説明

変位表示装置を備えた変位計測システム

【課題】対象物における変位を光学的に計測する間に、その変位状況を表示又は知らせることができる変位表示装置を備えた変位計測システムを提供する。
【解決手段】変位表示装置60は、軌道計測用ターゲット30の近傍に設置される。変位表示装置60は、軌道変位計測装置の演算装置20に接続された送信機70から送信されて来たデータを無線通信で受信する手段と、通信状態と軌道変位を、その度合いに応じて光源によって点灯して又は表示手段に表示して明示するための通知手段からなる。変位表示装置60は、防水性の筐体を有する。変位表示装置60の設定は、送信機70から遠隔で制御可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物や地盤等の変形を表示するための変位表示装置を備えた変位計測システムに関する。詳しくは、鉄道の軌道、道路の路面、橋梁等の変位を常時監視して、その変位を計測するための変位表示装置を備えた変位計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測量機器を用いて軌道の変位を計測する装置が様々な現場で利用されている。例えば、このような軌道変位計測装置は、トータルステーションを用いて軌道変位を計測する現場、自動沈下計測の現場、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)による変位計測現場、堤体変位計測現場、構造物の3次元変位計測現場、トンネル内空変位計測現場、橋梁の変位計測現場等の特定軌道が設計通りであるか、あるいは、その高低差等が所定の許容範囲内に入っているかを監視するとき等、幅広く利用されている。
【0003】
一つの例としては、鉄道車両が走行する鉄道軌道は、軌間、通り、高さ、高低差等が所定の許容範囲内に入っていることを定期的に検査し、それが許容範囲内に維持するように整備されている。これは、鉄道の安全走行にとって最優先の課題でありながら、その測量、つまり、軌道変位を測定することは、多大な時間と労力を使う現場である。この変位を計測する方法としては、レーザー光源を用いた計測方法が知られている。例えば、特許文献1には、軌道の変位をレーザー光によって検出する軌道変位検出装置が開示されている。
【0004】
この軌道変位検出装置は、軌道の長手方向に対して略平行にレーザー光を照射するレーザー光源と、軌道に取り付けられ、レーザー光の光路の変位の基準となる基準光路上に受光部を備える受光器と、レーザー光源と受光器との間に設けられる光路規制板とを有し、受光器が受光する光量の変化率によって軌道の変位を検出するものである。また、特許文献2には、レール変位測定装置が開示されている。
【0005】
この装置は、固定側の任意の位置に設けられた三次元計測器により、レールの上面及び側面に当接する移動ターゲットの距離、方位を測定して三次元座標を演算し、複数位置における移動ターゲットの三次元座標に基づいてレールの変位を求めるものである。また、特許文献3には、洗浄機能を備えた鉄道軌道変位計測装置が開示されている。この装置は、変位計測を行う対象区間の鉄道軌道に、この鉄道軌道が延在する方向に沿って、所定の間隔毎に設けられた複数の軌道計測用ターゲットと、前記鉄道軌道の外部の近傍に設置されている。
【0006】
この装置の軌道変位計測装置は、この軌道計測用ターゲットに、計測光を投射するとともに、反射光を受光することで、前記軌道計測用ターゲットの位置を計測するものである。更に、この軌道計測用ターゲットの近傍に、ノズルが設けられる。軌道計測用ターゲットの計測面にこのノズルから洗浄流体が噴射され、汚れた軌道計測用ターゲットの計測面を洗浄し、計測不良を生じさせることがないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−232611号公報
【特許文献2】特開平06−094416号公報
【特許文献3】特開2008−255595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来のシステムでは、測定した測定結果は、軌道変位計測装置の測定データをデータ処理した計算機で表示していた。軌道変位計測装置で測定している測定箇所の測定結果は、測定者でも、現場の作業者でも分かり易く伝えることが求められている。従来は、軌道変位計測装置の測定結果を軌道変位計測装置又はそのための計算機から、操作者等が読み取り、現場の作業者に伝えていた。
【0009】
