説明

塩化水素濃度測定装置及び方法

【課題】 被測定ガス中に含まれる臭素等の測定電極の劣化要因となる有害イオンの影響をイオン置換ではない方法で排除する。
【解決手段】 イオン電極連続分析法を用いて被測定ガスの塩化水素濃度を測定する装置において、所定の溶液に前記被測定ガスを吸収させたガス吸収液と測定電極との間に、イオンサイズの差異に基づいて塩素イオンを通過させると共に測定電極を劣化させる有害イオンの通過を阻止するイオン選択通過性物を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素の濃度を測定する塩化水素濃度測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−130845号公報には、日本工業規格(JIS)で規定されたイオン電極連続分析法を用いることにより塩化水素の濃度を塩素イオン濃度として測定する塩化水素濃度測定装置が開示されている。この塩化水素濃度測定装置は、被測定ガス中に含まれる臭素イオンをイオン交換樹脂を用いて塩素イオンと置換することにより除去し、以って被測定ガス中に含まれる塩化水素(塩素イオン)の濃度を高精度に測定するものである。臭素イオンは、塩素イオンを検出するための測定電極(塩化銀電極)を劣化させるものであり、臭素イオンを除去することにより測定電極の劣化を防止することが可能であり、この結果として塩化水素の濃度測定における測定精度を向上させることができる。
【特許文献1】特開2003−130845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の塩化水素濃度測定装置では、臭素イオンを塩素イオンと置換するので塩素イオンの濃度が必然的に上昇する。この置換による塩素イオンの濃度上昇は測定精度の低下を招くが、被測定ガス中に含まれる臭素イオンの塩素イオンに対する濃度が低い場合には上記置換による塩素イオンの濃度上昇は無視できる。
しかしながら、上記従来の塩化水素濃度測定装置では、臭素イオンの塩素イオンに対する濃度が上昇するに従って上記濃度上昇は無視できないものとなるので、精度の良い塩化水素の濃度測定が不可能である。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下の点を目的とするものである。
(1)被測定ガス中に含まれる臭素等の測定電極の劣化要因となる有害イオンの影響をイオン置換ではない方法で排除する。
(2)有害イオンの影響をイオン置換ではない方法で排除することにより測定精度の向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明では、イオン電極連続分析法を用いて被測定ガスの塩化水素濃度を測定する装置において、所定の溶液に被測定ガスを吸収させたガス吸収液と測定電極との間に設けられ、イオンサイズの差異に基づいて塩素イオンを通過させると共に測定電極を劣化させる有害イオンの通過を阻止するイオン選択通過性物を具備する、という解決手段を採用する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ガス吸収液と測定電極との間にイオン選択通過性物を設けることにより、有害イオンの影響をイオン置換ではない方法つまりイオンサイズの差異に基づいて排除することが可能である。また、イオン置換を用いた場合には原理的に測定精度が低下するが、本発明ではイオンサイズの差異に基づいて塩素イオンを通過させると共に測定電極を劣化させる有害イオンの通過を阻止するイオン選択通過性物を用いるので、このような測定精度の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る塩化水素濃度測定装置の装置構成を示す概要図である。この塩化水素濃度測定装置は、日本工業規格(JIS)で規定されたイオン電極連続分析法を測定原理とするものであり、ガス吸収部1、測定セル2、測定電極2A、プラズマ重合膜2B、参照セル3、参照電極3A、基準セル4、基準電極4A、液絡部5,6、差動アンプ7,8及び液晶ディスプレイ9を備える。
