説明

塩化ビニル被覆鋼板用接着剤

【課題】耐溶剤性、耐低温衝撃性に優れ、塩化ビニルと鋼板との密着性が高い接着剤を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂を主体とし、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を含有させて接着剤を構成する。ポリカーボネート構造のウレタン樹脂により、耐溶剤性を損なわずに柔軟性が付与される。ウレタン樹脂は、ポリオールとイソシアネート化合物とを反応させて得ることができる。そのウレタン樹脂は、5〜35重量%の範囲で含有させるとよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塩化ビニル被覆鋼板に適した接着剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】塩化ビニル被覆鋼板は、その加工性、意匠性の高さから、家電、建材の分野に多く使用されている。一般に、塩化ビニル被覆鋼板は、鋼板表面に塩化ビニル塗料を硬化させて樹脂膜を形成するか、あるいは塩化ビニルフィルムを積層させて作成しているが、鋼板と塩化ビニルフィルム(あるいは樹脂膜)とを接着させるために、その間には接着剤が設けられている。
【0003】ところで、塩化ビニル被覆鋼板には、高い接着性、耐熱性が要求されることから、それに用いる接着剤には、従来から数多くの検討がなされている。例えば、特公昭59−37034号には、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂からなる塩化ビニル被覆鋼板用の接着剤が開示されている。また、特開昭58−179274号には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂からなる塩化ビニル被覆鋼板用の接着剤が開示されている。これらの接着剤は、接着剤を鋼板上に形成した後、硬化剤により接着剤を硬化させ、鋼板および塩化ビニルとの接着性を高めている。また、低温時の耐衝撃性を高めために、特開昭58−179274号では、柔軟性付与剤(ニトリルゴム等)が添加された接着剤が開示されている。
【0004】ところが、上記の接着剤では、耐溶剤性が十分ではなく、そのため、塩化ビニル被覆が剥離しやすいという欠点がある。通常では、耐溶剤性を高めるために、接着剤の硬化度合いを高めることが行われているが、かかる接着剤では、柔軟性が失われる結果、加工性や低温衝撃性が低下するという問題がある。また、乾燥時に可燃性有機化合物の蒸気が発生し、環境を汚染したり、人体への影響があるという問題もある。
【0005】そこで従来技術でも、例えば特開平1−130764号に示されているように、環境を悪化させない接着剤が研究されており、例えば、水分散性樹脂が使用された塩化ビニル被覆鋼板用の接着剤が開発されている。しかし、その水分散性の樹脂はアクリル樹脂であり、剥離しやすい他、耐溶剤性に劣るという欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、その目的は、耐溶剤性、耐低温衝撃性に優れ、塩化ビニルと鋼板との密着性が高い接着剤を提供することにある。また、他の課題は、有機溶剤を使用しない塩化ビニル被覆鋼板用の接着剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来の塩化ビニル被覆鋼板用の接着剤が柔軟性に欠ける原因は、それらがアクリル樹脂−エポキシ樹脂、あるいはアクリル−エポキシ樹脂−フェノキシ等を主体としていることにあると考えた。
【0008】そこで、本発明者らは、柔軟性のあるポリウレタン樹脂に着目し、研究を重ねた結果、ポリウレタン樹脂の中でも、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を硬化性樹脂中に含有させると、接着剤全体が柔軟性を有し、更に、耐溶剤性を維持できることを見出した。
【0009】接着剤に柔軟性を付与すると耐溶剤性が劣化し、逆に耐溶剤性を付与すると柔軟性が低下してしまうが、本発明者らは、このような接着剤中のウレタン樹脂の含有量を特定の範囲とすることにより、相反する特性を、実用上問題のない範囲で両立させられることを見出した。
【0010】さらに、本発明者らは、このような接着剤の主成分である硬化性樹脂とポリウレタン樹脂とを水分散体で構成すると、有機溶剤を使用する必要がない点に着目した。
