説明

塩化第一鉄の精製方法

【課題】鋼板等の酸洗工程で生じる酸洗廃液(塩化第一鉄溶液)から、Mn等の不純物の含有量が少ない塩化第一鉄を得る方法の提供。
【解決手段】予め容器中に保持された塩酸に対して、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下になるように塩化第一鉄溶液を添加して、塩化第一鉄を析出させることを特徴とする塩化第一鉄の精製方法、析出した塩化第一鉄を分離後、水に溶解して塩化第一鉄溶液を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物の少ない塩化第一鉄を得るための精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘマタイト(α−Fe)は、耐候性や耐薬品性に優れていることから、古くから無機顔料として用いられてきた。現在でもコンクリートやアスファルト、ゴム、プラスチック、陶磁器など様々な分野で着色材として用いられている。
顔料用ヘマタイトについては、Mnが多く含まれると色調が黒ずんだものになることが知られている。したがって、鮮やかな赤色の顔料用ヘマタイトの製造には、Mnの少ない原料が必要になる。
【0003】
また、マグネタイト(Fe)は黒色顔料やトナーの原料として利用されてきた。近年は、ナノサイズのマグネタイトがDDS(薬物伝送システム)用やハイパーサーミア(温熱療法)用などの医療用途への適用が期待されている。医療用マグネタイトは、人体に挿入されるため、高い安全性が求められる。人体に悪影響を及ぼす可能性がある不純物を極力減らす必要がある。
【0004】
一般に、酸化鉄の製造には、硫酸第一鉄溶液を原料に用いる湿式合成法と、塩化第一鉄溶液を原料に用いる噴霧焙焼法が多用されている。しかし、顔料用酸化鉄の製造には、硫酸第一鉄溶液を用いる湿式合成法が多用されている。原料となる硫酸第一鉄溶液はMn含有量の少ないスクラップなどを溶解して調製される。一方、塩化第一鉄溶液を原料に用いる墳霧焙焼法の場合、多くは鉄鋼の製造工程で生じる酸洗廃液(塩化第一鉄溶液)を原料に用いる。酸洗廃液には、鋼材を起源とするMnが不可避的に含まれており、そのMnが噴霧焙焼時に酸化鉄中に取込まれるという問題がある。そのために、原料としてMnなどの不純物の含有量が少ない酸洗廃液(塩化第一鉄溶液)が必要になる。
【0005】
酸洗廃液(塩化第一鉄溶液)の不純物を除去し、精製する方法として下記の方法が提案されている。
【0006】
塩化鉄溶液に鉄を添加して、Al、Cr、Cu、P等の不純物を不溶化後、分別し、得られた塩化鉄溶液に焙焼で生成した熱ガスを接触し、加熱濃縮してSiを不溶化後、分別し、得られた塩化鉄溶液を焙焼し、高純度の酸化鉄粉と塩酸を分離回収する方法(特許文献1)。
【0007】
SiO、Cr、Al、Ti等の不純物を含む酸洗廃液に金属(Al、Cr、V、BおよびZn)を添加して溶解した後、アルカリ液を添加し、前記添加金属の水酸化物を晶出し、その後、凝集剤を添加して前記水酸化物を凝集して沈降分離させる酸洗廃液の精製方法(特許文献2)。
【0008】
Si、Cr、Al等の不純物を含む塩化第一鉄水溶液に鉄を添加して中和した後、酸素を接触させて鉄分の一部を酸化して水酸化第二鉄の沈殿に変え、該沈殿を分離して得た塩化第一鉄水溶液を高温焙焼するフェライト原料用酸化鉄の製造方法(特許文献3)。
【0009】
SiO、P、Cl等の不純物を含む塩化鉄溶液に鉄を添加して中和した後、Tiおよび/またはZr化合物を添加してTiおよび/またはZrを水和物として沈殿させ、沈殿を高分子凝集剤で分離除去して得た塩化第一鉄水溶液を高温焙焼し、得られた焙焼酸化鉄を水洗するフェライト原料用酸化鉄の製造方法(特許文献4)。
【0010】
前記の諸方法により、酸洗廃液(塩化第一鉄溶液)のMn以外の不純物を低減することができるものの、Mnを低減することはできない。それはMnが酸洗廃液(塩化第一鉄溶液)中でFeよりも安定に存在するためである。
【0011】
