説明

多孔性窒化炭素膜、その製造方法およびそれを用いた用途

【課題】 マクロ細孔とメソ細孔とを有するバイモーダルな多孔性窒化炭素膜、その製造方法、および、それを用いた用途を提供すること。
【解決手段】 本発明による多孔性窒化炭素膜は、窒化炭素からなるフレーム構造によって形成され、フレーム構造は、マクロ細孔と、マクロ細孔の細孔径よりも小さな細孔径を有するメソ細孔とを有し、マクロ細孔は、多孔性窒化炭素膜の表面方向に規則的に配列しており、マクロ細孔は、多孔性窒化炭素膜の表面に開口部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化炭素膜、その製造方法およびそれを用いた用途に関し、より詳細には、バイモーダルな多孔性窒化炭素膜、その製造方法およびそれを用いた用途に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化炭素材料は、ダイヤモンドに匹敵する硬度、強靱性、低摩擦係数、化学的不活性、安定した電界放出、ワイドバンドギャップ、生体適合性、負電子親和力、高い熱伝導性、耐酸性、耐水性等の特性を有し、生体インプラントのための生体適合コーティング材料、燃料電池の電極、ガス分離、腐食防止、触媒、潤滑作用、分子吸着およびガスセンサへの応用が期待されている。
【0003】
本願発明者らは、種々のテンプレートを用い、窒化炭素多孔体の製造に成功している(例えば、特許文献1〜3)。特許文献1および2によれば、テンプレートとしてSBA−15を用い窒化炭素多孔体を製造する技術を開示している。また特許文献3によれば、テンプレートとしてSBA−16を用い窒化炭素多孔体を製造する技術を開示している。
【0004】
しかしながら、このような窒化炭素多孔体は、いずれも、単一の孔径(50nm以下)を有するメソ多孔性材料であり、大きな分子の拡散を抑制するに好ましい。
【0005】
したがって、用途を拡大するためには、階層的に秩序化された多孔性窒化炭素材料、すなわち、マクロ細孔とメソ細孔とを有する多孔性窒化炭素材料の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、本発明の課題は、マクロ細孔とメソ細孔とを有するバイモーダルな多孔性窒化炭素膜、その製造方法、および、それを用いた用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多孔性窒化炭素膜は、窒化炭素からなるフレーム構造によって形成され、前記フレーム構造は、マクロ細孔と、前記マクロ細孔の細孔径よりも小さな細孔径を有するメソ細孔とを有し、前記マクロ細孔は、前記多孔性窒化炭素膜の表面方向に規則的に配列しており、前記マクロ細孔は、前記多孔性窒化炭素膜の表面に開口部を有し、これにより上記課題を達成する。
前記マクロ細孔の細孔径は、50nm〜15μmの範囲であってもよい。
前記メソ細孔の細孔径は、5nm〜20nmの範囲であってもよい。
前記窒化炭素は、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、PtおよびAuからなる群から選択される金属元素および/またはランタノイド元素を含有してもよい。
前記窒化炭素は、アモルファス窒化炭素であってもよい。
前記窒化炭素における窒素原子Nおよび炭素原子CによるN/(C+N)比(原子%)は、10%〜25%の範囲であってもよい。
本発明による多孔性窒化炭素膜を製造する方法は、シリカ源とブロック共重合体と含有する第1の溶液を粒子からなるマクロ細孔テンプレートに付与するステップと、前記第1の溶液が付与された前記マクロ細孔テンプレートを加熱し、前記シリカ源からシリカを生成し、前記マクロ細孔テンプレートと、前記ブロック共重合体および前記シリカからなるメソ細孔テンプレートとを有するマクロ・メソ細孔テンプレートを形成するステップと、窒化炭素前駆体を含有する第2の溶液を、前記マクロ・メソ細孔テンプレートに付与するステップと、前記第2の溶液が付与された前記マクロ・メソ細孔テンプレートを加熱し、前記窒化炭素前駆体を重合するステップと、前記重合された前記窒化炭素前駆体を有する前記マクロ・メソ細孔テンプレートを加熱し、前記重合された前記窒化炭素前駆体を炭化し、かつ、前記マクロ・メソ細孔テンプレートから前記粒子および前記ブロック共重合体を除去するステップと、前記粒子および前記ブロック共重合体が除去され、前記炭化された前記窒化炭素前駆体および前記シリカからなる生成物を酸またはアルカリ処理し、前記シリカを除去するステップとを包含し、これにより上記課題を達成する。
前記シリカ源は、テトラエトキシシラン(TEOS)またはケイ酸ナトリウムであってもよい。
前記ブロック共重合体は、P104、P123、F108およびF127からなる群から選択されてもよい。
前記窒化炭素前駆体は、ポリエチレンイミン、アニリン、メラミンおよびエチレンジアミンからなる群から選択されてもよい。
前記第2の溶液は、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、PtおよびAuからなる群から選択される金属イオンおよび/またはランタノイドイオンを含有してもよい。
前記粒子の粒径は、50nm〜15μmの範囲であってもよい。
前記シリカを生成するステップは、前記第1の溶液が付与された前記マクロ細孔テンプレートを、80℃〜150℃の温度範囲で、12時間〜36時間加熱してもよい。
前記窒化炭素前駆体を重合するステップは、前記第2の溶液が付与された前記マクロ・メソ細孔テンプレートを、50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、前記第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱してもよい。
前記炭化および除去するステップは、前記重合された前記窒化炭素前駆体を有する前記マクロ・メソ細孔テンプレートを、不活性雰囲気中で400℃〜600℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱してもよい。
前記酸またはアルカリ処理は、フッ酸または水酸化ナトリウムを用いてもよい。
前記マクロ細孔テンプレートは、コロイド結晶であってもよい。
前記シリカを除去するステップに続いて、前記多孔性窒化炭素膜をオゾン処理するステップをさらに包含してもよい。
本発明によるセンサは、上記多孔性窒化炭素膜を備え、これにより上記課題を達成する。
