説明

増殖糖尿病網膜症の検出方法および予防・治療剤のスクリーニング方法

【課題】マーカーを利用した増殖糖尿病網膜症の検出方法、および増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法が求められていた。
【解決手段】被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベル、ペリオスチンタンパク質の発現またはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の検出方法、およびペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増殖糖尿病網膜症の検出方法および予防・治療剤のスクリーニング方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の生活様式の欧米化や高齢化社会の進展により、近年糖尿病患者は増加の一途をたどっている。それに伴い糖尿病三大合併症の一つである糖尿病網膜症の患者数も増加し、年間約3000人が失明している。今後も糖尿病網膜症の患者数は増加するといわれており、よりよい診断や治療法の確立が社会的急務である。
【0003】
糖尿病網膜症は大きく単純・増殖前・増殖糖尿病網膜症に分類される。増殖前網膜症に対しては網膜光凝固術の有効性が確立されてはいる。しかし、網膜光凝固術にもかかわらず病状が進行する例や、眼科受診時にすでに進行した増殖網膜症の段階で失明の危機に瀕していることもある。増殖糖尿病網膜症では網膜上に増殖組織を生じ、その収縮に伴う牽引性網膜剥離が失明の原因となる。増殖糖尿病網膜症患者の眼底写真を図1に示す。図1に示すように、増殖糖尿病網膜症患者では網膜前線維血管増殖組織による牽引性網膜剥離が認められる。現在のところ、増殖組織生成の分子機序は不明で、近年の安全な硝子体手術の進歩に伴い治療成績は向上してきているが、視機能を保持できない場合も少なくない。
【0004】
増殖糖尿病網膜症については、通常は糖尿病の既往と眼底検査で診断を確定するが、眼科初診で糖尿病が初めて明らかになる症例や、硝子体出血を合併しているなど非定型的な病像を呈することもあり、迅速かつ非侵襲的に増殖糖尿病網膜症を診断しうる診断方法が望まれる。現在、増殖糖尿病網膜症の非侵襲的診断法として、臨床上有用な血清マーカーは存在しない。
【0005】
以上の事より、眼科的診断をより確実にし、被検者にとって侵襲の少ない検査方法が提供されれば有用となる。
【0006】
ここで、ペリオスチン(骨芽細胞特異因子2)遺伝子の発現レベルの測定がアレルギー性疾患の検査方法として有用であること(特許文献1:WO2002/052006、非特許文献1:G. Takayama et al., J Allergy Clin Immunol, vol.118, 98−104, 2006)、また、特発性間質性肺炎の検査方法においてペリオスチンの発現レベルの測定が有用であること(特許文献2:WO2009/148184)などが知られている。しかしながら、ペリオスチン遺伝子の発現レベルおよびペリオスチンタンパク質量と増殖糖尿病網膜症との関係は明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2002/052006
【特許文献2】WO2009/148184
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】G. Takayama et al., J Allergy Clin Immunol, vol.118, 98−104, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の下、マーカーを利用した増殖糖尿病網膜症の検出方法、および増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法などが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、増殖糖尿病網膜症患者由来の生体試料においてペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が高いこと、ペリオスチンをマーカーとして利用することで増殖糖尿病網膜症を検出できること、また、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニングができること等の知見に基づき本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法、および増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法などを提供する。
【0011】
[1] 被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の検出方法。
[2] 測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、増殖糖尿病網膜症の発症の有無と関連付ける、上記[1]に記載の方法。
[3] (i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] (i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも高いときに、増殖糖尿病網膜症である、または増殖糖尿病網膜症であると疑われると判断することを含む、上記[3]に記載の方法。
[5] 生体試料が硝子体または血液である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養し、培養物中のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法。
[7] 測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、候補物質による増殖糖尿病網膜症の予防・治療効果と関連付ける、上記[6]に記載の方法。
[8] (i)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、上記[7]に記載の方法。
[9] (i)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも低いときに、候補物質を選択することを含む、上記[8]に記載の方法。
[10] 測定が免疫測定法によるものである、上記[1]〜[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11] (i)ペリオスチンを認識する抗体、(ii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプライマー、および(iii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する、増殖糖尿病網膜症の検出薬。
[12] (i)ペリオスチンを認識する抗体、(ii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプライマー、および(iii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する、増殖糖尿病網膜症の検出用キット。
[13] ペリオスチンを産生することができる細胞を含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、新規マーカーを利用した増殖糖尿病網膜症の検出方法を提供する。本発明の好ましい態様によれば、検出結果を、増殖糖尿病網膜症の確定診断の補助にできる等の利点がある。また。本発明は、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】増殖糖尿病網膜症患者の眼底写真である。
【図2】正常網膜、網膜上線維血管増殖組織におけるペリオスチンの組織染色の結果を示す写真である。(a)正常網膜、(b) 線維血管増殖組織。
【図3】各疾患群の硝子体ペリオスチン濃度と群間比較を示すグラフである。Kruskal−Wallis test: P< 0.001。Bonferroni correction after Mann−Whitney test:: * P < 0.001。
【図4】各疾患群の血清ペリオスチン濃度と群間比較を示すグラフである。Kruskal−Wallis test: P< 0.001。Bonferroni correction after Mann−Whitney test::* P < 0.01。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0015】
