説明

多チャンネル同軸形ロータリージョイント

【課題】通過特性を劣化させずにアイソレーション特性を向上させた複数のチョーク構造を有する多チャンネル同軸形ロータリージョイントを提供する。
【解決手段】それぞれ一方の導体端の凹部に他方の導体端の凸部が接触せずに隙間を空けて嵌り込んだチョーク構造11,12,13を入れ子状態で複数有する多チャンネル同軸形ロータリージョイントにおいて、外側チャンネルと内側チャンネルを分離する導体に設けられたチョーク構造13が、内部の一部に吸収体22が装荷されると共に前記吸収体を装荷した部分の径が大きくされ、かつ少なくとも径を大きくした部分が外側チャンネルの入出力線路1の外側になるようにロータリージョイントの回転軸方向に沿ってずらして配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主としてVHF帯、UHF帯、マイクロ波帯およびミリ波帯で用いられる多チャンネル同軸形ロータリージョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の複数の伝送線路からなる多チャンネル同軸形ロータリージョイントにおいては、機械的な回転と電気的な良好な特性を実現するため、伝送線路を構成する外導体および内導体にはチョーク構造が設けられているが、その位置については特別な言及はなく、一般的には外側チャンネルの両側の入出力線路の間の中央部に設けられていた(例えば、下記特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭63−24642号公報(第4頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように従来の複数の伝送線路からなる多チャンネルロータリージョイントでは、機械的な回転と電気的な良好な特性を実現するためのチョーク構造が、外側チャンネルの両側の入出力線路の間の中央部(多チャンネルロータリージョイントの中央部)に設けられていた。
【0005】
チョーク構造は図13に断面図で示すように、機械的な回転を実現するため2つの導体を入れ子にし(すなわち一方の導体端の凹部に他方の導体端の凸部が接触せずに隙間を空けて嵌り込んでいる)、電気的に良好な特性を実現するため不連続部となる隙間において等価的に短絡となるように所定の長さに設定されている。しかしながら、チョーク構造の不連続部の隙間からの信号の漏洩を完全になくすことは困難であり、その漏洩はチャンネル間アイソレーション特性に影響する。アイソレーション特性を向上させるためには、チョーク構造の隙間に吸収体を設け漏洩信号を減衰させる手法があるが、吸収体を加工可能な大きさにした場合、チョーク構造の隙間を大きくすることになり、それに応じて外側チャンネルの径が大きくなる。この場合、径が大きくなるにつれて低い周波数から高次モードが伝播するようになるため通過特性が劣化するという問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、通過特性を劣化させずにアイソレーション特性を向上させた、複数のチョーク構造を有する多チャンネル同軸形ロータリージョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、それぞれ一方の導体端の凹部に他方の導体端の凸部が接触せずに隙間を空けて嵌り込んだチョーク構造を入れ子状態で複数有する多チャンネル同軸形ロータリージョイントにおいて、外側チャンネルと内側チャンネルを分離する導体に設けられたチョーク構造が、内部の一部に吸収体が装荷されると共に前記吸収体を装荷した部分の径が大きくされ、かつ少なくとも径を大きくした部分が外側チャンネルの入出力線路の外側になるようにロータリージョイントの回転軸方向に沿ってずらして配置されていることを特徴とする多チャンネル同軸形ロータリージョイントにある。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、通過特性を劣化させずにアイソレーション特性を向上させた、複数のチョーク構造を有する多チャンネル同軸形ロータリージョイントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントの構成を説明するための回転軸に沿った断面図である。
【図2】従来の多チャンネル同軸形ロータリージョイントの図1に対応する回転軸に沿った断面図である。
【図3】この発明によるチョーク構造で吸収体を装荷した場合のロータリージョイントの部分拡大断面図である。
