説明

多孔体の製造方法

【課題】表面に形成される孔が、所望の寸法で、所望の形成密度の多孔フィルムを製造する。
【解決手段】塗布ゾーン33aでは、溶液11に円筒状の筒37を浸漬する。溶液11から筒37を取り出す。筒37の曲面には溶液11からなる塗布膜が形成される。湿潤気体ゾーン33bには、吹き出し口を有する給気ノズル58が設けられる。吹き出し口の開口面が筒37の外周面に沿うように、給気ノズル58が移動する。移動状態の給気ノズル58は、吹き出し口から塗布膜に向けて湿潤気体をあてる。塗布膜の表面に水滴が形成し、成長する。乾燥気体ゾーン33cには、吹き出し口を有する給気ノズル68が設けられる。給気ノズル68は、給気ノズル58と同様に、移動状態のまま、吹き出し口から塗布膜に向けて乾燥気体をあてる。塗布膜から溶剤や水滴が蒸発する。水滴を鋳型として、塗布膜に孔が形成され、最終的に多孔フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布膜に複数の水滴を並べ、塗布膜を乾燥し、この水滴を鋳型として塗布膜に孔を形成する多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、これらの分野に用いられる材料表面に、より微細な構造(以下、微細パターン構造と称する)を形成すること(以下、微細パターニングと称する)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有するフィルム等が、細胞培養の場となる材料として有効である。
【0003】
微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。また、特許文献1には、微細パターニングとして、溶液から複数の孔を有する多孔フィルムをつくる方法が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の多孔フィルムをつくる方法について簡単に説明する。まず、疎水性の溶剤とポリマーとを含むポリマー溶液(以下、溶液と称する)を支持体上に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する。次に、温度、露点や溶剤の凝縮点などが所定条件の範囲になるように調節された湿潤気体を、塗布膜の表面のうち露出する面(以下、露出面と称する)にあてて、結露により露出面に水滴を形成させ、成長させる。このとき、露出面上の水滴は、その寸法を維持したまま、或いは成長をしながら、塗布膜に潜り込む。最後に、塗布膜に乾燥気体をあてて、塗布膜から溶剤や水滴を蒸発させる。塗布膜に潜り込んでいる水滴の蒸発により、水滴を鋳型として塗布膜に孔が形成される。こうして、溶液から複数の孔を有する多孔フィルムを得ることができる。
【特許文献1】特開2006−070254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載により得られる微細パターン構造は、他の微細パターニングによって得られる微細パターン構造に比べ、孔の径、形成ピッチの調節により、細胞培養の速度を簡便に安価に調節できる等のメリットがある。このようなメリットを持つ微細パターン構造を、血管内に導入され、血管の狭窄部や閉塞部を開通した状態で配されるステントの表面に設けることにより、再狭窄を防止することができる。また、ステントに限られず、体内に配するその他の医療器具においても、同様の効果が期待できる。
【0006】
ところが、ステントやカテーテルその他の医療器具の表面は、通常、平面ではなく、曲面に形成される。また、特許文献1に記載の微細パターニングは、シート状の材料表面における微細パターニングに限られるため、ステントやカテーテルその他の医療器具の表面のような、曲面における微細パターニングに適していない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、曲面における微細パターニングを可能にする多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔体の製造方法は、ポリマー及び疎水性溶剤が含まれる溶液を支持体の曲面上に塗布して、前記溶液からなる塗布膜を前記曲面上に形成する塗布工程と、第1給気ノズルに設けられた第1吹き出し口から湿潤気体を吹き出し、この湿潤気体を前記塗布膜にあてて、結露により水滴を前記塗布膜に形成する水滴形成工程と、前記水滴を成長させる水滴成長工程と、前記水滴を前記塗布膜から蒸発させて、前記水滴を鋳型とする孔を前記塗布膜に形成する孔形成工程とを有することを特徴とする。
【0009】
前記第1吹き出し口の開口面が前記曲面に沿うように移動する状態の前記第1給気ノズルから、前記湿潤気体を吹き出して前記水滴形成工程または前記水滴成長工程を行うことが好ましい。また、前記第1吹き出し口の開口面の前方を前記曲面が走行するように、前記支持体を駆動させて前記水滴形成工程または前記水滴成長工程を行うことが好ましい。
【0010】
前記孔形成工程では乾燥気体を前記塗布膜にあてることが好ましい。また、第2吹き出し口の開口面が前記曲面に沿うように移動する状態の第2給気ノズルから、前記乾燥気体を吹き出して前記孔形成工程を行うことが好ましい。更に、第2吹き出し口から前記乾燥気体を吹き出す第2給気ノズルを用いて、前記第2吹き出し口の開口面の前方を前記曲面が走行するように、前記支持体を駆動させて前記孔形成工程を行うことが好ましい。
【0011】
前記塗布工程では、前記支持体を前記溶液に浸漬した後に、前記支持体を前記溶液から取り出すことが好ましい。また、形成から60秒を経過する前の前記塗布膜について、前記水滴形成工程を開始させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリマー及び疎水性溶剤が含まれる溶液を支持体の表面の曲面上に塗布して、曲面上に塗布膜を形成し、湿潤気体を塗布膜にあてて、結露により水滴を塗布膜に形成し、乾燥気体を塗布膜にあてて、成長した水滴を塗布膜から蒸発させるため、所望の寸法で、所望の形成密度で形成される孔を有する多孔体を曲面上に容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(多孔フィルムの製造方法)
