説明

変形性関節症治療剤または予防剤を製造するための使用

【課題】初期の変形性関節症の治療剤又は予防剤の製造方法を提供する。
【解決手段】IgM型抗Fas抗体を用いることで,初期の変形性関節症の症状を緩和することができる。具体的には,軟骨基質分解酵素産生を抑制することができ,軟骨基質産生能を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,変形性関節症の治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用などに関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(osteoarthritis(OA))は,加齢や機械的ストレスが原因となって,関節軟骨表面の崩壊と,これに伴う関節辺縁の新たな軟骨の増殖,関節の変形,適合性の破綻をきたし,さらに関節滑膜の炎症へと進行する疾患である。一方,代表的な関節症である関節リウマチ(rheumatoid arthritis(RA))では,免疫異常や感染症が原因となって,滑膜に炎症性細胞が湿潤し,さらに,血管新生にともなって滑膜繊維芽細胞の増殖が亢進して,炎症性滑膜肉芽組織が形成され,骨や軟骨の破壊が進み,関節に不可逆的な障害がもたらされる。このため,関節リウマチ(RA)が炎症性疾患とよばれる自己免疫疾患であるのに対し,変形性関節症(OA)は非炎症性疾患とよばれている。よって,関節リウマチの治療に用いられる治療薬は,変形性関節症では治療効果がないと一般的に考えられている。
【0003】
従来,関節リウマチ(RA)の治療を目的として様々な医薬組成物が開発されてきた。そのうちの1つとして抗Fas抗体があげられる(特開2004−59582号公報(特許文献1参照))。しかしながら,抗Fas抗体は,関節リウマチ(RA)の患者から採取した滑膜細胞に対してはアポトーシス誘導効果があるものの,変形性関節症(OA)の患者から採取した滑膜細胞に対してはアポトーシス誘導効果がないことが報告されている(NAKAJIMA et al.,“APOPTOSIS AND FUNCTIONAL FAS ANTIGEN IN RHEUMATOID ARTHRITIS SYNOVICYTES”,ARTHRITIS&RHEUMATISM,38(4),1995,p485−p491(非特許文献1参照)。
【0004】
一方,変形性関節症の治療には,抗炎症・鎮痛効果のある非ステロイド系の薬剤(NSAIDs)が使用されてきた。また,この他にも関節液を注射などで減らしたり,副腎皮質ホルモン剤やコンドイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸(hyaluronic acid(HA))などの関節軟骨の保護剤を注射したりする治療が行われてきた。
【0005】
また,このような関節変性疾患に対する治療薬として,シグナル伝達系阻害剤であるp21活性化キナーゼ(PAK)阻害剤(特表2007−537134号公報(特許文献2参照))やアンチセンスポリヌクレオチド,リボザイム及び低分子干渉RNAなどを含む医薬組成物(特表2008−516593号公報(特許文献3参照))が用いられているが,十分な効果が得られていないのが現状である。
【0006】
この他に,現在行われている治療薬開発では,軟骨再生の促進因子(インターロイキン(IL)−1など)をターゲットとした治療薬開発や軟骨修復・再生を誘導する因子を薬剤として応用する試みが行われているが,満足のいく結果が得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−59582号公報
【特許文献2】特表2007−537134号公報
【特許文献3】特表2008−516593号公報
【特許文献4】特開平8−40897号公報
【特許文献5】特開2006−151843号公報
【特許文献6】特開2007−51077号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】NAKAJIMA et al.,“APOPTOSIS AND FUNCTIONAL FAS ANTIGEN IN RHEUMATOID ARTHRITIS SYNOVICYTES”,ARTHRITIS&RHEUMATISM,38(4),1995,p485−p491
【非特許文献2】ARTHRITIS RHEUM,2001, VOL.44, NO.8, P.1800−1807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,変形性関節症を治療又は予防するための治療剤又は予防剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,IgM型抗Fas抗体を用いることで,変形性関節症において軟骨変性を抑制することができるという知見に基づくものである。具体的には,本発明は,IgM型抗Fas抗体を用いることで,軟骨基質分解酵素産生を抑制することができるという知見に基づくものである。また,本発明は,IgM型抗Fas抗体を用いることで,軟骨基質産生能を改善できるという知見に基づくものである。また,本発明は,変形性関節症によって誘導されるマクロファージのアポトーシスを促進することができるという知見に基づくものである。変形性関節症にIgM型抗Fas抗体を用いることができるということは,今回初めて得られた知見である。
【0011】
本発明の第1の側面は,変形性関節症の初期段階から進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用に関する。この発明は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する変形性関節症の初期段階から進行期段階に分類される疾患の治療剤又は予防剤の製造方法に関する。すなわち,有効成分としてのIgM型抗Fas抗体に適宜薬学的に許容される担体などを添加して,薬剤を調整し,これにより変形性関節症の初期段階から進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤を製造する。変形性関節症の初期段階から進行期段階の各段階は,変形性関節症のICRS分類,Kellgren−Lawrence分類,Outerbridge分類,又は修正Mankinスコアによって分類される。上記分類によって変形性関節症の初期段階から進行期段階を分類すると,本発明の剤がターゲットとする疾患は,(1)変形性関節症のICRS分類においてグレード1〜3に分類される疾患,(2)変形性関節症のKellgren−Lawrence分類においてグレード1〜3までに分類される疾患,(3)変形性関節症のOuterbridge分類においてグレード1〜3までに分類される疾患,又は(4)変形性関節症の修正Mankinスコアにおいてスコア1〜7までに分類される疾患である。なお,本発明者らは,本発明の使用により製造される治療剤,予防剤又は医薬組成物が,股関節,膝関節,又は膝軟骨に関する早期の変形性関節症用に特に有効であることを見出した。
【0012】
変形性関節症において,上記グレード又はスコアに分類される疾患は,病状として軟骨変性をともなう。後述するとおり,本発明のIgM型抗体は,軟骨変性を抑制することができる。よって,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する本発明の剤は,軟骨変性を伴う疾患を治療又は予防するために効果的に用いることができる。すなわち,本発明の剤は,変形性関節症の初期段階から進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するために効果的に用いることができる。
【0013】
また,後述する実施例で示されたとおり,IgM型抗Fas抗体は,軟骨変性のメディエーターであるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)−1,及びMMP−3の産生を抑制することができる。MMPは軟骨基質分解酵素の1種である。軟骨基質分解酵素は,関節軟骨を分解してしまうため,変形性関節症を惹起したり,変形性関節症の症状を悪化させたりする原因となりうる。よって,IgM型抗Fas抗体は,MMPの産生を抑制することができるので,軟骨変性を伴う疾患の治療剤または予防剤として好適に用いることができる。また,後述する実施例で示されたとおり,IgM型抗Fas抗体は軟骨基質プロテオグリカンの合成能を改善させることができる。変形性関節症では,関節軟骨が破壊されることも原因となる。軟骨基質であるプロテオグリカンの合成能を改善させることで,破壊された関節軟骨は再生される。よって,本発明の剤は,軟骨変性を伴う変形性関節症の初期段階から進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するために効果的に用いることができる。すなわち,本発明は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する軟骨破壊抑制剤をも提供する。
【0014】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,IgM型抗Fas抗体がFas抗原の細胞外ドメイン(配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列)と同一,又は1個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加または挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体である,上記に記載の剤の製造方法である。
【0015】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,IgM型抗Fas抗体がCH11又は7C11である,上記いずれかに記載の剤である。後述する実施例で示されたとおり,CH11又はC711は,MMP1及びMMP3の産生を効果的に抑制することができる。そして,CH11は軟骨基質であるプロテオグリカンの合成能を改善することができる。よって,IgM型抗Fas抗体を含む本発明の剤は,軟骨変性を伴う変形性関節症の初期段階から進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,変形性関節症に対する治療剤および予防剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は,ICRSグレード毎の関節軟骨の病態を示す図面である。図1Aは,グレード0の正常な状態の軟骨を示す。図1Bは,グレード1の軟骨表層にゆるやかな窪みができた状態の軟骨を示す。図1Cは,グレード1の軟骨の表層にひび割れや亀裂ができた状態を示す。図1Dは,グレード2の軟骨欠損が軟骨の50%以下の深さにまで拡張した状態を示す。図1Eは,グレード3の軟骨欠損が軟骨の50%以上の深さにまで拡張した状態を示す。図1Fは,グレード3の軟骨欠損が石灰化層にまで拡張した状態を示す。図1Hは,グレード3の腫脹が引き起こされた状態を示す。図1I及び図1Jは,グレード4の病変が軟骨下骨にまで拡張した状態を示す。
【図2】図2は,IgM型抗Fas抗体が軟骨細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図2Aは,IgM型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP1産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図2Bは,IgM型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP3産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。
【図3】図3は,IgM型抗Fas抗体による軟骨基質(プロテオグリカン)産生能低下に対する効果を示す図面に替わるグラフである。
【図4】図4は,IgM型抗Fas抗体のアポトーシス抑制効果を示す図面に替わるグラフである。
【図5】図5は,IgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体が軟骨細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図5AはIgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP1産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図5BはIgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP3産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。