【図4】従来のチョーク構造で吸収体を装荷した場合のロータリージョイントの部分拡大断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントの別の構成を説明するための回転軸に沿った断面図である。
【図6】吸収体を装荷しない従来のチョーク構造を部分的に示した図である。
【図7】図6のチョーク構造を有する2チャンネル同軸形ロータリージョイントにおける2チャンネル間アイソレーション特性の計算結果を示す図である。
【図8】この発明におけるチョーク構造を部分的に示した図である。
【図9】図8のチョーク構造を有する2チャンネル同軸形ロータリージョイントにおける2チャンネル間アイソレーション特性の計算結果を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントのチョーク構造での吸収体の状態を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントのチョーク構造での吸収体の状態を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態3に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントのチョーク構造での吸収体の状態の別の例を示す図である。
【図13】一般的なチョーク構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明による多チャンネル同軸形ロータリージョイントを各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントの構成を説明するための回転軸に沿った断面図である。このロータリージョイントは、内側、外側の2つのチャンネルを有する、回転軸に沿った断面図がH型の円筒形状のものである。図1において、1はロータリージョイントの一方の側に設けられた第1のストリップ線路(外側チャンネルの入出力線路)、2は他方の側に設けられた第2のストリップ線路(外側チャンネルの入出力線路)、3はロータリージョイントの中央部に設けられた第1の円形同軸線路、4は一方の端に設けられた第1のスタブアングル、5は他方の端に設けられた第2のスタブアングル、6は中央部の第1の円形同軸線路3の内側に形成された第2の円形同軸線路である。
【0012】
7、8は両側に設けられた外側チャンネル(チャンネル1)1の円形同軸形入出力端子、9、10はロータリージョイントの軸に沿って形成された内側チャンネル(チャンネル2)の円形同軸形入出力端子である。11、12は中央部に回転軸を中心とする同心円上に形成されているチョーク構造、13は回転軸方向に沿って一方の側にずらして配置されているチョーク構造である。各チョーク構造11,12,13は一方の導体端の凹部に他方の導体端の凸部が接触せずに隙間を空けて嵌り込んだ構造を有している。またチョーク構造13内にはさらに吸収体(ここではリング状)22が装荷され、吸収体22を装荷した部分の径が大きくされている。
【0013】
14,15は第1のストリップ線路1のそれぞれ外導体と内導体、16,17は第2のストリップ線路2の外導体と内導体、18,19は第1のスタブアングル4のそれぞれ外導体と内導体、20,21は第2のスタブアングル5のそれぞれ外導体と内導体である。
【0014】
円形同軸形入出力端子7,8間を信号が伝播する外側チャンネルと円形同軸形入出力端子9,10間を信号が伝播する内側チャンネルの2つのチャンネルを有する同軸形ロータリージョイントが構成されている。
【0015】
また、第1のストリップ線路1の内導体15は第1のスタブアングル4の外導体18と接続され、第2のストリップ線路2の内導体17は第2のスタブアングル5の外導体20と接続されている。このとき、第1のストリップ線路1は、外導体14と内導体15により構成され、第2のストリップ線路2は同様に外導体16と内導体17により構成されている。
【0016】
一方、第1の同軸線路3は、第1のストリップ線路1の外導体14および第2のストリップ線路2の外導体16からなる外導体と、第1のスタブアングル4の外導体18および第2のスタブアングル5の外導体20からなる内導体により同軸線路として構成され、第2の同軸線路6は、第1のスタブアングル4の外導体18および第2のスタブアングル5の外導体20からなる外導体と、第1のスタブアングル4の内導体19および第2のスタブアングル5の内導体21からなる内導体により同軸線路として構成されている。