1.本発明の概要
本発明は、被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法であり、当該測定結果を指標として用い、増殖糖尿病網膜症と関連付けることを特徴とするものである。
本発明者らは、増殖糖尿病網膜症に関連する分子を探索すべく鋭意検討を重ねた。その結果、増殖糖尿病網膜症の患者由来の生体試料において、ペリオスチンレベルが高いことなどを見出した。
【0016】
具体的には、47000遺伝子のマイクロアレイ解析を行い、正常網膜と有意に発現レベルが上昇する遺伝子として、ペリオスチンを同定した。さらに、増殖糖尿病網膜症患者由来の網膜上線維血管増殖組織を用いて免疫化学組織染色法によりペリオスチンタンパク質の発現性を検討した。その結果、増殖糖尿病網膜症由来の網膜上線維血管増殖組織においてペリオスチンタンパク質が高濃度に染色されたことから、増殖糖尿病網膜症患者由来の網膜上線維血管増殖組織においてペリオスチン遺伝子の発現レベルおよびペリオスチンタンパク質量が高いことが分かった(図2(b))。一方、対照群として用いた正常網膜では、ペリオスチン遺伝子の発現レベルおよびペリオスチンタンパク質量が、増殖糖尿病網膜症患者由来の網膜と比較して低かった(図2(a))。
【0017】
次に、硝子体中や血中のペリオスチン濃度の測定が増殖糖尿病網膜症の検出に有用である可能性を考え、検討を行った。
増殖糖尿病網膜症患者群の硝子体中のペリオスチンタンパク質の濃度を測定した。その結果、増殖糖尿病網膜症(PDR)患者由来の硝子体において、ペリオスチンタンパク質濃度が高かった(図3)。一方、対照群として用いた特発性黄斑上膜(ERM)患者群および黄斑円孔(MH)患者群由来のそれぞれの硝子体では、硝子体中のペリオスチンタンパク質濃度が低く、増殖糖尿病網膜症患者由来の硝子体中のペリオスチンタンパク質濃度と比較して低く、有意な差が認められた(図3)。
【0018】
また、増殖糖尿病網膜症患者群よりそれぞれ採取した血液を用いて血清中のペリオスチンタンパク質の濃度を測定した。その結果、増殖糖尿病網膜症(PDR)患者由来の血液において、ペリオスチンタンパク質濃度が高かった(図4)。一方、対照群として用いた特発性黄斑上膜(ERM)患者群および黄斑円孔(MH)患者群由来のそれぞれの血液では、血清中のペリオスチンタンパク質濃度が低く、増殖糖尿病網膜症患者由来の血液中のペリオスチンタンパク質濃度と比較して明らかに低く、有意な差が認められた(図4)。
【0019】
以上のように、増殖糖尿病網膜症患者より採取した生体試料においては、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が高いことから、本発明者らは、ペリオスチン遺伝子またはペリオスチンタンパク質が、増殖糖尿病網膜症を検出するためのマーカーとして有用であることを見出した。
【0020】
また、本発明は、ペリオスチン(遺伝子(RNA)、タンパク質)を産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法も提供する。
【0021】
上記のようにペリオスチン遺伝子は、増殖糖尿病網膜症患者由来の組織で発現レベルが増加し、患者由来の組織中のペリオスチンタンパク質レベルを増大させるので、患者に投与することにより組織でのペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩、例えば、発現を阻害する化合物またはその塩(ペプチド、タンパク質、合成化合物、もしくは抗ペリオスチン抗体、またはそれらの塩など、更にはペリオスチン遺伝子(RNA)の活性を阻害させる、オリゴ核酸である、siRNA、その基となる、shRNAやshRNAを産生するベクター等)は、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として使用し得る。
【0022】
さらに、ペリオスチンタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩も、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として使用し得る。よって、本発明は、ペリオスチンタンパク質と候補物質を接触させて、ペリオスチンの活性の変化を検出することを含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0023】
2.ペリオスチン
ペリオスチン(periostin)は、骨芽細胞特異因子2とも呼ばれる、約90kDaのタンパク質である(OSF2;Horiuchi K,Amizuka N, Takeshita S,Takamatsu H, Katsuura M, Ozawa H, Toyama Y,Bonewald LF, Kudo A.;Identification and characterization of a novel protein, periostin, with restricted expression to periosteum and periodontal ligament and increased expression by transforming growth factor beta.J Bone Miner Res.1999 Jul;14(7):1239−49.)。ペリオスチンには、alternative splicingによるC末側の長さの違いで区別できるいくつかの転写物が存在することが知られている。ここで、配列番号1に、ヒトのペリオスチン遺伝子の全てのエクソンによる転写産物のDNA配列を示す(Accession No. D13666)。また、ヒトのペリオスチンのその他のsplicing variantのDNA配列の例を、配列番号3、5に示す(それぞれ、Accession Nos. AY918092、AY140646)。また、配列番号2、4、6に、それぞれ、配列番号1、3、5のポリヌクレオチドによってコードされるペリオスチンのアミノ酸配列を示す。
【0024】
本発明の好ましい態様では、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその配列から派生するvariant(例えば、配列番号2、4または6で表されるアミノ酸配列からなるペリオスチン)を含むペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定する。
【0025】
3.本発明の増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法
ペリオスチン遺伝子またはペリオスチンタンパク質量は、増殖糖尿病網膜症の患者由来の組織で発現が増加しているので、被験者由来の生体試料におけるペリオスチンは、増殖糖尿病網膜症を検出または診断するためのマーカーとして利用し得る。すなわち、本発明は、被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の検出方法を提供する。この場合、測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、増殖糖尿病網膜症と関連付けるのが好ましい。
【0026】
本発明の別のいくつかの態様によれば、例えば、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行う。さらに具体的には、ペリオスチンタンパク質量またはペリオスチンをコードするmRNA量を測定して比較する。
【0027】
発現レベルまたはタンパク質量の測定に用いる生体試料としては、例えば、被験者由来の網膜上線維血管増殖組織、硝子体、血液等を用いることができる。好ましくは、簡便性や非侵襲であるという観点から、被験者由来の血液等を用いることが推奨される。網膜上線維血管増殖組織、硝子体または血液等を採取する方法は、公知である。網膜上線維血管増殖組織や硝子体は、例えば、硝子体手術時に本来除去する試料を活用するにしても良い。対照試料は、例えば、増殖糖尿病網膜症を患っていない者由来の生体試料(例、網膜組織、硝子体、血液等)である。ここで、増殖糖尿病網膜症を患っていない者は、例えば、健常者である。本発明のいくつかの態様では、増殖糖尿病網膜症を患っていない者とは、健常者の他に、増殖糖尿病網膜症以外の病態に罹患した患者が含まれる。従って、特発性黄斑上膜患者、黄斑円孔患者などの増殖糖尿病網膜症以外の患者が含まれる。
【0028】
