説明

壁体の建て起こし工法に使用する補強パイプ支持具

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建物の基礎または床梁上において軸組を組み立てて、組み立てられた軸組に壁面を取り付けて壁体を形成し、その壁体を建て起こすことによって建物の壁体を構築する壁体の建て起こし工法を実施するに際して、壁体が湾曲しないように壁体に沿った状態で軸組に取り付けられる補強パイプの支持具に関する。
【0002】
【従来の技術】狭い敷地においても、敷地境界に近接して建物の外壁を形成するために、建物の基礎または床梁上において鉄骨軸組と外壁パネルとを建物の基礎または床梁上に沿って寝かせた状態で組み立てて、その組み立てた壁体を鉛直状態に建て起こす工法が、特開昭58−168758号公報、特開昭58−176339号公報等に開示されている。
【0003】このような工法では、建物の基礎または床梁上にて組み立てられた壁体を建て起こす際に、壁体自体の重量によって壁体が湾曲するおそれがある。特に建て起こす壁体が長くなると、壁体は湾曲しやすくなる。壁体が湾曲すると、壁体を構成する外壁パネル等の壁面間の目地材が飛び出してしまう。
【0004】このために、建物の基礎または床梁上にて組み立てられた壁体に、建て起こす際の湾曲を防止するために、建て起こされた際に水平状態になるように直線状態の補強パイプが壁体に沿って取り付けられる。
【0005】図5は、壁体を構成する梁部材としての鉄骨に補強パイプを取り付けるために使用される支持具の一例を示している。この支持具60は、建て起こされた際に鉛直状態になる鉄骨71に対して平行状態で配置される補強パイプ40を保持するクランプ部材61と、このクランプ部材61を鉄骨71に取り付ける取り付け部材62とを有している。
【0006】クランプ部材61は、鉄骨71に対して平行状態となるように壁体に沿って配置される補強パイプ40を左右の各側方から巌合する一対のクランプアーム61aおよび6lbを有しており、両クランプアーム61aおよび6lbによって補強パイプ40を締め付けることにより、該補強パイプ40が両クランプアーム61aおよび6lbによって保持される。
【0007】取り付け部材62は、鉄骨71におけるフランジ部71aに押し付けられるボルト62aと、このボルト62aを支持する支持アーム62bとを有している。支持アーム62bは、クランプ部材61にて保持される補強パイプ40とは直交状態で補強パイプ40の側方へと延出して、取り付けられる鉄骨71のフランジ部71a側に屈曲された状態になっている。そして、その先端部に、取り付けボルト62aが挿通している。この取り付けボルト62aは、鉄骨71のフランジ71aに押し付けられており、この取り付けボルト62aの先端面と、支持アーム62bの基端部から延出している取り付けアーム62cの先端部とによって、鉄骨のフランジ部71aを挟持している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このような補強パイプの支持具では、取り付け部材62は、支持アーム62bおよび取り付けアーム62cの各先端部間に架設された取り付けボルト62aによって、鉄骨71に取り付けられるようになっている。このために、ボルト62aが取り付けられる部分は、支持アーム62bと取り付けアーム62cとの間に入り込むことができなければならず、取り付けられる鉄骨等の軸部材等が厚い場合には取り付けることができなくなる。また、補強パイプ40と、鉄骨71との間には、取り付けボルト62aの先端部を支持する取り付けアーム62cが設けられているために、この取り付けアーム62cによって鉄骨71と補強パイプ40との間に広い間隔が形成されている。そのために、補強パイプ40によって連結された鉄骨フレームが十分に補強されず、形成された壁体を建て起こす際に壁体が湾曲して目地材が突出するおそれもある。
【0009】本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的は、軸組の形状に対してほとんど制約を受けることがなく、軸組に対しても確実に取り付けることができ、しかも、補強パイプを軸組に対して近接した状態で保持することができるために軸組を強固に補強することができる補強パイプの支持具を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の補強パイプ支持具は、軸部材によって矩形状に枠組みした軸組を、同一平面上に横並びで隣接した状態で相互に連結して壁フレームとし、この壁フレームの各軸組に壁面を取り付けて壁体を形成し、この壁体の壁フレーム部分を、建物の基礎または床梁上に沿って寝かせた状態から上方へと引き上げることによって鉛直状態に構築する壁体の建て起こし工法を実施するに際して、建て起こし状態で水平状態となるように壁体の表面に沿って配置される補強パイプを、壁フレームに支持固定するための支持具であって、補強パイプに嵌合し、この補強パイプを締め付けることにより保持するクランプ部材と、壁フレームを構成する軸組のうち、互いに隣接する軸部材同士の間隙に、差し込んだ状態で、この軸部材同士の間隙に取り付けられる平板状の支持板と、を有するを有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0011】
