説明

塩素化オリゴゲルマンとその製造方法

本発明は、純粋化合物としての、または複合混合物としての塩素化オリゴゲルマン、及びこれらを製造する方法に関する。純粋化合物としての、または複合混合物としての塩素化オリゴゲルマンは、各々少なくとも1つのGe−Ge直接結合を有しており、これの置換基としては、塩素、または塩素と水素とを含み、この組成において、置換基とゲルマニウムとの原子比は少なくとも1:1である。混合物は平均してGe:Cl比が1:2〜1:3であり、純粋化合物でのGe:Cl比は、1:2〜1:2.67、好ましくは1:2.2〜1:2.5である。混合物はゲルマニウム原子の平均数が2〜10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化オリゴゲルマン、およびゲルマニウム:塩素のモル比が1:2〜1:3である塩素化オリゴゲルマン混合物、およびこのような塩素化オリゴゲルマンおよび塩素化オリゴゲルマン混合物の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
塩素化オリゴゲルマンは、より詳しくは、トリクロロゲルマン(HGeCl3)を加熱することにより得られる(非特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、プラズマ化学法に基づいてハロゲルマンからハロゲン化ポリゲルマンを製造するための方法と装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第08/110386号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Holleman Wiberg, Lehrbuch der Anorganischen Chemie, Walter De Gruyter Verlag, 102nd edition, p. 1013
【非特許文献2】C.E. Rick, T.D. McKinley, J.N. Tully, PB No.96945 [1944] 1/10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記文献に記載されたヘキサクロロジゲルマンを別にすると、ハロゲン化オリゴゲルマンは知られていない。
【0007】
最後に、クロロポリゲルマンと塩素ガスとの反応が記載されており、該クロロポリゲルマンは分解されて混じりけのないGeCl4となる。
【0008】
本発明の目的は、塩素化オリゴゲルマン、および塩素化オリゴゲルマン混合物とともに、これらを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本目的は、独立請求項に拠り、純粋化合物として、または複合混合物としての塩素化オリゴゲルマンにより、且つこれらの製造方法によって達成できる。従属請求項、詳細説明および実施例は好適な態様と洗練された例を示す。
【0010】
(純粋化合物としての)本発明の塩素化オリゴゲルマンおよび本発明に拠るそのような塩素化オリゴゲルマンの混合物は、置換基として、塩素、または塩素と水素が含まれているところの少なくとも一つのゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有しているか、あるいは、置換基が、塩素、または塩素と水素のであるところの少なくとも一つのゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有している。これらの中において置換基:ゲルマニウムの原子比(ここでの置換基はより好ましくは塩素と水素である)は少なくとも2:1である。純粋化合物としての塩素化オリゴゲルマンにおいてゲルマニウム:塩素の比は、1:2〜1:2.67である。さらに塩素化オリゴゲルマンの混合物はゲルマニウム:塩素の比が、1:1〜1:3であり、より好ましくは1:2〜1:3であり、かつまた1分子中のゲルマニウム原子の平均数は2以上8以下である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(純粋化合物としての)本発明の塩素化オリゴゲルマンおよび本発明に拠るそのような塩素化オリゴゲルマンの混合物は、置換基として、塩素、または塩素と水素が含まれているところの少なくとも一つのゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有しているか、あるいは、置換基が、塩素、または塩素と水素のであるところの少なくとも一つのゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有している。これらの中において置換基:ゲルマニウムの原子比(ここでの置換基はより好ましくは塩素と水素である)は少なくとも2:1である。純粋化合物としての塩素化オリゴゲルマンにおいてゲルマニウム:塩素の比は1:2〜1:2.67である。さらに塩素化オリゴゲルマンの混合物はゲルマニウム:塩素の比が、1:1〜1:3であり、より好ましくは1:2〜1:3であり、かつまた1分子中のゲルマニウム原子の平均数は2以上8以下である。