【0011】本発明は、上記知見に基いて創作されたものであり、請求項1記載の発明は、硬化性樹脂を主体とする接着剤であって、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を含むことを特徴とする。
【0012】ここで、請求項2記載の発明のように、前記ウレタン樹脂が、ポリオールとイソシアネート化合物との反応物であって、前記ポリオールがポリカーボネート構造を有するものを挙げることができる。
【0013】また、請求項3記載の発明のように、接着剤中のウレタン樹脂を5重量%以上35重量%以下の範囲で含有させることができる。
【0014】更に、請求項4記載の発明のように、前記硬化性樹脂と前記ウレタン樹脂とが、水分散体であることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明の接着剤は、塩化ビニル被覆鋼板に適しており、硬化性樹脂を主成分としてさらに特定のウレタン樹脂を含んでいる。
【0016】本発明の硬化性樹脂は、接着剤に耐熱性と金属(鋼板)に対し密着性を付与するために使用され、例えば、カルボキシル基、OH基、グリシジル基、アミノ基等の官能基を有するアクリル樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールFに代表されるビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0017】さらに、上記エポキシ樹脂と同じ役割であるが、さらに金属(鋼板)に対する密着性を向上させるために、フェノール樹脂を添加することも可能である。
【0018】一方、上記硬化性樹脂と硬化させるための硬化剤は、例えば、ジシアンジアミド−イミダゾール等を挙げることができる。
【0019】上記した硬化性樹脂は、通常、接着剤中に65〜95重量%の範囲で使用される。例えば、硬化剤樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および硬化剤からなるときは、それぞれ、20〜82重量%、5〜25重量%、5〜20重量%および3〜10重量%が好ましい。
【0020】本発明に使用されるウレタン樹脂は、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂であって、その例として、ポリカーボネート構造を有するポリオールとイソシアネート化合物の反応から生成するウレタン樹脂を挙げることができる。
【0021】ポリオールとイソシアネート化合物により、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を合成する反応は公知であり、例えば、特開昭61−192775号、特公昭58−4051号、特開平2−14272号、特開平8−12033号公報に開示されている。
【0022】それらに開示されている合成反応の一例を説明すると、先ず、ジエチルカーボネートと1,6−ヘキサンジオールを混合し、120℃乃至200℃で15時間反応させ、その後150℃に冷却し、30mmHg乃至50mmHgに減圧し、エタノールを除去すると、ポリカーボネートポリオールが得られる。
【0023】そのポリカーボネートポリオール中に、1,6−ヘキサンジオールと1,10−デカンジカルボン酸を入れ、200℃乃至220℃で8時間反応させた後、30mmHg乃至50mmHgで減圧反応を行うと、ポリカーボネートエステルポリオールが得られる。
【0024】そして、そのポリカーボネートエステルポリオールと、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパンと、メチルイソブチルケトンと、トルエンとを均一に混合した後、イソホロンジイソシアネートを添加し、100℃乃至115℃で5時間反応させると、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂が得られる。
【0025】このように、公知の合成反応により、本発明に使用できるウレタン樹脂が得られる。
【0026】なお、ポリカーボネート構造を有しないポリオールであっても、本発明の接着剤中に含ませることは可能である。例えば、ポリラクトンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0027】一方、イソシアネート化合物は公知のものでよく、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートおよびこれらのアダクト体、またはポリイソシアネートを挙げることができる。