鉄道等の場合は、実際の軌道変位を測定する時間帯が限られており、測定作業の効率化、つまり、連続的に精度よく測定することが求められる。軌道に変位があると、その修正のための工事は、現場の作業者が行うのが一般的で、この作業者が軌道変位の変化を見ながら又は把握しながら作業することが求められている。
【0010】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記の目的を達成する。
本発明は、対象物の変位を光学的に計測する間に、その変位状況を表示又は知らせることができる変位表示装置を備えた変位計測システムを提供する。
本発明の他の目的は、計測用ターゲット用の変位表示装置を備え、長期間に亘って高い信頼性があり、安定して計測ができる変位表示装置を備えた変位計測システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明の変位表示装置を備えた変位計測システムは、変位計測を行う対象物に、この対象物が位置する方向に沿って、所定の位置に配置された複数の計測用ターゲットと、前記対象物の外部近傍に設置され、この計測用ターゲットに計測光を投射するとともにこの計測用ターゲットから反射した反射光を受光することで、前記計測用ターゲットの位置を計測する変位計測装置とを備えた変位計測システムにおいて、前記計測用ターゲットに固定、又は前記計測用ターゲットの近傍に設置され、前記変位計測装置に接続された送信手段から送信されてきた、前記変位計測装置の前記計測の結果である前記対象物の変位を、受信する受信手段と、前記対象物の変位を光源によって点灯、及び/又は前記変位を数字若しくは記号により表示するための表示手段とを有することを特徴とする。
【0012】
前記表示手段は、前記無線通信又は手動で、稼動・停止する制御手段を有すると良い。
前記光源は、LEDであると良い。
前記LEDは、複数の色彩を有するものであると良い。
前記変位表示装置は、前記表示手段及び前記受信手段を駆動するため電源である電池を内蔵していると良い。
【0013】
前記変位表示装置は、前記受信手段及び前記表示手段を収納するための防水の筐体を有すると良い。
前記無線通信のためのアンテナは、前記筐体内に収納されていると良い。
上述の変位表示装置を備えた変位計測システムは、鉄道のレールの変位を計測するための軌道計測用のシステムであると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、次の効果が奏される。
本発明の変位表示装置を備えた変位計測システムによると、現場の構造物、地盤の変形、軌道における変位等を光学的に計測する間に、その変位状況、測定の進捗状態が変位表示装置に表示されるので、計測者でも現場の作業者でもそれを把握し、データの共有化ができ、現場でも工事が効率的にできるようになった。
また、本発明の変位表示装置は、簡素な構成で、信頼性が高く、長期間に亘ってメンテナンスの必要がない。特に、変位表示装置は、LEDを光源に用いているのでその寿命も長く、無線通信で遠隔から操作ができるので、現場での操作を効率的に進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、鉄道軌道変位計測装置1の概要を示す概要図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態の変位表示装置60と送信機70の概要を示す概念図である。
【図3】図3は、鉄道軌道に軌道計測用ターゲット30を取り付けた状態を示す断面図である。
【図4】図4は、図3の平面図で、鉄道軌道に軌道計測用ターゲット30と変位表示装置60を取り付けた状態を示す平面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態の変位表示装置60と軌道計測用ターゲット30の概要を示す概念図である。
【図6】図6は、変位表示装置60を背面側から図示した概念図である。
【図7】図7は、変位表示装置60の動作フローの一例を示しているフローチャートである。
【図8】図8は、変位表示装置60と送信機70の通信の詳細を示すフローチャートである。
【図9】図9は、送信機70と変位表示装置60が通信可能な状況になるまでの設定の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の変位表示装置を備えた変位計測システムは、トータルステーションを用いて軌道変位を計測する現場、自動沈下計測の現場、GPSによる変位計測現場、堤体変位計測現場、構造物の3次元変位計測現場、トンネル内空変位計測現場、橋梁の変位計測現場等で利用されるものである。本発明の変位表示装置は、軌道変位計測装置で計測した箇所の変位状況、計測の進捗状況をその場で、点灯して又はディスプレイ上に表示して明示するための装置である。