【0012】
本発明に拠るところの塩素化オリゴゲルマンの混合物は、より明確には、その内に存在する化合物の一部のみが上記置換基に少なくとも1つのゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有していることを要するものと意味するのであると理解されたい。一般的な場合としては、ゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有した少なくとも2つの化合物が、多くの場合3つ以上の化合物が、当該混合物に存在している。さらに一般的な場合において、テトラクロロゲルマンを含んでいるかいないかに関わらず、このような混合物の中において上記定義のゲルマニウム−ゲルマニウム直接結合を有した化合物がもっぱら該当する。
【0013】
本発明の理解において、塩素化オリゴゲルマンは好ましくは、nが8以下であるところの GenX2n+2で表される化合物であるか、nの平均値が8以下である塩素化オリゴゲルマンの混合物であり、ここにXは好ましくは塩素または塩素と水素である。各々の場合において、個々の塩素原子は臭素原子により置換されてもよい。しかしながら、おおかたの場合では臭素はない。従って本発明に関わる塩素化ポリゲルマンは、より好ましくは、n>8であるGenX2n+2で表される化合物である。
【0014】
純粋化合物の塩素含量、あるいは混合物の平均塩素含量は、サンプルを完全に分解した後にモール法によって塩化物を滴定することによって測定される。
【0015】
水素含量は、内部基準を用いた1H NMRスペクトラムの積分、及び既知の混合比について得られた積分(integrals)を比較することによって測定される。
【0016】
本発明に関わる塩素化オリゴゲルマンのモル質量および同混合物の平均モル質量は、凝固点降下法によって測定される。
【0017】
塩素:ゲルマニウム比および1分子あたりのゲルマニウム原子の平均数を直接測定するために、塩素含量、モル質量、及び該当する場合は水素含量という上記パラメータを用いることができる。
【0018】
本発明の塩素化オリゴゲルマンは、一実施形態においては、塩素化ポリゲルマンを塩素化することによって得ることができる。このようにして得られた塩素化ポリゲルマンは一般的に高い速度論的安定性を有しており、特にかかるオリゴクロロゲルマンのさらなる塩素化に対してそうである。これは、かかる塩素化ポリゲルマン混合物の中のもっとも反応性に富む分子がすでに反応し終えているからである。
【0019】
よって、塩素化オリゴゲルマンは塩素化ゲルマンが酸化環境においてさらに処理されるような用途に特に適している。例としては、塩素化オリゴゲルマンの積層を、例えば塩素ガスを含む酸化雰囲気において基板に張り合わせるような場合である。
【0020】
また、ある実施形態においては、本発明のオリゴゲルマンは酸化剤を用いて塩素化ポリゲルマン(PCGs)を分解することにより得られる。これにおいて、塩素および/またはHClは酸化剤として特に有用であり、この場合、過剰分の酸化剤が存在するか、あるいは酸化剤が常に低濃度にのみ存在するように分解が行われる。
【0021】
出発物質として使われる塩素化ポリゲルマンは、好ましくは非特許文献1、2によると加熱工程を経て得ることができる。実際に、トリクロロゲルマン(HGeCl3)が約75℃にて蒸留され、その過程でGeCl2とHClに分解する。
【0022】
プラズマ化学法によって得られた塩素化ポリゲルマンを代用の出発物質に、または追加出発物質として使用することも可能である。より好ましくは、特許文献1に記載された塩素化ポリゲルマンを使用する。ここで上記特許文献1において記載された製造方法について、その記載内容をあまねく本明細書に編入する。しかしながら、一般的には塩素化ポリゲルマンはまた塩素化ポリシランと同様にプラズマ化学法によって製造することが可能である。これについての製造方法は、例えば国際公開第2006/125425号および国際公開第2009/143823号に記載されている。そこで用いられているハロゲン化シリコンに変えて、これに対応するゲルマニウム化合物を出発物質として用いるのであるが、具体的なプラズマ化学法は実質的に対応するシランに適用されるものと同様であり、違いといえば照射の電力密度が対応するシランの場合に比べて低くなければならないことである。より具体的には、電力密度は、上記の二つの刊行物に記載されている値(ワット/cm3)の約50〜67%であるべきである。本発明のさらなる詳細事項、および得られるポリマーの製造方法、構造、および分光分析パラメータについては、国際公開第2006/125425号および国際公開第2009/143823号をここにあまねく編入する。
