説明

外ケーブル方式緊張鋼材を併用した複合構造梁

【課題】PC造部材と鉄骨造部材との接合部の安全性を高めると共に、鉄骨造部材の過大なたわみ変形及び振動の発生を抑制する。
【解決手段】柱と梁とからなる建物の骨組構造を構成する複合構造梁1であり、両端部のPC造部材2と中央部の鉄骨造部材3とを機械式継手と緊張鋼材による緊張力によって接合したものである。この複合構造梁1は、柱梁接合部において、柱4と接合するためにPC造部材2に2次緊張鋼材5を柱4を貫通して配設すると共に、柱4にはPC造部材2を受ける顎41が設けてある。1次緊張鋼材10が、鉄骨造部材3の下面に外ケーブル方式で配設されて両端部のPC造部材2に緊張定着されており、過大な荷重で2次緊張鋼材5が破断してもPC造部材2と鉄骨造部材の接合部の接合力が1次緊張鋼材によって維持されるので接合部の安全性が保たれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレキャストコンクリート造部材(以下、PC造部材)と鉄骨造部材を組み合わせた複合構造梁に関するものであり、PC造部材と鉄骨造部材を連結する外ケーブル方式の緊張鋼材を使用することによってPC造部材と鉄骨造部材との接合部の安全性を高めたものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造部材の両端にPC造部材を接合した複合構造梁については、種々の提案がなされており、本願出願人は、柱と梁のPC造部材同士の接合部に発生する曲げ及びせん断応力に対して個別に対応することによって緊張鋼材量を合理的に決められるようにして経済的な建物構造が得られるようにした複合構造梁を特許文献1(特開2009−281066号公報)で提案した。
この発明は、PC造部材と鉄骨造部材との接合部において、機械式継手と緊張鋼材の緊張締結による接合の2種類の接合手段を用いるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−281066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6に示されるように、特許文献1の複合構造梁1は、両端のPC造部材2と鉄骨造部材3が一体化されており、PC造部材2と鉄骨造部材3は接合部において、機械式継手とPC造部材2に配設された緊張鋼材5の緊張力によって一体化されている。
この緊張鋼材5は、2次緊張鋼材として柱梁接合部において柱4を貫通して隣接スパンの複合構造梁1の鉄骨造部材3のエンドプレート30に端部が定着されており、梁柱接合部の接合材として機能すると共に、複合構造梁1の接合部の接合手段としても機能するものである。
【0005】
巨大地震等により設計荷重を超える荷重が作用してこの緊張鋼材5が破断された場合、柱梁接合部において、柱には梁受け用の顎が設けてあるので複合構造梁のPC造部材が落下する恐れはないが、PC造部材と鉄骨造部材の接合部においては、緊張鋼材によって付与されていたプレストレスが失われて接合力が弱まり、複合構造梁1の中央部の鉄骨造部材3が落下する恐れがある。
また、複合構造梁1の中央部の鉄骨造部材3は、両端のPC造部材2に比べて剛性が低いので、たわみ変形及び振動が生じ易く、想定外の荷重が作用すると過大な変形と振動が生ずるという問題がある。
本発明は、以上の問題点を解消しようとするものであり、PC造部材と鉄骨造部材との接合部の安全性を高めて想定外の荷重が作用しても鉄骨造部材が落下することがないようにして複合構造梁の安全性を高めると共に、鉄骨造部材の過大なたわみ変形及び振動の発生を抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
両端部がPC造部材で、中央部が鉄骨造部材の複合構造梁に、柱と接合するための2次緊張鋼材である緊張鋼材がPC造部材に配設されると共に、1次緊張鋼材である緊張鋼材が両端のPC造部材に配設されて梁の両端部に定着され、この緊張鋼材が鉄骨造部材の長手方向に外ケーブル方式で配設されて緊張された複合梁である。
【0007】
また、前記の外ケーブル方式の1次緊張鋼材を鉄骨造部材に対して所定のライズを設けて非直線状に張設することによって、鉄骨造部材に上向きの力(押し上げ力)を予め与えておいて荷重が作用したときの複合構造梁の応力を軽減するものである。
