説明

外部からの合図によるオンデマンドで可逆的な薬物放出

本発明は、ポリマーマトリックスを分解することなく、要求に応じてポリマーマトリックスから薬物を放出させる方法を提供する。生理環境において自己修復可能なポリマーマトリックスに超音波を適用することにより、当該マトリックスの完全性および剛性には影響を及ぼさないで、当該マトリックス内に封入された低分子量および高分子量の両方の化合物が、制御された速度で送達される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下、2009年2月10日に出願された米国仮特許出願第61/151,277号の恩典を主張するものであり、当該仮出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援
本発明は、国立衛生研究所により付与された助成金No.R37DEO13033に基づき、政府の支援を受けてなされた。よって、合衆国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、外部刺激に応じた、身体内のある特定の部位における薬物の制御された放出および生物製剤に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
ここ数十年にわたって、薬物送達のための生体適合性ポリマー系の開発には多くの進歩があった。概して、低分子量または高分子量の薬物を架橋ポリマーマトリックス中に封入し、その後、当該ポリマーにおける通常は不可逆的である物理的または化学的変化により、これらの薬物を生理環境中で放出させる。そのような変化の例としては、水和および膨潤状態、崩壊、破裂、ならびに分解が挙げられる(Langer 1990;Langer 1998;Uhrich 1999)。当該ポリマーのマクロスケールでの特性における永久的で不可逆な変化、または極めて一時的な変化のどちらかに対しても、この要件は問題がある。
【0005】
例えば、いくつかの薬物は、封入の際に様々な相互作用によって当該ポリマーマトリックスに結合し得、当該架橋されたポリマーマトリックスの分解の際に放出される(Bouhadir 2001)。しかしながら、この方式において放出された薬物は、依然として、マトリックスから放出されたポリマーに結合している場合があり、したがって、その生理活性も制限される。他の場合では、ポリマーの分解によって誘起されたpHおよびオスモル濃度における環境変化または分解生成物は、薬物化合物の活性または構造的完全性に影響を及ぼし得る。別の例として、薬物放出性ポリマーマトリックスは、充填剤または創傷被覆材(Thornton 2004)として使用することができ、この点において、分解、または物理特性における著しい変化(例えば、膨潤)の両方は、それらの機能を制限するであろう。
【0006】
近年、要求に応じて、かつ制御された速度で、ポリマーマトリックスから薬物を放出させる努力もなされてきた。この研究の多くが、診療所において非侵襲的に適用することができるであろう刺激の使用に関するものである(例えば、磁界、Cheng 2006)。薬物を含有するポリマーマトリックスに対して、それらの送達を促すために、機械的応力も適用されてきた(米国特許第6,748,954号)。放出速度は、機械的応力の適用に伴って増加するが、当該増加は正確に制御することができない。
【0007】
機械的応力の形態の1つとして、低周波数超音波がポリマーマトリックスに適用されてきた。超音波エネルギーは、キャビテーションを生じさせ、機械的応力を及ぼすことによって、ポリマーの分解を促進し、それによって薬物放出を引き起こす(米国特許第4,657,543号)。しかしながら、ポリマーの分解は、超音波では正確に制御することが困難であるため、薬物の放出速度の増加は、米国特許第4,657,543号の図2に示されているような不規則なパターンを生じる。その上、ポリマーの分解生成物は、上記において説明されたようないくつかの問題を生じる場合がある。
【0008】
したがって、ポリマーマトリックスを分解させることなく、または機械的強度を低下させることなく、制御された速度における、オンデマンドでの可逆的な薬物放出が可能なポリマーマトリックスを提供することは、有益であろう。
【発明の概要】
【0009】
一局面において、本発明は、外部からの合図に応じて、オンデマンドで生体活性剤を放出させるための方法であって、生体活性剤を含んだ生理的に許容される自己修復性ポリマーマトリックスを提供する工程と、当該薬物を放出させるために超音波により当該ポリマーマトリックスにおいてキャビテーションを誘起する工程とを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】1Wの超音波を1時間あたり5分間照射したときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのミトキサントロンの放出プロフィールを示す。図1Aおよび図1Bは、アルギン酸塩ヒドロゲルの実験群(図1A)および対照群(図1B)における超音波の出力プロフィールを示す。
【図1B】1Wの超音波を1時間あたり5分間照射したときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのミトキサントロンの放出プロフィールを示す。図1Aおよび図1Bは、アルギン酸塩ヒドロゲルの実験群(図1A)および対照群(図1B)における超音波の出力プロフィールを示す。
【図1C】1Wの超音波を1時間あたり5分間照射したときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのミトキサントロンの放出プロフィールを示す。図1Cおよび図1Dは、対応する放出速度を示す。
【図1D】1Wの超音波を1時間あたり5分間照射したときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのミトキサントロンの放出プロフィールを示す。図1Cおよび図1Dは、対応する放出速度を示す。
【図1E】1Wの超音波を1時間あたり5分間照射したときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのミトキサントロンの放出プロフィールを示す。図1Eおよび図1Fは、対応する累積放出量を示す。
【図1F】1Wの超音波を1時間あたり5分間照射したときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのミトキサントロンの放出プロフィールを示す。図1Eおよび図1Fは、対応する累積放出量を示す。
【図2】インビトロにおける乳癌細胞MCF7を死滅させる薬物の有効性によって判定した場合の、超音波によってアルギン酸塩ヒドロゲルから放出されたミトキサントロンの生体活性を示す。
【図3A】1Wの超音波を1日当たり15分間当てたときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのプラスミドDNAの放出速度を示す。図3Aは、超音波の出力プロフィールを示す。
【図3B】1Wの超音波を1日当たり15分間当てたときの、アルギン酸塩ヒドロゲルからのプラスミドDNAの放出速度を示す。図3Bは、プラスミドDNAの放出速度を示す。
【図4A】標準のCa2+およびMg2+濃度、標準の5倍のCa2+およびMg2+濃度、およびCa2+およびMg2+を含有しないPBSの媒質中での、ヒドロゲルへの超音波照射の効果を示す。図4Aは、弾性率の変化を示す。
【図4B】標準のCa2+およびMg2+濃度、標準の5倍のCa2+およびMg2+濃度、およびCa2+およびMg2+を含有しないPBSの媒質中での、ヒドロゲルへの超音波照射の効果を示す。図4Bは、照射後のヒドロゲルの乾燥ポリマー重量を示す。
【図5】アルギン酸塩のポリマー主鎖の糖残基とイオン錯体を形成するミトキサントロンの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
一局面において、本発明は、外部からの合図に応じて、オンデマンドで生体活性剤を放出させるための方法であって、生体活性剤を含んだ生理的に許容される自己修復性ポリマーマトリックスを提供する工程と、当該薬物を放出させるために超音波により当該ポリマーマトリックスにおいてキャビテーションを誘起する工程とを含む方法を提供する。本明細書で使用する場合、用語「オンデマンド」は、組成物からの生体活性剤の放出に対するオペレーターによる制御を意味する。
【0012】
本方法は、外部からの合図に応じて、患者の特定の位置においてオンデマンドで生体活性剤を放出させるために使用することができる。これは、生体活性剤を含む生理的に許容される自己修復性ポリマーマトリックスを患者内のある位置に提供する工程と、超音波によって当該ポリマーマトリックスにおいてキャビテーションを誘起することにより当該薬物を放出させる工程とによって達成される。
【0013】
本発明によって提供される薬物送達の方法は、超音波に応じて薬物を放出すると共に生理環境においてその完全性および剛性を維持することができるような、可逆性の架橋を有するポリマーマトリックスを利用する。超音波衝撃は、ポリマーマトリックスにおいてキャビテーションを引き起こし、当該ポリマーマトリックスに対して機械的圧力を及ぼす。薬物が空洞を介して放出される際に、当該空洞における可逆的な物理的架橋が、生理的イオン条件下で再形成される。したがって、このクラスのポリマーは、生理環境において自己修復可能である。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「自己修復性」は、ポリマーマトリックスの、外部刺激に晒される前の初期状態または初期条件に実質的に戻る能力、および/または外部刺激への露出が終了した後にかなりの時間において持続する巨視的または視覚的な不規則性および/または欠陥の形成に抵抗する能力を意味する。
