説明

多孔性膜上に現れる輪を測定する試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キット

【課題】 特別な器具や装置を必要とせず、簡便かつ安価に実施することができ、測定を行うに熟練を要さず、測定結果が明確に示されるため判定が容易であり、そして極めて迅速に正確な測定結果を得ることができる、試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、下記の各工程よりなる、試料中の測定対象物質の測定方法である。
(a) 試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる工程、
(b) 前記接触後、その一定量を多孔性膜上に添加する工程、及び
(c) 前記多孔性膜上に現れる輪を測定する工程
また、本発明は、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬、並びに多孔性膜を含む、試料中の測定対象物質の測定キットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に微量に含まれる測定対象物質を、ごく簡便且つ正確に測定することができる測定方法及び測定キットに関するものである。
本発明は、分析化学、生命科学、医療、薬品製造、食品衛生、及び環境科学等において有用であり、特に臨床検査分野において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
抗原と抗体、糖とレクチン、ヌクレオチド鎖とそれに相補的なヌクレオチド鎖、リガンドとレセプター等の特異的な親和性を有する物質間の反応を利用した試料中に含まれる微量の測定対象物質の測定方法及び測定キットは種々のものが知られている。
【0003】
中でも、抗原と抗体の間の抗原抗体反応を利用した免疫学的測定方法及び免疫学的測定キットは広く実施され、利用されている。
この免疫学的測定方法のうち間接凝集反応測定法は簡易かつ安価な方法であることから汎用されている。
【0004】
この間接凝集反応測定法は、測定対象物質に特異的に結合する抗体(測定対象物質が抗体の場合は抗原を使用することも可能)を固定化した担体(ラテックス粒子若しくはゼラチン粒子等の高分子粒子又は赤血球等)と、測定対象物質を含むと推定される試料を、プラスチックやガラスなどよりなる板(プレート)又はU字状若しくはV字状の容器底面を有するマイクロタイタープレートなどに添加し、混合して、前記担体と試料とを接触させ、試料中に測定対象物質が存在する場合には、抗原抗体反応により生じた測定対象物質を介した担体間の凝集像を観察することにより、試料中に測定対象物質が測定下限値以上の濃度で存在する(陽性)か、又は存在しないか若しくは測定下限値未満の濃度で存在する(陰性)かを判定する方法である(非特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、この間接凝集反応測定法で、前記担体と前記試料とを、プラスチックやガラスなどよりなる板(プレート)の上で接触させ、担体間の凝集像を観察する方法は、特別な器具や装置を必要とせず、安価に、かつ短時間の内に測定結果を得ることができる方法であるが、正確な測定結果を得るには測定の手技に熟練を要し、そして凝集像の判定(陽性か陰性かの判定)もまた難しく熟練を要するものであった。
また、前記担体と前記試料とを、マイクロタイタープレートの容器内で接触させ、担体間の凝集像を観察する方法は、特別な器具や装置を必要とせず、かつ安価に測定結果を得ることができる方法であるが、凝集像を得るのに要する時間は通常1時間以上であり、迅速に測定結果を得ることはできないものであった。
【0006】
【非特許文献1】 「臨床検査法提要」(改訂第30版)、金原出版、第843頁〜第847頁、及び第931頁〜第936頁、1993年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特別な器具や装置を必要とせず、簡便かつ安価に実施することができ、測定を行うに熟練を要さず、測定結果が明確に示されるため判定が容易であり、そして極めて迅速、高感度かつ正確に測定結果を得ることができる、試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を包含するものである。
(1) 下記の各工程よりなる、試料中の測定対象物質の測定方法。
(a) 試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる工程、
(b) 前記接触後、その一定量を多孔性膜上に添加する工程、及び
(c) 前記多孔性膜上に現れる輪を測定する工程
(2) 測定対象物質に対する特異的結合物質が、測定対象物質が抗原である場合には当該抗原に特異的に結合する抗体であり、測定対象物質が抗体である場合には当該抗体に特異的に結合する抗体又は当該抗体にとっての抗原である、前記(1)記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
(3) 担体が粒子である、前記(1)又は(2)記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
(4) 工程(c)の多孔性膜上に現れる輪の測定において、多孔性膜上に輪が観察できた場合には試料中に測定対象物質が測定下限値以上の濃度で存在すると判定し、多孔性膜上に輪が観察できなかった場合には試料中に測定対象物質が存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在すると判定する、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
(5) 色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬、並びに多孔性膜を含む、試料中の測定対象物質の測定キット。
(6) 測定対象物質に対する特異的結合物質が、測定対象物質が抗原である場合には当該抗原に特異的に結合する抗体であり、測定対象物質が抗体である場合には当該抗体に特異的に結合する抗体又は当該抗体にとっての抗原である、前記(5)記載の試料中の測定対象物質の測定キット。
(7) 担体が粒子である、前記(5)又は(6)記載の試料中の測定対象物質の測定キット。
(8) 多孔性膜上に輪が観察できた場合には試料中に測定対象物質が測定下限値以上の濃度で存在すると判定し、多孔性膜上に輪が観察できなかった場合には試料中に測定対象物質が存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在すると判定するものである、前記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の試料中の測定対象物質の測定キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットは、特別な器具や装置を必要とせず、簡便かつ安価に実施することができ、測定を行うに熟練を要さず、測定結果が明確に示されるため判定が容易であり、そして極めて迅速、高感度かつ正確に測定結果を得ることができる、試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
I.試料中の測定対象物質の測定方法
1.試料
本発明において、試料とは、測定対象物質が存在する可能性があり、かつその測定対象物質の存在の有無、又は含有量(濃度)の測定を行おうとするものをいう。
本発明における試料は、このようなものであれば特に限定されないが、例えば、ヒト若しくは動物に由来する試料、植物に由来する試料、微生物に由来する試料、食物、飲料、飲料水、薬剤、試薬、又は環境試料等を挙げることができる。
【0011】
ヒト若しくは動物に由来する試料は、特に限定されず、例えば、ヒト或いは動物の、血液、血清、血漿、尿、大便、精液、髄液、唾液、汗、涙、腹水、咽頭拭い液、羊水、若しくはその他の体液;脳、心臓、腎臓、若しくは肝臓などの臓器;毛髪、皮膚、爪、筋肉、若しくは神経などの組織;又は細胞等を挙げることができる。
【0012】
食物は、特に限定されず、例えば、食肉、野菜、穀物、果物、卵、水産物、又は加工食品等を挙げることができる。
【0013】
飲料は、特に限定されず、例えば、ジュース、牛乳、茶、コーヒー、又は酒類等を挙げることができる。
【0014】
薬剤は、特に限定されず、例えば、輸液、注射液、散剤、又は錠剤等を挙げることができる。
【0015】
環境試料は、特に限定されず、例えば、河川水、湖沼水、海水、土壌又は産業廃棄物などの懸濁液等を挙げることができる。
【0016】
なお、測定に用いる試料の形態は、液体である必要があるので、もし試料が液体でない場合には、抽出処理又は可溶化処理等の前処理を既知の方法に従って行い、液体試料とすればよい。
【0017】
また、必要に応じて、試料は濃縮処理を行ってもよい。
【0018】
また、試料は、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質と接触させる前に、希釈液を添加することにより希釈処理を行ってもよい。
この希釈液として、各種水系溶媒を用いることができる。
例えば、精製水、生理食塩水又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液若しくはリン酸緩衝生理食塩水などの各種緩衝液等の水系溶媒を用いることができる。なお、この緩衝液のpHについては、pH4.0〜pH12.0の範囲にあることが好ましい。
【0019】
また、試料が血液(全血)である場合、この全血試料を、精製水又は界面活性剤を含有する水系溶媒等の低張液と混合し、赤血球を破裂させる処理を行うことが、その後の測定を支障なく行う上で、好ましい。
【0020】
2.測定対象物質
本発明において、測定対象物質とは、試料中におけるその存在の有無、又は含有量(濃度)を測定しようとする物質である。
【0021】
この測定対象物質としては、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬、並びに多孔性膜を使用して測定を行うことができるものであれば如何なるものでもよい。
【0022】
この測定対象物質を例示すると、例えば、タンパク質、糖質、脂質、核酸などのような有機物質、又は金属などの無機物質等を挙げることができる。
【0023】
より具体的には、例えば、HBs抗原、抗HBs抗体、HBe抗原、抗HBe抗体、抗HBc抗体、HCV抗原、抗HCV抗体、HIV抗原、抗HIV抗体、抗ATLV抗体等のウイルス関連の抗原又は抗体;
大腸菌O157抗原、抗トレポネーマ・パリダム抗体、抗マイコプラズマ抗体、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)、赤痢菌、コレラ菌、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、キャンピロバクター、ヘリコバクターピロリ、MRSA、若しくはレジオネラ菌等の細菌関連の抗原、抗体又は細菌自体;免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンM(IgM)、若しくは免疫グロブリンE(IgE)等の免疫グロブリン;C反応性タンパク質(CRP)、α1−酸性糖タンパク質、ハプトグロビン、補体C3、補体C4、リウマトイド因子等の炎症マーカー;α−フェトプロテイン、CEA、CA19−9等の腫瘍マーカー;ヒト胎盤絨毛性ゴナドトロピン等のホルモン;アレルゲン、アレルゲン特異IgE抗体等のアレルギー関連の抗原又は抗体;アンチトロンビンIII(ATIII)等の血液凝固系関連物質;フィブリン体分解物(FDP)、Dダイマー等の線溶系関連物質;ABO式血液型抗体、不規則抗体等の血液型関連の抗原又は抗体;ウイルスのDNA又はRNA;細菌のDNA又はRNA;ヒト等の動物若しくは植物のDNA又はRNA;リポタンパク質(a)、フェリチン等の他の疾病に関連した物質;薬物;環境ホルモン、PCB若しくはダイオキシンなどの環境汚染物質;金属;毒物又は劇物等を例示することができる。