【0023】
さらに別の実施形態においては、本発明に準じたオリゴゲルマンの混合物の不活性溶媒における溶解度が、混合物の少なくとも1つ、一般的には2つ以上の混合物構成成分に比べて、これらの各々の構成成分が3つより多くのゲルマニウム原子を有している場合、高くなる。各々の構成成分とは、より好ましくは、混合物において1wt%以上の割合で存在しているすべての成分を指す。各々の構成成分はさらに特定的にいうと、それぞれが過塩素化された成分、n−テトラゲルマン、イソテトラゲルマン、n−ペンタゲルマン、イソペンタゲルマン、および/またはネオペンタゲルマンを含む。オリゴゲルマンの混合物の溶解度は、これら成分の少なくとも1つに比べて高く、通例上記成分の3つまたはそれ以上のに比べても高く、しばしば列記した成分のいずれよりも高い。
【0024】
以下に述べる不活性溶媒とは、より好ましくは非求核アプロチック溶媒であり、具体的にはトルエン、ベンゼン、シクロヘキサンが好ましい溶媒として例示される。本発明の上記オリゴゲルマンの混合物は、3つより多いゲルマン原子を含んだ個々の成分よりも、少なくとも上記好ましい溶媒の1つあるいはそれ以上のものに対して、高い溶解度を有していることが好ましい。
【0025】
本明細書において、不活性溶媒に対してより高いあるいはより大きな溶解度という記載は、室温において飽和状態が達成されるまでに特定の溶媒がより多量の化合物あるいは化合物の混合物を溶解し、且つ用いられた量の5wt%を越えるものが固形物として残存していないことを示すと理解されたい。ここで表記量は、例えばモル量ではなく、個々の化合物あるいは混合物として溶解されたオリゴゲルマン/ポリゲルマンのグラム数である。
【0026】
本発明者らは、オリゴゲルマンの混合物は、種々の構成成分が互いに溶解補助剤として作用するように見えるので、特に大きな溶解度を有していることを知った。よって、本発明のオリゴゲルマン混合物はまた、より高い速度論的安定性を有することが好適であるという理由だけでなく、一般的に溶液中で処理をするときにより多めの溶媒が特定の更なる使用目的のためにも必要となるという理由で、純粋な個々の化合物よりも優れている。
【0027】
さらに別個の実施形態において、本発明の塩素化オリゴゲルマン混合物は、非特許文献1、2に記載された先行技術によるところの熱的に生成された塩素化ポリゲルマンよりも不活性溶媒に対して高い溶解度を有している。
【0028】
この事実はまたトルエン、ベンゼン、およびシクロヘキサンといった不活性溶媒に対してより顕著である。それというのも、本発明の塩素化オリゴゲルマンは少なくともこれらの溶媒の1つに対してより大きな溶解度を有しており、通例はこれらの2つあるいはすべてに対してもそうだからである。
【0029】
本発明者は、本発明の塩素化オリゴゲルマンにおいて、溶解補助剤としてより顕著な働きをするのは短鎖成分であるということを知った。
【0030】
本発明の塩素化オリゴゲルマン混合物の特に注目すべき部分(fraction)は、四塩化ゲルマニウム、Ge2Cl6、およびGe3Cl8が実質的に残存していない部分である。この部分は本発明の塩素化オリゴゲルマンの生成されたままの混合物から分留することにより分離することができ、これを以下「3つより多いゲルマニウム原子を有する化合物の部分」と呼ぶこととする。四塩化ゲルマニウム、Ge2Cl6、およびGe3Cl8の除去は、例えば0.001〜0.1hPa(すなわち、例えば油ポンプ真空下)および室温での蒸留によって3つより多いゲルマニウム原子を有する化合物の部分を分離除去することによって達成できる。
【0031】
3つより多いゲルマニウム原子を有する化合物の部分は、すでに述べたように、蒸留によって得ることが可能であり、あるいは結晶化によっても可能であり、ゆえに四塩化ゲルマニウム、ヘキサクロロジゲルマンおよびオクタクロロトリゲルマンの残分を実質的に有していない。ここで「実質的に」とは、上記された化合物が10wt%を越えないだけの量で存在しており、これら3つの化合物の割合は典型的には5wt%未満であり、通例は2wt%未満である、ということを意味している。これらの化合物の残留レベルの具体的測定を行うために、超高真空蒸留を用いてもよい。
【0032】
3つより多いゲルマニウム原子を有する化合物の部分は一般的に(IRやラマン分光器を用いるとわかることであるが)分岐度が高く、それに相応して速度論的安定性がよい。本発明に関わる分岐は、さらに3つのゲルマニウム原子に連なるボンドを有したゲルマニウム原子(すなわちこれらは第3級ゲルマニウム原子である)において、及びさらに4つのさらなるゲルマニウム原子に連なるボンドを有したゲルマニウム原子(すなわちこれらは第4級ゲルマニウム原子である)において生じる。このような分岐塩素化オリゴゲルマンのうちで塩素含量が低いものやゲルマニウム含量が高いものが、GeCl4, Ge2Cl6やGe3Cl8に比べてより好まれる用途がいくつかあり(例えば、ゲルマニウム層の堆積)、その理由は前者が後者に比して高い反応性を有するからである。