【0015】
存在していない刺激を提供することによって、または既に存在する刺激を抑制することによって、または既に存在している刺激の量を変更することによって、外部刺激を適用できることが理解されるべきである。
【0016】
本発明は、生理的条件下または生理環境下で自己修復可能なタイプのポリマーを利用する。当該ポリマーマトリックスは、生体活性剤の放出を亢進するため、超音波によってキャビテーションを作り出すように低周波数の超音波の影響を受けやすい必要がある。その上、当該ポリマーマトリックスは、その完全性および機械的剛性を維持するために、空洞を再修復する必要がある。これらの要件を考慮すると、可逆的に架橋することができる任意のポリマー性材料は、本発明のマトリックスとして使用することができる。
【0017】
ポリマー性マトリックス材料は、天然由来であってもよく、または合成によって誘導することもできる。当該マトリックスは、合成材料、または天然起源の材料(例えば、生体高分子)、あるいはそれらの組み合わせの材料を含み得る。いくつかの態様において、当該マトリックス材料は、物理的および/または化学的相互作用によって可逆的に架橋される。いくつかの態様において、当該マトリックスは、生体分解性ではない。いくつかの態様において、当該マトリックスは、生体適合性である。ポリマーマトリックスは、当技術分野において公知の、当業者によって容易に適合される方法を使用して調製することができる。本明細書で使用する場合、用語「可逆的に架橋される」は、外部からの合図の適用下で架橋が破壊され、当該外部からの合図が取り除かれたときに架橋を再形成し得る架橋マトリックスを意味する。いくつかの態様において、当該マトリックスは、生理的条件下で可逆的に架橋される。
【0018】
好適なマトリックスとしては、イオン性基もしくは重合性二重結合を含有するモノマーをベースとするポリマー、コポリマー、およびブロックポリマーが挙げられる。例示的モノマーとしては、アクリル酸、メチルメタクリレート、メチルアクリル酸、エチルアクリレート、ビニルスルホン酸、スチレン、スチレンスルホン酸(例えば、p−スチレンスルホン酸)、マレイン酸、ブテン酸、ビニルホスフェート、ビニルホスホネート、エチレン、プロピレン、スチレン、ビニルメチルエーテル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−(C1〜C6アルキル)アクリルアミド(例えば、N−イソプロピルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド)などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ポリマーマトリックスは、前述の任意のモノマーの単独重合または共重合によって作製される。他の好適なポリマーマトリックス材料は、アルギン酸塩、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸塩、フィブリン、アガロース、およびそれらの誘導体を含み得る。当該マトリックスは、所望の生体活性剤に結合するか、錯体を形成するか、または当該生体活性剤を物理的に捕捉する配位子がコモノマー性成分の1つとして組み入れられている、上記において説明されたようなコポリマーであり得る。
【0019】
いくつかの態様において、マトリックスは、ポリ無水物、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびこれらのポリマーのモノマーから調製されるコポリマーからなる群より選択されるポリマーを含む。
【0020】
本発明において使用することができる好適なポリマーとしては、グリコサミノグリカン、シルク、フィブリン、MATRIGEL(登録商標)、ポリ−エチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、ポリe−カプロラクトン(PCL)、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンフマレート(PPF)、ポリアクリル酸(PAA)、加水分解されたポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリエチレンアミン、アルギン酸、ペクチニン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、キトサン、カルボキシメチルキトサン、キチン、プルラン、ジェラン、キサンタン、コラーゲン、ゼラチン、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルデキストラン、コンドロイチン硫酸、カチオン性グアー、カチオン性デンプン、ならびにそれらの塩およびエステルからなる群より選択されるポリマーの1つまたは混合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。イオン的に架橋可能ではない上記に一覧されたポリマーは、イオン的に架橋可能なポリマーとのブレンドにおいて使用される。
【0021】
他の好ましいポリマーとしては、アルギン酸、ペクチニン酸、もしくはヒアルロン酸のエステル、およびC2〜C4ポリアルキレングリコール、例えば、プロピレングリコールなど、ならびに1〜99重量%のアルギン酸、ペクチニン酸、もしくはヒアルロン酸と、99〜1重量%のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、もしくはポリビニルアルコールとを含有するブレンドが挙げられる。好ましいブレンドは、アルギン酸およびポリビニルアルコールを含む。混合物の例としては、ポリビニルアルコール(PVA)およびアルギン酸ナトリウムおよびアルギン酸プロピレングリコールのブレンドが挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0022】
いくつかの態様において、当該ポリマーマトリックスは、アルギン酸塩またはアルギン酸誘導体である。いくつかの好ましい態様において、当該ポリマーマトリックスは、三次元ヒドロゲルの形態におけるアルギン酸塩またはアルギン酸誘導体である。本明細書で使用する場合、用語「アルギン酸塩」は、アルギン酸の様々な誘導体(例えば、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、またはアルギン酸カリウム、あるいはアルギン酸プロピレングリコール)を意味する。アルギン酸塩は、生理環境において利用可能な二価のイオン、例えば、Ca2+、Mg2+、Ba2+、およびSr2+などにより可逆的に架橋され得る。例えば、国際出願PCT/US97/16890号を参照されたく、なお、当該刊行物の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。好適なアルギン酸ポリマーは、5,000〜500,000ダルトンの分子量を有し得る。
【0023】
当該ポリマーマトリックスは、水和または脱水された場合に物理的安定形態を取るように架橋され得る。好適な架橋は、約0.5重量%〜約1.5重量%の架橋剤をポリマーマトリックス中に組み入れることによって提供され得る。架橋は、約0.01モル%〜約15モル%の架橋剤をポリマーマトリックス中に組み入れることによっても提供され得る。
【0024】
好適な架橋剤としては、分子が複数の反応性基を有する化合物が挙げられる。そのような分子架橋剤は、N、N'−メチレン−ビスアクリルアミドまたはジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルケトン、ビニルメタクリレート、ならびにジビニルオキサレートであり得る。金属イオンなどのイオンを使用するイオン性架橋も用いることができる。ガンマ線などの電磁波を使用する架橋も可能である。架橋は、静電的相互作用(例えば、イオン性相互作用)、水素結合、疎水性相互作用、または(ミクロ)結晶形成にも基づき得る。
【0025】
イオン的に架橋可能なポリマーは、アニオン性またはカチオン性であり得、そのようなポリマーとしては、カルボキシル、硫酸、ヒドロキシル、およびアミンによって官能化されたポリマーが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ポリマーを架橋させるために使用される架橋性イオンは、当該ポリマーがアニオン的に架橋可能であるか、それともカチオン的に架橋可能であるかに応じて、アニオンまたはカチオンであり得る。適切な架橋性イオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン、ホウ素イオン、ベリリウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、鉛イオン、および銀イオンからなる群より選択されるカチオンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。アニオンは、リン酸イオン、クエン酸イオン、ホウ酸イオン、コハク酸イオン、マレイン酸イオン、アジピン酸イオン、およびシュウ酸イオンからなる群より選択され得るが、これらに限定されるわけではない。より広範には、当該アニオンは、多塩基性有機酸もしくは無機酸から誘導される。好ましい架橋性カチオンは、カルシウムイオン、鉄イオン、およびバリウムイオンである。最も好ましい架橋性カチオンは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、およびバリウムイオンである。最も好ましい架橋性アニオンは、リン酸イオンである。架橋は、溶存イオンを含有する噴霧された液滴に当該ポリマーを接触させることによって実施することができる。当業者であれば、それぞれのヒドロゲルに対して適切な架橋剤を選択することができるであろう。例えば、コラーゲンまたはアルギン酸塩のゲル化は、イオン性架橋剤または二価のカチオン、例えば、Ca2+、Ba2+、Mg2+、およびSr2+などの存在下で生じる。