図1に示すように、多孔フィルム製造工程10によれば、溶液11から、塗布膜12を経て、表面に複数の孔を有する多孔フィルム13を製造することができる。多孔フィルム製造工程10は、溶液11の塗布により、溶液11からなる塗布膜12を形成する塗布工程21と、塗布膜12の表面に水滴を形成する水滴形成工程22と、水滴を成長させる水滴成長工程23と、塗布膜12から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程24と、塗布膜12から水滴を蒸発させる水滴蒸発工程25とを有する。
【0014】
(多孔フィルム製造設備)
多孔フィルム製造設備30は、図2に示すように、ハンドリング装置31と、第1収納室32と、製造室33と、第2収納室34とを有する。第1収納室32には、支持体である円筒状の筒37が格納される。製造室33には、塗布ゾーン33a、湿潤気体ゾーン33b、及び乾燥気体ゾーン33cが設けられる。各ゾーン33a〜33cでは、筒37について多孔フィルム製造工程10(図1参照)の各処理が行われる。第2収納室34には、多孔フィルム製造工程10(図1参照)を経た筒37が格納される。
【0015】
(ハンドリング装置)
ハンドリング装置31は、図2に示すように、保持プレート41と搬送ユニット42とを有する。保持プレート41は、図3に示すように、プレート本体44、クランプ部45、温度調節部46、及び制御部47を有する。クランプ部45は、制御部47の制御の下、筒37の一端をくわえる保持状態と、筒37の保持を解除する解除状態との間で遷移する。温度調節部46は、制御部47の制御の下、クランプ部45で保持された筒37の温度(0〜30℃)を調節する。
【0016】
搬送ユニット42は、図2及び図3に示すように、第1収納室32、各ゾーン33a、33b、33c、及び第2収納室34の順に保持プレート41を送る。第1収納室32では、クランプ部45は解除状態から保持状態に遷移する。各ゾーン33a〜33cでは、クランプ部45は保持状態のままである。そして、第2収納室34では、クランプ部45は保持状態から解除状態に遷移する。こうして、ハンドリング装置31は、第1収納室32に格納される筒37の一端をくわえ、その後、各ゾーン33a、33b、33c、及び第2収納室34の順に筒37を送る。最後に、筒37の保持の解除により、筒37を第2収納室34に置く。
【0017】
(塗布ゾーン)
図2に示すように、塗布ゾーン33aには、溶液11を貯留する貯留槽51が設けられる。図示しない温調機を用いて、貯留槽51に貯留する溶液11の温度を所定の範囲内(0〜30℃)で略一定となるように調節することが好ましい。
【0018】
(湿潤気体ゾーン)
図2及び図4に示すように、湿潤気体ゾーン33bでは、保持プレート41で保持された筒37は、所定の位置にて静置される。湿潤気体ゾーン33bには給気ノズル58が配される。給気ノズル58は湿潤気体400を吹き出す吹き出し口59を有する。吹き出し口59の開口面59aは筒37の外周面37aと対向するように形成される。給気ノズル58は、静置した筒37の外周を移動自在となるように設けられる。
【0019】
給気ノズル58は、図示しない湿潤気体供給部及び移動制御部と接続する。移動制御部は、筒37の周方向、径方向、または軸方向のうち少なくとも1つの方向に給気ノズル58を移動させる。移動制御部により、給気ノズル58は、開口面59aが外周面37aと対向する状態を維持しながら、外周面37aを沿うように移動する。
【0020】
湿潤気体供給部は、湿潤気体400の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1等を所定の範囲内となるように調節する。更に、湿潤気体供給部は、吹き出し口59から筒37に向かって流れる湿潤気体400の速さが所定の範囲内となるように、温度、湿度等が調節された湿潤気体400を給気ノズル58に送る。
【0021】
(乾燥気体ゾーン)
図2及び図5に示すように、乾燥気体ゾーン33cでは、湿潤気体ゾーン33bと同様に、保持プレート41で保持された筒37は、所定の位置にて静置される。乾燥気体ゾーン33cには給気ノズル68が配される。給気ノズル68は乾燥気体402を吹き出す吹き出し口69を有する。吹き出し口69の開口面69aは筒37の外周面37aと対向するように形成される。給気ノズル68は、静置した筒37の外周を移動自在となるように設けられる。
【0022】
給気ノズル68は、図示しない乾燥気体供給部及び移動制御部と接続する。移動制御部は、筒37の周方向、径方向、または軸方向のうち少なくとも1つの方向に給気ノズル68を移動させる。移動制御部により、給気ノズル68は、開口面69aが外周面37aと対向する状態を維持しながら、外周面37aを沿うように移動する。
【0023】
乾燥気体供給部は、乾燥気体402の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2等を所定の範囲内となるように調節する。更に、乾燥気体供給部は、吹き出し口69から筒37に向かって流れる乾燥気体402の速さが所定の範囲内となるように、温度、湿度等が調節された乾燥気体402を給気ノズル68に送る。
【0024】
湿潤気体400や乾燥気体402としては、空気のほか、窒素や希ガス等、その他の気体を用いてもよい。
【0025】
次に、本発明の作用について説明する。図2に示すように、第1収納室32にある筒37は、ハンドリング装置31により、各ゾーン33a〜33c、及び第2収納室34に順次案内される。
【0026】
図2に示すように、塗布ゾーン33aでは、筒37は貯留槽51に貯留する溶液11に浸漬される。その後、筒37を溶液11から引き出すと、図6に示すように、筒37の外周面37a及び内周面37bには、溶液11からなる塗布膜12a及び塗布膜12bが形成する。各塗布膜12a、12bの膜厚TH0は、1μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0027】