【0028】本発明においては、上記のウレタン樹脂を接着剤中に5〜35重量%の割合で含ませることが好ましい。
【0029】上記のウレタン樹脂が、接着剤中において5重量%未満であると本発明の効果が小さく、他方、35重量%を超えると、硬化性樹脂との組み合わせによっては、耐溶剤性および密着性が低下する傾向にある。
【0030】本発明の接着剤を製造する場合は、上記した硬化性樹脂を有機溶剤に溶解した溶解液を作成し、一方、本発明のウレタン樹脂を有機溶剤に分散・溶解液を作成し、双方の液を混合することにより作成することができる。
【0031】また、有機溶剤を使用しない場合は、硬化性樹脂と本発明のウレタン樹脂の水分散液をそれぞれ作成し、双方の液を混合することにより作成することができる。
【0032】
【実施例】次に、本発明の接着剤を実施例を用いてさらに詳細に説明する。
<実施例1>(接着剤の作成)メチルメタクリルレート33重量部、ブチルアクリレート5重量部、アクリル酸1重量部およびグリシジルメタクリレート1重量部を調整し、イオン交換水60重量部に乳化剤(neoco1210、日本乳化剤製)を添加し、乳化重合を行いアクリル水分散液を得た。
【0033】次に、このアクリル水分散液45重量部(固形分40%)に、フェノール水分散液(BRL1100EE、昭和高分子製)を5重量部(固形分71%)、エポキシ水分散液(旭チバ(株)ECM1400、旭電化製)10重量部(固形分40%)、ポリオールとイソシアネート化合物との反応物であって、ポリカーボネート構造を有するポリウレタン樹脂水分散液(アデカHUX386、旭電化製)を5重量部(固形分30%)および硬化剤(DICY:ジシアンジアミド)2重量部を添加し十分に攪拌し目的の接着剤を得た。
【0034】(塩化ビニル被覆鋼板の作成)板厚み0.5mmの亜鉛鋼板の表面に、上記の接着剤を塗布し水分を揮発させて、接着剤層を形成させた。この接着剤層の厚みは、6μmであった。その後、この接着剤層を220℃で焼き付けし、さらに厚みが150μmの塩化ビニルフィルムを積層し、目的の塩化ビニル被覆鋼板を得た。
【0035】(評価)(1) 密着性上記作成された塩化ビニル被覆鋼板を図1のように、所定の形状(5cm×5cm)に切断して試験片10を作り、ナイフを用い、その試験片10表面の塩化ビニルフィルム上に、「井」字に切れ目を入れる。図1では、横方向に幅5mmの2本の切れ目111、112、縦方向に幅5mmの2本の切れ目121、122を入れてある。
【0036】その試験片は、図2に示すように、鋼板14と、接着剤層15と、塩化ビニルフィルム(塩化ビニル層)16とで構成されており、鋼板14側を凸治具31に向け、塩化ビニル16側を凹治具32側に向けて配置し、凸治具31と凹治具32によって挟み込み、押し出し加工を行い、図3、図4に示すように、塩化ビニルフィルム16側を膨出させた。
【0037】(2) 評価基準押し出し加工後の試験片10を目視により観察し、鋼板14からの塩化ビニルフィルム16の剥がれの状態を、図6(a)のA〜Eの基準に照らし合わせてランク付けを行った(判定は、エリクセン8mm絞り試験の基準である。)。図中、塩化ビニルフィルム16が浮いて鋼板14又は接着剤層15が露出した部分は黒色で示した。
【0038】
A:異常なし(浮きなし)B:膨出部分中央が少し浮くC:膨出部分の中央が浮くD:膨出部分の中央から中程にかけて浮くE:最下部まで浮く
【0039】更に、押し出し加工後の試験片10表面の塩化ビニルフィルム16のうち、三辺が切れ目111、112、121、122で囲まれた部分(図6(b)の符号181〜184の部分)をピンセットで引き剥がし(以下、強制剥離という)、その状態を図6(b)の■〜■の基準に従ってランク付けを行った。図中、塩化ビニルフィルム16を剥がすことができ、鋼板14又は接着剤層15が露出した部分は黒色で示した。
【0040】
■:異常なし(剥離なし)■:膨出部分の中央が少し剥がれる■:膨出部分の中央が中程まで剥がれる■:下端部分付近まで剥がれる■:下端部分まで剥がれる
【0041】なお、試料片10は、上記の押し出し加工した直後のものと、その試料サンプルを沸騰水に2時間浸した後のものの両方を使用した。