一方、塩化第一鉄溶液中のMnを含む不純物を低減する方法として、塩化第一鉄溶液に塩酸を加えて塩化第一鉄結晶を析出させ、その結晶を分離する精製方法が提案されている(特許文献5)。この方法は、塩化第一鉄溶液に塩酸を単に添加する方法であるが、塩化第一鉄溶液中のMnを含む不純物を低減することができる。しかし、得られた塩化第一鉄結晶中にも多くのMnが移行するため、一回の析出分離で大幅に不純物を低減することは困難である。析出分離を複数回繰り返せば、大幅な不純物低減は不可能ではないが、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−315519号公報
【特許文献2】特開平1−153532号公報
【特許文献3】特開平3−5324号公報
【特許文献4】特開2004−284833号公報
【特許文献5】特開昭55−23005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、鉄鋼の製造工程における、鋼板等の酸洗工程で生じる酸洗廃液(塩化第一鉄溶液; 以後、単に塩化第一鉄溶液とも記す)から、不純物であるMnの含有量が少ない塩化第一鉄を得る塩化第一鉄の精製方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するために、以下に示す塩化第一鉄の精製方法を提供するものである。
【0015】
(1)塩化第一鉄溶液と塩酸を混合し、塩化第一鉄を析出させて不純物を低減する塩化第一鉄の精製方法において、予め容器中に保持された塩酸に対して、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下になるように塩化第一鉄溶液を添加して、塩化第一鉄を析出させることを特徴とする塩化第一鉄の精製方法。
【0016】
(2)前記塩酸の濃度が30質量%以上、前記塩化第一鉄溶液のFe濃度が160g/l以上であり、塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比が質量比で1:0.5〜1:7であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の塩化第一鉄の精製方法。
【0017】
(3)前記(1)または(2)の精製方法で析出した塩化第一鉄を前記混合液から分離、回収後、水に溶解させることを特徴とする塩化第一鉄溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、DDS用やハイパーサーミア用などの医療用マグネタイトの製造に適した不純物の少ない塩化第一鉄、Mnの含有量が少ない赤色顔料用酸化鉄の製造などに適した塩化第一鉄を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】塩化第一鉄溶液と濃塩酸の混合比を変化させた場合の、混合液のFe濃度(計算値;実線)と結晶析出後の上澄み液のFe濃度(実測値;点線)の変化を示すグラフ。
【図2】塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比を変化させた場合の、混合液のFeの過飽和度の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の塩化第一鉄の精製方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明の塩化第一鉄の精製方法は、容器に予め保持された塩酸に塩化第一鉄溶液を添加して、混合液のFeの過飽和度が一定値以下になるように調整して塩化第一鉄結晶を析出させ、得られた結晶を分離回収する方法であり、さらに、得られた塩化第一鉄結晶を水に再溶解して、Mnの含有量が少ない塩化第一鉄溶液を得る方法である。
【0022】
図1〜2を用いて、塩酸に対して塩化第一鉄溶液を添加する理由を説明する。
図1は、塩化第一鉄溶液(Fe濃度244g/l)に対する濃塩酸(濃度36質量%)の添加量(混合比)に対する、得られた混合液のFe濃度(計算値;実線)および塩化第一鉄結晶析出後の上澄液のFe濃度(実測値;点線)を示すグラフである。結晶析出後の上澄液のFe濃度は、混合液の飽和溶解度に相当する。混合液のFe濃度(計算値)と上澄液のFe濃度(実測値)の差が過飽和度であり、この差に相当するFeが溶解できずに塩化第一鉄結晶として析出する。