【0024】
3.色素
本発明における色素は、特に限定なく用いることができる。
【0025】
この色素としては、例えば、ローダミンB、エリスロシンB若しくはエオシンなどのキサンテン系色素;エチルバイオレット、クーマシーブリリアントブルー(CBB)、ブロモクロロフェノールブルー、テトラブロモフェノールブルー、ブロモフェノールブルー、若しくはブロモクレゾールパープルなどのトリフェニルメタン系色素;又はバッファローブラック、アシドオレンジ12、メチルオレンジ、オレンジG、若しくはアゾスルファチアゾールなどのアゾ色素等を挙げることができる。
なお、本発明における色素としては、例えば、エチルバイオレット又はローダミンB等が好適であり、特にエチルバイオレット等が好適である。
【0026】
ところで、本発明における色素は、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触したときに、その担体に固定化された「色素に結合することができる物質」に結合するものである。
また、本発明における色素は、遊離状態にある色素に結合可能な物質と接触したときに、その遊離状態にある「色素に結合可能な物質」に結合するものである。
【0027】
この色素の濃度は、低すぎると測定の感度が得られず試料中の測定対象物質を測定することができないので、試料、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させるときの濃度で、0.01μM以上であることが好ましく、0.1μM以上であることがより好ましく、1μM以上であることが特に好ましい。
【0028】
また、この色素の濃度は、高すぎると試料中に測定対象物質が存在しなくとも多孔性膜上に輪が現れたり又は着色域が生じてしまうことがあり、その場合試料中に測定対象物質が存在するときとの判別が難しくなるので、試料、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させるときの濃度で、1,000μM以下であることが好ましく、100μM以下であることがより好ましく、10μM以下であることが特に好ましい。
【0029】
なお、この色素を溶解させる溶媒は、各種水系溶媒を用いることができる。
例えば、精製水、生理食塩水又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液若しくはリン酸緩衝生理食塩水などの各種緩衝液等の水系溶媒を用いることができる。なお、この緩衝液のpHについては、pH4.0〜pH12.0の範囲にあることが好ましい。
【0030】
4.測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
〔1〕測定対象物質に対する特異的結合物質
本発明において、測定対象物質に対する特異的結合物質とは、前記の測定対象物質に特異的な親和性を有し結合することができる物質のことである。
【0031】
この測定対象物質に対する特異的結合物質としては、例えば、測定対象物質が抗原である場合にはこの抗原に対する抗体、測定対象物質が抗体である場合にはこの抗体にとっての抗原若しくはこの抗体に対する抗体、測定対象物質がタンパク質などよりなる物質である場合にはそのリガンド、測定対象物質が糖である場合にはこの糖と結合するレクチン、測定対象物質がレクチンである場合にはこのレクチンと結合する糖、測定対象物質がヌクレオチド鎖である場合にはこのヌクレオチド鎖と相補的なヌクレオチド鎖、又は測定対象物質がレセプターである場合にはこのレセプターに結合する物質(リガンド)等を挙げることができる。
【0032】
すなわち、測定対象物質に特異的な親和性を有し結合することができる物質であれば、特に制限なく、測定対象物質に対する特異的結合物質として、本発明において用いることができる。
【0033】
なお、本発明においては、測定対象物質が抗原であり、測定対象物質に対する特異的結合物質が前記抗原に対する抗体である場合が好適である。
【0034】
ここで、抗体としては、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体のいずれでもよく、そしてこれらの断片〔F(ab)’2又はFab’など〕等でもよい。
【0035】
また、本発明においては、測定対象物質が抗体であり、測定対象物質に対する特異的結合物質が前記抗体にとっての抗原、又は前記抗体に対する抗体である場合が好適である。
【0036】
この測定対象物質が抗体であり、測定対象物質に対する特異的結合物質が前記抗体にとっての抗原である場合、この「前記抗体にとっての抗原」は、細菌若しくはウイルスなど由来の天然のものであってもよく、又は遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものであってもよいが、特に遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものである場合が好適である。
【0037】
そして、この遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものである場合、「前記抗体にとっての抗原」は、他のタンパク質と融合しているものであってもよい。
【0038】
また、この遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものである場合、「前記抗体にとっての抗原」は、複数種類の抗原が融合しているものであってもよい。
【0039】
〔2〕色素に結合することができる物質
本発明において、色素に結合することができる物質とは、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させたときに、前記の色素に親和性を有し、結合することができる物質のことである。
【0040】
この色素に結合することができる物質としては、例えば、タンパク質、糖類、又は脂質等を挙げることができる。
【0041】
このタンパク質としては、例えば、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、又はカゼイン等を挙げることができる。
【0042】
このアルブミンとしては、例えば、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、又は卵白アルブミン等を挙げることができる。
【0043】
本発明におけるこの色素に結合することができる物質としては、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、又は卵白アルブミン等のアルブミンが好適である。
【0044】
なお、本発明における「色素に結合することができる物質」と「色素」との組み合わせであるが、「色素に結合することができる物質」がアルブミン、グロブリン、ゼラチン、又はカゼイン等のタンパク質であって、そして「色素」がローダミンB、エリスロシンB若しくはエオシンなどのキサンテン系色素;エチルバイオレット、クーマシーブリリアントブルー(CBB)、ブロモクロロフェノールブルー、テトラブロモフェノールブルー、ブロモフェノールブルー、若しくはブロモクレゾールパープルなどのトリフェニルメタン系色素;又はバッファローブラック、アシドオレンジ12、メチルオレンジ、オレンジG、若しくはアゾスルファチアゾールなどのアゾ色素等である組み合わせが好ましい。
そして、前記色素としては、例えば、エチルバイオレット又はローダミンB等が特に好ましい。
【0045】
この色素に結合することができる物質は、遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものであってもよく、又は変性処理若しくは分解処理などが施されたものであってもよい。
【0046】
なお、この色素に結合することができる物質は、1種類のものを用いてもよいし、又は複数種類のものを用いてもよい。
【0047】
〔3〕担体
(1) 本発明において、担体は、「測定対象物質に対する特異的結合物質」及び「色素に結合することができる物質」をそれぞれ固定化することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0048】
すなわち、「測定対象物質に対する特異的結合物質」と「測定対象物質」との特異的な結合反応を利用して試料中の測定対象物質の測定を行う方法及び測定キット(測定試薬)に使用されている担体、又は使用することが可能な担体であればよい。
【0049】
(2) 本発明における担体としては、例えば、間接凝集反応測定法であるラテックス凝集反応法に使用されているラテックス粒子、若しくはラテックス凝集反応法に使用することが可能なラテックス粒子、又は、ラテックス比濁法に使用されているラテックス粒子、若しくはラテックス比濁法に使用することが可能なラテックス粒子等を挙げることができる。
【0050】
このようなラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレン・ラテックス粒子、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体・ラテックス粒子、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体・ラテックス粒子、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体・ラテックス粒子、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体・ラテックス粒子、ポリアクロレイン・ラテックス粒子、スチレン−メタクリル酸共重合体・ラテックス粒子、スチレン−グリシジル(メタ)アクリル酸共重合体・ラテックス粒子、メタクリル酸重合体・ラテックス粒子、又はアクリル酸重合体・ラテックス粒子などの合成高分子粒子を均一に懸濁させたラテックス粒子等を挙げることができる。
【0051】
このラテックス粒子としては、ポリスチレン・ラテックス粒子又はスチレン−メタクリル酸共重合体・ラテックス粒子が好適であり、ポリスチレン・ラテックス粒子が特に好適である。
【0052】
(3) 本発明における担体としては、更に、例えば、ゼラチン粒子などを用いる粒子凝集反応測定法などの他の間接凝集反応測定法に使用されている粒子、若しくはこの他の間接凝集反応測定法に使用することが可能な粒子、又は、ラテックス粒子以外の担体を用いる比濁法に使用されている粒子、又はラテックス粒子以外の担体を用いる比濁法に使用することが可能な粒子等を挙げることができる。
【0053】
このような粒子としては、例えば、リポソーム、ゼラチン、ポリアクリルアミド、マイクロカプセル若しくはエマルジョン等の有機高分子物質よりなる粒子、ガラス、シリカゲル、カーボン若しくはベントナイト等の無機高分子物質よりなる粒子、又はその他の人工担体等を挙げることができる。
【0054】
(4) 本発明における担体としては、また、前記の各担体を強磁性体で被覆又は担体成型時に強磁性体を分散させて調製した磁性粒子等を挙げることができる。
【0055】
(5) 本発明における担体の径(粒径)については、特に制限はない。