【0017】
詳しくは、本発明の変位表示装置は、現場での測定箇所がどの程度変位しているかを表示するための装置である。物理の定義では、物体が所定位置x1から△x離れた位置x2に移動するとき、物体の位置の変化を変位(変位ベクトル)という。本実施の形態においては、測定箇所の変位は、測定箇所が元の位置から変化した変化を示す。例えば、鉄道軌道の場合は、高低変位、通り変位、軌間変位、水準変位、平面性変位等の軌道変位をいう。
【0018】
本発明を実施するための形態を、鉄道軌道変位計測装置を例に詳細に説明する。図1は、鉄道軌道変位計測装置1の概要を示す概要図、図2は、本発明の変位表示装置60と送信機70を示す概念図、図3は、鉄道軌道に軌道計測用ターゲット30を取り付けた状態を示す断面図、図4は、図3の平面図で、鉄道軌道に軌道計測用ターゲット30と変位表示装置60を取り付けた状態を示す平面図である。鉄道軌道のレール90は、バラスト道床等に設置されるまくらぎ91の上部にレール締結装置(図示せず)を介して締結されている。
【0019】
鉄道軌道変位計測装置1は、レール90の外部に設置される軌道変位計測装置10、レール90の所定の位置に取り付け装置を介して取り付けられる軌道計測用ターゲット30、軌道変位計測装置10から出力される測距情報データ、測角情報データ(方位データ)から各軌道計測用ターゲット30の3次元方向の位置を演算する演算装置20等から構成されている。演算装置20は、中央処理装置、ROM、RAM、入力装置、出力装置、通信用ポート、ハードディスク等を備えた電子計算機からなることができる。
【0020】
図2に図示した、送信機70は、演算装置20で計算した軌道変位の計算結果を送信するための装置である。変位表示装置60は、各軌道計測用ターゲット30に固定又はその近傍に設置され、送信機70から送信されたデータを表示するための装置である。変位表示装置60と送信機70は、図2に示すように、互いに離れて設置される。送信機70は、演算装置20に接続され、複数の変位表示装置60と通信する。変位表示装置60は、互いに重複しない識別番号を有する。
【0021】
図2の例では、識別番号は、ID1、ID2、ID3になっている。軌道変位計測装置10として、例えば、ライカ社製のトータルステーション等がよく知られている。軌道変位計測装置10は、図1に示すように、レール90から所定の距離離れた位置に設置される。軌道計測用ターゲット(以下、ターゲットという。)30は、レール90の近傍に、所定の間隔毎に設けられる反射プリズム31(図3を参照。)を備えたものであり、レール90に取り付け具を介して取り付けられている。
【0022】
言い換えると、ターゲット30は、変位計測を行う対象区間の鉄道軌道に、この鉄道軌道が延在する方向に沿って、所定の間隔毎に設けられたものである。軌道変位計測装置10は、レーザ光、近赤外光等の計測光(測距用光)をターゲット30の反射プリズム31に投射し、反射プリズム31によって反射した反射光を受光することで距離を計測する機能と、そのときの方位である水平面内の角度、鉛直面内の角度を計測する機能を備えている。
【0023】
例えば、軌道変位計測装置10から反射プリズムまでの距離情報(測距情報データ)、そのときの方位データである水平面内、垂直面内の角度情報(測角情報データ)が出力され、演算装置20で、反射プリズム31の位置が3次元の位置情報として演算される。軌道変位計測装置10は、前述したように、トータルステーションなどとしてよく知られているものであり、この実施の形態の説明では詳細な説明を省略する。図3に示すように、レール90には、レール90の下部を挟持する挟持部材34,35が、固定ボルト36、ナット37、固定部材34a,34b、固定部材35a,35bで固定されている。
【0024】
挟持部材34と固定ボルト36の頭部36aとの間には、ステー38が挾み込まれており、挟持部材34,35が固定ボルト36、ナット37で固定されるとき、一緒に固定されている。ステー38の上部には、上方向が開口している略U字状の第1取付部材32がボルト39の軸線の周り方向(図3及び図5のA方向)に回転可能に設けられ、変位計測装置10との位置関係から回転方向(図3及び図5のA方向)の位置が調整され、回転位置が定まったときボルト39、ナット40で固定されている。
【0025】
