説明

変化アサガオの効率的な増殖法

本発明は、組織培養による変化アサガオの効率的な組織培養の方法を、年間通じて維持し、胚様体を増殖する方法を、胚様体からによる大量の変化アサガオを得る方法を提供しようとするものである。変化アサガオの突然変異をヘテロで持つ個体から採取した未熟胚の組織培養により胚様体を維持・増殖し、その中から変化アサガオのみを生み出す胚様体を選抜し、その胚様体から植物体を再生することで発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変化アサガオの外殖片を組織培養する効率的な増殖方法に関する。より詳しくは、育種の工程と連結して使用される組織培養の工程に含まれる方法で、育種を行う場合にある種の遺伝子型をクローン増殖させることを含み、また、組織培養技術による植物の再生産に関する。
【背景技術】
【0002】
変化アサガオは突然変異によって葉や花の形が変化したアサガオで、観賞価値の高いものはほとんど不稔である。変化アサガオの観賞価値を高めている突然変異遺伝子はメンデルの法則によって劣勢ホモになったとき始めて発現する。突然変異遺伝子と突然変異を起こしていない遺伝子をヘテロで持つ個体は、観賞価値の高い形質は持たないものの、種を作ることはできる(非特許文献1、仁田坂英二、日経サイエンス、第31巻、9号、70−79、2001年)。また、そのような植物体から、多数の種を採取すれば、種の中には一定の割合で変化アサガオの観賞価値を高める突然変異をホモで持つ個体が含まれていることが期待できる。従来はこのように、ヘテロで突然変異を持つ個体を利用して、変化アサガオの維持増殖が行われてきた(非特許文献1、仁田坂英二、日経サイエンス、第31巻、9号、70−79、2001年)。
【0003】
たとえば、変化アサガオの系統‘青堺渦柳葉青采咲牡丹’は、柳と牡丹の2つの不稔の劣性突然変異を持っている。そのため、これらの劣性突然変異の一方でもホモの状態で持つと不稔となる。この不稔となる個体は、伝統的に‘出物’と呼ばれる。不稔となる系統を維持するためには両方の劣性突然変異をヘテロで持っている個体が必要である。このヘテロで持つ個体は、伝統的に‘親木’と呼ばれる。出物の変化アサガオ系統の分譲は、通常、この親木から得られた種子の中から、20〜30個を供給するかたちで行なわれ、播種すると4種類の表現型を持つ個体が分離する。
その中で、牡丹以外の不稔となる突然変異のみをホモで持つ個体は、伝統的に‘一重出物’と呼ばれ、牡丹突然変異の形質のみをホモで持つ個体は、‘親牡丹’と呼ばれる。劣性の柳と牡丹の突然変異を両方ともホモで持つ個体は豪華で珍奇な花となり、伝統的に‘牡丹出物’と呼ばれる。さらに、正常な花を形成するものが先ほど述べた親木になる。
親木、親牡丹、一重出物、牡丹出物の出現はメンデルの法則に従い、その出現割合の期待値は9:3:3:1である。親木の表現型はすべて同じであるが、遺伝型は異なっている。先に述べたように系統維持には、この2つの劣性突然変異をヘテロで持つ親木が必要となり、判別のためテスト播きを行い、ヘテロ性の検定を行わなければならならない。変化アサガオを維持増殖するための、これらの一連の工程には大変な労力を必要とする(非特許文献1、仁田坂英二、日経サイエンス、第31巻、9号、70−79、2001年)。
【0004】
種子繁殖では増殖の難しい植物を大量に増殖させる方法として、組織培養法がある。アサガオの組織培養による増殖に関してはアサガオの未熟胚を材料として、胚様体を経由した植物体再生が報告されている(非特許文献2、JiaとChua、Plant Sci.、87:215−223、1992)。同じく未熟胚を使い、アサガオの未熟胚からの胚様体形成カルスの誘導と植物体の再生も報告されている(非特許文献3、OhtaniとShimada、Plant Biotech.、15:127−129、1998)。また、アサガオの胚様体を継代培養で増殖させている報告もある(非特許文献4、清水他、育種学研究、第4巻、別1:173、2002)。
【0005】
ここで胚様体は、植物体で受精を経た接合子から形成される通常の胚と異なり、体細胞などから形成される胚状構造物のことである。植物のクローン増殖を行う場合、この胚様体を経て行われる場合も多い。胚様体を培養することで胚様体から新たに胚様体を形成させることができる(非特許文献2および非特許文献4)。