なお、その平均径(平均粒子径)が0.001〜10μmの範囲内にあることが好ましく、0.01〜5μmの範囲内にあることがより好ましく、0.05〜1μmの範囲内にあることが特に好ましい。
【0056】
なお、本発明における担体の径(粒径)は、本発明における多孔性膜の孔径との関係においては、本発明における担体の平均径(平均粒子径)を本発明における多孔性膜の平均孔径で除した比が、0.01〜1の範囲内にあることが好ましく、0.05〜0.2の範囲内にあることがより好ましい。
【0057】
なお、本発明における担体の径(粒径)は、その径(粒径)が大きくなる程測定の感度が高くなるので、測定の感度を高めたい場合には、径(粒径)が大きい担体を用いればよい。その場合、例えば、担体の平均径(平均粒子径)が0.05μm以上の担体を用いることが好ましく、0.1以上の担体を用いることがより好ましい。その場合、多孔性膜も、上記した通り、対応する範囲内の孔径のものを用いることが好ましい。
【0058】
また、本発明における担体の比重は、1〜10の範囲内にあることが好ましく、1〜2の範囲内にあることがより好ましい。
【0059】
〔4〕測定対象物質に対する特異的結合物質の担体への固定化及び色素に結合することができる物質の担体への固定化
本発明において、測定対象物質に対する特異的結合物質を担体へ固定化する方法、及び色素に結合することができる物質を担体へ固定化する方法としては、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用等の公知の方法により行うことができる。
【0060】
物理的吸着法による場合は、公知の方法に従い、「測定対象物質に対する特異的結合物質」及び/又は「色素に結合することができる物質」と「担体」とを、緩衝液等の溶液中で混合し接触させたり、又は緩衝液等に溶解した「測定対象物質に対する特異的結合物質」及び/又は「色素に結合することができる物質」と「担体」とを、前記溶液中で接触させること等により行うことができる。
【0061】
例えば、緩衝液等に懸濁した担体に測定対象物質に対する特異的結合物質を添加し、この緩衝液等の溶液中で混合し接触させ、これを約2℃〜約40℃で約10分〜約1日間保持することにより、測定対象物質に対する特異的結合物質の担体への固定化処理を行う。
次に、この測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化した担体を懸濁する溶液に、色素に結合することができる物質を添加し、この溶液中で混合し接触させ、これを約2℃〜約40℃で約10分〜約1日間保持することにより、色素に結合することができる物質の前記担体への固定化処理を行う。
これらの処理により、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を得ることができる。
【0062】
また、例えば、測定対象物質に対する特異的結合物質、及び色素に結合することができる物質をそれぞれ含む緩衝液等の溶液に、緩衝液等に懸濁した担体を添加し、混合し接触させ、これを約2℃〜約40℃で約10分〜約1日間保持することにより、測定対象物質に対する特異的結合物質、及び色素に結合することができる物質の担体への固定化処理を行う。
この処理により、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を得ることができる。
【0063】
また、化学的結合法により行う場合は、『日本臨床病理学会編「臨床病理臨時増刊特集第53号 臨床検査のためのイムノアッセイ−技術と応用−」,臨床病理刊行会,1983年発行』及び『日本生化学会編「新生化学実験講座1 タンパク質IV」,東京化学同人,1991年発行』等に記載の公知の方法に従い、「測定対象物質に対する特異的結合物質」及び/又は「色素に結合することができる物質」と「担体」とを、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステル又はマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させ、「測定対象物質に対する特異的結合物質」及び/又は「色素に結合することができる物質」と「担体」とのそれぞれのアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基又は水酸基等と反応させること等により行うことができる。
【0064】
なお、本発明においては、色素に結合することができる物質を担体へ固定化していることにより、副次的に、非特異的反応や担体の自然凝集等が抑制されると考えられるが、もし必要であれば、更にタンパク質、界面活性剤又は脱脂粉乳等を担体に接触させ被覆させること等の公知の方法により処理して、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体のブロッキング処理(マスキング処理)を行ってもよい。
【0065】
〔5〕測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
試料、色素、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質と接触させる際の、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体の濃度であるが、これは、測定対象物質の種類とその試料中における濃度、測定対象物質に対する特異的結合物質の種類とその担体表面上での分布密度、色素の濃度、色素に結合することができる物質の種類とその担体表面上での分布密度、担体の径(粒径)、並びに、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質の存在比率等の各種条件により最適な濃度は異なるので一概に言うことはできない。
【0066】
しかしながら、この測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体の濃度は、低すぎると測定の感度が得られず試料中の測定対象物質を測定することができないので、試料及び色素と接触させるときの濃度で、0.005%(w/v)以上であることが好ましく、0.01%(w/v)以上であることがより好ましい。
【0067】
また、この測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体の濃度は、高すぎても測定の感度が下がってしまうので、5%(w/v)以下であることが好ましく、1%(w/v)以下であることがより好ましい。
【0068】
〔6〕測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を懸濁させる分散媒
測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を懸濁させる分散媒は、各種水系溶媒を用いることができる。
例えば、精製水、生理食塩水又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液若しくはリン酸緩衝生理食塩水などの各種緩衝液等の水系溶媒を用いることができる。なお、この緩衝液のpHについては、pH4.0〜pH12.0の範囲にあることが好ましい。
【0069】
5.遊離状態にある色素に結合可能な物質
本発明において、遊離状態にある色素に結合可能な物質とは、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させたときに、前記の色素に親和性を有し結合することが可能であり、且つ遊離状態にある物質のことである。
【0070】
この遊離状態にある色素に結合可能な物質としては、例えば、タンパク質、糖類、又は脂質等を挙げることができる。
【0071】
このタンパク質としては、例えば、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、又はカゼイン等を挙げることができる。
【0072】
このアルブミンとしては、例えば、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、又は卵白アルブミン等を挙げることができる。
【0073】
本発明におけるこの遊離状態にある色素に結合可能な物質としては、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、又は卵白アルブミン等のアルブミンが好適である。
【0074】
なお、本発明における「遊離状態にある色素に結合可能な物質」と「色素」との組み合わせであるが、「遊離状態にある色素に結合可能な物質」がアルブミン、グロブリン、ゼラチン、又はカゼイン等のタンパク質であって、そして「色素」がローダミンB、エリスロシンB若しくはエオシンなどのキサンテン系色素;エチルバイオレット、クーマシーブリリアントブルー(CBB)、ブロモクロロフェノールブルー、テトラブロモフェノールブルー、ブロモフェノールブルー、若しくはブロモクレゾールパープルなどのトリフェニルメタン系色素;又はバッファローブラック、アシドオレンジ12、メチルオレンジ、オレンジG、若しくはアゾスルファチアゾールなどのアゾ色素等である組み合わせが好ましい。
そして、前記色素としては、例えば、エチルバイオレット又はローダミンB等が特に好ましい。
【0075】
この遊離状態にある色素に結合可能な物質は、遺伝子組み換え法などにより人為的に調製したものであってもよく、又は変性処理若しくは分解処理などが施されたものであってもよい。
【0076】
なお、この遊離状態にある色素に結合可能な物質は、1種類のものを用いてもよいし、又は複数種類のものを用いてもよい。
【0077】
また、この遊離状態にある色素に結合可能な物質は、前記の測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体における色素に結合することができる物質と、同一のものを用いてもよいし、又は異なるものを用いてもよいが、同一のものを用いることが好ましい。
【0078】
ところで、試料、色素、及び測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触させる際の、遊離状態にある色素に結合可能な物質の濃度であるが、これは、色素の濃度、色素に結合することができる物質の種類とその担体表面上での分布密度、担体の径(粒径)、並びに、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質の存在比率等の各種条件により最適な濃度は異なるので一概に言うことはできない。
【0079】
しかしながら、この遊離状態にある色素に結合可能な物質の濃度が低すぎると、前記の担体に固定化した色素に結合することができる物質に結合せずに存在する色素を、この遊離状態にある色素に結合可能な物質と結合させることが充分に行えず、これにより試料中に測定対象物質が存在しなくとも多孔性膜上に輪が現れたり又は着色域が生じてしまうことがあり、その場合試料中に測定対象物質が存在するときとの判別が難しくなるので、試料、色素、及び測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触させるときの濃度で、0.01mM以上であることが好ましく、0.1mM以上であることがより好ましい。
【0080】
また、この遊離状態にある色素に結合可能な物質の濃度が高すぎると、前記の担体に固定化した色素に結合することができる物質と競合して、多くの色素と結合してしまう結果、前記の測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体に結合する色素の量が少なくなり、測定の感度が下がってしまうので、10mM以下であることが好ましく、1mM以下であることがより好ましい。