【0026】
いくつかの態様において、当該ポリマーマトリックスは、二価のカチオンによって可逆的に架橋される。当該ポリマーマトリックスを可逆的に架橋することができる二価のカチオンの濃度は、約0.001mM〜約10mMの範囲であり得る。好ましくは、二価のカチオンの濃度は、約0.1mM〜5mMの範囲である。いくつかの態様において、二価のカチオンの濃度は、約0.01mM〜約10mMである。いくつかの態様において、当該二価のカチオンは、Ca2+、Ba2+、Mg2+、St2+、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0027】
いくつかの態様において、当該ポリマーマトリックスは、生理的条件下で可逆的に架橋され得る。本明細書で使用する場合、用語「生理的条件」は、温度、pH、イオン、イオン強度、粘性、および生物の細胞外または細胞内に存在する同様の生化学的パラメータを意味する。いくつかの態様において、当該生理的条件は、生物の血清および/または血液中に見出される条件を意味する。いくつかの態様において、当該生理的条件は、生物の細胞中に見出される条件を意味する。
【0028】
生理的条件を模倣するための特定のインビトロ条件は、従来法により、実行者によって選択され得る。一般的ガイダンスでは、以下の緩衝水条件:10〜250mMのNaCl、5〜50mMのトリスHCl、pH5〜8、および二価のカチオンおよび/または金属キレート剤および/または非イオン系界面活性剤および/または膜分画および/または消泡剤および/またはシンチラントの任意の追加が適用可能であり得る。一般的に、生理的条件を模倣するインビトロ条件は、50〜200mMのNaClまたはKCl、pH6.5〜8.5、20〜45℃、および0.001〜10mMの二価のカチオン(例えば、Mg2+、Ca2+);好ましくは、約150mMのNaClまたはKCl、pH7.2〜7.6、5mMの二価のカチオンを含み、ならびに、多くの場合、0.01〜1.0パーセントの非特異的タンパク質(例えば、BSA)を含む。多くの場合、非イオン系洗浄剤(Tween、NP−40、Triton X−100)が、通常、約0.001〜2%(v/v)で、典型的には0.05〜0.2%(v/v)で存在し得る。
【0029】
当該ポリマーマトリックスは、膨潤性ゲルまたは非膨潤性ゲルであり得る。膨潤性ゲルは、ヒドロゲルおよびオルガノゲルを含み得る。用語「ヒドロゲル」は、架橋された、水不溶性の水含有材料を示す。ヒドロゲルは、生物医学的応用のための多くの望ましい特性を有する。例えば、それらは、組織に対して非毒性および適合性に作製され得、かつ通常、水、イオン、および小さい分子に対して高浸透性である。
【0030】
好ましいヒドロゲルとしては、コラーゲンおよびゼラチン、ヒアルロン酸塩、フィブリン、アルギン酸塩、アガロース、キトサン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、およびポリペプチドが挙げられる。当該ゲル中のポリマー濃度は、0.1%(w/w)〜40%(w/w)の範囲であり得る。好ましくは、当該ゲル中のポリマー濃度は、0.5〜3%である。
【0031】
いくつかの態様において、ポリマーマトリックスは、10-3〜103kPaの間の範囲の弾性率を有する。本明細書で使用する場合、用語「弾性率」は、力を加えられたときの物体または物質の弾性的に(すなわち、非恒久的に)変形する傾向を意味する。概して、物体の弾性率は、弾性変形領域における応力−歪み曲線の傾きとして定義される。方向を含めて、応力および歪みをどのように測定するかによって、多くのタイプの弾性率を定義することができる。ヤング率(E)は、引張弾性、または、対向する力がある軸に沿って加えられたときに物体が当該軸に沿って変形する傾向を説明するものであり、すなわち、引張応力と引張歪みの比率として定義される。それは、多くの場合、単に弾性率と呼ばれる。剪断弾性率または剛性率(Gまたはμ)は、対向する力を受けたときの物体の剪断する傾向(一定体積における形状の変形)を説明するものであり、すなわち、剪断応力を剪断歪みで除したものとして定義される。剪断弾性率は、粘度の導出の一部である。体積弾性率(K)は、体積弾性、または、すべての方向に一様な負荷を掛けたときの、すべての方向への物体の変形する傾向を説明するものであり、すなわち、体積応力を体積歪みで除したものとして定義され、圧縮率の逆数である。体積弾性率は、三次元へのヤング率の拡張である。他の3つの弾性係数は、ポアソン比、Lameの第一パラメータ、およびP波弾性率である。
【0032】
いくつかの態様において、当該ポリマーマトリックスは、超音波の反復適用(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、100回、またはそれ以上)の後、初期値の24%以内、10%以内、5%以内、2%以内、またはそれ未満である物理的完全性および機械的剛性を維持する。本明細書で使用する場合、「物理的完全性」なる用語は、ポリマーマトリックスの有孔率、孔径、細孔の連結性、比体積、およびそれらの組み合わせを意味する。
【0033】
本明細書で使用する場合、「生体活性剤」または「生体活性材料」は、天然の生物材料、例えば、細胞外マトリックス材料、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、およびラミニンなど;サイトカイン;ならびに成長因子および分化因子を意味する。「生体活性剤」はさらに、生体細胞、生体組織、または生体器官に対して生物学的効果を有する、人工的に合成された材料、分子、または化合物も意味する。生体活性剤の分子量は、非常に低く(例えば、小分子、200〜500ダルトン)から非常に高く(例えば、プラスミドDNA、約2,000,000ダルトン)まで変わり得る。
【0034】
好適な成長因子およびサイトカインとしては、幹細胞因子(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージ刺激因子(GM−CSF)、ストロマ細胞由来因子−1、steel因子、VEGF、TGFβ、血小板由来成長因子(PDGF)、アンジオポエチン(Ang)、上皮細胞成長因子(EGF)、bFGF、HNF、NGF、骨形態形成タンパク質(BMP)、線維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子、インシュリン様成長因子(IGF−1)、インターロイキン(IL)−3、IL−1α、IL−1β、IL−6、IL−7、IL−8、IL−11、およびIL−13、コロニー刺激因子、トロンボポエチン、エリスロポエチン、fit3−リガンド、および腫瘍壊死因子α(TNFα)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。他の例は、Dijke et al.,「Growth Factors for Wound Healing」,Bio/Technology,7:793−798(1989);Mulder GD,Haberer PA, Jeter KFS eds. Clinicians’Pocket Guide to Chronic Wound Repair. 4th ed, Springhouse,PA : Springhouse Corporation;1998:85;Ziegler T.R.,Pierce, G.F.,およびHemdon,D.N.,1997, International Symposium on Growth Factors and Wound Healing : Basic Science & Potential Clinical Applications(Boston, 1995, Serono Symposia USA), Publisher:Springer Verlagに記載されている。
【0035】
いくつかの態様において、好適な生体活性剤としては、治療剤が挙げられるが、これに限定されるわけではない。本明細書で使用する場合、用語「治療剤」は、疾病の診断、治療、予防において使用される物質を意味する。疾病の診断、治療、または予防において有益であるような当業者に既知の任意の治療剤が、本発明との関連における治療剤として想到される。治療剤としては、薬学的に活性な化合物、ホルモン、成長因子、酵素、DNA、プラスミドDNA、RNA、siRNA、ウイルス、タンパク質、脂質、炎症誘発性分子、抗体、抗生物質、抗炎症剤、アンチセンスヌクレオチド、および形質転換核酸、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。組み合わせが生体適合性である限りにおいて、任意の治療剤を組み合わせることができる。
【0036】
例示的治療剤としては、Harrison's Principles of Internal Medicine, 13th Edition, Eds. T.R. Harrison et al., McGraw-Hill N.Y., NY;Physicians Desk Reference, 50th Edition, 1997, Oradell New Jersey, Medical Economics Co.; Pharmacological Basis of Therapeutics, 8th Edition, GoodmanおよびGilman, 1990;United States Pharmacopeia, The National Formulary, USP XII NF XVII,1990;GoodmanおよびOilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeuticsの現行版;およびThe Merck Indexの現行版に見出されるものが挙げられるが、これらに限定されるわけではなく、なお、これらの文献すべての内容のすべてが、参照により本明細書に組み入れられる。