【図6】図6はIgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体のアポトーシス抑制効果を示す図面に替わるグラフである。
【図7】図7は変形性関節症モデルラットの関節症病理組織スコアを示す図面に替わるグラフである。の図7AはサフラニンO染色の結果を示す。図7Bは軟骨細胞欠損の結果を示す。図7Cは軟骨構造の結果を示す。
【図8】図8は,処置後12週目の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す図面に替わる写真である。図8A〜図8Fはコントロールの変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8G〜図8JはCH−11低用量投与群(CH−11:1.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8K〜図8NはCH−11高用量投与群(CH−11:10.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8Oはコントロールの変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8PはCH−11低用量投与群(CH−11:1.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。
【図9】図9は,処置後24週目の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す図面に替わる写真である。図9A〜図9Hはコントロールの変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図9I〜図9LはCH−11低用量投与群(CH−11:1.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図9M〜図9PはCH−11高用量投与群(CH−11:10.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図9B,図9D,図9F,図9H,図9I,図9K,図9M及び図9Oは,それぞれ図9A,図9C,図9E,図9G,図9J,図9L,図9N及び図9P中,四角で囲った部分を拡大した図面に替わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明について説明する。本発明の第1の側面は,変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用に関する。この治療剤及び予防剤は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する。変形性関節症は,指節間関節,第1手根中手関節,頸椎または腰椎の椎間板,第1中足趾節関節,股関節,膝関節に起こる疾患である。本発明の剤は,このような部位に用いることができる。これらの中では,本発明の剤は,股関節,膝関節,又は膝軟骨に用いることが好ましい。
【0019】
本発明の剤がターゲットとする疾患は,変形性関節症において,軟骨変性を伴う発症初期段階〜進行期段階に分類される疾患である。変形性関節症の段階は,その病態に基づいて,下記表1〜4で示したように分類される。以下,変形性関節症の段階について,下記表1〜表4に示した変形性関節症の進行度分類基準を用いて説明する。
【0020】
表1は,変形性関節症において,ICRS(International Cartilage Repair Society)による軟骨欠損のgrading(以下,「ICRS分類」ともいう)を示す。
【表1】

【0021】
ICRS分類では,変形性関節症はグレード0〜4に分類される。ICRS分類において,グレード0は,変形性関節症を発症していない段階である。グレード1は変形性関節症の初期段階である。グレード2〜3は,変形性関節症の進行期段階である。グレード4は変形性関節症の末期段階である。上記のとおり,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患である。すなわち,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症のICRS分類においてグレード1〜3のいずれか1つに分類される疾患である。
【0022】
変形性関節症のICRS分類の各グレードで示される軟骨の状態を図1に示した。軟骨は,表層,中間層,深層,及び石灰化層からなる層状構造をとっている(図1A)。そして,軟骨は,石灰化層を介して骨(軟骨下骨)と連結している。図1Aは,グレード0の正常な状態の軟骨を示す。図1Bは,グレード1の軟骨表層にゆるやかな窪みができた状態の軟骨を示す。図1Cは,グレード1の軟骨の表層にひび割れや亀裂ができた状態を示す。図1Dは,グレード2の軟骨欠損が軟骨の50%以下の深さにまで拡張した状態を示す。図1Eは,グレード3の軟骨欠損が軟骨の50%以上の深さにまで拡張した状態を示す。図1Fは,グレード3の軟骨欠損が石灰化層にまで拡張した状態を示す。図1Hは,グレード3の腫脹が引き起こされた状態を示す。図1I及び図1Jは,グレード4の病変が軟骨下骨にまで拡張した状態を示す。上記のとおり,本発明の剤は,軟骨変性を治療及び予防するものである。後述する実施例で示されたとおり,本発明の剤は,ICRSによる軟骨欠損の分類では,グレート1〜グレート3(変形性関節症の初期段階〜進行期段階)に相当する変形性関節症の病状を抑制する。よって,本発明の剤は,変形関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患を治療又は予防するために用いることができる。
【0023】
表2は,変形性関節症のKellgren−Lawrence分類(以下,「KL分類」ともいう)を示す。
【表2】

【0024】
KL分類では,変形性関節症はグレード0〜4に分類される。KL分類において,グレード0は,変形性関節症を発症していない段階である。グレード1は変形性関節症の初期段階である。グレード2〜3は,変形性関節症の進行期段階である。グレード4は変形性関節症の末期段階である。なお,KL分類において,関節裂隙の狭小化は軟骨細胞の消滅など軟骨の変性によるものである。上記のとおり,本発明の剤のターゲットは,軟骨変性を伴う変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患である。すなわち,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症のKL分類においてグレード1〜3のいずれか1つに分類される疾患である。なお,表2において,KL分類のグレード0〜4は,それぞれICRS分類のグレード0〜4に相当する。
【0025】
表3は,変形性関節症のOuterbridge分類(以下,「OB分類」ともいう)を示す。
【表3】

【0026】
OB分類では,変形性関節症はグレード0〜4に分類される。OB分類において,グレード0は,変形性関節症を発症していない段階である。グレード1は変形性関節症の初期段階である。グレード2〜3は,変形性関節症の進行期段階である。グレード4は変形性関節症の末期段階である。上記のとおり,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患である。すなわち,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症のOB分類においてグレード1〜3のいずれか1つに分類される疾患である。なお,表3において,OB分類のグレード0〜4は,それぞれICRS分類のグレード0〜4に相当する。
【0027】
表4は,変形性関節症の修正Mankinスコアによる分類を示す。
【表4】

【0028】
修正Mankinスコアにおいて,サフラニンO−ファストグリーン染色では,関節軟骨組織を染色した時の染色程度によって変形性関節症が分類される。軟骨細胞欠損では,染色された軟骨細胞量によって変形性関節症が分類される。そして,構造では,関節軟骨に生じる裂け目の程度によって変形性関節症が分類される。表4において,スコア1〜3は変形性関節症の初期段階であり,ICRS分類のグレード1に相当する。スコア4〜5は,変形性関節症の進行期段階であり,ICRS分類のグレード2に相当する。スコア6〜8も変形性関節症の進行期段階であり,ICRS分類のグレード3に相当する。上記のとおり,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患である。すなわち,本発明の剤のターゲットは,変形性関節症の修正Mankinスコアにおいてグレード1〜7のいずれか1つに分類される疾患である。
【0029】
後述する実施例で示されたとおり,IgM型抗Fas抗体は,修正Mankinスコア2〜7の変形性関節症の症状(軟骨変性)を抑制することができる。また,後述する実施例で示されたとおり,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質の欠損を抑制することができる。また,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質産生能を改善することができる。上記のとおり,Mankinスコア2〜7は,その病態として軟骨変性を伴う変形性関節症の初期〜進行期段階である。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患の治療剤又は予防剤として効果的に用いることができる。
【0030】
後述する実施例で示されたとおり,IgM型抗Fas抗体は,修正Mankinスコア2〜7の変形性関節症の症状(軟骨変性)を抑制することができる。また,後述する実施例で示されたとおり,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質の欠損を抑制することができる。また,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質産生能を改善することができる。上記のとおり,Mankinスコア2〜7は,その病態として軟骨変性を伴う変形性関節症の初期〜進行期段階である。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患の治療剤又は予防剤として効果的に用いることができる。
【0031】
本発明の剤は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する変形性関節症性関節炎の治療剤又は予防剤としても機能しうる。変形性関節症性関節炎は,変形性関節症から惹起される2次炎症反応である。変形性関節症では,関節軟骨表面の崩壊や,これに伴う関節辺縁の新たな軟骨の増殖,関節の変形などによって,周辺の細胞が刺激を受け,2次炎症反応が惹起されうる。本発明の剤は,このような変形性関節症性関節炎の治療剤または予防剤として好適に用いることができる。
【0032】
さらに,本発明の剤は,IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有する軟骨基質分解酵素産生抑制剤,軟骨基質産生剤,及び変形性関節症で誘導されるマクロファージに対するアポトーシス誘導剤として用いることができる。そして,IgM型抗Fas抗体は,CH11,又は7C11であることが好ましい。後述する実施例で示されたとおり,このようなIgM型抗Fas抗体は,軟骨基質分解酵素産生抑制剤,軟骨基質産生剤,及び変形性関節症で誘導されるマクロファージに対するアポトーシス誘導剤として効果的に用いることができる。
【0033】
本明細書において,抗体とは,生物体内に誘導されるタンパク質である。このような生物の例は,哺乳類,及び鳥類である。本発明の抗体の例は,ヒト,マウス,及びラットなど哺乳動物由来の抗Fas抗体である。本発明の抗体は,ヒト以外にも,イヌやネコなどの動物医薬として用いることもできる。投与後の副作用を避けるため,投与する生物由来の抗体とすることが好ましい。ヒトに投与する抗体のタイプの例は,マウス抗体,キメラ抗体,ヒト化抗体,及び(完全)ヒト抗体である。
【0034】
このような抗体は,公知の方法で製造することができる(例えば,竹縄忠臣編,タンパク質実験ハンドブック,2003,p86−p105,(株)羊土社発行)。抗体が結合する抗原であるタンパク質やペプチドを,抗体を産生する免疫動物に注射する。免疫動物は,マウス,ラット,ハムスター,ウサギ,及びヤギなど免疫動物として利用される公知の動物を用いることができる。免疫動物への抗原の注入は,1回又は2回以上で定期的(例えば,2〜4週間ごと)に行う。抗原の注入後,一定期間ごと(例えば1〜2週間),採血を行い,目的とする抗体が産生されていることを確認する(抗体価を調べる)。抗体価を調べる方法は,公知の方法を用いることができる。たとえば,ウエスタンブロッティング,ELISAなどがあげられる。このような方法を用いることで,免疫動物由来の抗体(マウスであれば,マウス抗体)を得ることができる。