生体試料が網膜上線維血管増殖組織等である場合には、遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量の測定に利用するために、例えば、そのライセートを調製すること、またはmRNAを抽出することが好ましい。ライセートの調製およびmRNAの抽出は、公知の方法で行うことができ、例えば市販のキットを使用して行う。また、生体試料が、血液等の液状のもの、あるいは硝子体等のゲル状のものである場合には、例えば、緩衝液等で希釈して遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量の測定に利用するのが好ましい。
【0029】
生体試料中のペリオスチンタンパク質量の測定は、例えば、免疫測定法などにより行うことができる。免疫測定法としては、放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme−linked Immunosorbent assay (ELISA))、またはWestern blot法などが挙げられる。
【0030】
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S、または32Pを利用することができる。
【0031】
FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、またはTexas−Redなどの蛍光物質を利用することができる。
【0032】
免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等を用いることができる。
【0033】
酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等を用いることができる。
【0034】
さらに、抗体または抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0035】
生体試料中のmRNA量の測定は、公知の方法、例えば、プローブとしてペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション、あるいはプライマーとしてペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマーを用いるPCR法を用いて行うことができる。「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブ」および「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー」は、後述の「増殖糖尿病網膜症の検出薬または診断薬」の項で説明するものと同様である。
【0036】
また、免疫組織化学により、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定するようにしても良い。この場合、免疫組織化学によりペリオスチンまたはペリオスチンをコードするmRNAを可視化し、ペリオスチンタンパク質量またはmRNA量を比較する。生体試料としては、網膜上線維血管増殖組織などが挙げられる。免疫組織化学としては、具体的には、酵素標識抗体法、または蛍光抗体法などが挙げられる。酵素標識抗体法としては、例えば、直接法、間接法、アビジン・ビオチン化ペリオキシダーゼ複合体法(ABC法)、もしくはストレプトアビジン・ビオチン化抗体法(SAB)法などの標識抗体法、またはペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ法(PAP法)などの非標識抗体法が挙げられる。蛍光抗体法としては、直接法、または間接法が挙げられる。
標識に用いる酵素または蛍光物質としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0037】
そして、例えば、前記(i)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、前記(ii)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上高い場合に増殖糖尿病網膜症である、あるいは増殖糖尿病網膜症であると疑われると判断できる。
【0038】
ここで、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の差は、増殖糖尿病網膜症の検出または診断の臨界値となるものであり、例えば次のように設定しても良い。
【0039】
先ず、2例以上の増殖糖尿病網膜症患者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定し、その平均値(A)を求める。このとき、対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、または100例以上である。一方、2例以上の対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定し、その平均値(B)を求める。このとき、対象となる対照試料の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、または100例以上である。そして、求めた平均値AおよびBから[(A−B)/B]×100(%)を計算して、増殖糖尿病網膜症由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の平均値が対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の平均値と比較して何%高いかを求める。このようにして求めた値を、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の差(臨界値)として設定する。すなわち、(i)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、(ii)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して求めた差以上に高い場合(例えば、統計的に有意に高い場合)に、増殖糖尿病網膜症である、または増殖糖尿病網膜症であると疑われると判断できる。
【0040】
尚、本発明の増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法では、生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定するので、測定値を平均値(A)および(B)に組み入れて、対象となる患者の例数および対象となる健常者の例数を増やすのが好ましい。例数を増やすことにより、増殖糖尿病網膜症の検出または診断の精度を高めることができる。また、求めた対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の平均値(B)を、「(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量」としても良い。
【0041】
本発明の別のいくつかの態様によれば、測定した被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、所定発現レベルまたは所定タンパク質量以上であるときに、増殖糖尿病網膜症である、または増殖糖尿病網膜症であると疑われると判断するようにしてもよい。
【0042】
そして、増殖糖尿病網膜症である、または増殖糖尿病網膜症であると疑われると判断するための「所定発現レベルまたは所定タンパク質量」は、例えば、次のように求めることができる。先ず、2例以上の増殖糖尿病網膜症患者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定する。このとき、対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、または100例以上である。一方、2例以上の対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量も測定する。このとき、対象となる対照試料の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、または100例以上である。そして、増殖糖尿病網膜症患者由来の生体試料群と対照試料群の両方を含む全体から、増殖糖尿病網膜症患者由来の生体試料群を抽出しうる、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の至適閾値(cut−off値)を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、Receiver−Operating−Characteristics(ROC)曲線を用いた解析等が挙げられる。