【0081】
6.pH
本発明において、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる際のpHは、特に限定はなく適宜適当なpHを選択して用いることができる。
【0082】
前記の接触時のpHとしては、pH4.0〜pH12.0の範囲にあることが好ましく、pH5.0〜pH11.0の範囲にあることがより好ましく、pH6.0〜pH10.0の範囲にあることが特に好ましい。
【0083】
なお、前記の接触時のpHが、余り低いものであると、試料中に測定対象物質が存在しなくとも、多孔性膜上に輪が現れてしまうことがあるので適当ではなく、また、余りpHが高すぎても、タンパク質が変性したり不溶化してしまうので適当でない。
【0084】
本発明において、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させるときに、pHが上記のpHとなるような緩衝剤(これらのpH域に緩衝能がある緩衝剤)を共存させることが好ましい。この緩衝剤としては、既知の緩衝剤を用いることができる。
【0085】
7.他の成分
本発明において、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させるときに、その他の成分を適宜共存させることができる。
例えば、ポリエチレングルコールやポリプロピレングルコール等の水溶性高分子化合物を共存させてもよく、このポリエチレングルコールやポリプロピレングルコール等の水溶性高分子化合物を共存させることにより、測定の感度を増加させることが出来るので好ましい。
【0086】
また、塩化ナトリウムなどの各種塩類、各種糖類、脱脂粉乳、正常ウサギ血清などの各種動物血清、アジ化ナトリウム若しくは抗生剤などの各種防腐剤、又は非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤若しくは陰イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤等を適宜共存させてもよい。
【0087】
そして、これらの成分を共存させる際の濃度は特に限定されるものではないが、0.001〜10%(W/V)が好ましく、0.01〜5%(W/V)がより好ましく、0.1〜1%(W/V)が特に好ましい。
【0088】
なお、この各種界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油若しくはポリオキシエチレンラノリンなどの非イオン性界面活性剤、酢酸ベタインなどの両性界面活性剤又はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩若しくはポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩などの陰イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0089】
8.多孔性膜
本発明における多孔性膜は、多数の微細な孔を有する膜であって、その膜上に微量の溶液を添加したときにその溶液を吸収することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0090】
この多孔性膜の材質としては、例えば、紙〔ろ紙〕、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロース混合エステル〔ニトロセルロース及びセルロースアセテートの混合物〕、ポリカーボネート、ポリビニリデンフロライド、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、又は親水性四フッ化エチレン樹脂(親水性PTFE)等を挙げることができる。
【0091】
この多孔性膜の孔径としては、0.1〜10μmが好ましく、0.45〜5μmがより好ましく、0.8〜1.2μmが特に好ましい。
【0092】
例えば、この多孔性膜として、「メンブランフィルター(タイプJV;親水性四フッ化エチレン樹脂;孔径0.1μm)〔ミリポア社〕」、「メンブランフィルター(タイプJH;親水性四フッ化エチレン樹脂;孔径0.45μm)〔ミリポア社〕」、「メンブランフィルター(タイプJA;親水性四フッ化エチレン樹脂;孔径1μm)〔ミリポア社〕」、「メンブランフィルター(タイプJM;親水性四フッ化エチレン樹脂;孔径5.0μm)〔ミリポア社〕」、「メンブランフィルター(タイプJC;親水性四フッ化エチレン樹脂;孔径10.0μm)〔ミリポア社〕」、「MF−メンブランフィルター(タイプHA;セルロース混合エステル;孔径0.45μm)〔ミリポア社〕」、「MF−メンブランフィルター(タイプAA;セルロース混合エステル;孔径0.8μm)〔ミリポア社〕」、「MF−メンブランフィルター(タイプRA;セルロース混合エステル;孔径1.2μm)〔ミリポア社〕」、又は「SELECA−V(セルロースアセテート膜)〔東洋濾紙社〕」等を挙げることができる。
【0093】
なお、本発明における多孔性膜は、本発明において用いる色素を吸着若しくは結合しないか、又は色素を吸着若しくは結合しにくいものであることが好ましい。
また、本発明における多孔性膜は、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化した担体が測定対象物質を介して凝集した凝集物を捕捉する能力が高いものが好ましい。
【0094】
これらの条件を満たす多孔性膜としては、例えば、親水性四フッ化エチレン樹脂(親水性PTFE)を材質とするもの等を挙げることができる。
この親水性四フッ化エチレン樹脂(親水性PTFE)を材質とする多孔質膜は、色素が吸着若しくは結合しにくいものであり、試薬(水溶液)の拡散が速く、そして前記凝集物の捕捉能力が高いものであり、感度良く測定を行うことができるので好ましい。
【0095】
9.試料中の測定対象物質の測定
本発明における試料中の測定対象物質の測定について、以下説明を行う。
【0096】
(1)接触工程〔工程(a)〕
まず、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる工程であるが、前記の試料、前記の色素、前記の測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び前記の遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させることができれば、どのような方法でもよい。
【0097】
試料と、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体との接触により、試料中に含まれる測定対象物質と、担体に固定化された測定対象物質に対する特異的結合物質とが反応し、『…−「測定対象物質に対する特異的結合物質−担体−測定対象物質に対する特異的結合物質」−「測定対象物質」−「測定対象物質に対する特異的結合物質−担体−測定対象物質に対する特異的結合物質」−…』の凝集物が形成される。このときの濃度については、前記の通りである。
【0098】
また、色素と、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体との接触により、担体に固定化された色素に結合することができる物質に、色素が結合する。
【0099】
そして、色素と、遊離状態にある色素に結合可能な物質との接触により、前記担体に結合していない色素は、この遊離状態にある色素に結合可能な物質と結合する。
【0100】
なお、この、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる時間であるが、3分間以上であることが好ましく、5分間以上であることがより好ましく、10分間以上であることが特に好ましい。
【0101】
この、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる温度であるが、特に限定はない。
但し、60℃以上であると、タンパク質が変性する可能性があるので、0〜50℃が好ましく、5〜45℃がより好ましく、15〜40℃が特に好ましい。
【0102】
この、試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質の接触は、1段階で行ってもよいが、2段階以上の複数段階で行ってもよい。
【0103】
例えば、1段階で行う場合は、試料を、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質と混合して接触させる。
【0104】
2段階で行う場合は、例えば、試料を、色素、及び測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と混合し接触させ、その後、この混合液(混合物)に、遊離状態にある色素に結合可能な物質を混合して、接触させる等により行う。
【0105】
3段階で行う場合は、例えば、試料を、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と混合し接触させ、その後、この混合液(混合物)に色素を混合し接触させ、更にその後、この混合液(混合物)に、遊離状態にある色素に結合可能な物質を混合して、接触させる等により行う。
【0106】
(2)添加工程〔工程(b)〕
次に、前記接触後その一定量を多孔性膜上に添加する工程であるが、これも、前記の試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質の接触の後、得られた混合液(混合物)の一定量を前記の多孔性膜の上に添加するのであれば、特に限定なく行うことができる。
【0107】
なお、前記の多孔性膜上に添加する一定量であるが、これは微量である程、測定に要する試料や試薬を節約できるので好ましいが、余り微量過ぎると多孔性膜上に現れる輪の測定が難しくなるので、1〜100μLであることが好ましく、3〜50μLであることがより好ましく、5〜20μLであることが特に好ましい。
【0108】
(3)輪測定工程〔工程(c)〕
そして、前記多孔性膜上に現れる輪を測定する工程であるが、これも、前記の混合液(混合物)の多孔性膜上への添加の後、この多孔性膜上に現れた輪を測定するのであれば、特に限定なく行うことができる。
【0109】
なお、この前記混合液(混合物)の一定量を前記の多孔性膜の上に添加してからこの多孔性膜上に現れる輪を測定するまでの時間であるが、1分間以上であることが好ましく、3分間以上であることがより好ましく、5分間以上であることが特に好ましい。
【0110】
また、この前記混合液(混合物)の一定量を前記の多孔性膜の上に添加してからこの多孔性膜上に現れる輪を測定するまでの間の温度であるが、特に限定はない。
但し、60℃以上であると、タンパク質が変性する可能性があるので、0〜50℃が好ましく、5〜45℃がより好ましく、15〜40℃が特に好ましい。
【0111】
この多孔性膜上に現れる輪の測定において、多孔性膜上に輪が観察できた場合には試料中に測定対象物質が測定下限値以上の濃度で存在すると判定し、多孔性膜上に輪が観察できなかった場合には試料中に測定対象物質が存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在すると判定する。
【0112】
なお、前記の多孔性膜上に現れる輪の測定であるが、これは目視により行ってもよく、又は、デンシトメーター、スポットメーター、若しくはCCD装置等の装置を用いて測定を行ってもよい。