更に、前記の複合構造梁において、PC造部材に鉄骨造部材を受ける顎を設けることによって荷重の一部を顎に負担させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果を以下に列挙する。
(1)外ケーブル方式の1次緊張鋼材によって複合梁全体にプレストレスが付与されるので、梁柱及びPC造部材と鉄骨造部材の接合に使用されている2次緊張鋼材が万一破断しても、PC造部材と鉄骨造部材との接合部の接合力が1次緊張鋼材によって維持されて鉄骨造部材の落下が防止され、複合梁の安全性を高めることができる。
(2)鉄骨造部材に直線的に張設される1次緊張鋼材は、設計荷重範囲内においては、力学的に作用していないが、設計荷重を超える想定外の荷重による過大なたわみ変形や振動の発生を抑制するので、構造物が安定したものとなる。
(3)1次緊張鋼材を鉄骨造部材に対して所定のライズを設けて非直線状に張設することによって、鉄骨造部材に上方力(押し上げ力)を与え、鉄骨造部材が負担する応力を軽減するので、PC造部材と鉄骨造部材との接合部の安全性が高まるだけでなく、たわみ変形及び振動の発生を積極的に抑制する。また、鉄骨造部材の断面を減少させることができ、経済的である。
(4)PC造部材に鉄骨造部材を受ける顎を設けることによって、PC造部材と鉄骨造部材との接合部において、鉄骨造部材から伝達された荷重の一部を顎に負担させて1次緊張鋼材の鋼材量を減らすことができるので経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の複合構造梁の実施例1の正面図。
【図2】本発明の複合構造梁の実施例2の正面図。
【図3a】本発明の複合構造梁の実施例3aの正面図。
【図3b】本発明の複合構造梁の実施例3bの正面図。
【図4a】本発明の複合構造梁の実施例4aの正面図。
【図4b】本発明の複合構造梁の実施例4bの正面図。
【図5a】本発明の複合構造梁の実施例5aの正面図。
【図5b】本発明の複合構造梁の実施例5bの正面図。
【図5c】本発明の複合構造梁の実施例5cの正面図。
【図6】従来の複合構造梁の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施例を参照して本発明を更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0011】
図1に本発明の実施例1を示す。
柱と梁とからなる建物の骨組構造を構成する複合構造梁1であり、両端部のPC造部材2と中央部の鉄骨造部材3とは、例えばねじ節鉄筋とナットからなる機械式継手と2次緊張鋼材である緊張鋼材5による緊張力によって接合してある。柱4には複合構造梁1を受ける顎41が設けてあり、複合構造梁1の端部が載せられ、PC造部材2に配設した2次緊張鋼材5が柱4を貫通して隣のスパンの複合構造梁(図示しない)の鉄骨造部材のエンドプレート30に緊張定着されて複合構造梁1と柱4が接合される。なお、建物の端部においては、2次緊張鋼材5の一端は柱4に定着される。
【0012】
1次緊張鋼材10が両端のPC造部材2に配設されて複合構造梁1の両端部に定着してあり、PC造部材2の端面から引き出された1次緊張鋼材10が鉄骨造部材3の下面の長手方向に外ケーブル方式として直線状に張設されている。鉄骨造部材3の下面には適宜の間隔で支持材31が設けてあり、1次緊張鋼材10の位置が保持されている。
【0013】
1次緊張鋼材10がPC鋼より線の場合、PC鋼より線を構成する芯線と側線は夫々合成樹脂被膜が形成されたものを使用するのが設置後に追加の防錆処理が不要なので好ましい。なお、防錆処理されたPC鋼棒も1次緊張鋼材として使用可能である。
1次緊張鋼材10のPC造部材2への挿入、緊張作業はPC造部材2を製作する工場で実施するのが一般的であるが、運搬上制約がある場合には、複合構造梁1を設置する建設現場において地組とすることもできる。
2次緊張鋼材は、PC鋼棒、PC鋼より線またはPC鋼線のいずれでもよい。
【0014】
PC造部材2と鉄骨造部材3との接合部において、1次緊張鋼材10に加えてPC造部材2にインサートを打ち込んでボルトで補助的に連結し、架設時の安定性を確保してもよい。
柱梁接合部の複合構造梁1を受ける顎41の形状は、図1のように梁端断面高さの約半分で梁断面内部に内蔵させた形式(内蔵型)にしてもよいし、梁端断面の下に突出(図示しない)させて梁を受けるようにしたものでもよい。また、柱4の顎41はコンクリート製でも、鋼製としてもよく、材質は特に限定されるものではない。