【0037】
治療剤の例としては、麻薬性鎮痛薬;金塩;コルチコステロイド;ホルモン;抗マラリア剤;インドール誘導体;炎症性関節腫脹治療のための医用薬剤;テトラサイクリン、ペニシリン、ストレプトマイシン、およびオーレオマイシンなどの抗生物質;家畜と大型の牛に適用される駆虫薬およびイヌジステンパー薬、例えば、フェノチアジン系など;硫黄ベースの薬物、例えば、スルフイソキサゾール;抗腫瘍薬;依存症を制御する医用薬剤、例えば、アルコール中毒症を制御する医用薬剤およびタバコ中毒症を制御する医用薬剤;薬物中毒症の拮抗薬、例えば、メサドン;体重管理薬;甲状腺抑制剤;鎮痛剤;受精管理薬または避妊ホルモン;アンフェタミン;抗高血圧薬;抗炎症剤;鎮咳剤;鎮静剤;神経筋弛緩薬;抗てんかん剤;抗うつ剤;抗不整脈薬;血管拡張薬;降圧利尿薬;抗糖尿病薬;抗凝血剤;抗結核剤;抗精神病剤;ホルモン、およびペプチドが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。上述の一覧は、すべてを網羅しているわけではなく、単に、使用することができる治療剤の幅広い多様性を表しているにすぎないということは理解される。いくつかの態様において、治療剤は、ミトキサントロン、タンパク質(例えば、VEGF)、またはプラスミドDNAである。
【0038】
当該ポリマーマトリックス中の生体活性剤の量は、様々な因子、例えば、特異的薬剤;それが実施すべき機能;当該薬剤を放出するために必要な期間;投与されるべき量などに応じて変わる。概して、生体活性剤の用量は、およそ0.001%(w/w)から最高95%(w/w)まで、好ましくは約5%(w/w)〜約75%(w/w)、最も好ましくは約10%(w/w)〜約60%(w/w)の範囲から選択される。
【0039】
いくつかの態様において、当該組成物は、細胞、例えば生体細胞を含む。当該組成物中に細胞を組み入れるための方法の1つは、乾燥したまたは部分的に乾燥した本発明の組成物を、組み入れるべき細胞を含む水溶液中で再膨潤させることによる。当該水溶液は、約104〜約108個細胞/mlを含み得る。いくつかの態様において、水溶液は、細胞約104〜約106個/mlを含む。いくつかの態様において、水溶液は、細胞約105個/mlを含む。一態様において、水溶液は、細胞約5×105個/mlを含む。
【0040】
いくつかの態様において、当該組成物は、複数の細胞種を含む。これは、膨潤に使用される水溶液中に2種以上の異なる細胞種を含有させることによって達成することができる。2種以上の異なる細胞種を、当該組成物中に組み入れる場合、当該水溶液中の細胞の濃度は、細胞103〜約109個/mlの範囲である。好ましくは、当該水溶液中の細胞の濃度は、細胞106〜108個/mlである。
【0041】
組成物中に組み入れることが可能な細胞としては、幹細胞(胚性幹細胞、間充織幹細胞、骨髄幹細胞、および造血幹細胞)、軟骨細胞前駆細胞、膵前駆細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、ケラチン生成細胞、ニューロン細胞、グリア細胞、星状細胞、前駆脂肪細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞、毛包幹細胞、内皮前駆細胞、間葉細胞、神経幹細胞、および平滑筋前駆細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0042】
いくつかの態様において、当該細胞は、遺伝子操作された細胞である。細胞は、所望の化合物、例えば、生体活性剤、成長因子、分化因子、サイトカインなどを発現または分泌するように、遺伝子操作され得る。関心対象の化合物を発現または分泌させるために、細胞を遺伝子操作する方法は、当技術分野において公知であり、当業者によって容易に適合可能である。
【0043】
幹細胞に再プログラムされている分化細胞も使用することができる。例えば、Oct3/4、Sox2、c−Myc、およびKlf4の形質導入によって胚性幹細胞中に再プログラムされたヒト皮膚細胞など(Junying Yu et.al.,2007,Science 318:1917−1920;Takahashi K.et.al.,2007, Cell 131:1−12)。
【0044】
当該組成物中への組み込みのために有用な細胞は、任意の供給源、例えば、ヒト、ラット、またはマウスなどに由来し得る。ヒト細胞としては、ヒト心筋細胞−成体(HCMa)、ヒト皮膚線維芽細胞−胎児(HDF−f)、ヒト上皮角化細胞(HEK)、ヒト間充織幹細胞−骨髄、ヒト臍帯間充織幹細胞、ヒト毛包内毛根鞘細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびヒト臍帯静脈平滑筋細胞(HUVSMC)、ヒト内皮前駆細胞、ヒト筋芽細胞、ヒト毛細管内皮細胞、ならびにヒト神経幹細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0045】
例示的ラット細胞およびマウス細胞としては、RN−h(ラットニューロン−海馬)、RN−c(ラットニューロン−皮質)、RA(ラット星状細胞)、ラット後根神経節細胞、ラット神経前駆細胞、マウス胚性幹細胞(mESC)、マウス神経前駆細胞、マウス膵前駆細胞、マウス間葉細胞、およびマウス内胚葉細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物において、組織培養細胞株を使用することができる。細胞株の例としては、C166細胞(胚性12日目のマウス卵黄)、C6グリオーマ細胞株、HL1(心筋細胞株)、AML12(非形質転換肝細胞)、HeLa細胞(子宮頸癌細胞株)、およびチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0047】
当業者であれば、そのような細胞を配置、単離、および増幅することができる。さらに、細胞培養の基本原理ならびに細胞の配置、単離、および増幅の方法ならびに組織工学のための細胞調製方法は、「Culture of Cells for Tissue Engineering」 Editor(s): Gordana Vunjak-Novakovic, R. Ian Freshney, 2006 John Wiley & Sons, Inc., および「Cells for tissue engineering」 by Heath C. A. (Trends in Biotechnology, 2000, 18:17-19)に記載されており、なお、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0048】
生体活性剤は、マトリックス内に単に物理的に捕捉され得るか、あるいはマトリックス中に化学的に結合し得る、または錯体を形成し得る、またはマトリックス中に包入され得るか、あるいはマトリックス中に化学的に結合する中間配位子またはリンカーによって物理的に固定され得る。
【0049】
生体活性剤は、ポリマーマトリックスに可逆的に結合することができ、そのため、ポリマーマトリックスからの生体活性剤の放出は、ある期間にわたって持続可能であり、かつ放出速度は、超音波による制御された方法で亢進される。生体活性剤の放出は、ポリマーマトリックスの分解を伴わないので、放出速度は、比較的容易に制御され、放出された薬剤の生体活性は、架橋されたポリマーマトリックスの分解生成物との相互作用によって影響を受けない。ポリマーマトリックスは、生体活性剤に対するそれらの可逆的結合を増強または変更するために、変性させることもできる。例えば、米国特許第7,186,413号を参照されたく、なお、当該特許の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0050】
生体活性剤は、リンカーを介して当該マトリックスに共有結合され得る。当該リンカーは、用途に応じて、切断可能なリンカーまたは切断不可能なリンカーであり得る。本明細書で使用する場合、「切断可能なリンカー」は、様々な条件下で切断することができるリンカーを意味する。切断に好適な条件は、pH、UV照射、酵素活性、温度、加水分解、脱離反応および置換反応、酸化還元反応、ならびに結合の熱力学的特性を含み得るが、これらに限定されるわけではない。多くの場合、共役または結合相互作用の意図される性質あるいは所望の生物学的効果により、リンカー基の選択が決定されるであろう。いくつかの態様において、生体活性剤は、切断可能なリンカーによってポリマーマトリックスに結合される。いくつかの態様において、当該切断可能なリンカーは、インビボにおいて、1時間、2時間、3時間、5時間、8時間、12時間、24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、2週間、3週間、4週間、2カ月、3カ月、6カ月、または1年、あるいはそれ以上の半減期を有する。
【0051】
いくつかの態様において、当該生体活性剤は、加水分解可能な結合によって、マトリックスに結合される。用語「加水分解可能」は、生理的条件下で、加水分解または切断される結合を意味する。いくつかの態様において、当該加水分解可能な結合は、対象の血清または血液中に存在する条件下で切断される。いくつかの態様において、当該加水分解可能な結合は、インビボで、1時間、2時間、3時間、5時間、8時間、12時間、24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、2週間、3週間、4週間、2カ月、3カ月、6カ月、または1年、あるいはそれ以上の半減期を有する。