【0113】
また、測定対象物質を含まない試料(陰性対照試料又は試薬盲検試料)及び/又は測定対象物質を含む試料(陽性対照試料)を測定して得られた多孔性膜上に現れる輪の色の濃淡等と、試料を測定して得られた多孔性膜上に現れる輪の色の濃淡等とを対比して、試料中の測定対象物質の存在の判定を行ってもよい。
【0114】
10.試料中の測定対象物質の定量測定
試料の測定結果を、濃度既知の試料を多段階に希釈したときの各測定結果と比較することにより、試料中に含まれていた測定対象物質の濃度を定量することができる。
【0115】
また、試料を多段階に希釈したときの各測定結果を、濃度既知の試料を多段階に希釈したときの各測定結果と比較することによっても、試料中に含まれていた測定対象物質の濃度を定量することができる。
【0116】
更に、異なる材質の複数の多孔性膜を用いて測定を行った測定結果を比較することにより、試料中の測定対象物質の定量測定を行うことができる。
【0117】
例えば、材質がセルロース混合エステル〔ニトロセルロース及びセルロースアセテートの混合物〕の多孔性膜を用いた場合の測定の感度は、材質がセルロースアセテートの多孔性膜を用いた場合の測定の感度に比べて約10倍高い。
従って、このように材質の違いにより測定の感度が異なる複数の多孔性膜を用いた場合の試料の測定結果、及び同様にして得た濃度既知の試料の測定結果を比較することにより、試料中に含まれていた測定対象物質の濃度を定量することができる。
【0118】
また、異なる孔径の複数の多孔性膜を用いて測定を行った測定結果を比較することにより、試料中の測定対象物質の定量測定を行うことができる。
孔径の違いにより測定の感度が異なる複数の多孔性膜を用いた場合の試料の測定結果、及び同様にして得た濃度既知の試料の測定結果を比較することにより、試料中に含まれていた測定対象物質の濃度を定量することができる。
【0119】
II.試料中の測定対象物質の測定キット
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットは、少なくとも、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」、並びに「多孔性膜」を含むものである。
【0120】
1.試薬
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットは、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」を含む。
【0121】
(1)測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
【0122】
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットにおける、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬において、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体については、前記「I.試料中の測定対象物質の測定方法」の「4.測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体」において詳述した通りである。
【0123】
この測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を前記試薬に含有させる濃度は、低すぎると測定の感度が得られず試料中の測定対象物質を測定することができないので、試料と接触させるときの濃度が、0.005%(w/v)以上となるように試薬に含有させることが好ましく、0.01%(w/v)以上となるように試薬に含有させることがより好ましい。
【0124】
また、この測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を前記試薬に含有させる濃度は、高すぎても測定の感度が下がってしまうので、試料と接触させるときの濃度が、5%(w/v)以下となるように試薬に含有させることが好ましく、1%(w/v)以下となるように試薬に含有させることがより好ましい。
【0125】
(2)色素
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットにおける、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」において、色素については、前記「I.試料中の測定対象物質の測定方法」の「3.色素」において詳述した通りである。
【0126】
この色素を前記試薬に含有させる濃度は、低すぎると測定の感度が得られず試料中の測定対象物質を測定することができないので、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触させるときの濃度が、0.01μM以上となるように試薬に含有させることが好ましく、0.1μM以上となるように試薬に含有させることがより好ましく、1μM以上となるように試薬に含有させることが特に好ましい。
【0127】
また、この色素を前記試薬に含有させる濃度は、高すぎると試料中に測定対象物質が存在しなくとも多孔性膜上に輪が現れたり又は着色域が生じてしまうことがあり、その場合試料中に測定対象物質が存在するときとの判別が難しくなるので、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触させるときの濃度が、1,000μM以下となるように試薬に含有させることが好ましく、100μM以下となるように試薬に含有させることがより好ましく、10μM以下となるように試薬に含有させることが特に好ましい。
【0128】
(3)遊離状態にある色素に結合可能な物質
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットにおける、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」において、遊離状態にある色素に結合可能な物質については、前記「I.試料中の測定対象物質の測定方法」の「5.遊離状態にある色素に結合可能な物質」において詳述した通りである。
【0129】
この遊離状態にある色素に結合可能な物質を前記試薬に含有させる濃度は、低すぎると、前記の担体に固定化した「色素に結合することができる物質」に結合せずに存在する色素を、この「遊離状態にある色素に結合可能な物質」と結合させることが充分に行えず、これにより試料中に測定対象物質が存在しなくとも多孔性膜上に輪が現れたり又は着色域が生じてしまうことがあり、その場合試料中に測定対象物質が存在するときとの判別が難しくなるので、色素、及び測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触させるときの濃度が、0.01mM以上となるように試薬に含有させることが好ましく、0.1mM以上となるように試薬に含有させることがより好ましい。
【0130】
また、この遊離状態にある色素に結合可能な物質の濃度は、高すぎると、前記の担体に固定化した「色素に結合することができる物質」と競合して、多くの色素と結合してしまう結果、前記の測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体に結合する色素の量が少なくなり、測定の感度が下がってしまうので、色素、及び測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体と接触させるときの濃度が、10mM以下となるように試薬に含有させることが好ましく、1mM以下となるように試薬に含有させることがより好ましい。
【0131】
(4)pH
本発明において、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」のpHとしては、特に限定はなく適宜適当なpHを選択して用いることができる。
【0132】
前記試薬のpHとしては、pH4.0〜pH12.0の範囲にあることが好ましく、pH5.0〜pH11.0の範囲にあることがより好ましく、pH6.0〜pH10.0の範囲にあることが特に好ましい。
【0133】
なお、前記試薬のpHが、余り低いものであると、試料中に測定対象物質が存在しなくとも、多孔性膜上に輪が現れてしまうことがあるので適当ではなく、また、余りpHが高すぎると、タンパク質が変性したり不溶化してしまう。
【0134】
そして、前記試薬には、前記試薬のpHが上記のpHとなるような緩衝剤(これらのpH域に緩衝能がある緩衝剤)を含有させることが好ましい。この緩衝剤としては、既知の緩衝剤を用いることができる。
【0135】
(5)他の成分
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットにおける、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」には、その他の成分を適宜含有させることができる。
【0136】
例えば、ポリエチレングルコールやポリプロピレングルコール等の水溶性高分子化合物を含有させてもよく、このポリエチレングルコールやポリプロピレングルコール等の水溶性高分子化合物を含有させることにより、測定の感度を増加させることが出来るので好ましい。
【0137】
また、塩化ナトリウムなどの各種塩類、各種糖類、脱脂粉乳、正常ウサギ血清などの各種動物血清、アジ化ナトリウム若しくは抗生剤などの各種防腐剤、又は非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤若しくは陰イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤等を適宜含有させてもよい。
【0138】
そして、これらの成分を含有させる際の濃度は特に限定されるものではないが、0.001〜10%(W/V)が好ましく、0.01〜5%(W/V)がより好ましく、0.1〜1%(W/V)が特に好ましい。
【0139】
なお、この各種界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油若しくはポリオキシエチレンラノリンなどの非イオン性界面活性剤、酢酸ベタインなどの両性界面活性剤又はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩若しくはポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩などの陰イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0140】
(6)試薬の構成
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットにおける、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」は、1試薬よりなるものであってもよいし、又は2試薬以上の複数の試薬より構成されるものであってもよい。
【0141】
前記試薬が、1試薬よりなる場合、その試薬は少なくとも、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有するものである。
【0142】
また、前記試薬が2試薬より構成される場合、例えば、前記試薬として、色素、及び測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を含有する試薬と、遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬より構成されるもの等を挙げることができる。
