説明

塩化ビニル系樹脂製壁紙及び塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙

【課題】 塩化ビニル系樹脂からなる装飾層と裏打紙とを容易に剥離することができ、これらの再利用を極めて容易とすることができる塩化ビニル系樹脂製壁紙及び裏打紙を提供する。
【解決手段】 原紙20の装飾層3形成面に、スチレン−アクリル系共重合物、アクリル系重合物、及びエチレン−酢酸ビニル共重合物から選ばれる少なくとも一種以上の重合物を含有する塗工液を、該重合物の付着量が0.14〜3.5g/mとなるように塗工した裏打紙2の該塗膜21上に、塩化ビニル系樹脂からなる装飾層3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塩化ビニル系樹脂からなる装飾層を形成した塩化ビニル系樹脂製壁紙と、これに使用する裏打紙に関し、特に、裏打紙と装飾層とを容易に分離することができ、壁面より剥離した後の再利用が極めて容易な上記壁紙及び裏打紙に関する。
【0002】
【技術背景】従来より、壁紙としては、裏打紙の表面に塩化ビニル系樹脂製の装飾層を形成した塩化ビニル系樹脂製壁紙が広く使用されている。また、この塩化ビニル系樹脂製壁紙等の壁紙の施工は、石膏ボード等からなる壁面に、適宜の接着剤を用いて貼着するのが一般的である。
【0003】ところで、上記の壁紙を貼り替える場合には、まず、既に貼着してある壁紙を剥離し、その後に新たな壁紙を貼着するが、このときの剥離作業を容易にするために、裏打紙として、所定位置にて比較的容易に紙層間剥離させることができ、かつ剥離後の壁面には、表面が略平坦な薄層のみが残るようにした(いわゆる、ピールアップ性を付与した)裏打紙を使用するのが一般的である。
【0004】また、特開昭52−37814号公報、特開昭52−37935号公報、特開昭55−98999号公報、特開平6−73700号公報、特開平6−330533号公報、特開平7−300800号公報等には、壁面への貼着面に剥離性の層を形成した裏打紙を用いることにより、壁面からの剥離を容易にした壁紙について提案されている。
【0005】一方、近年、環境保護や省資源の見地から、紙や合成樹脂等の再利用が求められている。しかし、塩化ビニル系樹脂製壁紙は、紙と塩化ビニル系樹脂との複合体であり、かつ紙と塩化ビニル系樹脂製装飾層とを分離するのが困難であるため、上記のようにして壁面から剥離した塩化ビニル系樹脂製壁紙や何らかの要因によって製品とし得なかった塩化ビニル系樹脂製壁紙(不良品)などの再利用は現実的には難しく、その殆どが焼却されているのが実態である。
【0006】こうした観点から、特開平7−331599号には、裏打紙と塩化ビニル系樹脂材料との間に特殊なコーティング材を介在させ、アルカリ性水溶液に浸漬することにより、この双方を分離し得る壁紙について提案されている。この技術によれば、裏打紙と塩化ビニル系樹脂材料とを分離し、各々を再利用することは可能となるが、壁面から剥離した壁紙をアルカリ性溶液へ浸漬する工程が必要であり、再利用のためのコストが高くなる。
【0007】
【発明の目的】本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、塩化ビニル系樹脂製装飾層と裏打紙との分離を極めて容易にし、従って、壁面から剥離した壁紙や製品とし得なかった不良品などの再利用を低コストで実現することができる塩化ビニル系樹脂製壁紙を提供すると共に、この塩化ビニル系樹脂製壁紙に使用する裏打紙をも提供することを目的とする。
【0008】
【発明の概要】上記目的を達成するため、本発明は、(1)裏打紙に塩化ビニル系樹脂からなる装飾層を形成してなる壁紙に関し、この裏打紙として、原紙の少なくとも該装飾層形成面に、特定の重合物を含む塗工液を、該重合物が特定量付着するように塗工して塗膜を形成したものを用いることにより、裏打紙と装飾層との界面にて剥離可能としたことを特徴とする。また、本発明は、(2)原紙の少なくとも一表面に、特定の重合物を含む塗工液を、該重合物が特定量付着するように塗工して得た塗膜を形成してなることを特徴とする裏打紙にも関する。さらに、本発明の壁紙においては、(3)裏打紙の紙層間剥離強度fと、装飾層と裏打紙の界面剥離強度fとの関係が、f>fを満足すること、(4)装飾層と裏打紙の界面剥離強度fを特定すること、をも特徴とする。