【0052】
いくつかの態様において、当該生体活性剤は、イオン相互作用によってポリマーマトリックスに可逆的に結合される。
【0053】
マトリックス内への生体活性剤の組み込みは、いくつかの方法において達成することができる。例えば、1つの方法では、乾燥したマトリックスまたは膨潤の不完全なマトリックスを、生体活性物質を含む適切な溶液中において膨潤させてもよい。別の方法では、当該マトリックスは、生体活性剤を含む媒質において実施される架橋反応を伴うプロセスによって調製される。当該生体活性剤は、架橋の前または後に、分解可能な結合または加水分解可能な結合を介した、当該マトリックスの表面またはバルクへの様々な二次相互作用(例えば、電荷)または共有結合を用いて、当該マトリックスの表面に吸着させることもできる。
【0054】
ポリマーマトリックスからの生体活性剤の放出を制御するための要件の1つは、当該生体活性剤が、当該マトリックスから分子拡散によって容易には放出されないことであり、したがって、ポリマーマトリックス中での当該生体活性剤の平均自由行程は、水中での平均自由行程より著しく短くあるべきである。したがって、いくつかの態様において、当該細胞または当該生体活性剤は、水中での平均自由行程より短い当該組成物中での平均自由行程を有する。薬物の分子サイズが十分に大きく(例えば、プラスミドDNA)、粒径がポリマーマトリックスにおける細孔のサイズと同程度の大きさである場合、この要件は満たされ、したがって、薬物の放出は、外部刺激によって切り替わるであろう。しかしながら、低分子量の生体活性剤の持続的かつオンデマンドでの放出は、ポリマーマトリックスとのそれらの可逆的な結合によって達成することができる。例えば、抗癌薬のミトキサントロンは、アルギン酸のポリマー骨格の糖残基上のカルボキシレート基とイオン錯体を形成し得る(図5およびBouhadir 2001)。
【0055】
生体活性剤が封入されたポリマーマトリックスは、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアゾール)、肺、経鼻、直腸、および局所的(口腔および舌下を含む)投与を含めた経口経路または非経口経路を含むがれらに限定されない、当技術分野において公知の任意の適切な経路によって対象に投与することができる。本明細書で使用する場合、用語「投与する」は、所望の効果が得られるように、所望の部位へ生体活性剤を少なくとも部分的に局在化させる方法または経路によって、生体活性剤が封入されたマトリックスを対象に配置することを意味する。
【0056】
投与の例示的様式としては、注射、注入、点滴、吸入、または摂取が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。「注射」としては、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、心室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、脳脊髄内、および幹内への注射および注入が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0057】
生体活性剤が封入されたポリマーマトリックスは、インビボ部位に送達することができる。例示的インビボ部位としては、創傷、損傷、または疾病の部位が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。生体活性剤が封入されたマトリックスは、例えば、対象への当該マトリックスの移植または注射によってインビボ部位に送達することができる。生体活性剤が封入されたポリマーマトリックスは、充填剤としての役割も兼ね備え得る。
【0058】
当該ポリマーマトリックスが超音波エネルギーに供されると、音波により、当該ポリマーマトリックス中で、液体および固体の急速な圧縮および引張が交互に生じる。当該交互の圧縮および引張により、キャビテーションが生じ、それによって、マトリックス外への生体活性剤の伝達が亢進される。さらに、キャビテーション気泡の崩壊により、その周りに顕著な摂動が生じ得、それによって、ポリマーマトリックス上に可逆的に結合された生体活性剤の分離が誘起され得る。生体活性剤がキャビテーションによってマトリックス外へと輸送される際に、二価のイオン(例えば、Ca2+、Mg2+、Ba2+、および/またはSr2+)を含有する生理液が、当該空洞内へ流れ込む。これらの二価のイオンは、空洞においてポリマーを再架橋させ、当該ポリマーマトリックスを動的に修復させる。このようにして、超音波放射によって制御された速度で生体活性剤がポリマーマトリックスから放出されるが、当該ポリマーの完全性および機械的強度は変わらない。
【0059】
とりわけ、超音波は、皮膚および細胞膜中にキャビテーションを導入するために幅広く使用されており、したがって、様々な生体活性剤に対する透過性を、時間的かつ可逆的に亢進する。これらの空洞は、超音波の適用を止めるとすぐに再修復されるであろう。例えば、米国特許第4,767.402号、同第6,002,961号、および同第4,780,212号を参照されたく、なお、当該特許すべての内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。これらの天然の自己修復性材料を模倣することによって生体活性剤を放出するポリマーマトリックス系は、これに限定されるわけではないが特定の解剖学的位置において有利であり、ならびに当該ポリマーマトリックスの物理的側面(例えば、架橋イオンのタイプ、架橋イオンに対する当該ポリマーの親和性)を変えることによって、放出を生じさせる超音波の周波数および強度を微調整する能力を有する。
【0060】
当該周波数および強度の選択は、使用されるポリマーマトリックスおよび当該マトリックスに組み入れられる生体活性剤に応じて変わる。代表的な好適な超音波周波数は、約1kHz〜約1MHzの間であり、強度は0.1ワット〜約30ワットの間であり得る。例えば、米国特許第4,657,543号を参照されたく、なお、当該特許の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。いくつかの態様において、超音波周波数は、約20kHz〜1MHzである。好ましくは、超音波周波数は、約20kHzである。いくつかの態様において、当該周波数強度は、約1mW〜5Wである。好ましくは、当該周波数強度は、約1Wである。
【0061】
当該ポリマー系が超音波に晒される時間は、環境に応じて幅広く変わり得る。概して、好適な時間は、約数秒〜数時間の間である。例えば、米国特許第4,657,543号を参照されたい。とりわけ、これらの超音波の出力レベルは、有害であると考えられるレベル(Mitragotri 2005)未満である。いくつかの態様において、当該ポリマーは、超音波に1時間あたり約1〜約5分間晒される。好ましくは、当該ポリマーは、超音波に1時間あたり約5分間晒される。当該曝露は、一定期間連続して行われ得るか、または1時間における総曝露時間の合計が最長で上記の時間までとなるようなパルス系において行われる。一つの非限定的な例において、超音波は、所定の1時間の間に、連続で約1〜約15分間適用される。別の非限定的な例にでは、超音波は、所定の1時間の間における合計が1〜15分間となるようなより短い複数の期間において適用される。
【0062】
封入された生体活性剤を有するポリマーマトリックスは、対象への投与のために、1種または複数種の薬学的に許容される担体(添加剤)および/または希釈剤と一緒に配合され得る。当該医薬組成物は、特に、以下のために適合されたものを含めて、固体または液体形態で投与のために配合され得る:(1)経口投与、例えば、飲薬(水溶液、非水性溶液、または懸濁液)、トローチ剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、錠剤(例えば、口腔、舌下、および全身性の吸収を目的とするもの)、ボーラス投与、粉末剤、顆粒剤、舌への適用のためのペースト剤;(2)非経口投与、例えば、皮下、筋肉内、静脈内、または硬膜外注射、例えば無菌溶液もしくは懸濁液または徐放性製剤など;(3)局所投与、例えばクリーム剤、軟膏剤、または皮膚に適用された徐放性貼付剤もしくは噴霧剤など;(4)腟内または直腸内投与、例えば膣坐剤、クリーム剤、またはフォーム剤など;(5)舌下投与;(6)経眼投与;(7)経皮投与;(8)経粘膜投与;または(9)経鼻投与。
【0063】
移植されるべきマトリックスは、さらに、1種または複数種の添加剤を含み得る。添加剤は、分解性(生体分解性)ポリマー、マンニトール、デンプン糖、イノシット、ソルビトール、グルコース、ラクトース、サッカロース、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、アミノ酸、塩化マグネシウム、クエン酸、酢酸、ヒドロキシル−ブタン二酸、リン酸、グルクロン酸、グルコン酸、ポリ−ソルビトール、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、デンプン、またはそれらの混合物であり得る。
【0064】
インプラントは、0.1mm〜約100mmの間の厚さおよび約0.01cm2〜約100cm2の間の総表面積を有する円形または長方形などであり得るスラブとして形成することができる。
【0065】
インプラントは、直径約0.5〜約10mmおよび長さ約0.5〜約10cmの円筒形態であってもよい。好ましくは、その直径は約1〜約5mmであり、長さは約1〜約5cmである。場合によって、インプラントは、球状形態であってもよい。