第1取付部材32の内側には、第2取付部材33が設けられている。第2取付部材33は、前方向が開口している略U字状となっており、第1取付部材32に対してボルト41の軸線の周り方向(図3及び図5のB方向)に回転可能である。軌道変位計測装置10との位置関係から回転方向(図3及び図5のB方向)の位置が調整され、回転位置が定まったとき、ボルト41、ナット42で、第1取付部材32に対して第2取付部材33が固定される。第2取付部材33には、反射プリズム31が固定されている(図4を参照。)。
【0026】
言い換えると、反射プリズム31の反射プリズム面31a(図4を参照。)が軌道変位計測装置10の方向を向くように第1取付部材32、第2取付部材33の回転方向の向きを調整し、ボルト39、ナット40、または、ボルト41、ナット42で固定するとよい。なお、ナット37、ナット40、ナット42は、各々、ダブルナットとなっているが、これは鉄道車両走行時の振動等で緩みが生じないようにしているためである。変位表示装置60は、ターゲット30の近傍に設置される。一例としては、図4に図示したように、変位表示装置60は、第2取付部材33又は第1取付部材32に固定される。
【0027】
〔変位表示装置60〕
図5は、変位表示装置60をターゲット30に固定した様子示す概念図である。図6は、変位表示装置60の背面を図示している。変位表示装置60は、LED62、ディスプレイ61、電池68、制御回路基板63、アンテナ64、ID設定用ロータリースイッチ65、電源スイッチ67、設定用スイッチ66等からなる。変位表示装置60は、この例では、箱型をしている。
【0028】
変位表示装置60の上面には、この例では、LED62が設置されている。LED62は、レール90の軌道変位、通信状態等をその度合いに応じて点灯して周囲に知らせるためのものである。LED62は、複数の色彩を有することができる。LED62は、この例では、緑、赤、黄のそれぞれ異なる色の光を発するものになっている。変位表示装置60の背面は、数値や文字を表示するためのディスプレイ61を有する。ディスプレイ61は、現場での測定箇所がどの程度変位しているか、通信状態等を表示するためのものである。
【0029】
つまり、ディスプレイ61は、軌道変位等の情報を数字や文字で表示するためのものである。変位表示装置60は、ディスプレイ61を有しない一面で、ターゲット30の第2取付部材33に固定される。図5の例では、変位表示装置60が、ディスプレイ61の反対面で、第2取付部材33に固定されている。変位表示装置60と第2取付部材33を固定するための手段は、接着剤、ボルトとナットによる機械的手段等の公知の任意の手段を用いることができる。
【0030】
又は、変位表示装置60は、第1取付部材32に固定しても良い。そのための一方法は、変位表示装置60には、U字形の取付部材を取り付け、この取付部材を第1取付部材32にボルトとナットで固定する。この場合、第2取付部材33が図3及び図5のBの矢印の方向に回動して、第1取付部材32の回動と関係なく調整できるように設置される。変位表示装置60は、全体で防水性の筐体に格納されている。筐体の外観からは、LED62とディスプレイ61が見える。
【0031】
電池68、制御回路63、アンテナ64、ID設定用ロータリースイッチ65、電源スイッチ67、設定用スイッチ66等は、筐体69内に格納され、固定ネジ等の固定手段69aを外して、筐体69の蓋を開けないと見えない構造になっている。電池68は、変位表示装置60の電源であり、LED62、ディスプレイ61、制御回路63等に電源供給するものである。アンテナ64は、制御回路63に接続され、送信機70との無線通信をするためのものである。
【0032】
制御回路63は、変位表示装置60の全体を制御して、動作せるための回路である。この制御回路63は、アナログ回路でも、ディジタル回路でも、又は、これらの混合回路でも良い。この制御回路63は、この回路に限定されないが、LED62を制御する回路、ディスプレイ61を制御する回路、送信機70との通信を制御する回路、送信機70から受信したデータを格納する回路又はメモリ、電池68の状態の確認や各構成デバイスへの電源を管理するための電源回路等からなる。
【0033】
制御回路63は、ディジタル回路の場合は、これらの回路に追加して、制御プログラムや初期値を格納するための不揮発性のメモリ、全体を制御するための中央処理装置、データを仲介するための経路であるバス、制御プログラムの動作中のデータを格納するためのメモリ等を有すると良い。制御回路63は、ID設定用ロータリースイッチ65、設定用スイッチ66等の設定を受けて動作する。ID設定用ロータリースイッチ65は、ロータリー式のスイッチで、変位表示装置60毎に固有の識別番号を設定するためのものである。