【0006】
従来、通常のアサガオの組織培養による増殖の方法はすべて、未熟胚を用いる。そしてアサガオの未熟胚から胚様体または胚様体形成カルスの誘導と植物体の再生を行っている(非特許文献2−6)。
【0007】
アサガオの未熟胚を液体培地で培養し、カルスから不定胚を形成させ、アサガオの再生植物体を得ることができるとの記載がある(非特許文献5、清水他、園芸学雑誌、第71巻、別2:P.232、2002)。この内容を、特願2003−103568号として出願し、アサガオの効率的な増殖法(特許文献1の第0009段落目)と記載した。「アサガオの組織培養における液体培地の組成を検討し、再生能力を持ったカルスを選抜することにより発明を完成し、」、という記載がある。また、米国特許US6649748−2003−11−18(以下、特許文献2という)、「サツマイモペルオキシダーゼ遺伝子とプロモーターの単離」では、アサガオの属するイポモエア属植物のサツマイモに関して、「本発明はストレスによって誘導されるプロモーターに属し、特にサツマイモペルオキシダーゼアイソザイム遺伝子プロモーターに関する」との記載がある。ヨーロッパ特許第0409320号明細書(以下、特許文献3という)「アサガオの属するヒルガオ科植物における水酸化脂肪酸の単離方法」には、「本発明はサツマイモのようなヒルガオ科植物から水酸化脂肪酸関連物質を単離する方法を提供するものである」との記載があるが、いずれにおいても変化アサガオに関する組織培養の報告はない。
【特許文献1】特願2003−103568号公報
【特許文献2】米国特許第6649748号明細書
【特許文献3】欧州特許第0409320号明細書
【非特許文献1】仁田坂英二、「変化アサガオの歴史と遺伝学」、日経サイエンス、2001年、第31巻、9号、 P.70−79。
【非特許文献2】Jia、S. R.とChua.N.H.、「Somatic embryogenesis and plant regeneration from immature embryo culture of Pharbitis nil.」、 Plant Sci.、1992年、第87巻、215−223。
【非特許文献3】Otani、M.とShimada、T.、「Embryogenic callus formation from immature embryo of Japanese morning glory (Pharbitis nil Choisy)」、 Plant Biotech.、1998年第15巻、P.127−129。
【非特許文献4】清水圭一他4名、「Agrobacterium tumefaciensを用いたアサガオ(Ipomoea nil)の効率的な形質転換法の確立」、育種学研究、2002年、第4巻、別冊1号、P.173。
【非特許文献5】清水圭一他4名、「懸濁培養によるアサガオ(Ipomoea nil)の効率的な植物体再生」、園芸学雑誌、2002年、第71巻、別冊2号、P.232。
【非特許文献6】Shimizu、K.他3名、「Plant Regeneration from Suspension Cultures in Japanese Morning Glory(Ipomoea nil (L.) Roth.)」、J. Japan. Soc. Hort. Sci.、2003年、第72巻、P.409−414。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、変化アサガオ自体からは未熟胚を得ることができないため、変化アサガオを培養した報告もない。変化アサガオの組織培養における植物体の再生はなされていない。また、変化アサガオは1年草であり、株分けや挿し芽によって増殖させることができない。すなわち、従来の技術では大量に変化アサガオの植物体を増殖させる方法は知られていない。
【0009】
本発明は、変化アサガオの効率的な組織培養の方法を、年間通じて維持し、胚様体を増殖する方法を、さらに胚様体から大量の再生変化アサガオを得る方法を提供しようとするものである。結果として、市場では一般に見かけることのできなかった変化アサガオを大衆に提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、変化アサガオの突然変異をヘテロで持つ個体から採取した未熟胚の組織培養により胚様体を増殖し、その中から変化アサガオのみを生み出す胚様体を選抜し、その胚様体から植物体を再生することで発明を完成し、上記課題を解決した。