本発明によるフィルタは、上記多孔性窒化炭素膜を備え、これにより上記課題を達成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔性窒化炭素膜は、窒化炭素からなるフレーム構造によって形成されている。フレーム構造は、マクロ細孔と、マクロ細孔の細孔径よりも小さな細孔径を有するメソ細孔とを有する。すなわち、本発明の多孔性窒化炭素膜は、マクロ細孔とメソ細孔とを有するバイモーダルな多孔性窒化炭素膜であるので、大きな表面積を有するとともに、異なる大きさを有する物質を吸着あるいは透過させるので、用途を拡大できる。さらに、マクロ細孔は、多孔性窒化炭素膜の表面方向に配列しており、多孔性窒化炭素膜の断面方向に開口部を有し、極めて規則的である。そのため、物質輸送の定量的な判定も可能にし、有利である。また、本発明の多孔性窒化炭素膜は、膜状であるので、単層から多層まで変化させることによって、膜厚制御が容易である。本発明の多孔性窒化炭素膜は、触媒、吸着剤、フィルタ、所定の物質に対して選択的な吸着能を有するため、センサあるいは光学スイッチ、あるいは、既存の多孔性材料と同様に、上述の用途に加えて、ガス分離、クロマトグラフィ、エネルギー貯蔵に用いることができる。
【0009】
本発明による多孔性窒化炭素膜を製造する方法は、シリカ源とブロック共重合体とを含有する第1の溶液を粒子からなるマクロ細孔テンプレートに付与するステップと、第1の溶液を加熱し、シリカ源からシリカを生成し、マクロ・メソ細孔テンプレートを形成するステップと、窒化炭素前駆体を含有する第2の溶液をマクロ・メソ細孔テンプレートに付与するステップと、第2の溶液を加熱し、窒化炭素前駆体を重合するステップと、重合された窒化炭素前駆体およびマクロ・メソ細孔テンプレートを加熱し、窒化炭素前駆体を炭化し、かつ、ブロック共重合体および粒子を除去するステップと、生成物を酸またはアルカリ処理し、シリカを除去するステップとを包含する。
【0010】
本発明の方法によれば、粒子およびシリカで覆われたブロック共重合体をテンプレートとして用いるので、得られる多孔性窒化炭素膜におけるマクロ細孔およびメソ細孔の細孔径は、それぞれ、粒子およびブロック共重合体の大きさを反映する。したがって、粒子およびブロック共重合体の大きさを適宜選択することによってマクロ細孔およびメソ細孔の細孔径を容易に制御できる。また、多孔性窒化炭素膜におけるマクロ細孔の配置は、テンプレートにおける粒子の配置を反映するので、マクロ細孔の規則的な配列を容易に達成できる。
【0011】
本発明の方法によれば、上述の第1の溶液をマクロ細孔テンプレートに付与するステップと、シリカを生成し、マクロ・メソ細孔テンプレートを形成するステップとにより、マクロ細孔とメソ細孔となり得る構造を有するマクロ・メソ細孔テンプレートが製造される。このようなマクロ・メソ細孔テンプレートを用いるので、複雑な制御をすることなく、バイモーダル、かつ、マクロ細孔およびメソ細孔の細孔径および/またはマクロ細孔の配列が制御された多孔性窒化炭素膜を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による多孔性窒化炭素膜を示す模式図
【図2】本発明の多孔性窒化炭素膜を製造する工程を示すフローチャート
【図3】本発明の多孔性窒化炭素膜を製造する様子を示す模式図
【図4】本発明の多孔性窒化炭素膜を用いたフィルタを示す模式図
【図5】実施例1による薄膜1450のSEM像を示す図
【図6】実施例1による薄膜1450のTEM像を示す図
【図7】実施例2および3による薄膜2および3のSEM像を示す図
【図8】実施例1による薄膜1450のXRDパターンを示す図
【図9】実施例1による薄膜1450のEELSマッピング像を示す図
【図10】実施例1による薄膜1450のXPSスペクトルを示す図
【図11】実施例1による薄膜1450のFTIRスペクトルを示す図
【図12】実施例1による薄膜1のN/(C+N)比の加熱温度依存性を示す図
【図13】実施例1による薄膜1450のアニリンおよび酢酸に対するQCM周波数シフト量の時間依存性を示す図
【図14】実施例1によるオゾン処理前後(処理時間15分)の薄膜1450のアニリンおよび酢酸に対するQCM周波数シフト量を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明による多孔性窒化炭素膜の構造について詳述する。
【0015】
図1は、本発明による多孔性窒化炭素膜を示す模式図である。
【0016】
図1(A)は、本発明による、単層の多孔性窒化炭素膜の表面を表す図であり、図1(B)は、図1(A)中のA−B断面を示す図である。
【0017】
本発明の多孔性窒化炭素膜100は、窒化炭素からなるフレーム構造110によって形成されている。フレーム構造110を構成する窒化炭素は、アモルファス窒化炭素であるので、本発明による多孔性窒化炭素膜100は、機械的・化学的安定性に優れる。また、窒化炭素中の窒素原子(N)および炭素原子(C)に対する窒素原子(N)のN/(C+N)比(原子%)は、10%〜25%の範囲である。
【0018】
窒化炭素は、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、PtおよびAuからなる群から選択される金属元素および/またはランタノイド元素をさらに含有してもよい。これらの金属元素およびランタノイド元素は触媒作用を有するので、本発明の多孔性窒化炭素膜100に触媒活性を付与できる。
【0019】
フレーム構造110は、マクロ細孔120と、メソ細孔130とを有する。
【0020】
マクロ細孔120は、多孔性窒化炭素膜100の表面方向に規則的に配列している。本明細書において、膜の「表面方向」とは、膜の表面と平行な方向を意図する。規則的な配列は、後述する粒子の配列に依存するが、例えば、最密充填様、コロイド結晶様、フォトニック結晶様等である。さらに、マクロ細孔120は、図1(A)に示されるように、多孔性窒化炭素膜100の最表面に開口部140を有する。図1(B)に示されるように、マクロ細孔120の厚さ方向(表面方向に対して垂直な方向)の断面は、半球状である。
【0021】
図1(A)では、マクロ細孔120が空洞であるように示されるが、白抜きの部分は、フレーム構造110の一部であり、図1(B)に示されるように、半球状の側壁となっていることに留意されたい。ただし、後述する製造過程において、マクロ細孔テンプレート(310)と基板(320)との密着性の程度、あるいは、多層のマクロ細孔テンプレートを用いた場合には、側壁の一部(例えば、底部)が貫通している場合がある。
【0022】
マクロ細孔120の細孔径Rは、後述する粒子の粒径に依存するが、選択可能な粒子の範囲から、50nm〜15μmの範囲である。
【0023】
メソ細孔130は、マクロ細孔120の細孔径よりも小さな細孔径を有し、フレーム構造110中のマクロ細孔120以外の部分に散在している。図1では、図が煩雑になるのを避けるため、メソ細孔130を一部にのみ示すが、実際には、フレーム構造110中に散在していることに留意されたい。
【0024】
メソ細孔130は、後述するブロック共重合体のレプリカとして生じる細孔であり、その細孔径は、選択可能なブロック共重合体のサイズを考慮すれば、5nm〜20nmの範囲である。また、メソ細孔130は、ブロック共重合体のレプリカであるので、メソ細孔130の形状もまた、ブロック共重合体の選択によって制御できる。
【0025】