【0033】
上記部分における分岐の割合が高くなるのは、第3級または第4級ゲルマニウム原子に連なる結合が酸化剤に対して分解しにくく、従って、塩素化によって分子の大きさが連続的に小さくなっても、元来の分岐状態が保持されるからであると確信している。
【0034】
一つの実施形態において、3つより多いゲルマニウム原子を有する化合物の部分は8atom%を越え、より好ましくは分岐部位の11atom%を越える。すなわち、当該混合物におけるゲルマニウム原子の少なくとも8%、そしてより好ましくは11%を越えるものが第3級または第4級ゲルマニウム原子である。ここで分岐の度合いは、第3級あるいは第4級のゲルマニウム原子に関わるゲルマニウム−ゲルマニウム間結合の振動の有意な帯域からのラマンスペクトルによって測定することができる。
【0035】
また別の実施形態において、3つより多いゲルマニウム原子を有する化合物の部分中の過塩素化ネオペンタゲルマンは少なくとも10atom%、より好ましくは18atom%を越える、更に好ましくは25atom%を越える割合を有している。ネオペンタゲルマンの高度の対称構造と、これに付随する取得シグナルの比較的小さな半値全幅値の故に、この化合物の割合は73Ge NMRにおける第4級ゲルマニウム原子のためのシグナルを介して定量化できる。当該含有量は既知量(例えば、1アンプルのテトラメチルゲルマニウム)の既知の内部標準試料に照らし合わせて積分して定量できる。
【0036】
更に別の実施形態において、3つより多いゲルマニウム原子を有する塩素化オリゴゲルマン混合物の部分は、ゲルマニウム:塩素比が1:2.2〜1:2.5であり、より好ましくは1:2.25〜1:2.4である。
【0037】
更に別個の実施形態においては、適切に選択された塩素化の条件により、工程B以降のGe2Cl6の含量が特段に高いオリゴクロロゲルマンが得られる。そのときGe2Cl6の含量は少なくとも70wt%であってもよく、好ましくは85wt%より多く、より好ましくは95wt%より多くてもよい。塩素化剤としてHClが用いられるときには、Ge2Cl5Hが有効含量だけ存在することも可能となる。
【0038】
別の実施形態において、塩素化オリゴゲルマンの本混合物は1分子あたりの平均ゲルマニウム原子数が3〜8の範囲にある。
【0039】
また別の実施形態では、塩素化オリゴゲルマンあるいはその混合物は水素含量が2atom%未満、より好ましくは1atom%未満である。多くの場合、塩素化オリゴゲルマン(混合物)の水素含量は多くても塩素化オリゴゲルマンが通例の純粋物質として通る範囲にとどまる。塩素化オリゴゲルマンにおける水素置換基はHClによる酸化によってもたらされることが好ましいが、予め出発物質においてすでに存在しているのもよい。それは塩素化ポリゲルマンはそれ自体の製法において水素置換基を得ることも可能だからである。
【0040】
ここで言及するすべての化合物について言えることであるが、これらは通例純粋というにふさわしい程度のものである。すなわち、特定の種類の原子を構成要素とする化合物の純度、あるいはそのような化合物の2つあるいはそれ以上を含む混合物(GeCl4も含んでよい)の純度は少なくとも99.5%であり、多くの場合、少なくとも99.95%であり、不純物の割合はより好ましくは10ppm未満である(ここでは%は常に重量%のことである)。個々の場合において、塩素原子群の一部は臭素置換基によって置換されていてもよい。このような置換基は上記の意味での不純物に該当しない。
【0041】
さらなる一実施形態においては、本発明の塩素化オリゴゲルマンは、それが個別の化合物としてみなされる場合、水素を(例えばGe11Cl23Hの形で)2atom%より多く、より好ましくは2.8atom%より多く含んでおり、更に好ましくは、(例えばGe5Cl11Hの形で)6atom%より多く含んでいる。Si2Cl5HでさえHClとの反応により作ることが可能であり、これを蒸留により純粋物質とすることも可能である。
【0042】
ここでいう水素含量は、上述したように、1H NMR分光器で測定することができる。これにおいて観察されるシグナルは、7.2〜3.5ppmの化学シフト範囲にあるものであり、より好ましくは5〜3.8ppmの範囲にあり、混合物の場合、当該シグナルは非常に大きな半値全幅値を有するようなものであることが可能である。
【0043】
