説明

塩味増強剤およびこれを含む昆布エキス

【課題】食塩と同様のフレーバー増強効果を有し、エグ味や異臭等の不必要な風味を付与しない塩味増強剤、その製造方法、該塩味増強剤を含有する昆布エキス、並びに前記塩味増強剤や昆布エキスを含有する、塩味およびフレーバーの増強された飲食品を提供する。
【解決手段】塩味増強剤は、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有することを特徴とする。昆布由来の揮発性成分は、原料昆布を溶媒の存在下での蒸留、溶媒抽出、超臨界抽出等行うことによって取得できるが、得られた昆布の揮発性成分の内、分子量200以上の成分を好ましくは60重量%未満に減少させたものを塩味増強剤として用いる。蒸留による場合、例えば、昆布を蒸留した際の留液を分集し、分子量200未満の揮発性成分を含有する留分の前半部分を塩味増強剤として使用すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の塩味を増強させる塩味増強剤およびその製造方法、詳しくは、昆布由来の揮発性成分を活用した、幅広い飲食品の塩味を増強させる塩味増強剤、およびその製造方法、並びに該塩味増強剤を含有する昆布エキス、前記塩味増強剤あるいは昆布エキスを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩(塩化ナトリウム)は、人類が生存する上で必須のミネラル分であるが、近年その過剰摂取が各種成人病、例えば高血圧症、動脈硬化やそれにより引き起こされる各種成人病、さらには胃がん等の原因となることが報告されている。また、食塩は必須栄養分であると共に、古来より食品の保存および調味料として広く使用されてきた。加えて、食塩は、食品に美味しさを付与する重要な要素である。これはいわゆる塩味の付与に限られるものでなく、例えば食塩にはフレーバー増強効果があることが知られており、低塩食品を食べると物足りないと感じる一方、高塩分の加工食品を食べると高い満足感が得られるのはこの効果によるところが大きい。全体のボリューム感や後切れ感に加え、特に適度な塩分がもたらすトップインパクトの増強効果は、食塩の持つ第二の効果として調味においては重要である。これらのことから、食塩の供給量を抑えながら、食品としての美味しさを損なっていない料理を可能にする、各種食塩代替品および塩味増強剤が求められてきた。
【0003】
このような要望に応えるべく、各種食塩代替品が報告されている。例えば、塩化カリウムを代表とする無機塩類は食塩代替品として広く使用されている。しかし、これらは特有のエグ味等の異味を有することが知られている。そのため、塩化カリウムに昆布エキスとトレハロースを併用することにより、塩化カリウムの有する独特の異味を抑える技術(特許文献1参照)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、昆布エキスおよび呈味成分を所定の割合で含有する低ナトリウム塩味料(特許文献2参照)などが提案されている。これらは、塩化カリウムによる塩分代替ではあるものの、いずれも通常の昆布エキスを使用しているため昆布特有の磯臭さ等の風味により汎用性が必ずしも高くない上、食塩の持つフレーバー増強効果については十分ではなかった。
【0004】
また各種塩味増強剤も開発されている。例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸による塩辛味増強法(特許文献3参照)、スピラントールとシャロットやオニオン等のアリウム属植物抽出物を併用することにより塩味を増強させる方法(特許文献4参照)等が報告されている。しかしながら、これらのいずれもその塩味増強効果が十分でないこと、汎用性が低いことに加え、食塩の持つフレーバー増強効果については十分ではなかった。
【0005】
一方、従来、魚類、海藻類などの海産物が本来有している風味あるいは呈味に近い水産物濃縮物あるいは抽出物を得ることも種々試みられている。例えば、魚類、海藻類、貝類、甲殻類などの水産物原料を加水後、例えば減圧あるいは水蒸気蒸留し、得られた香り成分を濃縮して香気成分を得る工程、蒸留の残渣を抽出後、濃縮して呈味成分を得る工程、得られた香気成分と呈味成分を混合して、香味の優れた水産物の濃縮抽出物を得る方法(特許文献5、6参照)、昆布等の海藻を低温のアルコール性溶媒で抽出し、海藻抽出物を合成吸着剤と接触処理することにより、海藻独特の生臭い香気を低減させる方法(特許文献7、8参照)が報告されている。しかし、これら海産物濃縮エキスは、いずれも海産物本来の香味を利用しようとするもので、得られた香気成分が塩味増強効果を有すること、また食塩の持つフレーバー増強効果については知られていない。
【0006】
さらに、昆布粉末を含水アルコールに含浸させて得た香気成分を含む含水アルコールを、液体、亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素により洗浄・回収することを特徴とする昆布から香気を抽出する方法、および得られた香気成分を含有してなる調味料の製造方法も知られている(特許文献9参照)。しかし、この方法は、昆布が本来持つ磯臭さ等を含む昆布らしい風味の増強を目的とするものであり、昆布らしさを必要としない汎用性の高い塩味増強剤として適したものではない。さらに、得られた香気成分が塩味増強効果を有すること、また食塩の持つフレーバー増強効果についての開示もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−65978号公報
【特許文献2】特開平6−7111号公報
【特許文献3】特開平5−184326号公報
【特許文献4】特開2006−296357号公報
【特許文献5】特開平9−9908号公報
【特許文献6】特開2004−89141号公報
【特許文献7】特開2003−144102号公報
【特許文献8】特開2007−37475号公報
【特許文献9】特開2001−78705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の食塩代替品および塩味増強剤が有する各種問題点を有さないあるいはその問題点の解決がなされた塩味増強剤、その製造方法、塩味増強効果を有する昆布エキス、および前記塩味増強剤あるいは前記昆布エキスを含有する飲食品を提供するものである。
【0009】
すなわち本発明の目的は、食塩と同様のフレーバー増強効果を有し、かつえぐみや異臭等の不必要な風味を付与しない塩味増強剤およびその製造方法を提供することである。