混合液のFe濃度(計算値)は、塩化第一鉄溶液が濃塩酸により単純に希釈されたものとして該溶液の体積変化から求めた。また、上澄液のFe濃度(実測値)は、過マンガン酸カリウム溶液による滴定により求めた。
なお、図1は、後述する実施例1〜3、比較例1、2および塩化第一鉄溶液(Fe濃度245g/l)100ml(濃塩酸未添加)の場合の計算値、測定値から求めたものである。
【0023】
図2は、塩化第一鉄溶液(Fe濃度244g/l)に対する濃塩酸(濃度36質量%)の添加量(混合比)に対する、図1から得られた、Fe濃度の過飽和度を示すグラフである。塩化第一溶液に濃塩酸を連続的に添加していく場合の過飽和度の変化は、グラフの左側から右側への変化に相当する。この場合は、過飽和度が急激に大きくなり、過飽和度に相当する分のFeが塩化第一鉄結晶として短時間のうちに析出することになる。一方、濃塩酸に塩化第一鉄溶液を連続的に添加する場合は、グラフの右側から左側への変化に相当し、過飽和度がゆっくり上昇するため、塩化第一鉄結晶がゆっくり析出する。
【0024】
塩化第一鉄結晶の析出速度は、結晶中に取り込まれるMn含有量に影響を及ぼす。
結晶析出速度が速い場合には、塩化第一鉄結晶中に取り込まれるMn含有量が増えるため、Mn含有量が少ない塩化第一鉄結晶が得られない。逆に、結晶析出速度が遅い場合には、塩化第一鉄結晶に取り込まれるMn含有量が減るため、Mn含有量が少ない塩化第一鉄結晶が得られる。
【0025】
したがって、容器に予め保持した濃塩酸に対して塩化第一鉄溶液を添加する場合は、過飽和度がゆっくり上昇し、塩化第一鉄結晶もゆっくり析出するため、Mn含有量が少ない塩化第一鉄結晶を得るのに適している。この場合には、過飽和度の制御も行いやすい。一方、容器に予め保持した塩化第一鉄溶液に対して濃塩酸を添加する場合は、過飽和度が急激に上昇し、塩化第一鉄結晶の析出速度が早いために、Mn含有量が多い塩化第一鉄結晶が得られる。この場合は、過飽和度が急激に上昇するため、過飽和度の制御も難しくなる。本発明のように容器に予め濃塩酸を保持し、そこへ塩化第一鉄溶液を添加しなければならない。さもなければ、塩化第一鉄結晶の析出が速くなり、Mn含有量が少ない塩化第一鉄結晶が得られない。
【0026】
(塩化第一鉄溶液)
本発明に使用される塩化第一鉄溶液は、塩酸に鉄が溶解した溶液であり、鉄鋼を製造する場合の酸洗工程で生じる酸洗廃液や、塩化第一鉄結晶を水に溶解して得た溶液でなどである。塩化第一鉄結晶は結晶水を含んでいても差支えない。なお、鉄鋼の酸洗工程では、通常、濃塩酸を水で希釈した希塩酸が使用される。
塩化第一鉄溶液はフリーの塩酸を含んでいてもよいが、その含有量が多く、pHが低い場合には、飽和溶解度が低くなるため、本発明の原料としては好ましくない。フリーの塩酸含有量が多い塩化第一鉄溶液の場合には、事前にFeを添加し溶解させてフリーの塩酸を減らしておくことが好ましい。
【0027】
塩化第一鉄溶液のpHは2以上であることが好ましく、3〜4.5であることがより好ましい。
塩化第一鉄溶液のFe濃度は高いほど好ましく、具体的には160g/l以上であることが好ましく、200g/l以上であることがより好ましい。Fe濃度が低い場合には、塩化第一鉄結晶の析出量が少ない。また、Mn濃度が低い塩化第一鉄結晶を得るためには、原料になる塩化第一鉄溶液に含まれるMn濃度ができるだけ低いことが好ましい。
【0028】
(塩酸)
本発明に使用する塩酸はできるだけ濃度が高いことが好ましい。塩化第一鉄は水に溶解しやすいため、塩酸濃度が低く、水が多量であると、塩化第一鉄結晶の析出量が少なくなるからである。したがって、本発明に使用する塩酸は濃度が30質量%以上の濃塩酸であることが好ましく、36質量%以上の濃塩酸であることがより好ましい。
【0029】
(塩化第一鉄溶液の添加)