【0035】
キメラ抗体とは,マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域に連結したもので,公知の方法(例えば,特開平7−194384号公報など)によって製造することができる。ヒト化抗体とは,マウス抗体の相補鎖決定領域(complementarity determining region:CDR)をヒト抗体の可変領域に移植した抗体であり,公知の方法(特許2828340号公報,特開平11−4694号公報など)で製造することができる。ヒト抗体は,免疫動物が本来有している免疫グロブリンを破壊したノックアウト動物に,ヒト免疫グロブリン遺伝子を導入し,産生させた抗体であり,公知の方法(特開平10−146194号公報,特開平10−155492号公報など)で,製造することができる。完全ヒト抗体とは,ヒトの細胞から産生される抗体であり,公知の方法(特開2007−141号公報,特開2005−034154号公報など)。当業者であれば,このような抗体の公知の製造方法を適宜採用して,本発明の抗体を製造することができる。
【0036】
Fas抗原は,細胞膜貫通型の糖タンパク質であり,APO−1,CD95,ALPS1A,APT1,Fas1,FasLレセプター,TNFレセプタースーパーファミリーメンバー6(TNF receptor superfamily member6),TNFR6などともよばれる。細胞表面上に発現しているFas抗原は,Fasリガンド(FasL)や抗Fas抗体などで刺激されることで,その細胞にアポトーシスを誘導するレセプターとして機能することが知られている(Fas介在性アポトーシス)。Fas抗原は,生体内の各組織を構成する細胞に広く分布している。また,Fas抗原は,マクロファージ,ナチュラルキラー(NK)細胞,B細胞,T細胞,顆粒球,単球などの炎症関連細胞にも発現する。FasLは,T細胞,NK細胞,エフェクター細胞などに発現することが報告されている。Fas抗原にFasリガンドや抗Fas抗体が結合すると,Fas抗原は3量体(trimer)を形成する。さらにFas抗原の細胞内ドメインも3量体化することで,細胞内にアポトーシスシグナルを伝達していくことが知られている。また,生体内において,Fasリガンドは3量体を形成していることが報告されており,3量体化したFasリガンドがFas抗原に結合することで,Fas抗原の細胞内ドメインの3量体化が起こり,アポトーシスシグナルが伝達されると考えられている。
【0037】
抗Fas抗体としては,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体(アゴニスト抗体)や,Fas介在性アポトーシスを阻害する抗体(アンタゴニスト抗体)などがある。本発明において好ましい抗Fas抗体は,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体(アゴニスト抗体)である。このような抗Fas抗体として,例えば,配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体があげられる。配列番号1はヒトのFas抗原を示すアミノ酸配列である。配列番号1に記載のアミノ酸配列中,置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸残基の数は,1〜10個があげられるが,好ましくは1〜5個であり,より好ましくは1〜2個であり,さらに好ましくは1個である。本発明の抗Fas抗体を含む剤は,ヒト以外にも,イヌやネコなどの動物を対象とすることも可能である。このような動物医薬として,本発明の抗Fas抗体を含む剤を用いるときは,抗Fas抗体は,ヒト由来のFas抗原を示す配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体よりも,投与する動物由来のFas抗原を構成するアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とすることが好ましい。このような動物由来のFas抗原を構成するアミノ酸配列は,たとえばGenBankなど公知のサイトを使用して入手すればよい。
【0038】
本発明の好ましい態様は,抗Fas抗体は,Fas抗原の細胞外ドメインを認識する抗体である。具体的には,配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜5個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体である。配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列中,置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸残基の数は,1〜5個があげられるが,好ましくは1〜2個であり,より好ましくは1個である。このような置換等されるアミノ酸残基の例としては,UniProt(the universal protein resource(http://www.pir.uniprot.org/))アセッションNo.P25445に記載のものがあげられる。配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列は,Fas抗原の細胞外ドメインを示す配列である。本発明において好ましい抗Fas抗体は,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体である。すなわち,本発明の抗Fas抗体は,Fas抗原に結合し,Fas抗原の3量体化を引き起こし,アポトーシスシグナルを細胞内に伝達しうる抗体であることが好ましい。本発明の抗Fas抗体をFas抗原の細胞外ドメインに対する抗体とすることで,抗Fas抗体を含む剤を投与した際,好適にFas抗原と結合し,その3量体化を引き起こし,細胞内シグナル伝達を促進することができうる。よって,効果的に治療効果を得ることができうる。
【0039】
本発明の抗Fas抗体は,ポリクローナル抗体であっても,モノクローナル抗体であってもよい。しかしながら,ポリクローナル抗体は抗体価が安定しにくい。よって,抗体価の安定したモノクローナル抗体を用いる方が好ましい。抗体(免疫グロブリン(Ig)分子)のアイソタイプとしては,IgG,IgM,IgA,IgE,IgDがあげられるが,本発明の抗体は,IgG型抗体,IgA型抗体又はIgM型抗体であることが好ましく,IgA型抗体又はIgM型抗体であることがより好ましく,IgM型抗体がさらに好ましい。このような抗体は,後述する方法で製造することができるが,後述する製造方法に限定されるものではなく,公知の製造方法で製造することができる。
【0040】
抗体(免疫グロブリン(Ig)分子)は,各アイソタイプ(IgG,IgM,IgA,IgE,IgD)に共通の基本構造を有し,分子量5〜7万のH鎖(Heavy chain)と分子量2〜2.5万のL鎖(Light chain)から構成されている。そして,H鎖は,アイソタイプごとに特徴的な構造を有し,IgG,IgM,IgA,IgD,及びIgEに対応して,それぞれγ,μ,α,δ,及びε鎖とよばれる。L鎖もL型とK型の2種が知られており,それぞれλ,κ鎖とよばれる。基本構造のペプチド鎖構造は,それぞれ相同な2本のH鎖およびL鎖が,ジスルフィド結合(S−S結合)および非共有結合によって結合している。2種のL鎖はどのH鎖とも対をなすことができる。たとえばIgM型の場合,μ,λ,κ鎖の組み合わせは,μλ,およびμκとなる。鎖内のジスルフィド結合は,H鎖に4つ(μ,ε鎖は5つ),L鎖には2つあり,アミノ酸100〜110残基ごとに1つのループを形成し,この単位をドメインとよぶ。H鎖及びL鎖には,N末端側に位置するドメインに,可変領域(V)とよばれるドメイン(VおよびVと表わされる)が存在する。そして,これよりC末端側のアミノ酸配列は,各アイソタイプでほぼ一定のアミノ酸配列を有する定常領域(C)とよばれるドメイン(C1,C2,C3,Cと表わされる)を有する。抗体の抗原結合部位(エピトープ)は,VおよびVによって構成され,この部位の配列によって抗原の特異性が変わってくる。そして,このような抗体は,アイソタイプによって異なる重合構造をとる。たとえば,IgM型抗体は,Hμ鎖2本とL鎖2本からなる抗体であるが,さらにJ鎖とよばれるポリペプチドが結合し,5量体または6量体の形で存在している。IgA型抗体は,Hα2本とL鎖2本からなる抗体であるが,単量体,2量体,または3量体で存在する。そして,IgA型抗体の2量体または3量体は,J鎖や分泌片(secretory piece)によって結合している。IgG型抗体は単量体で存在している。本発明の抗Fas抗体としては,このような各タイプの抗体を用いることができる。また,上記したとおり,Fas介在性アポトーシスでは,3量体のFasリガンドがFas抗原に結合することで,Fas抗原の細胞内ドメインの3量体化が促進され,アポトーシスシグナルが伝達する。上記のとおり,IgM型抗体は重合構造(5量体または6量体)をとるため,IgM型抗体は3個以上のFas抗原をつかむように結合する。これにより,Fas抗原の3量体化が効率的に起こり,アポトーシスシグナルが伝達される。よって,このような観点から,本発明における抗Fas抗体として,IgM型抗体を用いることが好ましい。
【0041】
[ポリクローナル抗体]
ポリクローナル抗体の製造方法の例を以下にあげるが,当業者にとって公知の方法を用いて適宜変更することができる。ポリクローナル抗体は,上記した免疫動物に抗原(免疫原)を注入することで作製することができる。免疫動物に注入する抗原(免疫原)としては,抗原発現細胞,(粗)精製タンパク質,組換えタンパク質,又は合成ペプチドなどを用いることができる。このような抗原として上記した配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜10個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドがあげられる。上記したように,本発明の抗Fas抗体は,Fas介在アポトーシスを誘導する抗体であるため,抗原は,配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列と同一,又は1〜5個のアミノ酸残基が置換,欠失,付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましく,前記アミノ酸配列に置換,欠失,付加又は挿入されるアミノ酸残基の数は1〜2個がより好ましく,さらに好ましくは1個である。また,本発明の抗Fas抗体は,Fas抗原と結合し,Fas介在性アポトーシスを誘導する抗体であるため,抗体を製造する際に用いるペプチド(抗原)は,配列番号1の26〜173番目に記載のアミノ酸配列からなるペプチドよりも短いペプチドを用いてもよい。ペプチドの長さは,当業者であれば適宜調整することが可能である。
【0042】
ポリクローナル抗体を製造する際,抗原は,アジュバンドと混合して免疫動物に注入する。ここで,アジュバンドとは,抗原に対する免疫応答を強化する目的で用いられる物質をさし,例えば,アルミニウムアジュバンド,完全(不完全)フロイントアジュバンド,百日咳菌アジュバンドなどである。免疫動物への抗原の注入は,2〜4週間ごとに行う。2回以上注入をした後,注入日後1〜2週間後に採血を行い,抗体価検定(antibody titer check)を行う。免疫動物への注入量,注入回数(免疫回数)は,免疫動物の種類やその個体ごとに異なる。当業者であれば,抗体価検定の結果に応じて,適宜調整することができる。免疫終了後,全血を搾取し,遠心分離など公知の方法を用いて,血清を分離する。血清は,血清中に含まれる内在性の抗体などを取り除くため,精製を行う。精製方法は,たとえばアフィニティークロマトグラフィーなど公知の方法を用いることができる。このようにしてポリクローナル抗体を作製することができる。
【0043】
[抗原発現細胞]