【0010】
さらに本発明の他の目的は、上記塩味増強剤を含有する昆布エキス、並びに上記塩味増強剤や前記昆布エキスを含有する、塩味およびフレーバーの増強された飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、昆布の揮発性成分に塩味増強効果があることを見出し、この知見に基づいて本発明をなしたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の塩味増強剤、その製造方法、昆布エキスおよび飲食品に関する。
【0013】
(1)昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有することを特徴とする塩味増強剤。
【0014】
(2)上記(1)記載の塩味増強剤において、前記昆布が酵素処理された昆布であることを特徴とする塩味増強剤。
【0015】
(3)上記(1)または(2)記載の塩味増強剤において、昆布由来の分子量200以上の揮発性成分が原料昆布の揮発性成分の分子量200以上の成分量に対し60重量%未満であることを特徴とする塩味増強剤。
【0016】
(4)昆布を蒸留することにより、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有する上記(1)記載の塩味増強剤を得ることを特徴とする塩味増強剤の製造方法。
【0017】
(5)昆布を蒸留することにより、昆布由来の分子量200以上の揮発性成分が原料昆布の揮発性成分の分子量200以上の成分量に対し60重量%未満含有する、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有する上記(3)記載の塩味増強剤を得ることを特徴とする塩味増強剤の製造方法。
【0018】
(6)原料昆布の重量に対して、蒸留開始から20ppm以下までの揮発性成分を捕集することを特徴とする上記(5)記載の塩味増強剤の製造方法。
【0019】
(7)上記(4)〜(6)のいずれかに記載の塩味増強剤の製造方法において、昆布に酵素を作用させた後に蒸留することを特徴とする塩味増強剤の製造方法。
【0020】
(8)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塩味増強剤と、昆布の不揮発性成分を含有する抽出液との混合物からなることを特徴とする昆布エキス。
【0021】
(9)前記抽出液が、昆布を蒸留して揮発性成分を除去した後に得られる昆布の不揮発性成分を含有する抽出液であることを特徴とする上記(8)記載の昆布エキス。
【0022】
(10)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塩味増強剤を含有することを特徴とする飲食品。
【0023】
(11)上記(8)または(9)に記載の昆布エキスを含有することを特徴とする飲食品。
【発明の効果】
【0024】
本発明により得られた塩味増強剤は、塩化カリウムのように後味にエグ味等の異味を付与することなく塩味を増強し、かつ飲食品中での食塩が持つもう一つの機能である飲食品のフレーバー増強効果も発揮し、減塩により損なわれたトップインパクトを飲食品に付与することができる。
【0025】
また、本発明の塩味増強剤は、昆布が本来持つ独特の風味(磯臭さ、海藻臭さ、糸引き感)を抑えることにより、幅広い飲食品において違和感無く、塩味増強効果、フレーバー増強効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の塩味増強剤は、前記したように昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有するものである。本発明における昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有する塩味増強剤は、昆布由来の揮発性成分を取得する何れの方法によって得られたものでもよく、例えば原料昆布を溶媒の存在下に蒸留する、あるいは原料昆布の溶媒抽出、超臨界抽出等の方法が挙げられ、これらの中では、蒸留による方法が好ましい。
【0027】
上記方法において使用される原料昆布は、通常の出汁用に用いられる乾燥昆布であれば、産地や品種に特に限定されるものではない。代表的には国産のものであれば利尻昆布、真昆布、日高昆布、羅臼昆布等が挙げられる。これら以外にも中国産等の昆布も使用することができる。使用する昆布は一種であってもよいし、二種以上でもよい。
【0028】
蒸留により本発明の揮発性成分を得る一般的な方法について説明すると、例えば、密閉した容器内に原料昆布とともに溶媒を加えて加熱し、発生した蒸気およびガスをバキューム、冷却管等の装置により捕集することにより、昆布由来の揮発性成分を含有する溶液を得ることができる。本発明においては、この溶液をそのまま塩味増強剤含有液として用いることもできるし、この溶液から昆布由来の揮発性成分を抽出するなどして分離し、必要であればさらに精製して、本発明の塩味増強剤を得ることもできる。
【0029】
より詳しく説明すると、まず原料昆布は溶媒とともに冷却管付き加熱容器、例えば冷却管付き加熱攪拌釜に入れられる。次いで原料昆布と溶媒とは、溶媒の沸点あるいは沸点に近い温度に加熱され、この状態が一定時間維持され、その際発生した蒸気が、冷却管を通して溶液として捕集される。このとき用いられる溶媒としては、例えば、水、希エタノール水溶液、エタノール、メタノール、アセトン、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、酢酸エチルなどを挙げることができる。これらの中でも、水が好ましい。また、原料昆布と溶媒の量は任意でよいが、攪拌や抽出の際の効率上の観点から、通常、昆布:溶媒が1:100〜1:5(重量比)とされることが好ましく、さらに好ましくは、昆布:溶媒が1:50〜1:10(重量比)とすることが好ましい。
【0030】
