説明

塩化ルテニウム酸アンモニウムの製造方法

【課題】ヘキサクロロルテニウム酸から塩化ルテニウム酸アンモニウムを経由するルテニウム回収方法について、よりルテニウムの収率が高い方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ヘキサクロロルテニウム酸溶液を所定温度に保持する前処理工程、前記前処理工程後、ヘキサクロロルテニウム酸溶液と塩化アンモニウムとを反応させて塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを生成させる反応工程、を含む塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法において、前記前処理工程は、ヘキサクロロルテニウム酸溶液を60〜85℃で0.5〜10時間保持し、前記反応工程は、60〜85℃で0.5〜5時間行うものであり、更に、少なくとも前記前処理工程において、ヘキサクロロルテニウム酸溶液中に塩素を流通することを特徴とする方法である。この塩素流通は、前処理工程及び反応工程の双方において行うことがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ルテニウム酸アンモニウムの製造方法に関し、特にルテニウムの価数が4である塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを高い収率で製造可能とする方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウムは、電子材料や触媒、蒸着用ターゲットに利用されており、その希少性から回収利用が求められている。ルテニウムを含む廃材等からルテニウムを回収する方法としては、廃材等を溶液化し溶媒抽出によりルテニウムと他の元素とを分離し、更に、酸化蒸留により得られた四酸化ルテニウムを塩酸溶液中に加えてヘキサクロロルテニウム酸を調製し、そこからルテニウムを回収する方法が知られている。
【0003】
そして、ヘキサクロロルテニウム酸からのルテニウム回収は、中間体として塩化ルテニウム酸アンモニウムを製造する工程、例えば、特許文献1には、ルテニウムの塩酸溶液(ヘキサクロロルテニウム酸溶液)を80〜95℃で3時間以上保持した状態で塩化アンモニウムを加え、85〜95℃で1時間以上保持して塩化ルテニウム酸アンモニウムの沈殿を生成してろ過する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−230802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記塩化ルテニウム酸アンモニウムを経由するルテニウム回収は、その収率が良好であるが、ごく僅かであるがルテニウムのロスが生じている。この点、近年のルテニウムの利用価値の上昇傾向に伴い、より高い収率の回収技術が求められている。そこで、本発明は、ヘキサクロロルテニウム酸から塩化ルテニウム酸アンモニウムを経由するルテニウム回収方法について、よりルテニウムの収率が高い方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、特許文献1のような製造方法において、ヘキサクロロルテニウム酸溶液と塩化アンモニウムとの反応により塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを製造する場合、ヘキサクロロルテニウム錯体[RuCl2−等のルテニウムの価数が4であるクロロルテニウム錯体の他に、ペンタクロロルテニウム錯体[RuCl2−等のルテニウムの価数が3であるクロロルテニウム錯体が生成する場合があることを見出した。そして、ルテニウムの価数が3であるクロロルテニウム錯体が生成すると、塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムのようなルテニウムの価数が4であるルテニウム化合物の収率が低下してしまうことが分かった。このため、本発明は、ルテニウムの価数が3であるクロロルテニウム錯体の生成を抑制し、塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの生成を促進する方法を検討した。
【0007】
上記課題を解決する本発明はヘキサクロロルテニウム酸溶液を所定温度に保持する前処理工程、前記前処理工程後、ヘキサクロロルテニウム酸溶液と塩化アンモニウムとを反応させて塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを生成させる反応工程、を含む塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法において、前記前処理工程は、ヘキサクロロルテニウム酸溶液を60〜85℃で0.5〜10時間保持し、前記反応工程は、60〜85℃で0.5〜5時間行うものであり、更に、少なくとも前記前処理工程において、ヘキサクロロルテニウム酸溶液中に塩素を流通することを特徴とする方法である。
【0008】
このように、少なくとも前処理工程において、ヘキサクロロルテニウム酸溶液に塩素を流通することにより、塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを高い収率で製造できる。ヘキサクロロルテニウム酸溶液中に溶解した塩素の酸化力により、ルテニウムの価数が3価であるクロロルテニウム錯体の発生を有効に防止できるからである。
【0009】
以下、本発明の塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法について詳細に説明する。まず、出発物質であるヘキサクロロルテニウム酸溶液には、上記したように酸化蒸留法によって精製した四酸化ルテニウムを塩酸溶液中に加えて調製したものや、ルテニウム廃棄物を塩素化処理して得られた水溶性のルテニウム化合物を、水又は水と塩酸との混合溶媒に溶解させて調製したもの等、種々の方法によって得られたものを使用できる。
【0010】
前処理工程では、ヘキサクロロルテニウム酸溶液を、60〜85℃で0.5〜10時間保持するように行う。ヘキサクロロルテニウム酸溶液をこのような温度で保持すると、塩素の溶解度をより高めることができ、酸化力を向上させて、ルテニウムの価数が3であるクロロルテニウム錯体の生成を効果的に抑制し、塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの収率を高めることができる。前処理工程における保持温度は、60℃未満であると、温度が低く後工程の反応が進みにくく、85℃を超えると溶液中の塩素濃度が低くなるためである。保持時間は、0.5時間未満であると、塩素が溶液中に充分溶解しきらず、10時間を超えると塩素が過飽和になりすぎるからである。これらの事情を考慮した、前処理工程における最適条件は60〜75℃、1〜8時間である。
【0011】
また、前処理工程後、ヘキサクロロルテニウム酸溶液と塩化アンモニウムとを反応させる反応工程は、60℃未満であると、温度が低くアンモン化反応が進まないからであり、85℃を超えると溶液中の塩素濃度が低くなり塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの収率が低くなるためである。保持時間は、0.5時間未満であると、アンモン化の反応が始まらないからであり、5時間を超えるとアンモン化反応が終了しているにも関わらす、反応を続けることは経済的に不利だからである。この反応工程における最適条件は、60〜75℃、1〜2時間である。