図2に示すように、湿潤気体ゾーン33bでは、筒37は所定の位置に静置される。図3及び図7に示すように、温度調節部46により、塗布膜12aの外周面の温度TSが−5℃以上30℃以下となるように、筒37の温度が調節される。図4及び図7に示すように、給気ノズル58は、開口面59aが外周面37aと対向する状態を維持しながら、筒37の周方向に回転、回動または揺動する。これにより、給気ノズル58が筒37の外周を移動する間、給気ノズル58の開口面59a及び外周面37aの間隔は略一定に保持される。開口面59a及び外周面37aの間隔は、3mm以上300mm以下であることが好ましい。湿潤気体供給部の制御の下、温度TA1、露点TD1、及び溶剤の凝縮点TR1等が水滴形成工程用に調節された湿潤気体400が、給気ノズル58に送られる。開口面59aが外周面37aに沿うように移動する給気ノズル58は、吹き出し口58aから塗布膜12aに向けて所定の速度で、湿潤気体400を吹き出す。湿潤気体400の温度TA1は5℃以上40℃以下であることが好ましい。湿潤気体400の露点TD1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。図8に示すように、塗布膜12aに湿潤気体400が接触すると、結露により、塗布膜12aの表面に水滴401が形成される。
【0028】
引き続いて、湿潤気体供給部の制御の下、温度TA1、露点TD1、及び溶剤の凝縮点TR1等が水滴成長工程用に調節された湿潤気体400が、吹き出し口59から塗布膜12aに向かって所定の速度で流れる。図9に示すように、塗布膜12aに湿潤気体400が接触すると、塗布膜12aの表面に形成した水滴401が成長する。こうして、湿潤気体ゾーン33b(図2参照)では、水滴形成工程や水滴成長工程が行われる。
【0029】
図2及び図5に示すように、乾燥気体ゾーン33cでは、搬送ユニット42により、筒37は所定の位置に静置される。給気ノズル68は、開口面69aが外周面37aと対向する状態を維持しながら、筒37の周方向に回転、回動または揺動する。これにより、給気ノズル68が筒37の外周を移動する間、給気ノズル68の開口面69a及び外周面37aの間隔は略一定に保持される。開口面69a及び外周面37aの間隔は、3mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0030】
乾燥気体供給部の制御の下、温度TA2、露点TD2、及び溶剤の凝縮点TR2等が溶剤蒸発工程用に調節された乾燥気体402が、給気ノズル68に送られる。開口面69aが外周面37aに沿うように移動する給気ノズル68は、吹き出し口69から塗布膜12aに向けて所定の速度で、乾燥気体402を吹き出す。図10に示すように、塗布膜12aに乾燥気体402が接触すると、塗布膜12aから溶剤403が蒸発する。これにより、塗布膜12aをなす溶液の流動性が低下する。なお、水滴401を鋳型とする目的から、溶剤蒸発工程24における溶剤403の蒸発は、塗布膜12aにおける溶液の流動性が失われる程度まで行うことが好ましい。
【0031】
引き続いて、乾燥気体供給部の制御の下、温度TA2、露点TD2、及び溶剤の凝縮点TR2等が水滴蒸発工程用に調節された乾燥気体402が、吹き出し口69から、外周面37a上に設けられた塗布膜12aの表面に向かって所定の速度で流れる。図11に示すように、塗布膜12aに乾燥気体402が接触すると、塗布膜12aから水滴401が蒸発する。こうして、乾燥気体ゾーン33c(図2参照)では、溶剤蒸発工程や水滴蒸発工程が行われる。これにより、水滴401が鋳型となって塗布膜12aに孔が形成し、塗布膜12aが多孔フィルム13(図1参照)になる。
【0032】
図2に示すように、製造室33では多孔フィルム製造工程10(図1参照)が行われる。最後に、ハンドリング装置31により、多孔フィルム13を外周面に有する筒37は、第2収納室34に送られる。
【0033】
(多孔フィルム)
図12(A)に示すように、円筒状に形成される多孔フィルム13は、外周面に孔13aを有する。孔13aは、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように多孔フィルム13に密に配列する。そして、図12(B)及び(C)に示すように、孔13aは、多孔フィルム13の外周面及び内周面を貫通するように形成される。なお、図12(D)のように、孔13aの代わりに、窪み113aが外周面側に形成される多孔フィルム113の他、窪みが内周面側に形成される多孔フィルムも本発明の多孔フィルムに含まれる。また、円筒状以外のものも本発明の多孔フィルムに含まれる。
【0034】
そして、この孔13aや窪み113aの寸法や形成密度は、後述する製造条件によって異なる。本発明により製造される多孔フィルム13又は113の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、多孔フィルム13、又は113の厚みTH1が0.05μm以上、孔13a、又は窪み113aの径D1が0.05μm以上、孔13a、又は窪み113aの形成ピッチP1が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルム13又は113を製造する場合に特に効果がある。
【0035】
なお、本明細書において、ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、同一平面上において、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0036】
このように、本発明によれば、外周面37a(図6参照)、すなわち支持体の表面の曲面上に塗布膜12aを設け、この塗布膜12aに所定の湿潤気体400(図4参照)及び乾燥気体402(図5参照)を順次あてるため、曲面上において、微細パターン構造を有する多孔フィルムを製造することができる。
【0037】