本発明の多孔性窒化炭素膜100の膜厚dは、後述する粒子の粒径に依存し、選択した粒径と実質的同様あるいは粒径よりわずかに小さくなり得る。したがって、本発明の単層の多孔性窒化炭素膜100の膜厚dを増大させたい場合には、製造時に大きな粒径を有する粒子を採用すればよい。
【0026】
このように、本発明の多孔性窒化炭素膜100は、マクロ細孔120とメソ細孔130とを有するバイモーダルな多孔性窒化炭素膜であるので、大きな表面積を有し、触媒および吸着剤に利用され得る。また、本発明の多孔性窒化炭素膜100は、マクロ細孔120の細孔径が50nm〜15μmの範囲であるので、極めて大きな物質のための吸着剤として好適である。
【0027】
本発明の多孔性窒化炭素膜100は、バイモーダルであるので、異なる大きさを有する物質を吸着あるいは透過させる。例えば、マクロ細孔120に大きな物質を吸着させ、メソ細孔130に小さな物質を吸着させ、それ以外の物質を透過させるといった多機能性を発揮できる。このような機能を利用すれば、本発明の多孔性窒化炭素膜100は、種々の物質をフィルタリングするフィルタ、種々の物質をセンシングするセンサに利用され得る。
【0028】
マクロ細孔120は、多孔性炭窒化素膜100の表面方向に配列しており、多孔性窒化炭素膜100の最表面に開口部140を有し、極めて規則的である。そのため、本発明の多孔性窒化炭素膜100は、物質輸送の定量的な判定を可能にする。
【0029】
図1を参照して、本発明の単層である多孔性窒化炭素膜100を説明してきたが、本発明の多孔性窒化炭素膜はこれに限らない。図1に示す単層の多孔性窒化炭素膜100が多層になっていてもよい。多層にすることによって、用途に応じた膜厚を有する多孔性窒化炭素膜となり得る。
【0030】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の多孔性窒化炭素膜を製造する方法を説明する。本発明者らは、マクロ細孔のテンプレートとして粒子を、メソ細孔のテンプレートとしてブロック共重合体を採用し、実施の形態1で詳述した多孔性窒化炭素膜の製造に成功した。
【0031】
図2は、本発明の多孔性窒化炭素膜を製造する工程を示すフローチャートである。
図3は、本発明の多孔性窒化炭素膜を製造する様子を示す模式図である。
【0032】
本発明の製造方法は、粒子300からなるマクロ細孔テンプレート310を用いる。図3では、粒子300からなるマクロ細孔テンプレート310は基板320上に位置する。基板320上にあれば、取り扱いが簡便となる。基板320は、マクロ細孔テンプレート310が配置でき、600℃程度の温度に晒すことも可能な任意の基板であるが、例えば、Si基板、ガラス基板、石英基板である。
【0033】
粒子300は、ポリスチレンまたはポリメチルメタクリレート(PMMA)である。これらの粒子は、以降の工程においてシリカ源および窒化炭素前駆体と容易に反応しないので、高純度の多孔性窒化炭素膜を得ることができる。これらの粒子は、高分子材料であるので、所定の温度で焼成すれば、完全に消失させることができる。また、これらの粒子は、市販されており、任意の粒径を有する粒子の入手が容易である。粒子の粒径は、50nm〜15μmの範囲である。ここで選択される粒子の粒径が、本発明の多孔性窒化炭素膜100(図1)におけるマクロ細孔120(図1)の細孔径Rとなるので、用途に応じた粒径を有する粒子を選択するだけで、所望の細孔径を有する多孔性窒化炭素膜を得ることができる。
【0034】
特に、図3のように粒子300が一層だけ配列したマクロ細孔テンプレート310の場合、粒子300の粒径あるいは粒子300の粒径よりもわずかに小さい領域(すなわち、後述する第1および第2の溶液がマクロ細孔テンプレート310内に浸透する範囲)が、多孔性窒化炭素膜100の膜厚dとなり得る。したがって、膜厚の厚い多孔性窒化炭素膜100を得る場合には、大きな粒径を有する粒子からなるマクロ細孔テンプレート310を選択し、膜厚の薄い多孔性窒化炭素膜100を得る場合には、小さな粒径を有する粒子からなるマクロ細孔テンプレート310を選択すればよい。
【0035】
マクロ細孔テンプレート310の粒子300の配置が、多孔性窒化炭素膜100におけるマクロ細孔120(図1)の配置となる。したがって、周期的かつ規則的に配置したマクロ細孔120を有する多孔性窒化炭素膜100を得るためには、マクロ細孔テンプレート310は、最密充填様、コロイド結晶様、フォトニック結晶様である。中でも、コロイド粒子からなる最密充填様のコロイド結晶であれば、規則的に配列し、高い比表面積および大きな孔容積を有する多孔性窒化炭素膜を得ることができる。なお、上述のマクロ細孔テンプレート310は、コロイド粒子を用いたコロイド結晶の製造技術を参照すれば、容易に実現できる。
【0036】
ステップS210:シリカ源330とブロック共重合体340とを含有する第1の溶液を粒子300からなるマクロ細孔テンプレート310に付与する。
【0037】
シリカ源330は、加熱によりシリカとなり得る任意の物質を採用できるが、好ましくは、テトラエトキシシラン(TEOS)またはケイ酸ナトリウムである。これらは、いずれも、入手あるいは合成が容易であり、加熱によりシリカとなることが分かっている。
【0038】
ブロック共重合体340は、メソ細孔130(図1)のテンプレートとなり得るので、所望のメソ細孔130の細孔径および形状を有する任意のブロック共重合体が採用されるが、好ましくは、P104、P123、F108およびF127からなる群から選択される。これらのブロック共重合体は、メソ細孔の形成に実績があり、入手が容易である。
【0039】
第1の溶液は、好ましくは、ブロック共重合体340と水との混合溶液である。この混合溶液は、室温で数時間(例えば、4時間)撹拌され、次いで、シリカ源330が添加され、35℃〜45℃の温度範囲で10分〜20分撹拌される。これにより、ブロック共重合体340とシリカ源330とが十分に混合されるので、ブロック共重合体340の内部をシリカ源330で充填するとともに、シリカ源330でカプセル状に覆うことができる。また、第1の溶液は、好ましくは、酸を含有する。酸は、後述するステップS220の反応において触媒として機能し、シリカの生成を促進させる任意の酸であるが、具体的には、塩酸、硫酸および硝酸等である。
【0040】
第1の溶液のマクロ細孔テンプレート310への付与は、第1の溶液の滴下、第1の溶液中へのマクロ細孔テンプレート310の浸漬等によって行われる。
【0041】
ステップS210の溶液のマクロ細孔テンプレート310への付与に先立って、マクロ細孔テンプレート310と基板320とを加熱してもよい。このような加熱は、例えば、100℃、10分間行われる。これにより、マクロ細孔テンプレート310と基板320との密着性が向上するので、マクロ細孔テンプレート310が製造途中で基板320から脱落することを防ぐことができる。
【0042】