【作用】本発明の補強パイプ支持具は、壁フレームを構成する軸組のうち、互いに隣接する軸部材同士の間隙に、支持板を差し込んだ状態で、この軸部材同士の間隙に支持板を取り付けるため、軸部材同士の間隙の位置で、クランプ部材によって補強パイプを保持して、壁面の表面に補強パイプを支持固定することができる。また、軸部材同士の間隙の位置で、補強パイプを支持固定するため、補強パイプと軸部材とを近接した状態にすることができる。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0013】図1は、本発明の一例の補強パイプ支持具の使用状態を示す斜視図、図2はその支持具の平面図、図3はその正面図、図4はその側面図である。この支持具Aは、壁体の建て起こし工法において、建物の基礎または床梁上にて組み立てられた壁体を建て起こす際に壁体が湾曲することを防止するために、壁体に沿って配置される直線状の補強パイプ40を該壁体に取り付けるために使用される。壁体の建て起こし工法では、軸部材として鉄骨51を建物の基礎または床梁上においてフレーム状に組み立てて、その鉄骨フレームに、壁面を構成する外壁パネルを取り付けることにより壁体を形成し、この壁体における下側となる側縁部を、敷地上に設けられた建物の基礎あるいは床梁上の所定位置に配置して、上側となる壁体の側縁部を引き上げることにより壁体を建て起こして壁体を構築する。
【0014】本発明の補強パイプ支持具Aは、平板状の支持板10と、この支持板10に取り付けられたブラケット20と、ブラケット20に支持されたクランプ部材30とを有している。支持板10は、建物の基礎または床梁上において組み立てられた鉄骨フレームにおいて、建て起こされることにより鉛直状態になる一対の断面C字状の鉄骨51が一体に連結される際に、これらの鉄骨51の間に各鉄骨51の表面に沿って配置される。壁体の建て起こしに際して、鉄骨フレームが湾曲しないように各鉄骨51とは直交状態で壁体に沿って配置される補強パイプ40は、支持板10の一方端面にフランジ20を介して取り付けられたクランプ部材30によって保持される。
【0015】一対の鉄骨51間に配置された支持板10は、鉄骨51の幅方向に長く延びており、一方の端部にボルト52が貫通するボルト孔11が設けられている。ボルト孔11よりも遠方側の端面には、平板状のブラケット20が支持板10とは直交状態で取り付けられている。このブラケット20は、鉄骨51の幅方向の側縁から延出した状態になっている。
【0016】ブラケット20は、長方形状の板材の長手方向の各端部をほぼ直角に屈曲して、支持板10とは反対側に延出するフランジ部21が各端部にそれぞれ設けられている。従って、各フランジ部21は、鉄骨51の幅方向の側縁から外方へと延出した状態になっている。
【0017】ブラケット20の各フランジ部21間には、補強パイプ40をクランプするクランプ部材30が設けられている。このクランプ部材30は、フランジ21の各側部間にそれぞれ架設された一対の支持軸31および31と、各支持軸31にそれぞれの基端部が回動可能に支持された一対のクランプアーム32および33とを有している。
【0018】各クランプアーム32および33は、各支持軸31に対して直交状態で延出しており、それぞれの先端部同士が接離するように、各支持軸31に回動可能に支持されている。各クランプアーム32および33は、補強パイプ40に嵌合するように相互に対向する内面が円弧状に湾曲した状態になっている。各クランプアーム32および33によって保持される補強アーム40の軸方向は、支持板10とは直交状態になっており、従って、支持板10は、この補強アーム40の軸方向に直交する平面に沿った状態になっている。
【0019】一方のクランプアーム32の先端部には、支持軸31とは平行になった連結ピン34が支持されており、この連結ピン34に連結ボルト35の基端部が連結ピン34を中心として回動し得るように支持されている。従って、連結ボルト35は、先端部が支持軸31に対して接離するように揺動可能になっている。
【0020】他方のクランプアーム33の先端部には、揺動可能になった連結ボルト35の先端部が嵌入する凹部33aが設けられている。この凹部33aは、連結ボルト35の先端部が嵌入し得るように、先端部が開放されている。連結ボルト35にはナット36がネジ結合されており、クランプアーム33の凹部33a内を挿通した連結ボルト35の先端部にネジ結合される。