【0008】
ガス吸収部1は、被測定ガスである排ガスを吸収液に吸収させてガス吸収液とするものである。ガス吸収部1には排ガスと吸収液とが外部から連続的に供給されており、ガス吸収部1は、上記排ガスを吸収液に連続的に順次吸収させることによって生成したガス吸収液を測定セル2に順次連続的に供給する。なお、吸収液としては、例えばフタル酸水素カルシウム+塩化ナトリウム(NaCl)液が用いられる。測定セル2は、上記ガス吸収液を所定量貯留する容器であり、測定電極2A及びを備えている。この測定セル2にはガス吸収液がガス吸収部1から連続的に順次供給される一方、この測定セル2からは測定済みのガス吸収液が排液として順次連続的に排水される。
【0009】
測定電極2Aは、銀/塩化銀(AgCl)から成る棒状電極であり、測定セル2内のガス吸収液中に浸漬された状態で測定セル2に設けられると共に差動アンプ7の正極入力端に接続されている。また、本実施形態の特徴的な構成として、測定電極2Aの表面にはプラズマ重合膜2Bが蒸着されている。
【0010】
このプラズマ重合膜2Bは、イオンサイズの相違に基づいて塩素イオンを通過させる一方、測定電極2Aを劣化させる有害イオンの通過を阻止するイオン選択通過性物である。この有害イオンは、排ガス中に含まれる臭素(Br)成分やヨウ素(I)成分に起因する臭素イオンやヨウ素イオン等であり、測定電極2Aと反応することにより当該測定電極2Aの表面に塩素(Cl)イオンに感応しない領域を生成して性能を劣化させる。これら有害イオンはイオンサイズが比較的大きいためにプラズマ重合膜2Bを透過することができないが、塩素イオンは上記有害イオンよりもイオンサイズが小さいのでプラズマ重合膜2Bを十分に透過することができる。
【0011】
参照セル3は、上記ガス吸収部1に供給される吸収液と同等の吸収液を所定量貯留する容器であり、測定電極3Aを備えている。この参照セル3には吸収液が連続的に順次供給される一方、参照セル3からは測定済みの吸収液が排液として順次連続的に排水される。参照電極3Aは、上記測定電極2Aと同様な銀/塩化銀(AgCl)から成る棒状電極であり、参照セル3内の吸収液中に浸漬された状態で参照セル3に設けられると共に差動アンプ8の正極入力端に接続されている。
【0012】
基準セル4は、基準液としての塩化カリウム(KCl)液を所定量貯留する容器であり、基準電極4Aが塩化カリウム液に浸漬された状態で設けられている。この基準電極4Aは、上記測定電極2A及び参照電極3Aと同様に銀/塩化銀(AgCl)から成る棒状電極であり、差動アンプ7,8の各負極入力端に接続されている。液絡部5は、上記測定セル2と基準セル4との間に設けられており、測定セル2内のガス吸収液と基準セル4内の基準液との混合を防止しつつ両者間の電子の受け渡しを可能とする。液絡部6は、参照セル3と基準セル4との間に設けられており、参照セル3内の吸収液と基準セル4内の基準液との混合を防止しつつ両者間の電子の受け渡しを可能とする。
【0013】
差動アンプ7は、上記測定電極2Aの電圧と基準電極4Aの電圧との差電圧を所定の増幅度で増幅することにより測定電圧Vmを生成して液晶ディスプレイ9に出力する。一方、差動アンプ8は、上記参照電極3Aの電圧と基準電極4Aの電圧との差電圧を所定の増幅度で増幅することにより参照電圧Vcを生成して液晶ディスプレイ9に出力する。液晶ディスプレイ9は、上記測定電圧Vmから参照電圧Vcを減算した電圧値を測定結果として時系列的に表示する。
【0014】
次に、このように構成された塩化水素濃度測定装置の動作について説明する。
本塩化水素濃度測定装置には排ガスと吸収液とが順次連続的に供給される。そして、この結果として測定セル2にはガス吸収液がガス吸収部1から順次連続的に供給されると共に、参照セル3には外部から供給された吸収液が順次連続的に供給される。
【0015】