【0066】
当該インプラントが球状形態の場合、その直径は、約0.5〜約50mmの範囲であり得る。いくつかの態様において、球形のインプラントの直径は、約5〜約30mmである。好ましくは、当該直径は、約10〜約25mmである。
【0067】
いくつかの態様において、インプラントは、自己修復性ポリマーの多数の粒子を含み得る。当該粒子のサイズは、約10nm〜約500ミクロンの範囲であり得る。理論に束縛されることは望まないが、多数の粒子を含むインプラントは任意の形状を取り得、上述の規則的な形状には限定されない。例えば当該粒子は、不規則な形状、すなわち、規定された幾何学構造を有さない形状において配置され得る。
【0068】
制御された薬物放出
マトリックスに固定されている生体活性剤に対して、制御された放出速度が、超音波照射下で達成される。超音波照射を止めた場合、マトリックスの再修復により放出が止まる。したがって、生体活性剤の放出は、外部刺激の反復適用によるパルス式において達成することができる。
【0069】
オンデマンドで生体活性剤をパルス放出するためのこの能力は、免疫付与などの様々な状況において有用である。免疫付与では、通常は、初期免疫付与と、それとは別個のその後のブースター投与が提供される。マトリックス外へ自然に拡散し得る生体活性剤では、外部刺激なしで、ベースライン放出速度が存在する。しかしながら、超音波照射は、放出速度をベースライン値の数倍まで亢進することができる。このベースライン−亢進された放出プロフィールは、急性のより激しい疼痛を処置するために短期間で鎮痛剤の放出を増加させることを含めて、多くの状況において有用である。さらに、免疫賦活性分子の不在下で、そのようなポリマーマトリックスからの規定された用量のアレルゲンの反復投与は、耐性を誘導するために有用であり得る。生体活性剤の有効性(例えば、腫瘍に対する)を最大化するため、当該送達が特定の生物学的事象と同時に生じるように調節するために(例えば、概日リズム)、パルス式において生体活性剤を送達するように外部刺激を使用することも有利であり得る。
【0070】
他の場合において、当該ポリマーマトリックスは、1種の生体活性剤を連続的に放出するように設計することができ、ならびに、突発的な臨床的状況(例えば、感染症を治療する際の、免疫を抑制する副作用を伴う化学療法的生体活性剤を保持することが必要な場合)において、生体活性剤溶出装置を取り外さずに生体活性剤の活性を増強または減少させることを可能にするために、この生体活性剤の生体活性を増強または低減する抗体または他の巨大分子のオンデマンド送達を、遠隔的に活性化された「オンスイッチまたはオフスイッチ」として使用することができる。同様に、所望の生物的プロセスを開始する1種の生体活性剤が、このプロセスの適切な段階においてオンデマンドで引き起こされる第二または第三の生体活性剤の放出を伴って、連続的に放出されるように、当該系を設計してもよい。組織工学および組織再生の分野において、モルフォゲンおよび成長因子を連続して機能させることが必要な多くの例が存在する。例えば、虚血性疾患を処置するために血管新生を活性化する第一生体活性剤(例えば、血管内皮成長因子)の連続放出を提供し、第一の分子の作用によって十分な密度が形成されると、新しく形成された血管の成熟を促進するための第二生体活性剤(例えば、血小板由来成長因子)の放出が誘発されることが望ましいであろう。
【0071】
放出された生体活性剤は、同じ条件下で、当該生体活性剤が最初にポリマーマトリックス中に封入されなかった場合の生体活性に匹敵する生体活性を有するということは理解されるべきである。いくつかの態様において、当該放出された生体活性剤は、当該活性剤が最初にポリマーマトリックスによって封入されなかった場合の生体活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%の生体活性を有する。
【0072】
定義
本明細書において別の意味に定義されない限り、本出願に関連して使用される科学用語および専門用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらに、状況によりそうでないことが必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。
【0073】
本明細書で使用する場合、用語「含む(「comprising」または「comprises」)」は、本発明にとって必要不可欠の組成物、方法、およびそれらの各構成要素に関連して使用され、必要不可欠であるか否かにかかわらず特定されていない要素をさらに包含する余地がある。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「本質的に〜からなる」は、所定の態様のために必要な要素を意味する。当該用語は、本発明の態様の基本的特徴および新規の特徴あるいは機能的特徴に実質的に影響を及ぼさない追加的要素の存在を許容する。
【0075】
用語「からなる」は、本明細書において説明されたような組成物、方法、およびそれらの各構成要素を意味し、態様の説明において列挙されなかった要素はすべて除外される。
【0076】
実行した実施例以外において、または特に指示の無い場合、本明細書において使用される成分の量または反応条件を表す数字はすべて、あらゆる場合において「約」という用語で修飾されると理解されるべきである。用語「約」は、パーセンテージに関連して使用される場合、±1%を意味し得る。さらに、用語「約」は、値の±1%以内を意味し得る。
【0077】
単数形の用語「1つの(a)、(an)」、および「当該(the)」は、文脈においてそうでないことが明確に示されない限り、複数形への言及を含む。同様に、用語「または」は、文脈においてそうでないことが明確に示されない限り、「および」を含む。さらに、核酸およびポリペプチドに関して提示されたすべての塩基サイズまたはアミノ酸サイズおよびすべての分子量または分子質量の値は、概略値であり、説明のために提示されたものであることは理解されるべきである。
【0078】
本明細書に記載されたものと同様の、または等価の方法および材料を、本開示の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。用語「含む(comprises)」は、「包含する(includes)」を意味する。略語「e.g.」は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、非限定的な例を示すために本明細書において使用される。したがって、略語「e.g.」は、用語「例えば」と同義語である。
【0079】
用語「減少する」、「低下した」、「低下」、「減少する」、または「阻害する」はすべて、概して、統計的に有意な量による減少を意味するために本明細書において使用される。しかしながら、誤解を避けるために、「低下した」、「低下」、「減少する」、または「阻害する」は、参照レベルと比べて少なくとも10%の減少、例えば、少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%までの減少、または100%を含む100%までの減少(例えば、参照試料と比べて存在しないレベル)、または参照レベルと比べて10〜100%の間の任意の減少を意味する。
【0080】
用語「増加された」、「増加する」、または「増強する」または「活性化する」はすべて、概して統計的に有意な量による増加を意味するために本明細書において使用され、誤解を避けるために、「増加された」、「増加する」、または「増強する」または「活性化する」は、参照レベルと比べて少なくとも10%の増加、例えば、少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%の増加、または100%を含む100%までの増加、または参照レベルと比べて10〜100%の間の任意の増加、または少なくとも約2倍、または少なくとも約3倍、または少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約10倍の増加、または参照レベルと比べて2倍〜10倍の間またはそれ以上の任意の増加を意味する。
【0081】
用語「統計的に有意」または「有意に」は、統計的有意性を意味し、概して、参照レベルを2標準偏差(2SD)上回るかまたは下回ることを意味する。当該用語は、差が存在することの統計的証拠を意味する。それは、帰無仮説が実際に正しいとした場合に、当該帰無仮説を棄却する決定を下す確率として定義される。当該決定は、多くの場合、p値を使用してなされる。
【0082】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される」は、過度の毒性、炎症、アレルギー反応、または他の問題、あるいは合併症がなく、妥当な利益/リスク比で釣り合っている、正当な医学的判断の範囲内においてヒトおよび動物の組織との接触における使用に好適な化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を意味する。
