説明

塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解方法

【課題】 イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を溶解し、液中の不純物を除去し、高濃度のイリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸を含む溶液を得る方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析物を、次亜塩素酸ソーダを用いて溶解すると同時に、液中からアンモニウムイオンを除去し、かつ、白金等の不純物イオンを低減させる塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解において、アンモニウムイオンを液中から除去し、かつ、不純物元素を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を溶解させる方法として、従来、イリジウムイオンの価数を調整し、3価に還元することで塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解度を大きくすることでイリジウム溶液を得る方法が一般的に知られている。
【0003】
しかし、この方法では塩化イリジウム酸アンモニウム塩が分解する際にアンモニウムイオンが同時に液中に残留するためにこの液を対象とした溶媒抽出法による不純物の除去、例えばTBPによる白金の抽出反応が阻害される可能性があった。
また特開2004-99975(特許文献1)では、塩化イリジウム酸セシウムを水素雰囲気中で還元する方法が、提示されているが、煩雑な方法であり好ましくない。
【特許文献1】特開2004-99975 ルテニウム及び又はイリジウムの回収方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を溶解し、液中の不純物を除去し、高濃度のイリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸を含む溶液を得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を溶解し、かつ、液中にアンモニウムイオンを残さないような方法として次亜塩素酸ソーダを用いて溶解することを手段とする。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を次亜塩素酸ソーダを用いて溶解するのと同時に液中からアンモニウムイオンを除去し、
かつ、白金等の不純物イオンの低減させる塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解方法。
【0007】
(2)上記(1)記載の白金等の不純物イオンの低減方法として、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を次亜塩素酸ソーダにより溶解する際にイリジウム以外の不溶解性残渣として存在する不純物元素を、ろ過により、液中から除去を可能とする塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解方法。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、
(1)イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を溶解し、液中の不純物を除去し、高濃度の塩化イリジウム酸を含む溶液を容易に得ることができる。
(2)イリジウム以外の不純物元素、特に白金に関して、その一部を不溶解性残渣とすることにより、ろ過等の手段によって、除去を可能とする。
(3)次亜塩素酸ソーダの使用により、液中のアンモニウムイオンが分解し、後工程で、溶媒抽出反応が効率的に進行する。
などの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明について、詳細に説明する。
イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩は通常、イリジウムの価数が4価のままでは溶解させることはできない。
なぜならば、4価のイリジウムは塩化イリジウム酸としてアンモニウムイオンと塩を形成し、塩化イリジウム酸アンモニウム塩となるが、この塩の溶解度が非常に小さいためである。
【0010】
塩化イリジウム酸アンモニウム塩には2種類あり、3価のイリジウムイオンからなる塩化イリジウム酸アンモニウム塩と4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩があるが、前者の溶解度は後者と比較すると10倍以上大きい。
【0011】
よって、通常は亜硫酸ソーダ等の還元剤を添加してイリジウムイオンを3価に還元することにより塩化イリジウム酸アンモニウムの溶解度を増すことにより溶解させる。
【0012】
この反応が進行するのは、4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解度が、非常に小さいとはいえ、その一部が溶解する。
このためその溶解している4価の塩化イリジウム酸を亜硫酸イオンが、3価に還元し、液中の4価の塩化イリジウム酸からなる塩化イリジウム酸アンモニウム塩と4価の塩化イリジウム酸との化学平衡を取り戻すように4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解が進行するということが推察される。
【0013】
よって、亜硫酸ソーダ等の還元剤による4価の塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解反応は、上記に説明したように進行するためにアンモニウムイオンは液中に残る結果となる。
そこで鋭意研究した結果、次亜塩素酸イオンがアンモニウムイオンを分解する性質に着目した。
つまり、次亜塩素酸ソーダがアンモニウムイオンを分解するためにイリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸は4価のままで溶解することが可能であることを見出した。
つまり、アンモニウムイオンがほとんど存在しない高濃度の4価の塩化イリジウム酸溶液を製造することが可能であることを見出した。
【0014】
また、この反応の際に、イリジウム以外の不純物、特に白金が不溶解性残渣として溶解しないことが見出された。
白金は通常、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩の作製の際に、白金も塩化白金酸アンモニウム塩としてイリジウムのそれと同種同形の塩を形成するために塩化イリジウム酸アンモニウム塩の形成反応、いわゆる晶析反応によっては除去することがほとんど不可能である元素である。
【0015】
しかし、若干の白金を不純物として含む塩化イリジウム酸アンモニウム塩に次亜塩素酸ソーダを添加することにより4価の塩化イリジウム酸溶液を作製する際に一部の白金は不溶解性残渣として液中にとどまる。この化合物の特定は調査中である。
よって、ろ過等の操作により液中から該不溶解性残渣を除去することは容易である。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
パラジウム、白金、ロジウム、イリジウムを含む塩化物溶液から塩化イリジウム酸アンモニウム塩を作製する、いわゆる晶析反応により、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩と白金、ロジウム、パラジウムの各アンモニウム化合物塩との混合物を作製、ろ過により該混合物をろ別した。
表1に該混合物に含有される白金、パラジウム、イリジウム、ロジウムの含有量(物量(mg))を示すが、この値は該塩化物溶液中に含まれる各白金族元素含有量から晶析反応後のろ別した残余の反応后液に含まれる各白金族元素含有量を引いた値である。
また、この表に示す品位(mass%)とは、白金族元素(白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム)の4元素の総重量に対する各元素の割合を百分率で表したものである。
【表1】