【0009】本発明の裏打紙の原紙に用いる材料としては、従来より塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙として使用されているものと同様に、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプ、及び古紙パルプ等から選ばれる少なくとも一種以上を適宜混合したものを使用する。勿論、寸法安定性を向上させるために、上記のパルプに、アクリル繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維やガラス繊維等の無機繊維を混合することもできる。
【0010】上記のパルプ材料(繊維成分を混合したものも含む)には、従来より塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙として使用されているものと同様に、不透明性、表面平滑性、隠蔽性、柔軟性、難燃性等を向上させるための填料を添加することもできる。この填料としては、例えば、クレー、カオリン、焼成カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等の一般的に使用されている填料や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の自己消火性を有する填料などが使用できる。これら填料の添加量は、隠蔽性、難燃性、紙の強度等を考慮すると、上記のパルプ材料(繊維成分を混合したものの場合には、パルプと繊維成分との合計量)100重量部に対し、10〜30重量部である。
【0011】さらに、上記の填料と共に、通常使用されている各種の添加剤を加えることもできる。具体的には、滲み防止性、耐水性等の付与のために添加される内添サイズ剤としてのデンプン、ロジン系サイズ剤、ワックス系サイズ剤、アルキルケテンダイマー等;紙力増強剤としての変性デンプン、α−デンプン、カチオンデンプン等のデンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール、変性尿素樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ゴムラテックス等;湿潤紙力増強剤としてのメラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒドデンプン、ポリエチレンイミン、エポキシ化ポリアミド樹脂、ポリアミドポリアミン樹脂、ポリアミドポリアミン・エピクロヒドリン樹脂等;凝集・定着剤としての硫酸バンド、アルミン酸ソーダ、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩等;歩留向上剤としてのポリアクリルアミド樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミド樹脂等;消泡剤としてのシリコーン系消泡剤、高級アルコール系消泡剤、トリブチルホスフェートやソディウムオクチルホスフェート等の有機リン酸、ポリグリコール系消泡剤等;染料などが挙げられる。
【0012】上記の組成からなる原紙は、長網抄紙機などを用い、従来の塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙と同様の製紙法により得られる。また、従来より一般に使用されている塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙等と同様に、壁面からの剥離作業が容易に行えるように、ピールアップ性を付与しておくのが望ましい。
【0013】上記の組成からなり、通常採用される製紙法にて得られる原紙は、その少なくとも一表面に、スチレン−アクリル系共重合物、アクリル系重合物、及びエチレン−酢酸ビニル共重合物から選ばれる少なくとも一種以上の重合物を含有する塗工液が塗工され、塗膜が形成される。上記のスチレン−アクリル系共重合物としては、例えば、スチレンと、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル等との共重合物が挙げられ、アクリル系重合物としては、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル等の単独もしくは共重合物が挙げられる。