抗原として用いる抗原発現細胞は,培養細胞などの細胞膜上に抗原となるタンパク質が発現した細胞が好ましい。このような抗原発現細胞は,公知の方法で作製することができる。具体的には,抗原となるタンパク質をコードするDNAを培養細胞に導入し発現させればよい。抗原を発現させる培養細胞(以下,「宿主」ともよぶ)は,特に限定されず公知の細胞を用いればよい。たとえば,抗原提示細胞としてしられるB細胞や樹状細胞などがあげられる。このような細胞に抗原となるタンパク質を発現させる方法としては,抗原となるタンパク質をコードするDNAを組み込んだ抗原発現ベクターを作製し,抗原を発現させる細胞に導入する。発現ベクターに組み込むDNAが細胞膜ドメイン配列を含まない場合には,発現ベクターを導入する宿主が有する細胞膜ドメインの配列を含ませておくことが好ましい。このような配列を含むことで,効率的に細胞膜上にタンパク質(抗原)を発現させることができる。このような細胞膜ドメイン配列は,当業者であれば,適宜取得し,発現ベクターに組み込むDNA配列に含ませることができる。このような発現ベクターとしては,プロモーター,エンハンサー,スプライシングシグナル,ポリA付加シグナル,選択マーカー,SV40複製オリジンなどを含有しているものを用いることができる。宿主が動物細胞である場合,プロモーターとしては,例えば,SRαプロモーター,SV40プロモーター,HIV・LTRプロモーター,CMVプロモーター,HSV−TKプロモーターなどがあげられる。選択マーカーとしては,例えば,ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(メソトレキサート(MTX)耐性),アンピシリン耐性遺伝子,ネオマイシン耐性遺伝子(G418耐性),ハイドロマイシン耐性遺伝子,ブラストサイジン耐性遺伝子等があげられる。このような発現ベクターは,公知のものを使用すればよく,当業者であれば,宿主に応じて適宜選択することができる。抗原発現ベクターを導入する方法としては,リン酸カルシウム法,リポフェクション法,エレクトロポレーション法など公知の方法を用いることができる。細胞に抗原が発現していることを確認する方法は,免疫染色法など公知の方法を適宜用いればよい。このように抗原を発現させた細胞は,公知の方法で回収し,免疫動物に注入する抗原として用いることができる。
【0044】
[(粗)精製タンパク質]
抗原として用いる(粗)精製タンパク質は,培養細胞などが発現するタンパク質を精製したものである。このようなタンパク質は,細胞のシグナル伝達経路に作用したり,転写因子に作用したりする薬剤や因子で培養細胞などを刺激することによって発現させればよい。発現したタンパク質は,公知の方法で精製し,精製タンパク質として用いることができる。たとえば,分泌タンパク質であれば,培養上清を回収し,例えば塩析やカラムクロマトグラフィー,膜処理などで精製することができる。カラムクロマトグラフィーとしては,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,アフィニティークロマトグラフィー,疎水性クロマトグラフィーなどがあげられ,当業者であれば,タンパク質の性質に応じて適宜使用することができる。細胞外に分泌されないタンパク質であれば,培養細胞を回収し,超音波処理などで細胞を破砕し,タンパク質を回収することができる。そして,上記した方法でタンパク質を精製すればよい。このような精製タンパク質を取得する方法は,公知であり,当業者であればタンパク質の特性に合わせて適宜用いることができる。
【0045】
[組換えタンパク質]
抗原として用いる組換えタンパク質は,公知の方法で作製することができる。具体的には,抗原として用いる組換えタンパク質をコードするDNAを公知の方法でベクターに挿入し,組換えタンパク質を発現させる宿主に導入する。ベクターは公知のものを用いればよく,当業者であれば導入する宿主に応じて選択することができる。このような宿主としては,細菌,昆虫細胞,植物細胞,動物細胞など公知の宿主を用いることができる。そして,宿主にベクターを導入する方法は,エレクトロポレーション法,リン酸カルシウム法,リポフェクション法など,宿主に応じて,適宜公知の方法を用いることができる。組換えタンパク質は,GST(glutathion S transferase),HA(hemagglutinin),又は(オリゴ)ヒツチジンなどのタグとの融合タンパク質としてもよい。このようなタグは,目的とする抗原をコードするDNAのN末端側又はC末端側に結合させればよい。このようなタグを結合させた融合タンパク質とすることで,発現したタンパク質を簡単に精製することが可能になる。宿主に発現させたタンパク質は,例えば分泌タンパク質であれば培養上清を回収することによって,分泌タンパク質でなければ,超音波処理などで宿主細胞を破砕するなどして回収することができる。タンパク質の精製方法は,上記したように,たとえば,HPLCやアフィニティーカラムなどを用いることができる。また,インビトロでのタンパク発現系や昆虫,動物,植物などの生体を用いて組換えタンパク質を得ることもできる。このような方法は,公知であり,当業者であれば,適宜変更を加えることができる。
【0046】
[合成ペプチド]
ペプチドを合成する方法として,固相法や液相法などがあげられる。ペプチド合成では,目的とするアミノ酸配列をN末端またはC末端から逐次結合させていくステップワイズ延長法,またはアミノ酸配列を適当なフラグメントに分け,それらのフラグメントを縮合させて目的のペプチドを合成するフラグメント縮合法があげられる。また,ペプチド合成法として不溶性の樹脂にアミノ酸を結合し,アミノ酸配列情報に基づいて,その樹脂上でアミノ酸を1個ずつ結合させていき鎖を伸長させていく固相法や,樹脂などの担体を用いない液相法があげられる。さらにそれらの方法を組み合わせて効率的に合成することも可能である。このような方法は公知であり,当業者であれば,目的のアミノ酸配列を合成するために,適宜用いることができる。また,合成したペプチドは,精製を行ってもよい。合成ペプチドの精製は,沈殿法,HPLC,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィーなど公知の方法を用いることができる。抗原として合成ペプチドを用いる場合は,そのままでは抗原性に乏しいので,BSA(Bovine Serum Albumin)やKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)などのキャリアに架橋剤(例えば,MBS(m−maleimidobenxoic acid)エステル,DMS(dimethyl suberimidate)など)を用いて共有結合させて用いる方がよい。
【0047】
[モノクローナル抗体]
モノクローナル抗体は,公知の方法で製造することができる。具体的には,免疫動物(例えば,マウスなど)に上記した抗原を2〜4週間間隔で1〜6ヶ月間注入(免疫)し,ポリクローナル抗体の製造方法と同様に,抗体価検定を行う。検定により所望する抗体価が得られたら,免疫動物から脾臓を単離する。単離した脾臓は無血清培地(例えば,イスコフ培地(GIBCO社製))で懸濁し,脾臓細胞懸濁液とする。脾臓細胞とミエローマ細胞(骨髄腫細胞)を混合し,ポリエチレングリコール(PEG)を加えて,細胞を融合させる。その後,ヒポキサンチン(hypoxanthine)−アミノプテリン(aminopterine)−チミジン(thymidine)(HAT)選択培地で培養することで,ハイブリドーマ(脾臓細胞とミエローマ細胞が融合した細胞)のみを増殖させる。さらに,目的とする抗体を産生するハイブリドーマを選択するために,目的とする抗体の有無の検定と同時に,検定陽性ハイブリドーマのクローニングを行う。この操作を数回繰り返すことによって,目的とする抗体を産生するクローン化ハイブリドーマを得ることができる。その後,クローン化ハイブリドーマを免疫動物の腹腔内に注射し,2〜4週間後に腹水を回収し,精製することでモノクローナル抗体を得ることができる。腹水を精製する方法は,公知の方法を用いればよく,たとえばアフィニティークロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィーなどがあげられる。
【0048】
[リコンビナント抗体の製造方法]
また,本発明の抗体は,リコンビナント抗体としてもよい。リコンビナント抗体とは,抗体産生工程でハイブリドーマを用いない組換え型モノクローナル抗体である。例として最小の抗原結合部位のみを有したもの,多価型の抗原結合部位を具有したもの,IgGとIgAを組み合わせ分泌型にしたもの,異種動物間でのキメラやヒューマニゼーション(humanization)を施したものなどがあげられる。このようなリコンビナント抗体は,各アイソタイプの免疫グロブリン遺伝子を宿主で発現させることによって得ることができる。このような宿主を用いる産生系のとしては,大腸菌を用いる方法,培養細胞を用いる方法,植物に産生させる方法,トランスジェニックマウスに産生させる方法などがあげられる。
【0049】
このようなリコンビナント抗体の製造は公知の方法を用いればよい。具体的な例として,ファージディスプレイ法(例えば,Ricombinant antibody expression system(Amersham Biosciences)など)があげられる。ファージディスプレイ法は,大腸菌ウイルスの一種であるM13などの繊維状ファージのコートタンパク質にファージの感染能を失わないように外来遺伝子を融合タンパクとして発現させるシステムである。ファージとは,細菌に感染するウイルスであり,そのDNAに外来性遺伝子を組み込めば感染に際して宿主内に侵入し,増殖する能力を有する。
【0050】
[ファージディスプレイ法]
ファージディスプレイ法によるモノクローナル抗体の作製方法の1例を以下にあげるが,本発明は以下の作製方法に限定されるものではなく,当業者は各工程を他の公知の方法を用いて,適宜変更することができる。また,当業者であれば,それぞれの工程において,温度,反応時間,使用溶液濃度,使用溶液量などのパラメータを適宜設定して,また変更を加えて実施することができる。ファージディスプレイ法では,まずファージ抗体ライブラリーの作製を行い,その後抗体産生ファージのスクリーニングを行うことで,モノクローナル抗体を作製する。
【0051】
ファージ抗体ライブラリーの作製
(1)B細胞からmRNAを抽出し,RT−PCRを行って,cDNAライブラリーを作製する。
B細胞は,マウスやヒトなどから採取した細胞を用いればよい。B細胞のRNAの抽出は,例えば,AGPC法(Acid−Guanidinium−Phenol−Chloroform法)などを用いることができる。AGPC法では,まずB細胞にグア二ジンチオシアネイト溶液を加えて,ホモジナイズする。その後,細胞のホモジネート溶液に酢酸ナトリウム,フェノール,クロロホルムを加えて混和し,遠心する。遠心後,溶液の水層を回収する。回収した水層にイソプロパノールを加え,混和後,遠心し,RNAを沈殿させる。沈殿物(RNA)は再度グア二ジンチオシアネイト溶液に溶解後,酢酸ナトリウム,フェノール,クロロホルムを加えて振とうする。振とう後,遠心して再度水層を回収する。回収した水層に再度イソプロパノールを加えて遠心し,RNAを沈殿させる。沈殿させたRNAに70%エタノールを加え,懸濁し再度遠心して,RNAを沈殿させることで,トータルRNA(totalRNA)を得ることができる。次に,トータルRNAからmRNAの抽出は,mRNAのC末端側に存在するポリA配列に結合するプライマー(オリゴdTプライマー)を用いて,PCRにてmRNAを増幅させ,オリゴdTカラム(例えば,QIAGEN社製)などで抽出・精製することができる。また,オリゴdTがコーティングされた磁性ビーズ(例えば,ナカライテスク社製)を用いたアフィニティクロマトグラフィーなどで抽出・精製してもよい。精製したmRNAは,逆転写酵素を含む反応溶液中で,PCRによってcDNAライブラリーを作製することができる。
【0052】
(2)L鎖(Light chain)とH鎖(Heavy chain)の可変領域に特異的なプライマーを用いてそれぞれPCRで増幅する。
抗体(免疫グロブリン(Ig)分子)のH鎖およびL鎖の可変領域であるV及びVの配列は,たとえばGenBankなどから入手することができる。たとえばIgA型のヒト抗体を得るには,ヒトのIgAのV及びV配列を入手し,それら配列を増やすためのプライマー設計を行い,テンプレートとして上記cDNAを用いて,PCRにて両配列を増幅させればよい。当業者であれば,どのような抗体を得るかによって,プライマー設計は適宜行うことができ,またPCR等の条件も適宜決めることができる。増幅させたVとVは,公知の方法で精製すればよい。
【0053】
(3)ライブラリーの構築
精製したVとVは,それぞれをリンカーでつなぎ,一本鎖とし,ファージミドベクターに挿入して,一本鎖Fv(可変領域断片)遺伝子ライブラリーを構築する。リンカーとは,各断片を接続する配列である。このようなリンカーとしては,リンカーとして公知の配列を用いればよい。ファージミドベクターとは,M13ファージあるいはf1ファージの一本鎖DNAの生成に必要な複製起点(IG領域)を組み込んだプラスミドベクターである。ファージミドベクターは,プラスミドとしての特性と一本鎖DNAファージとしての特性を備えており,通常の二本鎖DNAプラスミドとして操作することが可能なだけでなく,プラスミドの一方のDNA鎖を含む線状ファージ粒子を産生させることができる。ファージミドベクターとしては,公知のものを用いればよい(例えば,pCANTAB5E(Amersham Biosciences社製))。また,別の方法として,抗体H鎖Fd部分(VおよびC1領域)及びL鎖部分に特異的なプライマーを用いてPCRにより抗体遺伝子断片を増幅し,これらの遺伝子断片をファージミドベクターに挿入することにより抗体Fabに対応する遺伝子ライブラリーを構築してもよい。