そして、測定セル2内において測定電極2Aの表面には、ガス吸収液がプラズマ重合膜2Bを経由することにより臭素イオンやヨウ素イオン等の有害イオンが除去された状態で塩素イオンが到達する。ここで、プラズマ重合膜2Bは、イオンサイズの相違に基づいて塩素イオンを通過させる一方、有害イオンの通過を阻止するので、ガス吸収液中に含まれる塩素イオンつまり排ガス中に含まれる塩化水素に起因する塩素イオン及び吸収液中に含まれる塩素イオンが測定電極2Aの表面に到達する。一方、参照セル3内の参照電極3Aの表面には吸収液中に含まれる塩素イオンが到達する。
【0016】
そして、測定電極2Aは排ガス中に含まれる塩化水素に起因する塩素イオン及び吸収液中に含まれる塩素イオンの合計濃度に応じた電圧を差動アンプ7に印加し、一方、参照電極3Aは、吸収液中に含まれる塩素イオンの濃度に応じた電圧を差動アンプ8に出力する。差動アンプ7は、測定電極2Aの電圧から基準電極4Aの電圧を減算することにより補正した測定電圧Vmを液晶ディスプレイに出力し、一方、差動アンプ8は、参照電極3Aの電圧から基準電極4Aの電圧を減算することにより補正した参照電圧Vcを液晶ディスプレイに出力する。そして、液晶ディスプレイは、上記測定電圧Vmから参照電圧Vcを減算した電圧値を測定結果として表示する。
【0017】
ここで、一般にイオン電極法による塩素イオン濃度の測定では測定電極2Aの電圧と基準電極4Aの電圧との差である測定電圧Vmを測定結果とするが、このような1つの電池構造(第1の電池構造)による測定方法では、液絡部5で発生する液間電位差あるいは測定電極2Aと基準電極4Aとの温度差などによりゼロ点が安定し難く、このため測定誤差が発生し易い。このような欠点を克服するために、本塩化水素濃度測定装置では、基準電極4Aと液絡部6を挟んで対峙する参照電極3Aを設けることにより第2の電池構造を構成し、この第2の電池構造の電位差である参照電圧Vcを第1の電池構造の電位差である測定電圧Vmから減算することによりゼロ点を安定させて測定誤差を抑制している。
【0018】
測定電圧Vmはガス吸収液中の塩素イオン濃度に応じた値であり、一方、参照電圧Vcは吸収液中の塩素イオン濃度に応じた値である。本来、吸収液には排ガスを吸収させていないので吸収液は本来塩素イオンを含むものではない。しかし、微小の塩素イオンが存在することも想定されるので、本実施形態では参照セル3を設けることによって吸収液中の塩素イオン濃度に応じた参照電圧Vcを取得し、当該参照電圧Vcを用いて測定電圧Vm中に含まれる吸収液の塩素イオン濃度の影響を除外し、真に排ガスの塩素イオン濃度(つまり塩化水素濃度)を反映した測定結果を取得することができる。すなわち、測定電圧Vmから参照電圧Vcを減じた電圧値は、排ガスの塩素イオン濃度(つまり塩化水素濃度)を忠実に示す値である。
【0019】
このような塩化水素濃度測定装置によれば、測定電極2Aの表面にプラズマ重合膜2Bを設けることにより、測定電極2Aの劣化要因となる有害イオンの影響をイオン置換ではなく、イオンサイズの相違に基づいて排除することが可能である。すなわち、本塩化水素濃度測定装置によれば、イオン置換ではなく、イオンサイズが比較的大きな有害イオンは通過させず、かつ有害イオンよりもイオンサイズが小さな塩素イオンを通過させる有害イオンの影響の排除方法を採用するので、塩化水素濃度の測定精度を何ら低下させることなく有害イオンの影響を確実に排除することが可能である。
【0020】
また、本実施形態によれば、プラズマ重合膜2Bは、イオンサイズの相違に基づいて塩素イオンを通過させる一方、有害イオンについては通過を阻止するものなので、塩素イオンに対する有害イオンの濃度の如何によらず、塩素イオン濃度つまり塩化水素濃度を高精度に測定することができる。イオン置換に基づく従来技術では有害イオンを塩素イオンと置換するので、その置換分の測定誤差が生じるが、本実施形態では、このような置換に起因する測定誤差は原理的に生じない。