【0083】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される担体」は、身体のある器官または一部から身体の別の器官または一部への対象化合物の運搬または輸送に関係する、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクル、例えば、液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例えば、潤滑剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、またはステアリン酸)、または溶媒封入材料などを意味する。各担体は、処方の他の成分に対して適合性であり、かつ患者に対して無害であるという意味において「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体として機能し得る材料のいくつかの例としては、以下が挙げられる:(1)糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロースなど;(2)デンプン、例えば、コーンスターチおよびバレイショデンプンなど;(3)セルロースおよびその誘導体、例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、および酢酸セルロースなど;(4)粉末状トラガカント;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)平滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびタルクなど;(8)賦形剤、例えば、ココアバターおよび座剤ワックスなど;(9)油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油など;(10)グリコール、例えば、プロピレングリコールなど;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール(PEG)など;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなど;(13)寒天;(14)緩衝薬、例えば、水酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウム三水和物など;(15)アルギン酸;(16)発熱物質非含有水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート、および/またはポリ無水物;(22)充填剤、例えば、ポリペプチドおよびアミノ酸など;(23)血清成分、例えば、血清アルブミン、HDL、およびLDLなど;(22)C2〜C12アルコール、例えば、エタノールなど;ならびに(23)医薬製剤において採用されている他の非毒性の適合性物質。湿潤剤、着色剤、剥離剤、コーティング剤、甘味剤、芳香剤、着香剤、防腐剤、および酸化防止剤も、当該製剤中に存在し得る。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される担体」などの用語は、本明細書において互換性を持って使用される。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「ポリマー」は、オリゴマー種およびポリマー種の両方、すなわち、2つ以上のモノマー単位を含む化合物を含むことが意図され、ホモポリマーまたはコポリマーであり得る。用語「ホモポリマー」は、単一種のモノマー単位を組み入れたポリマーである。用語「コポリマー」は、同じポリマー鎖中の2種以上の化学的に異なる種のモノマー単位から構成されたポリマーである。「ブロックコポリマー」は、2種以上の異なる種のホモポリマーまたはコポリマーの2つ以上のセグメントを組み入れたポリマーである。
【0085】
本明細書で使用する場合、用語「膨潤剤」は、少なくとも膨潤度に影響を及ぼす化合物または物質を意味する。通常、膨潤剤は、水溶液または有機溶媒であるが、しかしながら、膨潤剤はガスでもあり得る。いくつかの態様において、膨潤剤は、水または生理溶液、例えば、リン酸緩衝食塩水など、あるいは増殖培地である。
【0086】
本明細書で使用する場合、用語「リンカー」は、化合物の2つの部分に結合している有機部分を意味する。リンカーは、通常、直接結合、あるいは、例えば酸素もしくは硫黄などの原子、例えばSS、NH、C(O)、C(O)NH、SO、SO2、SO2NHなどの単位、または、例えば、1つまたは複数のメチレンがO、S、S(O)、SO2、NH、NH2、C(O)によって中断または終端されていてもよい置換または非置換のアルキルなどの原子鎖を含む。
【0087】
疾病または障害の「処置」、「予防」、または「改善」とは、そのような疾病または障害の発症の遅延または予防;進行、進行の激化もしくは悪化、またはそのような疾病または障害に関連する症状の重症化の好転、軽減、改善、抑制、減速、または停止を意味する。一態様において、疾病または傷害の症状は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%まで軽減される。
【0088】
本明細書で使用する場合、「対象」は、ヒトまたは動物を意味する。通常、当該動物は、脊椎動物、例えば、霊長類、齧歯動物、家畜、または狩猟動物などである。霊長類としては、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびマカクサル、例えば、赤毛猿が挙げられる。齧歯動物としては、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ、およびハムスターが挙げられる。家畜および狩猟動物としては、牛、馬、ブタ、シカ、水牛、野牛、ネコ科の種、例えば、飼いネコなど、犬科の種、例えば、犬、キツネ、オオカミなど、鳥類の種、例えば、鶏、エミュー、ダチョウなど、ならびに魚、例えば、マス、ナマズ、およびサケなどが挙げられる。患者あるいは対象としては、例えば、ヒト、霊長類、あるいは齧歯類などの1種または複数種の群あるいは種を除く上記の全てといったような、前述のものの任意の部分集合が挙げられる。ある特定の態様において、対象は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。用語「患者」および「対象」は、本明細書において互換的に使用される。
【0089】
好ましくは、当該対象は、哺乳動物である。当該哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、犬、猫、馬、または牛であり得るが、これらの例に限定されるわけではない。ヒト以外の哺乳動物は、HIFまたは低酸素関連病変の動物モデルを代表する対象として有利に使用することができる。さらに、本明細書において説明される方法は、家畜および/または愛玩動物を処置するために使用することができる。対象は、雄または雌であり得る。対象は、HIFまたは低酸素関連病変、HIFまたは低酸素関連病変に関連する1種または複数種の合併症を患っているかまたは有しているとして、以前に診断または認定されたことがあるもの、ならびに、任意で、そのようなHIFまたは低酸素関連病変に対する治療を既に受ける必要のないものであり得る。
【0090】
特定された特許および他の刊行物はすべて、例えば、そのような刊行物に記載されている、本発明に関連して使用され得るであろう方法論などを、説明および開示する目的において、参照により本明細書に明確に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示を単に提供するものである。この点に関し、いかなる点においても、先行の発明または他のいかなる理由により本発明者らがそのような開示に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。これらの文書の日付に関する記述または内容に関する提示のすべては、出願人に利用可能な情報に基づくものであり、これらの文書の日付または内容の正当性に関するいかなる承認も構成するものではない。
【0091】
本明細書で説明または図示した様々な態様の任意の1つは、さらに、本明細書に開示した他の任意の態様において示された特徴を組み入れるために、示されていない程度にまで変更され得ることは当業者によって理解されるであろう。
【0092】
本発明は、任意の以下の番号の付けられた項において定義され得る。
1.
超音波に応じて、オンデマンドで生体活性剤を放出させるための方法であって、
該生体活性剤を含む生理的に許容される自己修復性ポリマーマトリックスを提供する工程と、
該生体活性剤を放出させるために超音波により該ポリマーマトリックスにおいてキャビテーションを誘起する工程であって、該自己修復性ポリマーが可逆的に架橋される、工程と
を含む、前記方法。
2.
前記ポリマーマトリックスが、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される二価イオンのカチオンによって可逆的に架橋される、1の項に記載の方法。
3.
前記ポリマーマトリックスが、生理的条件下で可逆的に架橋される、1〜2のいずれか一項に記載の方法。
4.
前記ポリマーマトリックスが、アルギン酸塩またはその誘導体を含む、1〜3のいずれか一項に記載の方法。
5.
前記生体活性剤が、水中での同じ生体活性剤の拡散に関する平均自由行程より短い前記ポリマーマトリックス中での拡散の平均自由行程を有する、1〜4のいずれか一項に記載の方法。
6.
前記生体活性剤が、前記ポリマーマトリックスに可逆的に結合される、1〜5のいずれか一項に記載の方法。
7.
前記生体活性剤が、イオン相互作用によって前記ポリマーマトリックスに結合される、1〜6のいずれか一項に記載の方法。
8.
前記生体活性剤が、加水分解可能な結合によって前記ポリマーマトリックスに結合される、1〜6のいずれか一項に記載の方法。
9.
前記生体活性剤が、切断可能なリンカーによって前記ポリマーマトリックスに結合される、1〜6のいずれか一項に記載の方法。
10.
超音波が、約20KHz〜約1MHzの周波数を有する、1〜9のいずれか一項に記載の方法。
11.
超音波が、約1ワット〜約30ワットの強度を有する、1〜10のいずれか一項に記載の方法。
12.