更なる実施形態において、塩素化オリゴゲルマンおよびその混合物は、ラマン・スペクトルにおいて、600波数より低いところで、好ましくは500〜370波数で、さらに好ましくは320波数未満の域において有意な波数域を有している。これは、有意な波数域とは、概してその強度が、ラマン・スペクトルにおける最大強度の10%より大きい波数域をいう。
【0044】
塩素化オリゴゲルマンの混合物は、好ましくは無色ないし微かな黄色であるか、象牙白色である。当該混合物はより好ましくは、流動性液体あるいは少なくとも一部が結晶質の物質として得られる。当該塩素化オリゴゲルマンが流動性液体である場合、室温におけるその液体層(proportion)の粘度は1000 mPa sより低く、好ましくは400 mPa sより低い。結晶度は粉末X線回折測定法を用いて測定することができる。これは、結晶性化合物は、液体や粘性化合物の場合には生じえない有意シグナルを発生するからである。
【0045】
また更なる実施形態において、塩素化オリゴゲルマン、または塩素化オリゴゲルマンの混合物は、すでに示したように不活性溶媒に容易に溶解することができる。ここで容易に溶解するとは、少なくとも10wt%の濃度を溶液に与えうることをいう。好ましくは、本発明の塩素化オリゴゲルマンおよび本発明の塩素化オリゴゲルマン混合物は、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサンの3つの溶媒のうち少なくとも1つに対して本実施形態の当該溶解特性を有しており、多くの場合、これらすべての溶媒に対してそうである。本発明の理解において、容易に溶解することができることの塩素化オリゴゲルマン混合物の場合の意味は、投入量の5wt%を越えないものが不溶解残部として残ることを意味する(すなわち、溶解された塩素化オリゴゲルマンが10wt%の溶液の場合、多くとも0.5wt%が不溶解固形物として残留することを意味する)。しかしながら、しばしば塩素化オリゴゲルマン混合物は完全溶解する。
【0046】
更なる実施形態において、上記溶解可能部分の少なくとも20wt%は、低圧にて、特に0.01〜1hPaの圧力範囲で、分解することなく蒸留することができる。この条件は4つ以下のゲルマニウム原子を有した化合物によってより好適に満たされる。
【0047】
本発明は更に、上記実施形態のいずれの塩素化オリゴゲルマンまたはオリゴゲルマン混合物をも製造するための方法を提供するものである。当該方法は以下の工程を含んでいる。
A)塩素化ポリゲルマンを準備する工程。
B)前記塩素化ポリゲルマンを塩素、塩素放出化合物、及び/又は塩素含有ガスによって塩素化する工程。
HClは好適な塩素含有ガスである。塩素はCl2の形でより有用である。非金属塩化物は好適で有用な塩素放出化合物である。特に好ましい塩素化剤として、Cl2又はHClを使うとよい。
【0048】
方法の工程Bは一般的に次の温度条件及び/又は圧力条件の影響を受け、ほとんどの場合は両方の影響を受ける。よって好ましくは、方法の工程Bにおける温度が、−60〜200℃の範囲にあり、より好ましくは−30〜40℃の範囲にあり、例えば−10〜25℃である。圧力は、好ましくは200〜2000hPaの範囲にあり、例えば800〜1500hPaの範囲にある。
【0049】
発明者は上記の圧力及び温度のパラメータが特に良い結果をもたらすことを確認した。
【0050】
本発明に拠るところの一つの実施形態において、方法の工程Bによる塩素化のあとで1分子中に少なくとも4つのゲルマニウム原子を有したゲルマンから比較的蒸発しやすい塩素化ゲルマンを分別蒸留することによって分離がなされる。よってGeCl4, Ge2Cl6 や Ge3Cl8が分別蒸留によって分離除去されることが好適になされる。この分別蒸留は、例えば10-1〜10-2hPaの圧力下で、温度が140℃以下、好ましくは100℃以下、しばしば室温にて行われる。
【0051】
本発明に拠るところの更なる実施形態においては、工程Aにおいて投入された塩素化ポリゲルマンは工程Bの前に希釈されるが、好適にはGeCl4、Ge2Cl6 及び/又は Ge3Cl8を希釈液(以下、溶媒ともいう)として用いることができる。このような希釈は工程Bにおける塩素化をより効果的なものとする。上述したように、これら希釈液はその後の蒸留により除かれうるが、選択的に蒸留により除かれた希釈剤は、再生(すなわちリサイクル)して新たな希釈液として再利用することができる。
【0052】
更なる実施形態において、本発明に拠るところの方法は、工程Bにおいて、過剰量の塩素化剤、より好ましくは過剰量のHClが投じられることで実施される。本発明においてそのような過剰量は、未反応のHClが反応混合物において常に存在しているとき、例えばHClによってその溶液が飽和されているときに存在する。この目的で、工程Bにおいて、追加の塩素化剤を継続して補給することもできる、しかしながら、一般的には、飽和HCl溶液を用いることはない。
【0053】