【0014】上記の塗工液には、必要に応じて、デンプン、変性デンプン、カゼイン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシセルロース、大豆タンパク、ポリビニルアルコール、ゴムラテックス等の水溶性接着剤(バインダー);カオリン、サチンホワイト、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン等の顔料;染料;デンプン、ポリビニルアルコール、ワックス系サイズ剤、ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー等の表面サイズ剤;シリコーン系消泡剤、高級アルコール系消泡剤、トリブチルホスフェートやソディウムオクチルホスフェート等の有機リン酸、ポリグリコール系消泡剤等の消泡剤;アミノアルデヒド系樹脂、エポキシ系ポリアミド樹脂、炭酸ジルコニルアンモニウム等の重金属錯塩、グリオキザール、アミノリン酸化デンプン等の耐水化剤;ワックスエマルジョン等の滑剤;ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール等の潤滑剤、などを添加することもできる。
【0015】上記の組成からなる塗工液の塗工方法としては、抄紙装置に組み込まれているオンマシーンコーティングや、抄紙工程後の各種コーターによるオフマシンコーティングのいずれであってもよい。また、塗工液の塗工は、一方の面のみに行ってもよいし、両面に行ってもよい。
【0016】また、上記の塗工液は、該塗工液中の上記重合物付着量が0.14〜3.5g/mの範囲となるように塗工する。上記重合物の付着量がこれより少ないと、後述する塩化ビニル系樹脂からなる装飾層と裏打紙との界面(裏打紙表面の塗膜と塩化ビニル系樹脂からなる装飾層との界面、以下同じ)での剥離強度が弱くなりすぎ、壁紙の貼着作業中又は貼着後に、塗膜と装飾層との界面にて剥離してしまう虞れがある。一方、重合物の付着量がこれより多いと、塩化ビニル系樹脂からなる装飾層と裏打紙との界面での剥離強度が強くなりすぎ、装飾層と裏打紙とを分離するのが極めて困難となると共に、重合物の付着量がこれより著しく多い場合には、塗工液が原紙に浸透し難くなるため、塗膜と原紙との接着強度が著しく低下し(塗膜と原紙との界面剥離強度が低下し)、壁紙の貼着作業中又は貼着後に、原紙と塗膜との界面にて剥離してしまう虞れがある。
【0017】上記の塗工液は、原紙の一表面に塗工すればよいが、両面に塗工してもよい。壁面への貼着面にも塗膜を形成することで、壁面からの剥離性をも向上させることができる。また、壁面への貼着面には、上記塗膜に代えて、特開昭52−37814号公報、特開昭52−37935号公報、特開昭55−98999号公報、特開平6−73700号公報、特開平6−330533号公報、特開平7−300800号公報等に提案されているような剥離性の層を形成することで、上記と同様に壁面からの剥離性向上を図ることもできる。
【0018】上記のようにして得られる裏打紙の塗膜が形成されている面(塗膜が両面に形成されている場合には、いずれか一方の面)には、塩化ビニル系樹脂からなる装飾層が形成される。この装飾層は、通常の塩化ビニル系樹脂製壁紙における装飾層と同様のものであり、例えば、ポリ塩化ビニルや塩化ビニルを主体とする他のモノマーとの共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂に、可塑剤、安定剤、着色剤、充填剤、難燃剤、防カビ剤、発泡剤、熱膨張性マイクロカプセル等を必要に応じて添加した塩化ビニル系樹脂ペーストを、ドクターナイフコーター、コンマドクターコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、スクリーンコーター、ロータリースクリーンプリンター等の手段にて裏打紙の表面に塗工した後、加熱してゲル化させ、必要に応じて発泡させて得られるもの等である。この装飾層は、単層であってもよいし、複数層であってもよい。