【0017】
上記該混合物に対して次亜塩素酸ソーダを添加すると、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を構成するアンモニウムイオンが次亜塩素酸により分解除去されるので、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解反応が進行する。また、イリジウム以外の各白金族元素も溶解する。
一方、次亜塩素酸イオンは塩化水素に変化するので、添加する次亜塩素酸ソーダ自体は強アルカリ性溶液であるが、溶解液pHは酸性を示す。
やがて、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウムが溶解してなくなると、溶解液pHは次亜塩素酸ソーダの液性がアルカリ性であるために上昇する。その測定結果を図1に示す。これまでの試験結果より該溶解液pHの上昇は、pH=1を超えるまで時亜塩素酸ソーダの添加を継続することで溶け残りの該混合物は確認されていない。
【0018】
溶解液のpHが1以上に達した後、該溶解液の液面上に非常に粒形の小さい不溶解性残渣が発生、浮遊する。この該残渣はろ過による除去が可能である。
【0019】
このようにして得られた該溶解液に含まれる白金族元素(白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム)の含有量(物量(mg))を表2に示す。この表に示す品位(mass%)とは、白金族元素(白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム)の4元素の総重量に対する各元素の割合を百分率で表したものである。
該溶解液液量は300mlであったので、該溶解液中のイリジウム濃度は20g/Lであり、高濃度の4価のイリジウム溶液である。
また、溶解液中のアンモニウムイオン分析を行った結果、0g/Lであることが判明した。
【表2】

【0020】
上記表1および表2の品位(%)を比較すると白金(Pt)の割合が低減されている。また、表1および表2の物量(mg)を比較するとイリジウム(Ir)は次亜塩素酸ソーダによる溶解前後においてほとんど変化が観察されなかった。つまり、次亜塩素酸ソーダによる該溶解反応における不溶解性残渣除去の効果は、イリジウム以外の不純物の低減を可能としつつ、かつ、イリジウムの損失がほとんどないという特徴を有するものである。また、本願発明により20〜50g/L以上の4価のイリジウムの高濃度溶液を得ることが可能である。
【0021】
これまでの試験結果より次亜塩素酸ソーダの添加による該溶解液pHの上昇は、pHが1を超えると溶け残りの晶析物は確認されていない。逆に該溶解液のpH上昇が1未満であると溶け残りの塩化イリジウム酸アンモニウム塩が発生し、イリジウムの損失が発生する。
【0022】
また、該溶解液中のアンモニウムイオンが0g/Lまで低減するので、該溶解液に対してトリブチルリン酸を用いた溶媒抽出反応により、不純物元素およびイリジウムを抽出する反応を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩と白金、ロジウム、パラジウムの各アンモニウム化合物塩との混合物に対して時亜塩素酸ソーダを添加したときの溶液pH挙動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩からなる晶析物を、次亜塩素酸ソーダを用いて溶解すると同時に、液中からアンモニウムイオンを除去し、
かつ、白金等の不純物イオンを低減させる
ことを特徴とする塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解方法。
【請求項2】
請求項1記載の白金等の不純物イオンの低減方法として、イリジウム価数が4価である塩化イリジウム酸アンモニウム塩を次亜塩素酸ソーダにより溶解する際に
イリジウム以外の不純物元素を不溶解性残渣として、ろ過により液中から除去することを特徴とする塩化イリジウム酸アンモニウム塩の溶解方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−126752(P2009−126752A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304343(P2007−304343)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】