【0043】
本発明の好ましい態様では、高感度で増殖糖尿病網膜症を検出できるので、増殖糖尿病網膜症を、他の病態、例えば、特発性黄斑上膜や黄斑円孔から鑑別することが容易になる。
【0044】
上記増殖糖尿病網膜症の検出結果または診断結果は、例えば増殖糖尿病網膜症の確定診断を行う場合の補助とすることができる。増殖糖尿病網膜症の確定診断を行う場合には、上記検出結果に加えて、理学所見の結果、血清学的検査の結果、および組織学的検査などからなる群から選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断するようにしても良い。
【0045】
4.増殖糖尿病網膜症の検出薬または診断薬
本発明は増殖糖尿病網膜症の検出薬または診断薬(以下、検出薬等とする。)を提供する。本発明の検出薬等は、(i)ペリオスチンを認識する抗体、(ii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー、および(iii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。
【0046】
本発明のある態様の増殖糖尿病網膜症の検出薬等は、ペリオスチンを認識する抗体を含有する。抗体は、好ましくは、ペリオスチンを特異的に認識する抗体である。ペリオスチンを認識する抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。ペリオスチンを認識する抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体(Milstein C, et al., 1983, Nature 305(5934): 537−40)である。例えば、ペリオスチンに対するポリクローナル抗体は、抗原(ペリオスチンまたはその部分ペプチド)を感作した哺乳動物の血液を取り出し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じてこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離することもできる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
【0047】
本発明の別の態様の増殖糖尿病網膜症の検出薬等は、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマーを含有する。プライマーとして、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1,3,または5で表わされる塩基配列)に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基(例えば、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上、もしくは20塩基以上)、および/または連続する100塩基以下(例えば、100塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、もしくは50塩基以下)、例えば、20塩基以上50塩基以下のポリヌクレオチドからなるプライマーを用いることができる。プライマーセットとして、フォワードプライマーとリバースプライマーの間の距離が、例えば、2500塩基以下、1500塩基以下、または500塩基以下となるように設計することができる。プライマーは、例えば、RT−PCR法などでペリオスチン遺伝子の発現レベルが検出できるように設計する。プライマーの設計は、公知の手法を用いて行なうことができる。このように設計したプライマーは、例えば、配列番号1,3,もしくは5またはその一部(例えば、配列番号1,3,または5のうちの連続する少なくとも15塩基)を含有するヌクレオチドである。必要に応じて、プライマーには、追加の配列を含めることも可能であり、例えば、タグ配列を付加することもできる。
【0048】
本発明のさらに別の態様の増殖糖尿病網膜症の検出薬等は、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブを含有する。プローブとして、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1,3,または5で表わされる塩基配列)に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基(例えば、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、21塩基以上、22塩基以上、23塩基以上、24塩基以上、25塩基以上、26塩基以上、27塩基以上、28塩基以上、29塩基以上、30塩基以上、35塩基以上、40塩基以上、45塩基以上、もしくは50塩基以上)、および/または、連続する2500塩基以下(例えば、2500塩基以下、1000塩基以下、500塩基以下、もしくは150塩基以下)、例えば、塩基長50〜150bpのポリヌクレオチドからなるプローブを用いることができる。プローブは、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法などでペリオスチン遺伝子の発現レベルが検出できるように設計する。プローブの設計は、公知の手法を用いて行うことができる。このように設計したプローブは、例えば、配列番号1,3,もしくは5またはその一部(例えば、配列番号1,3,または5のうちの連続する少なくとも15塩基)を含有するヌクレオチドである。また、プローブは、例えば、放射性標識として32Pなどで標識することができる。また、必要に応じ、プローブを蛍光標識、発光標識または酵素標識などで標識することもできる。当業者であれば、用いた標識物質に適切な検出方法で、ペリオスチン遺伝子の発現レベルを検出することができる。更に、プローブをビオチン化したものを用いることもでき、これをアビジン蛍光色素で処理し蛍光検出することも可能である。
【0049】
本発明の検出薬等は、上記本発明の増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法において使用することができる。
【0050】
5.本発明の増殖糖尿病網膜症の検出用キットまたは診断用キット
本発明は、前記増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法に使用することができるキットを提供する。
本発明のキットは、ペリオスチンを認識する抗体、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー、およびペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。本発明のいくつかの態様のキットは、ペリオスチンを認識する抗体、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー、またはペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブを含有する。「ペリオスチンを認識する抗体」、「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー」、および「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブ」は、前記説明したのと同様である。
【0051】
本発明のキットは、上記の他に、容器およびラベルを含んでいてもよい。容器上のまたは容器に伴うラベルには、キットが増殖糖尿病網膜症の検出または診断に使用されることが示されていてもよい。また、他のアイテム、例えば、使用説明書等がさらに含まれていてもよい。
【0052】
6.本発明のスクリーニング方法
ペリオスチン遺伝子は、増殖糖尿病網膜症の患者由来の組織で発現が増加しているので、当該患者の組織でペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩、例えば、発現を阻害する化合物またはその塩は、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として使用し得る。また、ペリオスチンタンパク質をコードする遺伝子(mRNA)を阻害する物質も、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤となり得る。このような物質としては、いわゆる、RNAi作用を応用した物質であり、上記のペリオスチンmRNAに作用して、mRNAを不活性化(ペリオスチンタンパク質の生成を阻害)する、siRNAや、siRNAを産生する、shRNA更にはshRNAを産生させる遺伝子を組み込んだベクター等も、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤となり得る。
【0053】
すなわち、本発明は、ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した培養物中におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。この場合、測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、候補物質による増殖糖尿病網膜症の予防・治療効果と関連付けるのが好ましい。
【0054】
本発明のいくつかの態様によれば、例えば、(i)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合と、(ii)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の非存在下で培養した場合との間でペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の比較を行う。比較は、例えば、(i)と(ii)の場合における、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定して、比較する。
【0055】
具体的には、(i)と(ii)の場合における、ペリオスチンタンパク質量またはペリオスチンをコードするmRNA量を測定して比較する。ペリオスチンを産生することができる細胞としては、例えば、HuCCT1(登録番号:JCRB0425)、HuH28(登録番号:JCRB0426)、OZ(登録番号:JCRB1032)など、あるいはペリオスチンをコードするDNAを含有するベクターで形質転換された細胞などが挙げられる。
【0056】
形質転換する細胞としては、例えば、CHO細胞、およびHEK293細胞などが挙げられる。形質転換された細胞の培養は、公知の方法で行うことができる。
【0057】
候補物質としては、例えば、抗体、ペプチド、タンパク質、合成化合物、またはそれらの塩などや、mRNAを不活性化させるsiRNAおよびshRNAや、shRNAを産生させるDNAを組み込んだベクター等が挙げられる。
【0058】
ペリオスチンタンパク質量の測定は、例えば、前記した免疫測定法またはプロテインチップ法により行うことができる。
【0059】
mRNA量の測定は、公知の方法、例えば、プローブとして配列番号1,3,もしくは5またはその一部を含有するヌクレオチドを用いるノーザンハイブリダイゼーション、あるいはプライマーとして配列番号1,3,もしくは5またはそれらの一部を含有するヌクレオチドを用いるPCR法を用いて行うことができる。
【0060】
そして、例えば、(i)の場合のペリオスチンの発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を、(ii)の場合のペリオスチンの発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して減少させる、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上減少させる候補物質を、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩、すなわち、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として選択することができる。
【0061】
また、ペリオスチンタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩も、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として使用し得る。よって、本発明は、ペリオスチンと候補物質を接触させて、ペリオスチンの活性の変化を検出することを含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0062】
候補物質としては、例えば、抗体(例えば、抗ペリオスチン抗体)、ペプチド、タンパク質、合成化合物、またはそれらの塩などが挙げられる。
【0063】
「接触」とは、例えば、ペリオスチン遺伝子を発現する細胞またはその細胞抽出液と候補物質とを同一の反応系または培養系に存在させること、精製したペリオスチンと候補物質とを同一の反応系に存在させることなどが挙げられる。さらに具体的には、細胞培養器に候補物質を添加すること、細胞と候補物質とを混合すること、細胞を候補物質の存在下で培養すること、細胞抽出液と候補物質とを混合すること、精製したペリオスチンと候補物質とを混合することなどが挙げられる。
【0064】
「ペリオスチンの活性」とは、例えば、ペリオスチンタンパク質と他のマトリックスタンパク質との結合などが挙げられる。ペリオスチンの活性は、公知の方法を用いて検出することができる。具体的には、例えば、ペリオスチンタンパク質と他のマトリックスタンパク質との結合を測定する場合には、ペリオスチンタンパク質と、テネイシン−C、フィブロネクチン、コラーゲンVなどの他のマトリックスタンパク質との結合を測定することがあげられる。これらの結合は、Journal of Allergy Clinical Immunology, vol.118, 98−104, 2006記載の方法又はそれに準ずる方法によって測定することができる。
【0065】
そして、ペリオスチンの活性を変化させる候補物質、例えば、ペリオスチンの活性を対照と比較して減少させる、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上減少させる候補物質を、ペリオスチンタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩として選択することができる。ここで、対照は、例えば、候補物質の非存在下でのペリオスチンの活性である。
【0066】
本発明の別のいくつかの態様によれば、ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、所定発現レベルまたは所定タンパク質量以下であるときに、当該候補物質を、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩として選択することもできる。
【0067】
所定発現レベルまたは所定タンパク質量は、例えば、次のように求めることができる。先ず、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を低下させ、かつ、増殖糖尿病網膜症の予防・治療効果があると判明した物質について、ペリオスチンを産生することができる細胞を当該物質の存在下で培養した培養物中におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定する。一方、ペリオスチンを産生することができる細胞を当該物質の非存在下で培養した培養物中におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定する。そして、前記物質の存在下での測定結果群と前記物質の非存在下での測定結果群との両方を含む全体から、前記物質の存在下での測定結果群を抽出しうる、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の至適閾値(cut−off値)を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、Receiver−Operating−Characteristics(ROC)曲線を用いた解析等が挙げられる。このcut−off値を上限値として、測定した被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を、cut−off値以下にすることができる候補物質を、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩、すなわち、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として選択することもできる。
【0068】