【0019】また、通常の塩化ビニル系樹脂製壁紙のように、表面にメカニカルエンボス、印刷インキでの印刷模様、表面処理等を施してもよいし、あるいは発泡抑制剤及び/又は発泡促進剤を含むインキを使用してのケミカルエンボスを施すこともできる。
【0020】本発明の壁紙は、貼着作業時及び貼着作業後には、装飾層が裏打紙から剥離することがなく、壁面から剥離させた後には、裏打紙表面に形成してある塗膜の作用により装飾層と裏打紙とを容易に分離できるという特性を有する。
【0021】このとき、裏打紙の紙層間剥離強度fが、装飾層と裏打紙との界面剥離強度(装飾層と裏打紙表面の塗膜との界面剥離強度、以下同じ)fよりも著しく小さいと、装飾層と裏打紙との界面にて剥離するときに、裏打紙の塗膜と装飾層との界面剥離の外に、裏打紙の原紙の紙層間剥離も生じてしまい、装飾層に裏打紙の残渣が付着して、裏打紙と装飾層とを完全に分離するのが困難となる。この装飾層と裏打紙との界面にて剥離する際の、裏打紙の原紙の紙層間剥離を抑制するためには、裏打紙の紙層間剥離強度fと、装飾層と裏打紙の界面剥離強度fとの関係が、f>fを満足するようにしておくことが好ましい。
【0022】なお、裏打紙にピールアップ性を付与した場合では、所定位置にて比較的容易に紙層間剥離させることができ、かつ剥離後の壁面には、表面が略平坦な薄層のみが残るようにしてあるので、その箇所(紙層間剥離する箇所)における紙層間剥離強度は、それ以外の箇所の紙層間剥離強度よりも意図的に弱めてあることになるが、このように壁紙を壁面から剥離するために意図的に紙層間剥離強度を弱めた部分における紙層間剥離強度については、装飾層と裏打紙との界面剥離強度fより著しく小さくなっていても差し支えないことは言うまでもない。すなわち、ピールアップ性を付与した場合における上記の紙層間剥離強度fとは、上記のような壁紙を壁面から剥離するために意図的に紙層間剥離強度を弱めた部分以外の紙層間剥離強度を意味しているのである。
【0023】装飾層と裏打紙との界面剥離強度fは、裏打紙の原紙表面に塗工する塗工液の組成や塗工量、装飾層の組成や装飾層を形成する際の加工条件等によって調整することができるが、fが小さすぎると、壁紙の貼着作業時や貼着作業後に、装飾層と裏打紙との界面にて剥離してしまう虞れがあり、fが大きすぎると、壁面から剥離した後に、装飾層と裏打紙との界面で剥離するのが困難となるため、JIS K 6854に規定されるT型剥離試験によるT型剥離力で100g/25mm以上、400g/25mm未満とするのが好ましい。
【0024】また、上記の裏打紙の紙層間剥離強度fは、上記の紙力増強剤の添加量を調整することによってある程度調整することができるが、過度の増強には、原料の処理が必要になったり、紙力増強剤の増加につながり、壁紙用裏打紙としての適性、経済性の両面で不利となる。従って、fは、上記のT型剥離力で400g/25mm以下とするのが妥当である。
【0025】以下、図面に基づいて本発明の壁紙の具体例について説明する。図1は、本発明の壁紙の一例を、壁面に貼着した状態(A)及び壁面より剥離する状態(B)を示す部分断面図であり、図2は、壁面から剥離した本発明の壁紙の一例(A)を、装飾層と裏打紙の界面にて剥離する状態(B)を示す部分断面図である。図1R>1,2中、1は本発明の壁紙の一例、2は本発明の裏打紙の一例、3は装飾層、4は壁紙を壁面に貼着するための接着剤をそれぞれ示している。
【0026】図1,2に示す壁紙1は、裏打紙2の表面に単層の装飾層3を形成したものであり、裏打紙2は、原紙20の片面に、上記の重合物を含有する塗工液を該重合物の付着量が特定範囲となるように塗工して形成した塗膜21を有している。また、この裏打紙2は、従来の壁紙用裏打紙と同様に、壁面から剥離する際に、2A部分から紙層間剥離するように構成されているものである。
【0027】図1に示す本発明の壁紙1は、従来の壁紙と同様、図1(A)に示すように、壁面Wに接着剤4を用いて貼着されている。また、この壁紙1を壁面Wより剥離する場合には、図1(B)に示すように裏打紙2の2A部分より紙層間剥離させ、壁面Wには、表面が略平坦な薄層2Bのみが残るようにする。
【0028】また、壁面Wより剥離した本発明の壁紙1′は、裏打紙2として、原紙20の装飾層3が形成される側の面に、上記の塗膜21を形成したものを用いているため、図2(B)に示すように、アルカリ性溶液に浸漬するような工程を経ずとも塗膜21と装飾層3とを分離することができる。