【0034】
作業者がID設定用ロータリースイッチ65のロータリーを手動で回転させて固有の識別番号に設定する。設定用スイッチ66は、変位表示装置60のスリープ時間を設定し、ID設定用ロータリースイッチ65の設定を認識させるためのものである。設定用スイッチ66を押しながら、電源スイッチ67と入れる操作することで、装置の初期化処理等を行うことができる。電源スイッチ67は、変位表示装置60の電源を接続するためのものである。
【0035】
具体的には、この電源スイッチ67をONにすると、電池68が制御回路63に接続され、変位表示装置60が動作可能な状態になる。電源スイッチ67をOFFにすると、変位表示装置60は動作不能な状態になる。作業者は、変位表示装置60を設置するとき、筐体の蓋をあけて、ID設定用ロータリースイッチ65と設定用スイッチ66で、固有識別番号等を設定し、電源スイッチ67をONにする。それから、筐体69の蓋を閉め、変位表示装置60を、ターゲット30に固定する。
【0036】
電池68は、変位表示装置60に電源供給するものであれば、任意の一次電池又は二次電池が利用できる。例えば、市販の乾電池等が利用できる。ディスプレイ61は、数値や文字等を表示できるものであれば、任意の表示器が利用できる。例えば、図6の例では、ディスプレイ61は、7セグメントのLEDディスプレイが3個からなっている。このような構成にすると、3個の文字、数字、記号等が表示可能である。このLEDディスプレイは、電力の消費が少なくて、幅広く利用されているデバイスである。
【0037】
LED62は、任意の光源を利用できる。例えば、LEDが利用できる。変位表示装置60と送信機70との通信の状態を、LED62又はディスプレイ61に表示することができる。例えば、変位表示装置60と送信機70が通信しているとき、LED62が全て又は一部が高速に点灯する。変位表示装置60のメイン処理が実行されているときは、LED62が全て又は一部が低速に点灯する。この低速に点灯では、変位表示装置60の消費電力が少なく済む。
【0038】
LED62は、変位表示装置60内の処理のエラーや、送信機70との通信が失敗した時に、全て点灯して知らせることもできる。また、このように、通信中、メイン処理の実行、処理の実行エラー、通信失敗等は、1本バー、2本バー等の所定記号、数値や文字からなるエラーコード等でディスプレイ61に表示することができる。例えば、識別番号を表示するとき、ディスプレイ61には、「_x8」、「□78」、「 |78」等のように表示する。
【0039】
変位表示装置60は、ターゲット30の標準大きさとの関係があり、基本的に、10cm以内の大きさが好ましい。図5に例示した変位表示装置60は、大きさが横60mm、縦100mm、奥行40mmである。変位表示装置60は、防水性の筐体69に入っており、屋外での仕様になっているので、基本的に屋外設置して利用される。アンテナ64は、筐体69の外に出ない仕様になっており、これにより、その損傷を防ぐことができる。
【0040】
〔送信機70〕
送信機70は、基本的に、演算装置20に接続されて利用される。送信機70は、演算装置20と接続するためのインターフェース、変位表示装置60との通信のためのアンテナ、この通信を制御するための通信回路、変位表示装置60からデータを格納するためのメモリ等からなる。送信機70は、1台で複数台の変位表示装置60を制御する。例えば、本実施の形態の例の、鉄道軌道変位計測装置1の場合は、50台までの変位表示装置60を制御することが好ましい。
【0041】
しかし、鉄道軌道変位計測装置1が利用される現場の要求に合わせて、送信機70は、数百台、数千台の変位表示装置60を制御することもできる。演算装置20と送信機70は、無線又は有線で接続される。例えば、ケーブルで、演算装置20と送信機70が接続できる。演算装置20と送信機70の通信は、RS232C規格等を利用すると良い。送信機70は、複数の変位表示装置60と通信する。変位表示装置60は、互いに重複しない識別番号を有する。図2の例では、識別番号は、ID1、ID2、ID3になっている。
【0042】
送信機70は、これらの変位表示装置60と通信するとき、同じ周波数の電波を使う。送信機70と変位表示装置60の間の通信方式には、任意の方式を利用できる。例えば、送信機70から変位表示装置60へ送信されるデータは、事前に設定したフォーマットの通信パケットで送信される。このとき、変位表示装置60は、送信機70からの電波を受信、通信パケットのヘッダを確認して、自分自身の識別番号が入っているパケットのみを受信する。