【0017】
また、第1の円形同軸線路3の外導体に設けられたチョーク構造11は、第1のストリップ線路1の外導体14と第2のストリップ線路2の外導体16を所定の長さで延伸し、隙間を設けて入れ子(すなわち一方の導体端の凹部に他方の導体端の凸部が接触せずに隙間を空けて嵌り込んだ構造、以下同様)にすることにより構成されている。同様に、第1の円形同軸線路3の内導体に設けられたチョーク構造12は、第1のスタブアングル4の内導体19と第2のスタブアングル5の内導体21を所定の長さで延伸し、隙間を設けて入れ子にすることにより構成されている。
【0018】
さらに、外側チャンネルと内側チャンネルを分離する導体である第1の円形同軸線路3の内導体、に設けられたチョーク構造13は、第1のスタブアングル4の外導体18と第2のスタブアングル5の外導体20を所定の長さで延伸し、隙間を設けて入れ子にすることにより構成されている。このとき、第1のスタブアングル4の外導体18のチョーク構造13は一部の径が広げられ、その隙間に吸収体22が装荷されている。
【0019】
次に動作について説明する。外側チャンネルの入出力端子7に信号が入力された場合、第1のストリップ線路1、第1の円形同軸線路3、第2のストリップ線路2を経由して、信号が伝播され、外側チャンネルの入出力端子8に出力される。
【0020】
外側チャンネルの内導体と外導体、内側チャンネルの外導体にはチョーク構造13が設けられており、電気的に不連続なく周方向に自由に回転できるようにしている。このとき、外側チャンネルの内導体と外導体に設けられたチョーク構造13の一端は第1のストリップ線路1と内側チャンネルの入出力端子9の間になるように設けられている。また、チョーク構造13の径はその一部が内側チャンネルの外導体のチョークの径よりも大きく、その隙間には吸収体22が装荷されている。
【0021】
図2に、チョーク構造が外側チャンネルの両側の入出力線路の間の中央部、すなわち第1のストリップ線路1と第2のストリップ線路2間にある、従来の多チャンネル同軸形ロータリージョイントの図1に対応する回転軸に沿った断面図を示す。図1のチョーク構造13に対応するチョーク構造130は他のチョーク構造と同じ吸収体を装荷していない。従ってチョーク構造の不連続部の隙間からの信号の漏洩を完全になくすことは困難であり、その漏洩はチャンネル間アイソレーション特性に影響する。アイソレーション特性を向上させるためには、図1のチョーク構造13に示すように漏洩信号を減衰させるための吸収体22が必要である。
【0022】
しかしながら吸収体を加工可能な大きさにした場合、上述のようにチョーク構造の隙間を大きくすることになり、それに応じて外側チャンネルの径が大きくなる。この場合、径が大きくなるにつれて低い周波数から高次モードが伝播するようになるため通過特性が劣化するという問題がある。
【0023】
図3にこの発明によるチョーク構造で吸収体を装荷した場合、図4に従来のチョーク構造で吸収体を装荷した場合の、それぞれロータリージョイントの一部の拡大断面図を示す。同じ大きさの吸収体22を装荷しようとした場合、図3に示すこの発明によるチョーク構造13を適用した同軸線路3の内径(半径)aは、図4に示す従来のチョーク構造130を適用した同軸線路3の内径(半径)bに比べ小さくできる。したがって、径が大きくなることによる高次モードの影響を小さくできるという効果を有する。なお、吸収体22を装荷する径の位置(径を拡張した部分)の位置は第1のスタブアングル4の部分であるため、外側チャンネルについては第1のストリップ線路1の内導体15と外導体14の間に比べて、第1のストリップ線路1の内導体15とチョーク構造13の間の電界の集中が小さく、特性には大きく影響しない。また、内側チャンネルについては同軸線路6としての外導体(例えば20)の径は、吸収体22を装荷しない場合と変わらないため、特性は変わらない。したがって、外側チャンネル、内側チャンネルともに特性に大きく影響しない。
なお、図5に示すように内導体15,17の両側にそれぞれ外導体14,14a、外導体16,16aを近接させたストリップ線路を構成してもよい。外導体は新たに設けても、もとからある外導体を近接させてもよく、この場合は外側チャンネルの線路とチョーク構造13が分離されるので、さらにチョーク構造13の影響が小さくなるという効果も有する。
【0024】