ステップS220:第1の溶液が付与されたマクロ細孔テンプレート310を加熱し、シリカ源330からシリカを生成する。加熱は、第1の溶液が付与されたマクロ細孔テンプレートを、大気中、80℃〜150℃の温度範囲で、12時間〜36時間行われる。これにより、シリカ源330は完全にシリカとなり、ブロック共重合体340は、メソ細孔のテンプレートとなるシリカでカプセル化されたシリカ−ブロック共重合体となる。このシリカ−ブロック共重合体がメソ細孔テンプレート350として機能する。
【0043】
以上のステップS210およびS220により、本発明の多孔性窒化炭素膜におけるマクロ細孔およびメソ細孔を形成するマクロ・メソ細孔テンプレート360が得られる。すなわち、粒子300からなるマクロ細孔テンプレート310、ならびに、シリカおよびブロック共重合体(詳細には、シリカで覆われたシリカ−ブロック共重合体)からなるメソ細孔テンプレート350を有するマクロ・メソ細孔テンプレート360が得られる。
【0044】
ステップS230:窒化炭素前駆体を含有する第2の溶液370を、ステップS220で得られたマクロ・メソ細孔テンプレート360に付与する。
【0045】
窒化炭素前駆体は、加熱により窒化炭素となる任意の前駆体を採用できるが、好ましくは、ポリエチレンイミン、アニリン、メラミンおよびメチレンジアミンからなる群から選択される。これらは、いずれも、入手あるいは合成が容易であり、安価であり、後述するステップS240およびS250により、確実に窒化炭素となる。
【0046】
第2の溶液370は、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、PtおよびAuからなる群から選択される金属イオンおよび/またはランタノイドイオンを含有してもよい。これらのイオンを含有させることにより、これらのイオンが添加された窒化炭素を得ることができ、これらのイオンによる触媒活性が期待できる。
【0047】
ここでも、第2の溶液370のマクロ・メソ細孔テンプレート360への付与は、ステップS210と同様に、第2の溶液の滴下、第2の溶液370中へのマクロ・メソ細孔テンプレート360の浸漬等によって行われる。
【0048】
ステップS240:第2の溶液370が付与されたマクロ・メソ細孔テンプレート360を加熱し、窒化炭素前駆体を重合する。加熱によって、窒化炭素前駆体が反応し、重合される(重合された窒化炭素前駆体380)。具体的には、重合は、第2の溶液370が付与されたマクロ・メソ細孔テンプレート360を、比較的低温である第1の温度範囲で加熱し、次いで、第1の温度範囲よりも高温である第2の温度範囲で加熱することによって行われる。2段階で行うことにより、窒化炭素前駆体が急激に加熱され、気化することを抑制し、効率的に重合できる。
【0049】
より好ましくは、重合は、第2の溶液370が付与されたマクロ・メソ細孔テンプレート360を、50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱することによって行われる。雰囲気の制御は不要であり、例えば、大気中である。この条件で加熱すれば、窒化炭素前駆体を確実に重合できる。
【0050】
ステップS250:重合された窒化炭素前駆体380を有するマクロ・メソ細孔テンプレート360を加熱し、重合された窒化炭素前駆体380を炭化し、かつ、マクロ・メソ細孔テンプレート360から粒子300およびブロック共重合体340を除去する。加熱によって、重合された窒化炭素前駆体380は炭化され、窒化炭素390となる。さらに、加熱によって、マクロ・メソ細孔テンプレート360から粒子300およびブロック共重合体340が焼失する。
【0051】
ここで、粒子300の焼失によりマクロ細孔312が形成される。また、ブロック共重合体340の焼失によりメソ細孔を伴うシリカ313が残留する。
【0052】
具体的には、重合された窒化炭素前駆体380を有するマクロ・メソ細孔テンプレート360の加熱は、不活性雰囲気中で400℃〜600℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱することによって行われる。この条件で加熱すれば、重合された窒化炭素前駆体380を炭化させるとともに、マクロ・メソ細孔テンプレート360から粒子300およびブロック共重合体340のみを確実に除去できる。600℃を超えると、窒素の含有量が低下し、窒化炭素が形成されない場合がある。300℃を下回ると、粒子300およびブロック共重合体340が残留する場合がある。不活性雰囲気は、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等である。
【0053】
また、上記温度範囲内で適宜温度を選択することによって、最終的に得られる本発明の多孔性窒化炭素膜中の窒素原子および炭素原子に対する窒素原子の比(N/(C+N))を制御できる。例えば、高温側を選択することによって、含有窒素量を低減でき、低温側を選択することによって、含有窒素量を増大できる。具体的なN/(C+N)比(原子%)は、上記温度範囲によって10%〜25%の範囲で制御可能である。
【0054】
ステップ260:粒子300およびブロック共重合体340が除去され、炭化された窒化炭素前駆体(窒化炭素390)およびシリカ(メソ細孔を伴うシリカ313)からなる生成物を酸またはアルカリ処理し、シリカを除去する。シリカは、酸またはアルカリに反応し、エッチングされ除去される。
【0055】
シリカ(メソ細孔を伴うシリカ313)のエッチング・除去によりメソ細孔314が形成される。最終的に残留した窒化炭素380が、フレーム構造110(図1)である。
【0056】
酸またはアルカリ処理に用いる酸またはアルカリは、フッ酸または水酸化ナトリウムである。これらはいずれも強酸および強アルカリであり、シリカと反応し、シリカがエッチングされる。
【0057】
このようにして、本発明の多孔性窒化炭素膜100が基板320上に得られる。本発明の方法を採用すれば、多孔性窒化炭素膜100におけるマクロ細孔120の配置は、マクロ細孔テンプレート310における粒子300の配置を反映するので、マクロ細孔120の規則的な配列を容易に達成できる。本発明の方法を採用すれば、所望の形状およびサイズのブロック共重合体340を用いることにより、メソ細孔130が生成するので、マクロ細孔120に加えて、メソ細孔130の形状およびサイズを制御した、バイモーダルな多孔性窒化炭素膜を得ることができる。
【0058】
図3では、基板320上に粒子300が一層だけ配列したマクロ細孔テンプレート310を示したが、ステップS210で用いるマクロ細孔テンプレート310はこれに限定されない。例えば、マクロ細孔テンプレート310として、粒子300が多層に配列したテンプレートを用いてもよい。これにより、膜厚の厚い多層の多孔性窒化炭素膜を得ることができる。
【0059】
次に、このようにして得られた基板320上の多孔性窒化炭素膜100は、自立膜であるため、容易に所望の基材に移すことができる。
【0060】
S310:基板320上の多孔性窒化炭素膜100を水中に浸漬させる。これにより、基板320から多孔性窒化炭素膜100が剥離し、水面に吸着する。
