ゴムベルトにかかる張力を減少させるようにしたことを特徴とする塗膜転写具。
【請求項2】
前記弾性部材がバネである請求項1記載の塗膜転写具。
【請求項3】
テープ基材に塗膜を塗布した転写テープを繰り出す繰り出しリールと、前記塗膜を被転写面に押圧して転写する転写ヘッドと、転写後のテープ基材を巻き取る巻き取りリールを有し、前記繰り出しリールと巻き取りリールを連動回転させるベルト式連動機構を備えた塗膜転写具用カートリッジであって、前記繰り出しリールと前記巻き取りリールの間に、弾性部材の変形によってゴムベルトの張力を自動的に調整する可動部材が設けられていることを特徴とする塗膜転写具用カートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−56696(P2011−56696A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206559(P2009−206559)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000134589)株式会社トンボ鉛筆 (158)