加熱により蒸発した溶媒と昆布中の揮発性成分は、冷却管により冷却され、昆布中の揮発性成分を含有する液とされ、回収容器に捕集、回収される。捕集液の回収容器への回収方法は任意であり、例えば、単位時間ごとあるいは単位捕集液量ごとに捕集液を分別回収してもよいし、一括回収されてもよい。捕集時間は、原料昆布中の全揮発性成分が昆布溶液から排出されるような時間とされることが好ましいが、時間が長すぎると釜中の溶媒、例えば水の量が減りすぎて攪拌に支障をきたし、原料昆布の焦げつきによる異臭の発生等の悪影響がある。さらに、加熱時間や排出液回収量は、使用される原料昆布や溶媒の量や種類、さらには加熱容器の大きさや冷却管の能力、加熱温度などによっても変わる。加熱時間は、溶媒として水を用いる場合、一般的には、1〜3時間程度となるようにされればよいが、この範囲に特に限定されるものではない。また加熱温度は、溶媒の温度が、溶媒の沸点からそれを10℃下回る温度の間となるように行うことが好ましい。捕集液総回収量は、通常、原料として用いた溶媒の量の20〜40重量%程度とされればよい。分別回収する際の分別ごとの捕集量も適宜でよいが、一例をあげれば、捕集液量が使用する原料溶媒の量の1〜20重量%程度の範囲で所定の設定量となるたびに、捕集容器を取り換えるようにすることが挙げられる。
【0031】
上記分別回収の際、分別ごとの捕集時間(単位捕集時間)あるいは1分別回収ごとの捕集液の量(単位捕集量)を少なく設定すれば、各捕集ごとの捕集液に含まれる揮発性成分の成分分布がより狭くなる。昆布浸漬溶液の加熱により蒸気が発生する際には、溶媒の蒸発とともに昆布由来の揮発性成分のうち分子量の小さい成分から蒸発することとなるから、最初の捕集液部分には、低分子量の成分が多くなり、捕集容器を取り換えるごとに低分子量成分は減少し、高分子量成分の割合が増大していくこととなる。
【0032】
本発明で蒸留の際に用いられる加熱容器は、冷却管を取り付けることができ、加熱容器から蒸発排出される蒸気を前記冷却管によって回収することのできるものであれば、何れのものをも用いることができる。そのような容器としては、例えば、蒸気式攪拌釜、オートクレーブ抽出釜、蒸気ジャケット付きニーダーなどを挙げることができる。材質等は特に限定されないが、いずれも攪拌能力があることが好ましく、冷却管取り付け部以外を完全な密閉状態にできることが必要である。冷却管としては、例えば共通摺合せ冷却器(IWAKI製)等を挙げることができる。本発明では、低分子量の揮発性成分を捕集することが重要であるため、これらの成分を逃さずに捕集できるように、加熱容器と冷却管は密閉状態にできることが必要である。本発明において「密閉」とは、冷却管の出口を除く部分が外気に触れない状態であることを示す。
【0033】
ところで、本発明者らの研究により、塩味を増強する能力は、昆布由来の揮発性成分のなかでも、昆布由来の揮発性成分の低分子量成分の方が高いことが判明した。また、昆布由来の揮発性成分のうち高分子量成分には、磯臭さ、海藻臭さ等の好ましくない昆布臭成分などが含まれることから、本発明の塩味増強剤に高分子量の揮発性成分が多く含まれる場合は、本発明における塩味増強剤の塩味増強効果が低減するだけでなく、昆布が本来持つ磯臭さ、海藻臭さ、糸引き感といった独特の風味が強くなり、嗜好性の低下や塩味増強剤の汎用性の低下につながることから好ましいものとはいえない。このため、汎用性の高い、また塩味を増強する能力の高い塩味増強剤を得たい場合には、昆布由来の揮発性成分の低分子量部を用いることが好ましい。種々の試験、検討を行ったところ、本発明の塩味増強剤は、昆布由来の揮発性成分のうち、分子量200未満、好ましくは170未満、さらに好ましくは140未満の揮発性成分を有効成分とすることが好ましいものである。なお、分子量の下限は、40とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明の塩味増強剤中での原料昆布中の分子量200以上の揮発性成分の量は、原料昆布中の揮発性成分の総量が回収された場合を想定すると、原料昆布中の分子量200以上の揮発性成分については、その総量の60重量%未満、好ましくは0〜60重量%未満、さらに好ましくは0〜50重量%未満、とくに0〜40重量%未満の量としたものであることが好ましい。さらに、昆布由来の分子量170〜200未満の揮発性成分については、昆布由来の総揮発性成分に含まれる分子量170〜200未満の揮発性成分総量に対して、0〜80重量%未満、好ましくは0〜60重量%未満、さらには0〜50重量%未満とされることが好ましい。さらに好ましくは、昆布由来の分子量140〜170未満の揮発性成分が、昆布由来の総揮発性成分に含まれる分子量140〜170未満の揮発性成分に対して、0〜75重量%未満、さらには0〜70重量%未満とすることが好ましい。
【0035】
このため、上記のごとき好ましい態様の塩味増強剤、例えば、昆布由来の分子量が200未満の揮発性成分を有効成分とする塩味増強剤を得るためには、揮発性成分を捕集する際に、塩味増強効果の高い、すなわち塩味増強効果に適した低分子量部と塩味増強効果の低い、すなわち塩味増強効果に適さない高分子量部とに分けるよう調整することが好ましい。このような調整方法としては、例えば、捕集した揮発性成分を再度多段式蒸留塔で処理する方法、あるいは揮発性成分を蒸留にて捕集する際に、前半に捕集した部分、すなわち低分子量揮発性成分含有部と、後半部、すなわち高分子量揮発性成分含有部で分けるように分別回収する方法などが挙げられる。これらの方法のいずれかまたは複数を組み合わせて用いて、昆布由来の低分子量の揮発性成分である分子量200未満の揮発性成分、好ましくは分子量170未満、さらに好ましくは分子量140未満の揮発性成分を有効成分とする塩味増強剤を得ることが好ましい。
【0036】
より具体的に説明すると、例えば、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を蒸留により得る場合は、昆布浸漬液の蒸留開始から、原料昆布の重量に対して、揮発性成分が20ppm以下得られるまでの捕集液を回収することにより得ることができる。
【0037】
また、昆布由来の分子量170未満の揮発性成分を蒸留により得る場合は、昆布を蒸留開始から、原料昆布の重量に対して、揮発性成分が17ppm以下得られるまでの捕集液を回収することにより得ることができる。
【0038】
さらに、昆布由来の分子量140未満の揮発性成分を蒸留により得る場合は、昆布浸漬液の蒸留開始から、原料昆布の重量に対して、揮発性成分が12ppm以下得られるまでの捕集液を回収することにより得ることができる。
【0039】