【0011】
本発明の変化アサガオの効率的な増殖法は、不稔となる突然変異を二種類以上持つ出現率1/16以下の牡丹出物と、不稔となる突然変異を1種類だけ持つ出現率1/4の親牡丹および一重出物と、親木の増殖手段を提供するものである。
【0012】
本発明の変化アサガオの効率的な増殖法は、胚様体を誘導する工程として、変化アサガオの遺伝子をヘテロで持つ個体から採取した外殖片を一個一個、個別に培養し、個別の未熟胚に由来する胚様体の系統を誘導する工程、または変化アサガオの蕾を用い切り分け培養する工程を含む。
【0013】
本発明の外殖片として、使用する組織としては例えば、種子、胚軸、子葉、子葉柄、茎、生長点、葉、葉柄、根、花弁、萼片、葯、花糸、柱頭、子房、胚珠、蕾、未熟胚などの組織が挙げられる。未熟胚または蕾が好ましく、多くの変化アサガオが得られる。
【0014】
胚様体を維持する工程は、誘導した胚様体の系統それぞれを個別に継代培養し、それらから、繰り返し連続して胚様体を発生する工程を含んでもよい。なお、変化アサガオの蕾を用いる場合はこの工程は省略可能である。
【0015】
選抜する工程は、発生した胚様体の系統の胚様体の一部を、培養し、発芽し、発根し、順化、開花し、多数の胚様体の系統の中から変化アサガオを生産する系統を選抜する工程を含んでもよい。なお、変化アサガオの蕾を用いる場合はこの工程は省略可能である。
【0016】
胚様体を増殖する工程は、選抜した胚様体の系統を、増殖する工程を年間通じて維持し、変化アサガオの胚様体を増殖する工程を含む。
【0017】
作出する工程は、選抜され増殖した変化アサガオの胚様体を培養し、発芽し、発根し、順化し、変化アサガオの植物体を大量に作出する工程とを含む。
【0018】
本発明の培地の組成は、組織を培養するための、常用の、任意の基本培地(MS、N6、B5、NNなど)に、炭素源として糖類、固化剤としてゲランガムまたは寒天を加えたものを主成分とすることが好ましい。
【0019】
本発明の変化アサガオの増殖方法は、変化アサガオの外殖片を組織培養し、変化アサガオを生産しうる胚様体を誘導する工程と、その胚様体を増殖し植物体を再生する工程を含むことを特徴とする。用いる外殖片は、蕾であることができる。
【0020】
また、変化アサガオの親木の外殖片を組織培養し、変化アサガオを生産しうる胚様体を誘導する工程と、その胚様体を選抜する工程と、選抜された胚様体を増殖し植物体を再生する工程を含むことを特徴とする。さらに、変化アサガオの親木の外殖片を組織培養し、変化アサガオまたは変化アサガオの親木を生産しうる胚様体を誘導する工程と、それらの胚様体を選抜する工程と、選抜された胚様体を増殖し植物体を再生する工程を含むことを特徴とする。用いる外殖片は、未熟胚であることができる。
【0021】
本発明の変化アサガオの増殖方法は、胚様体を増殖する工程および胚様体を維持する工程に、継代培養を含むことを特徴とする。その継代培養の間隔は、1〜5週間、好ましくは3〜4週間である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1A及び図1B変化アサガオの外殖体の採取から植物体再生に至る一連の流れ図である。
【図2】変化アサガオの未熟胚培養と胚様体の形成と維持を示した図である。
【図3】変化アサガオを再生する胚様体の選抜方法を示した図である。
【図4】選抜された胚様体の増殖と胚様体からの変化アサガオの再生を示した図である。
【図5】液体培地と固体培地での未熟胚培養を比較した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明のアサガオの増殖法に使用されるアサガオとは、ヒルガオ科に属し、学名をIpomoea nilと称される植物または、Ipomoea nilと他の植物種との雑種の総称であって、日本とアジア、アフリカ、南米に野生状態で生息しているものを含む。本発明の変化アサガオとはアサガオの中にあって、突然変異によって葉や花の形が変化し、アサガオとは思えないような珍しい葉や花の形を持つアサガオである。