【実施例2】
【0015】
図2に示すように、実施例2は、実施例1と基本的構造は変わるものでなく、PC造部材2と鉄骨造部材3の接合部において、PC造部材2に鉄骨造部材3を受ける顎21を設けたものである。この顎21に接合部の荷重を1次緊張鋼材10と分担して負担させる場合、顎21の大きさは、荷重負担割合によって決める。
【実施例3】
【0016】
実施例3は、1次緊張鋼材10を鉄骨造部材3に対して所定のライズ(R)を設けて鉄骨造部材3に対して非平行に張設したものである。図3aに示す例は、鉄骨造部材3の下面にライズを設けて配設して1次緊張鋼材10を緊張するものであり、ライズは、鉄骨部材3に上向きの力が作用するように配設してある。この上向きの力によって鉄骨造部材3が負担する応力が軽減され、たわみ及び振動の発生を積極的に抑制することになるものである。
建造物の天井高さや室内有効使用高さに制約があって、複合構造梁1の下面側にライズをとれない場合は、図3bに示すように、鉄骨造部材3の断面内において1次緊張鋼材10を鉄骨造部材3に対し非平行に配設して複合構造梁1に上向きの力を与える。
【実施例4】
【0017】
実施例4は、図4aに示すように、実施例2のPC造部材2に鉄骨造部材3を受ける顎21を設けたものに実施例3の1次緊張鋼材10を鉄骨部材3に対して上向きの力を作用させるためのライズを設けて配設することを適用したものであり、図4bに示す例は、鉄骨部材3の断面内に1次緊張鋼材10をライズを設けて配設したものである。
【実施例5】
【0018】
実施例5は、図5a〜図5cに示すように、鉄骨造部材3に空調や給排水用の配管を通すための貫通口32を設けたものである。鉄骨造部3の適宜の位置に1つまたは複数の貫通口を形成することによりこの貫通口を建造物の設備のための配管に利用することができる。貫通口32の周囲に補強材33を設けてせん断強度の低下を防止することが必要である。
【0019】
以上に説明した実施例は本発明の構成を限定するものでなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、1次緊張鋼材は防錆処理されたものに限定されることはなく、他の方法によって防錆処理する場合には、2次緊張鋼材と同じように、PC鋼棒、PC鋼より線またはPC鋼線から選択することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 複合構造梁
2 PC造部材
21 顎
3 鉄骨造部材
30 エンドプレート
31 支持材
4 柱
41 顎
5 梁柱接合用緊張鋼材(2次緊張鋼材)
10 緊張鋼材(1次緊張鋼材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部がPC造部材で、中央部が鉄骨造部材の複合構造梁であって、緊張鋼材が中央部の鉄骨造部材の長手方向に外ケーブル方式で配設され、両端のPC造部材に1次緊張鋼材として配設され、梁の両端部に定着されていることを特徴とする複合構造梁。
【請求項2】
請求項1において、1次緊張鋼材とする緊張鋼材が、鉄骨造部材の下面に支持材によって鉄骨造部材から間隔をあけて配設されていることを特徴とする複合構造梁。
【請求項3】
請求項1において、1次緊張鋼材とする緊張鋼材は鉄骨造部材に対して所定のライズを設けて配設されており、複合構造梁に上向きの力を付与していることを特徴とする複合構造梁。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、PC造部材に鉄骨造部材を受ける顎が設けてあることを特徴とする複合構造梁。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、鉄骨造部材の適宜の位置に貫通口が形成してあることを特徴とする複合構造梁。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127089(P2012−127089A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278218(P2010−278218)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)