【0143】
そして、前記試薬が3試薬より構成される場合、例えば、前記試薬として、色素を含有する試薬、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体を含有する試薬、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬より構成されるもの等を挙げることができる。
【0144】
2.多孔性膜
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットにおける多孔性膜は、前記「I.試料中の測定対象物質の測定方法」の「8.多孔性膜」において詳述した通りである。
【0145】
3.他の物
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットには、必要に応じて、「色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬」、並びに「多孔性膜」以外の物を含めることができる。
【0146】
この物としては、例えば、陰性対照試料(試薬盲検試料)、陽性対照試料、標準試料、対照表、希釈液、及び緩衝液等を挙げることができる。
【0147】
4.試料中の測定対象物質の測定
本発明の試料中の測定対象物質の測定キットを用いて、試料中の測定対象物質の測定を行うことについては、前記「I.試料中の測定対象物質の測定方法」の「9.試料中の測定対象物質の測定」及び「10.試料中の測定対象物質の定量測定」に記載した通りである。
【0148】
III.本発明の作用機序についての推察
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにおいて、試料中に測定対象物質が存在する場合に多孔性膜上に輪が現れる作用機序については明確には分かっていない。
【0149】
しかしながら、担体(測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化していないが色素に結合することができる物質を固定化しているもの)と色素を接触、混合し、この懸濁液を限外ろ過処理したときに、前記担体が着色しており、且つ、ろ液の着色度は低かったことから、色素が前記担体に結合しているものと考えられた。
【0150】
また、別に、担体に固定化された測定対象物質に対する特異的結合物質と、試料中の測定対象物質との特異的な結合反応に、色素が関与していないことも確かめられた。
【0151】
以上の結果から、試料中に測定対象物質が存在する場合に多孔性膜上に輪が現れる作用機序については、以下のように推察された。
【0152】
(1) 測定対象物質を含む試料、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、色素、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させることにより、前記担体に固定化された測定対象物質に対する特異的結合物質と、試料中の測定対象物質との特異的な結合反応が進行するとともに、前記担体に固定化された色素に結合することができる物質に、色素が結合する反応が進む。
一方、前記の遊離状態にある色素に結合可能な物質は、前記の担体に固定化された色素に結合することができる物質に結合せずに存在する色素と結合する。
【0153】
(2) 前記接触後、上記(1)の混合液の一定量を多孔性膜上に添加することにより、多孔性膜が有する若干の撥水性によって、添加された混合液は多孔性膜上で短時間の間、半球状の液滴を形成する。
【0154】
このとき、半球状の液滴の中に分散していた『…−「測定対象物質に対する特異的結合物質−担体−測定対象物質に対する特異的結合物質」−「測定対象物質」−「測定対象物質に対する特異的結合物質−担体−測定対象物質に対する特異的結合物質」−…』の凝集物は、固相・液相・気相の三相の界面、すなわち前記の半球状の液滴の多孔性膜上の外縁部に移動し濃縮され、かつ多孔性膜の孔径よりも大きいので多孔性膜上に留まる。
【0155】
(3) 前記の半球状の液滴中に存在する、遊離状態にある色素に結合可能な物質と色素との結合体、及び過剰量の前記担体は、多孔性膜の孔径よりも小さいので、多孔性膜上に固定されることなく拡散する。
【0156】
(4) その結果として、前記の凝集物が多孔性膜上において輪の形状で残り、前記担体に色素に結合することができる物質を介して結合した色素により、その輪を明瞭に認めることができる。
【0157】
なお、以上の作用機序の推察を模式的に表した図を図1に示した。
【実施例】
【0158】
以下、実施例により本発明をより具体的に詳述するが、本発明はこれらの実施例の記載により限定されるものではない。
【0159】
〔実施例1〕(本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによる試料中のCRPの測定)
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにより、試料中のCRP(C反応性タンパク質)を測定対象物質として、このCRPの測定を行った。
【0160】
1.試薬
【0161】
(1)遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液
遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液として、0.1mMのウシ血清アルブミン(BSA)、1.53Mの塩化ナトリウム及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を調製した。
なお、ここで、BSAは、本発明における遊離状態にある色素に結合可能な物質である。
【0162】
(2)測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体として、抗CRP抗体を固定化し且つウシ血清アルブミン(BSA)を固定化したラテックス粒子を用いた。
なお、ここで、抗CRP抗体は、本発明における、測定対象物質(CRP)に対する特異的結合物質である。
また、BSAは、本発明における、色素に結合することができる物質である。
【0163】
この抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子は、以下の手順により調製を行った。
【0164】
平均粒径0.1μmのラテックス粒子の10%懸濁液10.4mLに、抗CRPヤギポリクローナル抗体を1.4g/dLの濃度で4.5mMホウ酸緩衝液(pH8.2)に混和した液の7.36mLを加え、5℃にて一晩撹拌し、ラテックス粒子に抗CRP抗体を固定化した。
【0165】
次に、遠心分離により上清を除去した後、沈殿部に0.1mMのBSA及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む10mMホウ酸緩衝液(pH8.2)を加え懸濁し、37℃で2時間静置し、前記の抗CRP抗体を固定化したラテックス粒子に更にBSAを固定化した。
【0166】
これを遠心分離により沈殿部を回収した後、0.1mMのBSA及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕で波長585nmにおける吸光度が5Absとなるように懸濁し、抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子の分散液を調製した。
なお、前記分散液には、本発明における遊離状態にある色素に結合可能な物質であるBSAが含まれている。
【0167】
(3)色素を含む緩衝液
色素を含む緩衝液として、135μMのエチルバイオレット(和光純薬工業社;特級)及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を調製した。
なお、ここで、エチルバイオレットは、色素である。
【0168】
2.多孔性膜
多孔性膜として、親水性四フッ化エチレン樹脂を材質とする多孔性膜(商品名「メンブランフィルター(タイプJA;孔径1μm)〔ミリポア社〕)を用いた。
【0169】
3.試料
(イ)CRP不含試料
CRPを含まない試料として、生理食塩水を用意した。
【0170】
(ロ)CRP含有試料
CRPを含む試料として、2.0mg/dLのCRPを含む試料を用意した。
【0171】
4.CRP不含試料及びCRP含有試料の測定
(1) 前記3の(イ)の「CRP不含試料」の10μLに、前記1の(1)の「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液」の330μL、前記1の(2)の「測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体」の150μL、及び前記1の(3)の「色素を含む緩衝液」の10μLを、順次添加し、撹拌して混合した。
【0172】
(2) その後、この混合液を、室温にて10分間静置した。
【0173】
(3) 次に、前記(2)の混合液の10μLを、前記2の「多孔性膜」の上に添加した。
【0174】
(4) 前記の多孔性膜上への添加後、室温で5分間静置した後、この多孔性膜上に現れる輪の測定を行った。
【0175】
なお、この多孔性膜上に輪が観察できた場合には、試料中に測定対象物質であるCRPが測定下限値以上の濃度で存在する、すなわち陽性と判定した。
また、この多孔性膜上に輪が観察できなかった場合には、試料中にCRPが存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在する、すなわち陰性と判定した。
【0176】
(5) 次に、試料を、前記3の(イ)の「CRP不含試料」から(ロ)の「CRP含有試料」に変えて、前記(1)〜(4)の操作の通りに測定を行った。
【0177】
5.測定結果
前記測定において、多孔性膜上の輪を測定した結果を図2に示した。
【0178】
試料が(イ)のCRP不含試料の場合、多孔性膜上に輪は観察できず、試料中にCRPが存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在する、すなわち陰性と判定することができた。
【0179】
また、試料が(ロ)のCRP含有試料の場合、多孔性膜上に明瞭な輪(青色)を観察することができ、試料中にCRPが測定下限値以上の濃度で存在する、すなわち陽性と判定することができた。
【0180】
以上のことより、本発明の測定対象物質の測定方法及び測定キットは、試料中の測定対象物質であるCRPを正確に測定することができることが確かめられた。
【0181】
〔実施例2〕(本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによる血清試料中のCRPの測定−1)
【0182】
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにより血清試料中のCRPの測定を行い、ラテックス免疫比濁法による測定値と比較した。
【0183】
I.本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによる血清試料中のCRPの測定
【0184】
1.試薬
(1)遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液