【0042】(3) 耐溶剤試験上記試験片10とは別の試験片20を用意し、図5に示すように、その表面の塩化ビニルフィルムに、2本の切れ目211、212を対角線に入れ、MEK(メチルエチルケトン)に10分間浸漬し、耐溶剤性を評価した。
【0043】(4) 低温衝撃試験図2に示した凸凹治具31、32を用い、試験片10の塩化ビニルフィルム16を凹治具32表面に向けて載置し、5℃の状態で、凸治具31(重量7.5kg)を1mの高さから落下させ、図6(a)の基準に照らし合わせてランク付けした。
【0044】(5) 結果上記試験の評価結果を下記表1に示す。
【0045】
【表1】


【0046】表1中の耐溶剤性試験については、耐溶剤性が十分なものには『〇』、若干の変化がみられるものの事実上問題がないものには『△』、事実上問題があるものには『×』を付した。
【0047】実施例1の接着剤を使用した塩化ビニル被覆鋼板は、十分な耐溶剤性と事実上問題にない低温衝撃性を有するものであった。また、押し出し剥がれがなく、また強制剥離しても塩化ビニルフィルムが試料サンプル上に残る程度に、密着性が高くなっていた。
【0048】<比較例1>実施例1において、ウレタン樹脂を配合せず、他の条件は実施例1と同一にした塩化ビニル被覆鋼板を作成し、その試験片を、実施例1と同様の方法で評価した。その結果を上記表1に併せて示す。表1から分かるように、比較例1の塩化ビニル被覆鋼板は、耐溶剤性が低く、また密着性が悪い。
【0049】
【実施例】<実施例2〜5>実施例1のウレタン樹脂の量を、上記表1に記載のように変化させた以外は、実施例1と同一の条件で塩化ビニル被覆鋼板を作成し、その試験片を、実施例1と同様の方法により評価した。その結果は上記表1に併せて示す。
【0050】表1から明らかなように、耐溶剤性、低温衝撃性が良好な塩化ビニル被覆樹脂を作成することができた。密着性についても、押し出し時の剥がれがなく、強制剥離によっても鋼板側に塩化ビニルフィルムが残る程度に強力に密着していた。ウレタン樹脂の含有量については、5〜35重量%の範囲が望ましく、特に、10〜15重量%の範囲が好適なことがわかる。
【0051】なお、以上の説明では、塩化ビニルフィルムを塩化ビニル層に用いたが、接着剤層上に塩化ビニル塗料を塗布・硬化させ、塩化ビニル層を形成してもよい。
【0052】
【発明の効果】本発明の接着剤は、高い耐溶剤性と高い低温衝撃性とが両立しており、長寿命の塩化ビニル被覆鋼板を作成することができる。また、本発明の接着剤を使用すると、押し出し加工直後、あるいは沸騰水処理した後においても、塩化ビニルフィルムの剥がれがなく、また良好な加工性を有する塩化ビニル被覆鋼板を得ることができる。また、その鋼板が塩化ビニルフィルムの密着性は、塩化ビニルを材破するほどに十分な接着力があった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の接着剤の特性を評価するための試験片
【図2】その試験片の加工状態を説明するための図
【図3】押し出し加工された試験片
【図4】その試験片の斜視図
【図5】耐溶剤性の評価に用いた試験片
【図6】(a):低温衝撃性の評価基準(b):密着性の評価基準
【符号の説明】
10、20……塩化ビニル被覆鋼板(試験片)
14……鋼板
15……接着剤層
16……塩化ビニル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】硬化性樹脂を主体とする接着剤であって、ポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を含むことを特徴とする接着剤。
【請求項2】前記ウレタン樹脂が、ポリオールとイソシアネート化合物との反応物であって、前記ポリオールがポリカーボネート構造を有することを特徴とする請求項1記載の接着剤。
【請求項3】前記ウレタン樹脂を5重量%以上35重量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の接着剤。
【請求項4】前記硬化性樹脂と前記ウレタン樹脂とが、水分散体であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の接着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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