【0012】
そして、塩素の流通は、上記したように少なくとも前処理工程において行えばよいが、前処理工程及び反応工程の両工程において行うことが好ましい。価数3のクロロルテニウム錯体の生成を、より抑制することができるからである。
【0013】
塩素を流通する際の流量は、0.3〜10L/minとすることが好ましい。この流量であると、ルテニウム酸塩を酸化するのに充分だからである。また、前処理工程と反応工程に流通する塩素の総量を30〜6000Lとするのが好ましい。尚、本発明において、前処理工程時(反応初期)のルテニウム酸塩濃度は、80〜90g/Lとするのが好ましく、上記塩素濃度はこのルテニウム酸塩濃度に適用する。
【発明の効果】
【0014】
以上で説明した本発明の製造方法によれば、ルテニウムの価数が3であるクロロルテニウム錯体の生成を抑制し、塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを高い収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態における塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造工程のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。
【0017】
実施例1:図1のフロー図に従い、塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを製造した。まず、塩化ルテニウム酸ナトリウム75kgと純水150Lとを5分以上撹拌し、溶解残物を回収して得られた溶解液に塩酸を150L添加して、ヘキサクロロルテニウム酸溶液を調製した。そして、このヘキサクロロルテニウム酸溶液を85℃で8時間保持しつつ、流量10L/minで塩素を流通した。この前処理工程において流通した塩素総量は4800Lであった。
【0018】
上記前処理工程後のヘキサクロロルテニウム酸溶液は、反応工程前に、流量10L/minで1時間以上窒素パージした。そして、反応工程として、塩化アンモニウム粉を60kg投入し、85℃で2時間反応させた。このとき、上記と同様、ヘキサクロロルテニウム酸溶液に流量10L/minで塩素を流通した。この反応工程において流通させた塩素総量は1200Lであった。
【0019】
反応終了後、冷却水により40℃以下になるまで冷却した後、溶液をろ過し、180℃で24時間乾燥させて塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウム結晶を得た。
【0020】
実施例2〜6、比較例1〜3:これらの実施例、比較例は、前処理工程又は反応工程における温度、若しくは、塩素の流量を変更して実施例1と同様の工程にて塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを製造した。
【0021】
実施例7、比較例4、5:ここでは、ヘキサクロロルテニウム酸溶液への塩素流通を前処理工程のみとした(実施例7)。塩素流量及びその他の条件は実施例1と同様とした。また、塩素流通を前処理工程、反応工程のいずれにも行わずに塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを製造した(比較例4、5)。
【0022】
Ru回収率の測定
以上の各実施例及び比較例で製造した塩化ルテニウム酸アンモニウムを基に金属ルテニウムを回収し、その回収率を検討した。この検討は、製造された塩化ルテニウム酸アンモニウムを水素還元してルテニウム粉末とし、その重量からルテニウムの回収率を計算した。表1にその結果を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、実施例1〜7のように、前処理工程及び反応工程における温度制御を適正にしつつ、両工程の少なくともいずれかで塩素を流通して塩化ルテニウム酸アンモニウムを製造することで、高い回収率でRuを得ることできる。但し、実施例1〜6と実施例7のRu回収率の対比から、塩素流通は前処理工程及び反応工程の双方で塩素流通を行うことが好ましいといえる。
【0025】
これに対し、比較例1〜比較例3のように、前処理温度又は反応温度が低すぎる、高すぎる場合には、僅かであるが回収率が低下する。また、更に、前処理工程及び反応工程の双方で塩素流通がない場合(比較例4、5)、これは従来技術に相当するものであるが、このような場合Ru回収率が99%を下回る。このような1%程度の差であっても、廃棄物の処理量やルテニウムの地金コストを考慮すれば、大きなメリットとなる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、電子機器の回路基板や蒸着用ターゲット等の各種廃棄物から効率的にルテニウムを回収することに寄与する。これにより、これらの製品のコストダウンをも図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサクロロルテニウム酸溶液を所定温度に保持する前処理工程、
前記前処理工程後、ヘキサクロロルテニウム酸溶液と塩化アンモニウムとを反応させて塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムを生成させる反応工程、を含む塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法において、
前記前処理工程は、ヘキサクロロルテニウム酸溶液を60〜85℃で0.5〜10時間保持し、
前記反応工程は、60〜85℃で0.5〜5時間行うものであり、
更に、少なくとも前記前処理工程において、ヘキサクロロルテニウム酸溶液中に塩素を流通することを特徴とする方法。
【請求項2】
前処理工程及び反応工程の双方において、ヘキサクロロルテニウム酸溶液中に塩素を流通する請求項1記載の塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
0.3〜10L/minの流量で塩素を流通する請求項1又は請求項2に記載の塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
前処理工程と反応工程に流通する塩素の総量を30〜6000Lとする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の塩化ルテニウム(IV)酸アンモニウムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275153(P2010−275153A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129991(P2009−129991)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【特許番号】特許第4576470号(P4576470)
【特許公報発行日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】