前記ポリマーマトリックスが、約5,000ダルトン〜約500,000ダルトンの分子量を有する、1〜11のいずれか一項に記載の方法。
13.
放出された生体活性剤が、該生体活性剤が最初にポリマーマトリックス中に封入されなかった場合の生体活性に匹敵する生体活性を有する、1〜12のいずれか一項に記載の方法。
14.
前記ポリマーマトリックスが、超音波の反復適用の後にそれらの初期値の24%以内、10%以内、5%以内、2%以内、またはそれ未満の物理的完全性および/または機械的剛性値を有する、1〜13のいずれか一項に記載の方法。
15.
前記ポリマーマトリックスが生体分解性である、1〜14のいずれか一項に記載の方法。
16.
対象内の部位に前記ポリマーマトリックスを提供する工程をさらに含む、1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【0093】
以下の実施例は、本発明のいくつかの態様および局面を例示するものである。本発明の趣旨または範囲を変えることなく、様々な変更、追加、置換などを実施することが可能であり、ならびにそのような変更および変形が、以下の特許請求の範囲において定義されるような本発明の範囲内に包含されることは、当業者には明かであろう。以下の実施例は、いかなる点においても本発明を限定しない。
【実施例】
【0094】
実施例1:封入されたミトキサントロンのインビトロでの放出
ミトキサントロン0.825mg/mLを含有するアルギン酸塩ヒドロゲルを、50mMのCa2最終濃度およびポリマーに対するアルギン酸塩濃度が2%(w/w)となるように、アルギン酸塩水溶液をCaSO4のスラリーと混合することによって調製した。当該ゲルを、2つのガラススライドの間にキャストし、直径約10mmおよび厚さ2mmの円板に切断した。その後、ヒドロゲルを市販のダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で一晩膨潤させた。次に、そのようにして調製したヒドロゲル円板を、5mlのDMEMの入った15mLのプラスチックチューブに入れた。試料ヒドロゲルの1つの群を、周波数20KHzおよび1ワットの強度の低周波数超音波に、1時間あたり5分間供した。同様に調製した対照ヒドロゲルを含むさらなる群は、いかなる刺激にも供しなかった。図1Aおよび図1Bは、ヒドロゲルの2つの群に対する超音波の出力プロフィールを示している。図1Cからわかるように、超音波刺激が、ミトキサントロンの放出速度を〜10倍まで増加させ、亢進された放出速度は、すべて同じレベルであった。このことは、ミトキサントロンの放出がオンデマンドでかつ制御されていることを示していた。図1Dおよび図1Eの比較からわかるように、1時間あたりちょうど5分間の超音波により、累積放出量が〜70%まで増加した。さらに、マトリックス中の薬物放出の制御はほぼデジタル式であり、超音波照射を止めた後すぐに、ミトキサントロンの放出の速度は、無視できるレベルまで減少した。
【0095】
実施例2:封入されたミトキサントロンの超音波によるヒドロゲルからの放出後の生理活性
実施例1において放出されたミトキサントロンの生体活性は、乳癌細胞MCF7を当該ミトキサントロン溶液中でインキュベートし、24時間後の細胞生存率を測定することによって調べた。0.1〜20μg/mLの範囲の様々な濃度の新鮮なミトキサントロン(ポリマーと未混合)も、同じ数の乳癌細胞MCF7をインキュベートするために使用した。図2から、超音波放出されたミトキサントロンは、等量濃度の新鮮なミトキサントロン溶液と同じ量まで細胞生存率を低下させるということがわかる。したがって、超音波誘起薬物送達は、放出された薬物の生体活性を維持し得る。
【0096】
実施例3:封入されたプラスミドDNAのインビトロでの放出
ゲル1mlあたり0.1mgのプラスミドDNAを含有するアルギン酸塩ヒドロゲルを、実施例1に記載のように調製した。DMEM中での膨潤後、当該ヒドロゲル円板を、周波数20KHzおよび1ワットの強度の低周波数超音波に、毎日15分間供した。図3Aは、ヒドロゲルの超音波の出力プロフィールを示している。図3Bは、超音波が、放出速度をほぼ0から有限値まで増加させ、かつ超音波による放出速度が、3日間にわたって同じであったことを示している。このことは、同様に、プラスミドDNAの放出がオンデマンドでかつ制御されていることを示す。
【0097】
実施例4:様々な環境における超音波下でのポリマーマトリックスの特性
実施例1と同様に調製し、DMEM中で膨潤させたアルギン酸塩ヒドロゲルを、5mlの標準のDMEM(200mg/LのCaCl2および100mg/LのMgSO4を含む)、改変されたDMEM(1000mg/LのCaCl2および500mg/LのMgSO4を含む)、またはPBS(Ca2+およびMg2+を含まない)の入ったプラスチックチューブに入れた。周波数20kHzおよび強度1ワットの低周波数超音波を、1時間あたり10分間、様々な溶液中においてヒドロゲル円板に適用した。各超音波照射の後に、当該ゲル円板の弾性率を測定した。次いで、乾燥重量を測定するために、当該ヒドロゲル円板を凍結乾燥した。
【0098】
図4Aは、4回の超音波照射の後、PBS中で測定されたゲル円板の弾性率が約80%まで減少したことを示している。その一方で、改変されたDMEM中のゲル円板の弾性率は、1回の超音波照射の後、約80%まで増加し、さらなる照射でも同じレベルが維持された。標準のDMEM中のゲル円板の弾性率は、超音波照射下でほとんど同じレベルを維持した。図4Bは、PBS中のヒドロゲル円板は4回の超音波照射後にその重量が約30%減少したが、標準のDMEM中のヒドロゲル円板はほとんど一定の重量を維持していることを示している。標準のDMEM中のヒドロゲルは、超音波照射後においても完全なままであるが、PBS中で照射されたヒドロゲル円板は、中で生じた空洞によって深刻な損傷を受けたことが見出された(データは記載せず)。
【0099】
生理環境におけるCa2+およびMg2+の濃度は、標準のDMEMの濃度に近い。上記の結果は、生理環境におけるCa2+およびMg2+は、低周波数の超音波によって生じた空洞を再修復するのに十分であり、したがって、反復超音波に供されたゲルの物理的完全性および機械的弾性率を維持するということを示している。
【0100】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波に応じて、オンデマンドで生体活性剤を放出させるための方法であって、
該生体活性剤を含む生理的に許容される自己修復性ポリマーマトリックスを提供する工程と、
該生体活性剤を放出させるために超音波により該ポリマーマトリックスにおいてキャビテーションを誘起する工程であって、該自己修復性ポリマーが可逆的に架橋される、工程と
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスが、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される二価イオンのカチオンによって可逆的に架橋される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスが、生理的条件下で可逆的に架橋される、請求項1〜2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが、アルギン酸塩またはその誘導体を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記生体活性剤が、水中での同じ生体活性剤の拡散に関する平均自由行程より短い前記ポリマーマトリックス中での拡散の平均自由行程を有する、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記生体活性剤が、前記ポリマーマトリックスに可逆的に結合される、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記生体活性剤が、イオン相互作用によって前記ポリマーマトリックスに結合される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記生体活性剤が、加水分解可能な結合によって前記ポリマーマトリックスに結合される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記生体活性剤が、切断可能なリンカーによって前記ポリマーマトリックスに結合される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
超音波が、約20KHz〜約1MHzの周波数を有する、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
超音波が、約1ワット〜約30ワットの強度を有する、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーマトリックスが、約5,000ダルトン〜約500,000ダルトンの分子量を有する、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
放出された生体活性剤が、該生体活性剤が最初にポリマーマトリックス中に封入されなかった場合の生体活性に匹敵する生体活性を有する、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーマトリックスが、超音波の反復適用の後にそれらの初期値の24%以内、10%以内、5%以内、2%以内、またはそれ未満の物理的完全性および/または機械的剛性値を有する、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーマトリックスが、生体分解性である、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
対象内の部位に前記ポリマーマトリックスを提供する工程をさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−517430(P2012−517430A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549205(P2011−549205)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/022769
【国際公開番号】WO2010/093528
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(507244910)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (18)
【Fターム(参考)】