【0061】
S320:水面に吸着した多孔性窒化炭素膜100を別の基材に接触させる。これにより、多孔性窒化炭素膜100は容易に別の基材に移される。ここで、別の基材は、任意の材料からなり、平面であってもよいし、湾曲していもよいし、曲率を有していもよく、任意の形状の基材であり得る。
【0062】
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の多孔性窒化炭素膜の用途を例示する。
【0063】
図4は、本発明の多孔性窒化炭素膜を用いたフィルタを示す模式図である。
【0064】
フィルタ400は本発明の多孔性窒化炭素膜100を含む。多孔体窒化炭素膜100は、実施の形態1で詳述したため説明を省略する。ここでは、多孔性窒化炭素膜100が、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、Pt、Au等の金属および/またはランタノイド金属からなる群から選択される金属をさらに含むものとする。
【0065】
このようなフィルタ400の動作を説明する。ここで、多孔性窒化炭素膜100のマクロ細孔120(図1)の細孔径が約400nmであり、メソ細孔の細孔径が約10nmであるとし、ガス410は、約400nmおよび約10nmの2種類の異なる大きさの有害物質を含有するものとする。
【0066】
有害物質を含有するガス410が、フィルタ400を通過する。ガス410中の有害物質の大きさは、フィルタ400の多孔性窒化炭素膜100におけるマクロ細孔およびメソ細孔の細孔径に一致するので、フィルタ400においてガス410中の有害物質が、マクロ細孔およびメソ細孔に捕捉される。捕捉された有害物質は窒化炭素膜100中の金属により分解・処理される。このようにして、有害物質が除去されたガス420がフィルタ400から送出される。
【0067】
なお、図4では、多孔性窒化炭素膜100が触媒作用を有する金属を含有する例を示したが、多孔性窒化炭素膜100のマクロ細孔およびメソ細孔に物質を単に捕捉する目的に使用する場合、触媒作用を有する金属を含有していなくてもよい。
【0068】
本発明の多孔性窒化炭素膜100は、製造直後において、芳香族炭化水素、酸性溶媒等に対して吸着能を有するので、本発明の多孔性窒化炭素膜100を用いて特定の物質をセンシングするためのセンサを構築してもよい。上記物質の中でもアニリンおよび酢酸に対して優れた吸着能を有するので、本発明の多孔性窒化炭素膜100は、アニリンあるいは酢酸をセンシングするためのセンサに好適である。
【0069】
また、本発明の多孔性窒化炭素膜100の吸着能を、オゾン処理により制御することができる。本発明の多孔性窒化炭素膜100にオゾン処理(オゾン照射)を行うと、アミンを有する物質(例えば、アニリン)に対する吸着能を増大させることができる。具体的なオゾン処理は、オゾンクリーナ等を用いて、酸素、紫外線ランプおよび窒素中にて、多孔性窒化炭素膜100を少なくとも15分保持することが望ましい。15分より短いと、オゾン処理の効果が期待できない。このようなオゾン処理された多孔性窒化炭素膜100を用いてもよい。
【0070】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0071】
実施例1では、マクロ細孔テンプレート310(図3)として、粒径476nmを有する粒子(ポリスチレン製)300(図3)からなる単層のコロイド結晶を、シリカ源330(図3)としてテトラエトキシシラン(TEOS)を、ブロック共重合体340(図3)としてP123を、窒化炭素前駆体としてポリエチレンイミンを、酸として塩酸を、基板320(図3)としてSi基板を用い、本発明の多孔性窒化炭素膜を製造した。
【0072】
P123(0.5g)と水(5g)とを混合し、室温にて4時間撹拌した。次いで、これに2M塩酸(15g)を添加し、40℃で2時間撹拌した。さらに、これにTEOS(1.5g)を添加し、40℃で15分撹拌した。このようにしてTEOSおよびP123を含有する第1の溶液を調製した。
【0073】
次に、Si基板上に粒子が単層で配列したコロイド結晶であるマクロ細孔テンプレートを100℃で10分間加熱し、Si基板と粒子(コロイド結晶)との密着性を向上させた。マクロ細孔テンプレートを第1の溶液に約3分間浸漬させ、マクロ細孔テンプレートに第1の溶液を付与した(図2のステップS210)。
【0074】
第1の溶液が付与されたマクロ細孔テンプレートを大気中100℃24時間加熱し、TEOSからシリカを生成した(図2のステップS220)。これにより、粒子からなるマクロ細孔テンプレート310、ならびに、シリカおよびP123からなるメソ細孔テンプレート350を有するマクロ・メソ細孔テンプレート360(図3)を形成した。
【0075】
ポリエチレンイミン(分子量2000、30wt%)を蒸留水に溶解した第2の溶液を調製した。第2の溶液をマクロ・メソ細孔テンプレートに滴下し、付与した(図2のステップS230)。第2の溶液が付与されたマクロ・メソ細孔テンプレートを、大気中、100℃、6時間、次いで、160℃、6時間加熱し、第2の溶液中のポリエチレンイミンを重合した(図2のステップS240)。
【0076】
次いで、重合されたポリエチレンイミンを有するマクロ・メソ細孔テンプレートを、昇温速度3℃/分で450℃、500℃、550℃および600℃までそれぞれ昇温し、アルゴン雰囲気中、5時間加熱し、重合されたポリエチレンイミンを炭化した(図2のステップS250)。この加熱に伴い、粒子およびP123を焼失させた。
【0077】
残った重合・炭化されたポリエチレンイミンおよびシリカからなる生成物をフッ酸(10wt%)で2時間処理し、シリカをエッチング・除去した(図2のステップS260)。
【0078】
このようにして得られたSi基板上の、450℃、500℃、550℃および600℃で炭化された薄膜試料(以降では、すべてを称して薄膜1、あるいは、個々の試料に対して薄膜1450、薄膜1500、薄膜1550、薄膜1600と称する)について、構造、物性等を調べた。
【0079】
薄膜1のモルフォロジを、電界放出型走査電子顕微鏡FESEM(Hitachi、S−4800)により観察した。観察結果を図5に示す。薄膜1の微細構造を、Gatan−776電子エネルギー損失分光(EELS)を備えた電界放出型透過電子顕微鏡TEM(JEOL、JEM−2100F)により観察した。観察結果を図6に示す。EELSによるマッピングの結果およびEELSから算出された窒素原子および炭素原子に対する窒素原子の比(N/(C+N))を、それぞれ、図9および図12に示す。
【0080】
薄膜1のX線回折パターンを、CuKα線(λ=0.154nm)を用いたX線回折装置(Rigaku)により測定した。測定結果を図8に示す。薄膜1のX線光電子分光(XPS)解析をPerkin−Elmer PHI−5600ciを用いて行った。結果を図10に示す。
【0081】
薄膜1の赤外吸収スペクトルを、赤外分光装置(Nicolet Nexus 670)により測定した。測定結果を図11に示す。