【0029】一方、図3に示す従来の壁紙11も、本発明の壁紙1と同様に、接着剤14により壁面Wに貼着され(A)、壁面Wより剥離する場合には、裏打紙12の12A部分より紙層間剥離させ、壁面Wには、表面が略平坦な薄層12Bのみが残るようにする(B)が、壁面Wより剥離した従来の壁紙11′(図4(A))は、裏打紙12と装飾層13との界面にて剥離することができず、図4(B)に示すように装飾層13の裏面に裏打紙12の残渣12Cが付着した状態(13′)となるか、或いは図示はしないが、装飾層13の残渣が裏打紙12の表面に付着した状態となってしまい、本発明の壁紙1のように装飾層3と裏打紙2とをきれいに分離することができない。
【0030】なお、本発明の壁紙1においても、裏打紙2の紙層間剥離強度fが、塗膜21(裏打紙2)と装飾層3との界面剥離強度fよりも著しく小さい場合であれば、図4(B)に示すように、装飾層3を裏打紙2から剥離したときに、その裏面に裏打紙2の残渣が付着する虞れがある。しかし、裏打紙2の紙層間剥離強度fを、塗膜21と装飾層3との界面剥離強度fよりも大きくしておけば、このような現象は殆ど発生しない。
【0031】また、図1及び図2では、本発明の壁紙1を先に壁面Wより剥離し、その後、装飾層3と裏打紙2とを分離しているが、裏打紙2の2A部分における紙層間剥離強度(意図的にfより弱めた部分の紙層間剥離強度)が、塗膜21と装飾層3との界面剥離強度fよりも大きい場合などでは、先に装飾層3のみを剥離した後に、裏打紙2を2A部分で剥離するようにすることも可能である。さらに、裏打紙2の両面に塗膜21を形成した場合や壁面Wに貼着する側の面に剥離性の層を形成して、壁紙1全体を壁面Wより剥離することが可能である場合には、図1や図3に示すように、意図的に紙層間剥離強度を弱めた部分を設けておく(すなわち、ピールアップ性を付与しておく)必要はない。
【0032】
【実施例】
実施例1(1)裏打紙原紙の作製表1に示す組成にてパルプスラリーを調製し、このスラリーのpHを硫酸バンドで約5に調整した後、長網抄紙機にて抄紙して、70g/mの裏打紙原紙を得た。
【0033】
【表1】


【0034】(2)塗工液の作製及び塗工表2に示す組成にて調製した塗工液原液に、スチレン−アクリル系共重合物(コロパールSK−33《商品名;星光化学工業製》)を、共重合物固形分が4重量%となるように分散させて塗工液(全固形分55重量%)を作製した。得られた塗工液を、オンマシンのゲートロールにより、裏打紙原紙の両面に、固形分で、片面当たり6g/m(スチレン−アクリル系共重合物が0.24g/m)となるように塗工して、82g/mの裏打紙を得た。得られた裏打紙の紙層間剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で150g/25mmであった。
【0035】
【表2】


【0036】(3)装飾層の形成上記により得られた裏打紙上に、表3に示す塩化ビニル系樹脂ペーストを、スクリーンコーターにて200g/mとなるように塗工し、160℃で1分間加熱、ゲル化してベース層を形成した。この後、上記のベース層上に、表4に示す塩化ビニル系樹脂ペーストをロータリースクリーンプリンターにて50g/mとなるように塗工し、160℃で1分間加熱、ゲル化して装飾層を形成した。
【0037】
【表3】


【0038】
【表4】


【0039】上記のようにして得られた本発明の塩化ビニル系樹脂製壁紙の装飾層と裏打紙の界面剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で123g/25mmであった。また、上記の壁紙を室内の壁面へ貼着したところ、貼着作業時及び貼着後3ヶ月経過後とも、裏打紙と装飾層との界面にて剥離することはなかった。さらに、上記の壁紙を壁面から剥離した後、裏打紙と装飾層との界面にて剥離したところ、装飾層の裏面に紙の残渣が付着することなく、きれいに剥離することができた。