【0054】
抗体産生ファージのスクリーニング
(4)抗体提示ファージライブラリーの濃縮
ファージミドベクターを用いて構築した抗体遺伝子ライブラリーを大腸菌に導入し,ヘルパーファージ(M13KO7,VCSM13など)を感染させることにより,抗体提示ファージライブラリーを作製する。この抗体提示ファージライブラリーの濃縮方法としては,パニング法があげられる。この方法によって,精製した抗原(上記方法などにより精製した抗原)を用いて固相法によりファージライブラリーから目的とする抗体を提示するファージ集団を濃縮することができる。パニング法では,固相化抗原とファージライブラリーの反応,洗浄(固相化抗原と結合しないファージライブラリーの除去),抗原結合ファージの溶出,大腸菌への感染による増幅というステップを数回(例えば4〜5回)繰り返す。これにより抗原特異的ファージ(抗体産生ファージ)を濃縮することができる。
【0055】
(5)抗原特異的ファージクローンの選択及びモノクローナル抗体の取得
抗原特異的ファージクローンの選択法としては,例えばELISA法などを用いることができる。精製抗原をコートしたELISAプレートに,抗体産生ファージを反応させ,精製抗原との反応性(結合性)を調べる。この工程を繰り返し,クローンを選別していくことで,モノクローナル抗体を産生するファージを得ることができる。そして,このようなファージを大腸菌で増殖させ,抗体を回収することでモノクローナル抗体を取得することができる。このような抗体は,たとえばアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の精製方法を用いて精製することが可能である。
【0056】
本発明の好ましい態様として,変形性関節症もしくは変形性関節症性関節炎の治療剤又は予防剤,軟骨基質分解酵素産生抑制剤,軟骨基質産生剤,及び変形性関節症で誘導されるマクロファージに対するアポトーシス誘導剤を製造のために本発明の抗体を使用することがあげられる。すなわち,本発明は,変形性関節症治療方法;変形性関節症性関節炎治療方法;軟骨基質分解酵素産生抑制剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用;軟骨基質産生剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用;変形性関節症により誘導されるマクロファージに対するアポトーシス誘導剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用をも提供する。そして,このIgM型抗Fas抗体の使用において,先に説明したそれぞれのパターンを組み合わせて用いることができる。
【0057】
本発明の剤は,当業者に公知の方法で製造すればよい。本発明の剤は,経口用製剤および非経口用製剤として製造することができるが,好ましくは非経口用製剤である。このような非経口用製剤は,液剤(水性液剤,非水性液剤,懸濁性液剤,乳濁性液剤など)としてもよいし,固形剤(粉末充填製剤,凍結乾燥製剤など)としてもよい。また,本発明の剤は,徐放製剤としてもよい。
【0058】
液剤を製造する方法は,公知の方法で製造することができる。例えば,抗体を薬学的に許容された溶剤に溶解し,滅菌された液剤用の容器に充填することで製造することができる。薬学的に許容された溶剤としては,たとえば,注射用水,蒸留水,生理食塩水,電解質溶液剤などがあげられ,滅菌された溶剤を用いることが好ましい。滅菌された液剤用の容器としては,アンプル,バイアル,バッグ,などがあげられる。これら容器は,ガラス製やプラスチック製など公知の容器を用いることができる。具体的には,プラスチック製容器としては,ポリ塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン・酢酸ビニル・コポリマーなどの材質を用いたものがあげられる。これら容器や溶剤の滅菌法は,加熱法(火炎法,乾燥法,高温蒸気法,流通蒸気法,煮沸法など),濾過法,照射法(放射線法,紫外線法,高周波法など),ガス法,薬液法などがあげられる。このような滅菌法は,容器の材質,溶剤の性質に応じて,当業者であれば適宜選択して用いることができる。
【0059】
固形剤を製造する方法は,凍結乾燥法,スプレードライ(噴霧乾燥)法,無菌再結晶法など,公知の方法を用いることができる。例えば,凍結乾燥剤は,以下の工程を経ることで製造することができる。(1)結晶化させた抗体を室温4℃,常圧下に2〜3時間置き,冷却する(冷却工程)。(2)室温−50℃,常圧下に12〜15時間置き,凍結させる(凍結工程)。(3)室温−20℃,常圧下に4〜6時間置き再結晶化させる。(再結晶化工程)。(4)室温−50℃,常圧下に14〜16時間置き,再凍結させる(再凍結工程)。(5)室温−13℃,圧力10〜20kPa下(高真空下)に24〜26時間置く(第1乾燥工程)。(6)室温24℃,圧力10〜20kPa下(高真空下)に10〜121時間置く(第2乾燥工程)。(7)室温24℃,常圧下に置く。このように凍結乾燥法では,低温で凍結させ,高真空下で水分(氷)を昇華させて除いていく。本発明の凍結乾燥剤は,上記の方法で製造できるが,この製造方法に限定されず,当業者であれば,適宜変更することができる。また,適宜各工程の温度,圧力,時間などのパラメータに変更を加えることができる。
【0060】
また,本発明は,本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤と医療用具を組み合わせたキット製品として提供することも可能である。例えば,本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤を注射筒等の医療用具にあらかじめ充填したもの,1つのソフトバックに離壁を介して一方に固形剤を,他方に溶剤を充填し,使用時に離壁を開通して混合できるようにしたものなどがあげられる。このようにすることで,使用時に医療従事者が調製する負担を軽減できるだけでなく,細菌汚染や異物混入などを防止することができ,好適に使用することができる。このような注射筒やソフトバックは公知であるので,医療従事者であれば適宜使用することができる。
【0061】
本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤は,静脈内投与,動脈内投与,筋肉内投与,皮下投与,腹腔内投与,鼻腔内投与などの公知の投与方法を用いて投与することができる。好ましくは,注射による投与であり,点滴によって注入することも可能である。また,本発明の剤は,患部(例えば関節)に直接注射してもよく,また外科手術により患部を開口し投与することも可能である。本発明の剤は,経口用製剤および非経口用製剤として調整することができるが,好ましくは非経口用製剤である。このような非経口用製剤は,液剤(水性液剤,非水性液剤,懸濁性液剤,乳濁性液剤など)としてもよいし,固形剤(粉末充填製剤,凍結乾燥製剤など)としてもよい。固形剤は,投与する際に,薬学的に許容された溶剤で所望濃度に用時溶解または懸濁化して用いる。このような非経口用製剤は,注射や点滴などの投与方法で用いることができる。
【0062】
本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤を製剤化する場合,薬学的に許容される担体又は媒体などと適宜組み合わせて製剤化することもできる。さらに,薬剤を含ませてもよい。また,本発明のIgM型抗Fas抗体を含む剤は,アルブミン,リポタンパク質,グロブリンなどの本発明の抗体の作用を阻害しないタンパク質を含ませてもよい。このようにタンパク質を含ませることで,液剤中に含まれる抗体の安定性向上させることができる。このようなタンパク質は,液剤として本発明の剤を製剤化する場合は,液剤中に含ませればよい。固形剤として,製剤化する場合は,本発明の抗Fas抗体を固形化するときに上記タンパク質を含ませてもよいし,固形剤を溶解する溶剤に上記タンパク質を含ませてもよい。このようなタンパク質の含量は,投与時の液量を100重量部としたときに,0.01重量部〜5重量部があげられ,当業者であれば,投与する抗体の量やその他に含まれる物質に応じて適宜調整することができる。
【0063】
[薬学的に許容される担体又は媒体]
薬学的に許容される担体又は媒体は,例えば,賦形剤,安定化剤,溶解補助剤,乳化剤,懸濁化剤,緩衝剤,等張化剤,抗酸化剤,又は保存剤など薬学的に許容される物質があげられる。また,ポリエチレングリコール(PEG)などの高分子材料やシクロデキストリン等の抱合化防物を使用することもできる。以下,具体例をあげるが,本発明はそれらに限定されるものではなく,公知のものを使用することができる。賦形剤としては,デンプンや乳糖などそれ自体が薬理作用を有さないものが好ましい。安定化剤としては,アルブミン,ゼラチン,ソルビトール,マンニトール,乳糖,ショ糖,トレハロース,マルトース,グルコースなどがあげられる。これらのうちでは,ショ糖又はトレハロースが好ましい。溶解補助剤としては,エタノール,グリセリン,プロピレングリコール,ポリエチレングリコールなどがあげられる。乳化剤としては,レシチン,ステアリン酸アルミニウム,またはセスキオレイン酸ソルビタンなどがあげられる。懸濁化剤としては,マクロゴール,ポリビニルピロリドン(PVP),またはカルメロース(CMC)などがあげられる。等張化剤としては,塩化ナトリウム,グルコースなどがあげられる。緩衝剤としては,クエン酸塩,酢酸塩,ホウ酸,またはリン酸塩などがあげられる。抗酸化剤としては,アスコルビン酸,亜硫酸水素ナトリウム,ピロ亜硫酸ナトリウムなどがあげられる。保存剤としては,フェノール,チメロサール,塩化ベンザルコニウムなどがあげられる。
【0064】
本発明の抗体と組み合わせる薬剤として,関節疾患治療剤,抗炎症剤,鎮痛剤,骨再生剤,骨吸収抑制剤,抗生物質,または成長剤など,関節疾患に用いられる公知の薬剤があげられる。また,本発明の抗Fas抗体を含む剤を注射などによって投与する際,注射による疼痛が起こりうるので,無痛化剤を含ませてもよい。このような薬剤は1種または2種以上組み合せてもよい。
【0065】
関節疾患治療剤として,例えば関節軟骨細胞外マトリックス分解阻害剤(WO2004/017996号パンフレット),副腎皮質ホルモン剤やコンドイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸(hyaluronic acid(HA))などの関節軟骨の保護剤,又はシグナル伝達系阻害剤であるp21活性化キナーゼ(PAK)阻害剤(特表2007−537134号公報)などがあげられる。
【0066】
抗炎症剤として,ステロイド性抗炎症剤や非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)などがあげられる。ステロイド性抗炎症剤は,たとえば,デキサメタゾン,コルチゾン,ヒドロコルチゾン,プレドニゾロン,メチルプレドニゾロン,ベタメタゾン,トリアムシノロン,トリアムシノロンアセトニド,フルオシノロンアセトニド,フルオシノニド,ベクロメタゾン,エテンザミドなどがあげられる。非ステロイド性抗炎症剤として,たとえば,アスピリン,イブプロフェン,ナプロキセン,ジクロフェナク,インドメタシン,ナブトメン,フェニルブタゾン,ロフェコキシブ,セレコキシブ,オキシカム,ピロキシカム,ピラゾロン,アザプロパゾンなどがあげられる。
【0067】
鎮痛剤として,消炎鎮痛薬でもあるNSAIDsに加えて,オピオイド系鎮痛薬などがあげられる。オピオイド系鎮痛薬としては,たとえば,エンドルフィン,ダイノルフィン,エンケファリン,コデイン,ジヒドロコデイン,デキストロプロポキシフェンなどがあげられる。
【0068】
骨吸収抑制剤として,エストロゲン剤,カルシトニン及びビスホスホネートのいずれか1種又は2種以上の混合物があげられる。
【0069】
抗生物質として,ペニシリン系抗生物質,セフェム系抗生物質,アミノグリコシド系抗生物質,マクロライド系抗生物質,テトラサイクリン系抗生物質,ペプチド系抗生物質などの抗生物質があげられる。ペニシリン系抗生物質としては,ベンジルペニシリン,フェノキシメチルペニシリン,メチシリン,フルクロキサシリン,アモキシシリン,アンピシリン,ピペラシリン,アズロシリン,チカルシリンなどがあげられる。セフェム系抗生物質としては,セファゾリン,セフロキシム,セファマンドール,セフォタキシム,セフォペラゾン,セフピラミド,セファレキシン,セファクロール,セフィキシム,セフテラムなどがあげられる。アミノグリコシド系抗生物質としては,ゲンタマイシン,ネチルマイシン,トブラマイシン,ストレプトマイシン,ネオマイシン,カナマイシン,アミカシンなどがあげられる。マクロライド系抗生物質としては,エリスロマイシン,クラリスロマイシン,ロキシスロマイシン,ロキタマイシン,クリンダマイシン,アジスロマイシンなどがあげられる。テトラサイクリン系抗生物質として,テトラサイクリン,ミノサイクリン,ドキシサイクリンなどがあげられる。この他に,β−ラクタム系抗生物質として,ラタモキセフ,フロモキセフ,アズスレオナム,イミペネム,パニペネムがあげられる。また,この他にバンコマイシン,リファンピシン,クロラムフェニコールなどがあげられる。