本発明の塩化第一鉄の精製方法では、塩酸に塩化第一鉄溶液を添加する際に、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下になるように塩化第一鉄溶液を添加しなければならない。前述したように、塩化第一鉄結晶中に取込まれるMn含有量は、過飽和度、すなわち、塩化第一鉄溶液の添加速度に関係する。混合液のFeの過飽和度が25g/l以下になるように塩化第一鉄溶液を添加する場合には、塩化第一鉄結晶中に取込まれるMn含有量が少なくなるので好ましく、20g/l以下になるようにすることがより好ましく、15g/l以下になるようにすることがさらに好ましい。逆に、混合液のFeの過飽和度が25g/l超になるように塩化第一鉄溶液を添加する場合には、塩化第一鉄結晶中に取込まれるMn含有量が多くなるので、好ましくない。過飽和度を前記一定値以下になるように塩化第一鉄溶液を混合するためには、器に予め保持した塩酸に対して、塩化第一鉄溶液をポンプなどを用いて、添加速度を制御しながら連続的に添加すればよい。
【0030】
本発明の塩化第一鉄の精製方法では、混合液の塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比(質量比)が1:0.5〜1:7であることが好ましく、1:1〜1:5であることがより好ましく、1:1〜1:3であることがさらに好ましい。塩酸に塩化第一鉄溶液を添加する場合、結晶化するFeイオンの比率は(析出する塩化第一鉄結晶の質量比)は、塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比によって異なる。塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比(質量比)が1:0.5〜1:7の場合には、塩化第一鉄結晶の析出量が多くなる。塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比(質量比)が1:0.5より少ない場合には、塩化第一鉄結晶の析出量が少ない。塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比(質量比)が1:7より多い場合にも、塩化第一鉄結晶の析出量が少ない。また、塩化第一鉄溶液に対し多量の塩酸が必要になるため、好ましくない。
【0031】
(塩化第一鉄結晶の回収分離)
得られた塩化第一鉄結晶は塩酸(母液)から分離回収される。分離回収には、濾過分離、遠心分離等の一般的な方法を適用すればよい。
塩化第一鉄結晶は水溶性なので、水に溶解して塩化第一鉄溶液とし、湿式法や噴霧焙焼法により医療用酸化鉄や色鮮やかな赤色顔料用酸化鉄に製造される。なお、墳霧焙焼法で生成する塩酸は鉄鋼の酸洗工程で再使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例に用いた塩化第一鉄溶液および塩酸は下記のものである。
塩化第一鉄溶液A: Fe濃度245g/l、Mn濃度2300ppm(酸化鉄換算値
)、pH3.3。
塩化第一鉄溶液B: Fe濃度197g/l、Mn濃度2600ppm(酸化鉄換算値
)、pH2.9。
塩化第一鉄溶液C: Fe濃度145g/l、Mn濃度2600ppm(酸化鉄換算値
)、pH3.1。
Fe濃度は過マンガン酸カリウム溶液による滴定により、Mn濃度
はICP(プラズマ発光分光法)により求めた。なお、酸化鉄換算
値とは、塩化第一鉄溶液のFeが全て酸化鉄になったと仮定し、そ
の酸化鉄に含まれるMnの質量を意味する。
塩酸A: 濃度36質量%。
塩酸B: 濃度32質量%。
塩酸C: 濃度26質量%。
【0033】
(実施例1)
ビーカーに塩酸A700mlを入れた後、塩化第一鉄溶液A100mlを添加し(塩化第一鉄溶液Aと塩酸Aの質量混合比=1:7)、常温で混合攪拌すると塩化第一鉄結晶が析出した。混合液のFeの過飽和度は7g/lであった。なお、Fe濃度は混合終了時の上澄液をサンプリングして測定した。
ついで、混合液を吸引濾過して塩化第一鉄結晶を回収分離した。塩化第一鉄結晶を水に溶解して塩化第一鉄溶液を得た。得られた塩化第一鉄溶液の溶液量、Fe濃度およびMn濃度から、混合液から析出した塩化第一鉄結晶に取込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表1に示した。
【0034】
(実施例2〜3、比較例1〜2)
実施例1において、塩酸Aの使用量を変更する(したがって、塩化第一鉄溶液Aと塩酸Aの質量混合比を1:7から1:5、1:4、1:3および1:2に変更する)以外は実施例1を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表1に示した。
【0035】