図4及び図7に示すように、略平面に形成される開口面59aから曲面上に設けられた塗布膜12aに向けて湿潤気体400を送ると、塗布膜12aにあたる際の湿潤気体400の風速が均一とならない結果、塗布膜12aにおいて水滴形成工程や水滴成長工程を一様に行うことが困難である。このことは、開口面69aが平面に形成される給気ノズル68を用いて、曲面上に設けられた塗布膜12aについて溶剤蒸発工程や水滴蒸発工程を行う場合も同様である。
【0038】
本発明では、湿潤気体ゾーン33bでは、塗布膜12a及び開口面59aの間隔が一定に保持された状態で、一定の速さで移動する給気ノズル58を用いて、開口面59aから塗布膜12aに向けて湿潤気体400をあてるため、水滴形成工程では、寸法が均一の水滴を形成し、水滴成長工程では、塗布膜における水滴の成長速度を一様にすることができる。同様にして、図5に示す乾燥気体ゾーン33cでは、塗布膜12aの表面及び開口面69aの間隔が略一定に保持された状態で移動する給気ノズル68を用いて、開口面69aから塗布膜12aに向けて乾燥気体402をあてるため、溶剤蒸発工程や水滴蒸発工程において、曲面上に設けられた塗布膜における溶剤や水滴の蒸発速度を一様にすることができる。したがって、本発明によれば、複数の孔を有し、それぞれの孔の寸法及び孔の形成ピッチが均一である多孔フィルムを製造することができる。
【0039】
(水滴形成工程)
図8に示すように、水滴形成工程における水滴401の核形成は、湿潤気体400の露点TD1と塗布膜12aの温度TSとの差ΔTw(=TD1−TS)により、調節することができる。結露を生じさせる点から、水滴形成工程22ではΔTwを少なくとも0℃以上にする。また、ΔTwの下限値は、0.5℃以上であることが好ましく、1℃以上であることがより好ましい。一方、ΔTwが大きくなりすぎると、水滴401の大きさにばらつきが生じる、或いは水滴401が2次元、つまり平面に並ばずに3次元に重なってしまう結果、多孔フィルムに形成される孔の寸法や形成ピッチが不均一となってしまう。そこで、ΔTwの上限値は、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることが特に好ましい。
【0040】
塗布膜12aに対する湿潤気体400の相対速度V1は、0.01m/秒以上10m/秒以下であることが好ましく、0.05m/秒以上2m/秒以下であることがより好ましい。速さV1が0.01m/秒未満となると結露が生じにくく、鋳型となる水滴の形成が抑制される点で好ましくなく、速さV1が10m/秒より大きくなると塗布膜の乱れによるムラの点で好ましくない。
【0041】
(水滴成長工程)
図9に示すように、水滴成長工程における水滴401の核成長は、水滴形成工程と同様に、ΔTwにより調節することができる。新たな水滴の形成を抑えつつ、塗布膜12aの水滴401を成長させる点から、水滴形成工程ではΔTwを少なくとも0℃以上にする。また、ΔTwの下限値は、0.5℃以上であることが好ましく、1℃以上であることがより好ましい。一方、ΔTwが大きくなりすぎると、水滴が成長しすぎてしまい、水滴同士が融合してしまい孔径が不規則になるといった故障が生じるためである。そこで、ΔTwの上限値は、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることが特に好ましい。
【0042】
また、溶剤の蒸発は、蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTwが変動してしまうため、水滴形成工程や水滴成長工程では、溶剤の蒸発があまり速すぎることは好ましくない。このため、蒸発が速すぎる場合においては、湿潤気体中に溶剤ガスを含ませることが好ましい。但し、溶剤ガスの凝縮点TR1が表面温度TSより高い場合は、溶液表面に、溶剤が凝縮してしまうため、溶剤の凝縮点TR1は温度TSよりも低いことが好ましい。
【0043】
図10に示すように、溶剤蒸発工程では、塗布膜12aにおける水滴401の蒸発、核形成及び核成長を抑えることが好ましい。塗布膜12aにおける水滴401の蒸発、核形成及び核成長の抑制は、乾燥気体402の露点TD2と塗布膜12aの温度TSとの差ΔTw(=TD2−TS)の調節により行うことができる。ΔTwは0℃以上10℃以下であることが好ましく、0℃以上5℃以下であることがより好ましい。図11に示すように、水滴蒸発工程では、塗布膜12aに残留する溶剤や水滴401を蒸発させるため、ΔTwはできるだけ小さいことが好ましい。溶剤蒸発工程及び水滴蒸発工程では、塗布膜12aから溶剤を蒸発させるために、溶剤の凝縮点TR2は温度TSよりも低いことが好ましい。また、塗布膜12aに対する湿潤気体400の相対速度V2は、0.01m/秒以上10m/秒以下であることが好ましく、0.05m/秒以上2m/秒以下であることがより好ましい。
【0044】
図6に示すように、溶液11から引き出された筒37の外周面37aには、塗布膜12aが形成される。図8に示す水滴形成工程は、対象となる塗布膜12aが形成した時点から60秒を経過する前に開始することが好ましく、30秒を経過する前に開始することがより好ましく、10秒を経過する前に開始することが特に好ましい。形成した時点から60秒を経過した塗布膜12aにおいて、水滴形成工程が開始していない場合には、塗布膜12aを形成する溶液の乾燥が進行し、溶液の粘度が増大する結果、水滴を鋳型とする孔が塗布膜12aに形成されない、或いは、塗布膜12aに形成する孔の寸法や形成ピッチが不均一になってしまう。ここで、水滴形成工程の開始とは、水滴形成工程用に調節した湿潤気体と塗布膜とが接触するタイミングを指す。
【0045】
なお、給気ノズル58の移動方向X(以下、方向Xと称する)に直交する方向(以下、方向Yと称する)において、塗布膜の寸法が開口面59aの寸法よりも大きい場合には、湿潤気体400を吹き出す状態の給気ノズル58をX方向に移動させ、湿潤気体400の吹き出しが停止した状態の給気ノズル58をY方向に移動させた後、再び、湿潤気体400を吹き出す状態の給気ノズル58をX方向に移動させる。これを逐一繰り返すことにより、支持体の曲面上に設けられた塗布膜全域に水滴形成工程や水滴成長工程を行うことができる。支持体として筒状のものを用いる場合には、方向Yを支持体の長手方向とし、方向Xを、支持体の外周面を沿う方向とすればよい。また、支持体として円筒状の筒37を用いる場合には、方向Xを筒37の周方向とし、方向Yを筒37の軸方向とすればよい。また、給気ノズル58を支持体の外周面を沿うように螺旋状に移動させてもよい。給気ノズル58と同様にして、湿潤気体400を吹き出す状態の給気ノズル58を移動させることにより、支持体の曲面上に設けられた塗布膜全域に溶剤蒸発工程や水滴蒸発工程を行うことができる。