【0024】
本発明の変化アサガオとして、限定されるものではないが、例えば、青掬水爪龍葉瑠璃総風鈴獅子咲牡丹、青尾長爪竜葉白総管弁流星獅子咲牡丹、青掬水爪龍葉紅覆輪総風鈴獅子咲牡丹、黄握爪竜葉赤紫風鈴髭入獅子咲牡丹、黄縮緬立田芝船葉鳩羽色総鳥甲吹上車咲牡丹、黄縮緬立田唐草雨龍葉淡紫鼠噴上車咲牡丹、黄縮緬笹雨竜葉濃葡萄鼠雀咲牡丹、青抱縮緬葉青筒白台咲牡丹、青水晶斑入渦柳葉藤爪覆輪采咲牡丹、青渦柳葉江戸紫采咲牡丹、青打込堺渦柳葉青采咲牡丹、青打込堺渦柳葉白采咲牡丹、黄打込堺渦柳葉淡水色地青紫吹雪撫子采咲牡丹、青渦鍬形柳葉藤紫撫子采咲、青縮緬丸柳葉紫爪覆輪采咲、青打込堺渦蜻蛉柳葉青撫子采咲牡丹、青渦鍬形柳葉藤色撫子采咲牡丹、黄渦柳葉枝垂青撫子采咲牡丹、青抱柳葉紫撫子采咲牡丹、青獅子柳葉瑠璃采咲牡丹、青柳葉藤紫撫子采咲牡丹、黄渦柳葉燕紫撫子采咲、青細柳葉紅采咲、青糸柳葉藤紫細切采咲牡丹、青海松葉紅采咲牡丹、青林風糸柳葉白采咲牡丹、青縮緬糸柳葉藤色車絞細切采咲牡丹、青糸柳葉藤紫細切采咲牡丹、青糸柳葉藤紫細切采咲牡丹、青糸柳葉極淡紫細切采咲牡丹、青糸柳葉極淡紫細切采咲牡丹、青糸柳葉極淡紫細切采咲牡丹、青糸柳葉藤紫細切采咲牡丹、青糸柳葉極淡紫細切采咲牡丹、青糸柳葉極淡紫細切采咲牡丹、青斑入糸柳葉藤紫細切采咲牡丹、青針葉淡桃采咲牡丹、黄針葉瑠璃采咲牡丹、青針葉青紫細切采咲牡丹が挙げられる。
【0025】
本発明の変化アサガオの親木となりうるアサガオとして、限定されるものではないが、たとえばヒルガオ科に属し、学名をIpomoea nilと称される植物および、Ipomoea nilと他の植物種との雑種で、日本とアジア、アフリカ、南米に野生状態で生息しているものを含む。
【0026】
以下、本発明の具体的実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
<胚様体を誘導する工程>
図1Aの(1)〜(2)および図2(1)において、先ず変化アサガオの突然変異をヘテロで持つアサガオの未熟胚を摘出する。そして、NAAを含む培地で未熟胚を一個一個区別して個別に培養を行う。3〜4週間培養を行うと図2の(2)に示したように、胚様体が形成される。
【0027】
胚様体を誘導する工程においては、先ず、外殖片として、使用する組織としては例えば、種子、胚軸、子葉、子葉柄、茎、生長点、葉、葉柄、根、花弁、萼片、葯、花糸、柱頭、子房、胚珠、蕾、未熟胚などの組織を、所定の培地、例えばNAAを含む培地で培養する。未熟胚または蕾が好ましく、多くの変化アサガオが得られる。
【0028】
NAAを含む培地で未熟胚を培養する。培養に適したNAAの培地濃度は1〜9mg/lであり、2〜4mg/lが好ましい。この培地にはMS、N6、B5、NNなど組織を培養するための常用で任意の基本培地を用いることができ、N6培地が特に好ましい。この培地には炭素源として糖類、例えばスクロース、フラクトース、グルコース、トレハロースなどが挙げられ、スクロースが好ましい。糖の培地濃度は、例えば10〜90g/lが望ましく、60g/lが特に好ましい。培地の支持体としての固化剤には、当該技術分野に通常に使用されているもの、例えば寒天やゲランガムなどがあげられ、ゲランガムがより好ましい。固化剤の培地濃度は、例えばゲランガムの場合0.2〜5g/lで行うことが望ましいが、3〜4g/lが特に好ましい。培養の温度条件として20〜30℃が望ましく、24〜26℃が特に好ましい。なお、培養を光照射のもとで行う。例えば100〜8000luxの光照射のもとで行う。
【0029】
<胚様体を維持する工程>
図1Aの(3)および図2の(3)に示したように形成された胚様体を、同じ組成の培地に継代培養する。継代培養によって、胚様体から新たな胚様体を形成させる。継代培養によって胚様体は維持される。このとき、それぞれの未熟胚に由来する胚様体の別々の系統として個別に扱う。
【0030】
胚様体を維持する工程においては、形成した胚様体を胚様体の誘導に用いた培地と同じ培地に継代培養する。すると、胚様体から新たに胚様体が発生して、胚様体が維持できる。
【0031】
<選抜する工程>