実施例1〜3の結果と比較例1〜2の結果から、塩酸Aに塩化第一鉄溶液Aを添加して得た混合液のFeの過飽和度が25g/lであれば、Mn含有量が低い塩化第一鉄結晶が得られるが、Feの過飽和度が25g/l超であると、Mn含有量が高い塩化第一鉄結晶が得られることがわかる。
【0036】
(実施例4)
ビーカーに塩酸A100mlを入れた後、塩化第一鉄溶液A5mlを添加し、常温で10分間混合攪拌した。その後、さらに塩化第一鉄溶液A5mlを添加し、常温で10分間混合攪拌することを、塩化第一鉄溶液Aの添加量の総量が100mlになるまで20回繰返えして(したがって、塩化第一鉄溶液Aと塩酸Aの最終質量混合比は1:1である)、塩化第一鉄結晶を析出させた。混合液200mlのFeの過飽和度は12.2g/lであった。なお、Fe濃度は混合終了時の上澄液をサンプリングして測定した。
ついで、混合液を吸引濾過して塩化第一鉄結晶を回収分離した。塩化第一鉄結晶を水に溶解して塩化第一鉄溶液を得た。得られた塩化第一鉄溶液の溶液量、Fe濃度およびMn濃度から、析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表2に示した。
【0037】
(実施例5)
実施例4において、塩化第一鉄溶液Aの1回毎の添加量を10mlに変更する(したがって、添加の繰返し回数は10回で、塩化第一鉄溶液Aの添加量の総量は100mlである)以外は実施例4を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量を算出した。結果を表2に示した。
【0038】
(比較例3)
実施例4において、塩化第一鉄溶液Aの1回毎の添加量を15mlに変更する(したがって、添加の繰返し回数は7回であるが、7回目に限り10mlに減量して塩化第一鉄溶液Aの添加量の総量を100mlにする)以外は実施例4を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量を算出した。結果を表2に示した。
【0039】
(比較例4)
実施例4において、塩化第一鉄溶液Aの1回毎の添加量を20mlに変更する(したがって、添加の繰返し回数は5回で、塩化第一鉄溶液Aの添加量の総量は100mlである)以外は実施例4を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量を算出した。結果を表2に示した。
【0040】
(実施例6〜7、比較例5〜6)
実施例1において、塩酸A700mlを入れたビーカーに、塩化第一鉄溶液A100mlを、マイクロチューブポンプを用いて0.5ml/min、1.0ml/min、1.5ml/min、2.0ml/minの速度で連続的に添加した(したがって、塩化第一鉄溶液Aと塩酸Aの質量混合比=1:7)以外は実施例1を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表2に示した。
【0041】
(比較例7)
実施例4において、ビーカーに塩化第一鉄溶液A100mlを入れた後、塩酸A100mlをマイクロチューブポンプを用いて1.0ml/minの速度で連続的に添加した(したがって、塩化第一鉄溶液Aと塩酸Aの質量混合比=1:1)以外は実施例4を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表2に示した。
【0042】
実施例4〜7の結果と比較例3〜6の結果から、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下を維持するように塩酸Aに塩化第一溶液Aを添加すれば、析出する塩化第一鉄結晶に取込まれるMn含有量は少なくなるのに対し、Feの過飽和度が25g/l超になるように塩酸Aに塩化第一溶液Aを添加すれば、析出する塩化第一鉄結晶に取込まれるMn含有量が多くなることがわかる。したがって、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下を維持するように塩酸Aに塩化第一溶液Aを添加する必要がある。
【0043】