【0046】
上記実施形態では、1つの給気ノズル58、68を用いて各工程22〜25(図1参照)を行ったが、本発明はこれに限られず、複数の給気ノズル58、68を用いて各工程22〜25(図1参照)を行ってもよい。例えば、複数の給気ノズル58を、開口面59aが筒37の外周面と対向するように、X方向に並べてもよいし、Y方向に並べてもよいし、X方向及びY方向にそれぞれに並べてもよい。複数の給気ノズル68を用いる場合も、給気ノズル58の場合と同様にして並べてもよい。複数の給気ノズル58のうち、一部を水滴形成工程用に調節された湿潤気体を吹き出す給気ノズルとして用い、残りを水滴成長工程用に調節された湿潤気体を吹き出す給気ノズルとして用いてもよい。同様にして、複数の給気ノズル68のうち、一部を溶剤蒸発工程用に調節された乾燥気体を吹き出す給気ノズルとして用い、残りを水滴蒸発工程用に調節された乾燥気体を吹き出す給気ノズルとして用いてもよい。
【0047】
上記実施形態では、各ゾーン33b、33cにおいて、静置した筒37の外周を移動する給気ノズル58、68を用いたが、本発明はこれに限られない。例えば、図13に示すように、湿潤気体400を吹き出す状態の給気ノズル58を筒37の外周に静置させて、筒37の軸を中心にして、筒37を回転、回動、または揺動させる。これにより、開口面59aの前方を外周面37aが一定の速さで走行するため、開口面59aから吹き出す湿潤気体400の接触量は、外周面37a上に設けられた塗布膜12aの全域において略均一となる。こうして、曲面上に設けられた塗布膜において各工程22〜23(図1参照)を均一に行うことができる。なお、上述した内容は、給気ノズル58への適用に限られず、給気ノズル58及び給気ノズル68のうち少なくともいずれか一方に適用すればよい。また、開口面59aと外周面37aとの間隔を一定に維持した状態で各工程22〜23(図1参照)を行うことが好ましい。
【0048】
上記実施形態では、図4及び図7に示すように、筒37の外周面37a上に設けられた塗布膜12aについて各工程22〜25(図1参照)を行ったが、本発明はこれに限られず、筒37の内周面37b上に設けられた塗布膜12bについて各工程22〜25(図1参照)を行ってもよい。水滴形成工程を例にして説明すると、図14に示すように、給気ノズル58を筒37の中空部に配する。給気ノズル58は、開口面59aが内周面37bと対向する状態を維持しながら、筒37の周方向に回転、回動または揺動する。これにより、筒37の中空部において給気ノズル58が移動する間、湿潤気体400を吹き出す給気ノズル58の開口面59a及び塗布膜12bの表面の間隔は略一定に保持される。また、給気ノズル58を移動させる代わりに、筒37の軸を中心に筒37を回転、回動または揺動させてもよい。更に、給気ノズル58を筒37の外周及び中空部に設け、外周面37a及び内周面37bに設けられた塗布膜12a及び塗布膜12bについて各工程22〜25(図1参照)を行ってもよい。なお、上述した内容は、給気ノズル58への適用に限られず、給気ノズル58及び給気ノズル68のうち少なくともいずれか一方に適用すればよい。
【0049】
上記実施形態では、給気ノズル58を筒37の中空部に配したが、本発明はこれに限られず、給気ノズル58から吹き出した湿潤気体400が中空部を通過するように、筒37の軸方向の端側に給気ノズル58を設けてもよい。また、この給気ノズル58と同様の構造を有する給気ノズルを保持プレート41に設けてもよい。
【0050】
上記実施形態では、図2に示すように、垂直方向に静置した筒37について各工程22〜25(図1参照)を行ったが、本発明はこれに限られず、水平方向に静置した筒37について各工程22〜25(図1参照)を行ってもよい。
【0051】
(溶剤蒸発抑制工程)
塗布工程及び水滴形成工程の間において、塗布膜からの溶剤の蒸発を抑制する溶剤蒸発抑制工程を行うことが好ましい。図2に示す多孔フィルム製造設備30を例に挙げると、塗布ゾーン33a及び湿潤気体ゾーン33bの間における筒37の搬送路に、溶剤蒸発抑制工程を行う溶剤蒸発抑制ゾーンを設けてもよい。塗布膜の温度TS並びに、溶剤蒸発抑制ゾーン内の気体の露点TD3、及び凝縮点TR3等は所定の範囲に調節されることが好ましい。凝縮点TR3と塗布膜の温度TSとの差ΔTsolv(=TR3−TS)は、−20℃以上10℃以下であることが好ましい。また、溶剤蒸発抑制ゾーンでは、塗布膜における水滴の形成を抑えることを防ぐことが好ましい。したがって、露点TD3と塗布膜の温度TSとの差ΔTw(=TD3−TS)は、0℃以下であることが好ましい。
【0052】
上記実施形態では、湿潤気体ゾーン33bを1つ設けたが、本発明はこれに限られず、湿潤気体ゾーン33bを複数設けてもよい。湿潤気体ゾーン33bを複数設ける場合には、複数の湿潤気体ゾーン33bのうち一部の湿潤気体ゾーン33bにおいて、水滴形成工程を行い、その後、残りの湿潤気体ゾーン33bにおいて、水滴成長工程を行ってもよい。
【0053】
上記実施形態では、乾燥気体ゾーン33cを1つ設けたが、本発明はこれに限られず、乾燥気体ゾーン33cを複数設けてもよい。乾燥気体ゾーン33cを複数設ける場合には、複数の乾燥気体ゾーン33cのうち一部の乾燥気体ゾーン33cにおいて、溶剤蒸発工程を行い、その後、残りの乾燥気体ゾーン33cにおいて、水滴蒸発工程を行ってもよい。
【0054】
上記実施形態では、乾燥気体供給部は、給気ノズル68を介して、乾燥気体402を乾燥気体ゾーン33cに供給したが、本発明はこれに限られず、乾燥気体供給部は、直接乾燥気体402を乾燥気体ゾーン33cに供給してもよい。この場合、給気ノズル68は省略してもよい。
【0055】