ここで、「ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を低下させ、かつ、増殖糖尿病網膜症の予防・治療効果があると判明した物質」としては、例えば、前記本発明の増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法により得られた物質等を挙げることができる。
【0069】
特に好ましくは、前記本発明の増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法は、スクリーニングで得られた候補物質に増殖糖尿病網膜症の予防・治療効果があるか評価する工程をさらに含む。
【0070】
7.本発明のスクリーニング用キット
本発明は、上記増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法に使用することができるキットを提供する。具体的には、前記キットは、ペリオスチンを産生することができる細胞を含む。「ペリオスチンを産生することができる細胞」は、前記本発明のスクリーニング方法で説明した通りである。前記キットは、さらに、細胞培養用培地、培地に添加する抗生物質、血清(ウシ胎児血清等)などを含んでいても良い。
【0071】
また、前記キットは、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定するための成分を含んでいても良い。そのような成分として、例えば、ペリオスチン遺伝子の塩基配列またはその一部を含有するポリヌクレオチド、ペリオスチンタンパク質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体などが挙げられる。これらのポリヌクレオチドおよび抗体は、前記と同様である。
【0072】
前記キットは、上記の他に、容器およびラベルを含んでいてもよい。容器上のまたは容器に伴うラベルには、キットが増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニングに使用されることが示されていてもよい。また、他のアイテム、例えば、使用説明書等がさらに含まれていてもよい。
【0073】
8.本発明の医薬組成物
本発明は、上記本発明のスクリーニング方法により得られた化合物またはその塩を含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療用医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、本発明のスクリーニング方法により得られた化合物またはその塩、siRNAおよびshRNA、それらを細胞組織内にて産生可能なベクター類等を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。
【0074】
本発明の医薬組成物の適用の対象となる疾患は、増殖糖尿病網膜症である。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。
【0075】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される活性成分である化合物またはその塩の種類などにより異なるが、例えば、活性成分である化合物またはその塩を、通常成人一人(体重60kg)当たり、一回につき100μgから1000mgの範囲で投与することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0076】
9. 本発明の増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測方法、または予後予測方法もしくは予後診断方法
ペリオスチン遺伝子またはペリオスチンタンパク質量は、増殖糖尿病網膜症の患者由来の組織で発現が増加しているので、被験者由来の生体試料におけるペリオスチンは、増殖糖尿病網膜症の発症リスクを予測、または予後を予測もしくは診断するためのマーカーとして利用し得る。すなわち、本発明は、被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測方法または予後予測方法を提供する。この場合、測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、増殖糖尿病網膜症の発症リスクの高低または予後の良否と関連付けるのが好ましい。
【0077】
本発明のいくつかの態様によれば、測定した被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、所定発現レベルまたは所定タンパク質量以上であるときに、増殖糖尿病網膜症の発症リスクが高い、または予後が不良であると予測できる。「所定発現レベルまたは所定タンパク質量」は、上記「本発明の増殖糖尿病網膜症の検出方法または診断方法」に記載した方法と同様にして、求めることができる。
【0078】
本発明の別のいくつかの態様によれば、例えば、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行う。そして、例えば、前記(i)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、前記(ii)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上高い場合に増殖糖尿病網膜症の発症リスクが高い、または予後が不良であると予測できる。
【0079】
尚、「生体試料」、「ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量」等は、前記で説明したものと同様である。
【0080】
上記増殖糖尿病網膜症の発症リスクの予測結果、または予後の予測もしくは診断結果は、例えば増殖糖尿病網膜症の発症リスクの予測、または予後予測もしくは予後診断を行う場合の補助とすることができる。この場合、上記検出結果に加えて、理学所見の結果、血清学的検査の結果、および組織学的検査などからなる群から選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断するようにしても良い。
【0081】
10.増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測試薬、または予後予測試薬もしくは予後診断薬
本発明は増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測試薬、または予後予測試薬もしくは予後診断薬(以下、本発明の予測試薬等とする。)を提供する。本発明の予測試薬等は、(i)ペリオスチンを認識する抗体、(ii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー、および(iii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。「ペリオスチンを認識する抗体」、「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー」、および「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブ」は、前記説明したのと同様である。
【0082】
本発明の検出薬等は、上記本発明の増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測方法、または予後予測方法もしくは予後診断方法において使用することができる。
【0083】
11.本発明の増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測用キット、または予後予測用もしくは予後診断用キット
本発明は、前記増殖糖尿病網膜症の発症リスク予測方法、または予後予測方法もしくは予後診断方法に使用することができるキットを提供する。
【0084】
本発明のキットは、ペリオスチンを認識する抗体、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー、およびペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。本発明のいくつかの態様のキットは、ペリオスチンを認識する抗体、ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー、またはペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブを含有する。「ペリオスチンを認識する抗体」、「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマー」、および「ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプローブ」は、前記説明したのと同様である。