【0043】
〔現場での取り付け〕
軌道計測を行う所定の地点に、取付部材32、33等を介して反射プリズム31を取り付ける。変位表示装置60を第2取付部材33に固定する。取付部材32、取付部材33等を調整させて、反射プリズム31が、軌道変位計測装置10の方向を向くように調整されている。軌道変位計測装置10によって、反射プリズム31、31・・の位置を自動追尾させて各反射プリズム31の位置を計測し、測距情報データ、測角情報データを順次出力し、演算装置20で演算し、各反射プリズムの3次元方向の位置を求める。
【0044】
なお、自動追尾は、例えば、一番、強い強度の位置に追尾するようになっているとよい。軌道変位計測装置10は、所定の時間毎に、反射プリズム31、31、・・の位置を計測し、軌道位置の変化を計測し、演算装置20でその計測結果を計算処理して、軌道変位を求め、この軌道変位を送信機70で変位表示装置60に送信する。変位表示装置60は、送信機70から送信された軌道変位を受信して、LED62で点灯及び/又はディスプレイ61で表示する。この点灯及び/又は表示を現場の作業者が見て、軌道変位を即座に把握することができる。
【0045】
〔変位表示装置60の動作フロー〕
図7のフローチャートには、変位表示装置60の動作フローの一例を示している。変位表示装置60は、工場出荷時は、電源はOFFの状態になっている(ステップ10)。変位表示装置60は現場に設定され、電源が作業者の手動で電源スイッチ67をONにする(ステップ11)。このとき、変位表示装置60の固有識別番号も設定される。又は、送信機70から遠隔操作で固有識別番号を付与し、設定することもできる。変位表示装置60のディスプレイ61には、変位表示装置60の設定値が表示される(ステップ12)。
【0046】
変位表示装置60が正常起動に失敗、又は初期化に失敗すると、エラーがディスプレイ61に表示され、その電源をOFFにする(ステップ13、14、及び15)。作業が最初のステップ10からやり直される。変位表示装置60が正常に動作しているときは、送信機70との通信を開始して、送信機70から命令やデータを受信する(ステップ15)。送信機70から測定結果を示すデータを受信すると、その測定結果をディスプレイ61で表示する(ステップ17)。これと同時又はその代わり、測定結果を示すデータをLED62で点灯させる(ステップ18)。
【0047】
そして、所定時間の間に待機する(ステップ19、20)。そして、所定時間が経過、言い換えると、設定されたスリープ時間が経過すると、変位表示装置60の電源を自動的にOFFにする(ステップ20、及び15)。送信機70から測定結果を示すデータを受信しない場合、所定時間待機しながら、送信機70からデータ受信を試みる(ステップ21、22、15、及び16)。所定時間が経過、言い換えると、設定されたスリープ時間が経過すると、変位表示装置60の電源を自動的にOFFにする(ステップ22、及び15)。
【0048】
変位表示装置60の電源が自動的にOFFになるとは、変位表示装置60のLED62とディスプレイ61への電源供給を止めて、休止状態に入ることである。このとき、変位表示装置60の通信回路が最小限の電力で動作して、送信機70からデータ受信を待機している。変位表示装置60の電源が自動的にOFFになったときは、送信機70から命令して、変位表示装置60をONにすることができる。このときは、変位表示装置60のLED62とディスプレイ61へ電源が供給され、変位表示装置60の状態や、送信機70から送信されたデータがそれらに表示される。
【0049】
図8のフローチャートは、変位表示装置60が、送信機70との通信の詳細を示すフロー図である。図7のフローチャートのステップ15で示すように変位表示装置60の通信処理が開始されると、変位表示装置60は送信機70からのステータスデータの受信待ち状態になる(ステップ50、51)。ステータスデータは、グループ識別番号、送信機70の識別番号、変位表示装置60の識別番号、バッテリ状態bit、変位表示装置60の設定コマンド、測定結果などのデータからなる。送信機から送信される1つのパケットデータの中で、複数の変位表示装置60向けのステータスデータを入れることも可能である。
【0050】
ステータスデータを正常に受信できないでエラーが起こると、再度試みる(ステップ51、57)。これを所定回数、例えば5回、繰り返し、成功しない場合は、通信を終了する(ステップ57、60)。変位表示装置60がステータスデータを正常に受信すると、変位表示装置60のステータスを、このステータスデータ、特に変位表示装置60の設定コマンド、で更新し、ディスプレイ61に表示される表示データも更新する(ステップ52、53)。