【0070】
成長剤として,骨形成因子(BMP),骨増殖因子(BGF),血小板由来増殖因子(PDGF),塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF),インスリン,インスリン様増殖因子(IGF),ホルモン,サイトカイン,又はトランスフォーミング増殖因子(TGF)などがあげられる。これらの成長剤は,1種または2種以上含ませることができ,また更に他の薬効を有する公知の薬剤と組み合わせてもよい。
【0071】
無痛化剤は,注射による疼痛が,液剤のpH及び浸透圧が体液と著しく異なる場合であるのか,薬剤にそのものの作用によって起こるのかによって異なる薬剤を使用する。疼痛がpH,浸透圧によって起こりうる場合は,緩衝剤や等張化剤などを含む液剤とすることが好ましい。一方,薬剤そのものの作用によって疼痛が起こりうる場合は,局所麻酔剤などをもちいるとよい。局所麻酔剤としては,例えば,ベンジルアルコール,クロロブタノール,塩酸プロカイン,塩酸リドカイン,塩酸ジブカイン,塩酸メピバカインなどがあげられ,公知の薬剤を用いればよい。
【0072】
上記のように製造された本発明のIgM型抗Fas抗体を有効成分として含む剤は,変形性関節症もしくは変形性関節症性関節炎の患者に有効量投与する治療方法又は予防方法として利用することができる。また,本発明のIgM型抗Fas抗体を有効成分として含む剤は,軟骨基質分解酵素産生を抑制するため,軟骨基質の産生を促進又は改善させるため,及び変形性関節症で誘導されるマクロファージにアポトーシス誘導を誘導させるために,患者に有効量を投与する治療方法または予防方法として利用することができる。すなわち,本発明は,対象に有効量のIgM型抗Fas抗体を投与する変形性関節症を治療又は予防方法;対象に有効量のIgM型抗Fas抗体を投与する変形性関節症性関節炎治療方法;対象に有効量のIgM型抗Fas抗体を投与する軟骨基質分解酵素産生抑制方法;対象に有効量のIgM型抗Fas抗体を投与する軟骨基質産生方法;変形性関節症により誘導されるマクロファージに対するアポトーシス誘導方法をも提供する。そして,これのIgM型抗Fas抗体の使用において,先に説明したそれぞれのパターンを組み合わせて用いることができる。
【0073】
本発明の剤は,経口用,または非経口用製剤として用いられるが,注射剤,点滴剤などの非経口用製剤として用いられるのが好ましい。非経口用製剤の投与方法は,公知の方法を用いればよく,特に限定されない。例えば,静脈注射,動脈注射,皮下注射,筋肉注射,点滴等があげられる。また,本発明の剤は,患部(例えば関節)に直接注射してもよく,また外科手術により患部を開口し投与することも可能である。当業者であれば,適宜,患者に適した投与方法を選択することができる。本発明の剤の主成分であるIgM型抗Fas抗体は,本発明の剤に有効量含まれていればよい。本発明の剤に含まれるIgM型抗Fas抗体の割合は,全重量を100重量部としたときに,1×10−3〜1×10重量部であればよく,1×10−2〜1×10−1重量部が好ましく,5×10−2〜5×10−1重量部がより好ましい。投与量は,投与する対象,年齢,症状などによって変化する。一般的には,1日の投与量は,抗体の有効成分で個体あたり1ng〜100μgがあげられ,好ましくは10ng〜10μgであり,より好ましくは100ng〜1μgである。または,体重1kg当たり10pg〜2μgがあげられ,好ましくは100pg〜200ngであり,より好ましくは1ng〜20ngである。好ましくは,1日分の投与量を2〜5回に分けて投与することが好ましい。また,本発明の剤を徐放製剤として,1日当たりの投与回数を減らすことも可能である。このような徐放製剤とするには,公知の方法を利用すればよい。分けて投与したり,徐放製剤としたりすることで,生体内の薬剤濃度を一定に保ちやすくなるので,持続した薬効が得やすくなり,さらに副作用が軽減されうるので,患者への負担を減らすことができる。
【0074】
以下,本発明について具体的に実施例に基づいて説明するが,本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
培養細胞の樹立
インフォームド−コンセントを得た後,変形性関節症患者の手術組織から骨軟骨組織と末梢血を採取し,下記の方法により,滑膜繊維芽細胞,軟骨細胞,マクロファージを採取した。
【0076】
滑膜繊維芽細胞
インフォームド−コンセントを得た後,変形性関節症患者の手術組織から滑膜組織を採取し,細切したのち1.0mg/mlコラゲナーゼ(collagenase)を含有する液体低グルコースDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM,Gibco社製)培地内(37℃)で一晩処理し,培養滑膜繊維芽細胞を分離した。通常,細胞は培養フラスコ(培養面積25cm)で培養し,実験に使用する際にはポリエチレン製培養皿(直径6cm)で培養した。細胞培養はDMEM培地に非働化ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum(FBS),Heat−inactivated,TRACE社製)を培地容量の10%添加し,さらに2mM L−グルタミン,25mM HEPES,100units/mlのペニシリンとストレプトマイシンを添加したものを使用し,37℃,飽湿下,5%CO+95%airに設定したCOインキュベーター(正常酸素濃度環境)で行った。細胞の継代は,リン酸緩衝液(PBS,ニッスイ社製)で洗浄後,0.25%トリプシン−PBS液(Gibco社製)を用いて細胞を剥離させ,ピペッティングで細胞を分散させた後,培地で適当な濃度に希釈した。
【0077】
軟骨細胞
インフォームド−コンセントを得た後,変形性関節症患者の手術組織から軟骨組織を採取し,細切したのち1.5mg/mlコラゲナーゼB(collagenase B)を含有する液体低グルコースDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM,Gibco社製)培地内(37℃)で一晩処理し,培養軟骨細胞を分離した。通常,細胞は培養フラスコ(培養面積25cm)で培養し,実験に使用する際にはポリエチレン製培養皿(直径6cm)で培養した。細胞培養はDMEM培地に非働化ウシ胎児血清(FBS,TRACE社製)を培地容量の10%添加し,さらに2mM L−グルタミン,25mM HEPES,100units/mlのペニシリンとストレプトマイシンを添加したものを使用し,37℃,飽湿下,5%CO+95%airに設定したCOインキュベーター(正常酸素濃度環境)で行った。細胞の継代は,リン酸緩衝液(PBS,ニッスイ社製)で洗浄後,0.25%トリプシン−PBS液(Gibco社製)を用いて細胞を剥離させ,ピペッティングで細胞を分散させた後,培地で適当な濃度に希釈した。
【0078】
マクロファージ
インフォームド−コンセントを得た後,上記手術検体を採取した患者から50mlの採血を行い,1%へパリン加血を得た。この血液をリンパ球分離液に重層した遠心管を1500回転/分で30分遠心して,リンパ球とマクロファージをそれぞれ分離した。細胞培養はRPMI培地に非働化ウシ胎児血清(FBS,TRACE社製)を培地容量の10%添加し,さらに2mM L−グルタミン,25mM HEPES,100units/mlのペニシリンとストレプトマイシンを添加したものを使用し,37℃,飽湿下,5%CO+95%airに設定したCOインキュベーター(正常酸素濃度環境)で行った。
【0079】
2層式トランスウェルチャンバーを用いた細胞培養
3μmポアサイズの多孔フィルターで仕切られた2層式トランスウェルチャンバー(東洋紡)の上層部に滑膜繊維芽細胞(1×10個/ウェル)又はマクロファージ(1×10個/ウェル)を,下層部に軟骨細胞(1×10個/ウェル)を播種し培養した。この培養系の上層(炎症性細胞培養層)は滑膜炎に相当し,下層(軟骨培養層)は軟骨組織に相当する。各種濃度(0.1,1.0,10.0ng/ml)のIgM型抗Fas抗体をチャンバー上層に添加または非添加の条件下で,上層に炎症性サイトカイン(TNF−α:10ng/mlまたはIL−1β:10ng/ml)を添加して,48時間培養した。経時的に培養上清と細胞を回収して,下記の実験方法によって各種の細胞活性を解析した。
【実施例2】
【0080】
IgM型抗Fas抗体による軟骨基質分解酵素(MMP)産生の抑制作用の検討
軟骨異化誘導因子TNF−αにより増強する軟骨基質分解酵素産生に対する,IgM型抗Fas抗体(CH−11(マウス抗体)(MBL社製))の影響を,酵素結合イムノアッセイ法(ELISA)を用いて解析した。検討に用いたIgM型抗Fas抗体(CH−11)は,マウスミエローマ細胞NS−1とBalb/cマウスの脾臓を融合して得られたハイブリドーマから産生される抗体である。ハイブリドーマはヒト2倍体繊維芽細胞株(Human diploid fibroblast cell line)FS−7由来の抗原から作製されたものである。
【0081】
上記の方法で分離培養した軟骨細胞をトランスウェルチャンバーの下層に,滑膜繊維芽細胞を上層にそれぞれ1×10個/ウェルで播種した。上層にはTNF−α:10ng/mlを添加した。さらに各種濃度(0.1,1.0,5.0,10.0ng/ml)のIgM型抗Fas抗体,またはヒアルロン酸製剤(HA)を上層に下記表1の組み合わせとなるように添加し,48時間培養した後,培養液を回収した。また,比較対照としてヒアルロン酸製剤(HA)(0.1,1.0mg/ml)を用いた。検討条件の組み合わせを下記の表5に示した。表5中,TNF−α(+)のTNF−α濃度は,10ng/mlである。HAの濃度単位はmg/ml,IgM型抗Fas抗体CH−11の濃度単位はng/mlである。表1のNo.1はネガティブコントロール(Negative control)を,No.2はポジティブコントロール(Positive control)である。
【表5】

【0082】
培養上清中の軟骨基質分解酵素マトリックスメタロポロテアーゼ(MMP)−1,MMP−3濃度は,当技術分野で現在既知の標準的な技術であるELISAキット(MMP−1,MMP−3:R&D社製)を用いて決定した。このELISAは以下の標準的方法によって行った。ELISAは例数6(n=6)で行った。希釈した培養上清サンプルを感作プレート1ウェルあたり100μl添加し,室温に1時間静置した(1次反応)。1次反応後,洗浄瓶を用いて,各ウェルをPBSで4回以上,十分に洗浄した。0.1%Tween20−PBSで3000倍希釈したホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase:HRP)標識ヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体を各ウェルに100μlずつ分注し,室温に1時間静置した(2次反応)。2次反応後,同様に,PBSで洗浄した後,0.8mM TMB(テトラメチルベンジジン:Tetramethylbenzidine)溶液を1ウェルあたり100μl添加し,30℃で5〜20分間発色させた(発色反応)。1.5N HPOを1ウェルあたり100μlずつ加えて発色反応を停止させ,マイクロタイタープレートリーダー(microtiter plate reader)を用いて,450nmにおける吸光度を測定した。製造元によって提供された説明書に従って,コントロール凍結乾燥試薬を用いて測定濃度を較正し,有意差検定を行った。その結果を図2に示した。図中,*は有意差検定の棄却率(P値)が0.05未満(P<0.05)を示し,**は有意差検定の棄却率(P値)が0.01未満(P<0.01)であったことを示す(以下,同じ)。
【0083】
図2AはIgM型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP1産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図2Aの縦軸は,軟骨細胞から産生されたMMP1を,培養培地1mlあたりの濃度で示している。結果,TNF−α刺激により増強される軟骨基質分解酵素(MMP1)産生に対する抑制能は,HA単独(No.3及び4)に比べて,IgM型抗Fas抗体(No.5〜8)の方が高いことが分かった。よって,IgM型抗Fas抗体は,MMP1産生を効果的に抑制することができることが示された。
【0084】