他の塩素化剤が用いられる場合、(とはいえ選択的にはHClの場合もそうであるが)、しばしば塩素化剤のモル不足が生じ、そうして更なる適量の塩素化剤が補給される(常時モル不足が続く)。特に、Cl2が塩素化剤として用いられる場合、Cl2はしばしばこのような方法で用いられ、クロロポリゲルマンに対してのモル不足を補う。クロロポリゲルマンとの反応は、塩素の追加の割合によって適宜制御することが可能であり、以ってGeCl4の生成を抑えることが試みられる。
【0054】
生成物混合物におけるGe2Cl6の割合を特に高いものとするためには、上述したように常にモル不足状態にあるCl2を用いた塩素化反応を特に長い時間かけて行うことができる。顕著な量のGe2Cl5Hが生じたなら、塩素化剤としてCl2 に替えてHCl(あるいは水素を含まない他の塩素化剤)を用いねばならない。もしGe2Cl6の割合を特に低いものとしたいなら、反応温度を低めにし、Cl2の投入は特に注意深く行われねばならない。加えて、投入される塩素の総モル量は適切に調節されるべきであり、例えば、用いられるクロロポリゲルマンの既知の塩素:ゲルマニウム比に関連付けて、生成物としてのクロロオリゴゲルマン混合物が自動的に所望の塩素:ゲルマニウム比を有することとなるよう、塩素投入量を選ぶ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純粋化合物又は複合混合物としての塩素化オリゴゲルマンであって、
前記純粋化合物と前記複合混合物とは、
少なくとも1つのGe−Ge直接結合と、
塩素または塩素と水素とを含む置換基とを有し、
前記置換基とゲルマニウムとの原子比が少なくとも2:1であり、
a)前記複合混合物は平均してGe:Cl比が1:1〜1:3、好ましくは1:2〜1:3であり、前記純粋化合物はGe:Cl比が1:2〜1:2.67, 好ましくは 1:2.2〜1:2.5であり、
b)前記複合混合物はゲルマニウム原子の平均数が2〜8である
ことを特徴とする純粋化合物又は複合混合物としての塩素化オリゴゲルマン。
【請求項2】
塩素及び/又はHClを含む酸化剤を用いて塩素化ポリゲルマンを分解することにより得られることを特徴とする請求項1記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項3】
骨格構造中に3つより多いゲルマニウム原子を有する生成物部分(product fraction)では、オリゴゲルマン分子中で分岐部位の割合が8%より多く、好ましくは11%より多いことを特徴とする請求項1に記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項4】
3つより多いゲルマニウム原子を有するそれぞれの不活性溶媒の成分よりも、好ましくはトルエン、ベンゼン、及びシクロヘキサンのうち1つ以上の不活性溶媒に対して高い溶解度を有し、より好ましくはそれぞれ過塩素化された、n−テトラゲルマン、イソテトラゲルマン、n−ペンタゲルマン、イソペンタゲルマン、及び/又はネオペンタゲルマンよりも高い溶解度を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項5】
好ましくはトルエン、ベンゼン、及びシクロヘキサンのうちの1つ以上の不活性溶媒が、先行技術に拠って熱的に生成された塩素化ポリゲルマンよりも高い溶解度を有していることを特徴とする請求項4に記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項6】
3つより多いゲルマニウム原子を有している前記生成物部分は、ネオ−Ge5Cl12を少なくとも10%、好ましくは18%より多く、より好ましくは25%より多く有していることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項7】
3つより多いゲルマニウム原子を有している前記生成物部分におけるGe:Cl比は、1:2.2〜1:2.5であり、好ましくは1:2.25〜1:2.4であることを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項8】
1分子当たりのゲルマニウム原子の平均数は3〜8であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項9】
Ge2Cl6の割合が、少なくとも70wt%であり、好ましくは85wt%より多く、更に好ましくは95wt%より多いことを特徴とする請求項3乃至8のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマンの混合物。
【請求項10】
水素含有量が、2atom%未満であり、好ましくは1atom%未満であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項11】