上記実施形態では、水滴形成工程22及び水滴成長工程23を行う湿潤気体ゾーン、及び溶剤蒸発工程24及び水滴蒸発工程25を行う乾燥気体ゾーンをそれぞれ設けたが、本発明はこれに限られず、水滴形成工程22及び水滴成長工程23が行われたゾーンにおいて、溶剤蒸発工程24や水滴蒸発工程25を行ってもよい。この場合には、当該ゾーンに設けられた給気ノズルから湿潤気体及び乾燥気体のいずれか一方を吹き出し、湿潤気体及び乾燥気体の切り替えは、工程に応じて行えばよい。
【0056】
上記実施形態では、各工程21〜25(図1参照)を逐次行う方式で多孔フィルムを製造したが、本発明はこれに限られず、各工程21〜25(図1参照)を連続して行う方式で多孔フィルムを製造してもよい。図15に示すように、多孔フィルム製造設備130は、送り出し装置131と駆動装置132と、送り出し装置131と駆動装置132との間に設けられる製造室133とを有する。送り出し装置131には長尺状の筒137が収納される。送り出し装置131及び駆動装置132により、筒137は送り出し装置131から駆動装置132に向かって送り出され、製造室133を所定の送り速度で通過する。
【0057】
製造室133には、塗布ゾーン133a、湿潤気体ゾーン133b、及び乾燥気体ゾーン133cが、筒137の送り方向において順次設けられる。各ゾーン133a〜133cは、各ゾーン33a〜33cと同様の構成であり、塗布ゾーン133aには、溶液11を貯留する貯留槽51が設けられ、湿潤気体ゾーン133bには、湿潤気体400を筒137に向けて吹き出す給気ノズル58が、乾燥気体ゾーン133cには、乾燥気体402を筒137に向けて吹き出す給気ノズル58が、それぞれ設けられる。なお、塗布ゾーン133a及び湿潤気体ゾーン133bの間に、溶剤蒸発抑制工程を行う溶剤蒸発抑制ゾーンを設けてもよい。
【0058】
(支持体)
支持体の形成材料としては、特に限定されるものではなく、使用する溶剤に対する十分な化学的安定性や、多孔フィルム製造工程10における耐熱性を有するものであることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリプロピレン、ポリイミド等の有機材料の他や、ガラス、ステンレス、その他の金属等の無機材料が挙げられる。溶剤に対する化学的安定性を付与するために表面処理がなされた樹脂素材でも良い。
【0059】
なお、塗布膜を形成する支持体の曲面は、溶液が濡れやすいように加工(以下、濡れ加工と称する)されていることが好ましい。溶液の濡れ性の指標としては、例えば、接触角θs、接触角θwや表面張力を用いることができる。接触角θsは、曲面上における溶液の接触角であり、接触角θwは、曲面上における水の接触角である。接触角θs、又は接触角θwは、溶剤または水からなる液滴を曲面上に形成し、液滴の形状から算出することができる。そして、接触角θsは0°以上70°以下であることが好ましく、0°以上50°以下であることがより好ましい。また、接触角θwは5°以上180°未満であることが好ましく、30°以上180°未満であることがより好ましい。溶液11の表面張力γは、曲面の臨界表面張力γcよりも小さいことが好ましい。なお、γは、5mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、5mN/m以上30mN/m以下であることがより好ましい。γcは、20mN/m以上200mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以上200mN/m以下であることがより好ましい。溶液11の表面張力γ及び曲面の臨界表面張力γcは、毛細管上昇法、滴下法、吊環法など公知の測定方法により求めることができる。
【0060】
濡れ加工は、支持体の曲面上の全域に行ってもよいし、支持体の曲面上の一部に行ってもよい。例えば、濡れ加工が施される範囲は、支持体の曲面上において、線状、格子状、縞状、面状、海島構造状に形成されてもよい。これにより、支持体の曲面上の所望の部分のみに塗布膜を形成することができるため、最終的に、所望の形状の多孔体を製造することもできる。
【0061】
塗布ゾーン33aに、塗布膜の一部を掻き取るブレードを設けてもよい。ブレードの掻き取り深さは、塗布膜の膜厚と等しくてもよいし、塗布膜の膜厚よりも小さくしてもよい。また、ブレードは、筒37の外周及び中空部の一方に設けてもよいし、両方に設けてもよい。
【0062】
上記実施形態では、曲面を有する支持体として円筒状の筒37を用いたが、本発明はこれに限られない。本発明の曲面を有する支持体としては、球面、楕円体面、錐面、トーラス、その他の曲面を有するものであればよく、例えば、球、楕円体、円柱、楕円柱、円錐、円錐台、輪環体、螺旋体、鼓状の支持体等が挙げられる。また、線状体も円柱、楕円柱等に含まれるため、曲面を有する支持体として含まれる。したがって、1本、或いは複数の線状体を折り曲げてなる形成体や、複数の線条体からなる格子を有するもの等も、本発明の曲面を有する支持体に含まれる。また、曲面は、凹面及び凸面のいずれでもよい。曲面の曲率半径の下限は、例えば、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。また、曲面の曲率半径の上限は、例えば、1m以下であることが好ましく、50cm以下であることがより好ましい。
【0063】
上記実施形態では、支持体の曲面に塗布膜を形成する方法として、ディップコートを用いたが、本発明はこれに限られず、スプレー塗布等、他の塗布方法を用いてもよい。
【0064】
本発明における多孔体は、多孔フィルムのみならず、表面に多孔フィルムを有する支持体も含む。多孔フィルムのみを最終製品とする場合には、多孔フィルムと支持体とを分離(以下、分離工程と称する)してもよい。分離工程としては、支持体から多孔フィルムを剥ぎ取る方法の他、支持体を溶剤により溶解する方法、温度応答性ポリマーやUV反応性ポリマーをコーティングした支持体の表面上に多孔フィルムを形成した後、支持体を加熱する、又は支持体に紫外線を照射して、支持体と多孔フィルムとを分離する方法、支持体及び多孔フィルムを膨潤液に浸漬し、多孔フィルムの膨潤により支持体と多孔フィルムとを分離する方法、支持体のみに切込みを入れた後に、支持体と多孔フィルムとを剥離して、筒状の多孔フィルムを得る方法や、支持体及び多孔フィルムに切込みを入れた後に、支持体と多孔フィルムとを剥離し、展開し、シート状の多孔フィルムを得る方法等がある。表面に多孔フィルムを有する支持体を最終製品とする場合には、表面に多孔フィルムを有する支持体を所定のサイズに切断(以下、切断工程と称する)してもよい。なお、切断工程の後に分離工程を行ってもよいし、分離工程の後に切断工程を行ってもよい。