図2BはIgM型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP3産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図2Bの縦軸は,軟骨細胞から産生されたMMP3を,培養培地1mlあたりの濃度で示している。結果,TNF−α刺激により増強される軟骨基質分解酵素(MMP3)産生に対する抑制能は,HA単独(No.3及び4)に比べて,IgM型抗Fas抗体(No.5〜8)の方が高いことが分かった。よって,IgM型抗Fas抗体は,MMP3産生を効果的に抑制することができることが示された。
【0085】
図2において,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質分解酵素であるMMPの産生を効果的に抑制することが示された。上記したとおり,MMPは関節軟骨を分解する。そのため,MMPは変形性関節症を惹起したり,変形性関節症の症状を悪化させたりする原因となりうる。本実施例で示したとおり,IgM型抗Fas抗体は,MMPの産生を抑制する。これにより,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症の惹起を抑制でき,また変形性関節症の症状の悪化を抑制することができる。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症の予防剤として好適に用いることができる。さらに,MMP1及びMMP3は,免疫応答にも関与しているので,IgM型抗Fas抗体は,MMP1及びMMP3の産生を抑制することで,変形性関節症の発症後に惹起される変形性関節症性関節炎の予防剤または治療剤としても用いることができる。
【実施例3】
【0086】
IgM型抗Fas抗体による軟骨基質産生能低下に対する改善作用の検討
軟骨異化誘導因子TNF−αまたはIL−1βにより低下する軟骨基質(プロテオグリカン)産生能に対する,IgM型抗Fas抗体の抑制効果の有無をELISAを用いて解析した。
上記IgM型抗Fas抗体による軟骨基質分解酵素酸性の抑制作用の検討で用いた方法と同様に,トランスウェルチャンバーの下層には軟骨細胞を,上層にはマクロファージをそれぞれ1×10個/ウェルで播種した。上層にはTNF−α:10ng/mlまたはIL−1β:10ng/mlを添加した。さらに各種濃度(1.0,10.0ng/ml)のIgM型抗Fas抗体を上層に添加又は非添加条件下で48時間培養した後,培養液を回収した。培養上清中の軟骨基質(プロテオグリカン)産生量(濃度)は,当技術分野で現在既知の標準的な技術であるELISAキット(プロテオグリカン:Biosource社製)を用いて決定した。その結果を図3に示した。
【0087】
図3は,IgM型抗Fas抗体による軟骨基質(プロテオグリカン)産生能低下に対する効果を示す図面に替わるグラフである。図3の縦軸は,プロテオグリカン産生量を示す。縦軸の値が高いほど,プロテオグリカンが産生されている。すなわち,IgM型抗Fas抗体によってTNF−αによって抑制されるプロテオグリカン合成能が改善されたことを示す。結果,IgM型抗Fas抗体は,TNF−α及びIL−1βによって抑制される軟骨基質(プロテオグリカン)合成能を改善することができることが分かった。
【0088】
図3において,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質(プロテオグリカン)の合成を改善することが示された。変形性関節症では,病態として関節軟骨の破壊が観察される。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症で破壊されている関節軟骨の再生に必要な軟骨基質(プロテオグリカン)の合成を改善することができるので,変形性関節症の治療剤として好適に用いることができる。
【実施例4】
【0089】
IgM型抗Fas抗体の対アポトーシス抑制効果
軟骨異化誘導因子TNF−αにより誘導される軟骨細胞のアポトーシスに対する,IgM型抗Fas抗体の抑制効果の有無を,ApoStand ELISA Apotosis Detection Kit(Biomol International社)を用いて検討した。これは,アポトーシスを起こした細胞のDNAをホルムアミドで特異的に変性させ,変性したDNAを抗single−stranded DNA抗体で検出することにより,アポトーシスを定量的に検出することのできるキットである。
【0090】
上記IgM型抗Fas抗体による軟骨基質分解酵素酸性の抑制作用の検討で用いた方法と同様に,トランスウェルチャンバーの下層には軟骨細胞を,上層にはマクロファージをそれぞれ1×10個/ウェルで播種した。上層にはTNF−α:10ng/mlを添加した。さらにIgM型抗Fas抗体(10.0ng/ml)を上層に添加または非添加下で48時間培養した。培地・誘導物質を除去し,キットに付属の細胞固定液を加えて細胞を固定した。その後,溶液を除去・乾燥後,ホルムアミドを加え,56℃で加熱し,アポトーシスを起こした細胞のDNAを熱変性させた。冷却後,ホルムアミドを除去してブロッキング溶液(Blocking solution)を加え,ブロッキングを行った。ブロッキング溶液を除去し,抗single−stranded DNA(ssDNA)抗体を加えて,室温で4時間培養した。PBSで3回洗浄後,Peroxidase substrateを加えて405nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。その結果を図4に示した。
【0091】
図4は,IgM型抗Fas抗体のアポトーシス抑制効果を示す図面に替わるグラフである。図4の縦軸は,細胞の核のアポトーシスの割合(%)を示す。すなわち,値が低いほど,アポトーシスが抑制されたことを示す。その結果,IgM型抗Fas抗体は,TNF−αによって引き起こされる軟骨細胞のアポトーシスを抑制することができることが分かった。なお,変形性関節症では,TNF−αが誘導された状態であることが知られている。よって,本実施例によって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症で引き起こされる軟骨細胞のアポトーシスを抑制できることが示された。
【0092】
図4において,IgM型抗Fas抗体が,マクロファージによる軟骨細胞死を抑制することが示された。よって,IgM型抗Fas抗体は,軟骨変性を抑制すると考えられ,変形性関節症の治療剤または予防剤として好適に用いることができる。また,これらの作用は,IgM型抗Fas抗体がマクロファージのアポトーシスを誘導したためと考えられる。マクロファージは炎症性サイトカインを誘導することが知られている。よって,IgM型抗Fas抗体は,マクロファージのアポトーシスを誘導することで,マクロファージからの炎症性サイトカインの放出を抑制し,炎症反応を抑制する。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症によって惹起されうる2次炎症反応(変形性関節症性関節炎)に対する予防剤及び治療剤として用いることができる。
【実施例5】
【0093】
アポトーシス誘導能のあるアゴニスト抗Fas抗体のOA治療薬としてのポテンシャルについて,抗体のアイソタイプ(IgG型とIgM型)の違いによる該ポテンシャルの違いをin vitro実験系において評価した。IgG型抗体は,UB2(MBL社製)及びZB4(MBL社製)を用いた。IgM型抗体は,CH−11(MBL社製)及び7C11(Beckman Coulter社製)を用いた。それぞれのコントロールは,IgG isotype control(SouthernBiotech社製)及びIgM isotype control(SouthernBiotech社製)を用いた。
【0094】
培養細胞の樹立
インフォームド−コンセントを得た後,変形性関節症患者5名(n=5)の手術組織から骨軟骨組織と末梢血を採取し,実施例1と同様の方法により滑膜繊維芽細胞,軟骨細胞,及びマクロファージを採取した。
【0095】
2層式トランスウェルチャンバーを用いた細胞培養
3mmポアサイズの多孔フィルターで仕切られた2層式トランスウェル チャンバー(東洋紡社製)の上層部に滑膜線維芽細胞(1×10個/ウェル)またはマクロファージ(1×10個/ウェル)を,下層部に軟骨細胞(1×10個/ウェル)を播種し培養した。この培養系の上層(炎症性細胞培養層)は滑膜炎に相当し,下層(軟骨培養層)は軟骨組織に相当する。
各種の上記Fas抗体またはisotype controlをチャンバー上層へ添加下または非添加下で,上層に炎症性サイトカイン(TNF−α:10ng/ml)を添加して48時間培養した。経時的に培養上清と細胞を回収して,下記の実験方法によって各種の細胞活性を解析した。
【0096】
アイソタイプ別抗Fas抗体による軟骨基質分解酵素(MMP)産生の抑制作用
軟骨異化誘導因子TNF−αにより増強する軟骨基質分解酵素産生に対する,アイソタイプ別の抗Fas抗体の影響を,酵素結合イムノアッセイ法(ELISA)を用いて解析した。
上記の方法で分離培養した軟骨細胞をトランスウェルチャンバーの下層に,滑膜線維芽細胞を上層にそれぞれ1×10細胞/ウェルで播種した。上層にはTNF−α:10ng/mlを添加した。さらに各種濃度(0.01nM)の各種Fas抗体を上層に添加下または非添加下に48時間培養した後,培養液を回収した。
培養上清中の軟骨基質分解酵素マトリックスメタロポロテアーゼ(MMP)−1,MMP−3濃度は,当技術分野で現在既知の標準的な技術であるELISAキット(MMP−1,MMP−3(R&D社製))を用いて決定した。なお,ELISAは上記した方法と同様に行った。その結果を図5に示した。
【0097】
図5AはIgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP1産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図5Aの縦軸は,軟骨細胞から産生されたMMP1を,培養培地1mlあたりの濃度で示している。図5A中,No.1はネガティブコントロール(Negative control),No.2はポジティブコントロール(Positive control)を示す。その結果,TNF−α刺激により増強される軟骨基質分解酵素(MMP1)産生に対する抑制能は,IgG型抗Fas抗体(No.5〜6)に比べて,IgM型抗Fas抗体(No.7〜8)の方が高いことが分かった。よって,IgM型抗Fas抗体は,MMP1産生を効果的に抑制することができるといえる。
【0098】
図5BはIgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体が軟骨細胞のMMP3産生能に与える影響を示す図面に替わるグラフである。図5Bの縦軸は,軟骨細胞から産生されたMMP3を,培養培地1mlあたりの濃度で示している。図5B中,No.1はネガティブコントロール(Negative control),No.2はポジティブコントロール(Positive control)を示す。その結果,TNF−α刺激により増強される軟骨基質分解酵素(MMP3)産生に対する抑制能は,IgG型抗Fas抗体(No.5〜6)に比べて,IgM型抗Fas抗体(No.7〜8)の方が高いことが分かった。よって,IgM型抗Fas抗体は,MMP3産生を効果的に抑制することができるといえる。
【0099】
図5において,IgM型抗Fas抗体は,軟骨基質分解酵素であるMMPの産生を効果的に抑制することが示された。上記したとおり,MMPは関節軟骨を分解する。そのため,MMPは,変形性関節症を惹起したり,変形性関節症の症状を悪化させたりする原因となりうる。本実施例で示したとおり,IgM型抗Fas抗体は,MMPの産生を抑制する。これにより,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症の惹起を抑制でき,また変形性関節症の症状の悪化を抑制することができる。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症の予防剤として好適に用いることができる。さらに,MMP1及びMMP3は,免疫応答にも関与しているので,IgM型抗Fas抗体は,MMP1及びMMP3の産生を抑制することで,変形性関節症の発症後に惹起される変形性関節症性関節炎の予防剤または治療剤としても用いることができる。
【実施例6】
【0100】
アイソタイプ別抗Fas抗体の対アポトーシス抑制効果
軟骨異化誘導因子TNF−αにより誘導される軟骨細胞のアポトーシスに対する,アイソタイプ別抗Fas抗体の抑制効果の有無を,ApoStand ELISA Apoptosis Detection Kit(Biomol International社)を用いて検討した。
【0101】