図1Aの(4)および図3に示したように維持されている胚様体の系統の中から変化アサガオを再生させる胚様体系統を選抜する。それぞれの系統から、胚様体の一部を取り出す。胚様体をオーキシンとサイトカイニンを含む培地にて培養しシュートを発芽させる。植物ホルモンを含まない培地で、発芽したシュートを培養することにより発根させ、植物体を再生させ、開花させる。変化アサガオを開花させた胚様体を生産する胚様体の系統のみを選抜する。
【0032】
選抜する工程では、胚様体からシュートを形成させた。胚様体からのシュート形成の培地としては、組織培養に常用的に用いられる培地であればよく、例えばMS、N6、B5、NN培地などが挙げられる。培地の植物ホルモンは加えなくても、あるいは加えてもシュートが得られる。オーキシンとサイトカイニンを組み合わせて培地に加えることが望ましく、インドール酢酸0.1〜0.5mg/l、ベンジルアミノプリン1〜2mg/lの濃度と組み合わせて培養を行うことが好ましい。培地の糖濃度は通常の組織培養で行われる条件、たとえば、25〜35g/l程度のスクロースを加える。培養の温度及び光条件は胚様体形成と同じ条件のもとで行う。培地の支持体としての固化剤は寒天、ゲランガムどちらでもかまわないが、寒天がより好ましい。固化剤の培地濃度は例えば、寒天であれば8〜15g/lで行うことが好ましい。
【0033】
<胚様体を増殖する工程>
図1Aの(5)および図4の(2)に示したように、選抜された変化アサガオの胚様体の系統を、同じ組成の培地に継代培養する。継代培養によって、胚様体から新たな胚様体を形成させる。1〜4週間ごとに継代培養を繰り返すことによって、大量の胚様体を作り出す。

【0034】
胚様体を増殖する工程においては、形成した胚様体を胚様体の誘導に用いた培地と同じ培地に継代培養した。すると、胚様体から新たに胚様体が発生して、胚様体が増殖する。増殖した胚様体は更なる継代培養で増殖を繰り返した。1回の継代培養の期間としては1〜5週間、好ましくは3〜4週間で行う。1年以上継代培養を繰り返しても、胚様体の形成能力は維持されることが本発明者等による実験により確認された。
【0035】
<変化アサガオを作出する工程>
図1Aの(6)および図4の(3)に示したように、大量に増殖された胚様体を、オーキシンとサイトカイニンを含む培地にて培養しシュートを発芽させる。植物ホルモンを含まない培地で発芽したシュートを培養することにより発根させ、植物体を再生させ、変化アサガオを大量に生産することが可能である。
【0036】
変化アサガオを作出する工程では、胚様体からシュートを形成させる。胚様体からのシュート形成の培地としては、組織培養に常用的に用いられる培地であればよく、例えばMS、MS、N6、B5、NN培地などが挙げられる。培地の植物ホルモンは加えなくても、あるいは加えてもシュートが得られる。オーキシンとサイトカイニンを組み合わせて培地に加えることが望ましく、インドール酢酸0.1〜0.5mg/l、ベンジルアミノプリン1〜2mg/lの濃度と組み合わせで培養を行うことが好ましい。培地の糖濃度は通常の組織培養で行われる条件、たとえば、25〜35g/l程度のスクロースを加える。培養の温度及び光条件は胚様体形成と同じ条件のもとで行う。培地の支持体としての固化剤は寒天、ゲランガムどちらでもかまわないが、寒天がより好ましい。固化剤の培地濃度は例えば、寒天であれば8〜15g/lで行うことが好ましい。
【0037】
上記のように得られたシュートを発根させるため、組織を培養するための常用で任意の培地、例えばMS培地で培養し発根を促し、幼植物体を再生させた。培地の糖濃度は通常の組織培養で行われる条件、たとえば、30g/l程度のスクロースを加える。培養の温度及び光条件は胚様体形成と同じ条件のもとで行われる。培地の支持体としては、例えば寒天やゲランガム、バーミキュライト、ロックウール等を使用することができる。
なお、図1Aに示す未熟胚の培養(2)の代わりに、図1Bに示す通り蕾を培養する場合には(図1Bの(2’))、培養した蕾から胚葉体を誘導し(図1Bの(3’))、そして直接増殖した胚様体から変化アサガオを作出することができる(図1Bの(6’))。すなわち、図1Aに示す選抜する工程(4)及び胚葉体を増殖する工程(5)を省略することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のより具体的な実施例を説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1A)