【0051】
そして、変位表示装置60は、ステータスデータの中のバッテリ状態bitを確認する(ステップ54)。バッテリ状態bitは、「0」又は「1」の値を持つ、値であり、送信機70側が変位表示装置60のバッテリ68の状態を確認するために使われるものである。この例では、バッテリ状態bitが「0」の場合は、変位表示装置60のバッテリ68の状態が正常であることを示す。バッテリ状態bitが「1」の場合は、変位表示装置60のバッテリ68の状態が低下していることを示し、バッテリ68を交換する必要があることを示す。
【0052】
変位表示装置60は、バッテリ68の状態をチェックする(ステップ55)。バッテリ状態bitの値が、バッテリ68の状態と一致するか否かを確認し、一致するときは、通信を終了する(ステップ56、60)。例えば、バッテリ状態bitが「0」で、バッテリ68の状態が良好の場合は、両方が一致している。同様に、バッテリ状態bitが「1」で、バッテリ68の状態が低下している場合は、両方が一致している。これは、上位機器である送信機70側は、変位表示装置60の状態を正常に把握していることを示すものである。
【0053】
バッテリ状態bitの値が、バッテリ68の状態と一致しないときは、変位表示装置60は、バッテリ68の状態を、送信機70へ送信する(ステップ56、58)。そして、変位表示装置60は、ステータスデータの受信待ち状態になる(ステップ51)。この動作は、基本的に、バッテリ状態bitの値がバッテリ68の状態と一致するまで行われる。
【0054】
ステップ51で示すように、変位表示装置60がステータスデータの受信待ち状態になったとき、送信機70から応答がない、言い換えると、通信がない場合は、リトライフラグを確認し、再度通信することを示す「0」の場合は、通信を再度開始し、ステータスデータの受信待ち状態になる(ステップ52、59、及び51)。リトライフラグが「0」ではない場合は、通信を終了する(ステップ59、及び60)。送信機70は、演算装置20に接続されている。
【0055】
演算装置20には、送信機70を制御するための設定ソフトウェアが動作している。この設定ソフトウェアで、グループID、送信機70と変位表示装置60とする電波の周波数、送信機70の識別番号、変位表示装置60の式番号等を設定する。図9のフローチャートは、送信機70と変位表示装置60が通信可能な状況になるまでの設定の手順を示すものである。演算装置20で設定ソフトウェアを実行させる(ステップ100、101)。設定ソフトウェアは、演算装置20に、軌道変位計測装置10と送信機70が接続されているかを確認し、初期化の処理を実行する(ステップ102)。
【0056】
この初期化の実行で、送信機70の設定が初期化され、デフォルト設定になる。作業者は、設定ソフトウェアで、グループの識別番号、送信機70の識別番号、変位表示装置60の識別番号、通信周波数の識別番号をそれぞれ入力して設定する(ステップ103〜106)。グループの識別番号は、同一現場で、複数の軌道変位計測装置10が動作しているとき、それぞれを識別するためのものである。
【0057】
これらの設定を、設定ソフトウェアから送信機70へ送信され、従って、変位表示装置60へ送信されて、送信機70と変位表示装置60の設定が行われる。この設定が終了すると、設定ソフトウェアは、運用状態になる(ステップ108)。この運用状態になると、軌道変位計測装置10による計測と、それに同期して、送信機70からそれぞれの変位表示装置へ、測定結果が送信され、自動で、計測が行われる状態になる。よって、送信機70と変位表示装置60が通信可能状態になる(ステップ109)。
【0058】
以上、本発明の実施の形態の説明を行ったが、本発明はこの実施の形態に限定されることはない。本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。この形態の説明では、作業者が手動操作で変位表示装置のON/OFFを行っているが、自動で行っても良い。例えば、測定中に、変位表示装置のあるターゲットを測定し終わったら、自動的に、変位表示装置へONにする信号と軌道変位の結果信号を送信し、変位表示装置がONになって、軌道変位を点灯して及び/又はディスプレイで、表示させると良い。この表示が所定期間経ったら自動的に変位表示装置がOFFになると良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の変位表示装置は、トータルステーションを用いて軌道変位を計測する現場、自動沈下計測の現場、GPSによる変位計測現場、堤体変位計測現場、構造物の3次元変位計測現場、トンネル内空変位計測現場、橋梁の変位計測現場等の特定軌道が設計通りであるか、あるいは、その高低差等が所定の許容範囲内に入っているかを監視する分野に利用すると良い。