前記実施例1の1の(1)で調製した0.1mMのBSA、1.53Mの塩化ナトリウム及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を、本実施例の「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液」として用いた。
【0185】
(2)測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
前記実施例1の1の(2)で調製した抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子の分散液を、本実施例の「測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体」として用いた。
【0186】
(3)色素を含む緩衝液
前記実施例1の1の(3)で調製した135μMのエチルバイオレット及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を、本実施例の「色素を含む緩衝液」として用いた。
【0187】
2.多孔性膜
前記実施例1の2における親水性四フッ化エチレン樹脂を材質とする多孔性膜(商品名「メンブランフィルター(タイプJA;孔径1μm)〔ミリポア化)を、本実施例の「多孔性膜」として用いた。
【0188】
3.試料
血清試料として、12種類のヒトの血清試料を用意した。
【0189】
4.ヒト血清試料の測定
前記3の12種類のヒトの血清試料のそれぞれについて、前記実施例1の4の(1)〜(4)の操作の通りに測定を行った。
【0190】
5.測定結果
前記の12種類のヒト血清試料中のCRPの測定結果を表1に示した。
なお、この表において、測定結果が、多孔性膜上に輪が観察できなかったもの(陰性)は「−」と表し、多孔性膜上に輪が観察できたもの(陽性)は「+」と表し、輪の色調がより濃いものは「++」と表し、そして薄い色調の輪が観察できたもの(弱陽性)は「±」と表した。
【0191】
【表1】

【0192】
II.ラテックス免疫比濁法及びその測定試薬による血清試料中のCRPの測定
【0193】
1.試薬
ラテックス免疫比濁法を測定原理とする市販の試料中のCRPの測定試薬「アキュラスオート CRPII」(シノテス社)を用いた。
【0194】
2.試料
血清試料として、前記Iの3の12種類のヒト血清試料を用いた。
【0195】
3.ヒト血清試料の測定
前記2の12種類のヒトの血清試料のそれぞれについて、日立7170S形自動分析装置(日立製作所社)を用いて、試料量3.6μL、第1試薬量180μL、第2試薬量60μL、測光の主波長570nm及び副波長800nm、並びに18ポイント及び34ポイントの2ポイントエンド法の測定条件において、試料中のCRPの定量測定を行った。
【0196】
4.測定結果
前記の12種類のヒト血清試料中のCRPの定量測定の結果を、これも表1に示した。
なお、この表に示した数値は、各ヒト血清試料中のCRPの定量値(mg/dL)である。
【0197】
III.測定結果のまとめ
この表より、本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによるヒト血清試料中のCRPの測定結果は、ラテックス免疫比濁法を測定原理とする市販のCRP測定試薬による定量値と、非常に良い相関を示していること、すなわち正確な測定結果が得られていることが分かる。
【0198】
また、本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによるヒト血清試料中のCRPの測定の測定下限値が約0.18mg/dLであり、微量のCRPまで正確に測定可能なことが分かる。
【0199】
以上のことより、本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットは、特別な器具や装置を必要とせず、簡便かつ安価に、そして迅速に、更に高感度に、試料中の測定対象物質を正確に測定することができることが確かめられた。
【0200】
〔実施例3〕(本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによる血清試料中のCRPの測定−2)
【0201】
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにおいて、水溶性高分子化合物であるポリエチレングリコールを共存(含有)させて、血清試料中のCRPの測定を行い、その効果を確かめた。
【0202】
I.本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによる血清試料中のCRPの測定
【0203】
1.試薬
(1)遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液
遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液として、1.22%のポリエチレングリコール(分子量10,000)、0.1mMのウシ血清アルブミン(BSA)、1.53Mの塩化ナトリウム及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を調製した。
なお、ここで、BSAは、本発明における遊離状態にある色素に結合可能な物質である。
【0204】
(2)測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
前記実施例1の1の(2)で調製した抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子の分散液を、本実施例の「測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体」として用いた。
【0205】
(3)色素を含む緩衝液
前記実施例1の1の(3)で調製した135μMのエチルバイオレット及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を、本実施例の「色素を含む緩衝液」として用いた。
【0206】
2.多孔性膜
前記実施例1の2における親水性四フッ化エチレン樹脂を材質とする多孔性膜(商品名「メンブランフィルター(タイプJA;孔径1μm)〔ミリポア化)を、本実施例の「多孔性膜」として用いた。
【0207】
3.試料
血清試料として、CRP濃度が分かっている14種類のヒトの血清試料を用意した。
【0208】
4.ヒト血清試料の測定
前記3の14種類のヒトの血清試料のそれぞれについて、前記実施例1の4の(1)〜(4)の操作の通りに測定を行った。
【0209】
5.測定結果
前記の14種類のヒト血清試料中のCRPの測定結果を表2に示した。
なお、この表において、測定結果が、多孔性膜上に輪が観察できなかったもの(陰性)は「−」と表し、多孔性膜上に輪が観察できたもの(陽性)は「+」と表し、輪の色調が濃くなるに従い、「+」、「++」、「+++」及び「++++」と表し、そして薄い色調の輪が観察できたもの(弱陽性)は「±」と表した。
【0210】
【表2】

【0211】
II.ラテックス免疫比濁法及びその測定試薬による血清試料中のCRPの測定
【0212】
1.試薬
ラテックス免疫比濁法を測定原理とする市販の試料中のCRPの測定試薬「アキュラスオート CRPII」(シノテスト社)を用いた。
【0213】
2.試料
血清試料として、前記1の3の14種類のヒト血清試料を用いた。
【0214】
3.ヒト血清試料の測定
前記2の14種類のヒトの血清試料のそれぞれについて、日立7170S形自動分析装置(日立製作所社)を用いて、試料量3.6μL、第1試薬量180μL、第2試薬量60μL、測光の主波長570nm及び副波長800nm、並びに18ポイント及び34ポイントの2ポイントエンド法の測定条件において、試料中のCRPの定量測定を行った。
【0215】
4.測定結果
前記の14種類のヒト血清試料中のCRPの定量測定の結果を、これも表2に示した。
なお、この表に示した数値は、各ヒト血清試料中のCRPの定量値(mg/dL)である。
【0216】
III.測定結果のまとめ
この測定結果の表からも、本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットによるヒト血清試料中のCRPの測定結果は、ラテックス免疫比濁法を測定原理とする市販のCRP測定試薬による定量値と、非常に良い相関を示していること、すなわち正確な測定結果が得られていることが分かる。
【0217】
そして、本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにおいて、ポリエチレングリコールを共存(含有)させた本測定においては、CRP濃度が約0.04mg/dLの血清試料まで、陽性と判定することができた。
すなわち、ヒト血清試料中のCRPの測定の測定下限値は、約0.04mg/dLであった。
【0218】
従って、ポリエチレングリコール等の水溶性高分子化合物を共存(含有)させない場合の測定下限値が約0.18mg/dLであったので、この水溶性高分子化合物であるポリエチレングリコールを共存(含有)させることにより、測定の感度を4.5倍高めることができ、更に高感度に試料中の測定対象物質の測定を行えることが分かる。
【0219】
以上の実施例の結果より、本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットは、特別な器具や装置を必要とせず、簡便かつ安価に実施することができ、測定を行うに熟練を要さず、測定結果(多孔性膜上に現れる輪)が明確に示されるため判定が容易であり、そして極めて迅速に正確な測定結果を得ることができるものであることが確かめられた。
【0220】
〔参考例1〕(本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにおける色素の結合の確認)
【0221】
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにおける色素の結合について、以下の検討により確認を行った。
【0222】
1.試薬
◎ 色素水溶液
エチルバイオレット(和光純薬工業社;特級)を純水に溶解し、270μMのエチルバイオレットを含む「色素水溶液」を調製した。
【0223】
2.遠心式限外ろ過器具
遠心力を利用し限外ろ過膜により分子量が30,000以上の物質とそれ未満の物質を分離する「遠心式限外ろ過器具」として、商品名「アミコン・ウルトラ−15(分画分子量:30,000)」〔ミリポア社〕を用いた。
【0224】
3.検討対象
次のものを色素との結合を確かめる対象とした。
【0225】
(イ)ラテックス粒子
前記実施例1の1の(2)における平均粒径0.1μmのラテックス粒子の10%懸濁液に純水を加え、これを遠心した後上清を除き、その後純水を加え再度遠心した後上清を除く処理を2回繰り返した後、純水に懸濁し、ラテックス粒子の0.1%懸濁液を調製した。
【0226】
これを検討対象の一つである「ラテックス粒子」とした。(なお、この「ラテックス粒子」には、抗体等の「測定対象物質に対する特異的結合物質」も、BSA等の「色素に結合することができる物質」も固定化されていない。)
【0227】
(ロ)BSAを固定化したラテックス粒子
前記の実施例1の1の(2)における平均粒径0.1μmのラテックス粒子の10%懸濁液に、0.1mMのBSAを含む10mMホウ酸緩衝液(pH8.2)を加え懸濁し、37℃で2時間静置し、ラテックス粒子にBSAを固定化した。
これを遠心分離により沈殿部を回収した後、純水を加え、これを遠心した後上清を除き、その後純水を加え再度遠心した後上清を除く処理を2回繰り返した後、純水に懸濁し、BSAを固定化したラテックス粒子の0.1%懸濁液を調製した。