水素含有量が、2atom%より多く、好ましくは6atom%より多く、より好ましくは10atom%より多いことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項12】
1H NMRスペクトルが、7.2〜3.5ppm、好ましくは5〜3.8ppmの化学シフト範囲にシグナルを有していることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項13】
ラマン・スペクトルが、600波数未満、好ましくは500〜370波数の間及び320波数未満において有意の波数域を有していることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項14】
前記ラマン・スペクトルは、270〜340波数において少なくとも3つの有意の波数域、550〜640波数において少なくとも2つの有意の波数域を有していることを特徴とする請求項13に記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項15】
室温で流動性の液体及び/又は少なくとも部分的に固体であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項16】
10wt%の濃度が、ベンゼン、トルエン、及びシクロヘキサンの少なくとも1つに可溶であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項17】
溶解可能部分が、減圧下で、好ましくは0.01〜1hPaで、20%の非分解率で蒸留することができることを特徴とする請求項1乃至16に記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項18】
熱的に生成された塩素化ポリゲルマンから得られることを特徴とする請求項1、及び3乃至17のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項19】
プラズマ化学法に基づいて生成された塩素化ポリゲルマンから得られることを特徴とする請求項1、及び3乃至17のいずれかに記載の塩素化オリゴゲルマン。
【請求項20】
A)塩素化ポリゲルマンを準備する工程と、
B)塩素、塩素放出化合物、及び/又は塩素含有ガスによって前記塩素化ポリゲルマンを塩素化する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載のハロゲン化オリゴゲルマンの製造方法。
【請求項21】
前記工程Bにおける反応の間の温度が、−60〜200℃の範囲にあり、好ましくは−30〜40℃の範囲にあり、より好ましくは−10〜25℃の範囲にあることを特徴とする請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
前記工程Bにおける圧力が、200〜2000hPaであり、好ましくは800〜1500hPaであることを特徴とする請求項20または21に記載の製造方法。
【請求項23】
前記工程Bにおける塩素化は、Cl2及び/又はHClを用いて成されることを特徴とする請求項20乃至22のいずれかに記載の製造方法。
【請求項24】
前記工程Bの後に、1分子中に3つ以下のゲルマニウム原子を有する塩素化された単一のオリゴゲルマン及び複数のオリゴゲルマンを分別蒸留し、実質的に完全に抽出することを特徴とする請求項20乃至23のいずれかに記載の製造方法。
【請求項25】
Ge2Cl6が純粋生成物として得られることを特徴とする請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記準備される塩素化ポリゲルマンは、前記工程Bの前に希釈され、好ましくはその希釈剤としてGeCl4、Ge2Cl6、及び/又はGe3Cl8が用いられることを特徴とする請求項20乃至25のいずれかに記載の製造方法。

【公表番号】特表2013−512842(P2013−512842A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541535(P2012−541535)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068986
【国際公開番号】WO2011/067413
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(510313360)シュパウント プライベート ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ (14)
【氏名又は名称原語表記】Spawnt Private S.a.r.l
【住所又は居所原語表記】16, Rue Jean l’Aveugle, 1148 Luxembourg, Luxembourg