また、発生した蒸気を捕集する際に回収した溶液の後半部分を廃棄することで、分子量200以上の高分子量の揮発性成分を効率的に除去することができる。例えば、原料溶媒に対して5重量%ごとに、計40重量%まで分別捕集する場合、捕集容器を8個用意し、原料溶媒に対して5重量%の溶液(第一留液と呼ぶ)が溜まったら素早く捕集容器を取り替え、さらに5重量%の溶液(第二留液)、という作業を繰り返し第八留液まで分集する。この場合、溶液中に含まれる分子量200未満の揮発性成分は第一留液に集中しており、次の第二留液からは低分子量成分が大幅に減り、逆に分子量200以上の揮発性成分の量が徐々に増えてくる。一般的には、原料溶媒に対して5〜20重量%の捕集液を回収することにより、蒸留開始後の昆布由来の揮発性成分が原料昆布の重量に対して20ppm以下となるようにすることができ、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を得ることができる。
【0040】
また、これらの分別捕集液の分別量を調整し、原料昆布の重量に対して、昆布由来の揮発性成分が20ppm以下得られるまでの捕集液を回収することにより、本発明の有効成分である分子量200未満の揮発性成分を得ることができる。
【0041】
これまで述べてきたように、本発明の塩味増強剤は、昆布由来の揮発性成分を含み、好ましくは、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分、より好ましくは昆布由来の分子量170未満の揮発性成分、さらに好ましくは昆布由来の分子量140未満の揮発性成分を有効成分とするものであるが、例えば、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を有効成分とする塩味増強剤においては、昆布由来の分子量200以上の揮発性成分ができるだけ少ない方が好ましいものの、塩味増強効果およびフレーバー増強効果があり、さらには昆布が本来持つ独特の風味(磯臭さ、海藻臭さ、糸引き感)などが抑えられる範囲内であれば昆布由来の分子量200以上の揮発性成分が含まれていても特に問題はない。
【0042】
原料昆布の重量に対して、揮発性成分が20ppm以下得られるまでの捕集液を回収し、その時点で蒸留を止めた場合本発明の塩味増強剤を得ることはできるが、後述するように、蒸留により得られた捕集液を昆布の不揮発性成分と合わせて塩味増強効果を有する昆布エキスとして活用する場合、さらに蒸留を続け、揮発性成分を全て原料昆布から除去することが好ましい。これにより原料昆布に存在する高分子揮発性成分を効率的に取り除くことができる。つまり、原料昆布の重量に対して昆布由来の揮発性成分が20ppm得られた後の捕集液をあえて回収して廃棄し、原料昆布の重量に対して昆布由来揮発性成分が20ppm以下となるまでの捕集液を、抽出した不揮発性成分と混合することにより、塩味増強効果を有しながら磯臭さを含まない高品質の塩味増強効果を有する昆布エキスを作成することができる。
【0043】
また、上記では、水を溶媒として用いた場合について揮発性成分の捕集方法を詳細に説明したが、より低分子量の昆布由来の揮発性成分を捕集するために、蒸留の際に使用する溶媒を希エタノール水溶液とすることもできるし、また、蒸留の際の加熱温度を60〜90℃という比較的低い温度に保つ等の方法も採ることができる。これらの方法により、単なる沸騰水での蒸留よりもより高い割合で低分子量の揮発性成分を捕集することができる。しかし、捕集した成分を後述する不揮発性成分と合わせて塩味増強効果を有する昆布エキスとする場合、前者の場合は釜中に残存したエタノールにより抽出される不揮発性成分の量が減ってしまう、後者の場合は不揮発性成分を抽出する際に抽出時間がかかる上に好ましくない高分子量の揮発性成分を昆布抽出液から除去できないという不利益点もある。後者の問題を解決させるための手段として、釜中の昇温速度を緩やかにし、低分子量揮発性成分を選択的に回収した後に釜中温度を急速に高め、高分子量揮発性成分を一気に回収する、といった手法を挙げることができる。
【0044】
その他、蒸留により得られた捕集液から低分子量の揮発性成分を得る方法としては、得られた揮発性成分を含有する捕集液を、さらに溶剤抽出、再蒸留、クロマトグラフィーなどの処理をすることも挙げられる。溶剤抽出としては、捕集液を、ヘキサン、アセトン、ジエチルエーテル、ペンタン、エタノール、メタノール、酢酸エチル等の溶媒を1種類以上使用し、必要に応じて何段階かの処理を経て抽出することにより、低分子量揮発性成分のみを選択的に分集することができる。再蒸留としては、減圧下にて捕集液を処理することにより、低分子量揮発性成分のみを選択的に分集することができる。クロマトグラフィーとしては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、イオン交換樹脂、合成吸着剤、シクロデキストリンといった吸着剤を封入したカラムに捕集液を供することにより、低分子量揮発性成分のみを選択的に分集することもできる。また、これらの方法を複数組み合わせて、より効果の高い塩味増強剤を得ることもできる。
【0045】
このように、蒸留により得られた昆布由来の揮発性成分を含有する捕集液は、塩味増強剤としてそのまま用いられてもよいし、捕集液から溶媒を除去することにより昆布由来の揮発性成分のみを分離・濃縮して塩味増強剤として使用することもできる。捕集液から溶媒を除去する方法としては、例えば、溶媒抽出が挙げられる。つまり、捕集液を、ヘキサン、アセトン、ジエチルエーテル、ペンタン、エタノール、メタノール、酢酸エチル等の溶媒により、水以外の成分を選択的に抽出した抽出液を真空下で処理し、溶媒を除去することができる。
【0046】
これまで、蒸留法について詳しく説明したが、蒸留法以外の方法である、原料昆布の有機溶媒抽出法および超臨界抽出法について説明する。
【0047】
有機溶媒抽出法においては、密閉された装置で、原料昆布にヘキサン、アセトン、ジエチルエーテル、ペンタン、エタノール、メタノール、酢酸エチル等の溶媒を加えて、−20〜90℃で、1時間〜数日抽出を行う。抽出する際には、昆布:溶媒を1:100〜1:5(重量比)とすることが好ましい。抽出後、抽出液から溶媒を除去して得られた濃縮物をさらに多段式蒸留塔に供し減圧下で処理することにより、本発明の揮発性成分を得ることができる。その際に、蒸留の例と同様にして、原料昆布の重量に対して、蒸留開始後、揮発性成分が20ppm以下得られるように捕集液を回収することにより、低分子量揮発性成分、とくに分子量200未満の揮発性成分を得ることができる。
【0048】
超臨界抽出の場合は、密閉された装置で、有機溶媒抽出と同様の方法をとることにより揮発性成分や分子量200未満の揮発性成分を得ることができる。
【0049】
また、これらの有機溶媒抽出や超臨界抽出に、さらに蒸留法を複数組み合わせて、より効果の優れた塩味増強剤を得ることもできる。
【0050】