【0082】
薄膜1の種々の物質に対する吸着能を、水晶天秤QCM(USIシステム)を用いて測定した。測定には、両面が銀コーティングされたQCM共振器を電極に用い、1周波数のシフト量(変化量)は約0.95ngの質量変化に相当した。薄膜1を水中に浸漬させ、Si基板から剥離させた(ステップS310)。水面に吸着した薄膜1(0.3μg)をQCM共振器に接触させ移した(ステップS320)。これらのQCM共振器への薄膜1の転写から、本発明の製造方法によって得られた膜が自立膜であり、容易に所望の基材に移すことができることが確認された。
【0083】
薄膜1が移されたQCM共振器をQCM装置内の共振器ホルダに設定した。種々の物質として、揮発性の液体(芳香族炭化水素としてアニリン、酸性溶媒として酢酸)10mLをガラス容器に準備した。これをQCM装置に設定した。なお、気化による漏れを防ぐため、吸着能の測定中、QCM装置をカバーにより完全に覆った。吸着能の測定後、カバーおよび揮発性の液体を含有するガラス容器を除去し、薄膜1を大気に晒した。吸着能の測定は、25℃で行った。測定結果を図13および図14に示す。
【0084】
次に、薄膜1にオゾン処理を行った。オゾン処理は、オゾンクリーナ(Filgen、UV253Sシステム)を用い、酸素、紫外線ランプおよび窒素を導入した。オゾン処理時間は、15分であった。オゾン処理後の薄膜1のアニリンおよび酢酸に対する吸着能を、上述のQCM装置を用いて同様の条件で測定した。測定結果を図14に示す。
【実施例2】
【0085】
実施例2では、マクロ細孔テンプレート310として、粒径200nmを有する粒子(ポリスチレン製)からなる単層のコロイド結晶を用い、450℃で炭化した以外は、実施例1と同様の手順により、本発明の多孔性窒化炭素膜を製造した。実施例2で得られたSi基板上の薄膜試料(以降では単に薄膜2と称する)について、実施例1と同様に、SEMにより観察した。観察結果を図7に示す。
【実施例3】
【0086】
実施例3では、マクロ細孔テンプレート310として、粒径1000nm(1μm)を有する粒子(ポリスチレン製)からなる単層のコロイド結晶を用い、450℃で炭化した以外は、実施例1と同様の手順により、本発明の多孔性窒化炭素膜を製造した。実施例3で得られたSi基板上の薄膜試料(以降では単に薄膜3と称する)について、実施例1と同様に、SEMにより観察した。観察結果を図7に示す。
【0087】
表1に以上の実施例1〜3の製造条件を示す。
【表1】

【0088】
図5は、実施例1による薄膜1450のSEM像を示す図である。
【0089】
図5(A)および(B)によれば、薄膜1450は、フレーム構造510によって形成されており、フレーム構造510は、マクロ細孔520を有することが確認された。マクロ細孔520間のフレーム構造510の厚さ(壁厚)は80nmであり、薄膜1450の膜厚は約300nmであった。
【0090】
また、図5(A)によれば、マクロ細孔520は、薄膜1450の表面方向に規則的に配列しており、マクロ細孔テンプレート310の最密充填様のコロイド結晶の粒子の配列と同一であった。さらに、図5(A)によれば、マクロ細孔520は、薄膜1450の最表面において開口部を有していた。マクロ細孔520の細孔径は、470nmであり、製造に用いたマクロ細孔テンプレート310の粒子の粒径(476nm)に一致した。
【0091】
図6は、実施例1による薄膜1450のTEM像を示す図である。
【0092】
図6は、マクロ細孔520の細部を示す。図6(A)および(B)によれば、マクロ細孔520は湾曲したフレーム構造の壁面を有する半球状になっていることが確認された。また、図6(B)によれば、マクロ細孔520の半球状の壁面に同心円状のチャネル610が確認された。チャネル610は、メソ細孔(図1の130)であり、テンプレートに用いたP123の形状をよく反映していることが分かった。
【0093】
図示しないが、薄膜1500、薄膜1550および薄膜1600についても同様の結果が得られた。
【0094】
以上より、本発明の方法を採用すれば、粒子の配置および大きさを反映したマクロ細孔と、ブロック共重合体の形状を反映したメソ細孔とを有するフレーム構造からなるバイモーダルな多孔性薄膜が得られることが示された。このことは、本発明の多孔性薄膜は、マクロ細孔およびメソ細孔を有するので、大きな表面積および大きな孔容積を有し、触媒、吸着剤、フィルタへの利用が可能であることを示唆する。
【0095】
図7は、実施例2および3による薄膜2および3のSEM像を示す図である。
【0096】
図7(a)および(b)は薄膜2のSEM像であり、図7(c)および(d)は薄膜3のSEM像である。図7によれば、薄膜2および3のいずれも、薄膜1と同様の様態であった。薄膜2のマクロ細孔710の細孔径は、約200nmであり、薄膜3のマクロ細孔720の細孔径は、約1000nm(1μm)であった。これらの細孔径は、それぞれ、マクロ細孔テンプレートに用いた粒子の粒径に一致した。図示しないが、薄膜2および3についてもメソ細孔を有することをTEMにより確認した。また、薄膜2および3の膜厚は、それぞれ、選択された粒子の粒径よりもわずかに小さいが、粒径と同様の大きさであった。
【0097】
以上より、マクロ細孔テンプレートの粒子の粒径を変化することによって、得られるマクロ細孔の細孔径を制御した多孔性薄膜が得られることが示された。
【0098】
図8は、実施例1による薄膜1450のXRDパターンを示す図である。
【0099】
図8によれば、薄膜1450は、格子面間隔0.342nmに相当する25.8°(2θ)に反射を示した。この反射は、グラフェン層における炭素原子と窒素原子との乱層配列に起因し、グラファイト状材料の(002)に指数付けされた。このことは、薄膜1450が、グラファイト状窒化炭素であることを示唆する。図示しないが、薄膜1500、薄膜1550および薄膜1600についても同様の結果が得られた。
【0100】
図9は、実施例1による薄膜1450のEELSマッピング像を示す図である。
【0101】
図9(a)は明視野像であり、図9(b)は炭素原子のマッピング像であり、図9(c)は窒素原子のマッピング像であり、図9(d)はEELSスペクトルである。
【0102】
図9(a)は、図5および図6と同様に、マクロ細孔を有するフレーム構造を示す。図9(b)および(c)において、コントラストの明るく示される箇所が炭素原子および窒素原子を示す。薄膜1450における炭素原子および窒素原子パターンは、いずれも、図9(a)、図5および図6と同様のモルフォロジであった。このことから、薄膜1450の外部および内部のいずれにおいても、炭素原子および窒素原子が均一に分布していることが分かった。本発明の方法における窒化炭素前駆体として、液相である単一のポリエチレンイミンをマクロ・メソ細孔テンプレートに付与する効果と考えられる。
【0103】