【0228】
これを検討対象の一つである「BSAを固定化したラテックス粒子」とした。(なお、この「BSAを固定化したラテックス粒子」には、抗体等の「測定対象物質に対する特異的結合物質」は固定化されていない。)
【0229】
(ハ)BSA水溶液
前記の実施例1の1の(1)で用いたBSAを純水に溶解し、0.1mMのBSA水溶液を調製した。
これを検討対象の一つである「BSA水溶液」とした。
【0230】
4.色素結合の確認
検討対象である前記3の(イ)の「ラテックス粒子」の450μLと、前記1の「色素水溶液」の50μLを混合した後、この混合液を前記2の「遠心式限外ろ過器具」に添加し、1分間静置した。
【0231】
次に、14,000r.p.mで10分間、遠心分離を行った。
【0232】
この遠心分離により、分子量が30,000以上である「ラテックス粒子」は、限外ろ過膜上に残り、分子量がそれ未満である遊離状態の「色素」は限外ろ過膜を通過して、ろ液中に存在することになる。
【0233】
この遠心分離操作後のろ液の色調を観察した。
【0234】
なお、検討対象を、更に、(イ)「ラテックス粒子」から、(ロ)「BSAを固定化したラテックス粒子」、そして、(ハ)「BSA水溶液」にそれぞれ変えて、前記の通りに検討を行った。
【0235】
4.検討結果
ろ液の色調は、検討対象が(イ)「ラテックス粒子」の場合には、濃い青色であったが、検討対象が(ロ)「BSAを固定化したラテックス粒子」の場合及び(ハ)「BSA水溶液」の場合においては、僅かに薄い青色が認められるにとどまった。
【0236】
これらの検討結果より、色素は、ラテックス粒子には結合していないが、BSAを固定化したラテックス粒子、及び水溶液中のBSAには結合していることが分かる。
【0237】
すなわち、色素は、ラテックス粒子の表面には結合しないが、ラテックス粒子に固定化されたBSA、及び溶液中で遊離状態で存在しているBSAには結合していることが確かめられた。
【0238】
〔参考例2〕(遊離状態にある色素に結合可能な物質の効果の確認)
本発明の試料中の測定対象物質の測定方法及び測定キットにおいて、遊離状態にある色素に結合可能な物質の効果の確認を行った。
【0239】
1.試薬
【0240】
(1)遊離状態にある色素に結合可能な物質を含まない緩衝液
遊離状態にある色素に結合可能な物質を含まない緩衝液として、1.53Mの塩化ナトリウム及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を調製した。
【0241】
(2)遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液
遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液として、0.1mMのBSA、1.53Mの塩化ナトリウム及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を調製した。
なお、ここで、BSAは、本発明における遊離状態にある色素に結合可能な物質である。
【0242】
(3)測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体
測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体として、抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子を用いた。
【0243】
なお、ここで、抗CRP抗体は、本発明における、測定対象物質(CRP)に対する特異的結合物質である。
また、BSAは、本発明における、色素に結合することができる物質である。
【0244】
この抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子は、以下の手順により調製を行った。
【0245】
平均粒径0.1μmのラテックス粒子の10%懸濁液の10.4mLに、抗CRPヤギポリクローナル抗体を1.4g/dLの濃度で4.5mMホウ酸緩衝液(pH8.2)に混和した液の7.36mLを加え、5℃にて一晩攪拌し、ラテックス粒子に抗CRP抗体を固定化した。
【0246】
次に、遠心分離により上清を除去した後、沈殿部に0.1mMのBSA及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む10mMホウ酸緩衝液(pH8.2)を加え懸濁し、37℃で2時間静置し、前記の抗CRP抗体を固定化したラテックス粒子に更にBSAを固定化した。
【0247】
これを遠心分離により沈殿部を回収した後、0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕に懸濁し、次に遠心した後上清を除き、その後前記緩衝液を加え再度遠心した後上清を除く処理を2回繰り返した後、波長585nmにおける吸光度が5Absとなるように前記緩衝液に懸濁し、抗CRP抗体を固定化し且つBSAを固定化したラテックス粒子の分散液を調製した。
【0248】
(4)色素を含む緩衝液
色素を含む緩衝液として、135μMのエチルバイオレット(和光純薬工業社;特級)及び0.05%のアジ化ナトリウムを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔pH7.0(20℃)〕を調製した。
なお、ここで、エチルバイオレットは、色素である。
【0249】
2.多孔性膜
多孔性膜として、親水性四フッ化エチレン樹脂を材質とする多孔性膜(商品名「メンブランフィルター(タイプJA;孔径1μm)〔ミリポア化)を用いた。
【0250】
3.試料
◎ CRP不含試料
CRPを含まない試料として、生理食塩水を用意した。
【0251】
4.CRP不含試料の測定
(1) 前記3の「CRP不含試料」の10μLに、前記1の(1)の「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含まない緩衝液」の330μL、前記1の(2)の「測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体」の150μL、及び前記1の(3)の「色素を含む緩衝液」の10μLを、順次添加し、撹拌して混合した。
【0252】
(2) その後、この混合液を、室温にて10分間静置した。
【0253】
(3) 次に、前記(2)の混合液の10μLを、前記2の「多孔性膜」の上に添加した。
【0254】
(4) 前記の多孔性膜上への添加後、室温で5分間静置した後、この多孔性膜上に現れる輪の測定を行った。
【0255】
(5) 次に、前記(1)における「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含まない緩衝液」を、前記1の(2)の「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液」に変えて、前記(1)〜(4)の操作の通りに測定を行った。
【0256】
5.測定結果
前記測定において、多孔性膜上の輪を測定した結果を図3に示した。
【0257】
この図より、「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含まない緩衝液」の場合は、測定対象物質であるCRPを含まない試料においても、多孔性膜上に輪が現れてしまうことが分かる。すなわち、測定対象物質が存在しない試料を測定したとき、測定対象物質が存在するという誤った測定結果が得られてしまうことが分かる。
【0258】
これに対して、「遊離状態にある色素に結合可能な物質を含む緩衝液」の場合は、測定対象物質であるCRPを含まない試料においては、多孔性膜上に輪は現れず、試料中の測定対象物質を誤りなく正確に測定できることが分かる。
【0259】
以上のことより、測定時に遊離状態にある色素に結合可能な物質を存在させることは、試料中の測定対象物質の正確な測定のために、必須であることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0260】
【図1】 本発明の測定方法の作用機序の推察を模式的に表した図である。
【図2】 本発明の測定方法及び測定キットにより、CRP不含試料及びCRP含有試料それぞれについて、多孔性膜上の輪を測定した結果を示した図である。
【図3】 本発明の測定方法及び測定キットにおける、遊離状態にある色素に結合可能な物質の効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の各工程よりなる、試料中の測定対象物質の測定方法。
(a) 試料、色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を接触させる工程、
(b) 前記接触後、その一定量を多孔性膜上に添加する工程、及び
(c) 前記多孔性膜上に現れる輪を測定する工程
【請求項2】
測定対象物質に対する特異的結合物質が、測定対象物質が抗原である場合には当該抗原に特異的に結合する抗体であり、測定対象物質が抗体である場合には当該抗体に特異的に結合する抗体又は当該抗体にとっての抗原である、請求項1記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項3】
担体が粒子である、請求項1又は請求項2記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項4】
工程(c)の多孔性膜上に現れる輪の測定において、多孔性膜上に輪が観察できた場合には試料中に測定対象物質が測定下限値以上の濃度で存在すると判定し、多孔性膜上に輪が観察できなかった場合には試料中に測定対象物質が存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在すると判定する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項5】
色素、測定対象物質に対する特異的結合物質を固定化し且つ色素に結合することができる物質を固定化した担体、及び遊離状態にある色素に結合可能な物質を含有する試薬、並びに多孔性膜を含む、試料中の測定対象物質の測定キット。
【請求項6】
測定対象物質に対する特異的結合物質が、測定対象物質が抗原である場合には当該抗原に特異的に結合する抗体であり、測定対象物質が抗体である場合には当該抗体に特異的に結合する抗体又は当該抗体にとっての抗原である、請求項5記載の試料中の測定対象物質の測定キット。
【請求項7】
担体が粒子である、請求項5又は請求項6記載の試料中の測定対象物質の測定キット。
【請求項8】
多孔性膜上に輪が観察できた場合には試料中に測定対象物質が測定下限値以上の濃度で存在すると判定し、多孔性膜上に輪が観察できなかった場合には試料中に測定対象物質が存在しないか又は測定下限値未満の濃度で存在すると判定するものである、請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の試料中の測定対象物質の測定キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−226983(P2006−226983A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80404(P2005−80404)
【出願日】平成17年2月20日(2005.2.20)
【出願人】(000131474)株式会社シノテスト (28)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)