【符号の説明】
【0060】
1…鉄道軌道変位計測装置
10…軌道変位計測装置
20…演算装置
30…軌道計測用ターゲット
32…第1取付部材
33…第2取付部材
38…ステー
60…変位表示装置
61…ディスプレイ
62…LED
63…制御回路
64…アンテナ
67…電源スイッチ
68…電池
70…送信機
90…レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位計測を行う対象物に、この対象物が位置する方向に沿って、所定の位置に配置された複数の計測用ターゲットと、
前記対象物の外部近傍に設置され、この計測用ターゲットに計測光を投射するとともにこの計測用ターゲットから反射した反射光を受光することで、前記計測用ターゲットの位置を計測する変位計測装置とを備えた変位計測システムにおいて、
前記計測用ターゲットに固定、又は前記計測用ターゲットの近傍に設置され、
前記変位計測装置に接続された送信手段から送信されてきた、前記変位計測装置の前記計測の結果である前記対象物の変位を、受信する受信手段と、
前記対象物の変位を光源によって点灯、及び/又は前記変位を数字若しくは記号により表示するための表示手段と
を有することを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムにおいて、
前記表示手段は、前記無線通信又は手動で、稼動・停止する制御手段を有する
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項3】
請求項1に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムにおいて、
前記光源は、LEDである
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項4】
請求項3に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムにおいて、
前記LEDは、複数の色彩を有するものである
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項5】
請求項1に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムにおいて、
前記変位表示装置は、前記表示手段及び前記受信手段を駆動するため電源である電池を内蔵している
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項6】
請求項1に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムにおいて、
前記変位表示装置は、前記受信手段及び前記表示手段を収納するための防水の筐体を有する
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項7】
請求項6に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムにおいて、
前記無線通信のためのアンテナは、前記筐体内に収納されている
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。
【請求項8】
請求項1乃至7の中から選択される1項に記載された変位表示装置を備えた変位計測システムが、鉄道のレールの変位を計測するための軌道計測用である
ことを特徴とする変位表示装置を備えた変位計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−102498(P2012−102498A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250594(P2010−250594)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(503295448)計測ネットサービス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】