図9(d)によれば、薄膜1450は、C−Kエッジである284eV、および、N−Kエッジである401eVにピークを示した。284eVのピークは、1s−π*電子遷移によるものであり、窒素原子に結合したsp2ハイブリッド炭素に起因する。これは、炭素原子における電子密度を低減させる、窒素の高い電気陰性度によって生じる。
【0104】
N−Kエッジのピークの状態は、C−Kエッジのそれと同様であった。このこともまた、窒素原子が、炭素原子とsp2ハイブリッドを形成することを示唆する。
【0105】
図9(d)より炭素原子と窒素原子とからN/(C+N)比(原子%)を求めたところ、約23%であった。図示しないが、薄膜1500、薄膜1550および薄膜1600についてもN/(C+N)比は異なるものの同様のEELSスペクトルが得られた。
【0106】
以上より、本発明の方法を採用すれば、マクロ細孔とメソ細孔とを有するフレーム構造であって、フレーム構造が窒化炭素からなる、多孔性窒化炭素膜が得られることが示された。
【0107】
図10は、実施例1による薄膜1450のXPSスペクトルを示す図である。
【0108】
図10(a)はC1sスペクトルであり、図10(b)はN1sスペクトルである。図10(a)によれば、薄膜1450は、284.2eV、285.4eVおよび288.1eVにピークを示し、3種類の炭素原子が存在することが分かった。284.2eVにおけるピークは、アモルファス窒化炭素における純粋なグラファイトサイトに起因する。285.4eVにおけるピークは、芳香族構造内にある窒素原子に結合したsp2炭素原子に起因する。288.1eVにおけるピークは、NH基に結合した芳香環におけるsp2ハイブリッド炭素原子に起因する。
【0109】
図10(b)によれば、薄膜1450は、398.0eVおよび400.1eVにピークを示し、C−N結合において異なる窒素結合状態が存在することが分かった。398.0eVにおけるピークは、炭素原子にsp2結合した窒素原子、より詳細には、C=N−C基における窒素原子に起因する。400.1eVにおけるピークは、アモルファスC−Nネットワークにおける、すべてのsp2炭素原子、または、2つのsp2炭素原子に三方に結合した窒素原子に起因する。これらの結果は、図10(a)のC1sスペクトルの結果と良好に一致した。
【0110】
以上より、本発明の方法を採用すれば、アモルファス窒化炭素である多孔性窒化炭素膜が得られることが示された。図示しないが、薄膜1500、薄膜1550および薄膜1600についても同様の結果が得られた。また、図10から算出される薄膜1450中の炭素原子および窒素原子に対する窒素原子比(N/(C+N))(原子%)は約23%であり、EELSで求めた値に一致した。
【0111】
図11は、実施例1による薄膜1450のFTIRスペクトルを示す図である。
【0112】
図11に示されるFTIRスペクトルは、他の窒化炭素材料と同様のスペクトルであった。詳細には、波数500cm−1と波数950cm−1との間における吸収は、ネットワークに窒素原子を取り込んだことによりIR活性となる、グラファイト状のsp2ドメインの面外変角モードに起因する。波数1436m−1における吸収は、芳香族C−N伸縮モードに起因する。波数1620m−1における吸収は、C=N伸縮モードに起因する。波数3150m−1〜3500cm−1におけるブロードな吸収は、芳香族におけるNH基またはNH基の伸縮モードに起因する。波数約2200cm−1における微小な吸収は、C≡N伸縮モードに起因する。主要なIRに特徴的な吸収帯は、他のアモルファス窒化炭素材料の一般的な吸収帯に一致した。
【0113】
図示しないが、薄膜1500、薄膜1550および薄膜1600についても同様の結果が得られた。このことからも、本発明の方法によって得られた多孔性薄膜は、窒化炭素からなることが確認された。
【0114】
図12は、実施例1による薄膜1のN/(C+N)比の加熱温度依存性を示す図である。
【0115】
図12において加熱温度は、図2のステップS250における炭化温度である。薄膜1中の窒素原子および炭素原子に対する窒素原子の比(原子%)は、EELSのスペクトルから算出した。
【0116】
図12によれば、炭化温度が低いほど窒素含有量が高く、炭化温度が高いほど窒素含有量が低いことが分かる。具体的には、N/(C+N)は、炭化温度が450℃から600℃へと増大させると、22から12へと変化した。窒素含有量の減少は、炭化温度の上昇に伴う、図2のステップS240で得た重合された窒化炭素前駆体からの窒素原子の焼失に起因すると予想される。
【0117】
以上より、炭化温度を400℃〜600℃の温度範囲内で制御することにより、得られる多孔性窒化炭素膜中の窒素量を制御できることが確認された。
【0118】
図13は、実施例1による薄膜1450のアニリンおよび酢酸に対するQCM周波数シフト量の時間依存性を示す図である。
【0119】
図13においてプロファイルaおよびbは、それぞれ、アニリンおよび酢酸に対するQCM周波数変化(シフト量)を示す。いずれのプロファイルも、時間の経過に伴い、QCM周波数変化を示した。このことから、薄膜1450は、芳香族炭化水素および酸性溶媒を吸着できることが確認された。
【0120】
より詳細には、薄膜1450は、酢酸に対してより高い吸着能を有し、その吸着能は、アニリンの約6倍であった。これは、本発明による多孔性窒化炭素膜におけるフレーム構造が、炭素原子に結合したNH、NHまたはN等の炭素フレーム構造内に基本となる窒素族元素が取り込まれた構造であることに起因すると考えられる。
【0121】
このことから、本発明の多孔性窒化炭素膜が、特定の物質をセンシングするためのセンサとなり得、好ましくは芳香族炭化水素または酸性溶媒、より好ましくは酢酸をセンシングするためのセンサになり得ることが示された。
【0122】
図14は、実施例1によるオゾン処理前後(処理時間15分)の薄膜1450のアニリンおよび酢酸に対するQCM周波数シフト量を示す図である。
【0123】
図14のオゾン処理前のQCM周波数シフト量は、図13の結果に基づく。図14によれば、オゾン処理後の薄膜1450は、アニリン次いで酢酸の順に吸着能を有した。この吸着能の順番は、オゾン処理前のそれと逆転した。
【0124】
オゾン処理により吸着能を変化させる、すなわちセンシングする物質を制御することができるので、本発明の多孔性窒化炭素膜を光学スイッチとして利用してもよい。
【0125】
また、図13および図14に示す吸着実験を複数回繰り返し行ったが、吸着量に実質的な変化は見られなかった。このことから、本発明の多孔性窒化炭素膜が、高い安定性を有しており、商業的に有利であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の多孔性窒化炭素膜は、マクロ細孔およびメソ細孔を有するので、触媒、吸着剤、フィルタ等に利用され得る。本発明の多孔性窒化炭素膜は、所定の物質に対して選択的な吸着能を有するため、センサあるいは光学スイッチに好適である。また、本発明の多孔性窒化炭素膜を、既存の多孔性材料と同様に、上述の用途に加えて、ガス分離、クロマトグラフィ、エネルギー貯蔵に用いてもよい。