本発明では、より多くの好ましい揮発性成分を捕集するため、原料昆布に酵素を作用させる、即ち酵素処理することもできる。使用できる酵素としては、例えば、プロテアーゼ、グルコシダーゼ、グルタミナーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を挙げることができる。使用する酵素は一種であってもよいし、二種以上であってもよい。酵素処理は、原料昆布から揮発性成分を捕集する前に行われる。酵素処理を行う場合には、例えば、昆布と水を加熱容器に入れ、これに前記酵素を適量投入し、酵素処理に適した温度に加温し、適宜の時間、必要に応じ攪拌することにより行われる。酵素処理は水蒸気蒸留等が行われる冷却管の装備された密閉された加熱容器で行われ、その後引き続き同じ装置で水蒸気蒸留や有機溶媒抽出、超臨界抽出等が行われてもよいし、他の容器で酵素処理を行った後、水蒸気蒸留や有機溶媒抽出、超臨界抽出等が行われる装置に酵素処理を行った昆布と溶媒を移行させ、水蒸気蒸留や有機溶媒抽出、超臨界抽出等が行われてもよい。他の容器に移す場合は揮発性成分の損失を極力抑えるよう、室温以下まで冷却することが好ましい。
【0051】
使用される酵素の量は、原料昆布に対し酵素0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%とすることが好ましい。酵素処理の温度と時間については各酵素の至適条件であれば特に限定されるものではないが、処理温度は一般的には室温〜60℃、さらには40〜50℃とすることが好ましく、処理時間は10分〜48時間、さらには12〜24時間の範囲とすることが好ましい。酵素処理の後は70〜100℃での加熱、または有機溶媒添加により酵素を失活させる必要があるが、これを行わず速やかに酵素処理に続く加熱蒸留や溶媒抽出等の工程を実施することもできる。この方法においては同様の酵素失活効果を得ることができる上、揮発性成分の損失が少ないという利点がある。
【0052】
上記のごとく処理することによって得られた揮発性成分を含有する塩味増強剤は、そのままで飲食品などの塩味増強剤として用いることができるし、希釈あるいは濃縮して飲食品などの塩味増強剤として用いることもできる。また、蒸留によれば、揮発性成分を含有する溶液が直接得られることから、これを塩味増強剤として用いることができる。
【0053】
本発明の塩味増強剤は、様々な液体に溶解して用いることができる。液体としては、例えば、水、エタノール、食用油脂等が挙げられ、食用に用いられるものであれば特に限定されない。
【0054】
本発明の塩味増強剤は、昆布由来の揮発性成分そのもの、あるいはそれを溶解した液体を粉体に封入したものとして用いることもできる。この場合、例えば、スプレードライを行う、油脂に溶解してからデキストリンに吸着させる等の方法をとることができる。
【0055】
本発明の塩味増強剤は、昆布から抽出された不揮発性成分(以下、呈味成分ともいう)と混合することにより、塩味が増強された昆布エキスとすることができる。昆布の不揮発性成分を抽出する方法としては、昆布由来の揮発性成分を回収した後の昆布について、例えば、熱水抽出、酵素処理を伴う熱水抽出、熱水加圧抽出、酵素処理を伴う熱水加圧抽出、エタノール−水抽出等を行う方法が挙げられる。蒸留により揮発性成分が回収される方法において、例えば溶媒として水が用いられる場合、蒸留後の加熱容器内の溶媒は前記した熱水抽出液に該当することになる。昆布から不揮発性成分が抽出された抽出液は、昆布由来の揮発性成分が全て除去されていることが好ましい。高分子揮発性成分、とくに分子量200以上の揮発性成分は、昆布独特の磯臭さや海藻臭さの原因となっており、揮発しにくいこれらの高分子揮発性成分が上記抽出液に残存していると、昆布エキスの嗜好性、汎用性が低下することとなる。
【0056】
不揮発性成分を抽出した後に、該抽出液が高温であればこれを冷却し、これに上記揮発性成分を有効成分とする本発明の塩味増強剤を添加し、均一に混合することにより、塩味増強効果を有する揮発性成分を含む、優れた昆布エキスを得ることができる。
【0057】
残留昆布を分離するなどして得られた抽出液と本発明の塩味増強剤との混合は、(1)蒸留後の昆布由来揮発性成分が除去された昆布残渣含有抽出液から昆布残渣を分離除去して不揮発性成分を含む抽出液を得た後に、これに前記蒸留により回収された昆布由来揮発性成分の捕集液を混合することによってもよいし、(2)蒸留後の昆布由来揮発性成分が除去された昆布残渣含有抽出液を冷却後、これに前記回収した昆布由来揮発性成分の所望捕集液部を投入し、所定時間攪拌した後、残渣昆布を分離除去することによってもよい。前者の方法を採る場合には、残渣昆布分離(ろ過)時の香気ロスが少ないという利点が、後者の方法を採る場合には、一つの装置で抽出から混合まで一貫して実施できるため作業効率がよいという利点がある。
【0058】
昆布エキスと塩味増強剤の配合割合は、昆布エキス中の昆布由来不揮発性成分が、塩味増強剤中の昆布由来揮発性成分に対して100,000重量倍未満となるように配合することが好ましく、塩味増強剤中の昆布由来揮発性成分:昆布エキス中の昆布由来不揮発性成分が、1:5,000〜1:50,000(重量比)となるように配合することがより好ましい。
【0059】
本発明の塩味が増強された昆布エキスは、分子量200未満、好ましくは170未満、さらに好ましくは140未満の揮発性成分を含有するものであることが好ましい。さらには、原料昆布に元々含まれていた分子量200以上の揮発性成分が60重量%未満、好ましくは0〜60重量%未満、さらに好ましくは0〜50重量%未満、とくに0〜40重量%未満とされていることが好ましい。より好ましくは、上記に加え、原料昆布に元々含まれていた分子量170〜200未満の揮発性成分が0〜80重量%未満、好ましくは0〜60重量%未満、さらには0〜50重量%未満とされていることが好ましい。上記に加え、原料昆布に元々含まれていた分子量140〜170未満の揮発性成分が0〜75重量%未満、さらには0〜70重量%未満とされていることが好ましい。
【0060】