また、実施例7の結果と比較例7(公知の方法)の結果から、器に予め保持した塩酸Aに、塩化第一鉄溶液Aを添加する場合は、析出する塩化第一鉄結晶に取込まれるMn含有量が少ないのに対し、逆に塩化第一鉄溶液Aに塩酸Aを添加する場合は、析出する塩化第一鉄結晶に取込まれるMn含有量が多いことがわかる。
【0044】
(実施例8)
実施例1において、塩酸B100mlを入れたビーカーに、塩化第一鉄溶液B200mlを、マイクロチューブポンプを用いて1.0ml/minの速度で連続的に添加した(したがって、塩化第一鉄溶液Bと塩酸Bの質量混合比=1:0.5)以外は実施例1を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表3に示した。
【0045】
(実施例9〜14)
実施例8において、塩化第一鉄溶液Bの添加量を変更する(したがって、塩化第一鉄溶液Aと塩酸Aの質量混合比を1:0.5から1:1、1:2、1:3、1:5、1:0.25、1:7に変更する)以外は実施例8を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表3に示した。
【0046】
(実施例15)
実施例9において、塩酸Bを塩酸Cに変更する(したがって、塩酸の濃度が36質量%から26質量%に変更する)以外は実施例8を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表3に示した。
【0047】
(実施例16)
実施例9において、塩化第一鉄溶液Bを塩化第一鉄溶液Cに変更する(したがって、Fe濃度が197g/lから145g/lに変更する)以外は実施例8を繰返した。混合液のFeの過飽和度および析出した塩化第一鉄結晶に取り込まれたFe含有率およびMn含有量(酸化鉄換算)を算出した。結果を表3に示した。
【0048】
実施例8〜16の結果から、塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比が1:0.25〜1:7の範囲であれば、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下であり、析出する塩化第一鉄結晶に取込まれるMn含有量(酸化鉄換算)が500ppm以下の少量であることがわかる。また、混合比が1:0.5〜1:5の範囲であれば、Mn含有量(酸化鉄換算)が400ppm以下の濃度の低い塩化第一鉄結晶を40質量%以上の高い収率で得られることがわかる。また、実施例9と実施例15の結果から、塩酸濃度が30質量%以上、塩化第一鉄溶液のFe濃度が160g/l以上であると、Mn含有量が少ない塩化第一鉄結晶が高い収率で得られることがわかる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、DDS(薬物伝送システムS)やハイパーサーミア用などの医療用マグネタイトの製造に適した不純物が少ない原料塩化第一鉄結晶、原料塩化第一鉄溶液; Mn含有量の少ない赤色顔料用ヘマタイトの製造などに適した原料塩化第一鉄結晶、原料塩化第一鉄溶液を得ることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化第一鉄溶液と塩酸を混合し、塩化第一鉄を析出させて不純物を低減する塩化第一鉄の精製方法において、予め容器中に保持された塩酸に対して、混合液のFeの過飽和度が25g/l以下になるように塩化第一鉄溶液を添加して、塩化第一鉄を析出させることを特徴とする塩化第一鉄の精製方法。
【請求項2】
前記塩酸の濃度が30質量%以上、前記塩化第一鉄溶液のFe濃度が160g/l以上であり、塩化第一鉄溶液と塩酸の混合比が質量比で1:0.5〜1:7であることを特徴とする請求項1に記載の塩化第一鉄の精製方法。
【請求項3】
請求項1または2の精製方法で析出した塩化第一鉄を前記混合液から分離、回収後、水に溶解させることを特徴とする塩化第一鉄溶液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−241629(P2010−241629A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91013(P2009−91013)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】