【0065】
(原料)
多孔フィルムの原料としては、非水溶性溶剤に溶解するポリマー(以下、「疎水性ポリマー」と称する)を用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
【0066】
(溶剤)
前記ポリマーを溶解させて溶液11を調製するための溶剤としては、疎水性であって、有機溶剤など、ポリマーを溶解させることができる溶剤であれば特に制限はなく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。
【0067】
また、溶液におけるポリマーの濃度は、引き出される支持体の曲面上に塗布膜が形成できる濃度であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。ポリマーの濃度が0.01質量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、ポリマーの濃度が30質量%を超える濃度であると、溶液の粘性が増大するため、支持体の引き出しによる塗布膜の形成が困難となるため、好ましくない。
【0068】
(疎水性ポリマー)
疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0069】
両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0070】
疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0071】
疎水性側鎖と親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶剤の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(親水基:疎水基)=0.1:9.9〜4.5:5.5が好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶剤への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0072】
疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0073】
疎水性ポリマーだけでも、多孔フィルムを製造することができるが、両親媒性ポリマーと共に用いることが好ましい。
【0074】
疎水性ポリマーと両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0075】
疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、疎水性ポリマー及び/又は両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0076】
疎水性ポリマー及び/又は両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0077】
疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0078】
エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0079】
光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0080】
アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0081】
ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0082】
ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0083】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0084】
光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0085】
光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0086】
なお、光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0087】
熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0088】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【実施例】
【0089】
(実験1)
図2に示す多孔フィルム製造設備30において、筒37の外周面に多孔フィルムをつくった。塗布ゾーン33aでは、筒37の外周面に塗布膜を形成した。湿潤気体ゾーン33bでは、塗布膜に所定の条件に調節された湿潤気体をあてる水滴形成工程を行った。水滴形成工程を、塗布膜の形成から5秒後に開始した。その後、120秒間、所定の条件に調節された湿潤気体を塗布膜にあてた。乾燥気体ゾーン33cでは、塗布膜に所定の条件に調節された乾燥気体をあてる溶剤蒸発工程を行った。その後、塗布膜に所定の条件に調節された乾燥気体をあてる水滴蒸発工程を行った。また、塗布ゾーン33a及び湿潤気体ゾーン33bの間では、塗布膜について溶剤蒸発抑制工程を行った。更に、湿潤気体ゾーン33b及び乾燥気体ゾーン33cでは、各気体を吹き出す状態の各ノズル58、68を、筒37の軸を中心に回転するように、筒37の外周を移動させた。