本発明により得られた昆布由来の塩味増強剤および昆布エキスは、他の様々な食品用調味原料と混合して用いることができる。食品用調味料原料としては、例えば、食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩類;砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、オリゴ糖、デキストリン、でんぷん、ソルビトール、キシリトール、マルトール、還元水飴等の糖・糖アルコール類;醤油、味噌、チーズ、香辛料、食酢、トマトケチャップ、ウスターソース、肉エキス、魚介エキス、野菜エキス、香辛料類、蛋白加水分解物、蛋白酵素分解物、酵母エキス等の天然調味料;グルタミン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等の旨味調味料;クエン酸、コハク酸、乳酸等の酸味料;その他香料、香辛料抽出物、酸化防止剤、pH調整剤、くん液等が挙げられる。
【0061】
本発明により得られた昆布由来塩味増強剤およびこれを含む昆布エキスは、すでに塩味増強効果が報告されている他の塩味増強成分と組み合わせて使用することもできる。
【0062】
他の塩味増強成分としては、例えば、塩化カリウム、酸味料、酵母エキス等が挙げられる。例えば、本発明の塩味増強剤に塩化カリウムを組み合わせた場合、従来報告されているような塩化カリウムのエグ味を低減するという効果だけでなく、通常の塩味増強成分等では付与できなかった塩味様のトップインパクトを増強する効果も付与され、より高い塩味増強効果を期待することができる。
【0063】
また、本発明の昆布由来塩味増強剤および昆布エキスは、各種飲食品に配合することができる。本発明の昆布由来塩味増強剤あるいは昆布エキスが配合される飲食品としては、スナック食品;キャンディー、ガム、ビスケット等の菓子類;アイスクリーム、シャーベット等の冷果類;電子レンジ食品;カレー、丼の素、パスタソース等のレトルト食品;スープ食品;畜肉・水産練食品;ドレッシング・マヨネーズ類;風味調味料;タレ類;めんつゆ、ぽん酢等の液体調味料類;即席麺;食塩、ふりかけ、お茶漬けの素、パスタ用調味料等の粉末調味料;清涼飲料、果汁飲料、炭酸飲料等の飲料類;ジャム、フルーツプレザーブ類;ケーキ、ババロア、ムース等の洋菓子類;調理食品;惣菜類;珍味類;ベーカリー製品;マーガリン等、種々の飲食品が挙げられる。
【0064】
本発明の昆布由来塩味増強剤または昆布エキスの各種飲食品への配合量は任意でよいが、飲食品の重量に対して、昆布由来の揮発性成分が、例えば0.01ppb〜1ppm、好ましくは0.05〜100ppb、さらに好ましくは0.1〜50ppbとなるように配合することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものでない。なお、以下、室温とは20〜30℃の温度である。
【0066】
実施例1
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50gを密閉された冷却管付き加熱釜に投入し、攪拌しながら100℃達温後120分加熱した。その際、発生した水蒸気は冷却管を通し捕集した。捕集された留液は150gであった。これを昆布アロマPとした。留液中の昆布由来の揮発性成分は、原料昆布に対して30.0ppmであった。
【0067】
上記釜内のエキス抽出部を室温まで冷却した後、先に捕集した昆布アロマPを釜中に戻して10分間攪拌した。その後抽出残渣を分離除去して、昆布エキスA 350gを得た。
【0068】
比較例1
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50gを密閉されていない加熱釜に投入し、攪拌しながら100℃達温後120分加熱した。室温まで冷却した後、加熱の際に揮散した重量を測定したところ150gであった。水150gを加えて10分間攪拌、その後抽出残渣を分離除去し、昆布エキスB 350gを得た。
【0069】
実施例2
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50g、およびプロテアーゼ0.5g(天野エンザイム(株)、「プロテアーゼA「アマノ」G」)、セルラーゼ0.3g(エイチビィアイ(株)、「セルロシンAC40」)、グルタミナーゼ0.2g(天野エンザイム(株)、「グルタミナーゼダイワSD−C100S」)を密閉された冷却管付き加熱釜に投入して攪拌しながら加熱し、40℃で16時間保持し、酵素処理を行った。その後、100℃達温まで加熱後、120分加熱した。その際、発生した水蒸気は冷却管を通し捕集し、初めの25gを留液L、次の25gを留液M、次の50gを留液N、最後の50gを留液Oとした。また、留液L〜Oを全て合わせたものを昆布アロマQとした。上記釜内のエキス抽出部を室温まで冷却した後、昆布アロマQを釜中に加えて10分間攪拌し、その後抽出残渣を分離除去し、昆布エキスC 350gを得た。
【0070】
試験例1(香気分析1)
上記で得られた留液L、M、NおよびOを、以下の方法で前処理した後に、GC(ガスクロマトグラフィー)/FID(水素炎イオン化検出器)およびGC/MS(マススペクトル)分析に供し、香気分析を行った。内部標準を1とした際の代表的な成分の割合およびその分子量を表1に示す。なお、ガスクロマトグラフィーの条件は次の通りである。
【0071】
[サンプル前処理条件]
(イ)留液400gに精製塩200gを加えて塩析をした後、内部標準としてnonan−5−oneジエチルエーテル溶液(100mg/100ml)を100μl加え溶解した。
(ロ)分液漏斗を用いてジエチルエーテルで液液抽出した。(100ml×2)
(ハ)無水硫酸ナトリウムを10〜20g加え、脱水した。
(ニ)溶媒を留去し、約100mgまで濃縮してGC分析用サンプルとした。
【0072】
[ガスクロマトグラフィー条件]
(条件)
GC/FID分析用ガスクロマトグラフィー:HP6890N(アジレント・テクノロジー社製)
GC/MS分析用ガスクロマトグラフィー:GCMS−QP2010(島津製作所社製)
カラム:Rxi−5−ms(50m×0.25mm、df=0.15μm)(レステック社製)
温度プログラム:50℃(1分)→230℃(4℃/分で昇温)→294℃(8℃/分で昇温)
【0073】
【表1】

【0074】
試験例2(香気分析2)
また、実施例2で得られた留液L・M・N・O、留液L・M・N、留液L・M、留液Lを、上記試験例1と同様にして香気分析を行った。その結果を表2に示す。なお、使用した留液の量は、留液L・M・N・Oは150g(留液L:25g、留液M:25g、留液N:50g、留液O:50g)、留液L・M・Nは100g(留液L:25g、留液M:25g、留液N:50g)、留液L・Mは50g(留液L:25g、留液M:25g)、留液Lは25gである。また、使用した内部標準溶液の量は6.0μlである。なお、留液L〜Oには、原料昆布の揮発性成分が全て含まれていた。
【0075】
【表2】