変化アサガオの青堺渦柳葉青采咲牡丹の親木から未熟胚を摘出した。これら一個一個の未熟胚をNAA3mg/l及びスクロース60g/lを含むMS培地で個別に培養した。培養を25℃、2000luxの条件で行い、未熟胚から胚様体を形成した。それぞれの元になった未熟胚ごとに個別の系統として形成した胚様体を培養した。継代培養の間隔を4週間として、同じ培地に継代培養した。
次に、継代培養されている胚様体多数の系統から、変化アサガオを再生する系統を選抜した。未熟胚から誘導され、継代培養されている胚様体の一部をインドール酢酸0.2mg/l、ベンジルアミノプリン2mg/l、スクロース30g/l及び寒天10g/lを含むMS培地にて培養した。この培地上で、胚様体からシュートを形成せしめた。そして、植物ホルモンを含まないMS培地に形成せしめたシュートを移植した。発根した植物体が得られ、順化させ、開花させた。変化アサガオのみを再生させる胚様体の系統を選抜した。青堺渦柳葉青采咲牡丹では237個の未熟胚を培養し、そのうちの11個体が目的とする采咲と牡丹をホモで持つ個体であった。
【0040】
(実施例1B)
実施例1Aと同様な条件で、種子、胚軸、子葉、子葉柄、茎、生長点、葉、葉柄、根、花弁、萼片、葯、花糸、柱頭、子房を培養し、未熟胚を培養した場合と比較した。その結果、表1に示したように、未熟胚を培養した場合にのみ胚様体を得ることができた。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例1C)
図5で変化アサガオを液体培地で培養する場合と固体培地で培養する場合を比較した。図5の(2)に示したように、液体培養では未熟胚が液体中で混ざって区別がつかなくなってしまう。そのため、図5の(3)のように、一個一個の未熟胚を区別して培養しようとする場合、別々の容器を用意しなければならず、煩雑な手間と時間がかかり、広い培養スペースを必要とする。これに対し、図5の(1)に示したように、固体培地であれば、液体培地のように未熟胚が混ざることはない。一個の培養容器で多数の未熟胚を区別して培養することができるので、液体培地より手間がかからず、スペースの節約になる。
【0043】
(実施例1D)
実施例1Aにおいて、培地にNAA以外の植物ホルモン、例えば、4−フルオロフェノキシ酢酸、2、4−ジクロロフェノキシ酢酸、ピクロラムなどを用いて胚様体を培養した。その結果、表4に示したように、いずれの植物ホルモンの場合も、胚様体は形成されず、大量増殖はできなかった。
【0044】
【表2】

【0045】
(実施例1E)
実施例1Aにおいて変化アサガオの胚様体の継代培養の間隔を1週間とした場合と、2、3、4、5週間とした場合とを比較した。その結果、表2に示したように3週間から4週間で最も多くの胚様体の増殖が得られた。胚様体は1ヶ月で7〜16倍に増殖した。
【0046】
【表3】

【0047】
(実施例2A)
変化アサガオから長さ1cmほどの蕾を採取した。蕾を1〜2mmの大きさの外殖片に切り分けた。外殖片641個をNAA3mg/l、ゲランガム3.2g/l及びスクロース60g/lを含むMS培地で培養した。その結果、1個の外殖片から、胚様体が形成された。この胚様体は未熟胚由来の胚様体と同様に継代培養で増殖した。そして、増殖した胚様体は未熟胚由来のものと、同様に扱うことができた。
【0048】
(実施例2B)
実施例2Aにおいて、胚様体の継代培養を4週間ごとに行うと、胚様体の形成は1年以上維持されたが、5週間以上の長さの間隔で行うと、表3に示したように、5回の継代培養で胚様体は形成されなくなった
【0049】
【表4】

【0050】
(実施例3)
実施例1Aおよび実施例2Aにおいて形成された変化アサガオのみを生産する胚様体をインドール酢酸0.2mg/l、ベンジルアミノプリン2mg/l、スクロース30g/l及び寒天10g/lを含むMS培地にて培養し、胚様体からシュートを形成せしめた。植物ホルモンを含まないMS培地に形成せしめたシュートを移植すると、発根した植物体が得られた。シュート形成及び発根の培養は25℃、200luxの条件で行った。この結果、大量の変化アサガオを生産することが可能となった。
【0051】
(実施例4)