【0085】
本発明のキットは、上記の他に、容器およびラベルを含んでいてもよい。容器上のまたは容器に伴うラベルには、キットが増殖糖尿病網膜症の発症リスクの予測、または予後予測もしくは予後診断に使用されることが示されていてもよい。また、他のアイテム、例えば、使用説明書等がさらに含まれていてもよい。
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
1.組織染色
増殖糖尿病網膜症患者由来の生体試料におけるペリオスチンの発現レベルを確認するため、正常網膜、及び増殖糖尿病網膜症患者の網膜上線維血管増殖組織におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルを、組織染色により確認した。組織染色は、具体的には次のようにして行った。
【0088】
外科的に切除した線維血管増殖組織と正常網膜を、生理緩衝食塩水(PBS)[137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM 塩化カリウム、1.47 mM リン酸二水素カリウム及び8.04 mM リン酸水素二ナトリウムを含有する水溶液(pH 7.5)]に溶かした4% パラホルムアルデヒドに浸し、パラフィン包埋した。 組織切片(3 μm) を作成し、パラフィン除去、再水和後に、PBS に溶かした5%スキムミルクでブロッキングし、ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体 (SS5D, 4 μg/ml)を用いて1 時間室温で静置した。PBSで3回洗浄後、抗ラットイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体(DAKO社 E0468)を加え、30分間室温で静置した。PBSで3回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン (ニチレイ社 415171) を加え、30分間室温で静置した。PBSで3回洗浄後、基質溶液[3,3’ジアミノベンジジン・4HCl、トリス塩酸緩衝液、0.6%過酸化水素水を各1滴ずつ混和]を滴下し、室温で5−20分静置後、精製水でよくすすいだ。ヘマトキシリン溶液に30秒間浸し、対比染色(核染色)を行った。
【0089】
上記SS5Dは、次のように作製した。ペリオスチンタンパク質のアミノ末端から数えて4番目のFAS1ドメインに相当するリコンビナントタンパク質を、Journal of Allergy Clinical Immunology, vol.118, 98−104, 2006に記載の方法に従って調製した。このリコンビナントタンパク質とTiterMax Goldアジュバント(TiterMax USA社)とを混合乳化したものをWistarラット(日本チャールスリバー株式会社)の足蹠に注入し、3日後、膝窩、鼠径、腸骨リンパ節から調製したリンパ球を、Sp2/Oミエローマ細胞と融合した。生育した融合細胞株の中から確立したクローンの一つを、SS5Dと命名した。
【0090】
上記組織免疫染色により、ペリオスチンの発現部位が茶色に染まる。染色の結果、増殖糖尿病網膜症患者由来の網膜上線維血管増殖組織においてペリオスチンタンパク質量が高いことが分かった。例えば、図2(b)の写真を見ると、増殖組織中の線維芽細胞や血管周囲組織にペリオスチンの強い沈着が認められる。一方、図2(a)の写真を見ると、正常網膜ではペリオスチンの発現はほとんどみられない。
【0091】
2.硝子体中および血清中ペリオスチン濃度
事前にインフォームド・コンセントを得た患者より採取した硝子体および血液を用いて硝子体中および血清中ペリオスチン濃度を測定した。
患者の内訳は以下の表の通りである。
【0092】
【表1】

【0093】
2.1.硝子体中ペリオスチン濃度
硝子体中ペリオスチン濃度は抗ペリオスチン抗体を用いたELISA法で測定した。まず、ELISA用96穴プレートのウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) [137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM 塩化カリウム、1.47 mM リン酸二水素カリウム及び8.04 mM リン酸水素二ナトリウムを含有する水溶液(pH 7.4)]で2 μg/mlに希釈したSS18A(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25℃で12時間以上静置して、SS18Aをウェル底に吸着させた。ウェルの液を除いた後、ブロッキング液[0.5% カゼイン、100 mM 塩化ナトリウム及び0.1% アジ化ナトリウムを含有する50 mM Tris緩衝液(pH8.0)]を250 μl注入し、4℃で12時間以上静置した。ウェルを洗浄液[0.05 % Tween−20を含有するPBS]で3回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の検体希釈溶液で100倍に希釈した硝子体を100 μl注入し、25℃で12時間以上静置して、硝子体中のペリオスチンをウェルに吸着しているSS18Aに補足させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の緩衝液で50 ng/mlに希釈したビオチンで標識されたSS17B(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25℃で90分静置して、SS18Aに補足されたペリオスチンにビオチン標識SS17Bを結合させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、15000倍に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)で標識されたストレプトアビジン[streptavidin−PolyHRP40 (Stereospecific Detection Technologies社)]を100 μl注入し、25℃で60分静置して、ビオチン標識SS17Bと結合させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、HRPの基質液[0.8 mM TMBZ、2.5 mM 過酸化水素、30 mM リン酸水素二ナトリウム及び 20 mM クエン酸緩衝液]を100 μl注入し、25℃で10分間反応させた後、0.7 N 硫酸により反応を停止させた。その後、吸光度計を用いて450 nmの吸光度を測定した。また、大腸菌で発現させた精製ペリオスチンタンパク質の希釈系列を同様に測定して、このELISA法におけるペリオスチン濃度−吸光度標準曲線を作成した。
上記SS18AおよびSS17Bは次のように作製した。リコンビナントペリオスチンタンパク質を、Journal of Allergy Clinical Immunology, vol.118, 98−104, 2006に記載の方法に従って調製し、TiterMax Goldアジュバント(TiterMax USA社)と混合乳化したものをWistarラット(日本チャールスリバー株式会社)の足蹠に注入した。3日後、膝窩、鼠径、腸骨リンパ節より調製したリンパ球をSp2/Oミエローマ細胞と融合し、生育した融合細胞株の中から確立したクローンを、SS18AおよびSS17Bと命名した。
硝子体を測定した吸光度を、作成した標準曲線に当てはめ、硝子体中のペリオスチン濃度を算出した。
【0094】
測定した硝子体ペリオスチン濃度(ng/ml)は以下の通りであった。
【0095】
【表2】

【0096】
各群間比較を行うため、特発性黄斑上膜(ERM)、黄斑円孔(MH) 、増殖糖尿病網膜症(PDR)の3グループでKruskal−Wallis検定を行ったところP< 0.001で有意差を認めた。そこで各2群間比較をまずMann−Whitney U testで行い、P値をBonferroni補正(5C2=10で乗ずる)し、有意差を検定した。
【0097】
その結果、特発性黄斑上膜−増殖糖尿病網膜症( P<0.0001)、黄斑円孔−増殖糖尿病網膜症(P<0.0001)で有意差を認めた。特発性黄斑上膜−黄斑円孔では有意差を認めなかった(すべてP> 0.05)。 したがって、増殖糖尿病網膜症が、他群と比較して有意に高い値を示すといえる(図3参照)。
【0098】