【0090】
(実験2)
各ノズル58、68の移動を停止したこと以外は、実験1と同様にして、多孔フィルムを作った。
【0091】
(実験3)
水滴形成工程を塗布膜の形成から60秒後に開始し、その後、300秒間、所定の条件に調節された湿潤気体を塗布膜にあてたこと以外は、実験1と同様にして、多孔フィルムを作った。
【0092】
(実験4)
水滴形成工程を塗布膜の形成から70秒後に開始したこと、及び溶剤蒸発抑制工程を省略したこと以外は、実験3と同様にして、多孔フィルムを作った。
【0093】
(実験5)
水滴形成工程を塗布膜の形成から120秒後に開始したこと、その後、600秒間、所定の条件に調節された湿潤気体を塗布膜にあてたこと、各ノズル58、68の移動を停止したこと、及び溶剤蒸発抑制工程を省略したこと以外は、実験1と同様にして、多孔フィルムを作った。
【0094】
(評価)
実験1〜5にて得られた多孔フィルムについて、孔の径を測定し、孔径変動係数Xを算出した。孔径変動係数Xは、{(孔の径の標準偏差)/(孔の径の平均値)}×100で示される。そして、孔径変動係数Xを、下記の基準に基づいて評価した。
◎:孔径変動係数Xが5%以下であった。
○:孔径変動係数Xが5%より大きく10%以下であった。
△:孔径変動係数Xが10%より大きかった。
【0095】
表1に、実験1〜5における、塗布膜の形成から水滴形成工程の開始までに要した時間をA、塗布膜に湿潤気体を吹き付けた時間をB、孔径変動係数X、及び評価結果を示す。
【0096】
【表1】

【0097】
実験1〜5より、本発明によれば、径が均一の孔を有する多孔フィルムを曲面上に容易に製造することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】多孔フィルム製造工程の概要を示す工程図である。
【図2】第1の多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】ハンドリング装置の概要を示す説明図である。
【図4】第1の湿潤気体ゾーンの概要を示す説明図である。
【図5】乾燥気体ゾーンの概要を示す説明図である。
【図6】塗布ゾーンの概要を示す説明図である。
【図7】第1の湿潤気体ゾーンにおける、筒の軸方向に直交する面についての断面図である。
【図8】水滴形成工程の概要を示す説明図である。
【図9】水滴形成工程の概要を示す説明図である。
【図10】溶剤蒸発工程の概要を示す説明図である。
【図11】水滴蒸発工程の概要を示す説明図である。
【図12】(A)は、複数の貫通孔を有する多孔フィルムの概要を示す平面図であり、(B)はB−B線断面図、(C)はC−C線断面図である。(D)は、複数のくぼみを有する多孔フィルムの平面図である。
【図13】第2の湿潤気体ゾーンの概要を示す説明図である。
【図14】第3の湿潤気体ゾーンの概要を示す説明図である。
【図15】第2の多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0099】
10 多孔フィルム製造工程
11 溶液
12 塗布膜
13 多孔フィルム
21 塗布工程
22 水滴形成工程
23 水滴成長工程
24 溶剤蒸発工程
25 水滴蒸発工程
30 多孔フィルム製造設備
33 製造装置
33a 塗布ゾーン
33b 湿潤気体ゾーン
33c 乾燥気体ゾーン
37 筒
58、68 給気ノズル
59、69 吹き出し口
59a、69a 開口面
400 湿潤気体
401 水滴
402 乾燥気体
403 溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び疎水性溶剤が含まれる溶液を支持体の曲面上に塗布して、前記溶液からなる塗布膜を前記曲面上に形成する塗布工程と、
第1給気ノズルに設けられた第1吹き出し口から湿潤気体を吹き出し、この湿潤気体を前記塗布膜にあてて、結露により水滴を前記塗布膜に形成する水滴形成工程と、
前記水滴を成長させる水滴成長工程と、
前記水滴を前記塗布膜から蒸発させて、前記水滴を鋳型とする孔を前記塗布膜に形成する孔形成工程とを有することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記第1吹き出し口の開口面が前記曲面に沿うように移動する状態の前記第1給気ノズルから、前記湿潤気体を吹き出して前記水滴形成工程または前記水滴成長工程を行うことを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記第1吹き出し口の開口面の前方を前記曲面が走行するように、前記支持体を駆動させて前記水滴形成工程または前記水滴成長工程を行うことを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記孔形成工程では乾燥気体を前記塗布膜にあてることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
第2吹き出し口の開口面が前記曲面に沿うように移動する状態の第2給気ノズルから、前記乾燥気体を吹き出して前記孔形成工程を行うことを特徴とする請求項4記載の多孔体の製造方法。
【請求項6】
第2吹き出し口から前記乾燥気体を吹き出す第2給気ノズルを用いて、
前記第2吹き出し口の開口面の前方を前記曲面が走行するように、前記支持体を駆動させて前記孔形成工程を行うことを特徴とする請求項4記載の多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記塗布工程では、前記支持体を前記溶液に浸漬した後に、前記支持体を前記溶液から取り出すことを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項8】
形成から60秒を経過する前の前記塗布膜について、前記水滴形成工程を開始させることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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