【0021】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、蒸着によって測定電極2Aの表面にプラズマ重合膜2Bを設けたので、プラズマ重合膜2Bと測定電極2Aとは一体のものである。一方、測定電極2Aは、使用することによって表面が消耗するので交換する必要がある。したがって、上記実施形態の構成では、測定電極2Aを交換する際に比較的高価なプラズマ重合膜2Bも交換することになるので、測定電極2Aの交換に要するコストが高い。
【0022】
このような事情に配慮した場合、プラズマ重合膜2Bを測定電極2Aとは別体とする必要がある。その具体的な手段として、図2に示すような測定電極2Aとは別体のイオンフィルタ2Cが考えられる。すなわち、このイオンフィルタ2Cは、多孔質ガラスなどの多孔質体、逆浸透膜、ナノろ過膜等によって形成されると共に内部に測定電極2Aを収納するための空間を有するイオン透過性基体c1上にプラズマ重合膜c2を蒸着したものである。なお、逆浸透膜やナノろ過膜としては、セルロース系あるいはポリアミド系のものがある。
【0023】
このようなイオンフィルタ2Cをガス吸収液と測定電極2Aとの間に設けることによって上記プラズマ重合膜2Bと同様に有害イオンの通過を阻止すると共に塩素イオンを通過させることが可能となる。また、イオンフィルタ2Cは測定電極2Aとは別体なので、測定電極2Aが消耗した場合の交換コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係わる塩化水素濃度測定装置の装置構成を示す概要図である。
【図2】本発明の一実施形態においてイオン選択透過性物の形態変形例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は正面図におけるA−A矢視図である。
【符号の説明】
【0025】
1…ガス吸収部、2…測定セル、2A…測定電極、2B…プラズマ重合膜(イオン選択通過性物)、2C…イオンフィルタ(イオン選択通過性物)、3…参照セル、3A…参照電極、4…基準セル、4A…基準電極、5,6…液絡部、7,8…差動アンプ、9…液晶ディスプレイ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン電極連続分析法を用いて被測定ガスの塩化水素濃度を測定する装置であって、
所定の溶液に前記被測定ガスを吸収させたガス吸収液と測定電極との間に設けられ、イオンサイズの差異に基づいて塩素イオンを通過させると共に前記測定電極を劣化させる有害イオンの通過を阻止するイオン選択通過性物
を具備することを特徴とする塩化水素濃度測定装置。
【請求項2】
イオン選択通過性物は、測定電極の表面に蒸着されたプラズマ重合膜であることを特徴とする請求項1記載の塩化水素濃度測定装置。
【請求項3】
イオン選択通過性物は、測定電極とは別体として構成され、イオン透過性基体上にプラズマ重合膜を蒸着したものであることを特徴とする請求項1記載の塩化水素濃度測定装置。
【請求項4】
イオン電極連続分析法を用いて被測定ガスの塩化水素濃度を測定する方法であって、
所定の溶液に前記被測定ガスを吸収させたガス吸収液と測定電極との間に、イオンサイズの差異に基づいて塩素イオンを通過させると共に測定電極を劣化させる有害イオンの通過を阻止するイオン選択通過性物を設ける
ことを特徴とする塩化水素濃度測定方法。
【請求項5】
イオン選択通過性物は測定電極の表面に蒸着されたプラズマ重合膜であることを特徴とする請求項4記載の塩化水素濃度測定方法。
【請求項6】
イオン選択通過性物は、測定電極とは別体として構成され、イオン透過性基体上にプラズマ重合膜を蒸着したものであることを特徴とする請求項4記載の塩化水素濃度測定方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−64499(P2006−64499A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246559(P2004−246559)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)