2.2.血清中ペリオスチン濃度
血清中ペリオスチン濃度は抗ペリオスチン抗体を用いたELISA法で測定した。まず、ELISA用96穴プレートのウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) [137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM 塩化カリウム、1.47 mM リン酸二水素カリウム及び8.04 mM リン酸水素二ナトリウムを含有する水溶液(pH 7.4)]で2 μg/mlに希釈したSS18A(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25℃で12時間以上静置して、SS18Aをウェル底に吸着させた。ウェルの液を除いた後、ブロッキング液[0.5% カゼイン、100 mM 塩化ナトリウム及び0.1% アジ化ナトリウムを含有する50 mM Tris緩衝液(pH8.0)]を250 μl注入し、4℃で12時間以上静置した。ウェルを洗浄液[0.05% Tween−20を含有するPBS]で3回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成の検体希釈溶液で200倍に希釈した血清を100 μl注入し、25℃で12時間以上静置して、血清中のペリオスチンをウェルに吸着しているSS18Aに補足させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、ブロッキング液と同一組成(アジ化ナトリウム含有なし)の緩衝液で50 ng/mlに希釈したPODで標識されたSS17B(ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体)を100 μl注入し、25℃で90分静置して、SS18Aに補足されたペリオスチンにPOD標識SS17Bを結合させた。ウェルを洗浄液で5回洗浄した後、HRPの基質液[0.8 mM TMBZ、2.5 mM 過酸化水素、30 mM リン酸水素二ナトリウム及び 20 mM クエン酸緩衝液]を100 μl注入し、25℃で10分間反応させた後、0.7N 硫酸により反応を停止させた。その後、吸光度計を用いて450 nmの吸光度を測定した。
また、大腸菌で発現させた精製ペリオスチンタンパク質の希釈系列を同様に測定して、このELISA法におけるペリオスチン濃度−吸光度標準曲線を作成した。
血清を測定した吸光度を、作成した標準曲線に当てはめ、血清中のペリオスチン濃度を算出した。
【0099】
その結果、測定した血清ペリオスチン濃度(ng/ml)は以下の通りであった。
【0100】
【表3】

【0101】
各群間比較を行うため、特発性黄斑上膜(ERM)、黄斑円孔(MH) 、増殖糖尿病網膜症(PDR)の3グループでKruskal−Wallis検定を行ったところP< 0.001で有意差を認めた。そこで各2群間比較をまずMann−Whitney U testで行い、P値をBonferroni補正(5C2=10で乗ずる)し、有意差を検定した。
【0102】
その結果、特発性黄斑上膜−増殖糖尿病網膜症( P<0.0001)、黄斑円孔−増殖糖尿病網膜症(P<0.0001)で有意差を認めた。特発性黄斑上膜−黄斑円孔では有意差を認めなかった(すべてP> 0.05)。したがって、増殖糖尿病網膜症が、他群と比較して有意に高い値を示すといえる(図4参照)。
【0103】
以上、実施例に示した通り、ペリオスチン遺伝子は、増殖糖尿病網膜症患者由来の組織で発現が増加しているので、被験者由来の生体試料におけるペリオスチンは、増殖糖尿病網膜症を検出または診断するためのマーカーとして利用し得る。特に、増殖糖尿病網膜症患者では、血清中ペリオスチン濃度が他疾患群に比して有意に高値であり、血清中ペリオスチンタンパク質量が増殖糖尿病網膜症の検出に有用であることが示された。よって、血清中、硝子体中等のペリオスチンレベルを測定し、それが対照 (特発性網膜上膜、黄斑円孔、健常者)よりも高くなっていることを観察することにより、その患者が増殖糖尿病網膜症であることの検出または診断を行うことができる。あるいは増殖糖尿病網膜症が疑われた場合にその診断の補助となることができる。さらに、硝子体や増殖組織におけるペリオスチン発現を解析して、その発現の多寡により、増殖糖尿病網膜症の病勢や硝子体手術などの治療効果を定量化できることが期待される。
【0104】
また、ペリオスチン遺伝子は、増殖糖尿病網膜症患者由来の組織で発現が増加しているので、ペリオスチン遺伝子の発現を阻害する化合物またはその塩は、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤として使用し得る。
【0105】
さらに、これらのことから、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を指標として、増殖糖尿病網膜症の予防・治療薬をスクリーニングできることも分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の検出方法。
【請求項2】
測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、増殖糖尿病網膜症の発症の有無と関連付ける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)対照試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも高いときに、増殖糖尿病網膜症である、または増殖糖尿病網膜症であると疑われると判断することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
生体試料が硝子体または血液である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養し、培養物中のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
測定した遺伝子の発現レベルまたはタンパク質量を、候補物質による増殖糖尿病網膜症の予防・治療効果と関連付ける、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(i)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(i)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)ペリオスチンを産生することができる細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも低いときに、候補物質を選択することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
測定が免疫測定法によるものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(i)ペリオスチンを認識する抗体、(ii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプライマー、および(iii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する、増殖糖尿病網膜症の検出薬。
【請求項12】
(i)ペリオスチンを認識する抗体、(ii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプライマー、および(iii)ペリオスチンをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、連続する少なくとも15塩基のポリヌクレオチドからなるプローブからなる群から選択される少なくとも1つを含有する、増殖糖尿病網膜症の検出用キット。
【請求項13】
ペリオスチンを産生することができる細胞を含む、増殖糖尿病網膜症の予防・治療剤のスクリーニング用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−220969(P2011−220969A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93240(P2010−93240)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本眼科學會雜誌第114回臨時増刊号 第114回日本眼科学会総会講演抄録
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】