また、図6に吸収体を装荷しない従来のチョーク構造を部分的に示したもの、図7に図6のチョーク構造を有する2チャンネル同軸形ロータリージョイントにおける2チャンネル間アイソレーション特性の計算結果、図8にこの発明におけるチョーク構造を部分的に示したもの、図9に図8のチョーク構造を有する2チャンネル同軸形ロータリージョイントにおける2チャンネル間アイソレーション特性の計算結果を示す。図6,図8に示す各部分の寸法の単位はmmである。また図7,図9のアイソレーション特性の横軸は周波数[GHz]、縦軸がアイソレーション[dB]を示す。従来のチョーク構造ではアイソレーション最悪値−35dBに対し、この発明でのチョーク構造ではアイソレーション最悪値−55dBであり、従来に比べアイソレーションは20dB低くなっており、20dBのアイソレーション特性向上効果が確認できる。
【0025】
以上のように、外側チャンネルと内側チャンネルを分離する導体に設けられたチョーク構造を、内部の一部に吸収体を装荷すると共に吸収体を装荷した部分の径を大きくし、かつ少なくとも径を大きくした部分が外側チャンネルの入出力線路の外側になるようにロータリージョイントの回転軸方向に沿ってずらして配置することにより、通過特性を劣化させずに2チャンネル間のアイソレーション特性を向上できる。
【0026】
実施の形態2.
図10はこの発明の実施の形態2に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントのチョーク構造での吸収体の状態を示す図である。この実施の形態2ではさらに、吸収体22が第1のスタブアングル(4)の外導体18と第2のスタブアングル(5)の外導体20を延伸した2つの導体の両方に密着するように装荷され、2つの外導体18,20の支持体をかねている。このため、一般的に、チョーク構造を設ける際に必要になる2つの導体の支持体をあらたに設けずにすむという効果も有する。なおその他の構成は上記実施の形態1のものと基本的に同じである。
【0027】
実施の形態3.
図11はこの発明の実施の形態3に係わる多チャンネル同軸形ロータリージョイントのチョーク構造での吸収体の状態を示す図である。この実施の形態3ではさらに、吸収体22を第1のスタブアングル(4)の外導体18に例えば接着等により固定され、第2のスタブアングル(5)の外導体20を延伸した導体には接触しないように構成されている。したがって、回転時の導体との接触による磨耗をさけることができ吸収体22の消耗が低減できるという効果も有する。なおその他の構成は上記実施の形態1のものと基本的に同じである。
【0028】
なお、吸収体22は図12に示すように第2のスタブアングル(5)の外導体20を延伸した導体に接着等により固定してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 第1のストリップ線路、2 第2のストリップ線路、3 第1の円形同軸線路、4 第1のスタブアングル、5 第2のスタブアングル、6 第2の円形同軸線路、7−10 円形同軸形入出力端子、11,12,13,130 チョーク構造、14,14a,16,16a,18,20 外導体、15,17,19,21 内導体、22 吸収体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ一方の導体端の凹部に他方の導体端の凸部が接触せずに隙間を空けて嵌り込んだチョーク構造を入れ子状態で複数有する多チャンネル同軸形ロータリージョイントにおいて、
外側チャンネルと内側チャンネルを分離する導体に設けられたチョーク構造が、内部の一部に吸収体が装荷されると共に前記吸収体を装荷した部分の径が大きくされ、
かつ少なくとも径を大きくした部分が外側チャンネルの入出力線路の外側になるようにロータリージョイントの回転軸方向に沿ってずらして配置されていることを特徴とする多チャンネル同軸形ロータリージョイント。
【請求項2】
吸収体はチョーク構造における導体の支持体をかねることを特徴とする請求項1に記載の多チャンネル同軸形ロータリージョイント。
【請求項3】
吸収体はチョーク構造における一方の導体に固定され、他方の導体とは接触しないことを特徴とする請求項1に記載の多チャンネル同軸形ロータリージョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−90045(P2012−90045A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234545(P2010−234545)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】