【0076】
また、留液L中の揮発性成分は、原料昆布の重量に対し11.0ppm、留液L・Mの揮発性成分は、原料昆布の重量に対し17.6ppm、留液L・M・Nの揮発性成分は、原料昆布の重量に対し21.6ppm、留液L・M・N・Oの揮発性成分は、原料昆布の重量に対し35.4ppmである。
【0077】
実施例3
実施例2と同様にして、留液L 25g、留液M 25g、留液N 50g、留液O 50gを得、留液L・M・Nと水50gを混合したものを昆布アロマRとした。
【0078】
実施例4
実施例2と同様にして、留液L 25g、留液M 25g、留液N 50g、留液O 50gを得、留液L・Mと水100gを混合したものを昆布アロマSとした。釜内のエキス抽出部を室温まで冷却した後、昆布アロマSを釜中に加えて10分間攪拌し、その後抽出残渣を分離除去し、昆布エキスD 350gを得た。
【0079】
実施例5
実施例2と同様にして、留液L 25g、留液M 25g、留液N 50g、留液O 50gを得、留液Lと水125gを混合したものを昆布アロマTとした。釜内のエキス抽出部を室温まで冷却した後、昆布アロマTを釜中に加えて10分間攪拌し、その後抽出残渣を分離除去し、昆布エキスE 350gを得た。
【0080】
なお、実施例1で得られた昆布エキス中の不揮発性成分は、原料昆布に対して38重量%であった。実施例2、4、5で得られた昆布エキス中の不揮発性成分は、原料昆布に対して42重量%であった。
【0081】
比較例2
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50g、およびプロテアーゼ0.5g(天野エンザイム(株)、「プロテアーゼA「アマノ」G」)、セルラーゼ0.3g(エイチビィアイ(株)、「セルロシンAC40」)、グルタミナーゼ0.2g(天野エンザイム(株)、「グルタミナーゼダイワSD−C100S」)、を密閉していない加熱釜に投入して攪拌しながら加熱、40℃で16時間保持し、酵素処理を行った。その後、100℃達温まで加熱後、120分加熱した。室温まで冷却した後、加熱の際に揮散した重量を測定したところ150gであった。水150gを加えて10分間攪拌、その後抽出残渣を分離除去し、昆布エキスF 350gを得た。
【0082】
比較例3
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50gを密閉された冷却管付き加熱釜に投入し、攪拌しながら100℃達温後120分加熱した。その際、発生した水蒸気は冷却管を通し捕集した。捕集された留液は150gであった。上記釜内のエキス抽出部を室温まで冷却した後、水150gを添加し、その後抽出残渣を分離除去して、昆布エキスG 350gを得た。
【0083】
比較例4
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50g、およびプロテアーゼ0.5g(天野エンザイム(株)、「プロテアーゼA「アマノG」)、セルラーゼ0.3g(エイチビィアイ(株)、「セルロシンAC40」)、グルタミナーゼ0.2g(天野エンザイム(株)、「グルタミナーゼダイワSD−C100S」)を密閉された冷却管付き加熱釜に投入して攪拌しながら加熱し、40℃で16時間保持し、酵素処理を行った。その後、100℃達温まで加熱後、120分加熱した。その際、発生した水蒸気は冷却管を通し捕集し、初めの25gを留液L、次の25gを留液M、次の50gを留液N、最後の50gを留液Oとした。
上記釜内のエキス抽出部を室温まで冷却した後、水150gを添加し、その後抽出残渣を分離除去し、昆布エキスH 350gを得た。
【0084】
試験例3(官能評価)
専門パネル9名により、実施例1〜5、および比較例1〜4で得られた昆布エキスA〜Hおよび昆布アロマP、T、留液M〜Oを添加した食品について、飲食することにより官能評価を行った。官能評価は以下の方法で実施した。
【0085】
<官能評価1>
(評価用めんつゆの作製)
表3、4の配合にて原料を室温にて混合し、密閉容器に封入した後、90℃に達するまで湯煎し、コントロール1および2、評価実施例1〜7、評価比較例1〜8の3倍濃縮めんつゆを作製した。コントロール1は通常食される3倍濃縮めんつゆである。得られためんつゆに5倍量の水を加えて攪拌し、200mlビーカーに100ml注ぎ、評価用サンプルとした。
【0086】
(評価方法)
評価は「おいしさ」「トータルの風味強度」「風味のトップインパクト」「塩味」の4項目について実施し、コントロール1を5点とした場合の強さ、好ましさを7点満点で相対的に評価した。結果は、専門パネル9名の平均点とした。結果を表3、4に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
表3および表4から以下のことが分かる。
(1)コントロール2は、コントロール1のめんつゆに比べ塩分が約30重量%カットされている。これにより、コントロール1と比べ全体の風味減が顕著で、特に塩味とトップインパクトの評価が低かった。
【0090】
(2)評価比較例1は、本発明の塩味増強剤が添加されていないが、昆布エキスが加えられたため、コントロール2よりは塩味等の増強効果は感じられた。しかし、おいしさやトップインパクトの評価は抑えられた。
(3)評価比較例2は、本発明の塩味増強剤が添加されていないが、昆布エキスとして酵素処理された昆布エキスが用いられたことにより、評価比較例1よりもやや味が強くおいしさの評価が高くなった。しかし、評価比較例1と比べて、その他のスコアについては大きな違いは出なかった。
【0091】
(4)評価実施例1においては、本発明の塩味増強剤である昆布由来の香気成分の全てが含まれた昆布エキスが用いられている。これにより、評価比較例1に比べトータル風味とトップインパクトが大きく高まり、それにともない塩味等でも増強が見られた。風味的には昆布特有の磯臭さがやや感じられた。
(5)評価実施例2は、評価実施例1より全体に点数が高くなった。
(6)評価実施例3においては、評価実施例2よりトップインパクトが高まる一方で磯臭さが抑えられ、塩味・おいしさでもスコアの上昇がみられた。
(7)評価実施例4では、評価実施例3の効果がさらに大きくなった。
(8)評価実施例6においては、やや磯臭さはあるものの塩味を感じさせる風味とトップインパクトで評価比較例1よりもスコアが高くなった。
(9)評価実施例7では、評価実施例6よりも磯臭さがはるかに弱くトップインパクトが強くなり、塩味とおいしさの評価がかなり高くなった。
【0092】