【符号の説明】
【0127】
100 多孔性窒化炭素膜
110、510 フレーム構造
120、312、520、710、720 マクロ細孔
130、314 メソ細孔
140 開口部
300 粒子
310 マクロ細孔テンプレート
320 基板
330 シリカ源
340 ブロック共重合体
350 メソ細孔テンプレート
360 マクロ・メソ細孔テンプレート
370 第2の溶液
380 窒化炭素前駆体
390 窒化炭素
313 メソ細孔を伴うシリカ
400 フィルタ
410 有害物質を含有するガス
420 有害物質が除去されたガス
610 チャネル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0128】
【特許文献1】特開2006−124250号公報
【特許文献2】特開2010−030844号公報
【特許文献3】国際公開第2008/126799号パンフレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化炭素からなるフレーム構造によって形成される多孔性窒化炭素膜であって、
前記フレーム構造は、
マクロ細孔と、
前記マクロ細孔の細孔径よりも小さな細孔径を有するメソ細孔と
を有し、
前記マクロ細孔は、前記多孔性窒化炭素膜の表面方向に規則的に配列しており、
前記マクロ細孔は、前記多孔性窒化炭素膜の表面に開口部を有する、多孔性窒化炭素膜。
【請求項2】
前記マクロ細孔の細孔径は、50nm〜15μmの範囲である、請求項1に記載の多孔性窒化炭素膜。
【請求項3】
前記メソ細孔の細孔径は、5nm〜20nmの範囲である、請求項1に記載の多孔性窒化炭素膜。
【請求項4】
前記窒化炭素は、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、PtおよびAuからなる群から選択される金属元素および/またはランタノイド元素を含有する、請求項1に記載の多孔性窒化炭素膜。
【請求項5】
前記窒化炭素は、アモルファス窒化炭素である、請求項1に記載の多孔性窒化炭素膜。
【請求項6】
前記窒化炭素における窒素原子Nおよび炭素原子CによるN/(C+N)比(原子%)は、10%〜25%の範囲である、請求項1に記載の多孔性窒化炭素膜。
【請求項7】
請求項1に記載の多孔性窒化炭素膜を製造する方法であって、
シリカ源とブロック共重合体と含有する第1の溶液を粒子からなるマクロ細孔テンプレートに付与するステップと、
前記第1の溶液が付与された前記マクロ細孔テンプレートを加熱し、前記シリカ源からシリカを生成し、前記マクロ細孔テンプレートと、前記ブロック共重合体および前記シリカからなるメソ細孔テンプレートとを有するマクロ・メソ細孔テンプレートを形成するステップと、
窒化炭素前駆体を含有する第2の溶液を、前記マクロ・メソ細孔テンプレートに付与するステップと、
前記第2の溶液が付与された前記マクロ・メソ細孔テンプレートを加熱し、前記窒化炭素前駆体を重合するステップと、
前記重合された前記窒化炭素前駆体を有する前記マクロ・メソ細孔テンプレートを加熱し、前記重合された前記窒化炭素前駆体を炭化し、かつ、前記マクロ・メソ細孔テンプレートから前記粒子および前記ブロック共重合体を除去するステップと、
前記粒子および前記ブロック共重合体が除去され、前記炭化された前記窒化炭素前駆体および前記シリカからなる生成物を酸またはアルカリ処理し、前記シリカを除去するステップと
を包含する、方法。
【請求項8】
前記シリカ源は、テトラエトキシシラン(TEOS)またはケイ酸ナトリウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ブロック共重合体は、P104、P123、F108およびF127からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記窒化炭素前駆体は、ポリエチレンイミン、アニリン、メラミンおよびエチレンジアミンからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の溶液は、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、PtおよびAuからなる群から選択される金属イオンおよび/またはランタノイドイオンを含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記粒子の粒径は、50nm〜15μmの範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記シリカを生成するステップは、前記第1の溶液が付与された前記マクロ細孔テンプレートを、80℃〜150℃の温度範囲で、12時間〜36時間加熱する、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記窒化炭素前駆体を重合するステップは、前記第2の溶液が付与された前記マクロ・メソ細孔テンプレートを、50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、前記第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱する、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記炭化および除去するステップは、前記重合された前記窒化炭素前駆体を有する前記マクロ・メソ細孔テンプレートを、不活性雰囲気中で400℃〜600℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱する、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記酸またはアルカリ処理は、フッ酸または水酸化ナトリウムを用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記マクロ細孔テンプレートは、コロイド結晶である、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記シリカを除去するステップに続いて、前記多孔性窒化炭素膜をオゾン処理するステップをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性窒化炭素膜を備えたセンサ。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性窒化炭素膜を備えたフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−250884(P2012−250884A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125611(P2011−125611)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)