【0040】実施例2塗工液中の重合物を、アクリル系重合物(コロパールSK−15−2《商品名;星光化学工業社製》と、コロパールSK−14《商品名;星光化学工業製》との混合物;混合比率50/50)に代える以外は、実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂製壁紙を得た。得られた壁紙の装飾層と裏打紙との界面剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で130g/25mmであった。
【0041】この壁紙を室内の壁面へ貼着したところ、貼着作業時及び貼着後3ヶ月経過後とも、裏打紙と装飾層との界面にて剥離することはなかった。また、この壁紙を壁面から剥離した後、裏打紙と装飾層との界面にて剥離したところ、装飾層の裏面に紙の残渣が付着することなく、きれいに剥離することができた。
【0042】実施例3塗工液中の重合物を、エチレン−酢酸ビニル系共重合物(ポリゾールL−520《商品名;昭和高分子製》)に代える以外は、実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂製壁紙を得た。得られた壁紙の装飾層と裏打紙との界面剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で142g/25mmであった。
【0043】この壁紙を室内の壁面へ貼着したところ、貼着作業時及び貼着後3ヶ月経過後とも、裏打紙と装飾層との界面にて剥離することはなかった。また、この壁紙を壁面から剥離した後、裏打紙と装飾層との界面にて剥離したところ、装飾層の裏面に紙の残渣が付着することなく、きれいに剥離することができた。
【0044】実施例4(1)裏打紙原紙の作製表1中の紙力増強剤を0.8重量部とすることにより、裏打紙の紙層間剥離強度fをT型剥離力で380g/25mmとする以外は、実施例1と同様に裏打紙原紙を作製した。
【0045】(2)塗工液の作製及び塗工上記のようにして得た裏打紙原紙に、塗工液中のスチレン−アクリル系共重合物固形分を20重量%とし(全固形分71重量%)、裏打紙原紙表面に付着する固形分を片面当たり15g/m(スチレン−アクリル系共重合物が3.0g/m)となるように塗工する以外は、実施例1と同様にして、100g/mの裏打紙を作製した。
【0046】(3)装飾層の形成上記のようにして得た裏打紙に、実施例1と同様にして装飾層を形成し、塩化ビニル系樹脂製壁紙を得た。
【0047】上記のようにして得られた壁紙の、装飾層と裏打紙との界面剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で350g/25mmであった。また、上記の壁紙を室内の壁面へ貼着したところ、貼着作業時及び貼着後3ヶ月経過後とも、裏打紙と装飾層との界面にて剥離することはなかった。さらに、上記の壁紙を壁面から剥離した後、裏打紙と装飾層との界面にて剥離したところ、装飾層の裏面に紙の残渣が付着することなく、きれいに剥離することができた。
【0048】比較例1裏打紙原紙に塗工液を塗工しない以外は、実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂製壁紙を得た。この壁紙を室内の壁面に貼着したところ、貼着作業時及び貼着後3ヶ月経過後とも、裏打紙と装飾層との界面にて剥離することはなかったが、壁面から剥離した後も、両者の界面にて剥離することができなかった。
【0049】比較例2裏打紙原紙表面に付着する固形分を片面当たり20g/m(スチレン−アクリル系共重合物が4.0g/m)とする以外は、実施例4と同様にして、110g/mの裏打紙を作製し、この表面に実施例1と同様にして装飾層を形成し、塩化ビニル系樹脂製壁紙を得た。得られた壁紙の装飾層と裏打紙との界面剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で440g/25mmであった。
【0050】この壁紙を室内の壁面に貼着したところ、貼着作業時及び貼着後3ヶ月とも、裏打紙と装飾層との界面にて剥離することはなかったが、壁面から剥離した後も、両者の界面にて剥離することは極めて困難であり、かつ剥離した装飾層の裏面に紙の残渣が付着している箇所があった。