(10)評価比較例5においては、評価比較例1と比べ塩味とトータル風味はかなり強く感じたが同時にエグ味も強く感じ、おいしさの評価はあまり変わらなかった。
(11)評価実施例5においては、評価比較例5で感じられたエグ味が弱まり、全体の風味とトップインパクトが大きく強まることで塩味・おいしさの評価が高くなった。
【0093】
(12)評価比較例6においては、コントロール2よりやや風味が強いが、塩味やトップインパクト増強効果が少なく、磯臭さが感じられ、好ましくなかった。
(13)評価比較例7においては、評価比較例6と同様だが、磯臭さがより強く感じられ、好ましくなかった。
(14)評価比較例8においては、磯臭さのみが強く、塩味やトップインパクト増強効果が全く感じられない。
【0094】
<官能評価2 ポテトチップス>
実施例5で得られた昆布エキスE 8重量部にデキストリン(松谷化学社製、パインデックスNO.100)92重量部を混合した後、噴霧乾燥し、塩味増強効果を有する昆布エキスのパウダーを得た。この昆布エキスパウダー0.3重量%を塩分1.0重量%に調整された市販のポテトチップスに加えた。
比較として、市販のポテトチップスに、本発明の昆布エキスパウダーの代わりに、上記デキストリンを0.3重量%加えたものを作成した。
【0095】
本発明の昆布エキスのパウダーを使用したポテトチップスは、比較品に比べ、有意な塩味増強効果がみられた。
【0096】
<官能評価3 カップめん>
実施例5で得られた留液L 50重量部とサラダ油50重量部を、回転羽付きの密閉容器中にて40℃で1時間攪拌し、一晩室温にて放置した後、油相部をとりだし、油相部のみに硫酸ナトリウムを用いて残留水分を除去し、昆布風味オイルを得た。市販のカップラーメンの喫食時に、この昆布風味オイル0.1重量%を加えたものと、昆布風味オイルの代わりに上記サラダ油を0.1重量%加えたものを比較した。
【0097】
本発明の塩味増強剤を使用した昆布風味オイルは、比較品に比べ、有意な塩味増強効果がみられた。
【0098】
試験例4(塩分分析)
実施例1、2、4、5および比較例1、2で得られた昆布エキスA〜Fのナトリウム含量を、原子吸光光度法(フレーム法)にて測定した。その結果、全て約170mg/100gであった。
【0099】
実施例6
水500gと乾燥日高昆布(マルハチ村松社)50g、およびプロテアーゼ0.5g(天野エンザイム(株)「プロテアーゼA「アマノ」G」)、セルラーゼ0.3g(エイチビィアイ(株)「セルロシンAC40」)、グルタミナーゼ0.2g(天野エンザイム(株)「グルタミナーゼダイワSD−C100S」)を密閉された加熱釜に投入して攪拌しながら加熱し、40℃で16時間保持し、酵素処理を行った。その後室温まで冷却した後、ジエチルエーテル500gを加え攪拌混合し、ろ過して水−ジエチルエーテル混合液を得た。当該混合液を密閉容器中室温で2時間静置し水部とジエチルエーテル部に分離し、ジエチルエーテル部のみを分液収集した。得られたジエチルエーテル部にさらに500gのジエチルエーテルを加え、同様の分液作業を実施し水部が除去されたジエチルエーテル溶液を得た。当該溶液を減圧下に供しジエチルエーテルを除去し、高濃度の昆布有機溶媒抽出物A約3mgを得た。
【0100】
実施例7
実施例6と同様にして得られた高濃度の昆布有機溶媒抽出物A約3mgをさらに多段式蒸留器にて減圧下で処理し、最初に得られた約0.8mgの揮発性成分を昆布有機溶媒抽出物B(本発明の塩味増強剤)とした。
【0101】
実施例8
実施例6および7で得られた昆布有機溶媒抽出物A,Bをそれぞれ水で薄めて150gとし、試験例3の官能評価1の評価実施例6と同様の処方でめんつゆを作製し、同様に官能評価を行った。その結果、昆布有機溶媒抽出物Aを使用しためんつゆは評価実施例6と同等の高い塩味増強効果が見られた。また、昆布有機溶媒抽出物Bを使用しためんつゆについては、評価実施例7と同等の高い塩味増強効果が見られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有することを特徴とする塩味増強剤。
【請求項2】
前記昆布が酵素処理された昆布であることを特徴とする請求項1記載の塩味増強剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の塩味増強剤において、昆布由来の分子量200以上の揮発性成分が原料昆布の揮発性成分の分子量200以上の成分量に対し60重量%未満であることを特徴とする塩味増強剤。
【請求項4】
昆布を蒸留することにより、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有する請求項1記載の塩味増強剤を得ることを特徴とする塩味増強剤の製造方法。
【請求項5】
昆布を蒸留することにより、昆布由来の分子量200以上の揮発性成分が原料昆布の揮発性成分の分子量200以上の成分量に対し60重量%未満含有する、昆布由来の分子量200未満の揮発性成分を含有する請求項3記載の塩味増強剤を得ることを特徴とする塩味増強剤の製造方法。
【請求項6】
原料昆布の重量に対して、蒸留開始から20ppm以下までの揮発性成分を捕集することを特徴とする請求項5記載の塩味増強剤の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の塩味増強剤の製造方法において、昆布に酵素を作用させた後に蒸留することを特徴とする塩味増強剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の塩味増強剤と、昆布の不揮発性成分を含有する抽出液との混合物からなることを特徴とする昆布エキス。
【請求項9】
前記抽出液が、昆布を蒸留して揮発性成分を除去した後に得られる昆布の不揮発性成分を含有する抽出液であることを特徴とする請求項8記載の昆布エキス。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の塩味増強剤を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項11】
請求項8または9に記載の昆布エキスを含有することを特徴とする飲食品。



【公開番号】特開2011−229524(P2011−229524A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82883(P2011−82883)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】