実施例1Aおよび実施例3と同じ方法で、変化アサガオ、青糸柳葉薄桃采咲牡丹の親木から86個の未熟胚を摘出し、培養した。そのうちの3個体が目的とする采咲と牡丹をホモで持つ未熟胚であった。この未熟胚由来の胚様体を継代培養することで、1ヶ月で7〜17倍に増殖し、大量の青糸柳葉薄桃采咲牡丹を生産することが可能となった。
【0052】
(実施例5)
実施例1Aおよび実施例3と同じ方法で、変化アサガオ、黄色縮緬立田車咲牡丹の親木から16個の未熟胚を摘出し、培養した。そのうちの1個体が目的とする立田と牡丹をホモで持つ個体であった。この未熟胚由来の胚様体を継代培養することで、2倍以上に増殖し、大量の黄色縮緬立田車咲牡丹を生産することが可能となった。
【0053】
以上本発明を特定の実施の形態及び実施例に基づいて説明したが本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、本発明は、下記の項目も含まれるものである。
【0054】
(1) 織培養により外殖片から変化アサガオを生産しうる胚様体を誘導する工程と、胚様体を維持する工程と、胚様体を選抜する工程と、胚様体を増殖する工程と、変化アサガオを作出する工程とを主な工程とする変化アサガオの増殖方法。
(2) 胚様体を維持する工程および胚様体を増殖する工程に、継代培養を含むことを特徴とする上記(1)に記載の増殖方法。
(3) 外殖片が、未熟胚であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の増殖方法。
(4) 継代培養の間隔が、1〜5週間、好ましくは3〜4週間であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載の増殖方法。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように本発明により、組織培養による変化アサガオの効率的な組織培養の方法を確立し、年間通じて維持し、胚様体を増殖する方法を確立し、大量の変化アサガオを得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変化アサガオの外殖片を組織培養し、変化アサガオを生産しうる胚様体を誘導する工程と、
誘導された胚様体を維持・増殖し植物体を再生する工程と、
を含むこと特徴とする変化アサガオの増殖方法。
【請求項2】
外殖片が、蕾であることを特徴とする請求項1に記載の変化アサガオの増殖方法。
【請求項3】
変化アサガオの親木の外殖片を組織培養し、変化アサガオを生産しうる胚様体を誘導する工程と、
誘導された胚様体を選抜する工程と、
選抜された胚様体を維持・増殖し植物体を再生する工程と、
を含むこと特徴とする変化アサガオの増殖方法。
【請求項4】
変化アサガオの親木の外殖片を組織培養し、変化アサガオまたは変化アサガオの親木を生産しうる胚様体を誘導する工程と、それらの胚様体を選抜する工程と、選抜された胚様体を増殖し植物体を再生する工程を含むことを特徴とする変化アサガオの増殖方法。
【請求項5】
外殖片が、未熟胚であることを特徴とする請求の範囲第3項および第4項に記載の変化アサガオの増殖方法。
【請求項6】
胚様体を維持・増殖する工程に、継代培養を含むことを特徴とする請求の範囲第1項、第3項、第4項のいずれかに記載の変化アサガオの増殖方法。
【請求項7】
前記した継代培養の間隔が、1〜5週間、好ましくは3〜4週間であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の変化アサガオの増殖方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/027623
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549754(P2006−549754)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013206
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(503130507)
【出願人】(302068210)
【出願人】(302068209)
【Fターム(参考)】