【0051】比較例3塗工液中のスチレン−アクリル系共重合物固形分を2重量%とする以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル系樹脂製壁紙を得た。得られた壁紙の装飾層と裏打紙との界面剥離強度fを測定したところ、T型剥離力で96g/25mmであった。
【0052】この壁紙を室内の壁面に貼着しようとしたところ、貼着作業時に裏打紙と装飾層との界面にて剥離した部分が生じ、壁紙としては実用性のないものであった。
【0053】以上の実施例1〜4及び比較例1〜3の結果を、表5に纏めて示す。
【0054】
【表5】


【0055】
【発明の効果】本発明の塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙を使用した塩化ビニル系樹脂製壁紙は、裏打紙と塩化ビニル系樹脂からなる装飾層とが適度な界面剥離強度を有しており、貼着作業時及び貼着後の壁紙としての使用時は通常の塩化ビニル系樹脂製壁紙と同様であるが、壁面から剥離した後などには、裏打紙と装飾層とを容易に分離することが可能であり、紙及び塩化ビニル系樹脂の再利用を容易に行うことができる。従って、本発明は、環境保護、省資源の見地から、極めて有用性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の塩化ビニル系樹脂製壁紙の一例を、壁面に貼着した状態(A)及び壁面より剥離する状態(B)を示す部分断面図である。
【図2】壁面より剥離した図1に示す本発明の塩化ビニル系樹脂製壁紙(A)を、装飾層と裏打紙の界面にて剥離する状態(B)で示す断面図である。
【図3】従来の塩化ビニル系樹脂製壁紙の一例を、壁面に貼着した状態(A)及び壁面より剥離する状態(B)を示す部分断面図である。
【図4】壁面より剥離した図3に示す従来の塩化ビニル系樹脂製壁紙(A)を、装飾層と裏打紙の界面にて剥離する状態(B)で示す断面図である。
【符号の説明】
1,1′ 本発明の塩化ビニル系樹脂製壁紙
2,12 裏打紙
20 原紙
21 塗膜
2A,12A 紙層間剥離部
2B,12B 壁面に残存する裏打紙の薄層
12C 装飾層の裏面に残存する裏打紙の残渣
3,13 装飾層
4,14 接着剤
W 壁面
11,11′ 従来の塩化ビニル系樹脂製壁紙
13′ 裏面に裏打紙の残渣が付着した状態の従来の装飾層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 裏打紙の表面に塩化ビニル系樹脂からなる装飾層を形成してなる塩化ビニル系樹脂製壁紙において、裏打紙が、原紙の少なくとも装飾層形成面に、スチレン−アクリル系共重合物、アクリル系重合物、及びエチレン−酢酸ビニル共重合物から選ばれる少なくとも一種以上の重合物を含有する塗工液を、該重合物の付着量が0.14〜3.5g/mとなるように塗工して得た塗膜を有し、裏打紙と装飾層との界面にて剥離可能としたことを特徴とする塩化ビニル系樹脂製壁紙。
【請求項2】 裏打紙の紙層間剥離強度fと、装飾層と裏打紙の界面剥離強度fの関係が、f>fを満足することを特徴とする請求項1記載の塩化ビニル系樹脂製壁紙。
【請求項3】 装飾層と裏打紙の界面剥離強度fが、T型剥離力で100g/25mm以上、400g/25mm未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の塩化ビニル系樹脂製壁紙。
【請求項4】 原紙の少なくとも一表面に、スチレン−アクリル系共重合物、アクリル系重合物、及びエチレン−酢酸ビニル共重合物から選ばれる少なくとも一種以上の重合物を含有する塗工液を、該重合物の付着量が0.14〜3.5g/mとなるように塗工して得た塗膜を有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂製壁紙用裏打紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平10−310999
【公開日】平成10年(1998)11月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−136026
【出願日】平成9年(1997)5月9日
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【出願人】(592175416)紀州製紙株式会社 (23)