上記の方法と同様に,2層式トランスウェルチャンバーを用いて細胞培養を行った。トランスウェルチャンバーの下層には軟骨細胞を,上層にはマクロファージをそれぞれ1×10細胞/ウェルで播種した。上層にはTNF−α:10ng/mlを添加した。さらに各種の抗Fas抗体(0.01nM)を上層に添加下または非添加下に48時間培養した。培地・誘導物質を除去し,キット内の細胞固定液を加えて細胞を固定した。その後,溶液を除去・乾燥後,ホルムアミドを加え,56℃で加熱し,アポトーシスを起こした細胞のDNAを熱変性させた。冷却後,ホルムアミドを除去してブロッキング溶液(Blocking solution)を加え,ブロッキングを行った。ブロッキング溶液を除去し, 抗single−stranded DNA(ssDNA)抗体を加えて室温で4時間培養した。PBSで3回洗浄後,Peroxidase substrateを加えて405nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。その結果を図6に示した。
【0102】
図6は,IgM型抗Fas抗体又はIgG型抗Fas抗体のアポトーシス抑制効果を示す図面に替わるグラフである。図6の縦軸は,細胞の核のアポトーシスの割合(%)を示す。すなわち,値が低いほど,アポトーシスが抑制されたことを示す。図6中,No.1はネガティブコントロール(Negative control),No.2はポジティブコントロール(Positive control)を示す。その結果,IgM型抗Fas抗体は,IgG型抗Fas抗体と比較して,TNF−αによって引き起こされる軟骨細胞のアポトーシスを抑制することができることが分かった。なお,変形性関節症では,TNF−αが誘導された状態であることが知られている。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症で引き起こされる軟骨細胞のアポトーシスを抑制できることが示された。
【0103】
図6において,IgM型抗Fas抗体が,マクロファージによる軟骨細胞死を効果的に抑制することが示された。よって,IgM型抗Fas抗体は,軟骨変性を効果的に抑制すると考えられ,変形性関節症の治療剤または予防剤として好適に用いることができる。また,これらの作用は,IgM型抗Fas抗体がマクロファージのアポトーシスを誘導したためと考えられる。マクロファージは炎症性サイトカインを誘導することが知られている。よって,IgM型抗Fas抗体は,マクロファージのアポトーシスを誘導することで,マクロファージからの炎症性サイトカインの放出を抑制し,炎症反応を抑制する。よって,IgM型抗Fas抗体は,変形性関節症によって惹起されうる2次炎症反応(変形性関節症性関節炎)に対する予防剤及び治療剤として用いることができる。
【実施例7】
【0104】
変形性関節症モデルラットに対するIgM型抗Fas抗体の効果
変形性関節症を誘導したラットを用いて,IgM型抗Fas抗体CH−11の薬効評価試験を行った。
【0105】
変形性関節症モデルラットの作製
ラット(Wister rat,体重200g〜250g)を約1週間検疫・馴化飼育した後,塩酸ケタミン(ファイザー(株)社製,ケタラール100)及びキシラジン塩酸塩の併用麻酔(筋肉内投与),麻酔効果が弱い場合は上記混合麻酔溶液またはペントバルビタール・Naを静脈内投与下で左右の膝関節部位を除毛し,ヨード系消毒液であるイソジンで消毒した。消毒後,膝関節内側の表皮を切開,内側側副靱帯を切断した後,関節包を確認・切開し,内側半月板を露出・全摘出する。関節包の周囲組織及び表皮を縫合した。縫合の際には抗生物質(注射用アンピシリンナトリウム)を含む生理食塩水(500mg(力価)/20ml)で術部を洗浄した。
作製した変形性関節症モデルラットは下記表6に示したようにサブグループに分けて,被験物質又は対象液を27ゲージの注射針を用いて,週1回24週にわたり関節内注射した。
【表6】

【0106】
病理学的検査
4週毎に5匹ずつ,ペントバルベタール・Na(静脈内投与)の深麻酔下で放血により安楽死させた後に剖検した。8,12,及び24週目の計画剖検例については,左右膝関節組織,心臓,肺,肝臓,脾臓,腎臓,脳,精巣,及び精嚢を採取し,4%パラフォルムアルデヒド溶液で固定した。関節組織についてはプランク・リュクロ脱灰液で脱灰,中和後,パラフィン包埋,薄切りした標本について,ヘマトキシリン−エオジン染色及びサフラニンO染色を行った。その他の器官についてはパラフィン包埋,薄切りした標本について,ヘマトキシリン−エオジン染色を行い,光学顕微鏡による病理組織学的検査を実施した。
【0107】
IgM型抗Fas抗体投与による関節症病理組織スコアへの影響
作製した変形性関節症モデルラットを3群に分け,コントロール群(表3中A及びB)の左膝関節には生食またはコントロール抗体溶液(10.0ng/ml)50.0μlを,CH−11投与群(表3中C及びD)の左膝関節にはCH−11(低用量投与群:1.0ng/ml,高用量投与群:10.0ng/ml)50.0μlを,micro−needle注射シリンジを用いて週1回注入した。各群は例数4(n=4)で行った。関節炎及び関節症の病勢(関節症病理組織スコア)は,処置後4週目,8週目,12週目,16週目及び24週目に観察し,2群間の差をStudent’s T法で統計学的に比較した。両群とも右膝関節は無処置として,関節炎の発症と進行の程度を比較観察した。その結果を図7に示した。なお,関節症病理組織スコアは,上記表4に示した修正Mankinスコアを用いた。
【0108】
図7AはサフラニンO染色の結果を示す。図7Bは軟骨細胞欠損の結果を示す。図7Cは軟骨構造の結果を示す。図7A〜図7Cの縦軸は各スコアを示し,横軸は経時変化を示す。図7A〜図7Cの結果,コントロール群のラット膝関節の軟骨変性度(修正Mankinスコア)は,スコアの各項目(表4:A〜C)ともに経時的な増強が観察され,関節症の誘導と増悪(変形性関節症の初期段階から進行期段階への移行)が確認された。これに対して,CH−11投与群のスコアは,投与開始後8週目からコントロール群の平均スコアに比べて低値を示す傾向にあり,12週目以降ではCH−11低用量投与群,CH−11高用量投与群ともに統計学的有意差がみられた。よって,IgM型抗Fas抗体CH−11は,初期〜進行期段階の変形性関節症モデルラットにおいて,軟骨変性を抑制することが示された。よって,IgM型抗Fas抗体は,軟骨変性をともなう変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患の治療に効果的に用いることができることが示された。
【実施例8】
【0109】
IgM型抗Fas抗体投与による病理組織への影響
変形性関節症モデルラットにIgM型抗Fas抗体を投与した時の各組織への影響を,上記の病理組織学的検査によって調べた。変形性関節症モデルラットは,処置後12週目及び24週目のラットを用いた。それぞれのラットの膝関節組織の病理標本を光学顕微鏡で観察・撮影した結果を図8及び図9に示した。図8及び図9中,「×40」及び「×200」は,光学得顕微鏡の倍率を示す。
【0110】
図8は,処置後12週目の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す図面に替わる写真である。図8A〜図8Fはコントロールの変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8G〜図8JはCH−11低用量投与群(CH−11:1.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8K〜図8NはCH−11高用量投与群(CH−11:10.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8Oはコントロールの変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8PはCH−11低用量投与群(CH−11:1.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図8B,図8D,図8F,図8G,図8I,図8K及び図8Mは,それぞれ図8A,図8C,図8E,図8H,図8J,図8L及び図8N中,四角で囲った部分を拡大した図面に替わる写真である。
【0111】
図8の結果から,コントロール群(図8A〜図8F及び図8O)では,CH−11投与群(図8G〜図8N及び図8P)と比較して,軟骨変性(軟骨細胞のクラスタリングや軟骨細胞の消失)が認められた。なお,軟骨細胞のクラスタリングは,サフラニンOによる染色箇所の増加から判断することができる。そして,軟骨細胞の消失は,図8O及び図8Pで示したとおり,サフラニンO(SO)の染色性低下から判断することができる。この結果から,CH−11を投与することによって,軟骨変性を抑制することができるので,CH−11は軟骨変性を伴う変形性関節症を治療又は予防することができることが示された。
【0112】
図9は,処置後24週目の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す図面に替わる写真である。図9A〜図9Hはコントロールの変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図9I〜図9LはCH−11低用量投与群(CH−11:1.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図9M〜図9PはCH−11高用量投与群(CH−11:10.0ng/ml投与)の変形性関節症モデルラットの膝関節組織病理標本を示す。図9B,図9D,図9F,図9H,図9I,図9K,図9M及び図9Oは,それぞれ図9A,図9C,図9E,図9G,図9J,図9L,図9N及び図9P中,四角で囲った部分を拡大した図面に替わる写真である。
【0113】
図9の結果から,コントロール群(図9A〜図9H)では,CH−11投与群(図9I〜図9P)と比較して,軟骨変性(軟骨細胞の消失や軟骨基質構造変性)が認められた。このことから,CH−11を投与することによって,軟骨変性を抑制することができるので,CH−11は軟骨変性をともなう変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患を治療又は予防することができることが示された。
【0114】
さらに,本変形性関節症モデルラットでは,CH−11の関節内投与群は,コントロールラット群と比較して,有意に二次性滑膜炎(炎症)並びに軟骨変性の抑制が観察された。さらにCH−11の関節内投与群は,試験後期にコントロールラットで観察される骨増殖性変化(骨棘)がほとんど観察されなかった。なお,膝関節以外の臓器(心臓,肺,肝臓,脾臓,腎臓,脳,精巣及び精嚢)については,コントロール群とCH−11投与群との間に組織学的な相違は特に見られなかった。よって,IgM型抗Fas抗体であるCH−11は,動物においても変形性関節症の初期段階〜進行期段階に分類される疾患を特異的に抑制することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の治療剤または予防剤は,医薬産業で使用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形性関節症のICRS分類においてグレード1〜3のいずれかに分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用。
【請求項2】
前記IgM型抗Fas抗体は,
Fas抗原の細胞外ドメインに対するIgM型抗Fas抗体である,
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記IgM型抗Fas抗体は,
CH11又は7C11である,
請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記IgM型抗Fas抗体は,モノクローナル抗体である請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記IgM型抗Fas抗体は,ヒト型Fas抗原と特異的に反応するモノクローナル抗体である請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記変形性関節症は,股関節,膝関節,又は膝軟骨における変形性関節症である,請求項1に記載の使用。
【請求項7】
変形性関節症のケルグレン−ローレンス(Kellgren−Lawrence)分類においてグレード1〜3のいずれかに分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用。
【請求項8】
IgM型抗Fas抗体を有効成分として含有し,さらに薬学的に許容される担体を含む,変形性関節症のアウターブリッジ(Outerbridge)分類においてグレード1〜3のいずれかに分類される疾患を治療又は予防するための治療剤又は予防剤を製造するためのIgM型抗Fas抗体の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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