【0021】このような構成の補強パイプ支持具Aは、次のように使用される。図1に示すように、建物の基礎または床梁上において壁体の外壁を支持する軸組である鉄骨フレームを組み立てて、鉄骨フレーム同士を連結する際に、相互に一体的に連結される鉄骨51間に本発明の補強パイプ支持具Aにおける支持板10を挟み込む。そして、各鉄骨51同士を連結するためのボルト52を、支持板10のボルト孔11内に挿通してナット53によって締め付ける。これにより、支持板10は、各鉄骨51の間に挟まれた状態になり、クランプ部材30の各クランプアーム32および33は各鉄骨51の側面に近接した状態で側方に延出している。
【0022】このような状態になると、各クランプアーム32および33間に補強パイプ40が挿通されて、連結ボルト35の先端部が、クランプアーム33の先端部に形成された凹部33a内に嵌入される。この凹部33a内を挿通した先端部にネジ止めされたナット36が締め付けられる。これにより、各クランプアーム32および33の先端部同士が相互に接近されて、各クランプアーム32およぴ33間の補強パイプ40が締め付けられる。これにより、補強パイプ40が各クランプアーム32および33によって保持された状態になる。
【0023】補強パイプ40は、鉄骨51にて構成された各フレームが撓んだ状態にならないように、各フレーム間にわたって架設され、1本の補強パイプ40は、3〜4個の支持具Aによって保持された状態になる。
【0024】このようにして、鉄骨51によって構成されたフレームが、複数の支持具Aによって保持された補強パイプ40によって補強されると、各鉄骨フレームに外壁パネルが取り付けられて壁体が形成される。そして、壁体における上側となる側縁部を上方へと引き上げることにより、壁体が建て起こされて、壁体が所定位置に鉛直状態に構築される。このとき、引き起こされる壁体は、補強パイプ40によって各鉄骨フレーム同士が撓まないように補強されているために、各鉄骨フレーム同士が撓んで壁体が湾曲するおそれがなく、従って、外壁パネル間の目地材が突出するおそれがない。
【0025】
【発明の効果】本発明の補強パイプ支持具は、このように、軸部材同士の間隙の位置で、軸組に取り付けられて、壁面の表面に補強パイプを支持固定することができるので、軸組の厚さ等による取り付けの制約を受けるおそれがない。また、軸組を組み立てる際に同時に取り付けられるようになっているために作業性にも優れている。しかも、補強パイプと軸部材とを近接した状態にすることができるので、軸組の湾曲を確実に防止することができて壁面間の目地材が突出するおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の補強パイプ支持具の使用状態を示す斜視図である。
【図2】その補強パイプ支持具の一例を示す正面図である。
【図3】その補強パイプ支持具の側面図である。
【図4】その補強パイプ支持具の平面図である。
【図5】従来の補強パイプ支持具の使用状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
A 補強パイプ支持具
10 支持板
20 ブラケット
21 フランジ部
30 クランプ部材
31 支持軸
32 クランプアーム
33 クランプアーム
35 連結ボルト
36 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸部材によって矩形状に枠組みしたフレームを、同一平面上に横並びで隣接した状態で相互に連結して軸組とし、この軸組の各フレームに壁面を取り付けて壁体を形成し、この壁体の軸組部分を、建物の基礎または床梁上に沿って寝かせた状態から上方へと引き上げることによって鉛直状態に構築する壁体の建て起こし工法を実施するに際して、建て起こし状態で水平状態となるように壁体の表面に沿って配置される補強パイプを、軸組に支持固定するための支持具であって、補強パイプに嵌合し、この補強パイプを締め付けることにより保持するクランプ部材と、軸組を構成するフレームのうち、互いに隣接する軸部材同士の間隙に、差し込んだ状態で、この軸部材同士の間隙に取り付けられる平板状の支持板と、を有することを特徴とする壁体の建て起こし工法に使用する補強パイプ支持具。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【特許番号】特許第3181147号(P3181147)
【登録日】平成13年4月20日(2001.4.20)
【発行日】平成13年7月3日(2001.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−163609
【出願日】平成5年7月1日(1993.7.1)
【公開番号】特開平7−18873
【公開日】平成7年1月20日(1995.1.20)
【審査請求日】平成12年1月7日(2000.1.7)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)